刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#94

証拠調べの実施と職権証拠調べ

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第4章 公判手続 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入:採用は、まだゴールではない

脅迫状を読み上げるだけでは足りない、という問いを立てる導入板 図:脅迫状を読み上げるだけでは足りない、という問いを立てる導入板

前回は、証拠を請求してから、相手方の意見を聴いて、裁判所が採用か却下かを決めるまでを見ました。では、採用された証拠は、どうやって調べるのでしょう?採用は、これから法廷で調べてよいという許可にすぎません。中身を裁判所や当事者に実際に触れさせる手続が、もう一段必要です。これを取調べと呼びます。たとえば、脅迫状が証拠として採用されたとします。読み上げれば、書いてある文句は伝わりますよね。それでも、法廷では読み上げるだけでなく、実物を見せることまで求められます。なぜだと思いますか。文面以外に、何か意味があるんでしょうか。そこが今日の中心です。証拠が事実を裏付ける力を、証明力と言います。証拠には、この証明力が内容だけにあるものと、物としての存在・状態そのものにあるものがあります。その違いに応じて、取調べのやり方が変わる。今日はこの1本の軸で、条文を整理していきます。

証拠の3分類——何に証明力があるか

書証・物証・人証の3分類とそれぞれの証明力の所在を示す板 図:書証・物証・人証の3分類とそれぞれの証明力の所在を示す板

証拠は、大きく3つに分かれます。書証、物証、人証です。書証は、供述調書や実況見分調書のように、紙に書かれた記載内容そのものが証拠になるものです。物証は、覚醒剤や凶器のように、物の存在や状態そのものが証拠になるものです。人証は、証人や鑑定人のように、その場での供述そのものが証拠になるものです。この3つを分ける基準は、種類の名前ではなく、その証拠のどこに証明力があるかです。内容だけに証明力がある書証は、耳で内容を伝えればよい。存在や状態に証明力がある物証は、目で見せなければ伝わらない。供述そのものが証拠になる人証は、直接尋ねなければ始まらない。この対応関係を、次の節から1つずつ条文で確認していきます。

書証の取調べ——朗読と要旨の告知

305条の朗読原則と規則203条の2の要旨の告知の関係を示す板 図:305条の朗読原則と規則203条の2の要旨の告知の関係を示す板

まず書証です。

条文刑事訴訟法第305条第1項

刑事訴訟法第305条第1項 検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠書類の取調べをするについては、裁判長は、その取調べを請求した者にこれを朗読させなければならない。ただし、裁判長は、自らこれを朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にこれを朗読させることができる。

証拠書類の取調べは、原則として、請求した者に朗読させます。裁判長が自ら朗読したり、陪席裁判官や裁判所書記官に朗読させたりすることもできます。書証は、紙に書かれた内容そのものに証明力があるので、その内容を声に出して伝える。これが朗読の意味です。実務では、犯罪の成否に争いがない事件で、いちいち全文を読み上げていると時間がかかりすぎます。そこで、要旨の告知という簡略な方法が用意されています。

条文刑事訴訟規則第203条の2第1項

刑事訴訟規則第203条の2第1項 裁判長は、訴訟関係人の意見を聴き、相当と認めるときは、請求により証拠書類又は証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについての朗読に代えて、その取調を請求した者、陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にその要旨を告げさせ、又は自らこれを告げることができる。

裁判長が、訴訟関係人の意見を聴いたうえで相当と認めれば、全文の朗読に代えて、要旨だけを告げることができます。争いのない事件では、この要旨の告知で済ませることが多いです。朗読が原則で、要旨の告知は簡略化された代替手段だと押さえてください。条文にある『証拠物中書面の意義が証拠となるもの』は、このあと見る、中身も紙そのものも証拠になる書面のことです。

物証の取調べ——展示

306条の展示原則を示す板 図:306条の展示原則を示す板

次は物証です。

条文刑事訴訟法第306条第1項

刑事訴訟法第306条第1項 検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠物の取調をするについては、裁判長は、請求をした者をしてこれを示させなければならない。但し、裁判長は、自らこれを示し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記にこれを示させることができる。

証拠物の取調べは、請求した者に、裁判所や訴訟関係人に見えるように示させます。これを展示と呼びます。裁判長が自ら示したり、陪席裁判官や裁判所書記官に示させたりすることもできる点は、書証の朗読と同じ構造です。物証は、物の存在や状態そのものに証明力があるので、読み上げても伝わりません。見せなければ意味がない。実務では、展示のときに被告人に証拠物を示して、その物との関わりを確認する質問をすることも多いです。

証拠物たる書面——朗読と展示の両方が要る理由

証拠物たる書面が書証と物証の両方の性質を持ち、両者と区別しつつ朗読と展示の両方を要求される構造を示す一覧板

ここで、冒頭の脅迫状の問いに戻ります。日記や手紙、契約書、脅迫状のように、書証と物証の両方の性質を持つ証拠を、証拠物たる書面と呼びます。脅迫状で考えてみましょう。文面に書かれた脅し文句、これは内容です。読み上げれば伝わります。ですが、脅迫状には、内容以外にも証拠になる部分があります。字が荒々しく乱れているか、封筒が破られていたか、血のようなしみがついていないか。こうした紙そのものの存在や状態は、読み上げただけでは絶対に伝わりません。見せて初めて分かることです。だから条文も、両方を要求します。

条文刑事訴訟法第307条

刑事訴訟法第307条 証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについては、前条の規定による外、第三百五条の規定による。

「前条の規定による外」というのは、306条の展示に加えて、という意味です。証拠物たる書面の取調べは、展示だけでなく、305条の朗読、または規則203条の2による要旨の告知も、両方行います。区別の基準は、記載内容だけでなく、書面の存在や状態そのものからも事実を認定しようとしているかどうかです。脅迫状を読み上げれば中身は伝わりますが、それでも見せることまで求められるのは、紙そのものの状態にも証拠としての意味があるからなのです。同じ脅し文句を、警察官が書き写した報告書だったらどうなりますか。それは証拠書類です。書き写した紙の汚れや筆跡から何かを認定するわけではなく、書かれた内容だけが証拠になるので、朗読か要旨の告知で足ります。同じ文句が書かれていても、紙そのものの状態を証拠にするかどうかで、取調べ方が分かれるのです。

人証の取調べ——尋問と、書証が不同意になったとき

304条の尋問原則と、不同意書証から人証請求への接続を示す板 図:304条の尋問原則と、不同意書証から人証請求への接続を示す板

最後に人証です。

条文刑事訴訟法第304条第1項

刑事訴訟法第304条第1項 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人は、裁判長又は陪席の裁判官が、まず、これを尋問する。

証人や鑑定人のような人証は、尋問によって取り調べます。人の供述そのものが証拠になるので、直接その場で話してもらう以外に方法がありません。条文の建て付けでは、裁判長または陪席の裁判官が、まず尋問することになっています。ただし、同じ条文は、裁判所が適当と認めるときは、訴訟関係人の意見を聴いてこの順序を変更できるとも定めており、実際の法廷では、この定めを使って、証拠の取調べを請求した当事者から先に尋問するやり方が通常です。犯罪の成否に争いがない事件では、検察官が請求した書証がすべて同意されて、書証中心で立証が終わることが多いです。ですが、争いがある事件では、弁護人は、被告人の言い分と食い違う書証には同意しないという判断をすることになり、不同意の意見を述べます。

原則として、不同意の書証は証拠にできません。伝聞法則というのは、法廷で本人に問いただすことができない、人づての話や書面に書かれた供述は、原則として証拠にできないというルールです。前回見たとおり、同意は、この原則を外してよいという相手方の意見でした。不同意なら原則に戻るので、証拠にできないのです。そこで検察官は、不同意になった書証の代わりに、その内容を証明するために証人を請求することがあります。書証で示せなかった事実を、人証で立証し直すわけです。

被告人・弁護人立証——検察官の後に続く証拠調べ

検察官立証の終了後に被告人弁護人が証拠の取調べを求められる構造と弁号証を示す板 図:検察官立証の終了後に被告人弁護人が証拠の取調べを求められる構造と弁号証を示す板

検察官の立証が終わると、今度は被告人・弁護人側の番です。

条文刑事訴訟法第298条第1項

刑事訴訟法第298条第1項 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調を請求することができる。

前回も見た条文ですが、請求できるのは検察官だけではありません。被告人・弁護人も、事件を裁くうえで必要だと考える証拠なら、同じように取調べを請求できます。証明責任がないので、証拠を出すこと自体は義務ではありません。ですが、被告人に有利な事情、たとえば反省の態度や被害弁償の状況を示す情状証人など、被告人側から出したい証拠は実際によくあります。弁護人が請求する証拠は、弁号証と呼ばれます。手続の流れは検察官立証と同じで、請求したあと相手方である検察官の意見を聴き、裁判所が決定し、取調べを行います。同じ手続の型が、立場を変えて繰り返されるだけです。

証拠調べに関する異議——法令違反か、不相当か

決定に対しては法令違反のみそれ以外は不相当も使えるという非対称を示す板 図:決定に対しては法令違反のみそれ以外は不相当も使えるという非対称を示す板

証拠調べの進め方に納得がいかないとき、当事者はどうすればよいでしょうか。

条文刑事訴訟法第309条第1項

刑事訴訟法第309条第1項 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。

検察官・被告人・弁護人は、証拠調べに関して異議を申し立てることができます。異議を申し立てるには、理由を示す必要があります。理由は、法令違反と、不相当の2種類です。ただし、この2つがいつでも両方使えるわけではありません。

条文刑事訴訟規則第205条第1項

刑事訴訟規則第205条第1項 法第三百九条第一項の異議の申立は、法令の違反があること又は相当でないことを理由としてこれをすることができる。但し、証拠調に関する決定に対しては、相当でないことを理由としてこれをすることはできない。

証拠調べに関する決定、つまり採用や却下の決定そのものに対しては、法令違反を理由とする場合に限られます。決定が不相当だという理由だけでは異議を出せません。証拠決定は、裁判所が相手方の意見も聴いたうえで、すでに判断を尽くして出した結論です。それを、あとから不相当だという曖昧な理由で蒸し返せてしまうと、手続がいつまでも安定しません。決定以外の行為、たとえば尋問での質問の仕方などは、法令違反でも不相当でも異議を出せます。たとえば、相手方が誘導尋問をしたとき、規則違反だから法令違反として異議を出すこともできますし、やり方が適切でないという不相当として異議を出すこともできます。ですが、証拠を採用する決定そのものに対しては、違法収集証拠だから、というように法令違反を理由に言うことはできても、採用するのは不当だ、というだけでは異議になりません。異議は、個々の行為や処分、決定ごとに、簡潔に理由を示して直ちに申し立てる必要があります。

職権証拠調べ——当事者主義を補う、例外的な動き

298条2項の職権証拠調べが当事者主義の補充であることを示す板 図:298条2項の職権証拠調べが当事者主義の補充であることを示す板

ここまでは、当事者が請求して、証拠が動いてきました。ですが、裁判所自身が証拠を調べることもできます。

条文刑事訴訟法第298条第2項

刑事訴訟法第298条第2項 裁判所は、必要と認めるときは、職権で証拠調をすることができる。

裁判所は、必要と認めるときは、職権で証拠調べをすることができます。これを職権証拠調べと呼びます。現行法は当事者主義を採っています。検察官と被告人・弁護人が、それぞれの立場から証拠を出し合い、裁判所は第三者として判断する。この役割分担が基本形です。裁判所が最初から自分で証拠を探して出してしまうと、判断する側と証拠を集める側が同じになってしまい、公正さが揺らぎます。だから職権証拠調べは、あくまで当事者の請求という原則を補う、補充的な位置づけです。職権で調べる場合も、検察官の言い分も、被告人や弁護人の言い分も、前もって聴いておく必要があります。

職権証拠調べは義務か——共犯者の供述調書が1人の事件だけ出されなかった例

共犯者らの事件では供述調書が証拠採用されたのに一人の被告人の事件にだけ提出が遺脱していた事案の関係図

少し立ち止まって考えてください。訴因変更命令の回で、裁判所に義務が生じるのは原則ではなく例外的な場合に限られる、という構造を見ましたね。職権証拠調べにも、同じ構造があります。判例で、実際に義務があるとされた場面を見てみます。共犯の関係にある複数の被告人の事件が、併合されたり分離されたりしながら、同じ裁判所で審理されていました。共犯者たちの事件では、検察官に対する供述調書が証拠として提出され、それをもとに有罪の判決が出ていました。ところが、残る一人の被告人の事件にだけ、検察官が不注意で、同じ供述調書を証拠として提出し忘れていました。

最高裁は、このような場合、裁判所には少なくとも検察官に対してその供述調書の提出を促す義務がある、としました。促す義務を尽くさずに、そのまま無罪を言い渡してしまうと、審理を尽くしていないことになり、判決に影響を及ぼす誤りがあるとされます。裁判所が自分から証拠を探しに行く義務ではないことに注意してください。義務があるとされたのは、検察官に対して提出を促す義務です。しかも、他の共犯者の事件では同じ調書が現に証拠として使われ、有罪の根拠にもなっている。にもかかわらず、この被告人の事件だけ提出が抜け落ちていることは、記録を見れば誰の目にも明らかでした。当事者主義を徹底するなら、検察官が請求しない以上は仕方がない、とも言えそうです。ですが、他の共犯者は同じ調書のおかげで有罪になっているのに、この被告人だけ記録上明らかな出し忘れを見過ごして無罪にしてしまえば、審理を尽くしたとは言えません。促すだけならば、当事者主義の建前を壊すことなく、明白な不備を正せます。

今日の地図(保存版)

証拠の3分類と取調べ方式、証拠物たる書面、職権証拠調べの義務性を1枚にまとめる板 図:証拠の3分類と取調べ方式、証拠物たる書面、職権証拠調べの義務性を1枚にまとめる板

今日のまとめです。証拠は、内容に証明力がある書証、存在や状態に証明力がある物証、供述そのものが証拠になる人証に分かれ、それぞれ朗読、展示、尋問という取調べ方式が対応します。証拠物たる書面は書証と物証の両方の性質を持つので、朗読と展示の両方が必要です。検察官の立証が終われば、被告人・弁護人も同じ手続の型で証拠の取調べを請求できます。証拠調べに関する異議は、決定そのものに対しては法令違反のみ、それ以外の行為には法令違反と不相当のどちらも理由にできます。そして職権証拠調べは、当事者主義を補う例外的な仕組みであり、原則として義務はありませんが、明白な提出漏れがあるような場面では、検察官に提出を促す義務が生じることがあります。

内容が証拠になるのか、物としての存在が証拠になるのか。その違いを最初に見極めれば、取調べのやり方は自然に決まる、ということですね。

参照条文

  • 刑事訴訟法第305条第1項
  • 刑事訴訟規則第203条の2第1項
  • 刑事訴訟法第306条第1項
  • 刑事訴訟法第307条
  • 刑事訴訟法第304条第1項
  • 刑事訴訟法第298条第1項
  • 刑事訴訟法第309条第1項
  • 刑事訴訟規則第205条第1項
  • 刑事訴訟法第298条第2項

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