証拠調べの請求と証拠決定
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第4章 公判手続 ⑤/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入:宣言しただけでは、まだ何も証明されていない
図:前回予告の受けと今日の範囲請求と採否までを示す導入板
前回は、冒頭手続と弁論手続を見ました。ただし全部は扱いません。今日進むのは、証拠を請求してから採用か却下かが決まるまでの入口部分です。冒頭陳述で、検察官はもう証明すべき事実を宣言していましたよね。あれだけでは足りないんですか。足りません。宣言は予告にすぎず、証拠として法廷に出すには、1つずつ裁判所に取り調べてほしいと申し出る手続が必要です。答えを先に言うと、流れは、請求する、相手方の意見を聴く、裁判所が決める、の3段です。今日は、この1本の線をたどります。
誰が請求するか——当事者主義とまず検察官
図:請求から意見聴取決定までの3段構えを示す関係図
証拠調べを始めるきっかけは、誰が作るのでしょうか。
条文刑事訴訟法第298条第1項
刑事訴訟法第298条第1項 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調を請求することができる。
現行法は当事者主義を採るので、証拠調べは裁判所が勝手に始めるのではなく、当事者である検察官・被告人・弁護人の請求によって動き出します。冒頭陳述の直後、まず検察官が動きます。
条文刑事訴訟規則第193条第1項
刑事訴訟規則第193条第1項 検察官は、まず、事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調を請求しなければならない。
小出しにはできません。検察官は、事件の審判に必要と認めるすべての証拠の取調べを、まず請求しなければなりません。手持ちの主要な証拠を後出しにせず、最初にまとめて出すのが原則です。追加で必要になった証拠は、弁論が終わるまでいつでも請求を追加できます。ここで、証拠が請求されてから採否が決まるまでの流れを、先に図で見ておきます。検察官Aが証拠を請求し、裁判所Bが相手方Cの意見を聴き、そのうえで裁判所Bが採用か却下かを決める。この3段構えを、今日はこのあと順番に掘り下げていきます。
例外的に、請求が義務になる場合
図:検察官の請求義務が生じる3類型を示す板
通常は、何を請求するかは検察官の裁量です。ただし、請求そのものが義務になる場合が3つあります。中身は個別の回で扱うので、今日は一言ずつだけ触れます。1つ目は、証人が法廷で、検察官の前で話した内容と食い違うことを言ったときの、その検察官の前での調書。2つ目は、裁判員裁判の対象事件などで、取調べで話した内容が本人の自由な意思によるものか争われたときの、その取調べを録音・録画した記録。3つ目は、他人の事件の捜査に協力する代わりに処分を軽くしてもらう合意をしたときの、その合意の中身を書いた書面です。3つとも、その証拠や供述を信用してよいかを判断するのに欠かせない材料です。検察官が自分に都合のよいときだけ出せるとすると、裁判所も被告人の側も公正に判断できなくなるので、出すこと自体を義務にしているのです。
自白調書は、あとから——甲号証・乙号証と301条
図:甲号証が先乙号証の自白調書があとという順序制限を示す板
事前準備の回で、検察官は請求する証拠を2つに分けていました。思い出してください。被告人の供述調書は、甲号証と乙号証のどちらに入っていたでしょうか?乙号証です。被告人の供述調書と、身上・前科関係の証拠が乙号証で、それ以外が甲号証でした。今日はその区別を前提に、請求の順番を見ます。
条文刑事訴訟法第301条
刑事訴訟法第301条 第三百二十二条及び第三百二十四条第一項の規定により証拠とすることができる被告人の供述が自白である場合には、犯罪事実に関する他の証拠が取り調べられた後でなければ、その取調を請求することはできない。
乙号証のうち、自白を内容とする供述調書は、犯罪事実に関する他の証拠、つまり甲号証が取り調べられたあとでなければ請求できません。自白は強い証拠に見えますが、裁判所が自白を先に見てしまうと、それだけで有罪だという先入観を持ちかねません。土台になる状況証拠を積み上げないまま、いきなり自白という重しを乗せると、心証が偏ってしまいます。周りの証拠で組み立てを固めてから、自白を最後に乗せる。この順番を守らせることで予断を避ける。これが1つ目の理由です。もう1つは、事前準備の回でも見た自白の補強法則です。自白だけで有罪にしてはいけないという建前があるので、先に他の証拠で骨組みを固め、自白をそれに裏付けられる側に置くのです。
図:一括請求でも実際の取調べ順序が保たれていれば違反にならないとした判断を示す板
最高裁の判断でも、自白調書とほかの証拠をまとめて一度に請求したという事情だけでは、この順番のルールに違反したことにはならないとされています。書面としては一括して出しても、犯罪事実に関する証拠のあとに自白調書という順で実際に取り調べていれば、違反しません。順番のルールが守ろうとしているのは、請求書面の並び方ではなく、法廷で証拠として現に取り調べる順序だからです。先入観を防ぐという301条の目的からすれば、守るべきなのは取り調べる順番なのです。
立証趣旨とは何か——証拠と証明すべき事実の関係
図:立証趣旨の明示義務と未明示の却下を示す板
証拠の取調べを請求するとき、検察官や弁護人は、ただ証拠の名前だけを挙げるのではありません。
条文刑事訴訟規則第189条第1項
刑事訴訟規則第189条第1項 証拠調の請求は、証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示して、これをしなければならない。
名前だけじゃ、だめなんですか。だめです。証拠調べの請求は、証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示してしなければなりません。この、証拠と証明すべき事実との関係のことを、立証趣旨と呼びます。たとえば被害届を請求するなら「被害状況」というように、その証拠で何を示したいのかを一言添えます。
条文刑事訴訟規則第189条第4項
刑事訴訟規則第189条第4項 前各項の規定に違反してされた証拠調の請求は、これを却下することができる。
立証趣旨が具体的に示されていない請求は、裁判所が却下できます。相手方が意見を述べるにも、裁判所が証拠能力や必要性を判断するにも、まず何を証明しようとしているのかが分からなければ、手がかりがありません。イメージとしては、会議で資料を配るときに「この資料で何を伝えたいか」という一言メモを添えるようなものです。メモがない資料は、配ってよいかの判断がつかず、突き返されることがあります。立証趣旨も同じで、この証拠で何を示すつもりかを、請求の段階で言葉にしておく必要があります。
立証趣旨に、誰が縛られるのか
図:裁判所は拘束されず請求者は拘束されるという非対称を示す板
ここで1つ、立ち止まって考えてほしい問題があります。裁判所は、請求者が示した立証趣旨どおりの結論を出さなければならないのでしょうか。実は、裁判所は立証趣旨に拘束されません。審理を尽くした結果、その被害届が虚偽だったと判断すれば、「被害がなかった状況」を示す証拠として扱うことも、理屈のうえではできます。立証趣旨は、あくまで請求者が「これから立証しようとしている」中身にすぎず、実際にそのとおりの事実が証明されるとは限らないからです。それでも、立証趣旨を示す意味はあります。縛られるのは裁判所ではなく、請求した当事者のほうです。自分で示した立証趣旨に、請求者自身は拘束されます。相手方は、その立証趣旨を前提にして、同意するか、異議を述べるかを決めるからです。あとから別の事実に使えるとなれば、相手方は、意見を述べた前提を崩されてしまいます。「被害状況」を示すために出した証拠を、あとになって別の事実、たとえば被告人の人物像を示すために使うことは許されません。先ほどの会議資料のたとえで言えば、「この資料は経費の話です」と言って配った資料を、あとから急に人事の議論に使うようなことは、認められないということです。請求のときに付けたメモが、次の意見の段階の前提になる。請求・意見・決定の3段は、ここでつながっています。
相手方の意見——同意不同意と異議
図:意見聴取のあとの同意不同意と異議の区別を示す板
請求が出そろうと、裁判所はすぐに採否を決めるわけではありません。まず、相手方の意見を聴かなければなりません。採用されれば自分に不利な証拠が法廷に出てくる側に、その前に言い分を述べる機会を与えるためです。
条文刑事訴訟規則第190条第2項
刑事訴訟規則第190条第2項 前項の決定をするについては、証拠調の請求に基く場合には、相手方又はその弁護人の意見を、職権による場合には、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴かなければならない。
検察官が請求した証拠なら弁護人の側に、逆に裁判所が自分から動いたときは検察官と被告人の側の両方に、意見を聴く決まりです。誰が請求したかによって、意見を聴かれる相手方は入れ替わります。意見の中身は、証拠の種類によって呼び方が違います。
条文刑事訴訟法第326条第1項
刑事訴訟法第326条第1項 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
書面、つまり書証に対しては、事前準備の回で、弁護人が前もって検察官に知らせる証拠意見として名前だけ出てきた、「同意」か「不同意」かという意見が述べられます。同意すれば、本来なら、公判の原則の回で触れた、人づての話をそのまま証拠にすることを禁じる伝聞法則によって証拠にできないはずの書面でも、証拠とできる道が開かれます。同意の中身、なぜ同意すると証拠にできるのかという伝聞法則との関係は、別の回でじっくり扱います。今日は、同意・不同意という意見の種類があることだけ押さえてください。物や証人については、同意不同意とは言わないんですか。言いません。証拠物や証人尋問の請求に対しては、弁護人が「異議がある」「異議がない」という形で意見を述べます。同意は、人づての話を記した書面を、伝聞法則の例外として証拠にしてよいかという話でした。証人は法廷で直接話し、その場で反対尋問ができますし、凶器のような物は、そもそも人の話ではありません。どちらも同意で伝聞法則を外す場面ではないので、請求そのものに異議があるかどうか、という形で意見を述べるのです。今日は、書証には同意不同意、物証・人証には異議の有無、という呼び分けだけ覚えてください。実務では、被告人が事実を認めていて争いがない事件では、検察官が厳選した書証を請求し、弁護人が同意して、そのまま採用されることが多いです。
証拠決定——採用と却下
図:却下されうる3つの理由を示す板
相手方の意見を聴いたあと、裁判所は決定をしなければなりません。
条文刑事訴訟規則第190条第1項
刑事訴訟規則第190条第1項 証拠調又は証拠調の請求の却下は、決定でこれをしなければならない。
決定には、証拠を採用する決定と、請求を却下する決定があります。却下されるのは、そもそも証拠にできない場合、事件との関わりが薄い場合、すでに足りている証拠を重ねて調べようとする場合、の3パターンです。証拠能力・関連性・必要性それぞれの判断の中身は、別の回で1つずつ扱います。今日は、この3つが却下の判断材料になるという枠組みを押さえてください。必要性がないのは、たとえば、同じ事実を証明する証拠がすでに十分に取り調べられていて、追加で調べる意味が乏しい場合です。証拠は厳選すべきだという考え方が根底にあるので、必要性は緩く認められるものではなく、厳しく判断されます。
範囲・順序・方法の決定と、提示命令
図:297条の範囲順序方法と提示命令の位置づけを示す板
採否の決定と、ほぼ同時に行われることが多い手続もあります。
条文刑事訴訟法第297条
刑事訴訟法第297条 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、証拠調の範囲、順序及び方法を定めることができる。
裁判所は、当事者の意見を聴いたうえで、証拠調べの範囲や順序、方法を定めることができます。どの証拠を、どの順番で、どんな形で取り調べるかという、進行の設計です。証拠決定は、個々の証拠を採用するか却下するかという判断です。こちらは、採用された証拠を法廷でどう並べて調べていくかという段取りの判断です。実務では両方を同時に行うことが多いですが、性質は分かれています。
条文刑事訴訟規則第192条
刑事訴訟規則第192条 証拠調の決定をするについて必要があると認めるときは、訴訟関係人に証拠書類又は証拠物の提示を命ずることができる。
もう1つ、証拠の中身を確かめるための手続もあります。裁判所は、証拠決定をするについて必要があると判断したときは、訴訟関係人に対して、証拠書類または証拠物の提示を命ずることができます。提示命令と呼ばれ、証拠能力の有無などを判断するために、必要な限度で証拠の中身を確認するための制度です。
今日の地図(保存版)
図:請求意見決定の3段構えを1本にまとめる板
今日のまとめです。証拠調べは、当事者の請求から始まり、まず検察官がすべての必要な証拠をまとめて請求します。乙号証の自白調書は、甲号証が先に取り調べられたあとでなければ請求できません。請求には、証拠と証明すべき事実との関係、立証趣旨を具体的に示す必要があり、裁判所は立証趣旨に拘束されませんが、請求した当事者は自分の示した立証趣旨に拘束されます。相手方には意見を聴く機会が必ずあり、書証には同意不同意、物証・人証には異議の有無という形で意見が述べられます。そのうえで裁判所が採用か却下かを決定し、範囲・順序・方法も定めます。
請求して、意見を聴いて、決める。この3段階が、今日の1本の線だったんですね。
参照条文
- 刑事訴訟法第298条第1項
- 刑事訴訟規則第193条第1項
- 刑事訴訟法第301条
- 刑事訴訟規則第189条第1項
- 刑事訴訟規則第189条第4項
- 刑事訴訟規則第190条第2項
- 刑事訴訟法第326条第1項
- 刑事訴訟規則第190条第1項
- 刑事訴訟法第297条
- 刑事訴訟規則第192条