刑事訴訟法 ゼロから刑事訴訟法#36

再審と非常上告(確定後の救済)

確定判決後に事実の誤りを正す「再審」と、法令違反を正す「非常上告」の2つの救済制度を解説。再審における明白性(白鳥・財田川決定)と新規性の要件、2段階の手続、請求権者・執行停止、無罪後の公示と刑事補償を整理する。

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第5章 裁判・救済 ④/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

1. 再審とは——事実の誤りを正す 〔短答・論文共通〕

再審の位置づけと趣旨(黒板) 図:再審=確定判決に対するやり直し。趣旨は「無辜の救済」。上訴との対比を示す板書。

再審とは、確定判決に対するやり直しです。理由は事実認定の誤りであり、冤罪救済のための制度です。法的安定よりも正義を優先する局面であるため、趣旨の理解が特に重要です。

覚えるポイント — 上訴との最大の違い

  • 上訴は真実追求が目的であり、検察官も上訴できます。
  • 再審は「無辜の救済」が目的であるため、検察官が無罪を覆そうとして再審を請求することはできません。
  • 一事不再理の例外として、確定した扉を特例的に開ける制度です。

2. 再審は利益のためだけ 〔短答・論文共通〕

刑事訴訟法452条(不利益変更の禁止) 図:452条全文カード。再審でも不利益変更は禁止される。

この趣旨は条文に明確に表れています。435条の柱書は「その言渡を受けた者の利益のために」と規定しており、再審は利益再審のみが認められます。そして452条により、再審でやり直しても元より重い刑を科すことはできません。これは控訴審における不利益変更禁止(402条)と同じ発想です。

覚えるポイント — 現実の厳しさ

  • 再審が認められるのは年に数件。まさに「開かずの扉」です。
  • 再審請求中は刑の執行は止まりません(442条・停止効なし)。
  • 例外として、再審開始決定がされたときは裁判所が停止できます(442条但書)。

3. 再審理由——明白性と新規性 〔論文の骨格〕

刑事訴訟法435条(再審の理由・6号) 図:435条全文カード。1号〜6号の再審理由一覧と、実務の中心である6号の要件。

再審の扉を開ける理由は435条に列挙されています。証拠が偽造だった、証言が虚偽だったなどの場合が挙げられますが、実務の中心は6号です。6号には2つの要件が詰まっています。

要件意味
明白性新証拠がどれだけ強力か
新規性その証拠が「あらたに発見」されたものか

この2要件が再審の運命を分ける最重要論点です。

4. 明白性——白鳥・財田川決定 〔論文の骨格〕

明白性の基準(黒板:白鳥・財田川決定) 図:明白性の旧基準と緩和後の新基準。新旧証拠の総合評価を示す板書。

かつては「無罪が確実なほど強い証拠が必要」とされていましたが、最高裁はこの基準を大きく緩めました。

〔最決昭51・3・16 白鳥決定〕〔最決昭50・5・20 財田川決定〕 「明らかな証拠」とは、確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせ、その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいう。

覚えるポイント — 総合評価の原則(財田川決定)

  • 新証拠だけを単独で評価するのではなく、新旧すべての証拠を総合して評価します。
  • 旧証拠の再評価も許容されます。
  • 根拠は「疑わしきは被告人の利益に」の原則が再審にも適用されること。

5. 新規性——誰にとって新しいか 〔論文の骨格〕

新規性の考え方(黒板) 図:新規性の2つの考え方(請求人基準説 vs 裁判所基準説)の対立を示す板書。

新規性とは「あらたに発見」の意味ですが、誰にとっての新しさかで見解が分かれます。

立場内容根拠
請求人基準説(実務・有力説)請求人にとって新しいこと。裁判で持っていたのに出さなかった証拠は不可後出し防止
裁判所基準説裁判所にとって新しければ足りる無罪救済最優先

判例の立場は一義的には断定しづらいとされています。もっとも請求人基準説の下でも、当時出せない事情があれば新規性を認める余地があります。

6. 再審手続——2段階 〔短答知識〕

再審手続の2段階(黒板) 図:第1段階(再審請求手続)→ 第2段階(再審公判)の流れを示す板書。

再審は請求すれば即やり直しになるわけではありません。2段階のハードルがあります。

第1段階:再審請求手続(入口の審査)

  • 有罪無罪を調べる前に、扉を開けるかを判断します。
  • 理由があれば再審開始決定(448条)。開始決定には即時抗告が可能(450条)。
  • そのため確定まで時間がかかります。

第2段階:再審公判

  • 開始決定が確定して初めて再審公判へ移行します。
  • 元の審級に従い、更に審判します(451条)。
  • 専用のルールではなく、元の裁判をもう一度行います。

7. 請求権者と執行停止 〔短答知識〕

刑事訴訟法439条1項(請求権者) 図:439条1項全文カード。請求権者の範囲と遺族による請求を確認できる。

誰が請求できるかは439条で広く認められています。

覚えるポイント — 請求権者

  • 本人、法定代理人、保佐人
  • 検察官(公益の代表者として)
  • 本人が死亡しても遺族が請求できる(名誉回復のため)
  • 時期制限なし——刑の執行が終わった後でも可能

執行停止について

  • 請求中の原則:刑の執行は止まりません(442条)。
  • 例外:再審開始決定のときは裁判所が停止できます(442条但書)。やり直す価値ありと認めた以上の人権配慮です。

8. 無罪後の救済 〔短答・論文共通〕

日本国憲法40条(刑事補償) 図:憲法40条全文カード。抑留・拘禁後に無罪となった場合の国への補償請求権。

再審公判で無罪判決が出た場合、失われた名誉と時間を回復するための措置があります。

措置①:公示(453条) 判決を官報と新聞に掲載します。

措置②:刑事補償(憲法40条) 拘束された日数に応じて国が補償します。抑留・拘禁の後に無罪となった者は国に補償を求めることができます。

【条文】日本国憲法40条(刑事補償) 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

再請求の制限 同一の理由による再請求はできません(447条2項・蒸し返し防止)。新しい証拠が必要です。

9. 非常上告——法律の誤りを正す 〔短答・論文共通〕

刑事訴訟法454条(非常上告) 図:454条全文カード。非常上告の要件・請求権者・管轄裁判所を確認できる。

もう一本の確定後の合鍵が非常上告です。確定後に審判が法令違反であることが発覚したときに用います。

再審との対比(頻出)

制度正す誤り請求権者目的行き先
再審事実の誤り広く認められる(遺族含む)無辜の救済元の審級
非常上告法律の誤り検事総長だけ法令解釈の統一最高裁

非常上告は法令解釈の統一が目的です。誤った解釈が前例として残ると法秩序が乱れるため、検事総長のみが申し立てることができます。被告人も弁護人も申し立てることはできません。

10. まとめ——確定後の2つの合鍵 〔短答・論文共通〕

確定後の2つの合鍵(まとめ板書) 図:再審と非常上告を対で整理したまとめ板書。

確定すると原則として扉は閉じます(一事不再理)。その例外として2本の合鍵があります。

  • 再審:事実の誤りを正す。利益再審のみ(435条柱書)。不利益変更禁止(452条)。
  • 非常上告:法律の誤りを正す。検事総長のみが申し立て(454条)、最高裁へ。

明白性は白鳥・財田川決定で緩和され、新旧証拠を総合して評価します。


短答ひっかけ

  • 検察官は再審請求できる(439条1項4号・公益の代表者として)が、有罪を覆す方向の再審は目的外で認められない。利益再審のみ。
  • 再審請求中は刑の執行は止まらない(442条本文)。開始決定後は例外的に停止可(同条但書)。
  • 本人が死亡後も遺族が請求できる(名誉回復目的・時期制限なし)。
  • 非常上告は検事総長のみが申し立てる。弁護人・被告人は不可。
  • 非常上告の管轄は最高裁のみ(454条)。
  • 再審で無罪になっても同一理由の再請求は不可(447条2項)。
  • 白鳥・財田川決定の明白性基準:「無罪が確実」は不要。「合理的疑いを生じさせ、覆すに足りる蓋然性」があれば足りる。

📝 論文の型

論文の型:規範カード 図:新証拠の明白性(435条6号)の規範カード。

論文の型:答案の型カード 図:再審における新証拠の明白性・答案の型(問題提起→規範→あてはめ)。

再審請求における新証拠の明白性(435条6号・白鳥・財田川決定)

【問題提起】
「明らかな証拠」(435条6号)の意義が問題となる。

【規範】
再審制度の趣旨は徹底した無辜の救済にあるから、
「明らかな証拠」とは、
確定判決の事実認定に合理的な疑いを生じさせ、
その認定を覆すに足りる蓋然性のある証拠をいう。
根拠は「疑わしきは被告人の利益に」の原則が再審においても妥当すること(白鳥・財田川決定)。

【判定方法】
新証拠のみを単独で見るのではなく、
新旧すべての証拠を総合的に評価して蓋然性を判定する(財田川決定)。

【あてはめ】
(事案の証拠について、旧証拠と新証拠を総合し、合理的疑いの有無を論じる)

今日の地図(保存版)

今日の地図(保存版) 図:この回の全体地図。再審と非常上告の2制度を俯瞰する保存版板書。

  • 再審の趣旨:無辜の救済。法的安定より正義を優先。
  • 利益再審のみ:435条柱書。不利益変更禁止(452条)。
  • 6号の2要件:明白性(白鳥・財田川で緩和、新旧総合評価)+新規性(請求人基準説が実務有力)。
  • 手続は2段階:請求手続(開始決定・即時抗告)→再審公判(元の審級で再審判)。
  • 請求権者:本人・遺族・検察官など広く。時期制限なし。
  • 執行停止:請求中は原則止まらない。開始決定後は可。
  • 無罪後の救済:公示(453条)+刑事補償(憲法40条)。
  • 非常上告:法律の誤りを正す。検事総長のみ申し立て。最高裁へ。

次回は #37「抗告・準抗告の各論」。決定・命令への不服申立てと、捜査機関の処分への準抗告を深く掘り下げます。刑訴の締めくくりです。

参照条文

  • 日本国憲法40条(刑事補償)

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