伝聞法則の意義と伝聞・非伝聞の区別
伝聞法則の意義と伝聞・非伝聞の区別を扱う回。伝聞証拠は反対尋問を経ないため原則証拠能力が否定される(320条1項)こと、物差しは要証事実との関係で内容の真実性を問うかで決まることを押さえる。
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第4章 公判・証拠法 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
1. 伝聞証拠とは——320条1項 〔短答・論文共通〕
伝聞法則の根拠条文は刑事訴訟法320条1項です。
【条文】刑事訴訟法320条1項(伝聞法則) 第321条乃至第328条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
通説の定義はこうです。公判廷外の供述を内容とする証拠であって、その内容が本当かどうか(供述内容の真実性)を証明するために用いられるもの——これが伝聞証拠です。「内容の真実性を問題にするか」という点が、以下すべての議論の軸になります。
図:伝聞証拠の定義(板書)
図:刑訴320条1項の条文カード
2. 言葉の証拠の階層を整理 〔短答〕
まず用語の整理をします。
- 供述:見聞きしたことを述べること。これを証拠に使うのが供述証拠です。
- 非供述証拠:凶器のナイフそのものなど、「物」の証拠。伝聞法則は供述証拠だけの話で、物証には適用されません。
- 重要なのは、供述証拠がすべて伝聞というわけではない点です。供述証拠の中に「伝聞」と「非伝聞」の両方があります。
図:証拠の階層(供述証拠・非供述証拠、伝聞・非伝聞)
3. なぜ原則ダメ?——供述の4つの関所 〔短答・論文共通〕
人が体験を言葉にするまで、次の4つの関所を通ります。
| 関所 | 典型的な誤り |
|---|---|
| 知覚 | 見間違い・聞き間違い |
| 記憶 | 忘れる・すり替わる |
| 叙述 | 言い間違い・言語化の限界 |
| 誠実性 | あえて嘘をつく |
これら4つの関所に誤りが入り込む可能性があるため、言葉の証拠は本質的に危険性をはらんでいます。本来であれば最初に体験した本人を法廷に呼んで確かめたい——それを実現する手続きが反対尋問です。
図:供述の4つの関所と誤りが入るリスク
4. 反対尋問でテストできるか——憲法37条2項 〔短答・論文共通〕
本人が法廷にいれば、相手方は次のことができます。
- 「見間違いではないか」「記憶違いでは」「嘘ではないか」と質問する。
- 宣誓させ、供述態度を観察する。
これが言葉の証拠に対する「品質検査」です。この反対尋問の権利は憲法上の保障でもあります。
【条文】日本国憲法37条2項(反対尋問権) 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
図:憲法37条2項の条文カード
書面や「また聞き」の証言は、紙に質問しても答えてくれません。反対尋問によるテストを経ていない危険な証拠——だから原則として証拠にできない。これが伝聞法則の趣旨です。
図:反対尋問の有無による証拠の信頼性の差
5. 関連性で言うと——法律的関連性がない 〔論文〕
前回(#26)では証拠の関連性に3つの関門があることを学びました。伝聞証拠は、そのうち第2関門(法律的関連性)で引っかかります。
- 自然的関連性:また聞きの証言でも事実証明に一応役立つため、これは通ります。
- 法律的関連性:ただし、誤判を招く危険が高いため政策的に「法律的関連性なし」と判断される。
前回「法律的関連性の典型例が伝聞」と述べたのは、この意味です。
図:関連性3関門と伝聞法則の位置づけ
6. 伝聞の2タイプと書面の分類 〔短答〕
伝聞証拠には2つのタイプがあります。
① 伝聞供述:法廷の証人が「○○から聞いた話」を語る——また聞きの証言。
② 供述書面:過去の供述を書面にして法廷に提出するもの。これがさらに2つに分かれます。
- 供述書:本人が自分で書いたもの(日記・手紙・念書など)。
- 調書(供述録取書):本人以外(警察官・検察官)が聞き取って作成したもの。
この書面の区別は、321条以下の例外条文(伝聞例外)の要件を理解するうえで重要になります。
図:伝聞証拠の2タイプと書面の分類
7. 物差しは一つ——内容の真実性が問題か 〔論文〕
伝聞か非伝聞かを見分ける物差しはたった一つです。
その発言の内容が本当かどうか(内容の真実性)を問題にしているか。
- 問題にするなら → 伝聞。中身の真偽は本人に確かめないとわからない。
- 問題にしないなら → 非伝聞。発言があったこと自体で足り、反対尋問は不要。
図:伝聞・非伝聞を分ける物差し
8. だから「要証事実」で相対的に決まる 〔論文〕
伝聞か否かは証拠の「見た目」では決まらず、何を証明したいか(要証事実)によって相対的に決まります。
具体例で確認します。
Aが法廷で「友人が『犯人を見た』と言っていた」と証言した。
| 要証事実 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 誰が犯人かの証明 | 伝聞 | 友人の見た中身が本当でないと意味がない |
| 友人がその発言をしたこと(名誉毀損の証拠として) | 非伝聞 | 発言の存在自体で足りる |
同じ発言でも、要証事実が変わると結論が逆転するのです。
図:要証事実が変わると結論が反転する(板書)
9. 非伝聞① 発言があれば成立する——発語行為 〔論文〕
発語行為とは、発言の存在自体に法的意味があるものです。
例:防犯カメラが拾った音声「金を出せ、刺すぞ」
- 要証事実:脅迫・恐喝の事実
- 本当に刺す気だったかは関係ない。「そう言って怖がらせた事実」があれば犯罪は成立する。
- 内容の真偽は問わない → 非伝聞
図:発語行為のパターン(非伝聞①)
10. 非伝聞② 気持ちを述べた言葉——精神状態 〔論文〕
現在の精神状態・感情を述べた言葉は非伝聞と扱われる方向です。
例:被害者が生前「あの人が怖い、つきまとわれている」と話していた。
- 要証事実:被害者が恐怖を感じていたこと(現在の感情)
- 非伝聞とされる理由:
- 最良の証拠:心の中を知るには本人の言葉が最適。
- 関所を通らない:現在の気持ちを述べるだけなら、知覚・記憶の関所を通らないため誤りが入りにくい。
- 残るリスクはカバーできる:嘘のリスクは聞いた証人への反対尋問でチェックできる。
→ 伝聞法則の趣旨が妥当しないため、非伝聞と扱われる。
図:精神状態の供述(非伝聞②)
11. 同じ言葉でも「過去の事実」なら伝聞 〔短答・論文共通〕
同じ発言でも要証事実が「過去の外部的事実」に変わると伝聞になります。
例:「つきまとわれている」という発言を、実際にストーカー行為があったことの証明に使う。
- 過去を振り返る発言は「記憶」の関所を通っている。誤りが入る余地がある。
- 内容の真実性が問題になる → 伝聞
覚えるポイント — 精神状態:現在 vs 過去
- 現在の気持ち・感情 → 非伝聞(趣旨が妥当しない)
- 過去の心理状態・過去の出来事の記憶 → 伝聞
なお、現在の心理状態の法的扱いについては非伝聞説と伝聞例外説で学説が分かれており、実務は許容する傾向にあります。
図:現在の精神状態vs過去の事実——同じ発言でも判断が分かれる
12. 非伝聞③ 言葉が行為の意味を決める——言語的行為 〔論文〕
言語的行為とは、言葉と行為が一体となっており、言葉が行為に法的意味を与えるパターンです。
例:現金を渡しながら「これは手付金です」と言った。
- 現金を渡す動作だけ見ても、贈与か・借金返済か・手付かがわからない。
- 「手付金です」という言葉があって初めて行為の法的性質が確定する。
- 目撃した人は「その行為全体」を見た証人。内容の真偽を問わない → 非伝聞
図:言語的行為のパターン(非伝聞③)
13. 非伝聞④ 犯行計画メモ——一致なら非伝聞 〔論文〕
犯行計画メモは試験でよく問われる重要パターンです。
例:容疑者の手帳に「○日、○○倉庫、灯油でやる」とあり、実際にその日・その倉庫で灯油を使った放火があった。
| 要証事実 | 判断 | 理由 |
|---|---|---|
| 犯人の同一性(被告人が犯人) | 非伝聞 | これだけ一致するメモを持つ者こそ犯人という推論。内容の真偽は問わない。 |
| 放火の故意(やる気があった) | 伝聞 | メモの内容(本気でやるつもりだった)の真実性が問題になる。 |
ただし、故意の立証についても「精神状態の供述」と見て非伝聞とする考え方もあり、学説上の争いがあります。
図:犯行計画メモの要証事実による判断の分岐
14. 全体の地図——伝聞・非伝聞・伝聞例外 〔論文〕
言葉の証拠は、次の3つのどれかに分類されます。
| 分類 | 根拠 | 結論 |
|---|---|---|
| 伝聞 | 320条1項 | 原則として証拠能力なし |
| 非伝聞 | 320条1項の適用外 | そのまま証拠に使える |
| 伝聞例外 | 321条〜328条 | 法律の要件を満たせば証拠能力あり |
実務上の思考順序は次のとおりです。
- まず非伝聞の道を探る。非伝聞であればそのまま証拠に使える。
- 非伝聞が見つからず伝聞となる場合は、321条以下の例外要件を探る。
図:伝聞・非伝聞・伝聞例外の全体地図
図:言葉の証拠の分類フロー
短答ひっかけ
- 伝聞法則は供述証拠にしか適用されない。物(非供述証拠)には適用なし。
- 供述証拠がすべて伝聞というわけではない。供述証拠の中に伝聞と非伝聞の両方がある。
- 伝聞か否かは証拠の見た目で決まらない。要証事実との関係で相対的に決まる。
- 現在の精神状態は非伝聞方向、過去の心理状態(記憶の関所を通る)は伝聞。同じ発言でも要証事実が変わると逆転する。
- 犯行計画メモ:要証事実が「同一性」なら非伝聞、「故意」(内容の真実性)なら伝聞。ただし故意も精神状態として非伝聞とする説もある(学説の争いあり)。
- 発語行為・言語的行為は非伝聞。「その言葉があったこと自体」で法的効果が生じるため、内容の真偽を問わない。
- 320条1項の冒頭「321条乃至328条を除いては」——これが伝聞例外の出発点(例外があることを忘れない)。
📝 論文の型
伝聞証拠の意義と伝聞・非伝聞の区別
【コア規範】(逐語暗記=太字キーワード)
伝聞証拠とは、公判廷外の供述を内容とする証拠であって、その供述内容の真実性を立証するために用いられるものをいい、原則として証拠能力が否定される(320条1項)。趣旨は、供述証拠は知覚・記憶・表現叙述の各過程に誤りが入りやすいのに、反対尋問等による信用性のテストを経ていない点にある。したがって伝聞か否かは、要証事実との関係で、その証拠が供述内容の真実性を問題とするか否かによって相対的に決まる。
【復元キー】
①伝聞法則(320Ⅰ)=公判廷外供述を内容とし内容の真実性立証に用いる証拠は原則証拠能力なし → ②趣旨=供述は知覚・記憶・叙述に誤りが入りやすく反対尋問でテストできない → ③区別の物差し=要証事実との関係で内容の真実性が問題となるか → ④非伝聞=発語の存在自体・精神状態・言語的行為・犯行計画メモ等(真実性を問題としない用法)。
【フル論証】
伝聞証拠とは、公判廷外における供述(原供述)を内容とする証拠であって、その原供述の内容の真実性を立証するために用いられるものをいい、原則として証拠能力が否定される(320条1項)。その趣旨は、供述証拠は知覚・記憶・表現・叙述の各過程に誤りが介在するおそれがあるところ、公判廷外の供述については、宣誓・反対尋問・裁判所による供述態度の観察といった信用性のテストを経ることができない点にある。したがって、ある証拠が伝聞証拠にあたるか否かは、要証事実との関係で、その供述内容の真実性が問題となるか否かによって相対的に決せられる。真実性が問題とならない場合(発語の存在自体・発言時の精神状態・言語的行為等)は非伝聞であり、伝聞法則の適用を受けない。
【事例・あてはめ】
Wが「Aが『Bが覚醒剤を売っていた』と話すのを聞いた」と証言(Bの譲渡の事実を立証するため)。このW証言(中のA供述)は伝聞証拠として証拠能力が否定されるか。
要証事実はBの譲渡の事実であり、原供述の内容(Bが売っていた)の真実性が問題となる。原供述者Aを反対尋問できない以上、伝聞証拠にあたり320条1項により原則として証拠能力が否定される(伝聞例外の要件を満たさない限り)。
図:論文の型——コア規範のキーワード
図:論文の型——フル論証と事例あてはめ
今日の地図(保存版)
- 伝聞証拠の定義:公判廷外の供述を内容とし、その内容の真実性を立証するために用いられる証拠(320条1項)。
- 趣旨:供述は知覚・記憶・叙述・誠実性の4つの関所で誤りが入りやすいのに、反対尋問によるテストを経ていない(憲法37条2項)。
- 物差しはひとつ:要証事実との関係で、内容の真実性を問題とするか否か——これで伝聞か非伝聞かが相対的に決まる。
- 非伝聞の4パターン:①発語行為(発言の存在自体が犯罪を構成)、②現在の精神状態(記憶の関所を通らない)、③言語的行為(言葉が行為に法的意味を与える)、④犯行計画メモ(要証事実が同一性の場合)。
- 3分類の全体地図:伝聞(320Ⅰで原則アウト)→非伝聞(適用外・OK)→伝聞例外(321〜328の要件を満たせばOK)。
- 実務の思考順序:まず非伝聞を探す→見つからなければ伝聞例外を探す。
次回は #28「伝聞例外の総論+供述書面(321/322)」。「なぜ例外が認められるか」——必要性と信用性の情況的保障という2本の軸を解説します。
参照条文
- 刑事訴訟法320条1項(伝聞法則)
- 日本国憲法37条2項(反対尋問権)