伝聞供述と再伝聞
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第5章 証拠法 ⑭/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:法廷で証人が、被害者が、犯人は赤い服だったと言っていました、と話す場面
- 証人は法廷にいて問い詰められるが、赤い服だったかどうかは確かめられない
- この証言は証拠になるのか、という問い
なる場合と、ならない場合があります。そして、その分かれ目は、とても単純な1点です。話した元の人が、被告人なのか、被告人以外なのか、です。前回までは、書面の例外を見てきました。今日は、法廷で口で語られる、又聞きの証言です。この1本の軸で、その扱いを決めます。さらに、同じ軸を伸ばして、伝聞が二重になる再伝聞まで、一続きに解きます。
又聞きの証言:法廷にいる人と、いない人
図:関係図
- 法廷にいない原供述者が、法廷の外で、又聞きの証人に話した
- 又聞きの証人は法廷で、その話を裁判所に語る
- 法廷で確かめられるのは、何を聞いたかまで
- 見間違いや記憶違いは、封をされた箱のまま届く
又聞きの証言には、2人の人が登場します。1人目は、法廷で証言台に立つ、又聞きの証人です。2人目は、その証人が、法廷の外で話を聞いた相手、元の人です。これを、原供述者と呼びます。この人は、法廷にいません。例えで考えます。伝言ゲームの、2番目の走者に、今の話は本当ですか、と問い詰めたとします。2番目の走者に確かめられるのは、1番目の走者から何と聞いたか、までです。1番目の走者が、見間違えていたのか、覚え違いをしていたのかは、2番目の走者には分かりません。前に見た言葉で言うと、元の人の、知覚、記憶、表現、叙述という関所は、封をされた箱のまま、証人の手元に届きます。証人を、どれだけ問い詰めても、箱の中は開きません。条文で言うと、320条1項の後段です。法廷の外での、他の人の供述を内容とする供述は、原則として、証拠にできません。前に見たとおり、他人の話を内容とする供述なので、伝聞供述と呼びます。又聞きの証言は、この伝聞供述です。
話した事実そのものを証明したいだけの場合は、どうなりますか。それは、前に見た、非伝聞の話です。要証事実が、話した内容の真実性ではなく、話したこと自体なら、そもそも伝聞ではありません。今日扱うのは、話の中身が本当かどうか、を証明するために使う場合です。ただし、原則排除というだけで、道が閉じているわけではありません。結論を先に言います。又聞きの証言は、書面で出す場合と同じ要件を満たせば、例外として入ります。ここで、軸が出てきます。どの書面の要件を借りるかは、元の人が誰かで決まります。
324条の条文と、借りる条文の振り分け
図:324条の骨組み
- 1項は、被告人以外の者の供述で被告人の供述を内容とするものは、322条を準用する
- 2項は、被告人以外の者の供述で被告人以外の者の供述を内容とするものは、321条1項3号を準用する
- 元の人が被告人なら322条、被告人以外なら321条1項3号
条文を、全文で出します。324条です。
条文刑事訴訟法第324条
刑事訴訟法第324条 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人の供述をその内容とするものについては、第三百二十二条の規定を準用する。 2 被告人以外の者の公判準備又は公判期日における供述で被告人以外の者の供述をその内容とするものについては、第三百二十一条第一項第三号の規定を準用する。
準用する、というのは、その条文の要件を、そのまま借りる、という意味です。1項は、元の人が被告人の場合です。借りる条文は322条です。2項は、元の人が被告人以外の場合です。借りる条文は、321条1項3号です。短答では、1項が321条1項3号を準用する、と入れ替えた選択肢が、定番で出ます。元の人は誰か、で毎回確かめてください。
図:324条の準用先の比較表
- 元の人が被告人なら1項で322条1項を借り、不利益な事実の承認なら任意性に疑いがないこと、それ以外は特に信用すべき情況
- 元の人が被告人以外なら2項で321条1項3号を借り、供述不能、犯罪事実の存否の証明に欠くことができないこと、特に信用すべき情況の3つ全部
借りた先の中身も、呼び戻します。322条1項は、被告人の供述が、不利益な事実の承認なら、任意性に疑いがないこと。それ以外の内容なら、特に信用すべき情況の下でされたこと、でした。321条1項3号は、供述不能、不可欠性、特に信用すべき情況の、3つ全部でした。では、確認です。321条1項3号が求める3つの要件は、何でしたか?供述が法廷でできないこと、つまり供述不能。犯罪事実の存否の証明に欠くことができないこと。そして、特に信用すべき情況の下で、された供述であること、の3つです。今日は、これを、又聞きの証言に当てはめます。
設例で当てはめる
図:設例アとイの関係図
- 設例アは、同僚が法廷で、被告人があのお金は俺が持ち出したと言っていた、と証言する
- 元の人は被告人なので324条1項で322条1項へ
- 設例イは、重傷を負った被害者が近所の人に犯人の特徴を話し、その後死亡し、近所の人が法廷で証言する
- 元の人は被害者で324条2項、321条1項3号へ
設例アです。会社の同僚が、法廷で証言します。被告人が、あのお金は俺が持ち出した、と言っていた、という証言です。元の人は、被告人です。だから、324条1項で、322条1項を借ります。被告人の言葉は、自分に不利益な事実の承認です。ですから、任意性に疑いがなければ、証拠にできます。322条の趣旨と同じです。被告人は、自分の言葉について、自分で否定も弁明もできますからね。設例イです。重傷を負った被害者が、搬送される前に、近所の人に、犯人の特徴を話しました。被害者は、その後、亡くなりました。この近所の人が、法廷で、聞いたことを証言します。元の人は、被害者です。被告人以外の人です。だから、324条2項で、321条1項3号を借ります。供述不能は、被害者が亡くなっているので、満たします。不可欠性は、犯人を見た人が他にいなければ、満たします。特に信用すべき情況は、被害者が話した状況を、個別に見て決めます。3つとも満たせば、近所の人の証言は、証拠になります。
署名や押印は、要りません。324条が借りるのは、書面そのものではなく、要件です。法廷で語る証人は、自分の言葉で話すので、書面を作る人が、いません。署名や押印をする場面が、そもそも存在しないのです。趣旨は、こう説明されます。書面で出しても、口で出しても、同じ内容には、同じ要件を求める。書面なら通らない話を、証人の口から出すことで、通してしまう抜け道を、塞ぐのです。
証人尋問の最中に又聞きが出たら
図:異議の流れ
- 証人尋問中に又聞きが出たら、相手方がすぐに異議を述べる
- 尋問する側が324条の要件を満たすと主張する
- 裁判所が判断する
- 満たさなければ、裁判所が排除する決定をする
法廷の外の話を語り始めたら、相手方は、すぐに、異議を述べます。根拠は、309条1項です。
条文刑事訴訟法第309条第1項
刑事訴訟法第309条第1項 検察官、被告人又は弁護人は、証拠調に関し異議を申し立てることができる。
異議が出たら、尋問をする側が、324条の要件を満たす、と主張します。裁判所は、その主張を判断します。要件を満たさないと判断すれば、その供述を排除します。刑事訴訟規則でも、裁判所が、排除する決定をしなければならない、とされています。異議が出なかった事案で、証拠能力を認めた判例はあります。ただ、判例は、異議が出ていない点にも触れたうえで、元の人が記憶をすっかり失い、行方も分からない、という事情を挙げて、324条2項と321条1項3号の趣旨に則って、認めました。異議が無いことだけが理由ではありません。その後、最高裁は、異議の申立てが無いまま、その証人の尋問が終わったときは、特段の事情がない限り、黙示の同意があったものとして、証拠能力を認める、と述べました。こちらは、326条の同意の話です。
被告人が法廷で他人の話を語るとき
図:被告人が法廷で語る場合の振り分け表
- 324条は、被告人以外の者の公判供述だけを対象にしており、被告人自身が語る場合は明文なし
- 多数説は、被告人に不利益な供述なら322条1項を準用し、反対尋問権を放棄したと解する
- 不利益でない供述なら321条1項3号を準用し、検察官の反対尋問権を確保する
324条の主語を、もう一度見てください。被告人以外の者の、公判準備又は公判期日における供述、でした。明文は、ありません。324条は、被告人以外の者の供述だけを対象にしているからです。そこで、多数説は、供述の中身で、2つに分けます。1つ目は、被告人に不利益な供述です。例えば、被告人が、共犯者が、見張りを頼む、と頼んできた、と法廷で語る場合です。元の話は共犯者のものですが、それを法廷に持ち出したのは、被告人自身です。共犯者を問い詰める権利は、もともと被告人のものなので、自分から持ち出した以上、その権利は放棄したと解します。すると残るのは、被告人が、自分に不利益な事実を認めた話と同じ形です。だから、322条1項を準用して、任意性に疑いがなければ足ります。2つ目は、不利益ではない供述です。例えば、被告人が、知人が、あの晩は自分があの家にいた、と話していた、と法廷で語る場合です。これは、被告人に有利な話です。
有利な話でも、無条件で認めると、困ります。被告人が、知人から聞いた、と言い張れば、検察官は、確かめる手段がありません。言いっぱなしで、逃げられてしまいます。そこで、321条1項3号を準用します。3号は、元の人を法廷で問い詰められない話を、供述不能、不可欠性、特に信用すべき情況の3つがそろうときだけ通す条文でした。知人を法廷に呼べるなら、検察官は知人本人を問い詰めればよいので、供述不能を満たさず、又聞きのままでは通りません。これが、検察官の反対尋問権を確保する、という意味です。
⭐ 論文で書く規範:被告人が法廷で他人の話を語るとき(多数説) 被告人の公判供述に他人の供述が含まれる場合は | 明文なし。多数説は、不利益なら322条1項、不利益でなければ321条1項3号を準用 | 反対尋問権の放棄、または検察官の反対尋問権の確保から (規範(多数説・通説型)——判例の規範ではない・条文の要件でもない。共同被告人の公判供述は別の回)
共同被告人が公判廷でした供述は、別の回で扱います。今日は、被告人が自分で語る場合までです。
再伝聞:伝聞の中の伝聞
図:再伝聞の鎖
- 設例ウ
- 被告人が知人に、俺がやった、と話す
- 知人は検察官に、被告人がそう話していた、と供述し、検察官が調書にする
- 中の箱は被告人から知人への話、外の箱は知人から検察官への供述録取
- 法廷の外の話が2段重なる
- 関所が二重になる
ここから、山場です。再伝聞です。設例ウです。被告人が、知人に、俺がやった、と打ち明けました。その知人が、検察官に、被告人からこう聞いた、と話し、検察官が、それを調書にしました。検察官が、この調書を、証拠として請求します。この調書の中には、箱が2つあります。外側の箱は、知人が検察官に話した、供述録取書です。中の箱は、被告人が知人に話した、打ち明け話です。関所が、二重にある。これが、再伝聞です。判例が、答えを出しています。放火未遂の事件の判決です。
図:判例の要点
- 放火未遂の事件
- 調書の中に被告人の供述が含まれていた
- 判旨は、321条1項2号と324条により証拠能力を認めたのは正当、と判断
- 理由は、原供述者が被告人なので、反対尋問をすべき被告人に、自分への反対尋問権はなく、任意の供述で否定も弁明もできるから、この点で憲法37条2項の権利が侵害されることはない、と判断
- 最判昭32・1・22
判決は、まず、結論を言いました。321条1項2号と324条によって、その調書の、問題の部分に証拠能力を認めたのは、正当だ、としたのです。次に、理由です。ここは、判決が実際に言った言葉に沿って話します。元の人は、被告人です。憲法37条2項の反対尋問権は、被告人に、与えられた権利です。その被告人は、元の人である自分自身に、反対尋問する権利を持ちません。そして、被告人は、欲すれば、任意の供述で、自分がしたとされる供述を、否定も弁明もできます。判決は、これを、自らを反対尋問するのと、同じ効果がある、と言いました。だから、この点で、憲法37条2項の権利が侵害されることはない、と判断しました。
322条の趣旨が、ここに戻ってきます。ただし、これは、元の人が被告人だった場合の理由です。次に、判決が言っていないことを、はっきり分けて話します。元の人が被告人以外でも、再伝聞は認められるのですか。そこが、論点になります。ここから先は、判決の言葉ではなく、学説の説明です。
図:学説の説明
- 320条は、例外に当たれば、公判期日における供述に代えて、書面を証拠にできると定めている
- だから、外側の箱が2号の要件を満たせば、公判供述と同視できる
- すると、中の被告人の話は、公判供述の中の伝聞供述として、324条で処理できる
- これは学説の説明であり、判決文の言葉ではない
320条1項の作りを、思い出してください。伝聞の例外に当たれば、公判期日における供述に代えて、書面を証拠にできる、という作りです。そこで、外側の箱の調書が、321条1項2号の要件を満たすとします。すると、その調書は、公判期日における供述に代えて、証拠にできます。つまり、調書の中の話は、公判で語られた供述と、同じように扱えます。公判で語られた供述の中に、他人の話が入っているなら、それは、又聞きの証言と同じ形です。だから、中の箱は、324条で処理できる。そう説明されます。同じ理屈を使えば、箱が3つ続く再々伝聞でも、各過程が、それぞれの例外の要件を満たせば、証拠能力が認められます。
⭐ 論文で書く規範:再伝聞は、過程ごとに例外の要件を当てる 再伝聞は | 各伝聞過程が、それぞれ伝聞例外の要件を満たすときは、証拠能力が認められる | 外側の箱と中の箱を分け、箱ごとに、元の人に応じた条文を割り付ける (判例の理解——判決の結論を一般化した理解・条文の要件ではない。論文で論点になりうる)
暗記は、1文です。再伝聞は、各伝聞過程ごとに、それぞれの例外の要件を当てる。箱を1つずつ、順に、それぞれの例外の要件で通していくので、これを鎖の論理と呼びます。判例の結論を一般化した考え方です。判例が、2号と324条を重ねて使ったのも、この形です。設例ウに当てはめます。外側の箱は、知人が検察官に話した調書なので、321条1項2号です。2号は、前に見たとおり、知人が法廷で話せないか、法廷で前と違う話をして、前の話の方が信用できる情況があるとき、でした。中の箱は、被告人の話なので、324条1項で、322条1項を借ります。不利益な事実の承認ですから、任意性に疑いがなければ足ります。2つの条文が、それぞれ必要です。
再伝聞への批判と、実務の扱い
図:再伝聞への批判と実務
- 批判は、元の人に署名押印がなく、調書が元の話を正確に写したか分からず、録取過程の正確さが担保されない点
- 実務は、元の人に内容を確認する肯定確認をするか、聞き手に反対尋問して元の話の存在を確かめる
- 再伝聞は、ほかに立証の手段が乏しいときに限って使う
- 学説は、肯定説、否定説、肯定確認限定説
その鎖の論理に、弱いところはないのですか。あります。批判の中心は、署名や押印です。外側の箱の調書には、聞き手の署名か押印があります。でも、元の人は、その調書に、署名も押印もしていません。元の話が、正確に写し取られたかは、保障されていません。そこで、実務は、2つの手当てをします。1つは、元の人に、その内容で間違いないか、確認することです。肯定確認です。もう1つは、聞き手の人に反対尋問をして、元の話があったことを確かめます。そのうえで、再伝聞は、ほかに立証の手段が乏しいときに限って、使います。何でも、再伝聞で立証する、というやり方は、しません。学説は、3つに分かれます。各過程が例外に当たれば認める、肯定説。324条を類推することを否定する、否定説。肯定確認がある場合に限る、肯定確認限定説、です。名前だけ押さえておいてください。答案は、この鎖の論理で書きます。320条の作りから、そう説明できるからです。
設例エ:元の人が被告人以外の再伝聞
図:再伝聞の2つの型の並べた比較
- 1項型は、元の人が被告人
- 外側の箱は321条1項2号、中の箱は324条1項で322条1項
- 設例エの2項型は、元の人が被害者
- 外側の箱は321条1項2号、中の箱は324条2項で321条1項3号の、供述不能、不可欠性、特に信用すべき情況の3つ
- 2つの条文が別々に要る
設例エです。元の人が、被告人以外の場合です。目撃者が、検察官に、被害者から、犯人は赤い服だった、と聞いた、と供述しました。検察官が、それを調書にして、証拠として請求します。外側の箱は、目撃者が検察官に話した調書です。321条1項2号です。中の箱は、被害者の話です。被害者は被告人以外ですから、324条2項で、321条1項3号を借ります。中の箱では、被害者が供述できないこと、被害者の話が不可欠なこと、話した情況が特に信用できること、の3つが要ります。例えば、被害者がすでに亡くなっていれば、供述不能を満たします。判決自身が判断したのは、元の人が被告人の型です。設例エは、同じ鎖の論理を、元の人が被告人以外の型に伸ばした結論です。逆に、被害者が元気で、法廷に呼んで話を聞けるとします。中の箱は、供述不能を満たしません。外側の箱が2号を通っていても、赤い服の部分は、証拠にできません。片方の箱を通っても、もう片方の箱を通ったことには、ならないのです。手順は、同じです。箱を分ける。箱ごとに、元の人は誰かを見る。元の人に応じた条文を、それぞれ当てる。
写しの証拠能力
図:写しの証拠能力
- 書証は原本が原則
- 一般には3要件
- 1、原本が存在し、または存在した
- 2、写しが原本を正確に転写している
- 3、原本の提出が不可能または困難
- コピー機などの機械的複写は、正確性が高度に担保されるので3を緩めてよい
- 東京高裁は、テレビ放送を録画したビデオテープについて、3を要件とせず、原本の存在、忠実な再現、写しで再現できない性状が立証事項でないことで証拠能力を認めた
- 東京高判昭58・7・13
最後に、少し角度を変えます。書面の写しです。310条の但書を見てください。
条文刑事訴訟法第310条
刑事訴訟法第310条 証拠調を終つた証拠書類又は証拠物は、遅滞なくこれを裁判所に提出しなければならない。但し、裁判所の許可を得たときは、原本に代え、その謄本を提出することができる。
条文は、証拠書類は、原本で提出するのが前提です。謄本で代えるには、裁判所の許可が要ります。ここから、書証は、原本が原則、と考えます。例えば、借用書の原本が、火事で焼けて、コピーだけが残っているとします。一般には、3つの要件で、写しにも、証拠能力を認めます。1つ目、原本が存在した。2つ目、写しが、原本を正確に写している。3つ目、原本を提出することが、不可能か、困難である。借用書の例は、3つとも満たします。ただし、コピー機のような、機械的な複写は、正確性が高度に担保されています。だから、3つ目を、緩めてよいとされます。東京高裁の裁判例は、さらに進みました。テレビのニュースを録画した、ビデオテープなどについて、原本の存在、忠実な再現、そして、写しでは再現できない性状、例えば材質や凹凸が、立証事項でないことを理由に、証拠能力を認めました。3つ目の、提出が不可能か困難、という点は、写しを許す基準に数える必要はない、としました。なぜ3つ目を外せるのか。写しで本当に問題になるのは、写しが原本の中身を正確に伝えているか、です。例えば、ニュースに映った街頭の場面を録画したテープなら、映像も音声も、そのまま再現されています。材質や凹凸のように、写しでは伝わらない性質を証明したいのでもありません。それなら、原本を出せるかどうかは、写しの正確さとは関係がありません。判決は、原本を出せるかどうかは、最良証拠の法則、つまり写しを出す必要があるかの問題だ、と位置づけました。
短答では、一般には3要件、機械的複写は緩和、と覚えてください。謄本や抄本は、原本と相違ないことを、公的に認証した写しです。単なる写しは、その認証がありません。違いは、認証の有無、と押さえてください。前に見た、戸籍謄本や住民票の写しは、公務員が証明のために作る書面そのもので、323条で入ります。ここでの写しは、原本の代わりに出す写しの話で、別物です。注意点が、2つあります。まず、当事者が同意すれば、写しも使えます。同意の中身は、別の回に回します。もう1つ、写しの話と、伝聞の話は、別です。写しの要件を満たしても、原本が、そもそも証拠として許されるか、を別に見ます。
任意性の調査:325条
図:325条の骨組み
- 321条から前条までで証拠にできる書面や供述でも、あらかじめ、その供述が任意にされたかを調査した後でなければ証拠にできない
- 決定は、調査は証拠調べの前でなくてよく、証拠調べ後に証明力を評価するときでもよい
- 同意書面には不要
- 出番は多くない
最後に、325条です。全文で出します。
条文刑事訴訟法第325条
刑事訴訟法第325条 裁判所は、第三百二十一条から前条までの規定により証拠とすることができる書面又は供述であつても、あらかじめ、その書面に記載された供述又は公判準備若しくは公判期日における供述の内容となつた他の者の供述が任意にされたものかどうかを調査した後でなければ、これを証拠とすることができない。
321条から324条までの要件を満たして、証拠能力が認められる書面や供述でも、さらに、その供述が任意にされたかを、調査しなければなりません。決定は、こう説明しました。任意性の程度が低く、証明力が乏しい書面や供述、あるいは、任意性がなく、証拠能力も証明力も欠く書面や供述を、取り調べて、不当な心証を作ってしまうことを、できる限り防ぐためだ、としています。時期は、2つ押さえます。決定は、任意性の調査は、必ずしも、証拠調べの前でなくてよい、としました。証拠調べをしたあと、その証明力を評価するときに、調査しても差し支えない、というのです。もう1つ。被告人が、書面を証拠とすることに同意した場合には、325条の調査は要りません。判決が、そう言っています。同意の中身は、次の回で見ます。
伝聞の例外は、信用性の情況的保障を前提にしています。任意性がない供述が、例外の要件を通る場面は、考えにくいのです。325条が、前面に出る場面は多くありません。
今日の地図(保存版)
図:答案の順序の保存版
- 又聞きが出たら、元の人は誰か
- 被告人なら324条1項で322条、被告人以外なら324条2項で321条1項3号
- 再伝聞なら箱を分けて、箱ごとに条文を当てる
- 最後に325条の任意性の調査
- 調査は証明力の評価の前まででよく、同意書面には不要
まとめます。答案の順序です。又聞きが出たら、まず、元の人は誰か、を確かめます。被告人なら、324条1項で322条。被告人以外なら、324条2項で321条1項3号です。伝聞が二重なら、箱を分けます。箱ごとに、元の人に応じた条文を当てます。最後に、325条の、任意性の調査を、忘れないでください。
図:短答の落とし穴
- 324条1項は322条、2項は321条1項3号
- 署名押印は要らない
- 被告人の公判供述に324条は直接及ばない
- 再伝聞は判例上、各過程が例外を満たせば認められる
- 325条の調査は証拠調べの前でなくてよく、同意書面には不要
- 写しは3要件が一般
短答の落とし穴を、○×で言います。324条1項は、321条1項3号を準用する。×です。322条を準用します。又聞きの証言を324条で通すには、署名と押印が必要。×です。要りません。被告人が、法廷で語った他人の話にも、324条が直接及ぶ。×です。明文はなく、多数説が、供述の中身で分けます。再伝聞は、判例上、一律に証拠能力がない。×です。各過程が、それぞれ例外の要件を満たせば、認められます。325条の調査は、必ず証拠調べの前に要る。×です。証明力の評価のときでもよい。同意書面には、325条の調査は、要りません。写しは、常に証拠能力がない。×です。一般には3要件、機械的複写は緩和されます。
冒頭の問いの答えは、こうですね。被害者が、犯人は赤い服だったと言っていた、という証言は、元の人が被害者で、被告人以外です。だから、324条2項で、321条1項3号の3つの要件を満たせば、証拠になる。次は、伝聞例外の要件を当てはめる前に、当事者が証拠にすることに同意すれば、書面がそのまま証拠になる道です。326条の同意と、327条の合意書面を見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第324条
- 刑事訴訟法第309条第1項
- 刑事訴訟法第310条
- 刑事訴訟法第325条