交互尋問と誘導尋問
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第4章 公判手続 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入:同じ質問なのに、なぜ一方はダメで一方はよいのか

前回、証人は人定質問を受け、宣誓をして、偽証の罰と証言拒絶権を告げられるところまで見ました。今日は、その証言台に立った証人に、実際にどういう順番で、どんな聞き方で問いを重ねていくのかを見ます。決まっています。それに、聞き方にもルールがあります。たとえば「あなたはその夜、被告人を見ましたね?」という質問。これを、証人を呼んだ検察官が聞けば、ルール違反になります。ところが同じ質問を、弁護人が聞けば許されます。同じ言葉なのに、聞く人が違うだけで扱いが変わるんですか。これが今日の入り口です。答えの形を先に言っておくと、誰が誰に聞くかによって、証人が尋問者に迎合してしまう危険の大きさが変わります。危険が高い場面では聞き方を制限し、危険が低い場面では制限を緩める。今日はこの1本の軸で、尋問の順序・誘導尋問の許否・異議の理由の範囲を見ていきます。
尋問の順序——交互尋問方式(304条)

まず、誰が最初に尋問するかです。
条文刑事訴訟法第304条第1項・第2項・第3項
刑事訴訟法第304条第1項・第2項・第3項 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人は、裁判長又は陪席の裁判官が、まず、これを尋問する。 検察官、被告人又は弁護人は、前項の尋問が終つた後、裁判長に告げて、その証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人を尋問することができる。この場合において、その証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の取調が、検察官、被告人又は弁護人の請求にかかるものであるときは、請求をした者が、先に尋問する。 裁判所は、適当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、前二項の尋問の順序を変更することができる。
以前の回で見た、304条1項です。条文の建前では、裁判長または陪席の裁判官が、まず尋問することになっています。これは、裁判所が事件の真相解明に自ら乗り出していた、当事者主義が徹底する前の名残りです。そこで効いてくるのが3項です。裁判所は、適当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、尋問の順序を変更できます。実務では、この3項を使って、証人尋問を請求した当事者がまず尋問し、その後に相手方が尋問する、という順序が通常の姿になっています。たとえば検察官が目撃者を証人として呼んだなら、まず検察官が聞き、次に弁護人が聞きます。呼んだ側がまず行う尋問を、主尋問、相手方が行う尋問を、反対尋問と呼びます。
必要な限り、再主尋問・再反対尋問と繰り返されます。当事者の尋問がひととおり終わったあとに、裁判所が足りない点を補って尋問することもあり、これを補充尋問と呼びます。裁判官が先に聞くという条文の建前を、当事者主義の運用に読み替えているのが、この交互尋問方式です。
主尋問——誘導尋問はなぜ原則禁止か(規則199条の3)

主尋問には、範囲とやり方の両方にルールがあります。
条文刑事訴訟規則第199条の3第1項・第2項
刑事訴訟規則第199条の3第1項・第2項 主尋問は、立証すべき事項及びこれに関連する事項について行う。 主尋問においては、証人の供述の証明力を争うために必要な事項についても尋問することができる。
1項が、主尋問の範囲です。立証すべき事項と、それに関連する事項について行います。2項のとおり、証明力を争うために必要な事項も尋問できます。ここから、誘導尋問の話に移ります。
条文刑事訴訟規則第199条の3第3項
刑事訴訟規則第199条の3第3項 主尋問においては、誘導尋問をしてはならない。ただし、次の場合には、誘導尋問をすることができる。一 証人の身分、経歴、交友関係等で、実質的な尋問に入るに先だつて明らかにする必要のある準備的な事項に関するとき。二 訴訟関係人に争のないことが明らかな事項に関するとき。三 証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるとき。四 証人が主尋問者に対して敵意又は反感を示すとき。五 証人が証言を避けようとする事項に関するとき。六 証人が前の供述と相反するか又は実質的に異なる供述をした場合において、その供述した事項に関するとき。七 その他誘導尋問を必要とする特別の事情があるとき。
3項が今日の中心です。主尋問では誘導尋問をしてはならない、というのが原則です。尋問者が期待している答えを、質問の中にあらかじめ暗示してしまう聞き方です。「はい」「いいえ」で答えられる聞き方は、誘導尋問になりやすい。冒頭の「あなたはその夜、被告人を見ましたね?」がまさにそれです。「見た」という答えを、質問自体が先に用意してしまっています。主尋問は、自分が呼んだ証人に対して行います。証人には、呼んでくれた側に協力したい、話を合わせたいという気持ちがどうしても働きます。そこに、答えを暗示する聞き方をされると、証人自身の記憶ではなく、尋問者の暗示に沿った言葉が出てしまう危険が高くなります。証人の言葉を、証人自身のものとして届けるために、主尋問では誘導を原則禁止しているのです。
1号は、身分や経歴など、実質的な尋問に入る前の準備的な事項。名前や職業を確認するだけの場面まで、いちいち誘導せずに聞くのは非効率だからです。2号は、争いのないことが明らかな事項。3号は、証人の記憶が明らかでないときの記憶喚起。「あの日は何曜日でしたか、月曜日ではありませんでしたか」のように、思い出す手がかりを与えてよい場面です。4号は証人が敵意・反感を示すとき、5号は証言を避けようとするとき。これらは、証人がもう協力的でなくなっている場面なので、迎合の危険自体が小さくなっています。6号は、前の供述と食い違う証言をしたときのその事項。7号は、その他特別の事情がある場合の受け皿です。どの例外を見ても、共通しているのは「証人が尋問者に迎合してしまう危険が、もともと小さい、または別の理由で誘導が必要になっている場面だ」という点です。原則と例外が、迎合の危険という同じものさしでつながっています。
条文刑事訴訟規則第199条の3第4項・第5項
刑事訴訟規則第199条の3第4項・第5項 誘導尋問をするについては、書面の朗読その他証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法を避けるように注意しなければならない。 裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる。
4項は、誘導尋問をする場合でも、書面を読み上げるなど、証人の供述に不当な影響を及ぼすおそれのある方法は避けなければならない、という注意義務です。5項は、裁判長が誘導尋問を相当でないと認めれば制限できる、という裁判長の裁量です。誘導が許される例外にあたる場面でも、無制限ではないということです。
記憶を喚起する書面の提示——見せてよい場面と見せられない書面

誘導尋問と同じように、答えを教えてしまう危険があるのが、証人に書面や物を見せる場面です。ここにも場面ごとの区別があります。書面・物の成立や同一性を確認するだけなら、裁判長の許可は要りません。たとえば、目の前の調書に書かれた署名が本人のものかどうかを確認する場面です。
条文刑事訴訟規則第199条の11第1項・第2項
刑事訴訟規則第199条の11第1項・第2項 訴訟関係人は、証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、書面(供述を録取した書面を除く。)又は物を示して尋問することができる。 前項の規定による尋問については、書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない。
記憶を喚起するために書面や物を見せるには、裁判長の許可が必要です。しかも、括弧書きに注目してください。「供述を録取した書面を除く」とあります。つまり、過去にその証人が話した内容をそのまま書き取った供述録取書を見せることはできません。過去に話した内容をそのまま読ませてしまうと、証人は「今、自分が覚えていること」ではなく、「前に自分が話した言葉」をなぞって証言してしまいます。これでは、記憶を喚起したのではなく、答えを与えたのと変わりません。記憶喚起として許されるのは、あくまで思い出す手がかりを与えることまでで、答えそのものを見せることではないのです。もう1つ、証人の供述を明確にするために、図面や写真、模型などを示す場面もあります。これも裁判長の許可が必要です。いずれの場面でも、まだ証拠調べを終えていない書面や物を示すときは、あらかじめ相手方に見る機会を与えなければなりません。相手方が異議を述べないときは、その必要はありません。手の内を隠したまま不意打ちで見せることは許されないということです。
反対尋問——なぜ誘導が許されるのか(規則199条の4)

ここで、冒頭の問いに戻ります。「あなたはその夜、被告人を見ましたね?」——検察官が主尋問でこう聞けば誘導尋問ですが、弁護人が反対尋問でこう聞けば許されます。同じ聞き方なのに、なぜでしょうか。
条文刑事訴訟規則第199条の4第1項〜第4項
刑事訴訟規則第199条の4第1項〜第4項 反対尋問は、主尋問に現われた事項及びこれに関連する事項並びに証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行う。 反対尋問は、特段の事情のない限り、主尋問終了後直ちに行わなければならない。 反対尋問においては、必要があるときは、誘導尋問をすることができる。 裁判長は、誘導尋問を相当でないと認めるときは、これを制限することができる。
1項が反対尋問の範囲。主尋問に現れた事項とこれに関連する事項、それに証人の供述の証明力を争うために必要な事項について行います。3項が中心です。反対尋問では、必要があれば誘導尋問をしてよい、と正面から認められています。理由は、主尋問で誘導が禁止される理由の裏返しです。主尋問は、自分が呼んだ証人に対して行うので、証人には尋問者に迎合したいという気持ちが働きやすい。ところが反対尋問は、証人を呼んでいない相手方が行います。証人は反対尋問者に対して迎合する動機がなく、むしろ距離がある関係です。誘導されても、証人自身の記憶と違えば「いいえ、違います」と言い返せる。
つまり、危険が低いから制限をゆるめてよい、ということです。それに、反対尋問の目的は、主尋問で出た証言をそのまま裏付けることではなく、その証言が信用できるかどうかを厳しく吟味することにあります。信用性を崩すには、証人を誘導してでも、矛盾や不合理な点を鋭く突く必要がある場面が多い。だから、迎合の危険が低いことと、信用性を厳しく吟味するという目的の両方から、反対尋問では誘導が許されるのです。もっとも、4項にあるとおり、裁判長が相当でないと認めれば、反対尋問での誘導も制限されます。なお、証人によっては、法廷で証言すること自体が大きな負担になる人もいます。被害者や年少者が付添いを受けたり、遮へいをしたり、ビデオリンク方式で尋問を受けたりする証人保護の措置も用意されていますが、その詳細は別の回で扱います。
異議——証拠調べの進め方に納得がいかないとき

ここまでの尋問のやり方に、相手方が納得できないときはどうするでしょうか。少し思い出してほしいのですが、証拠を採用するかどうかの決定に対する異議は、理由をどこまで広く使えましたか?……法令違反のときだけでしたよね。不相当だという理由だけでは、決定そのものには異議を出せない、という話でした。証拠決定は、裁判所が相手方の意見も聴いたうえで、判断を尽くして出した結論です。それを不相当という曖昧な理由で蒸し返せると手続が安定しない、という理由でしたね。今日は、その枠組みの続きです。決定以外の場面、それに裁判長が単独で行う処分の場面にも、異議のルールが及びます。
異議の2類型——「証拠調に関し」と「裁判長の処分」(309条1項・2項)

条文刑事訴訟法第309条第1項〜第3項
刑事訴訟法第309条第1項〜第3項 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。 検察官、被告人又は弁護人は、前項に規定する場合の外、裁判長の処分に対して異議を申し立てることができる。 裁判所は、前二項の申立について決定をしなければならない。
1項が、証拠調べに関する異議です。冒頭陳述のやり方、証拠調べの請求の方法、範囲・順序・方法の決定、証拠決定、さっき見た誘導尋問や書面の提示のやり方など、証拠調べ手続に関するほぼすべての訴訟行為が対象になります。1項でカバーされない、裁判長が単独で行う処分です。大きく2つあります。1つは訴訟指揮権に基づく処分、たとえば求釈明に応じるかどうかの判断です。もう1つは法廷警察権に基づく処分、たとえば法廷での発言を禁止する措置です。証拠調べそのものではなく、法廷の運営に関わる裁判長の判断が、2項の対象です。
1項と2項は区別してください。1項は証拠調べに関する行為・決定に及ぶ広い受け皿、2項はそれ以外の裁判長の処分に対する、いわば補充的な受け皿です。この対象の違いが、次に見る理由の範囲の違いにもつながります。
異議の理由の範囲——法令違反と不相当(規則205条)

条文刑事訴訟規則第205条第1項・第2項
刑事訴訟規則第205条第1項・第2項 法第三百九条第一項の異議の申立は、法令の違反があること又は相当でないことを理由としてこれをすることができる。但し、証拠調に関する決定に対しては、相当でないことを理由としてこれをすることはできない。 法第三百九条第二項の異議の申立は、法令の違反があることを理由とする場合に限りこれをすることができる。
1項の本文が、証拠調べに関する異議の理由です。法令違反、または不相当のどちらでもよい。ただし但書があって、証拠調べに関する決定に対しては、不相当を理由にすることはできません。ここは前に見たとおりです。たとえば検察官が主尋問で「その夜、被告人を見ましたね?」と聞いたとき、弁護人は、誘導尋問を禁じた規則に反するという法令違反でも、聞き方が適切でないという不相当でも、異議を出せます。ところが、その証人を採用するという決定そのものに対しては、不相当だけでは足りません。2項は、法令違反を理由とする場合に限られます。訴訟指揮権に基づく処分でも、法廷警察権に基づく処分でも同じです。たとえば弁護人が、検察官の主張のあいまいな点をはっきりさせるよう裁判長に求めたのに、裁判長が応じなかった。この判断に異議を出すなら、納得できないというだけでは足りず、どの規定に反するのかを示さなければなりません。理由は、決定のときと同じ発想です。裁判長がその場で判断を下した処分を、「なんとなく不相当だ」という曖昧な理由で蒸し返せてしまうと、法廷の運営がその都度止まってしまいます。だから、はっきりした規則・法令の違反があるときに限って、異議を出せることにしているのです。
証拠決定は判断を尽くした結論だから、裁判長の処分は法廷の運営をその都度止めないために、どちらも理由を法令違反に絞ります。これに対して、尋問の聞き方のような個々の行為は、不相当というだけでも異議で正せます。この対比を押さえておいてください。
異議に対する裁判所の応答——申立ての方式と決定

条文刑事訴訟規則第205条の2
刑事訴訟規則第205条の2 異議の申立は、個々の行為、処分又は決定ごとに、簡潔にその理由を示して、直ちにしなければならない。
異議は、個々の行為・処分・決定ごとに、簡潔に理由を示して、直ちに申し立てなければなりません。あとからまとめて出したり、理由をあいまいにしたまま出したりはできません。異議は、進んでいる手続をその場で正すための仕組みだからです。たとえば誘導尋問に証人が答えてしまってから、しばらくたってまとめて異議を出しても、その答えはもう法廷に出てしまっています。問題の行為ごとに、どこが問題かを短く示して、その場ですぐ申し立てれば、裁判所もすぐ判断でき、審理を長く止めずに済みます。異議の申立てがあると、裁判所は遅滞なく決定をしなければなりません。
条文刑事訴訟規則第205条の6第1項・第2項
刑事訴訟規則第205条の6第1項・第2項 異議の申立を理由があると認めるときは、異議を申し立てられた行為の中止、撤回、取消又は変更を命ずる等その申立に対応する決定をしなければならない。 取り調べた証拠が証拠とすることができないものであることを理由とする異議の申立を理由があると認めるときは、その証拠の全部又は一部を排除する決定をしなければならない。
異議に理由がなければ、棄却しなければなりません。理由があれば、その行為の中止や撤回、取消し、変更を命ずるなど、申立てに対応する決定をしなければなりません。2項は特に重要で、取り調べた証拠がそもそも証拠にできないものだという理由の異議に理由があれば、その証拠の全部または一部を排除する決定をしなければなりません。異議は言いっぱなしで終わらず、必ず裁判所の応答を受ける仕組みになっています。
今日の地図(保存版)

今日のまとめです。尋問は、304条の建前を当事者主義に読み替えて、請求した側の主尋問、相手方の反対尋問、必要なら再主尋問、最後に裁判所の補充尋問という順序で進みます。主尋問では、証人が尋問者に迎合する危険が高いので誘導尋問を原則禁止し、危険が小さい7つの場面だけ例外を認めます。反対尋問では、その危険が低く、信用性を厳しく吟味する必要があるので誘導が許されます。証拠調べの進め方に納得できないときは、証拠調べに関する異議と、裁判長の処分に対する異議の2類型があり、決定と裁判長の処分は理由が法令違反のみに絞られ、それ以外の行為は法令違反・不相当のどちらも使えます。
誰が聞くかで迎合の危険が変わり、その危険の大きさに応じて聞き方や異議のルールが決まる。ここまで、ずっと同じものさしで説明できるんですね。
参照条文
- 刑事訴訟法第304条第1項・第2項・第3項
- 刑事訴訟規則第199条の3第1項・第2項
- 刑事訴訟規則第199条の3第3項
- 刑事訴訟規則第199条の3第4項・第5項
- 刑事訴訟規則第199条の11第1項・第2項
- 刑事訴訟規則第199条の4第1項〜第4項
- 刑事訴訟法第309条第1項〜第3項
- 刑事訴訟規則第205条第1項・第2項
- 刑事訴訟規則第205条の2
- 刑事訴訟規則第205条の6第1項・第2項