同意と合意書面
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第5章 証拠法 ⑮/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:弁護人が検察官請求の目撃者の調書に同意と述べ、調書が採用される
- その後、弁護人がその目撃者を証人として呼びたくなる
- 呼べるのかという問い
- 同意を、反対尋問を諦めることと見るか、書面に証拠になる資格を与えることと見るかで、答えが正反対に分かれる
前回の終わりに、伝聞例外の要件を当てはめる前に、当事者が証拠にすることに同意すれば、書面がそのまま証拠になる道がある、とお伝えしました。今日は、その道を見ます。弁護人が、検察官の請求した目撃者の調書に、同意します、と言いました。調書は採用されました。ところが、審理が進むと、弁護人は、やはりその目撃者を、証人として呼んで問いただしたくなりました。呼べるのでしょうか。呼べます。ただ、この答えは、同意を何を手放す行為と見るかで、正反対に分かれます。反対尋問を諦める行為と見るなら、もう呼べません。書面に、証拠になる資格を与える行為と見るなら、呼べます。今日は、この、同意とは何を手放す行為か、という1本の軸で解きます。同意のあとの証人尋問、同意しても落ちる書面、弁護人の同意と被告人の意思、同意の撤回まで、すべて、この軸から一続きに決まります。さらに、被告人が出頭しないときの擬制同意と、同意とは別の道である、327条の合意書面も見ます。
同意は、要件の検討を飛ばす道
図:同意の入口の流れ
- 検察官が書証を請求し、裁判所が相手方の意見を聞く
- 同意なら相当性を見て採用
- 不同意なら、請求を撤回して原供述者を証人に呼ぶか、321条以下の要件を主張して請求を維持するか
- 同意の道は、要件の検討を飛ばして採用に進む
まず、地図の上の位置です。検察官が、書証を請求します。裁判所は、相手方に、その書証への意見を聞きます。前に見た、証拠意見です。相手方が同意なら、321条から325条までの要件を、1つずつ当てはめる検討を、飛ばして採用できます。不同意のときだけ、前に見た2つの道に進みます。検察官が請求を撤回して、原供述者を証人として呼ぶか。321条以下の要件を主張して、請求を維持するか、でした。この5回は、要件の検討ばかりでしたが、実際の法廷でも、毎回それをやるのですか。違います。争いのない事実は、同意で処理されるのが、実務の大勢です。要件の検討は、争いのある書証のための道。同意は、争いのない書証のための、近道です。言葉の呼び分けも、思い出してください。書証には、同意か不同意かを言います。証拠物や証人尋問の請求には、異議がある、異議がない、と言います。326条が扱うのは書面と供述なので、同意の方です。暗記は1文です。同意があれば、要件の検討は要らない。不同意になって初めて、321条以下を見る。
326条1項の全文と4つの要素
図:326条1項の骨組み
- 検察官及び被告人が同意した書面又は供述は、作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、321条乃至前条にかかわらず、証拠にできる
- 主体、対象、相当性、効果の4つに分ける
条文を、全文で出します。326条です。1項と2項があります。2項は、あとで見ます。
条文刑事訴訟法第326条
刑事訴訟法第326条 検察官及び被告人が証拠とすることに同意した書面又は供述は、その書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り、第三百二十一条乃至前条の規定にかかわらず、これを証拠とすることができる。 2 被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において、被告人が出頭しないときは、前項の同意があつたものとみなす。但し、代理人又は弁護人が出頭したときは、この限りでない。
1項を、4つの要素に分けて読みます。1つ目は、主体です。検察官及び被告人。両方の同意、という並べ方です。ただ、自分で請求した側は、証拠にしたいのですから、実際に問題になるのは、請求されなかった側の意思です。検察官が請求した書証なら、被告人側の同意です。2つ目は、対象です。書面又は供述。調書のような書面だけでなく、証人尋問の中で出てきた、又聞きの供述にも及びます。3つ目は、相当性です。その書面が作られたとき、あるいは供述がされたときの情況を考慮して、相当と認められること。言い換えると、同意があっても、作られ方に問題のある書面まで、通すわけではありません。4つ目は、効果です。321条から前条まで、つまり325条までの規定にかかわらず、証拠にできます。被告人自身の書面を扱う322条も、その例外の1つに含まれます。前回見たとおり、同意のある書面には、325条の任意性の調査も、手続としては要りません。
⭐ 論文で書く規範:326条1項の4つの要素 検察官及び被告人の同意、書面又は供述、相当と認めるとき | 321条から前条までにかかわらず、証拠にできる (成立要件(326条1項・条文どおり)——逐語で暗記するものではない。条文を読めば出てくる)
覚えるというより、条文を音読して、4つに切れれば足ります。この回で、頭を使って覚えるのは、同意の中身をどう理解するか、の方です。
供述への同意:異議を述べなかったとき

同意は、口で、同意します、と言う場合だけではありません。前回、証人尋問の最中に又聞きが出たら、相手方はすぐ異議を述べる、と見ました。では、異議を述べないまま、その証人の尋問が終わったら、どうなるでしょうか。判例は、その沈黙を、黙示の同意として扱いました。伝聞供述や、再伝聞の供述について、異議の申立てがされないまま、その証人への尋問が終わった場合です。判決の言葉で、読みます。
判例最決昭59・2・29 刑集38巻3号479頁
異議なく尋問が終了した場合の判旨 いわゆる伝聞ないし再伝聞証言について、異議の申立てがされることなく当該証人に対する尋問が終了した場合には、直ちに異議の申立てができないなどの特段の事情がない限り、黙示の同意があつたものとしてその証拠能力を認めるのが相当である
原則は、黙示の同意があった、です。例外は、特段の事情です。例えば、直ちに異議を申し立てることができなかった事情があれば、同意とは見ません。原則の方を、場面で見ます。目撃者が、友人から、犯人は赤い服だったと聞きました、と証言しました。弁護人は何も言わず、そのまま、その証人の尋問が終わりました。これが、黙示の同意の場面です。決め手を、一言で言います。異議を述べる機会は、尋問の間ずっとあったのに、述べなかった。その沈黙を、同意として扱っても、相手方に不意打ちにはならないからです。短答では、異議なしで終了なら、特段の事情がない限り、黙示の同意。この形で覚えてください。
前回の判例との関係です。前回の判例は、異議が無いことに加えて、元の人が記憶を失い、行方も分からない、という事情を挙げて、324条の趣旨から認めたものでした。今日の判例は、同じ最高裁が、そのあとで、異議なく尋問が終わったこと自体を、同意として扱う、と述べたものです。答案では、まず黙示の同意があるかを見て、特段の事情があれば、324条の要件に戻ります。324条は、法廷の証言に又聞きが混じったとき、元の話し手が被告人なら322条の要件を、ほかの人なら321条1項3号の要件を借りて、証拠にできるかを決める条文でした。順序がこうなるのは、今日の最初に見たとおり、同意は、要件の検討を飛ばす道だからです。黙示の同意も、同意です。それが認められれば、324条の要件を、当てはめる必要がありません。
同意の法的性質:何を手放す行為か
図:同意の2つの考え方と、有力な第3の考え方を比べる表
- 放棄説は、同意を原供述者への反対尋問権の放棄とみる
- 付与説は、同意を書面に証拠能力を付与する訴訟行為とみる
- 伝聞性解除説は、同意は伝聞性を解除するだけと考える
- 決め手は、被告人自身の書面(322条)も同意の対象になること
ここから、今日の軸です。同意とは、何を手放す行為なのか。考え方は、大きく2つあります。1つ目は、反対尋問権の放棄説です。同意とは、原供述者に反対尋問をする権利を、手放すことだ、という考え方です。2つ目は、証拠能力の付与説です。同意とは、その書面に、証拠になる資格を与える、訴訟行為だ、という考え方です。反対尋問をする権利は、手放していません。一般的な理解は、こちらです。例えで考えます。伝聞の書面は、証拠という建物の、門の前に立たされています。門には、番人がいます。番人は、原供述者に問いただす権利、つまり反対尋問権です。放棄説は、同意とは、この番人を、門から帰らせることだ、と見ます。番人がいなくなったので、書面は門を通れます。付与説は、同意とは、書面に、通行証を渡すことだ、と見ます。通行証があるので、書面は門を通れます。ただし、番人は、門に立ったままです。書面が門を通る点は同じです。違いは、番人が、まだ立っているかどうかです。これが、あとで、同意のあとに証人を呼べるか、という問いの答えに変わります。
決め手は、322条です。まず、冒頭の目撃者の調書なら、どちらの説でも説明がつきます。放棄説なら、目撃者に問いただす権利を手放した、と言えるからです。ところが、同意の対象は、321条から325条までの、すべての書面で、被告人自身の書面にも及びます。例えば、被告人が、取調べで、私が店の品物を持ち出しました、と話して署名した調書を、検察官が請求した場合です。弁護人や被告人が同意すると、326条で証拠になります。ここで、放棄説に立つと、被告人は、誰への反対尋問権を放棄したことになるでしょうか。原供述者は、被告人自身ですよね。被告人が、自分に反対尋問する、というのは、おかしいです。前に見た、被告人が自分自身に反対尋問することはない、という322条の趣旨です。放棄する権利が、そもそも存在しません。だから、放棄説では、被告人の書面への同意を、説明できません。付与説なら、書面に資格を与えた、と言えるので、すべての書面に、同じ説明が通ります。実務の背景も、1つ添えます。検察官の書証に不同意にして、原供述者を証人に呼ぶと、その人が、法廷で話を変えるかもしれません。すると、前に見た、2号の相反供述の決まりで、検察官が取った、捜査段階の調書のほうが、証拠になりかねません。それを避けるために、弁護人が、あえて先に同意をして、書面の中身は、ほかの証拠で崩す、という戦い方があります。同意とは、要件を満たす確認ではなく、戦い方の選択でもある、ということです。
もう1つ、近時の有力な考え方があります。伝聞性解除説です。同意は、伝聞であるという問題だけを解除するのであって、証拠能力が、そのまま生じるわけではない、と見ます。付与説よりも、同意の力を弱く見る考え方です。名前だけ押さえておけば足ります。
⭐ 論文で書く規範:同意の法的性質(一般的理解=付与説) 同意は、書面に証拠能力を付与する訴訟行為であり、反対尋問権を放棄するものではない | 決め手は、被告人の書面(322条)も同意の対象なのに、被告人が自分に反対尋問することはないこと (規範(通説型)——判例の規範ではない・条文の要件でもない。論文で論点になりうる)
暗記は1文です。実務と一般的な理解は、付与説。放棄説は、322条を説明できない。
帰結その1:同意したあとに、証人を呼べるか
図:設例1の関係図
- A検察官が居合わせた客の警察官調書を請求し、B弁護人が同意して採用される
- 後日、B弁護人がその客を証人として請求する
- 付与説なら請求は許される
- 放棄説なら許されない
設例1です。傷害の事件です。検察官が、現場に居合わせた客の、警察官調書を請求しました。弁護人は、同意しました。調書は、採用されました。後日、弁護人が、その客を、証人として請求しました。調書の細かい点を、直接、問いただしたくなったからです。この請求は、許されるでしょうか。軸に戻ると、放棄説なら、番人は帰ってしまったので、もう問いただす権利がありません。付与説なら、番人は立ったままなので、請求できる、ということですね。付与説に立つと、請求は許されます。同意したのは、調書に資格を与えることまで。人に問いただす権利は、残っています。もう1点、押さえます。同意をしても、書面の証明力を争うことはできます。資格を与える、というのは、証拠として使ってよい、というところまでで、その中身を、どれだけ信用するかは、裁判所が決めるからです。証人尋問は、その信用性を崩す道になります。
同意したら、必ず、その証人が呼ばれるのですか。違います。同意があっても、裁判所が、その証人尋問の必要性がないと判断すれば、請求は却下されます。被告人質問が先に行われる審理などで、起こりえます。詳しくは、被告人質問の回で扱います。暗記です。同意は、調書に資格を与えただけ。人を呼ぶ権利は、残る。
帰結その2:同意しても落ちる書面
図:設例2の関係図
- B弁護人が自白調書に同意し調書は採用された
- その後、A被告人が公判で、署名を強いられたと述べ始める
- 同意があっても、相当性を欠く、任意性に疑いのある供述は証拠能力がない
条文の、相当性を思い出してください。同意があっても、相当と認められるときに限る、でした。設例2です。弁護人が、被告人の自白調書に、同意しました。調書は、採用されました。ところが、公判で、被告人が、取調べのときに、署名を強いられた、と話し出しました。判例は、同意した調書でも、証拠として使えない場合がある、としました。事案から言います。被告人は、公訴事実をほぼ認めており、弁護人が自白調書に同意して、その調書の証拠調べも終わっていました。ところが、後になって、被告人が、取調べの最中の暴行を、具体的に話しました。この事案で、判決は、職権で任意性を調べないまま、調書を有罪の証拠に使ったのは、前に見た、審理不尽、つまり、尽くすべき審理を尽くさなかった違法だとして、原判決を破棄しました。判旨を読みます。
判例大阪高判昭59・6・8 高刑集37巻2号336頁
任意性に疑いのある供述は、同意があっても証拠能力がないとする判旨 証拠とすることの同意があつても、「書面が作成され又は供述のなされたときの情況を考慮し相当と認める」場合に限つて証拠能力が付与されるのであり、任意性に疑いのある供述は、当事者が証拠とすることに同意しても証拠能力がないものといわねばならない
判決は、証拠能力が付与される、と言っています。付与説の言葉です。そして、任意性に疑いのある供述は、同意しても、証拠能力がない、と言い切りました。決め手は、趣旨です。任意性は、前に見た、自白法則の言葉です。319条1項は、強制や拷問、脅迫などによる、任意にされたものでない疑いのある自白は、証拠とすることができない、と定めていました。中身の信用を割り引いて使う、つまり証明力の問題ではなく、はじめから証拠に入れない、つまり証拠能力の問題として、法が外しているのです。そうした自白は、信用性の保障が、そもそも欠けているからです。当事者が、資格を与えると言っても、与えられる資格がない、ということです。
前回見た、同意のある書面には325条の任意性の調査が要らない、という話とは、場面が違います。前回の話は、手続としての調査が要らない、というところまででした。今日の話は、任意性に疑いが現れてきたとき、その供述が、証拠能力そのものを持たない、という結論です。答案では、相当性の判断の中で、任意性を見る、と書きます。伝聞性解除説の側から見ると、同意があっても、自白法則や、違法収集証拠の排除の法則が働く余地が残る、と説明されます。違法収集証拠と同意の関係は、違法収集証拠排除法則の回で扱います。暗記です。同意しても、任意性に疑いがあれば、証拠能力なし。
帰結その3:誰が同意するか
図:弁護人の同意と被告人の意思の関係図
- A被告人は全面否認、B弁護人は同意と述べる、C裁判所
- BからCへ同意、AからCへ否認、CからAへ意思の確認
- 判例の結論は、同意とはいえないので、裁判所が被告人本人に確かめる
326条の主体は、被告人です。ところが、実際の法廷で、同意か不同意かを述べるのは、多くの場合、弁護人です。なぜ、それが許されるのでしょうか。前に見た、弁護人の権限の3類型を呼び戻します。固有権、独立代理権、包括代理権でした。包括代理権は、明文の根拠がなく、本人が行える、代理になじむ行為を、本人の意思に反しない限り、代わりに行う権限です。典型例が、この、証拠への同意と不同意でした。今日が、その中身です。本人の意思に反しない限り、ですね。反したら、どうなるのですか。設例3です。窃盗の事件です。被告人は、法廷で、やっていない、と述べています。ところが、弁護人が、検察官の請求した書証すべてに、同意します、と述べました。弁護人は、被告人の代わりに、同意を述べました。でも、被告人の意思は、正反対です。判例は、こういう場合の扱いを示しました。事案から言います。被告人が、公訴事実を全面的に否認していた一方で、国選弁護人は、公訴事実を認め、書証の請求に異議がない、と答弁していました。第一審は、そのまま、有罪の認定に使いました。判旨を、読みます。
判例最判昭27・12・19 刑集6巻11号1329頁
被告人が否認し弁護人だけが認めて主張が異なる場合の判旨 ところで本件のごとく被告人において全面的に公訴事実を否認し、弁護人のみがこれを認め、その主張を完全に異にしている場合においては、弁護人の前記答弁のみをもつて、被告人が書証を証拠とすることに同意したものとはいえないのであるから、裁判所は弁護人とは別に被告人に対し、証拠調請求に対する意見及び書類を証拠とすることについての同意の有無を確めなければならないものと解しなければならない。
判旨は、2段です。1段目。被告人が全面的に否認していて、弁護人だけが認めているなら、弁護人の答弁だけでは、被告人が同意した、とはいえない。2段目。だから、裁判所は、弁護人とは別に、被告人本人に、意見と同意の有無を確かめなければならない。確かめないまま、有罪の資料にしたのは、訴訟手続の違法で、原判決は破棄されました。決め手は、1文です。弁護人の同意は、被告人の意思の代わりだから、意思が正反対なら、代わりになりません。軸に戻すと、書面に通行証を渡すかどうかを決めるのは、被告人の意思です。だから、意思が正反対なら、通行証は渡っていません。注意してほしいのは、判決は、弁護人の同意は無効だ、とは言っていないことです。同意とはいえない、だから、被告人本人に確かめよ、です。確かめた結果、被告人が不同意なら、不同意として扱います。確かめた結果、同意するなら、同意として扱います。
境界の、ペアで考えます。被告人も弁護人も、事実を認めている事件で、弁護人が、書証に同意しました。被告人の意思に、反しません。だから、そのまま、同意として有効です。一方、設例3のように、被告人が、やっていない、と言い、弁護人が全部同意と言った。主張が完全に食い違っています。こちらは、被告人に確かめます。分かれ目は、被告人の意思に反するかどうか、です。もう1つ、下級審の裁判例にも、同じ流れがあるとされます。否認している事件で、弁護人が同意しても、被告人の否認の趣旨を、無意味にしてしまうような内容の証拠は、弁護人の同意だけでは、被告人が同意したことにならない、という趣旨です。名前までは覚えなくてよく、趣旨だけ押さえれば足ります。
⭐ 論文で書く規範:弁護人の同意と被告人の意思 被告人が否認し弁護人だけが認める場合、弁護人の同意だけでは被告人が同意したとはいえず、裁判所は被告人に同意の有無を確かめる | 不同意の意思なら、不同意として扱う (判例の理解——判決の結論を一般化した理解・条文の要件ではない)
暗記です。弁護人の同意でも、被告人の意思に反するなら、被告人本人に確かめる。不同意の意思なら、不同意として扱う。
同意の撤回と、立証趣旨
図:設例4の関係図
- A検察官が、領収書の作成の事実という立証趣旨で、経理担当者の供述書を請求する
- B弁護人が同意して採用される
- 供述書の中に、別の取引についての他人の言動の記載がある
- 同意は立証趣旨を前提にしているので、裁判所が別の事実の認定に使えば、不意打ちになる
一度した同意を、あとから取り消せるでしょうか。結論は、原則として、できません。理由は、相手方の立証計画です。検察官は、弁護人の同意を見て、その証人の請求を、取り下げているかもしれません。その後に、同意を取り消されると、証拠が、足りなくなります。審理が混乱し、相手方は、手続上の信頼を、裏切られます。軸で言えば、一度渡した通行証を、相手がそれを前提に立証の計画を組んだあとで取り上げるのは、不公平だ、ということです。下級審の裁判例では、少なくとも、証拠調べを実施する前で、相手方の利益が害されないなら、許される余地がある、とされます。ですから、答案では、原則不可、例外として、証拠調べ前で相手方の利益を害さない場合、と書き分けます。もう1つ、同意と、立証趣旨の関係です。前に、立証趣旨に縛られるのは、裁判所ではなく、請求した当事者だ、と見ました。裁判所は、立証趣旨と違う事実の認定に、証拠を使えます。ところが、同意する側から見ると、話が変わります。設例4です。検察官が、領収書の作成の事実、という立証趣旨で、経理担当者の供述書を請求しました。弁護人は、その立証趣旨なら争わない、と考えて、同意しました。ところが、その供述書には、別の取引についての、他人の言動が、書かれていました。裁判所が、そこから、別の事実を認定したら、どうでしょうか。
弁護人は、そんな使い方をされるとは、考えていなかったはずです。不意打ちですね。同意は、請求のときの立証趣旨を前提にしていることが多いからです。実務上の工夫として、同意するときに、立証趣旨の範囲に限る、と留保したり、裁判所が、別の事実の認定に使う前に、当事者に確認したりすることが、必要だと説明されます。暗記です。撤回は、原則として不可。同意は、立証趣旨を前提にしている。
擬制同意:326条2項
図:擬制同意の発動条件
- 被告人が出頭しなくても証拠調べができる場面、軽い罰金科料の事件、裁判所が出頭しなくてよいと許した場合、勾留中の被告人が正当な理由なく出頭を拒んだ場合、退廷した場合や退廷を命じられた場合
- 被告人が出頭しない
- 弁護人や代理人も出頭しない
- 同意があったものとみなす
- 弁護人が出頭していれば止まる
次は、2項です。もう一度、条文を見ます。
条文刑事訴訟法第326条第2項
刑事訴訟法第326条第2項 被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において、被告人が出頭しないときは、前項の同意があつたものとみなす。但し、代理人又は弁護人が出頭したときは、この限りでない。
擬制、というのは、みなす、という意味です。同意の意思があったかどうかにかかわらず、同意があったことにします。対象は、被告人が出頭しなくても、証拠調べができる場面です。軽い罰金か科料の事件、284条。裁判所が、出頭しなくてよいと許した場合、285条。勾留中の被告人が、正当な理由なく出頭を拒み、引致を著しく困難にした場合、286条の2。そして、被告人が、陳述をせず許可なく退廷した場合や、秩序維持のため、裁判長から退廷を命じられた場合、341条です。被告人が来ていないなら、なんでも同意になるのですか。違います。ただし書があります。代理人や弁護人が、出頭したときは、擬制されません。弁護人が法廷にいれば、不同意と言えるからです。被告人も弁護人も、いないときだけです。設例5です。罰金のみの軽い事件で、被告人も弁護人も出頭しない期日に、検察官が書証を請求しました。擬制同意で、書証は、証拠にできます。弁護人が1人でも出頭していたら、擬制はされず、その弁護人に意見を聞きます。では、退廷を命じられた場合にも、この擬制は及ぶのでしょうか。判例があります。被告人が、秩序維持のために退廷を命じられ、341条によって審理が進められた事案です。最高裁は、2項の趣旨を、こう読みました。
判例最決昭53・6・28 刑集32巻4号724頁
326条2項の趣旨と退廷を命じられた場合への適用の判旨 刑訴法三二六条二項は、必ずしも被告人の同条一項の同意の意思が推定されることを根拠にこれを擬制しようというのではなく、被告人が出頭しないでも証拠調を行うことができる場合において被告人及び弁護人又は代理人も出頭しないときは、裁判所は、その同意の有無を確かめるに由なく、訴訟の進行が著しく阻害されるので、これを防止するため、被告人の真意のいかんにかかわらず、特にその同意があつたものとみなす趣旨に出た規定と解すべきであり、…同法三二六条二項は、被告人が秩序維持のため退廷を命ぜられ同法三四一条により審理を進める場合においても適用されると解すべきである。
判旨の要点は、2つです。1つ目。2項は、被告人の同意の意思が推定されるから、みなすのではない、ということです。被告人も弁護人も出頭しないと、同意の有無を確かめる方法がなく、訴訟が止まってしまいます。それを防ぐために、被告人の真意にかかわらず、同意があったものとみなす。これが、理由です。2つ目。そうであれば、退廷を命じられた場合にも、適用されます。341条で審理を進める場合です。決め手は、止めないため、です。だから、弁護人が出頭して、意思を確かめられるなら、擬制の必要がなくなり、除かれます。補足です。前に、証人が被告人の前では十分に話せないときに、被告人を退廷させる場面を見ました。この退廷は、304条の2が、弁護人が出頭している場合に限っています。弁護人が法廷にいるので、擬制同意にはなりません。
⭐ 論文で書く規範:擬制同意(2項) 被告人が出頭せず、弁護人や代理人も出頭しないときだけ、被告人の真意にかかわらず、同意があったものとみなす。退廷を命じられた場合にも及ぶ | 訴訟の進行が著しく阻害されるのを防ぐための定め (判例の理解——判決の結論を一般化した理解・条文の要件ではない)
暗記です。擬制同意は、被告人も弁護人も不在のときだけ。退廷命令の場合にも及ぶ。
327条:合意書面
図:326条と327条の比較表
- 326条は、相手方が請求してきた既存の証拠に同意する
- 327条は、検察官と被告人又は弁護人が内容を合意して、新たに書面を作る
- 327条は、元の文書や供述が無くても作れ、取り調べないでも証拠にできる
- どちらも、証明力を争うことは妨げられない
最後は、327条の合意書面です。全文で出します。
条文刑事訴訟法第327条
刑事訴訟法第327条 裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人が合意の上、文書の内容又は公判期日に出頭すれば供述することが予想されるその供述の内容を書面に記載して提出したときは、その文書又は供述すべき者を取り調べないでも、その書面を証拠とすることができる。この場合においても、その書面の証明力を争うことを妨げない。
同意と、何が違うのか。見分ける軸は、ひとつです。326条の同意は、相手方が請求してきた、すでにある証拠に、意見を言う行為です。327条の合意は、検察官と被告人側が、内容を一緒に決めて、新たに書面を作る行為です。具体的には、どんな場面ですか。設例6です。被害届の受理日時や、現場の位置関係のように、争いのない事実があります。検察官と弁護人が、その内容を、1枚の書面にまとめて、合意して、裁判所に提出します。すると、被害届を作った人や、現場を見た人を、証人として呼ばなくても、その書面が、証拠になります。同意と合意書面の違いは、3点で整理できます。1点目、同意は、請求された元の書面や供述が、すでに存在します。合意書面は、元の書面や供述が、無くても作れます。2点目、合意書面は、その文書や、供述すべき者を、取り調べないでも、証拠にできます。3点目、どちらでも、証明力を争うことは、妨げられません。合意したのは、証拠にできる、というところまでで、中身を信用するかは、別だからです。
条文は、被告人又は弁護人と書いています。弁護人の合意でも足りる書き方です。裁判員裁判で、争いのない部分を、整理するために、活用が期待されました。ただ、双方の署名押印が、手間になるとされ、実務は、一方が書面を作り、相手が同意する、という同意書面で処理することが多いと言われます。暗記です。合意書面は、内容を合意して新たに作る。元の文書や、話す予定の人を、取り調べなくても、証拠にできる。ただし、証明力は争える。
不同意のとき:地図に戻る
図:不同意の出口
- 326条は使えない
- 伝聞例外の要件を1つずつ見る道へ
- 321条1項各号、322条、323条、324条
- 請求を維持して要件を主張できる
- ここまでの5回分の地図に戻る
最後に、同意されなかったときを確認します。不同意なら、326条は使えません。そこで、321条1項の各号、322条、323条、324条の要件を、1つずつ見る道に戻ります。不同意になったら、その書面は、もう証拠にならないのですか。違います。検察官は、請求を維持して、要件を主張できます。前に見た、2つの道のうちの、もう1つです。ここまでの5回分の地図に、戻る、ということです。
今日の地図(保存版)
図:答案の順序
- 請求された書証に同意があるか、被告人の意思に反していないか
- 次に相当性、任意性に疑いはないか
- 不同意なら321条以下の要件へ
- 被告人も弁護人も不在なら擬制同意
まとめます。答案の順序です。請求された書証に、当事者の同意があるかを見ます。被告人の意思に、反していないか、も確かめます。次に、相当性です。任意性に、疑いはないか。最後に、同意がなければ、321条以下の要件を見ます。
図:短答の落とし穴の前半4問
- 同意したら反対尋問権を放棄して原供述者を呼べない、は誤りで、付与説なら呼べる
- 弁護人の同意は常に有効、は誤りで、被告人の意思に反するなら確かめ直す
- 同意は撤回自由、は誤りで、原則として撤回できない
- 326条2項の擬制同意はすべての不出頭に及ぶ、は誤りで、弁護人が出頭していれば及ばない
短答の落とし穴を、○×で言います。同意は、反対尋問権の放棄にすぎず、同意したら、原供述者を証人として呼べない。×です。付与説に立てば、呼べます。弁護人の同意は、被告人の意思に反していても、常に有効。×です。反するなら、被告人本人に確かめます。同意は、撤回自由。×です。原則として、できません。326条2項の擬制同意は、被告人が出頭しない、すべての場合に及ぶ。×です。弁護人や代理人が出頭していれば、及びません。
図:短答の落とし穴の後半4問
- 退廷を命じられたら擬制同意は及ばない、は誤りで、判例は及ぶとした
- 合意書面は証明力を争えない、は誤りで、争える
- 同意があれば自白調書は必ず証拠になる、は誤りで、任意性に疑いがあれば相当性を欠く
- 327条の合意は326条の同意と同じ意思表示、は誤りで、同意は既存の証拠への意思表示、合意は内容を決めて新たに作る書面
退廷を命じられた場合には、擬制同意は及ばない。×です。判例は、及ぶとしました。合意書面は、証明力を争えない。×です。争えます。同意があれば、自白調書でも必ず証拠になる。×です。任意性に疑いがあれば、相当性を欠きます。327条の合意書面は、326条の同意と、同じ意思表示である。×です。同意は、すでにある証拠への意思表示、合意は、内容を決めて新たに作る書面です。冒頭の問いの答えは、こうですね。同意は、調書に、証拠になる資格を与えただけで、反対尋問権を手放していない。だから、同意のあとでも、その目撃者を、証人として呼べる。次は、伝聞例外の要件を満たさない書面でも、証人の話の信用性を崩すためなら使える、という道です。328条の、証明力を争う証拠を見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第326条
- 刑事訴訟法第326条第2項
- 刑事訴訟法第327条