公判廷の出席者と訴訟指揮
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第4章 公判手続 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入:この法廷に誰がいるのか
図:弁護人不在のまま進む法廷という問いを立てる導入板
前回、公判を貫く4つの原則を見ました。今日はその続きで、実際にこの公判廷に誰がいなければならないか、そして裁判所がどうやってその場を取り仕切るかに入っていきます。結論から言うと、極めて限られた場面でだけ、そうなることがあります。今日はまず、公判廷にいなければならない人が欠けたときに何が起きるかを整理し、そのうえでその極端な例を見ていきます。
開廷に必須の3人——欠けたときの効果は一律ではない
図:裁判官書記官検察官という開廷必須構成員と欠けた場合の効果の違いを示す板
以前、公判廷を開くには裁判官・裁判所書記官が列席し、検察官が出席していなければならないという条文を見ました。今日はその先、それぞれが欠けたときに何が起きるかを見ます。裁判官は、判断をする本人です。裁判官が欠ければ、裁判という判断そのものが成り立ちません。裁判官を欠いて開廷した場合、これは絶対的控訴理由になります。合議体なら3名、単独体なら1名、その数を欠けば、それだけで控訴審が原判決を破棄すべき理由になるということです。検察官が欠けた場合は、同じ扱いになるんですか。違います。検察官は、対立する一方の当事者です。欠けても判断そのものは成り立つので、それだけでは絶対的控訴理由にはなりません。ただし、判決の宣告をするその瞬間に検察官が不在だった場合は、話が変わります。ここで実際にあった事件を見てみましょう。ある地方裁判所の単独審理で、判決宣告の期日に検察官が不在のまま、裁判官が判決の主文を朗読し、理由の要旨を告げ、上訴期間などを告知して、被告人を退廷させました。その約30分後、検察官を呼び戻して、同じ内容の判決をもう一度宣告した、という経過です。
条文刑事訴訟法第282条第2項
刑事訴訟法第282条第2項 公判廷は、裁判官及び裁判所書記が列席し、且つ検察官が出席してこれを開く。
最高裁の判断は、2段に分かれます。まず、この手続に違反があるか。次に、その違反で判決を覆すか、です。
判例最決平19・6・19刑集61巻4号369頁
検察官不在のままの判決宣告 「……判決の主文を朗読し、理由の要旨を告げ、上訴期間等を告知した上、被告人の退廷を許し、被告人は法廷外に出たものであるから、この時点で、判決宣告のための公判期日は終了したものというべきである。その後、……検察官出席の上で再度行われた判決の宣告は、事実上の措置にすぎず、法的な効果を有しないものというほかはない。そうすると、……本件第1審の判決宣告手続には、刑訴法282条2項違反があり、この違反は判決に影響を及ぼすことが明らかというべきである……」
一度目の宣告で被告人が退廷した時点で、その期日はもう終わっています。あとから検察官を呼び戻してもう一度読み上げても、それは法的には何の意味も持たない、ただの事実上の行為にすぎません。だから一度目の宣告に282条2項違反があり、その違反は判決に影響を及ぼすことが明らかだ、というのがここまでの判断です。この判決は取り消されたんですか。そこが今回の事件の面白いところです。最高裁は、法令違反はあると認めながら、被告人に実質的な不利益がなく検察官も直ちに判決の内容を知ったことから、判決を破棄するには至らないとして、上告を棄却しました。法令違反があることと、それを理由に判決が覆ることは、別の話だということです。
被告人の出頭——なぜ本人がそこにいなければならないか

次は被告人本人の出頭です。まず原則を確認します。
条文刑事訴訟法第286条
刑事訴訟法第286条 前三条に規定する場合の外、被告人が公判期日に出頭しないときは、開廷することはできない。
被告人が出頭しなければ、原則として公判は開けません。ここで「なぜ被告人本人がそこにいなければならないか」を考えてみてください。自分の運命が決まる裁判で、自分の言い分を自分で述べ、証拠に対して自分で反論する。これが防御権の中身です。他人任せにできない権利だからこそ、本人の出頭が原則になります。ただし出頭は義務であると同時に権利でもあるので、身柄の扱いにも歯止めがあります。
条文刑事訴訟法第287条第1項
刑事訴訟法第287条第1項 公判廷においては、被告人の身体を拘束してはならない。但し、被告人が暴力を振い又は逃亡を企てた場合は、この限りでない。
法廷では原則として手錠などで拘束してはいけません。暴力を振るったり逃亡を企てたりした場合だけ例外です。防御活動を自由に行わせるためです。軽微な事件では、免除される類型があります。50万円以下の罰金や科料にあたる事件では、被告人は出頭しなくてよく、代理人を出頭させることもできます。
条文刑事訴訟法第284条
刑事訴訟法第284条 五十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、五万円)以下の罰金又は科料に当たる事件については、被告人は、公判期日に出頭することを要しない。ただし、被告人は、代理人を出頭させることができる。
例えば、うっかり人にけがをさせた過失傷害罪は、30万円以下の罰金または科料なので、この284条に当たり、本人が来なくても審理できます。これに対して、以前見たAさんのコンビニでの万引き、つまり窃盗罪は、上限が10年の拘禁刑なので、このあと見る285条にも当たらず、原則どおり毎回本人が出頭しなければなりません。拘留にあたる事件では判決を宣告する期日を除いて、長期3年以下の拘禁刑・50万円を超える罰金にあたる事件では、それに加えて起訴状の朗読から始まる冒頭手続の期日も除いて、裁判所の許可があれば出頭しなくてよいとされています。
条文刑事訴訟法第285条第1項・第2項
刑事訴訟法第285条第1項・第2項 拘留に当たる事件の被告人は、判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、裁判所は、被告人の出頭がその権利の保護のため重要でないと認めるときは、被告人に対し公判期日に出頭しないことを許すことができる。 長期三年以下の拘禁刑又は五十万円(刑法、暴力行為等処罰に関する法律及び経済関係罰則の整備に関する法律の罪以外の罪については、当分の間、五万円)を超える罰金に当たる事件の被告人は、第二百九十一条の手続をする場合及び判決の宣告をする場合には、公判期日に出頭しなければならない。その他の場合には、前項後段の例による。
ここまでは「そもそも出頭義務がない」場面でした。もう一つ別に、出頭義務はあるのに、本人が欠けたまま開廷できる場面があります。5つ挙げます。被告人が法人で、代理人が出頭する場合。心神喪失の状態で、無罪や免訴、刑の免除、公訴棄却になることが明らかな場合。これは以前見た、心神喪失なら手続を止めるという314条1項の、ただし書の場面です。勾留中の被告人が正当な理由なく出頭を拒否したり、連れてくることを著しく困難にした場合。裁判所の許可なく退廷したり、秩序を乱して退廷を命じられた場合。そして、証人が被告人の前では十分に話せないために、一時的に被告人を退廷させる場合です。
5つの理由はばらばらですが、共通するのは「本人がその場にいなくても、防御の利益が損なわれない、あるいは損なわれてもやむを得ない」と判断できる場面だということです。なお控訴審では扱いが逆転していて、被告人は原則として出頭しなくてよく、裁判所が出頭を命じたときだけ出頭が必要になります。第一審の原則の裏返しですが、控訴審の手続そのものは別の回で扱います。
弁護人と必要的弁護——防御の実質をどう守るか
図:必要的弁護事件の範囲と職権付添いによる手当てを示す板
以前、死刑・無期・長期3年を超える拘禁刑にあたる事件では、弁護人がいなければ開廷できないという条文を見ました。以前、公判前整理手続と即決裁判手続の事件もこれにあたると少し触れました。正確には、第1回の公判のあとで同じように争点を整理する、期日間整理手続に付された事件も含まれます。重い事件だけでなく、争点を絞り込む特別な手続に乗った事件や、スピード審理の事件も、弁護人なしでは開廷できません。まず制度がどう手当てしているかを見ましょう。弁護人がいない、あるいは出頭しない・在廷しなくなったときは、裁判長が職権で弁護人を付けなければなりません。出頭しないおそれがあるだけの段階でも、裁判所は職権で弁護人を付けることができます。
条文刑事訴訟法第289条第2項・第3項
刑事訴訟法第289条第2項・第3項 弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないとき若しくは在廷しなくなつたとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。 弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないおそれがあるときは、裁判所は、職権で弁護人を付することができる。
例えば、Aさんの窃盗事件も必要的弁護事件です。公判の当日にAさんの弁護人が急病で来られなければ、裁判長は職権で別の弁護人を付けなければならず、弁護人がいないまま進めることはできません。この平成16年改正の手当てに加えて、裁判所は必要と認めれば検察官や弁護人に、公判準備や公判期日への出頭・在廷を命じることができます。
条文刑事訴訟法第278条の3第1項
刑事訴訟法第278条の3第1項 裁判所は、必要と認めるときは、検察官又は弁護人に対し、公判準備又は公判期日に出頭し、かつ、これらの手続が行われている間在席し又は在廷することを命ずることができる。
制度上はそう手当てされています。ところが、それでもどうにもならなかった事件があります。被告人自身が公判期日への不出頭を繰り返し、自分の弁護人にも出頭しないよう要求して、それを飲ませるために弁護人やその家族を脅すなどした事案です。10年に及ぶ審理の末、最高裁はこう判断しました。
判例最決平7・3・27刑集49巻3号525頁〈百選52〉
必要的弁護事件で弁護人なしの開廷 「裁判所が弁護人出頭確保のための方策を尽したにもかかわらず、被告人が、弁護人の公判期日への出頭を妨げるなど、弁護人が在廷しての公判審理ができない事態を生じさせ、かつ、その事態を解消することが極めて困難な場合には、当該公判期日については、刑訴法二八九条一項の適用がないものと解するのが相当である。」
理由も見ておきましょう。被告人はもはや必要的弁護制度による保護を受けられる立場ではなく、実効ある弁護活動も期待できません。それに、必要的弁護の制度は被告人の防御の利益だけでなく、適正かつ迅速な審理を実現することも目的にしているので、被告人が自分でその目的を壊してしまう事態は、法がそもそも想定していない、という理屈です。裁判所が尽くせる手を尽くし、それでも解消できないという極めて限定された場合だけ、この例外が働きます。
第1審公判手続の全体像——地図をひとつ持っておく

ここで一度、第1審の公判手続全体がどう流れるかを、地図として渡しておきます。中身は今日は扱いません。順番だけつかんでください。大きく3つの手続に分かれ、そのあとに判決の宣告が続きます。まず冒頭手続。人定質問、起訴状の朗読、黙秘権などの告知、罪状認否と進みます。次に証拠調べ手続。検察官の冒頭陳述から始まり、証拠調べの請求・証拠に対する意見・証拠採否の決定・実際の証拠調べという流れが、まず検察官側の立証で、続いて被告人・弁護人側の立証で繰り返されます。最後に弁論手続。検察官の論告・求刑、弁護人の弁論、被告人の最終陳述で結審し、判決の宣告に至ります。
訴訟指揮権——当事者主義の下で誰が場を仕切るか
図:訴訟指揮権の主体である裁判長と尋問の制限求釈明という典型例を示す板
以前、訴因変更を経ずに事実認定してよいかを検討する場面で、求釈明という言葉に触れたのを覚えていますか。今日出てくる求釈明も同じ条文にもとづくものですが、働く場面が違います。今日のものは、訴訟活動全般を明確にするための、裁判長の一般的な権限そのものです。まずその土台である訴訟指揮権から見ていきます。刑事訴訟では、検察官と被告人という当事者が主張と立証の主役になります。とはいえ、誰かが進行を管理しなければ、審理は前に進みません。当事者主義のもとでも、裁判所は当事者の活動が適正に進むよう、後見的に整理する役目を持ちます。これが訴訟指揮権です。公判期日の内外を問わず、明文の規定があるかどうかも問わず、裁判所がその地位にもとづき当然に持っている権能だと解されています。公判期日中の具体的な指揮は、裁判長が行います。
条文刑事訴訟法第294条
刑事訴訟法第294条 公判期日における訴訟の指揮は、裁判長がこれを行う。
合議体全員でいちいち相談していては、審理が止まってしまいます。迅速に、機動的に場を動かすために、裁判長ひとりに委ねられています。典型例を2つ見ましょう。1つは、尋問や陳述を制限する権限です。
条文刑事訴訟法第295条第1項前段
刑事訴訟法第295条第1項前段 裁判長は、訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重複するとき、又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り、これを制限することができる。
同じ質問の繰り返しや、事件と関係のないやり取りを止める権限です。例えば、証人がもう答えた同じ質問を、三度目に繰り返されたら、裁判長は「その点は既に答えています」と止めることができます。もう1つが、主張が不明確・矛盾しているときに、その趣旨をはっきりさせるよう求める求釈明です。
条文刑事訴訟規則第208条第1項・第3項
刑事訴訟規則第208条第1項・第3項 裁判長は、必要と認めるときは、訴訟関係人に対し、釈明を求め、又は立証を促すことができる。 訴訟関係人は、裁判長に対し、釈明のための発問を求めることができる。
あちらは訴因変更を経ずに事実認定してよいかという特定の局面で問題になる求釈明で、こちらは訴訟活動全般を対象にした、裁判長の一般的な権限です。訴訟指揮権にはこのほか、証拠調べの順序や範囲、方法を定めたり変更したりする権限も含まれます。こちらは今日は、名前だけ押さえておいてください。なお、以前見た訴因変更命令は、312条2項という別の条文にもとづく権限です。
法廷警察権——対象は法廷にいる全員
図:訴訟指揮権と法廷警察権の対象範囲主体根拠条文の違いを対比する板
訴訟指揮権のもう1つの側面が、法廷警察権です。同じ裁判長の権限の系列ですが、対象が大きく違います。法廷警察権は、訴訟関係人に限られません。傍聴人を含めて、法廷にいる者すべてに及びます。秩序を乱す行為があれば、傍聴人であっても対象になります。
条文刑事訴訟法第288条第2項
刑事訴訟法第288条第2項 裁判長は、被告人を在廷させるため、又は法廷の秩序を維持するため相当な処分をすることができる。
条文裁判所法第71条第1項・第2項
裁判所法第71条第1項・第2項 法廷における秩序の維持は、裁判長又は開廷をした一人の裁判官がこれを行う。 裁判長又は開廷をした一人の裁判官は、法廷における裁判所の職務の執行を妨げ、又は不当な行状をする者に対し、退廷を命じ、その他法廷における秩序を維持するのに必要な事項を命じ、又は処置を執ることができる。
例えば、傍聴席で大声を出し続けて審理を妨げる人には、裁判長が退廷を命じることができます。行使する主体も、裁判長、または合議体でなく一人で開廷した裁判官です。もう1つ、写真撮影や録音、放送についても許可制になっています。
条文刑事訴訟規則第215条
刑事訴訟規則第215条 公判廷における写真の撮影、録音又は放送は、裁判所の許可を得なければ、これをすることができない。但し、特別の定のある場合は、この限りでない。
この点が実際に争われた有名な事件があります。傍聴人が法廷でメモを取ることが、この法廷警察権との関係でどこまで許されるかが問題になりました。
判例最大判平元・3・8民集43巻2号89頁
レペタ事件(法廷でのメモ) 「公正かつ円滑な訴訟の運営は、傍聴人がメモを取ることに比べれば、はるかに優越する法益であることは多言を要しないところである……しかしながら、それにもかかわらず、傍聴人のメモを取る行為が公正かつ円滑な訴訟の運営を妨げるに至ることは、通常はあり得ないのであつて、特段の事情のない限り、これを傍聴人の自由に任せるべきであり、それが憲法二一条一項の規定の精神に合致するものということができる。」
訴訟の公正な運営がメモの自由より重い利益だと認めたうえで、実際にメモを取る行為がその運営を妨げることは通常考えにくいから、特段の事情がない限りメモは自由にしてよい、という組み立てです。原則は自由、制限は例外です。写真や録音は許可がなければできないのに対して、メモは特段の事情がない限り自由。この対比で押さえてください。
今日の地図(保存版)

今日のまとめです。開廷に欠かせない人が欠けたときの効果は一律ではなく、裁判官を欠けば絶対的控訴理由、検察官を判決宣告の場で欠けば法令違反になり得る、という違いを見ました。被告人本人の出頭は防御権の保障が理由で原則必須ですが、軽微な事件や本人不在でも防御の利益が損なわれない場面では例外があります。必要的弁護は、防御の実質を守るための制度なので、その保護に値しない極限状況だけ例外が働きます。そのうえで、第1審手続全体の地図と、当事者主義を後見する訴訟指揮権、法廷にいる全員に及ぶ法廷警察権を見ました。
今日出てきた権限は、どれも「誰の・何を守るためか」で考えると整理しやすいですね。
参照条文
- 刑事訴訟法第282条第2項
- 刑事訴訟法第286条
- 刑事訴訟法第287条第1項
- 刑事訴訟法第284条
- 刑事訴訟法第285条第1項・第2項
- 刑事訴訟法第289条第2項・第3項
- 刑事訴訟法第278条の3第1項
- 刑事訴訟法第294条
- 刑事訴訟法第295条第1項前段
- 刑事訴訟規則第208条第1項・第3項
- 刑事訴訟法第288条第2項
- 裁判所法第71条第1項・第2項
- 刑事訴訟規則第215条