伝聞例外の構造と321条1項の3類型
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第5章 証拠法 ⑩/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:目撃者が捜査段階で警察官に詳しく話し調書が作られたが公判前に亡くなった
今日の1問は、これです。「話した本人が法廷に立てないとき、その人の話を書いた書面は、どんな条件で証拠になるのか」。答えを先に言います。刑訴法は、書面を、誰の前で話したものかで3つに分けて、条件の厳しさを変えています。話を聞いた人が中立に近いほど緩く、遠いほど厳しい。今日は、その並びの理由まで見ます。伝聞法則の原則は、もう見ました。今日は、原則の向こう側、例外の話です。
例外を認める2つの理由
図:反対尋問で誤りを確かめる機会が無いから伝聞は排除される
設例Oです。傷害の罪で起訴されたのは、被告人Rです。Rは「自分はやっていない」と争っています。現場を見ていたのは、Uという人です。Uは、事件の直後に、警察官に詳しく話しました。警察官がそれを書き取って、調書ができています。ところが、公判の前に、Uは亡くなりました。原則なら、証拠にできません。では、なぜ、それでも例外を認めるのか。伝聞法則の趣旨から考えます。伝聞を排除する理由は、話の途中に誤りが入っていないかを、反対尋問で確かめる機会が無いからでした。見間違い、覚え違い、言い間違い、そして嘘です。ここで、荷物の検品にたとえます。反対尋問は、検品です。検品できない荷物は、原則として受け取らない。これが伝聞法則です。
話した本人が亡くなり、法廷で確かめる道が閉じた。この事情が、1つ目の理由である、必要性です。伝聞を一切禁じると、Uの話は法廷に出ません。かえって、事実を取り違える危険が高まります。使わなければ真実に近づけない事情がある。だから、使う必要があります。ただし、必要だからといって、何でも受け取るわけにはいきません。2つ目の理由が、信用性の情況的保障です。検品の代わりになる、出荷時の管理が、しっかりしているかを見ます。反対尋問を経なくても、内容を信用できる外側の事情がある、ということです。たとえば、公平な裁判官の前で、話した。あるいは、死ぬ直前に、真剣に話した。こういう場面では、嘘や誤りが入り込みにくいと考えられます。整理します。例外の理由は、必要性と、信用性の情況的保障の2つです。伝聞法則の趣旨の裏返しで、確かめる機会の代わりになる保障があるときだけ、必要性とセットで許します。321条以下は、この2つを、証拠の種類ごとに強さを変えて、要件にしています。必要性が高くても、保障が弱ければ、要件を重ねる。この釣り合いが、後の3類型の並びの伏線です。
例外が出てくる場面

1つ目は、書面の証拠調べを請求したときです。設例Oで、検察官が、Uの調書の証拠調べを請求します。すると、裁判所は、相手に、証拠にすることへの意見を聞きます。同意か、不同意か。弁護人が同意すれば、326条で足ります。同意の中身は、別の回で扱います。争いのない事件は、このルートが多く、例外の要件を検討するまでもありません。不同意と述べたとします。すると、検察官には、道が2つあります。1つ目は、請求を撤回して、原供述者を証人として呼ぶことです。Uが生きていれば、これが原則の道です。法廷で話してもらえば、反対尋問もできるからです。2つ目は、書面の請求を維持することです。「この書面は、321条以下の要件を満たすから、証拠にできる」と主張します。裁判所が、その要件を判断して、満たせば採用、満たさなければ却下します。
例外の検討が要るのは、不同意なのに、書面の請求を維持する場面です。もう1つの場面もあります。証人尋問の最中に、証言に、また聞きが混じる場合です。相手が異議を述べて、裁判所が、伝聞供述だと判断する。すると、尋問者は、質問を変えるか、伝聞供述の例外の要件を満たすことを示す必要があります。その入口が、324条です。
伝聞例外の全体地図と検討の順番
図:伝聞例外の全体地図の板
例外は、条文がいくつかに分かれています。全体の地図を見ます。当事者の同意や合意による道が、326条と327条です。同意も合意も無いときは、書面の場合、誰の言葉かで分けます。被告人以外の者の供述書面は、321条です。被告人自身の供述書面は、322条です。法廷で語られる伝聞供述は、324条です。ほかに、証明力を争うための証拠が、328条にあります。それぞれの中身は、別の回で扱います。そして、例外を検討する順番があります。1つ目に、その書面は、どの類型に当たるのか。つまり、どの条文か。2つ目に、その類型が求める要件を満たすか。論文でも、この順番で書きます。ここは、論文で論点になりうる場面です。先に類型を特定し、そのあと要件を1つずつ当てはめます。
類型を先に決めるのは、なぜですか。要件が、類型ごとに違うからです。要件を先に見ても、どの条文の要件か分かりません。次から、その類型を、321条1項で見ます。
321条1項——署名押印と3つの類型
図:321条1項の全文カードを3つに割る板
- 柱書で対象を示し、1号は裁判官の面前、2号は検察官の面前、3号は前2号以外の書面と色で分ける
- あわせて録取書には供述者の署名か押印が要ることを示す
321条1項の全文です。長い条文なので、2枚に分けます。まず、柱書と1号です。
条文刑事訴訟法第321条第1項
刑事訴訟法第321条第1項(柱書・第1号) 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。 一 裁判官の面前(映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法による場合を含む。次号において同じ。)における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は供述者が公判準備若しくは公判期日において前の供述と異なつた供述をしたとき。
まず、柱書です。対象は、被告人以外の者が作成した供述書、または、その者の供述を録取した書面で、供述者の署名か押印のあるものです。録取書では、供述者の署名か押印が要ります。理由は、録取書には、関所が1つ増えるからです。原供述者が話して、録取者が聞いて、書く。録取者が、聞き違えたり、書き違えたりするかもしれません。そこで、原供述者に、書かれた内容を確かめてもらい、間違いが無いと署名か押印をしてもらいます。これで、録取者の関所の誤りを、取り除けます。前に、署名押印の理由は例外の回で、と言ったのは、この点です。続けて、2号と3号です。
条文刑事訴訟法第321条第1項
刑事訴訟法第321条第1項(第2号・第3号) 二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。 三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
2号は検察官の面前、3号はそれ以外です。号が下がるほど、書いてある条件が増えていきます。

次に、1号から3号までです。分け方の軸は、1つだけです。誰の前で話したか。1号は、裁判官の面前。2号は、検察官の面前。3号は、その2つ以外、つまり、警察官や私人の面前です。そして、要件が違います。次で、その並びを見ます。
3類型の並び方——なぜ厳しさが変わるのか
図:321条1項の3類型の要件比較表
- 1号は供述不能または前の供述と異なる供述のどちらかだけで足り追加要件なし
- 2号の前段は供述不能、後段は相反または実質的に異なる供述に加えて相対的特信情況
- 3号は供述不能が必須で不可欠性と絶対的特信情況が加わり、前の供述との食い違いだけでは入らない
比較表です。まず、言葉を2つ。供述不能とは、条文にある、死亡、精神や身体の故障、所在不明、国外にいる、という理由で、公判準備や公判期日で供述できないことです。もう1つは、前の供述と異なる供述です。法廷で、捜査段階と違うことを話す場合です。この2つの中身は、あとの回で詳しく見ます。今日は、どの号がどの要件を持つかの、置き場だけ確かめます。1号は、供述不能か、前の供述と異なる供述か、どちらかがあれば足ります。追加の要件はありません。2号は、前段が、供述不能です。後段は、前の供述と相反する、または実質的に異なる供述に加えて、公判供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況、相対的特信情況が要ります。法廷での供述と比べて、前の供述のほうが信用できるか、を見るので、相対的と呼びます。3号は、供述不能が必須です。そのうえで、欠くことができないという不可欠性と、特に信用すべき情況、絶対的特信情況が要ります。前の供述と食い違うだけでは、入りません。
軸は、話を聞いた人の、中立性です。裁判官は、どちらの側でもない、公平な第三者です。ここで作られた書面は、誤りや無理な誘導の危険が小さい。だから、最も緩くて足ります。検察官は、事件の一方の当事者です。立場上、事実を一方に寄せて聞き取る危険を、完全には消せません。そこで、法廷で前の供述を翻されたときは、前の供述のほうが信用できる、という上乗せを求めます。検察官は、一方の当事者ではあっても、公益の代表者とされる法律家です。そこに、一定の支えがあります。だから、2号の前段は、供述不能だけで足ります。警察官や私人の面前には、その支えもありません。保障が最も弱いので、供述不能だけでは足りず、不可欠性と絶対的特信情況を重ねます。必要性が高くても、保障が弱い分、要件で支える。さきほど見た、必要性と保障の釣り合いの形です。ここで1問です。設例Oで、Uは亡くならず、法廷で「調書と違うことを話す」と証言しました。調書が、裁判官の前で取られたものか、警察官の前で取られたものかで、結論はどう分かれるでしょうか?
裁判官の前なら、1号の後段で、前の供述と異なる供述をしたので、それだけで入ると思います。警察官の前なら、3号は供述不能が必須なので、Uが生きて法廷にいる以上、入りません。検察官の前なら、2号の後段で、特信情況の上乗せが要ります。同じ食い違いでも、話した相手で、通る道が変わります。
1号——裁判官面前調書
図:1号の書面は裁判官の面前の供述録取書
- 供述不能または前の供述と異なる供述のどちらかで足り特信情況は不要
- あわせて第1回公判期日前の証人尋問調書、証拠保全の証人尋問調書、他事件の公判調書を具体例として挙げ、他事件の公判調書には被告人としての供述を録取した部分も含まれるという最高裁の結論を出典行で示した板
1号です。要件を言います。供述者が、供述不能か、法廷で前の供述と異なる供述をしたか、どちらかです。追加の特信情況は、要りません。ただし、柱書のとおり、録取書なので、署名か押印は要ります。裁判官の面前で作られる書面には、いくつかの型があります。1つ目は、第1回公判期日の前に、裁判官が証人を尋問した調書です。捜査に協力を拒んだ人や、公判で供述を変えるおそれのある人を、検察官の請求で、裁判官が尋問する制度があります。226条と227条です。捜査の回で、捜査機関だけでは足りないときに裁判官に頼る制度として、見ました。2つ目は、証拠保全のための証人尋問の調書です。証拠が失われるおそれがあるとき、公判の前に、裁判官に証人尋問を請求できる制度です。179条です。3つ目は、他の事件の公判調書です。別の事件の法廷で、証人が語った内容を書いた調書です。
公判の前に、わざわざ裁判官が尋問するのは、なぜですか。後で、この1号で使える書面を、残しておくためです。証人が亡くなる、行方が分からなくなる、公判で話を変える。そうした必要性が生じる場面を、先回りして備える制度です。条文の中身は、今日は立ち入りません。他の事件の公判調書についても、補足します。最高裁は、その調書のうち、被告人として供述した部分を録取した部分も、1号の書面に含まれるとしました。結論だけの決定です。322条が扱うのは、いま裁かれている被告人の供述です。別の事件で被告人だった人は、この事件から見れば、被告人以外の者です。だから321条の書面になり、話したのが裁判官の前なので、1号です。決定が述べたのは、この結論だけです。理由としては、被告人質問も、当事者が交互に質問する、証人尋問に近い形で行われる点などが挙げられます。
2号——検察官面前調書
図:2号の書面は検察官の面前の供述録取書
- 前段は供述不能で1号前段と同じ
- 後段は相反または実質的に異なる供述に加えて、公判供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況が要ること
- 1号との差は後段の特信情況の上乗せで、検察官が一方の当事者であることによると示した板
2号は、型だけ確かめます。前段は、供述不能です。1号の前段と同じです。後段は、法廷で、前の供述と相反するか、実質的に異なる供述をしたとき。そのうえで、公判供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況が、あるときに限ります。2号後段が1号と違うのは、特信情況の上乗せがあるかどうかです。理由は、さきほどの軸のとおり、検察官が一方の当事者だからです。相反かどうかの判断、特別の情況の判断に使う材料は、あとの回で詳しく見ます。今日は、2号の後段に、1号にはない上乗せがある、という置き場だけ持ち帰ってください。
3号——その他の書面
図:3号の要件を3つ全部そろえる板
- 供述不能、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができない不可欠性、その供述が特に信用すべき情況の下にされた絶対的特信情況
- 1つでも欠ければ証拠にできず、前の供述との食い違いだけでは入らず、比べてよりましという相対的な信用ではなくゼロから信用できる情況を示すことを対比した板
3号です。前に、法廷で語られた伝聞供述に、324条2項がこの3号を準用する場面を見ました。その3号の本体を、ここで正面から見ます。もう一度、条文を見ます。
条文刑事訴訟法第321条第1項
刑事訴訟法第321条第1項(柱書・第3号) 被告人以外の者が作成した供述書又はその者の供述を録取した書面で供述者の署名若しくは押印のあるものは、次に掲げる場合に限り、これを証拠とすることができる。 三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
要件は、3つです。全部、そろう必要があります。1つ目、供述不能。2つ目、その供述が、犯罪事実の存否の証明に欠くことができないこと。これが不可欠性です。3つ目、その供述が、特に信用すべき情況の下にされたこと。絶対的特信情況です。供述不能と不可欠性は、使う必要性の側です。特信情況は、保障の側です。3号の要件は、3つ全部がそろって初めて、証拠にできます。かつ、と、ただし書きで、結んでいます。しかも、柱書のとおり、録取書なら供述者の署名か押印も要ります。2号との、決定的な差があります。3号は、法廷で前の供述と食い違った、というだけでは、入りません。Uが生きていて、法廷で話せる状態なら、話を翻しても、警察官の調書で代わりにはできません。法廷にいるなら、本人に直接聞いて、反対尋問で確かめられます。使う必要性が無いのに、保障の弱い書面を入れる理由は、ありません。1号と2号が食い違いで入るのは、聞き手の側に、そのぶんの保障があるからです。
2号と3号の特信情況は、別のものです。2号は、さきほどのとおり、比べてよりましかを問う、相対的特信情況です。3号は、比べる相手がありません。その供述そのものが、特に信用できる情況でされたことを、ゼロから示す必要があります。不可欠性とは、その証拠が無いと、事実認定に大きな差が出るほど、という意味です。補充的な証拠にとどまるものでは、足りません。たとえば、犯人を見たのがUだけなら、Uの調書は欠かせません。同じ場面を見た別の目撃者がほかにも大勢いて、法廷で同じことを証言しているなら、Uの調書は補充に近づき、不可欠性は認められにくくなります。詳しい判断の基準は、別の回で見ます。対象になる書面は、警察官の面前の録取書だけではありません。私人の面前の録取書もあります。被害者や目撃者が自分で書いた日記のような供述書も、対象です。話を聞き取る人が、間にいない書面も、裁判官や検察官の前で話したものではないので、受け皿の3号に入ります。供述書は、自分で書いているので、録取者の関所がありません。
設例Oに3号を当てはめる
図:設例Oの被害者版
- Uが瀕死の状態で警察官に被害状況と犯人を話し、警察官が書き取り、Uが署名押印した
- 原供述者U、録取者の警察官、調書という2つの関所と、署名押印が警察官の関所の誤りを取り除くことを示す関係図
設例Oを、少し変えます。Uを、目撃者ではなく、被害者にします。被告人Rは、Uを傷つけたとして起訴されています。Uは、瀕死の状態で、警察官に、被害の状況と、犯人はRだと話しました。警察官が、それを書き取り、Uは、内容を確かめて署名押印しました。話す様子は、真剣で、誰かをかばう、といった様子もありません。直後に、Uは亡くなりました。Rの側は、この調書に不同意です。類型は、3号です。この順番が、さきほどの、類型を先に決める、でした。では、要件を1つずつ当てはめます。1つ目、供述不能。Uは亡くなっています。死亡で、満たします。2つ目、不可欠性。被害者が、被害の状況と犯人を話した書面です。Rが犯人かどうかの認定に、欠くことができない可能性が高い。満たされうる、と考えます。3つ目、絶対的特信情況。死亡の直前で、真剣に話し、誰かをかばう様子も無い。こうした情況から、満たされうると考えます。最後に、署名押印。Uは、内容を確かめて、署名押印しています。図のとおり、Uから警察官へ、警察官から調書へ、関所が2つあります。署名押印が、警察官の側の関所を取り除いています。これが無ければ、書面は、要件を欠きます。
3号の書面は、要件が全部そろうときに限って、証拠能力が認められます。3号で採用される事案は、多くありません。要件が重なるので、限られます。この設例は、認められうる場合の一例です。要件が1つでも欠ければ、認められません。
321条2項——公判での供述の録取書と検証調書
図:321条2項の対象
- 被告人以外の者の公判準備または公判期日における供述を録取した書面と、裁判所または裁判官の検証の結果を記載した書面
- 1項の規定にかかわらず特段の要件なしに証拠にできる
- 理由は、当事者の関与した場で作られ、すでに証人尋問を経ていて、類型的に信用性が高いこととして整理した板
次に、321条2項です。条文を見ます。
条文刑事訴訟法第321条第2項
刑事訴訟法第321条第2項 2 被告人以外の者の公判準備若しくは公判期日における供述を録取した書面又は裁判所若しくは裁判官の検証の結果を記載した書面は、前項の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。
対象は2つです。被告人以外の者の、公判準備か公判期日での供述を録取した書面。それと、裁判所か裁判官の検証の結果を記載した書面です。公判準備での供述は、たとえば、公判期日とは別の日に、裁判所が証人を尋問したときの供述です。要件は、ありません。1項の要件を、必要としません。理由は、いくつかの見方で説明されます。1つ目。公判準備や公判期日は、当事者の立会いと、反対尋問の機会がある場だからです。2つ目。すでに、その人の証人尋問を経ています。3つ目。証人は、宣誓をしてから話します。それを書き取るのも、どちらの側でもない、裁判所の書記官です。だから、公判期日での供述の録取は、類型的に、信用性が高い。検証の結果を記載した書面は、裁判所か裁判官が、自分の目で見て確かめたことを書いたものです。当事者も、立ち会えます。人の話を書き取った書面ではないので、話す人の見間違いや言い間違いが、間に入りません。作るのも裁判所の側なので、作ったとされる人が作ったとおりの書面だということも、類型的に確かです。しかも、検証の結果は、その場にいなかった人に、口頭では正確に伝えにくい。書面にすることが、もともと想定されています。なお、捜査機関の検証調書や、実況見分調書は、321条3項です。2項は、裁判所や裁判官の検証のことです。
公判手続の更新と321条2項
図:設例Oの続きの手続
- 第5回公判期日の後に裁判官が異動で替わり公判手続が更新された
- 更新前の公判期日での証人の供述を録取した公判調書は新しい裁判体から見ると別の裁判体の前の供述を書いた書面だが、321条2項前段で証拠能力があることを示す板
ここで1問。前に見た、公判手続の更新を思い出してください。裁判官が替わったとき、審理を最初からやり直すのでしょうか?更新は、それまでの審理を捨てる手続ではありません。更新前の期日での供述を録取した公判調書などは、職権で、証拠書類として取り調べ直します。設例Oで考えます。第5回公判期日の後に、裁判官が異動で替わり、公判手続が更新されました。第3回の期日で、証人が話した内容を録取した公判調書があります。新しい裁判体から見ると、この調書は、別の裁判体の前で話された供述を、書いた書面です。いまの裁判官は、証人が話す様子を、自分の前では見ていません。いまの裁判体の前での供述に代えて、書面を使うことになるので、伝聞に当たります。
取り調べ直した調書が使えないのでは、更新をする意味がありません。その受け皿が、321条2項の前段です。被告人以外の者の公判期日における供述を録取した書面だから、特段の要件なしに、証拠能力があります。前の、他の事件の公判調書とは、区別してください。他の事件の調書は、1号の書面で、供述不能などの要件が要ります。この設例は、同じ事件の、更新前の期日の調書なので、2項です。
今日の地図(保存版)
図:今日の内容を1枚に整理した保存版のまとめ板
まとめます。1つ目。例外の根拠は、必要性と、信用性の情況的保障です。伝聞法則の趣旨の裏返しで、反対尋問の代わりになる保障があるときだけ、必要性とセットで許されます。2つ目。例外が問題になる主な場面は、不同意と言われても、書面の請求を維持したときです。証人尋問の中で伝聞の供述が出たときも、同じ問題になります。検討の順番は、どの類型かを決めて、その要件を見る、です。3つ目。321条1項の並びは、裁判官の面前が緩く、検察官の面前が中程度、その他が厳しい。話を聞いた人の中立性が下がるほど、要件が厳しくなります。4つ目。3号は、供述不能、不可欠性、絶対的特信情況の全部と、録取書なら署名か押印が要ります。2項は、無条件です。
証言を拒んだり、記憶を失ったりしたとき、それは供述不能に当たるのか。これが次の問いです。
参照条文
- 刑事訴訟法第321条第1項
- 刑事訴訟法第321条第2項