自白法則(319条1項)と約束による自白
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第5章 証拠法 ⑰/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:取調べの場面
- 検察官が被疑者に、正直に話せば今回は起訴しない、と告げる
- 被疑者は、やりました、と認める
- その話は本当かもしれない
- それでも、裁判でこの自白を使ってはいけないのか
前回の最後に、予告しました。伝聞を離れて、自白です。被告人が自分で認めた話を、どこまで証拠にしてよいのか。今日は、319条の自白法則を見ます。本人が認めた話がいちばん確かだ、と感じるのは、自然です。ところが、法はその直感を、警戒しています。場面を1つ置きます。取調べで、検察官が、こう言います。正直に話せば、今回は起訴しない。被疑者は、その言葉を信じて、やりました、と認めました。本当かもしれません。それでも、使ってはいけない場合がある。今日の問いは、そこです。なぜ、本当かもしれない自白を、外すのか。前に、322条を見たとき、自白の中身は別の回で扱う、と言いました。今日が、その回です。答えを先に1つだけ言います。外す理由の説明が、どの事情を拾うかを決めます。この1本の軸で、最後まで通します。
自白とは何か:承認との違い、任意性と信用性の違い
図:自白の定義と周りの概念
- 不利益な事実の承認が一番広く、その一部が自白、自白よりさらに狭いのが有罪の自認
- 例、倉庫から機器を持ち出したのは私です、は自白
- 事件の夜、現場近くの店の防犯カメラに映っていた、は自白でない承認
- 任意性を争うのは、言わされた、という主張
- 信用性を争うのは、本当のことではない、という主張
自白の定義から、確認します。自白とは、自己の犯罪事実の全部、または主要な部分を認める供述です。法廷の中か外か、書面か口頭かは、問いません。不利益な事実の承認との関係を、呼び戻します。包含関係は、自白が、不利益な事実の承認の一部、です。例を並べます。窃盗の疑いをかけられた倉庫係が、あの倉庫から機器を持ち出したのは私です、と言えば、自白です。事件の夜、現場近くの店の防犯カメラに、私が映っていました、と言えば、どうでしょう。犯罪事実そのものを認めてはいません。ただ、自分に不利な事実です。だから、自白ではない、不利益な事実の承認です。
319条1項は、自白だけに働きます。自白でない承認は、被告人の供述を書いた書面の伝聞例外である、322条1項の但書が、同じ基準を借りて、任意性を求めます。前に見たとおりです。もう1つ、狭い方の言葉があります。有罪の自認です。起訴された犯罪について、有罪であることを認める。犯罪事実だけでなく、違法性や責任まで認める、という意味です。319条3項が、自白に含める、と書いています。ここは、名前だけで十分です。ここで、今日の最初の区別を、置きます。任意性と、信用性です。同じ意味ではないのですか。違います。任意性を争う、とは、取調べで押し切られて、言わされた、という主張です。これは、証拠として使ってよいか、つまり証拠能力の問題です。319条1項です。信用性を争う、とは、自分から話したが、人をかばう嘘だった、という主張です。これは、使うことを前提に、どれだけ信じるか、つまり証明力の問題です。自由心証の領域です。
しかも、任意性が認められても、信用性は、別に審査されます。逆に、中身が真実でも、任意性が疑われれば、外れます。今日の主役は、任意性です。
なぜ自白を特別扱いするのか:入口と出口
図:自白は証拠の女王という見方
- 自分に不利なことを嘘では言わないはずという経験則
- 裁判所が決定的と見やすい、捜査機関は自白を取りに行く、無理な取調べ、虚偽の自白、誤判、という流れ
- 対策は2段
- 入口は自白法則で証拠能力、出口は補強法則で証明力
次に、なぜ、自白だけを特別に扱うのか。昔から、自白は、証拠の女王だ、と言われてきました。自分に不利なことを、わざわざ嘘で言う人は、いないだろう。だから、自白は信じてよい。この経験則が、あるからです。裁判所も、自白を、決定的な証拠と見がちです。そうなると、何が起きるか。捜査機関は、自白を取りに行きます。無理な取調べ、拷問、威嚇。その結果、やっていない人が、苦しさから、認めてしまう。虚偽の自白です。そして、誤った判決が出る。この歴史が、規制の背景にあります。縛り方は、2段です。入口と出口、と覚えてください。入口は、自白法則です。そもそも証拠にしてよいか、つまり証拠能力の規制で、今日の319条1項です。出口は、補強法則です。証拠に入ったあとも、自白だけで有罪にはしない、という証明力の規制です。出口は、別の回で扱います。今日は、入口だけです。
憲法38条2項と319条1項:条文の構造・効果・立証責任
図:条文の読み比べ
- 憲法38条2項は明文の2系統だけ
- 強制拷問脅迫による自白と、不当に長い抑留拘禁の後の自白
- 刑訴319条1項は、同じ2系統に、受け皿のその他任意にされたものでない疑のある自白を足す
- 効果は証拠能力がない
- 同意があっても治らない
- 立証は検察官
条文を、全文で読みます。まず、憲法38条2項です。
条文日本国憲法第38条第2項
日本国憲法第38条第2項 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
次に、刑事訴訟法319条1項です。前に、322条のところで読みました。
条文刑事訴訟法第319条第1項
刑事訴訟法第319条第1項 強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。
2つを、見比べます。憲法は、2系統だけです。強制、拷問、脅迫による自白。それと、不当に長く抑留、拘禁された後の自白。刑訴法は、この2系統に、さらに1つ足しています。その他、任意にされたものでない疑のある自白。受け皿です。条文は、明文の事由と、受け皿の、二重の構造になっています。受け皿があるなら、明文の事由は、なぜ書いてあるのですか。典型を、はっきり示すためです。強制や拷問や脅迫は、誰が見ても、任意ではない。そこは議論の余地なく、外す。そこまで行かない事情は、受け皿で、1つずつ判断する。そういう分担です。効果は、証拠能力がない、です。裁判所は、事実認定の資料に、できません。ここで、呼び戻します。同意、つまり相手方が、その書面を証拠にしてよいと認めても、治りません。同意しても任意性に疑いのある供述は証拠能力がない、とした大阪高裁の判決を、前に見ました。書面かどうかも、問いません。口頭の自白でも、同じです。
任意性の立証を誰が担うかは、条文の言い方に出ています。「疑のある」です。任意だと言い切れなくても、疑いが残れば、外れます。だから、任意性を立証する責任は、検察官にあります。前に見た言葉で言い直します。真偽不明のときに不利益を受ける地位、つまり実質的挙証責任が、検察官にある。任意性は、訴訟法上の事実です。ただ、実務では、厳格に扱われる。この揺れは、以前に見ました。ここでは、検察官が立証して、疑いが残れば排除、まで押さえてください。補足です。取調べの録音録画との関係です。裁判員裁判の対象事件と、検察官が独自に捜査した事件では、逮捕や勾留中の取調べなどで作られた、不利益な事実を認める書面の任意性が争われたとき、検察官は、原則として、録音録画の媒体の取調べを請求しなければなりません。請求しなければ、その書面の請求は却下されます。例外もあります。任意性の争いを、取調べの映像で確かめられるようにする仕組みです。細部は、取調べのところで見たとおりです。
排除の3つの理由:どの事情を拾うか
図:排除の3つの理由
- 虚偽排除説は、嘘の自白を誘発するおそれの強い方法で取った自白は事実を誤らせる、見る事情は、その状況でやっていなくても認めそうか
- 人権擁護説は、供述の自由を侵す手段で取った自白は許されない、見る事情は、供述の自由が侵されたか、真実でも排除
- 違法排除説は、違法な手続で取った自白は将来の違法を抑えるため排除、見る事情は、取調べの手続が違法か、取り方を見て中身は見ない
- 多数説(二元説)=虚偽排除を基礎、黙秘権侵害は人権擁護で、その他の違法は違法収集証拠排除法則で
山場です。受け皿の「任意にされたものでない疑のある自白」に当たるかを、どう判断するか。ここで、排除の理由が3つ出てきます。覚えるのは、名前ではありません。使い方です。3つの説は、どの事情を拾うかの、道具です。1つ目。虚偽排除説です。嘘の自白を誘発するおそれの強い方法で取った自白は、事実を誤らせるから、外す。ここで拾う事情は、1つです。その状況で、やっていなくても、認めそうか。自白の中身が、嘘を誘われた結果かどうかに、関心があります。2つ目。人権擁護説です。黙秘権、つまり供述の自由を侵す手段で取った自白は、許されない。拾う事情は、供述の自由が侵されたか、です。心理的な圧迫や、意思決定の歪みを見ます。この説では、自白が真実でも、排除されます。3つ目。違法排除説です。違法な手続で取った自白は、将来の違法な取調べを抑えるために、外す。拾う事情は、取調べの手続が違法か、です。自白の中身ではなく、取り方を見ます。
試験の答案で考えます。ある受験生が、答えを前もって教えてもらって、答案を書きました。書いた中身は、正解です。1つ目の見方は、こう問うものです。その答案は、本人の実力を示しているか。教えてもらった結果なら、成績として、信用できない。次に2つ目の見方は、こうです。本人が、自分の頭で書く自由を、奪われていないか。3つ目の見方は、こうです。答えを教えること自体が、ルール違反ではないか。中身が正解でも、取り方がルール違反なら、点にしない。同じ答案でも、問いの立て方が、3つあるのですね。本物の取調べでも、3つの見方で、結論が分かれることがありますか。あります。たとえば、取調べの手続に違法はあった。けれども、脅しも、利益の約束も無く、被疑者は落ち着いて話した。そういう自白です。虚偽排除の見方では、嘘を誘いやすい状況ではないので、外す理由が弱くなります。中身が本当かどうかで決めるのではなく、状況が嘘を誘うかで決めます。違法排除の見方では、取り方が違法なので、中身がどうであれ、外す方向に傾きます。人権擁護の見方では、その違法が、供述の自由を侵したかで決まります。同じ自白でも、どの事情を拾うかで、結論が割れます。もう1点。3つは、排他的ではありません。複合的に使われます。虚偽排除説と人権擁護説は、どちらも、被疑者の主観面を見るので、合わせて、任意性説と呼ばれることがあります。これは4つ目の説ではなく、前の2つの統合名です。
多数説の整理も、一言だけ。319条1項では、虚偽排除を基礎にして、黙秘権の侵害を伴う違法は、人権擁護で拾う。それ以外の違法は、違法収集証拠排除法則で扱う。捜査の手続に、令状主義の精神を没却するような重大な違法があり、証拠として使うのが相当でない場合に、その証拠を外すルールです。二元説と呼ばれる整理です。違法排除の考え方と、違法収集証拠排除法則の関係は、その回で、あらためて見ます。暗記は、これだけです。嘘が出やすいか。供述の自由が侵されたか。取り方が違法か。事情を拾う、問いです。
明文の事由と因果関係
図:明文の事由と因果関係
- 強制拷問脅迫、不当に長い抑留拘禁は、条文上直ちに排除
- ただし、強制に当たるか、不当に長いか、は事案により争いうる
- 不任意の状態と自白の間に因果関係が要る
- 例、脅された取調べのあと別の事件の担当に代わり、数か月後、弁護人と相談した上で、公判で自ら事実を認めた
- 圧迫の影響が切れているので、自白法則は及ばない
条文の前半に、戻ります。明文の事由です。強制、拷問、脅迫による自白。不当に長く抑留、拘禁された後の自白。これに当たれば、受け皿のような、趣旨に照らした検討は、要りません。条文上、直ちに、証拠能力が否定されます。ただし、当たるかどうかは、争いになります。暴行は、拷問に至らなくても、強制です。体を縛る扱い、眠らせない、長く続ける、多人数で囲む、といった扱いの程度です。精神的な圧迫の程度にも、幅があります。強制に当たるかが、問題になります。不当に長い、も、一律ではありません。長さに加えて、本人の事情と、事件の側の事情を合わせて見ます。
もう1つ、落とし穴があります。不任意の状態と、自白の間に、因果関係が要ります。脅されたことと、自白したことが、つながっていなければ、自白法則は及びません。例を出します。ある人が、取調べで脅されました。そのあと、取調べの担当が別の人に代わりました。数か月後、その人は、弁護人と相談した上で、公判で、自分から認めました。圧迫の影響が切れていれば、因果関係がなく、排除されません。反対に、当初から一貫して、自分で認めていた場合も、同じです。先行する自白の影響が、後の自白に及ぶか、という問題は、別の回で見ます。今日は、因果関係が要る、という骨格までです。
約束による自白:最高裁判決
図:約束による自白の最高裁判決の事案
- 検察官の内意が弁護人を介して被疑者に伝わる
- 検察官C、弁護人D、被疑者A
- Cは弁護人Dに、素直に自供して改悛の情を示せば起訴猶予も考えられる、と打ち明ける
- DはAに、起訴猶予にしてやると言っている、と勧告
- Aは信じて期待し自白
- 原審は、取調べに違法がないから任意性は否定できない、と判断した
冒頭の場面の問いに、戻ります。約束による自白です。最高裁の判決を見ます。収賄の事件でした。この判決の判断は、2つに分かれます。1つ目は、この自白を証拠にしてよいか。2つ目は、使えないなら、有罪の判決はどうなるか、です。事案です。贈賄側の弁護人が、担当の検察官から、内意、つまり内々の考えを、打ち明けられました。被告人が、見えすいた虚構の弁解をやめて、素直に自供して、改悛の情、つまり反省の気持ちを示せば、金品を返還しているので、起訴猶予も十分考えられる事件だ、という内意です。弁護人は、被告人に、こう勧めました。検事は、君が見えすいた嘘を言っていると思っている。改悛の情を示せば起訴猶予にしてやる、と言っている。だから、本当に貰ったのなら、正直に述べたほうがよい。
検察官と被告人の間に、弁護人が入っています。そこを、押さえてください。被告人は、これを信じて、起訴猶予を期待して、自白しました。原審は、こう判断していました。自白の動機が、そのような原因によるものとしても、捜査官の取調べそれ自体に違法が認められない本件では、供述調書の任意性を否定することはできない。取調べの違法の有無で、任意性を決めたわけです。最高裁は、違う見方をしました。判旨です。
判例最判昭41・7・1 刑集20巻6号537頁
約束による自白の判旨 本件のように、被疑者が、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、自白をすれば起訴猶予にする旨のことばを信じ、起訴猶予になることを期待してした自白は、任意性に疑いがあるものとして、証拠能力を欠くものと解するのが相当である。
決め手は、条件の組み方です。判旨は、取調べの違法の有無を、条件にしていません。原審とは対照的です。見ているのは、3つです。起訴不起訴の決定権をもつ検察官が言ったこと。それを、被疑者が信じたこと。起訴猶予を期待して、自白したこと。判旨は、短く言い切っています。そこで、多数説は、虚偽排除説の読みをします。起訴猶予という大きな利益を求めて話した自白は、嘘を誘われた結果かもしれない。だから、任意性に疑いがある、という読み方です。そこから、約束の事案で見る事情を、3つに整理できます。1つ目は、どれほどの得か、です。虚偽の自白を誘うほどの利益か。2つ目は、言った人に、それを決める力があるか、です。その利益を、現に左右できる権限があるか。3つ目は、どう伝えたか、です。はっきりか、直接か、人づてか。判旨の言う、決定権をもつ検察官、信じ、期待、が、この3つにつながります。
排除されたなら、有罪判決は、破棄されたのですか。そこが、判決の2つ目の判断です。もう1つの落とし穴でもあります。結論は、上告棄却でした。上告を退けて、有罪の判決を、そのまま残したのです。この自白を含む被告人の供述調書を除いても、第一審判決が挙げるほかの証拠だけで、犯罪事実は十分に認定できる。だから、判例違反があっても、刑事訴訟法410条1項ただし書の、判決に影響を及ぼさないことが明らかな場合に当たる、としました。結論を変えない誤りなら、判決は壊さない、という仕組みです。つまり、自白は排除されるが、有罪は維持される。違法と、破棄は、別の話です。
設例の当てはめ:3つの理由で比べる
図:設例S
- 運送会社の倉庫係Aが倉庫から精密機器を持ち出した窃盗の疑いで逮捕勾留
- 検察官Cが、正直に話せば今回は起訴しない、と言い、Aは持ち出した、と認め調書が作られた
- 当てはめ
- 虚偽排除、起訴されない大きな利益を決定権者が直接示したので、やっていなくても認めたくなる状況、疑いあり
- 人権擁護、利益で意思決定を圧迫したか、動機の錯誤は黙秘権侵害ではないという批判あり
- 違法排除、起訴猶予の約束を取調べの手段に使うことが違法か、違法の根拠が不明確という批判あり
- 結論は3説とも排除に傾くが理由が違う
道具を使います。設例Sです。運送会社の倉庫係のAが、倉庫から精密機器を持ち出した窃盗の疑いで、逮捕、勾留されました。検察官のCが、取調べで、正直に話せば、今回は起訴しない、と言いました。Aは、持ち出した、と認め、調書が作られました。公判で、検察官がその調書を請求し、弁護人は、任意性を争います。虚偽排除説から、当てはめます。拾う事情は、その状況で、やっていなくても認めそうか。起訴されない、という大きな利益を、決定権をもつ検察官が、直接示しています。やっていなくても、認めたくなる状況です。疑いがあります。
人権擁護説で拾う事情は、供述の自由が侵されたか、です。利益を示して、供述を引き出す取調べは、意思決定の自由を圧迫した、といえるか。この説の側からは、大きな利益で釣ることが、話すかどうかの決定をゆがめた、と見て、疑いあり、とします。ただし、批判があります。動機を誤っただけで、黙秘権の侵害とまではいえない、という批判です。結論は、排除に傾きますが、理由には、争いがあります。違法排除説です。拾う事情は、取調べの手続が違法か、です。起訴しないという約束を、自白を引き出す手段に使うこと自体、あるいは、その約束を守らないことが、違法といえるか。この説の側からは、起訴しないという約束を、自白を引き出す手段に使うこと自体を違法と見て、排除します。ただ、違法の根拠が不明確で、人権擁護説と変わらない、という批判があります。結論です。3つの説とも、排除に傾きます。ただし、理由は、それぞれ違います。約束による自白は、3つの説の使い分けを見る、入門の問題です。変形します。設例S2です。同じことを言ったのが、警察官のBだった場合です。検事に頼んで、起訴にならないようにしてやる、と言いました。
起訴不起訴の決定権が無いことが、差になります。虚偽排除の見方では、被疑者が、警察官の約束を、信じて期待できたか。提示者と利益の関係が、弱くなります。違法排除の見方では、権限のない約束は、だますことにもなりえます。判旨は、起訴不起訴の決定権をもつ検察官の、と書いています。警察官の場合の射程は、判旨だけでは、直ちには決まりません。結論は、事情次第です。約束した者、約束の内容、自白との因果関係を、見ます。境界の外も、1つ置きます。誰も何も約束していないのに、Aが自分で、認めれば軽く済むかもしれない、と考えて話した場合です。
嘘を誘う働きかけが無いので、虚偽排除の見方では外れません。意思決定への圧迫も無いので、人権擁護の見方でも外れません。違法な取り方も無いので、違法排除の見方でも外れません。
今日の地図(保存版)
図:答案の順序
- 自白か、承認との区別
- 明文の事由に当たるか
- 当たらなければ、任意にされたものでない疑、どの理由の視点で何の事情を拾うか
- 因果関係
- 効果、証拠能力なし、同意でも治らない
まとめます。答案の順序です。第1に、自白かどうか。不利益な事実の承認との区別です。第2に、明文の事由に当たるか。強制、拷問、脅迫、不当に長い抑留、拘禁です。第3に、当たらなければ、任意にされたものでない疑のある自白に当たるか、です。どの理由の視点で、何の事情を拾うか、を言います。第4に、因果関係。第5に、効果です。証拠能力がなく、同意でも治りません。
図:短答の落とし穴
- 319条1項は書面の自白だけに適用される、は誤り
- 任意性の立証責任は被告人にある、は誤り
- 同意があれば自白調書は必ず証拠になる、は誤り
- 検察官が起訴猶予を約束した自白は常に排除される、は誤り
- 自白が排除されれば有罪は維持できない、は誤り
- 脅迫された自白は釈放後に自ら話しても必ず排除される、は誤り
- 任意性を争うとは内容が嘘だと争うことだ、は誤り
- 不利益な事実の承認はすべて319条1項で排除される、は誤り
短答の落とし穴を、○×で言います。319条1項は、書面になった自白だけに働く。×です。口頭でも、働きます。自白の任意性の立証責任は、被告人にある。×です。検察官にあって、疑いが残れば排除されます。同意があれば、自白調書は必ず証拠になる。×です。任意性に疑いがあれば、同意でも治りません。検察官が、起訴猶予にすると約束した自白は、常に排除される。×です。決定権をもつ者の約束か、信じて期待したか、自白との因果関係があるか、を見ます。自白が排除されたら、有罪は維持できない。×です。最高裁の事案は、ほかの証拠で足りたので、上告棄却でした。脅迫された自白は、釈放後に自ら話しても、必ず排除される。×です。因果関係が切れていれば、及びません。任意性を争うとは、自白の内容が嘘だと争うことだ。×です。それは信用性です。任意性は、言わされたか、を問います。不利益な事実の承認は、すべて319条1項で排除される。×です。自白でない承認は、322条1項の但書の問題です。
冒頭の問いの答えは、こうですね。本当かもしれない自白でも、外す理由によって、見る事情が変わる。そして、決定権をもつ検察官の、起訴猶予の言葉を信じて期待した自白は、任意性に疑いがあって、証拠能力がない。ただし、排除されても、ほかの証拠で足りれば、有罪は維持されます。次は、だます、黙秘権を告げない、違法に身柄を拘束する、という取調べで得た自白です。今日の3つの物差しを、そのまま使います。
参照条文
- 日本国憲法第38条第2項
- 刑事訴訟法第319条第1項