証拠の分類と立証の構造
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第5章 証拠法 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入

伝聞法則は、証拠なら何にでも当てはまるわけではありません。適用されるかどうかは、証拠の中身次第で決まります。今日はその、証拠の中身を見分ける分類に入ります。名前を並べて覚える必要はありません。現場に落ちていたメモに「Xが刺した」と書いてあったとします。このメモは、Xが犯人だという証拠になるでしょうか。このメモが証拠になるかどうかは、このメモで何を証明したいかによって変わります。今日出てくる分類は、供述証拠か非供述証拠か、直接証拠か間接証拠か、実質証拠か補助証拠か、いろいろありますが、全部ひとつの問いに帰着します。その証拠で何を証明するのか、どういう道筋で証明するのか。この問いを立てられれば、名前を暗記しなくても分類は自然に決まります。
証拠方法・証拠資料と人的証拠・物的証拠

証拠方法と証拠資料に入る前に、1つ思い出してほしいことがあります。証人に対して行う、当事者双方が代わる代わる問いただす手続を、何と呼んだか覚えていますか?たしか、交互尋問でした。今日はその証人という対象を、性質という切り口で整理し直します。あわせて、前回までに見た証拠能力と証明力も一言だけおさらいしておきます。証拠として法廷に出せる資格が証拠能力、出た証拠をどれだけ信じるかが証明力でした。今日はこの手前で、証拠そのものをどう性質分けするかを見ていきます。まず、証拠方法と証拠資料という言葉です。証拠方法とは、証拠調べの対象となる人そのもの、物そのもの、つまり証人や、凶器のような物です。証拠資料とは、その証拠方法を取り調べた結果、実際に得られる中身、つまり証言の内容や、物の形状や成分です。裁判官が事実認定の材料にするのは、証拠資料の方です。
この証拠方法は、性質によって人的証拠と物的証拠に分かれます。人的証拠は、人の供述を証拠資料とするもので、人証と呼ばれます。物的証拠は、物の存在や状態を証拠資料とするもので、物証と呼ばれます。さらに、書面の記載内容を証拠資料とするものは書証と呼ばれます。証人尋問と書証の取調べで既に出てきています。証人を尋問で取り調べたのは、証人が人的証拠で、その場の供述そのものが証拠になるからでした。凶器を展示で取り調べたのは、物の存在や状態に証明力があるからでした。書証も物的証拠の一種ですが、証明力は紙に書かれた記載内容にあるので、朗読や要旨の告知で内容を耳に伝えたのです。あのとき見た取調べ方式の違いは、実は証拠の性質の違いに対応していたのです。ちなみに、裁判官が実際に心証を抱いたときの原因になった資料を証拠原因と呼びますが、これは名前だけ覚えておけば十分です。
供述証拠と非供述証拠——伝聞法則の入口

ここからが今日の核です。冒頭のメモの話に戻ります。人が何かを事実として語るとき、頭の中では4つの段階を経ています。まず目や耳でその出来事を知覚する。次にそれを記憶にとどめる。そして記憶を言葉や動作に表現する。最後にそれを他人に叙述する。この4段階のどこにも、誤りが入り込む余地があります。見間違い、記憶違い、言い間違いや大げさな表現、意図的な嘘。だからこそ、誰かが語った内容が本当に正しいのか確かめるには、法廷で本人に問いただす、つまり反対尋問でテストする必要があります。事実の存否について、言葉や、言葉に代わる動作で表現された内容を、その表現どおりの事実があったかどうかを証明するために使う証拠、これが供述証拠です。それ以外の証拠が非供述証拠です。
冒頭のメモを、「メモを書いた人が本当にXが刺すところを見て、それが真実かどうか」、つまりXが本当に犯人かどうかを証明するために使うなら、書いた人の知覚・記憶・表現・叙述という4段階の正確さが問題になります。これは供述証拠です。ところが、同じ1枚のメモでも、筆跡が被害者本人のものかどうかを鑑定するためだけに使うなら、書いた人の記憶が正確だったかどうかは一切関係ありません。これは非供述証拠です。物の種類で決まるのではなく、使い道で決まる、というのが今日一番大事な核心です。人的証拠か物的証拠かという分け方とも、別の軸です。証人の証言でも、声の特徴を確かめるためだけに使うなら、非供述証拠になります。そして、供述証拠だけが特別扱いされる理由がここにあります。反対尋問という手段でテストしない限り、誤った事実認定を招く危険があるからです。だから、供述証拠は原則として、公判廷での尋問を経なければ証拠として使えません。これを定めているのが、次の条文です。
条文刑事訴訟法第320条第1項
刑事訴訟法第320条第1項 第三百二十一条乃至第三百二十八条に規定する場合を除いては、公判期日における供述に代えて書面を証拠とし、又は公判期日外における他の者の供述を内容とする供述を証拠とすることはできない。
これが伝聞法則です。公判の外で誰かが語った内容を書き取った書面や、又聞きの供述は、原則として証拠にできません。伝聞法則はどんな証拠に適用されるのか、という冒頭の問いの答えが、ここでつながります。伝聞法則が適用されるかどうかを決めるのは、今日見た供述証拠かどうかという分類そのものです。供述証拠にあたらなければ、そもそも伝聞法則を気にする必要がありません。この条文の中身自体は、また別の回で詳しく扱います。
直接証拠と間接証拠——推認の構造

直接証拠のほうが強い証拠だと考えてしまうのが、最初のつまずきどころです。この分類は、証拠の強さの話ではありません。主要事実、つまり犯罪事実に、どういう道筋で届くかの違いです。犯罪事実の存在を、推論を挟まず、それを見聞きすればそのまま証明できる証拠を直接証拠と呼びます。被告人自身の自白や、犯行を目撃したという証言がこれにあたります。間接証拠は、犯罪事実そのものではなく、それ以外の事実、つまり間接事実を証明し、そこから経験則を介して犯罪事実の存在を推認させる証拠です。情況証拠とも呼ばれます。

例で確認しましょう。ある強盗事件で、次の3つの証拠が出てきたとします。1つ目、犯行時刻の直前に、被告人によく似た人物が現場付近の防犯カメラに映っていた。2つ目、現場に残された靴跡が、被告人が普段履いている靴の靴底と一致していた。3つ目、被告人の自宅の部屋から、盗まれた品物が見つかった。まず、間接事実を1つずつ認定します。被告人に似た人物が現場付近にいた、靴底の模様が一致した、盗品が自宅にあった。それぞれの間接事実に対して、「通常であれば、こういうことが起きる」という経験則を当てはめます。犯行時刻に現場付近にいた人物は、犯行に関与している可能性が高い。犯行現場の靴跡と靴底が一致する人物は、その現場を歩いた可能性が高い。盗まれた直後の品物を自宅に保管している人物は、それを盗んだ本人である可能性が高い。この3つの経験則を積み重ねると、被告人が犯人であるという推認が、より強く支えられていきます。
1つの間接事実だけでは、別の説明の余地が残ります。似た人物が映っていただけなら、たまたま別人かもしれません。しかし、複数の間接事実が同じ結論を指し示すと、その別の説明の余地が狭くなっていきます。これが間接証拠による立証の特徴で、間接事実を積み上げて、主要事実を外側から囲い込んでいくような構造になります。直接証拠だから強い、とは限りません。直接証拠でも、目撃証言の信用性が低ければ弱い証拠になりますし、間接証拠でも、複数の間接事実が揃えば強い心証を形成できます。強さの問題ではなく、主要事実に届くまでの道筋の違い、と理解してください。答案を書くときは、間接事実を認定する、経験則を示す、その経験則を介して主要事実を推認する、という3段階を分けて書くのが型になります。情況証拠だけで有罪と言えるかどうかの限界は、また別の回で扱います。
実質証拠と補助証拠——弾劾・増強・回復

続いて、実質証拠と補助証拠です。ここまで見てきた供述証拠や直接証拠は、主要事実や間接事実そのものを証明するために使われていました。つまり、事件の中身である主要事実や間接事実を証明する役目の証拠、これが実質証拠です。補助証拠は、実質証拠そのものではなく、実質証拠の証明力に影響を与える事実を証明するための証拠です。証明力に影響を与える事実のことを補助事実と呼びます。証拠として使えるかどうか、つまり証拠能力に関わる事実も、補助事実に含まれます。例で見ましょう。犯行時刻に犯人らしき人物を見たという証人の証言があるとします。この証言そのものは、犯罪事実を証明しようとしているので実質証拠です。ここで、被告人側が、この証人は事件の後、被告人との間で金銭トラブルになり、今は対立関係にあるという事実を持ち出したとします。
金銭トラブルがあったかどうかは、犯人が誰かとは別の話です。この事実は、犯行があったかどうかを直接証明するものではなく、その証人の証言をそのまま信じてよいのかどうか、証言の信用性を疑わせるために使われています。このように、他の証拠の証明力を引き下げるために使う証拠を、弾劾証拠と呼びます。弾劾証拠も補助証拠の一種です。証明力を上げる側の補助証拠もあります。別の証人が、その証言と同じ内容を裏づける供述をしたとします。この証言によって、最初の証言の信用性が高まるなら、これは証明力を引き上げる方向に働く証拠で、増強証拠と呼びます。さらに、一度弾劾された証言について、トラブルが起きるより前、事件の翌日に、すでに周囲へ同じ内容を話していた、という事実が示されればどうでしょう。トラブルの影響で話を作ったわけではないと分かり、下がった信用性が再び持ち直します。これを回復証拠と呼びます。
補助証拠は、他の証拠の証明力を下げる弾劾証拠、上げる増強証拠、下がった証明力を戻す回復証拠の3つに分かれます。弾劾証拠は、前回、厳格な証明と自由な証明の話の中で、328条の条文と一緒に出てきたものです。あれも、この補助証拠の一種だったわけです。328条でどんな証拠が使えるかは、別の回で詳しく扱います。今日は、実質証拠と補助証拠を分ける軸が、直接証明するのか、証明力を上げ下げするのかという違いであることだけ押さえてください。
立証の構造——一本道と積み上げ

ここまでの分類を、1つの図にまとめます。主要事実をゴールとして考えてください。直接証拠は、そのゴールに一本道で直結します。自白や目撃証言がこれです。一方、間接証拠は、間接事実を経由し、経験則という橋を渡って、主要事実を推認させます。1つの橋では心もとなくても、複数の橋を架ければ、ゴールへの道筋はより確かになります。そして、この一本道も、積み上げの道も、それぞれの証拠自体の信用性が揺らげば、道筋そのものが崩れます。そこを下から支えたり、逆に崩したりするのが補助証拠です。目撃証言という一本道であれば、その証言の信用性を弾劾証拠が崩そうとし、増強証拠や回復証拠がそれを支え直します。間接証拠の積み上げであれば、それぞれの間接事実を証明する証拠の信用性を、同じように補助証拠が上下させます。
分類は暗記のためのリストではなく、この立証の構造を理解するための地図だと考えてください。
録音・録画記録の使い分け——実質証拠と補助証拠の再確認

最後に、供述証拠と非供述証拠のところで見た核心を、別の場面でもう一度確認します。取調べの様子を記録した録音・録画記録があるとします。この記録を、被告人が取調べでどう供述したか、つまり供述の内容そのもの、犯行の態様や故意の有無を証明するために使うなら、これは実質証拠です。供述内容の真実性が問題になるので、供述証拠としての性質も帯びます。ところが、同じ記録を、取調べの状況、つまり強要がなかったか、自白が任意にされたものかどうか、供述の信用性を判断するために使うなら、これは補助証拠です。冒頭のメモと、まったく同じ構造です。何を証明するために使うかを先に決めなければ、その証拠がどちらの性質を持つかは決まりません。実質証拠として使う場合に、伝聞法則がどう関わってくるかという証拠能力の中身は、また別の回で詳しく扱います。今日は、この使い分けの構造だけ押さえてください。
今日の地図(保存版)

今日のまとめです。証拠方法と証拠資料を分けたうえで、供述証拠と非供述証拠、直接証拠と間接証拠、実質証拠と補助証拠という3つの軸を見てきました。どれも、その証拠で何を証明するのか、どういう道筋で証明するのかという、1本の問いで決まっていました。同じ1枚のメモ、同じ1本の録画でも、使い道が変われば分類の答えは変わります。名前を1つずつ覚えるのではなく、問いを立てれば答えが出る、ということですね。この分類は、これから先の論点を考えるための地図になります。供述証拠にあたるかどうかは伝聞法則が適用されるかどうかを決めます。間接証拠だけで有罪と言えるかどうかには限界があります。弾劾証拠には条文上の使い方があります。録音・録画記録の証拠能力にも独自の論点があります。今日はその地図を手に入れたと考えてください。
参照条文
- 刑事訴訟法第320条第1項