回復証拠と増強証拠(328条)
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第5章 証拠法 ⑯/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:居酒屋の傷害事件の続き
- 弁護人は、事件の翌日に客が話した調書で、被告人が先に殴ったという客の証言を崩した
- 今度は検察官の番
- 翌日の調書より前、事件の当日にも、客は法廷と同じことを言っていた、という調書
- 同じことを2回言った人は、1回しか言わなかった人より信用できるのか
- 設例4
前回、弁護人は、客が事件の翌日に違うことを言っていた調書で、法廷の証言を崩しました。今度は、検察官の番です。居酒屋の事件の続きですね。検察官は、どうやって証言を立て直すのですか。設例4です。検察官が、こう言います。客は、事件の当日にも、現場に来た警察官に、被告人のほうが先に殴りかかった、と話していました。その調書を、328条で出します。署名も押印もあります。回数が多いほど信用できる、と感じるのは、自然な直感です。ところが、その直感の中に、落とし穴があります。先に答えを言います。2回言ったから信用できる、という使い方なら、328条では出せません。今日も、前回と同じ1本の軸で解きます。その書面の中身が本当だと前提しないと役に立たないなら、伝聞のままです。
前回のおさらい:328条で許される使い方
図:328条のおさらい
- 許されるのは、内容が本当かを問わない使い方だけ
- 補助証拠の3種
- 弾劾は信用性を減らす向き、増強は高める向き、回復は減らされた信用性を戻す向き
- 前回は弾劾だけ、今日は増強と回復
328条を、もう一度出します。
条文刑事訴訟法第328条
刑事訴訟法第328条 第三百二十一条乃至第三百二十四条の規定により証拠とすることができない書面又は供述であつても、公判準備又は公判期日における被告人、証人その他の者の供述の証明力を争うためには、これを証拠とすることができる。
前回の答えは、こうでした。328条で許されるのは、前の供述の中身が本当か、を問わない使い方だけです。同じ人物が前に違うことを言った、という事実だけを使う。これが弾劾でした。補助証拠には、3種ありました。信用性を減らす弾劾、高める増強、そして、一度減らされた信用性を戻す回復です。前回は、弾劾だけを見ました。今日は、残りの2つです。暗記の1文も、同じです。内容を使うなら、321条以下。した事実だけを使うなら、328条。
回復証拠:伝統的な2つの説明
図:回復証拠とは、弾劾でいったん減らされた証言の信用性を戻す証拠
- 伝統的な説明は2つ
- 1つ目、自己矛盾供述という弾劾証拠に対する弾劾だから、328条の争うに入る
- 2つ目、公判の供述と一致する供述があれば、供述の一貫性が確かめられ、信用性が戻る
回復証拠とは、弾劾で減らされた証言の信用性を、立て直す証拠のことです。伝統的には、これは328条で出せる、と説明されてきました。理由は、2つあります。1つ目は、弾劾への弾劾だ、という説明です。翌日の調書は、客の証言を弾劾する証拠でした。その弾劾を弾劾し返すのだから、やはり、証明力を争うことに入る、という考え方です。2つ目は、一貫性です。公判の証言と同じことを、別の機会にも言っている。こうした前の供述を、一致供述と呼びます。一致供述があるなら、この人の話はぶれていない。だから、信用性が戻る、という考え方です。
どちらも、もっともらしいです。設例4の調書も、出せるのですか。伝統的な説明だけなら、出せそうです。ところが、近時は、この2つの説明のそれぞれに、反論が出されています。
近時の2つの反論:なぜ回復は難しくなったか
図:設例4の客の供述の変遷
- 当日、被告人が先に殴った
- 翌日、先に手を出したのは被害者の男
- 公判、被告人が先に殴った
- 反論1、変わった回数が増えるだけで、かえって信用できないとも言える
- 反論2、2度言ったほうが本当らしいという経験則は、2度目の中身を本当だと前提している
- 伝聞として使うことになる
1つ目の反論です。弾劾への弾劾だ、という説明に対するものです。設例4の客の話を、時系列で並べます。当日は、被告人が先。翌日は、先に手を出したのは被害者の男。公判では、また被告人が先。当日の調書が無ければ、見えるのは、翌日と公判の食い違いだけです。当日の調書を出すと、話が変わった回数が、かえって増えて見えます。ぶれていない、という印象ではありません。かえって、場面ごとに話が変わる人だ、とも言えてしまいます。2つ目の反論は、一貫性に対するものです。2度言ったほうが、1度言ったより、本当らしい。この経験則は、本当に確かでしょうか。
回数は、真実の保証になりません。しかも、この経験則に頼るとき、頭の中で何が起きているか。2度目の供述の中身を、本当らしい、と見ています。つまり、一致供述の中身が本当だ、と使っています。これは、供述証拠として使っている、ということです。だから、中身を問わない使い方だけを許す、前回の理解と、ずれます。補足です。前回見た最高裁の判決は、一致供述や、回復、増強には、触れていません。ですから、これは判決の趣旨から導かれた推論で、学説の整理です。判例の結論ではありません。結論は、こうなります。回復証拠だから、といって、常に328条で出せるわけではありません。一致供述が回復になるのは、非伝聞として評価できる場合に限られる、という指摘です。
それでも回復に使える場面:いつ言ったか
図:設例5の時系列
- 客が、被害者の男の側から飲食代を肩代わりしてもらった
- 弁護人が、利益を受けたから被告人に不利な証言をした、と弾劾
- 検察官が、利益を受ける前の日付で、同じ内容を警察官に話した調書を出す
- 言いたいのは、中身が本当だではなく、利益を受ける前から同じことを言っていた、こと
- 中身が偽でも値打ちが残る
では、回復が通る場面は、無いのか。あります。設例5で見ます。同じ居酒屋の事件です。客が、被害者の男の側に、飲食代を肩代わりしてもらいました。弁護人が、こう弾劾します。この客は、利益を受けたから、被告人に不利な証言をしたのだ。ここで、検察官が、肩代わりを受ける前の日付で、客が警察官に、被告人が先に殴った、と話した調書を出します。言いたいのは、利益を受ける前から、同じことを言っていた、ということです。つまり、利益の影響で、言い出したのではない。前回の判定の問いを、当てます。この調書の中身が、仮に偽だったとしても、値打ちは残るか。残ります。たとえ、中身が間違いだったとしても、利益を受ける前から言っていた、という事実は変わりません。日付の入った封筒のようなものです。中を開けなくても、いつ封をしたか、だけで、意味があります。見分け方は、1つです。その一致供述を、中身が本当だと使わずに、存在した時期だけで使えるか。使えるなら、回復になりえます。
設例4では、言った時期が、利益や影響の話に、何も反論していません。時期で使えないので、この型には入りません。
設例4の結論
図:設例4の結論
- 当日の調書は、話が変わった回数を増やす以上の意味がない
- 2度言ったから信用できる、と主張すれば、中身を本当だと使う
- 供述証拠なので328条では出せない
- 出すなら321条以下
- 回復証拠として許容することは困難
- 答案では、中身を使うか、時期で使うかを問う
設例4に、答えを出します。当日の調書は、話が変わった回数を増やす以上の意味を、持ちません。検察官が、2度言ったのだから信用できる、と主張すれば、2度目の中身を本当だと使っています。これは、供述証拠です。328条では出せません。出すなら、321条以下の要件を、満たす必要があります。ここで、321条1項の、2号と3号を、見ておきます。
条文刑事訴訟法第321条第1項
刑事訴訟法第321条第1項(第2号・第3号) 二 検察官の面前における供述を録取した書面については、その供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明若しくは国外にいるため公判準備若しくは公判期日において供述することができないとき、又は公判準備若しくは公判期日において前の供述と相反するか若しくは実質的に異なつた供述をしたとき。ただし、公判準備又は公判期日における供述よりも前の供述を信用すべき特別の情況の存するときに限る。 三 前二号に掲げる書面以外の書面については、供述者が死亡、精神若しくは身体の故障、所在不明又は国外にいるため公判準備又は公判期日において供述することができず、かつ、その供述が犯罪事実の存否の証明に欠くことができないものであるとき。ただし、その供述が特に信用すべき情況の下にされたものであるときに限る。
設例4の調書は、検察官ではなく、現場の警察官に話したものなので、2号ではなく、321条1項3号の書面です。3号は、話した人が法廷で話せないことが必須でした。客は法廷で証言しているので、3号には当たりません。検察官の前の調書だったとしても、2号後段は、法廷の証言と食い違っていることが要件です。一致供述は食い違っていないので、こちらにも当たりません。結論は、回復証拠として許容することは、困難です。答案では、その一致供述を、中身で使うのか、時期で使うのかを、必ず問います。
⭐ 論文で書く規範:回復証拠の許否 一致供述は、中身の真実性を前提にするなら伝聞=328条では出せない | 存在した時期など、中身を使わない形で効く場合に限り、回復になりうる (学説の整理——最高裁判決の趣旨からの推論・判例の規範ではない。論文で論点になりうる)
増強証拠は328条で出せない
図:設例6
- 客が公判で、被告人が先に殴った、と証言
- 検察官が、捜査段階の同じ内容の調書を、328条で出して証言を強めたい
- 理由1、証言が本当だと推し量るには、調書の中身も本当だと前提しなければならない
- 理由2、条文は証明力を争う、で、減らす向きの文言
- 強めることは入りにくい
- 出すなら321条以下
次は、増強証拠です。証言の信用性を、高める向きの補助証拠でした。別の目撃者の証言で裏づけるのも、その1つです。今日の問題は、まだ崩される前に、同じ人物の前の供述を、328条で出して強める使い方です。設例6です。客が、公判で、被告人が先に殴った、と証言しました。検察官は、これを強めたい。そこで、捜査段階の、同じ内容の調書を、328条で出そうとします。出せるでしょうか。出せません。理由は、2つあります。1つ目。公判の証言が本当らしい、と推し量るには、強めるために出す調書の中身も、本当だと前提しなければなりません。供述証拠として使っています。回復のところで見た、中身を使う使い方と、同じ型です。回復のときの、時期で使う道も、増強には、通常ありません。まだ誰も、利益を受けたから言い出した、と崩していないので、いつ言ったか、が答える相手がいないからです。2つ目。条文は、証明力を「争う」と書いています。減らす向きの言葉です。強めることまでは、文言に入りにくい。
出すなら、321条以下の、伝聞例外の要件を満たす必要があります。328条は、その抜け道には、なりません。暗記は、増強は、328条では出せない。出すなら、321条以下です。
証人尋問のあとに作った調書
図:設例7
- 店員が検察側の証人として、被告人は手を出していなかった、と証言し、検察官に不利
- 尋問のあと、検察官が法廷の外で取り調べ、被告人が先に手を出したと話した調書を作り、328条で請求
- 懸念1、公判中心主義の形骸化
- 懸念2、不利な証言をした証人に圧力をかけて作らせた調書かもしれない
- 最高裁は、必ずしも328条に違反するものではない、とした
時間の問題を、見ます。設例7です。店員が、検察側の証人として、法廷で、被告人は手を出していなかった、と証言しました。検察官にとっては、不利な証言です。尋問のあと、検察官が、店員を、法廷の外で取り調べました。そして、実は、被告人のほうが先に手を出した、と話した調書を、作りました。署名と押印もあります。これを、328条で請求します。同じ人物が、別の機会に、違うことを言った、という事実を示す点は、変わりません。ただ、懸念が2つあります。1つ目は、公判中心主義の形骸化です。法廷が一番大事なはずなのに、法廷の外の活動のほうが、優先されてしまう。2つ目は、作為の危険です。不利な証言をした証人を呼び出して、圧力をかけて、作らせた調書かもしれません。この点について、最高裁は、証人の尋問が終わったあとに作られた、同人の検察官調書を、その証言の証明力を争う証拠として採った原判決の扱いを、こう判断しました。
判例最高裁判所第二小法廷判決・昭和43年10月25日(刑集22巻11号961頁)
証人尋問後に作成された供述調書と328条 …必ずしも刑訴法三二八条に違反するものではない…
この判決は、理由を詳しく示した判断ではありません。上告の主張への、短い応答です。理由は、自分で補うことになります。手がかりは、条文の見比べです。321条1項2号の後段は、前の供述、つまり、公判より前の供述、と書いています。だから、証言のあとに作った調書は、その証言との関係では、2号後段では使えません。328条には、その限定が、書かれていません。限定が無い以上、条文の上では、証言のあとに作った調書でも、証明力を争うためなら、締め出されません。答案では、判決の理由としてではなく、条文からの理由づけとして書きます。
328条を、同じ人物の自己矛盾供述に限った、前回の判決のあとでも、この判決が先例として通用するかは、はっきりしていません。それに、必ずしも違反しない、という言い方は、いつでも使える、という意味ではありません。さきほどの2つの懸念は、消えていないのです。短答では、証人尋問後に作られた調書も、328条で一切使えない、とは言えない。ここまでを、押さえてください。
公判前整理手続のあとの請求:316条の32
図:公判前整理手続を経た事件
- 整理手続が終わったあとは、やむを得ない事由で整理手続中に請求できなかったものを除き、証拠調べを請求できない
- 証人尋問を聞いて初めて弾劾の必要が出た場合は、やむを得ない事由に当たるか
- 名古屋高金沢支判は、当たると判断
- ただし、必要性は別に慎重に吟味される
もう1つ、時間の問題です。公判前整理手続は、第一回の公判期日より前に、事件の争点と証拠を整理しておく手続でした。この手続を経た事件では、整理手続が終わったあとの証拠調べの請求が、制限されます。条文です。
条文刑事訴訟法第316条の32第1項
刑事訴訟法第316条の32第1項 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件については、検察官及び被告人又は弁護人は、第二百九十八条第一項の規定にかかわらず、やむを得ない事由によつて公判前整理手続又は期日間整理手続において請求することができなかつたものを除き、当該公判前整理手続又は期日間整理手続が終わつた後には、証拠調べを請求することができない。
整理手続が終わったあとは、やむを得ない事由が無ければ、請求できません。証拠は、整理手続の中で出し切っておく約束だからです。あとから次々に出せるなら、整理した意味が、なくなります。弾劾の必要は、尋問を聞くまで分からないことがあります。前回の設例1の弁護人を、思い出してください。客の証言を聞いて初めて、翌日の調書で弾劾する必要が出ました。名古屋高裁金沢支部の裁判例は、検察側の証人の尋問が終わったあとに、被告人側が、その証言を弾劾するための、自己矛盾供述を含む調書の取調べを請求したことについて、やむを得ない事由に当たる、と判断しました。尋問が終わる前には、弾劾が必要かどうか、判断しにくいからだと考えられます。ただし、取調べの必要性は、別に、慎重に吟味されます。やむを得ない事由があっても、必要性が無ければ、採用されません。
今日の地図(保存版)
図:答案の順序
- その書面を何に使うか、弾劾、回復、増強
- 中身の真実を前提にするか
- 前提にするなら伝聞で、328条では出せない、321条以下へ
- 前提にしない、存在や時期だけなら、328条と、前に言った事実の厳格な証明、署名押印
まとめます。答案の順序です。第1に、その書面を、何に使うのか。弾劾か、回復か、増強か。第2に、その書面の中身の真実を、前提にするか。前提にするなら、伝聞です。328条では出せません。321条以下を見ます。第3に、前提にしない、存在や時期だけで使うなら、328条です。ここで、前に言った事実は、厳格な証明。前回の、署名や押印です。
図:短答の落とし穴
- 回復証拠は328条で常に出せる、は誤り
- 増強証拠も、争うに入る、は誤り
- 同じ供述が2回あれば、信用性は回復する、は誤り
- 一致供述は328条で一切出せない、は誤り
- 証人尋問後の調書は一切使えない、は誤り
- 整理手続後は弾劾の請求は一切できない、は誤り
- やむを得ない事由があれば必要性は問われない、は誤り
短答の落とし穴を、○×で言います。回復証拠は、328条で常に出せる。×です。時期などで効く場合に限ります。増強証拠も、証明力を争う、に入る。×です。減らす向きの文言で、中身を使うことにもなります。同じ供述が2回あれば、信用性は回復する。×です。2回目の中身を、本当だと前提しています。一致供述は、328条では一切出せない。×です。存在した時期で効く場合は、回復になりえます。証人尋問後に作られた調書は、328条で一切使えない。×です。最高裁は、必ずしも違反ではない、としました。整理手続のあとは、弾劾の請求は一切できない。×です。やむを得ない事由があれば、できます。やむを得ない事由があれば、取調べの必要性は、問われない。×です。必要性は、別に問われます。
冒頭の問いの答えは、こうですね。2回言ったから信用できる、という使い方は、2回目の中身を本当だと使っているので、328条では出せない。時期で効く場合だけ、回復になりうる。これで、伝聞例外の地図の、最後の枠が埋まりました。弾劾、回復、増強、そして時間の問題まで、同じ軸で通りました。次は、伝聞を離れて、自白です。被告人が自分で認めた話を、どこまで証拠にしてよいのか。319条の自白法則を見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第328条
- 刑事訴訟法第321条第1項
- 刑事訴訟法第316条の32第1項