刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#34

上訴総論(控訴・上告・抗告/上訴の利益・不利益変更禁止)

上訴の意義・種類・要件(上訴権者・上訴の利益)・効果(確定遮断効・移審効)と、不利益変更禁止の原則(402条)の趣旨・射程・判断基準を整理する。

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第5章 裁判・救済 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

1. 上訴とは 〔短答・論文共通〕

上訴の全体像を示した黒板 図:上訴の定義・位置づけを整理した板書

上訴とは、未確定の裁判に対して上級裁判所へ是正(取消し・変更)を求める不服申立てです。確定した裁判はもはや争えません。しかし確定前、すなわち上訴期間中であれば、結論をひっくり返す可能性がまだ残ります。上訴は「救済の入口」として機能します。

2. 上訴の種類——何に不服を言うか 〔短答〕

上訴の種類と行き先を示した黒板 図:控訴・上告・抗告・準抗告の分類と行き先

何に不服を言うかによって上訴の名称と行き先が決まります。

判決に対する不服申立て

  • 第一審の判決(地裁・簡裁)に対しては 控訴。行き先は高裁(372条)。

刑事訴訟法372条(控訴)

  • 控訴審の判決に対しては 上告。最高裁へ(405条)。上告理由は憲法違反・判例違反に限られ、事実誤認では原則として認められません。

刑事訴訟法405条(上告の理由)

決定に対する不服申立て:抗告。口頭弁論を要しない簡易な手続です。

3. なぜ「準」抗告なのか 〔短答・論文共通〕

準抗告の仕組みを示した黒板 図:準抗告と抗告の違い・申立て先の比較

命令は裁判官一人が出すもの(勾留・保釈却下等)です。上の裁判所ではなく、その裁判官が所属する裁判所の合議体に申し立てます(簡裁裁判官の場合は管轄地裁へ)。上級審への上訴とは性質が異なるため「準」抗告と呼びます。

4. 要件①——誰が上訴できるか(上訴権者) 〔短答・論文共通〕

上訴権者の範囲を示した黒板 図:上訴権者の一覧と法的根拠

刑事訴訟法351条1項(上訴権者)

上訴権者の原則は当事者——検察官と被告人です。加えて、法定代理人・保佐人(353条)および原審の弁護人(355条)も上訴できます。判決宣告後に選任された弁護人でも上訴期間内なら「原審の弁護人」に含まれます(判例)。

検察官は被告人の利益のためにも上訴できます。公益の代表者として、重すぎる刑の是正を求めることができます。

5. 要件②——上訴の利益 〔論文〕

上訴の利益の考え方を示した黒板 図:上訴の利益の要否と形式裁判を受けた場合の処理

不服だけでなく回復すべき法律上の利益が必要です。原則として自分に有利な変更を求める場合に利益があります。

公訴棄却・免訴の形式裁判を受けた被告人は、すでに処罰を免れています。それ以上「無罪という名誉」だけを求めても法律上の利益にはあたらないとされ、上訴の利益を欠きます。

6. 上訴権の発生・消滅・放棄 〔短答〕

上訴の期間と放棄・取下げを示した黒板 図:上訴期間と放棄・取下げの区別

  • 発生:裁判の告知時(判決なら宣告のとき)
  • 消滅:期間の経過、または放棄・取下げ
  • 期間:控訴・上告は 14日、即時抗告は 3日(初日不算入・55条1項)
  • 放棄:上訴前に上訴権を捨てること(書面)
  • 取下げ:上訴後に撤回すること(書面)
  • 再上訴は不可(361条)
  • 例外:死刑・無期拘禁刑の判決は放棄禁止(360条の2)

7. 上訴の効果——確定遮断効と移審効 〔論文〕

刑事訴訟法357条(一部上訴)

適法に上訴すると2つの効果が生じます。

  1. 確定遮断効:裁判の確定と執行が止まります。
  2. 移審効:審理の権限が上級審へ移ります。記録は原裁判所から上級審へ送られます。

一部上訴(357条)も可能です。効果が及ばなかった部分は先に確定します(判例)。

8. 不利益変更禁止の原則 〔論文〕

不利益変更禁止の原則を示した黒板 図:402条の射程と例外(検察官上訴の扱い)

刑事訴訟法402条(不利益変更の禁止)

被告人が控訴した事件では、控訴審は原判決より重い刑を言い渡せません(402条)。

趣旨:上訴権の実質的保障——「文句を言ったら刑が増える」という萎縮を防ぐ。

「被告人のため」の意味:被告人側の上訴代理権者(弁護人等)を指します。公益の代表者たる検察官は含まれません。よって検察官が上訴した事件では原則は適用されず、重い刑を言い渡せます(最大のひっかけ)。

9. 何をもって「重い」と見るか——判断基準 〔短答・論文共通〕

不利益変更の判断基準を示した黒板 図:宣告刑の軽重で比較するという判例の立場

罪名や事実認定の悪化ではなく、最終的な宣告刑(主文の刑) で比較します。判例は刑を全体的・実質的に見て軽重を判断します。

例:一審が罰金。被告人だけが控訴。控訴審でより悪質な事実が認定されても、刑が罰金のままなら不利益変更にはあたりません。

まとめ——確定前の救済 〔まとめ〕

まとめを示した黒板 図:上訴総論の全体まとめ板書

上訴は確定前の不服申立て。何に不服かで、控訴・上告・抗告・準抗告に分かれます。上訴の要件は①上訴権者であること②上訴の利益があること。効果は確定遮断効と移審効。被告人側の上訴なら重い刑は言い渡せない(402条)。判断は主文の宣告刑を全体的・実質的に比較します。


短答ひっかけ

  • 不利益変更禁止の「被告人のため」に検察官は含まれない→検察官上訴では重くできる。
  • 上告の理由は憲法違反・判例違反のみ(405条)。事実誤認での上告は原則不可。
  • 即時抗告の期間は3日(控訴・上告の14日と区別)。
  • 死刑・無期拘禁刑の上訴は放棄禁止(360条の2)。
  • 準抗告の申立て先は上級裁判所ではなく合議体(または地裁)。
  • 形式裁判(公訴棄却・免訴)を受けた被告人は原則として上訴の利益を欠く。
  • 一部上訴で効力の及ばない部分は先に確定する(357条・判例)。

📝 論文の型

論文の型——不利益変更禁止(規範カード) 図:不利益変更禁止の論文規範カード

論文の型——不利益変更禁止(答案の型) 図:不利益変更禁止の答案構成カード

不利益変更禁止の原則(402条)

【問題提起】
被告人のみが控訴した本件で、控訴審が原判決より重い刑を言い渡すことができるか。
402条の趣旨・射程が問題となる。

【規範】
402条は、被告人の上訴権を実質的に保障する趣旨の規定である。
「被告人のため」とは、被告人側の上訴代理権者(弁護人等)を指し、
公益の代表者たる検察官による上訴は含まれない。
重い刑か否かは、宣告刑(主文の刑)の軽重を全体的・実質的に比較して判断する。

【あてはめ】
本件では被告人のみが控訴しており、402条の射程内にある。
よって控訴審は原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。
(検察官も上訴していれば402条の対象外となり重くできる。)

今日の地図(保存版)

次回予告を示した黒板 図:次回「控訴審のしくみ」への接続

  • 上訴=確定前の裁判に対して上級裁判所へ是正を求める不服申立て。
  • 判決→控訴(高裁)・上告(最高裁)。決定→抗告。命令→準抗告(合議体)。
  • 要件:①上訴権者(当事者+法定代理人・保佐人・弁護人)②上訴の利益。
  • 形式裁判を受けた者は原則として上訴の利益を欠く。
  • 期間:控訴・上告14日、即時抗告3日。初日不算入。
  • 死刑・無期は放棄不可(360条の2)。
  • 効果:確定遮断効+移審効。
  • 402条:被告人側の上訴→重い刑は言い渡せない。検察官上訴は対象外。
  • 判断基準:主文の宣告刑を全体的・実質的に比較。

次回は #35「控訴審のしくみ」。高裁が一審判決をどのように審理し直すのか、控訴理由や上告理由405条も扱います。

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