弁論の分離・併合と公判手続の停止・更新
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第4章 公判手続 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入:まとめて裁くか分けて裁くか
図:共犯とされる二人が同じ被告人席にいる状況から今日の問いを立てる導入板
前回は、公判廷の中を裁判所がどう仕切るかを見ました。今日は視点を変えて、事件そのものの扱い方に入っていきます。共犯者の一人に、もう一人についての話を証言としてさせたいときにどうするかは、今日のテーマの一つである、事件をまとめて裁くか分けて裁くかという問題につながります。複数の事件をまとめて審理するのか分けて審理するのか、そしてもう一つ、審理が途中で止まったり、裁判官が入れ替わったりしたときに何が起きるのかを見ていきます。先に答えの方向だけ言っておくと、まとめる・分ける・止める・引き継ぐは、どれも被告人がきちんと自分を守れる状態を保ったまま審理を進めるための仕組みです。
「弁論」とは何か——分離・併合の2種類
図:弁論=審理全体であること主観的併合分離と客観的併合分離の違いを示す板
まず言葉の確認からです。ここで言う「弁論」は、最終弁論のような一場面の意見陳述ではなく、公判の審理全体を指す広い意味で使われています。この広い意味の弁論を前提に、複数の事件の審理を一つにまとめることを弁論の併合、逆に一つにまとまっていた審理を分けることを弁論の分離といいます。まとめ方には2種類あります。複数の被告人の事件を一緒にしたり分けたりするのが主観的併合・分離、一人の被告人が抱える複数の訴因を一緒にしたり分けたりするのが客観的併合・分離です。
313条1項の裁量と313条2項・規則210条の義務

弁論の分離・併合を決めるのが、313条1項です。
条文刑事訴訟法第313条第1項
刑事訴訟法第313条第1項 裁判所は、適当と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離し若しくは併合し、又は終結した弁論を再開することができる。
「適当と認めるとき」に、請求または職権で、裁判所が決定で分離・併合・再開を決められます。以前見た訴訟指揮権の一場面と考えてください。訴訟指揮権はもともと裁判所の権能で、公判期日の中での具体的な指揮を裁判長が担う、という話でした。分離・併合は、条文のとおり裁判長ひとりではなく、裁判所が決定の形で決めます。この裁量を後押しする理由が、併合の利益です。たとえば一人の被告人が窃盗の事件を二つ抱えているとします。二つをまとめて審理すれば、証人を呼ぶのも一度で済みますし、量刑もまとめて考えられるので、本人にとって有利になりやすいんです。共犯事件でも同じで、同じ証人を一度尋問すれば足り、一つの事実関係を矛盾なく確定できます。
併合にも例外があります。まとめたせいで、かえって被告人が自分を守れなくなる場合です。そのための規定が313条2項です。
条文刑事訴訟法第313条第2項
刑事訴訟法第313条第2項 裁判所は、被告人の権利を保護するため必要があるときは、裁判所の規則の定めるところにより、決定を以て弁論を分離しなければならない。
条文刑事訴訟規則第210条
刑事訴訟規則第210条 裁判所は、被告人の防禦が互に相反する等の事由があつて被告人の権利を保護するため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、決定を以て、弁論を分離しなければならない。
1項が「適当と認めるとき」の裁量だったのに対して、2項は「必要があるとき」の義務です。規則210条がその中身を具体化していて、被告人どうしの防御が互いに相反するときが典型として挙げられています。同じ弁論の場で、共同被告人が互いに罪をなすりつけ合っていたら、それぞれの弁護人は、検察官への反論よりも相手の主張を崩すことに力を割かれてしまい、公正な防御ができなくなります。併合の利益と比べるなら、必ず被告人の権利保護が勝ちます。証人を何度も呼ぶ手間が増えても、防御が正面からぶつかり合っている以上、まとめる利益より守るべき権利のほうが重いからです。裁量と義務、この対比で押さえてください。
法律関係の個別性——一緒に裁かれていても別々
図:併合されていても証拠の請求と同意の効果は被告人ごとに別個であることを示す対比表
併合されて共同被告人になっても、押さえておくべき原則があります。それぞれの法律関係は、被告人ごとに別個だということです。検察官は被告人ごとに違う証拠の取調べを請求できますし、被告人・弁護人も、被告人ごとに証拠に同意するか不同意にするか、別々に意見を述べます。同意するかどうかは、それぞれの被告人が自分の防御として決めることだからです。たとえば、検察官が共犯とされる二人のうち一人については、目撃証人の供述調書を証拠として請求したとします。その被告人が同意すれば、調書はそのまま証拠になります。でも、もう一人の被告人がその証人を知らず、同意していなければ、その調書はもう一人の事件については証拠になりません。検察官は、もう一人に対しては、証人を法廷に呼んで直接尋問するなど、別の立証方法を用意しなければならないんです。一方のためだけに出された証拠を、もう一方のために流用することも許されません。
さっきの、冒頭の共犯の二人の話に戻ってもいいですか。一人がもう一人に不利な話をしたいとき、同じ被告人席にいる間はどうなるんでしたか。ここがつながります。法律関係が被告人ごとに別個だとしても、同じ弁論の中で共同被告人どうしである限り、互いを証人として尋問することはできません。被告人には黙秘権があり、終始黙っていてよい立場です。ところが証人は、宣誓したうえで、聞かれたことに答える義務を負います。同じ人物を被告人のまま証人にすると、この二つがぶつかってしまうんです。だから証人になるには、いったんその弁論から抜けて、被告人という立場を離れる必要があります。つまり、弁論を分離すれば、相手を証人として尋問できる可能性が生まれます。ただし、実際にどこまで証人として扱えるか、その中身は証拠法の論点になるので、別の回で扱います。
公判手続の停止——防御できない状態で進めない

次は、審理の進め方そのものではなく、審理を止めるかどうかの話です。以前、314条1項を見たときに、被告人としての重要な利害を弁別してそれに従って相当な防御をする力、つまり訴訟能力の話をしました。覚えていますか。訴訟能力を欠いていて、回復の見込みがないときは、公訴棄却で終わらせる、という出口の話でした。314条1項は、この停止の制度全体の中でどう位置づけられるかを、今日はあらためて見ていきます。314条には、審理を進めると被告人が困ってしまう場面がいくつか並んでいます。まず1項、被告人の心神喪失です。
2項は、被告人が病気のために出頭できないとき、3項は、事件の証明に欠かせない重要な証人が病気で出頭できないときです。
条文刑事訴訟法第314条第2項
刑事訴訟法第314条第2項 被告人が病気のため出頭することができないときは、検察官及び弁護人の意見を聴き、決定で、出頭することができるまで公判手続を停止しなければならない。但し、第二百八十四条及び第二百八十五条の規定により代理人を出頭させた場合は、この限りでない。
条文刑事訴訟法第314条第3項
刑事訴訟法第314条第3項 犯罪事実の存否の証明に欠くことのできない証人が病気のため公判期日に出頭することができないときは、公判期日外においてその取調をするのを適当と認める場合の外、決定で、出頭することができるまで公判手続を停止しなければならない。
1項は、被告人自身が、審理の内容を理解して自分の身を守るための判断そのものができない状態です。2項は、判断はできても体調のせいで法廷に来られない状態、たとえば入院中で出てこられない場合です。3項は、被告人ではなく重要な証人の側が病気で来られない状態です。誰の、どんな事情で審理を止めるのかが、項ごとに違うわけです。2項には、その但書があります。284条や285条で代理人を出頭させている場合は、この限りではありません。もともと本人の出頭が要らない事件では、病気で停止する必要もないということです。3項にも但書があり、公判期日の外で証人を取り調べるほうが適当なら、止めずにそちらで進めます。そして、この3つのどれで止めるときも、必ず医師の意見を聴かなければなりません。
条文刑事訴訟法第314条第4項
刑事訴訟法第314条第4項 前三項の規定により公判手続を停止するには、医師の意見を聴かなければならない。
もう一つ、以前見た停止を思い出せますか?訴因や罰条が追加・変更されて、被告人の防御に実質的な不利益が生じるおそれがあるときの停止です。314条の停止は原因が被告人や証人の健康状態、312条7項の停止は原因が訴因の変更と、きっかけは違います。ですが、どちらも、被告人がきちんと自分を守れない状態のまま審理を進めてはいけない、という共通の理由から来ています。原因は違っても、目的は同じだと押さえてください。
公判手続の更新——裁判官が替わったとき
図:315条の更新と規則213条の更新原因を直接主義口頭主義の要請として並べる一覧板
最後に、更新です。以前、直接主義と口頭主義を見ました。証拠に自分自身で触れた裁判官が判断するのが直接主義でしたね。この直接主義があるので、開廷後に裁判官が交替すると問題が起きます。交替前の証人尋問や証拠調べの様子を、交替後の裁判官はその場で見ていないので、そのままでは立ち会っていない裁判官が判決を書くことになってしまうからです。前に出てきた歌のコンテストで言えば、前半の歌を聞いていない審査員が、途中から入って点数をつけるようなものです。
条文刑事訴訟法第315条
刑事訴訟法第315条 開廷後裁判官がかわつたときは、公判手続を更新しなければならない。但し、判決の宣告をする場合は、この限りでない。
そこで、それまでの審理の効力は保ちながら、直接主義・口頭主義の要請を満たすために必要な手当てをすることを、公判手続の更新といいます。ただし但書があって、審理はもう終わっていて、交替した裁判官が判決を宣告するだけなら、更新は要りません。判決を読み上げるだけなら、証拠に自分で触れているかどうかは問題にならないからです。裁判官が替わる場面以外にも、更新が必要な場合はあるんですか。あります。開廷後、被告人の心神喪失で公判手続を止めていて、また審理を再開するときです。
条文刑事訴訟規則第213条第1項・第2項
刑事訴訟規則第213条第1項・第2項 開廷後被告人の心神喪失により公判手続を停止した場合には、公判手続を更新しなければならない。 開廷後長期間にわたり開廷しなかつた場合において必要があると認めるときは、公判手続を更新することができる。
停止していた間に、それまでの審理の内容の記憶や理解が薄れてしまうおそれがあるので、再開するときは更新が義務になります。2項は、長期間開廷しなかった場合に、裁判所が必要と認めれば更新できるという裁量的な規定です。このほか、簡易公判手続や即決裁判手続の決定が取り消されたときにも、更新が必要になる場面があります。簡易公判手続は、被告人が法廷で罪を認めた事件で、重い罪を除き、証拠調べを簡単な方法で進める手続です。即決裁判手続は、以前見た、争いの無い軽い事件をできる限りその日のうちに終える手続でした。いずれも、審理の実質を裁判所自身がもう一度きちんと把握し直すための手当てだと考えてください。
更新は、それまでの審理を捨てて一からやり直す手続ではありません。そこが誤解しやすいところです。規則213条の2を見てください。
条文刑事訴訟規則第213条の2
刑事訴訟規則第213条の2(三号・四号) 更新前の公判期日における被告人若しくは被告人以外の者の供述を録取した書面又は更新前の公判期日における裁判所の検証の結果を記載した書面並びに更新前の公判期日において取り調べた書面又は物については、職権で証拠書類又は証拠物として取り調べなければならない。ただし、裁判所は、証拠とすることができないと認める書面又は物及び証拠とするのを相当でないと認めかつ訴訟関係人が取り調べないことに異議のない書面又は物については、これを取り調べない旨の決定をしなければならない。(三号) 裁判長は、前号本文に掲げる書面又は物を取り調べる場合において訴訟関係人が同意したときは、その全部若しくは一部を朗読し又は示すことに代えて、相当と認める方法でこれを取り調べることができる。(四号)
更新の中身は、順番で考えると分かりやすいです。まず原則として、三号にあるとおり、更新前の期日で取り調べた証拠を、裁判所が職権でもう一度、証拠書類・証拠物として取り調べ直します。ですが、これをいちいち朗読していては時間がかかります。そこで次に四号があって、訴訟関係人が同意すれば、朗読などをせずに「相当と認める方法」で取り調べることができるとされています。この四号があるので、実務では検察官・弁護人が「従前のとおり」と一言述べるだけで更新が終わることが多いんです。
今日の地図(保存版)
図:分離併合の裁量と義務法律関係の個別性停止更新という今日の道筋を一本にまとめる板
今日のまとめです。弁論の分離・併合は313条1項の裁量が原則ですが、共同被告人の防御が相反するときは313条2項・規則210条で分離が義務になります。併合されていても法律関係は被告人ごとに別個で、この個別性が、分離すれば共同被告人を証人として尋問できるかという問いにつながっていました。公判手続の停止は、314条の各事由も312条7項の訴因変更も、被告人がきちんと自分を守れない状態のまま審理を進めないという共通の理由で束ねられます。そして公判手続の更新は、裁判官の交替という場面で直接主義・口頭主義を保つための手当てで、判決の宣告だけなら不要でした。
分ける・止める・引き継ぐ、どれも被告人がきちんと防御できる状態を保つための仕組みなんですね。
参照条文
- 刑事訴訟法第313条第1項
- 刑事訴訟法第313条第2項
- 刑事訴訟規則第210条
- 刑事訴訟法第314条第2項
- 刑事訴訟法第314条第3項
- 刑事訴訟法第314条第4項
- 刑事訴訟法第315条
- 刑事訴訟規則第213条第1項・第2項
- 刑事訴訟規則第213条の2