裁判の確定と一事不再理(憲法39条・二重の危険)
判決の確定で生まれる3つの力(形式的確定力・実質的確定力・執行力)と、憲法39条が禁じる二重の危険(一事不再理効)の意味・範囲を整理します。
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第5章 裁判・救済 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
1. 判決の確定とは 〔短答・論文共通〕
図:判決の確定の意味と再審の位置づけ
判決が言い渡されても、すぐに刑が執行されるわけではありません。通常の不服申立て手段で、もう争えなくなった状態——これを確定判決と呼びます。固定されて動かなくなった判決です。
例外が再審です。確定後でも、冤罪の疑いがあれば特別の手続でやり直せます。ただしこれは通常の不服申立てとは別の話であり、確定の「例外的な解消」と位置づけます。
2. いつ確定するか——3つのパターン 〔短答〕
確定するタイミングは次の3つです。
- 上訴期間が経過したとき。控訴期間は14日です。期間内に何もしなければそこで確定します。
- 上訴の放棄・取下げ。まだ争っていない段階で権利を捨てることが放棄、いったん争い始めてから撤回することが取下げです。
- 上告審の判決。最高裁の上はないため、上告審が判決を言い渡した瞬間に確定します。
3. 確定力——3つの力 〔論文〕
図:形式的確定力・実質的確定力(既判力・一事不再理効)・執行力の概念図
判決が確定すると、次の3つの力が生まれます。
| 確定力の種類 | 内容 |
|---|---|
| 形式的確定力 | もう上訴で争えない。その手続の中で結論が固定される。 |
| 実質的確定力(既判力・一事不再理効) | 別の裁判で蒸し返すこともできなくなる。これが核心です。 |
| 執行力 | 刑を強制的に実現できる力。確定して初めて、刑務所収容や罰金徴収が可能になります。 |
4. 一事不再理効と憲法39条 〔論文〕
図:憲法39条全文カード(後段が一事不再理の根拠)
【条文】憲法39条(刑事上の責任) 何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。
一事不再理効とは、確定判決が生じることで、同じ事件の再起訴・再審判が許されなくなる効力です。有罪でも無罪でも、一度確定したら二度と問われません。
根拠は憲法39条後段——二重の危険の禁止です。国家は強大であり、負けても何度も裁き直せるなら、市民はいつまでも処罰の恐怖にさらされ続けます。その不均衡を防ぐための保障です。
5. 再起訴されたら——免訴(337条1号) 〔短答・論文共通〕
図:刑訴337条全文カード(免訴の4事由)
【条文】刑事訴訟法337条(免訴の言渡し) 左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。 一 確定判決を経たとき。 二 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。 三 大赦があったとき。 四 時効が完成したとき。
一事不再理のルールを無視して再起訴が行われた場合、裁判所は中身(実体)を審理せずに手続を打ち切ります。これが免訴判決です。確定判決があれば、337条1号に基づいて免訴の言渡しをします——門前払いで手続を終わらせる処理です。
6. 効力が生じる裁判・生じない裁判 〔論文〕
図:実体裁判と形式裁判の振り分け——一事不再理効が生じるか否かの軸
確定すれば全部に効力が生じるわけではありません。
- 効力が生じる:有罪判決・無罪判決。クロかシロかの結論を出した実体裁判です。二重の危険が当てはまります。
- 効力が生じない:管轄違いと公訴棄却。「あなたは無実だ」と言ったわけではなく、被告人は実体の危険にさらされていません。
軸は一つ——実体の危険をくぐったか否か、です。
7. 免訴の法的性質——形式裁判なのに例外的に効力あり 〔論文〕
図:免訴が形式裁判でありながら一事不再理効を生じさせる根拠
免訴の性質は論点になります。たとえば時効完成を理由とする免訴を考えます。
通説:免訴は形式裁判です。理由は、無実の人でも時効が来れば免訴になる——犯罪があったと認定するのは無実の可能性と矛盾するからです。
ところが、一事不再理効は例外的に生じます。根拠は2つ。
- 被告人は一度、処罰の危険にさらされた——憲法39条の趣旨が及ぶ。
- 法律は免訴を無罪と同じように扱っている(費用負担・再審の事由でも区別しない)。
したがって再起訴されても、今度は337条1号(確定判決)で免訴となります。
8. 客観的範囲——公訴事実の同一性 〔論文〕
図:一事不再理効の及ぶ客観的範囲と「訴因変更で追えた範囲」の対応
効力がどこまでの事実に及ぶかが客観的範囲の問題です。
たとえば、常習賭博で有罪が確定した後、裁判中に隠れて行っていた別の賭博が発覚したとします。この場合、再起訴はできません。
一事不再理効は、訴因に記載した事実だけでなく、公訴事実の同一性の及ぶ範囲の事実全体に及びます。
根拠は次の連鎖です。
- その範囲なら検察官は訴因変更で追及できた。
- だから被告人は、その範囲で処罰の危険にさらされていた。
- 危険をくぐった以上、後出しの再起訴は二重の危険にあたる。
一部の訴因が確定すれば、公訴事実の同一性の及ぶ範囲全体に効力が及びます。
9. 単一性の判断基準——訴因か実体か 〔論文〕
図:単一性判断基準——訴因基準説(判例)と実体基準説の比較
応用問題として、実際には常習犯なのに単純窃盗で起訴された場合を考えます。前の裁判でも今回の裁判でも、検察官は「常習」と訴因に書いていません。これは一個の事件か、別々の事件か。
判例は訴因を基準とします——各訴因のみで単一性を判断します。当事者主義の要請から、審判の対象は検察官が提示した訴因であり、裁判所が「本当は常習だ」と独自に認定することはできません。
結論:新たな窃盗事件を起訴できます。前の判決の一事不再理効は及びません。
10. 主観的範囲・時間的範囲 〔短答・論文共通〕
図:主観的範囲(被告人のみ)・時間的範囲(第一審判決時を原則基準)
覚えるポイント — 主観的・時間的範囲
- 主観的範囲:効力は被告人本人のみ。共犯者Aが無罪でもBは免れません(相対効)。
- 時間的範囲(原則):第一審判決の宣告時を基準とします。それより前の事実は前の裁判に含まれます。
- 例外:控訴審が破棄自判したときは、控訴審の判決時まで延びます。そこまでは検察官が訴因変更で追加できたからです。後出しジャンケンは認めません。
📝 論文の型
図:一事不再理効の客観的範囲——規範カード
図:一事不再理効——答案の型(問題提起→規範→あてはめの流れ)
一事不再理効の客観的範囲
一事不再理効は、訴因記載の事実だけでなく、公訴事実の同一性の及ぶ範囲の事実全体に及ぶ。
根拠:憲法39条の二重の危険の禁止。危険の範囲=検察官が訴因変更で追及できた範囲=公訴事実の同一性の範囲。
答案の流れは、前訴と後訴が公訴事実の同一性の範囲内かどうかを判定し、範囲内であれば一事不再理効により再訴は許されない(337条1号で免訴)と結論づけます。
短答ひっかけ
- 控訴期間は14日(7日ではない)。上告も同じく14日。
- 管轄違い・公訴棄却には一事不再理効が生じない——中身の審判を受けていないため。
- 免訴は形式裁判だが、例外的に一事不再理効が生じる(形式裁判だからといって効力ゼロではない)。
- 主観的範囲は相対効——共犯者の一人が無罪確定でも、他の共犯者の再起訴に影響しない。
- 時間的範囲の原則は第一審判決時——控訴審が破棄自判したときのみ控訴審判決時に延びる。
- 単一性の判断基準は訴因(判例)——実体が常習一罪でも、訴因に常習と書いていなければ別個の訴因として再起訴可。
今日の地図(保存版)
図:第5章①のまとめ地図——確定→3つの力→一事不再理効→範囲の流れ
- 判決の確定=通常の不服申立てで争えなくなった状態。
- 確定で生まれる3つの力:形式的確定力・実質的確定力(既判力・一事不再理効)・執行力。
- 根拠は憲法39条後段——二重の危険の禁止。
- 効力は実体裁判(有罪・無罪)に生じ、形式裁判(管轄違い・公訴棄却)には生じない。免訴は例外。
- 再起訴されたら337条1号で免訴(門前払い)。
- 客観的範囲は公訴事実の同一性の及ぶ範囲全体(訴因変更で追えた範囲)。
- 主観的範囲は被告人のみ(相対効)。時間的範囲は第一審判決時が原則。
次回は#34「上訴」。確定する前に上の裁判所へ不服を申し立てる手続——上訴の利益や不利益変更の禁止も扱います。
参照条文
- 憲法39条(刑事上の責任)
- 刑事訴訟法337条(免訴の言渡し)