証人適格と証言拒絶権
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第4章 公判手続 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入:いちばん詳しい人が、なぜ証人になれないのか
図:被告人と証人という2つの席の違いを問いとして立てる導入板
前回、人証は尋問で取り調べる、というところまで見ました。証人や鑑定人が証言台に立って、その場で話してもらう手続でしたね。では、その証言台に立つ「証人」とは、いったい誰のことでしょう。事件のことをいちばんよく知っているのは、被告人本人のはずです。それなのに、被告人を自分の事件の証人として証言台に立たせることはできません。なぜだと思いますか。この「なぜ証人になれないのか」という問いが、今日の入り口です。先に答えの形だけ言っておきます。証人とは、出頭・宣誓・証言という義務を負わされる人で、その義務を拒めるのは条文が挙げた理由のときだけです。黙っていてよい被告人には、この義務を負わせられません。今日はこの1本の軸で、誰が証人になれるか、どんな義務を負うか、いつ拒めるかを見ていきます。
被告人質問と証人尋問のちがい
図:311条の被告人質問と証人尋問を宣誓の有無・義務の有無で対比する板
被告人にも、法廷で話す機会があります。これを被告人質問と呼びます。
条文刑事訴訟法第311条第1項〜第3項
刑事訴訟法第311条第1項〜第3項 被告人は、終始沈黙し、又は個々の質問に対し、供述を拒むことができる。 被告人が任意に供述をする場合には、裁判長は、何時でも必要とする事項につき被告人の供述を求めることができる。 陪席の裁判官、検察官、弁護人、共同被告人又はその弁護人は、裁判長に告げて、前項の供述を求めることができる。
まず1項です。被告人は終始沈黙してよいし、個々の質問に答えなくてもよい。これが黙秘権です。2項は、被告人が任意に話す場合には、裁判長がいつでも必要な事項を尋ねられるということ。3項は、陪席の裁判官、検察官、弁護人なども、裁判長に告げれば同じように尋ねられるということです。この2項・3項の進め方が、前回予告した被告人質問のやり方そのものです。大きく3つ違います。1つ目、証人には宣誓させますが、被告人質問には宣誓がありません。2つ目、証人には出頭・宣誓・証言の義務がありますが、被告人には供述する義務がありません。1項が保障するとおり、いつでも黙っていてよいのです。3つ目、証人が宣誓のうえで嘘をつけば偽証罪になりますが、被告人質問にはそもそも宣誓がないので偽証罪も成立しません。
もう1つ大事な違いがあります。証人尋問は、証拠として採用するかどうかを裁判所が決定してから行う、証拠調べ手続の一部です。ところが被告人質問は、証拠調べ手続そのものには含まれません。被告人が任意に供述する場を、証拠調べとは別枠で設けているのです。もっとも、そこで被告人が任意に話したことは、有利にも不利にも証拠になります。
被告人はなぜ自分の事件の証人になれないか

被告人を自分の事件の証人にできない理由は、先ほどの311条1項から見えてきます。1項は、被告人はいつでも黙っていてよい、という権利を保障しています。この黙秘権は、捜査の段階でも見た、供述を拒める権利と同じものです。もし被告人を証人として証言台に立たせると、どうなりますか。証人には、出頭・宣誓・証言の義務があります。出頭・宣誓・証言という証人の義務を負わせることは、黙っていてよいはずの被告人に話す義務を課すことになり、黙秘権という保障そのものと真正面からぶつかります。だから、被告人は自分の事件については証人になれないと考えるのが通説です。被告人に不利益な扱いを強いることになってしまうからです。
英米法では、被告人が黙秘権を放棄して、自分の事件の証人になることが認められています。日本でも、立法によってこれを認めてよいのではないかという議論はあります。ただし、現行法の解釈としては、被告人には証人適格がないというのが現在の到達点です。ここは判例のない、解釈上の通説として押さえておいてください。
証人適格の原則——何人でも
図:143条の何人でもという原則と職務上の除外者・幼児の扱いを示す板
ここからは、被告人以外の話です。証人になれるのは誰でしょうか。
条文刑事訴訟法第143条
刑事訴訟法第143条 裁判所は、この法律に特別の定のある場合を除いては、何人でも証人としてこれを尋問することができる。
「何人でも」証人にできる。これが原則です。ただし「特別の定のある場合を除いては」とあるとおり、例外もあります。その事件を担当する裁判官や裁判所書記官、検察官、弁護人は、その役目についたままでは証人になれないと整理されています。たとえば裁判官が証人になるなら、その事件からは外れることになります。役割が重なってしまうからです。幼児であっても、証人になること自体はできます。証人適格そのものは、年齢では失われません。ただし、宣誓させられるかどうかは別問題です。これはあとの、証人の義務のところで見ます。ここで区別してほしいのは、証人になれるかという資格の話と、宣誓させられるかという別の話を混同しないことです。
推測した事項の証言

証人が話してよい内容についても、条文があります。
条文刑事訴訟法第156条第1項・第2項
刑事訴訟法第156条第1項・第2項 証人には、その実験した事実により推測した事項を供述させることができる。 前項の供述は、鑑定に属するものでも、証言としての効力を妨げられない。
証人が自分の体験した事実をもとに推測したことは、証言として話させてよいということです。たとえば、事故の音を聞いた証人が「あの音は、かなりのスピードで衝突した音だと思う」と話すのは、自分が体験した事実、つまり音を聞いたことに基づく推測なので証言になります。体験していないことを想像で話すのはどうですか。それは証拠になりません。体験に基づかない単なる想像や、個人的な意見は、事件との関連性がないからです。たとえば、事故を見ていないのに「Aさんが犯人に違いない」という感想だけを述べるのは、体験していない単なる想像なので証拠になりません。2項は、この推測に基づく供述が、専門家の鑑定に近い性質を持っていたとしても、証言としての効力を失わないと定めています。境目は、あくまで自分が体験した事実が土台にあるかどうかです。
公務上の秘密——証人適格のもう1つの例外
図:144条145条による公務員及び議員大臣の証人適格の制限と承諾の要否を示す板
143条の「特別の定」に当たる、もう1つの例外があります。
条文刑事訴訟法第144条
刑事訴訟法第144条 公務員又は公務員であつた者が知り得た事実について、本人又は当該公務所から職務上の秘密に関するものであることを申し立てたときは、当該監督官庁の承諾がなければ証人としてこれを尋問することはできない。但し、当該監督官庁は、国の重大な利益を害する場合を除いては、承諾を拒むことができない。
公務員や、かつて公務員だった人が、職務上の秘密に関することだと申し立てたときは、監督官庁が承諾しなければ証人として尋問できません。もっとも、但書があって、監督官庁は、国の重大な利益を害する場合を除いては、承諾を拒めません。つまり、無条件で拒否できるわけではないのです。
条文刑事訴訟法第145条第1項
刑事訴訟法第145条第1項 左に掲げる者が前条の申立をしたときは、第一号に掲げる者についてはその院、第二号に掲げる者については内閣の承諾がなければ、証人としてこれを尋問することはできない。一 衆議院若しくは参議院の議員又はその職に在つた者 二 内閣総理大臣その他の国務大臣又はその職に在つた者
衆参の議員なら自分の院、内閣総理大臣その他の国務大臣なら内閣の承諾が必要です。こちらにも同じ但書があって、国の重大な利益を害する場合を除いては承諾を拒めません。真実を発見するという刑事訴訟法の目的と、公務上の秘密を守るという国家的な利益とを、承諾という手続で調整しているわけです。この144条と145条は、あとで証言拒絶権の話をするときにもう一度出てきます。
証人の3つの義務——出頭・宣誓・証言
図:出頭宣誓証言という3義務とそれぞれの制裁を一覧にした板
証人になった人には、3つの義務があります。出頭、宣誓、証言です。
条文刑事訴訟法第152条
刑事訴訟法第152条 裁判所は、証人が、正当な理由がなく、召喚に応じないとき、又は応じないおそれがあるときは、その証人を勾引することができる。
まず出頭義務です。呼び出しに応じない証人は、勾引、つまり身柄を強制的に連れてくることができます。正当な理由がないのに出頭しなければ、過料、つまり刑罰ではない、お金を納めさせる制裁や、それによって生じた費用の賠償を命じられ、さらに1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という刑罰まで用意されています。
条文刑事訴訟法第154条
刑事訴訟法第154条 証人には、この法律に特別の定のある場合を除いて、宣誓をさせなければならない。
次に宣誓義務です。証人には、原則として宣誓をさせなければなりません。
条文刑事訴訟法第155条第1項・第2項
刑事訴訟法第155条第1項・第2項 宣誓の趣旨を理解することができない者は、宣誓をさせないで、これを尋問しなければならない。 前項に掲げる者が宣誓をしたときでも、その供述は、証言としての効力を妨げられない。
ただし、宣誓の趣旨を理解できない者、たとえば幼い子どもは、宣誓させずに尋問します。さっき保留にした幼児の話は、ここにつながります。幼児にも証人適格はあるけれど、宣誓の意味が分からない年齢なら、宣誓なしで話を聞くのです。2項は、もし理解できない者が宣誓してしまっても、その供述は証言として使えなくなるわけではない、という手当てです。宣誓を拒めば、出頭のときと同じように、過料や費用の賠償、さらに1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金が科されます。
条文刑法第169条
刑法第169条 法律により宣誓した証人が虚偽の陳述をしたときは、三月以上十年以下の拘禁刑に処する。
宣誓したあとに嘘をついたら、どうなるんですか。それが偽証罪です。宣誓した証人が虚偽の陳述をすれば、3月以上10年以下の拘禁刑という、かなり重い刑罰が科されます。宣誓なしの被告人質問に偽証罪がないのと対照的です。証言義務そのものを正当な理由なく拒んだ場合にも、宣誓拒否と同じ過料・費用賠償・刑罰が科されます。出頭・宣誓・証言、この3つの義務は、それぞれ強制と刑罰で裏打ちされているのです。
証言拒絶権の4類型——プライバシーでは拒めない

ここまでの義務は、絶対ではありません。証言を無理に求めると、自分を罪に落とす、家族を罪に落とす、仕事で預かった秘密を漏らす、国の秘密を漏らす、という別の大事な利益とぶつかる場面が出てきます。そこにだけ、条文が「拒んでよい」という穴を空けています。これが証言拒絶権です。1つの場面で考えましょう。Aさんが傷害事件で起訴されました。証人として呼ばれたのは、現場でAさんと一緒にいた友人のBさん、Aさんの兄のCさん、Aさんのけがを手当てした医師のDさん、そしてAさんの親友のEさんです。
条文刑事訴訟法第146条
刑事訴訟法第146条 何人も、自己が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。
1つ目、自己負罪拒否特権です。自分が刑事訴追を受けたり、有罪判決を受けたりするおそれのある証言は、拒むことができます。これは、何人も自己に不利益な供述を強要されないという憲法上の権利に基づくものです。証人であっても、自分を罪に落とすことまでは強制されません。Bさんが「実は自分も一緒に殴った」と話せば、自分が訴追されかねません。だからBさんは、その部分の証言を拒めます。
条文刑事訴訟法第147条
刑事訴訟法第147条 何人も、左に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができる。一 自己の配偶者、三親等内の血族若しくは二親等内の姻族又は自己とこれらの親族関係があつた者 二 自己の後見人、後見監督人又は保佐人 三 自己を後見人、後見監督人又は保佐人とする者
2つ目は近親者の場合です。配偶者や、三親等内の血族、二親等内の姻族、つまり配偶者の血族や、自分の血族の配偶者などが刑事訴追や有罪判決を受けるおそれがあるときも、証言を拒めます。身分関係を壊してまで証言を強制するのは、法の目的にそぐわないという考え方です。兄のCさんは二親等の血族なので、Aさんが訴追・有罪になるおそれのある証言を拒めます。親友のEさんは拒めません。147条が挙げるのは親族と後見の関係だけで、どれほど親しくても友人は入っていません。境目は、仲の深さではなく、条文が挙げた関係かどうかです。ここで少し、捜査の章で扱った制度を思い出してほしいのですが、証言拒絶権を行使されると、必要な証言がどうしても得られない場面がありましたね。あのとき、それに対処するために用意されていた制度は何でしたか?
……刑事免責、でしたよね。証人に免責を与える代わりに、証言を義務づける制度でした。146条の拒絶権そのものを失わせる、157条の2・157条の3の制度でしたね。先に、残りの類型を見ましょう。

条文刑事訴訟法第149条
刑事訴訟法第149条 医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。
3つ目は業務上の秘密です。患者や依頼者が、秘密を安心して打ち明けられるという、その職業への信頼を守るためです。医師のDさんが、治療の中でAさんから聞いた打ち明け話がこれに当たります。医師や弁護士、宗教の職にある人などが、業務上委託を受けて知った他人の秘密については、証言を拒めます。もっとも、但書があって、本人が承諾した場合や、証言拒絶が被告人のためだけにする権利の濫用だと認められる場合には、拒めません。無制限の秘匿ではないのです。そして4つ目は、さきほど見た144条・145条の公務上の秘密です。監督官庁や、議院・内閣の承諾がなければ証言できないという場面は、裏を返せば、証人の側からも証言を拒める理由になります。
図:4類型の列挙にプライバシーは無くそれだけを理由には証言を拒めないことを示す板
そこで、もう1つ問いを立てます。Eさんが「事件の夜、人に知られたくない相手と会っていたので、その話はしたくない」と言ったら、プライバシーを理由に証言を拒めるでしょうか。うーん……4つの中には、プライバシーという言葉は出てきませんでした。146条、147条、149条、いずれの列挙にも当たりません。証言拒絶権は、条文が個別に定めた理由に限られる仕組みです。列挙にない理由では、原則、つまり証言義務のほうに戻ります。プライバシーを理由とする証言拒絶は、認められません。
法廷での実演——人定質問から宣誓、そして告知まで
図:人定質問宣誓偽証の罰の告知証言拒絶権の告知という順番で進む法廷の流れを示す板
ここまでの条文が、実際の法廷でどう機能するか、順を追って見てみましょう。証人が証言台に着くと、まず裁判長が氏名を尋ね、証人カードで生年月日や職業、住所を確認します。これを人定質問と呼びます。次に宣誓です。証人に宣誓書を朗読させます。「良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないことを誓います」という内容です。これが、さっき見た154条の宣誓義務の場面そのものです。宣誓のあと、裁判長は、嘘をつけば偽証罪に問われることを証人に告げます。偽証の罰の告知です。そして、証言拒絶権があることも告げます。証言拒絶権の告知です。
義務と、その例外である拒絶権を、両方その場で証人に知らせる。これが今日見てきた条文の構造を、そのまま法廷の手続に落とし込んだものです。
今日の地図(保存版)
図:被告人質問との違い証人適格3つの義務証言拒絶権4類型を1枚にまとめる板
今日のまとめです。被告人は、黙秘権を保障されているので、自分の事件については証人になれません。被告人以外の人には、原則として何人にも証人適格があり、事件を担当する裁判官・書記官・検察官・弁護人は、その役目のままでは証人になれません。証人には出頭・宣誓・証言という3つの義務があり、それぞれ勾引や過料、拘禁刑・罰金、偽証罪で担保されています。そして、この義務を拒めるのは、146条の自己負罪、147条の近親者、149条の業務上秘密、144条・145条の公務上秘密という、条文が個別に定めた4類型に限られます。プライバシーのような、条文に列挙されていない理由では拒めません。
証人という地位は、「何人でも」という原則から始まって、義務を負わせて、そのうえで条文が定めた穴だけを空ける、という組み立てなんですね。
参照条文
- 刑事訴訟法第311条第1項〜第3項
- 刑事訴訟法第143条
- 刑事訴訟法第156条第1項・第2項
- 刑事訴訟法第144条
- 刑事訴訟法第145条第1項
- 刑事訴訟法第152条
- 刑事訴訟法第154条
- 刑事訴訟法第155条第1項・第2項
- 刑法第169条
- 刑事訴訟法第146条
- 刑事訴訟法第147条
- 刑事訴訟法第149条