刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#88

公判の諸原則と迅速な裁判

印刷用PDFを開く

第4章 公判手続 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入:法廷そのものを支配するルール

公開口頭直接迅速という公判を貫く4原則と高田事件を並べる導入板 図:公開口頭直接迅速という公判を貫く4原則と高田事件を並べる導入板

前回まで、起訴された後、法廷を開くまでに裁判所・検察官・弁護人がそれぞれ何を準備するかを見てきました。今日から、いよいよ法廷そのものを支配するルールに入ります。実は、法廷という場そのものにも、絶対に外せない形のルールがあります。誰でも見られる場で行うこと、書面ではなく口頭で行うこと、判断する裁判官自身がその場で証拠に触れること、そして遅れずに進めること。この4つです。今日はこの4つがなぜ必要かを見たうえで、最後の「遅れずに」が実際に破られた事件を取り上げます。15年以上、審理が止まったままになった事件があります。最高裁は、有罪か無罪かを判断しないまま、その裁判を打ち切りました。今日の後半で、その中身をじっくり見ていきます。

公判中心主義——4原則が支える土台

捜査記録ではなく公判廷の証拠調べで心証を作る公判中心主義を4原則の土台として示す板

今日見ていく4つの原則の前に、その土台になっている考え方を思い出しておきます。捜査段階で作られた供述調書に頼るのではなく、法廷でその場で行われた証拠調べそのもので、有罪か無罪かの心証を作っていくという考え方でした。公開・口頭・直接・迅速という今日の4原則は、すべてこの公判中心主義を支える柱です。法廷でのやり取りが本当に信頼できるものであるために、どんな条件が必要かを、これから一つずつ見ていきます。

公開主義——誰の前で行うか

対審と判決の公開原則および82条2項の例外の要件と常に公開される事件類型を示す板 図:対審と判決の公開原則および82条2項の例外の要件と常に公開される事件類型を示す板

まず公開主義です。裁判を、当事者や関係者だけの部屋で進めるのではなく、誰でも見に来られる公開の法廷で行うという原則です。密室で進めば、証拠を都合よく扱ったり、裁判官が横暴な判断をしても、外からは誰も気づけません。歌のコンテストで、審査員が楽屋裏だけで点数をつけて結果だけ貼り出したら、本当に歌を聞いて決めたのか誰にも確かめられないのと同じです。国民の目にさらすことで、その裁判が公正に行われているかを外から監視できるようにする。これが公開主義の趣旨です。この原則は、憲法に直接書かれています。条文に出てくる対審とは、当事者どうしが主張をぶつけ合う審理の部分のことです。

条文日本国憲法第82条第1項・第2項

憲法第82条第1項・第2項 裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。 裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

対審の部分だけは、条件付きで非公開にできます。ただし但書に注目してください。政治犯罪や出版に関する犯罪、それに憲法第三章が保障する国民の権利が問題になる事件では、対審であっても常に公開しなければなりません。そして判決の言渡しは、この例外の対象にすら入っていません。判決だけは、どんな事件でも必ず公開です。被告人にとっても、公開の裁判を受けることは権利として保障されています。

条文日本国憲法第37条第1項

憲法第37条第1項 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

この条文には、公平・迅速・公開という3つの言葉が並んでいます。公開の部分は今見た82条と重なりますが、迅速という言葉は、今日の後半で扱う4つ目の原則の根拠にもなります。傍聴席が用意され、一般の人が自由に傍聴できる状態にしておく、という意味です。ただし、この原則が保障しているのは、あくまで裁判を密室にしないという制度そのものです。狙いは裁判の公正を外から見張れるようにすることなので、傍聴席が開かれていれば足り、個々の傍聴人に特別な権利まで与えているわけではありません。

直接主義——誰が受け取るか

形式的直接主義と実質的直接主義の区別を示す板 図:形式的直接主義と実質的直接主義の区別を示す板

次は直接主義です。判決を下す裁判官自身が、直接に取り調べた証拠だけを判断の基礎にできる、という原則です。さっきの歌のコンテストで言えば、点数をつける審査員自身がその場で歌を聞かなければならず、別の人が聞いてきたメモを見て採点することはできません。裁判でも、別の誰かが代わりに調べた証拠を、また聞きのような形でそのまま判断の基礎にすることは許されません。証人がどう答え、どこで言いよどんだかに自分で触れなければ、その証言を信じてよいかを見極められないからです。これを形式的直接主義と呼びます。「直接主義」という言葉は、通常こちらの意味で使われます。

もう1つ、実質的直接主義と呼ばれる考え方があります。書面ではなく、証人の証言のような直接的な証拠によるべきだ、という発想です。たとえば事件を目撃した人がいるなら、その人から話を聞いた知人の報告書ではなく、目撃した本人に法廷で話してもらう、ということです。これは、人づてに聞いた話をそのまま証拠にすることを禁じる伝聞法則の土台になっています。ただし例外も多く、この中身は別の回でじっくり扱います。今日は、こういう考え方があるという地図だけ押さえておいてください。

口頭主義——どんな形で行うか

口頭主義が公開主義を実質的に支える機能と書面主義との対比を示す板 図:口頭主義が公開主義を実質的に支える機能と書面主義との対比を示す板

3つ目は口頭主義です。当事者の主張や証拠の取調べといった公判期日の手続を、書面ではなく口頭で行うべきだという原則です。起訴を書面に限ったのは、事件がいつ裁判所に移ったかを後から確かめられるようにするためでした。ここで扱うのは、その後の法廷で進む手続のほうです。あのコンテストで、出場者が歌詞カードを提出するだけで舞台では歌わなかったら、観客の前には何も出てきません。書面だけで済ませてしまうと、法廷で何が起きているのか、その場にいる人にしか分からなくなります。口頭で行うことで、さっきの公開主義が名前だけの原則にならず、実際に機能します。当事者も裁判所も、その場で同時に情報を共有できますし、話し方や間合いといった、書かれた言葉だけでは伝わらない情報も伝わります。

条文刑事訴訟法第43条第1項

刑事訴訟法第43条第1項 判決は、この法律に特別の定のある場合を除いては、口頭弁論に基いてこれをしなければならない。

口頭主義が問題にしているのは、その場のやり取りが書面か口頭かという形式です。直接主義が問題にしているのは、判断する人自身がその証拠に触れたかどうかという中身です。書面か口頭かという入口の話と、誰が受け取ったかという中身の話。この2つは別の軸だと考えてください。

迅速な裁判①——重ねられた根拠

憲法37条1項刑訴1条刑訴規則1条1項という迅速性の三層の重ね掛けと継続審理の原則を示す板

ここからは4つ目の原則、迅速な裁判です。まず、この原則がどれだけ重ねて規定されているかを見ておきます。実は3つの層で宣言されています。1つ目は、さっき見た憲法37条1項です。被告人の権利として、迅速な裁判が保障されています。2つ目は、刑事訴訟法1条です。あの条文は、事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現することを目的として掲げていました。「迅速」という言葉は、あそこにも出ていたんです。最後の3つ目は、刑事訴訟規則1条1項です。

条文刑事訴訟規則第1条第1項

刑事訴訟規則第1条第1項 この規則は、憲法の所期する裁判の迅速と公正とを図るようにこれを解釈し、運用しなければならない。

規則をどう解釈し運用するかという、いちばん根っこの指針の部分にまで、迅速という言葉が入っています。憲法・法律・規則という3つの層すべてが、迅速さを求めているわけです。この要請を具体的な手続に落とし込んだ条文もあります。前々回にも出てきましたが、審理に2日以上かかる事件については、できる限り連日開廷して続けて審理を行うという継続審理の原則です。裁判を間隔を空けてだらだらと進めず、集中して速やかに終わらせようという発想が、条文レベルでも徹底されています。

迅速な裁判②——誰のための速さか

迅速な裁判の趣旨である真実発見と人権保障の2本柱を示す板 図:迅速な裁判の趣旨である真実発見と人権保障の2本柱を示す板

では、なぜここまで迅速さにこだわるのでしょうか。趣旨は大きく2つあります。1つ目は真実発見のためです。時間が経てば経つほど、証人の記憶はあいまいになり、証拠も散逸していきます。事件の直後であれば見えていたはずの真実が、10年も経てば見えなくなってしまいます。2つ目は、被告人の人権保障のためです。起訴されてから判決が出るまで、被告人は有罪でも無罪でもない、宙ぶらりんの不安定な立場に置かれ続けます。身柄を拘束されていれば、なおさらです。この負担から早く解放してあげる必要がある、という考え方です。シリーズの最初の回でも、迅速性が守られなかった場合の重さとして同じ2点に触れましたが、その中身がまさにこの2つ、真実発見と人権保障です。

高田事件——遅れが破られたとき

高田事件の起訴から審理中断15年余の空白第一審免訴控訴審破棄差戻し最高裁破棄控訴棄却という経過を示す時系列板

では、この迅速な裁判という要請が実際に破られたとき、裁判所はどうするのか。それを正面から扱った事件があります。実はこの事件、シリーズの最初の回で一度だけ名前が出ていて、詳しくは別の回で扱うと約束していました。覚えていますか。事案はこうです。住居侵入や暴力行為等処罰に関する法律違反などに問われた被告人たちが、名古屋地方裁判所で審理を受けていました。ところが、弁護人側の希望で、関連する別の事件の審理が終わるのを待つ形になり、本件の審理は事実上止まってしまいます。そのまま15年以上、まったく審理が行われませんでした。

審理が再開されたのは、中断からずいぶん経ってからのことでした。公訴時効は、一定の期間が過ぎると起訴する権利そのものが消える制度でしたね。第一審の裁判所は、これほどの遅延は迅速な裁判を受ける権利を著しく侵害していると判断し、時効が完成した場合に準じる形で、免訴という判決を言い渡しました。有罪か無罪かの中身には立ち入らず、手続を打ち切る判決です。ところが控訴審は、これを覆します。手続を打ち切るための明文の規定が法律に無い以上、救済のしようがないとして、第一審の判決を破棄し、審理をやり直すよう命じました。

そこで最高裁が、この事件をどう決着させたかが、今日の核心です。

高田事件判旨の法的性質打切りの方法という骨格を示す板 図:高田事件判旨の法的性質打切りの方法という骨格を示す板

最高裁の判断は、大きく4つに分かれます。この権利の性質、打ち切り方、どこからが異常な遅れか、そして被告人が黙っていたことの扱いです。まず、迅速な裁判を受ける権利がどういう性質のものかから見ます。

判例最大判昭47・12・20 刑集26巻10号631頁

高田事件(法的性質・救済の趣旨) 「憲法三七条一項の保障する迅速な裁判をうける権利は、憲法の保障する基本的な人権の一つであり、右条項は、単に迅速な裁判を一般的に保障するために必要な立法上および司法行政上の措置をとるべきことを要請するにとどまらず、さらに個々の刑事事件について、現実に右の保障に明らかに反し、審理の著しい遅延の結果、迅速な裁判をうける被告人の権利が害せられたと認められる異常な事態が生じた場合には、これに対処すべき具体的規定がなくても、もはや当該被告人に対する手続の続行を許さず、その審理を打ち切るという非常救済手段がとられるべきことをも認めている趣旨の規定であると解する。」

迅速な裁判を受ける権利は基本的人権の一つであり、手続を打ち切るための条文が個別に存在しなくても、この権利そのものが打ち切りの根拠になる。控訴審の理屈をひっくり返しています。条文がなければ動けないのは、国が新しく人を処罰しようとする場面です。ここは逆に、遅れで権利を傷つけられた被告人を救う場面なので、条文が無いことは救済を止める理由になりません。手続を打ち切る具体的な方法についても、最高裁は述べています。

判例最大判昭47・12・20 刑集26巻10号631頁

高田事件(打切りの方法) 「刑事事件が裁判所に係属している間に迅速な裁判の保障条項に反する事態が生じた場合において、その審理を打ち切る方法については現行法上よるべき具体的な明文の規定はないのであるが、前記のような審理経過をたどつた本件においては、これ以上実体的審理を進めることは適当でないから、判決で免訴の言渡をするのが相当である。」

免訴を言い渡す明文の根拠は無いけれど、免訴という形で終わらせるのが相当だと判断しました。以前、訴訟条件の回で、非類型的訴訟条件という言葉に触れたのを覚えていますか。あのとき例として触れていたのが、まさにこの事件です。訴訟条件は、有罪か無罪かの中身に入る前にそろっていなければならない前提条件で、欠ければ中身に入らずに手続を打ち切ります。免訴は、その打ち切り方の一つです。条文に列挙された訴訟条件のほかにも、権利の著しい侵害という実質的な理由から手続を打ち切る場合がある、という考え方です。

高田事件判旨の判断基準要求法理の否定という骨格を示す板 図:高田事件判旨の判断基準要求法理の否定という骨格を示す板

では、どのくらい遅れれば「異常な事態」と言えるのでしょうか。最高裁は、遅れの長さだけでは決めないとしています。

判例最大判昭47・12・20 刑集26巻10号631頁

高田事件(判断基準) 「具体的刑事事件における審理の遅延が右の保障条項に反する事態に至つているか否かは、遅延の期間のみによつて一律に判断されるべきではなく、遅延の原因と理由などを勘案して、その遅延がやむをえないものと認められないかどうか、これにより右の保障条項がまもろうとしている諸利益がどの程度実際に害せられているかなど諸般の情況を総合的に判断して決せられなければならない」

遅れた期間そのものだけでなく、なぜ遅れたのか、その遅れがやむを得ないものだったのか、そして被告人が実際にどれだけの不利益を被ったのかまで、総合的に考えるということです。被告人の側に主な原因がある遅れであれば、話は別になります。被告人が自分から審理を促さなかったことをもって権利を放棄したとみなすことも、最高裁ははっきり否定しています。

判例最大判昭47・12・20 刑集26巻10号631頁

高田事件(要求法理の否定) 「少なくとも検察官の立証がおわるまでの間に訴訟進行の措置が採られなかつた場合において、被告人側が積極的に期日指定の申立をするなど審理を促す挙に出なかつたとしても、その一事をもつて、被告人が迅速な裁判をうける権利を放棄したと推定することは許されないのである。」

高田事件でも、止まったきっかけは弁護人側の希望でした。それでも最高裁は、その後の長い空白を、被告人側が審理を促さなかったことを理由に被告人の責任とはしませんでした。そして控訴審の判断を破棄し、検察官の控訴を退けました。結果として、第一審が下した免訴の判決が確定しています。この判断基準は、論文でも論点になりうるところです。なお、こうした形で審理の打ち切りが認められた例は、この事件のあと、ほとんど無いとされています。異常な遅延というハードルは、それだけ高いということです。

今日の地図(保存版)

公開口頭直接迅速の4原則が公判中心主義を支えるというまとめの一本の軸を示す板 図:公開口頭直接迅速の4原則が公判中心主義を支えるというまとめの一本の軸を示す板

今日のまとめです。公判を貫く、4つの原則を見てきました。誰でも見られる公開の法廷で、書面でなく口頭で、判断する裁判官自身が直接に証拠を見て、そして遅れずに進める。この4つがそろって初めて、法廷での証拠調べそのもので心証を作るという公判中心主義が、実際に機能します。4つ目の「遅れずに」だけ、ほかの3つと少し違う顔をしていましたね。破られたときにどうするか、という話まで出てきました。公開・口頭・直接は、法廷という場のあり方を定めるルールでしたが、迅速な裁判は、その場そのものを機能させ続けるための鮮度の要請です。高田事件は、その鮮度が保てなくなったとき、条文が無くても手続を終わらせるという判断が下せることを示しました。

参照条文

  • 日本国憲法第82条第1項・第2項
  • 日本国憲法第37条第1項
  • 刑事訴訟法第43条第1項
  • 刑事訴訟規則第1条第1項

刑事訴訟法 全体ロードマップへ →

刑事訴訟法 の復習ノートを1ページで通して読む →