要証事実と立証趣旨(伝聞法則)
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第5章 証拠法 ⑦/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入

変わるのは手紙ではありません。手紙を何の証明に使うか、です。設例で考えます。被告人のXが、Yと共謀して店を狙ったとして起訴されました。Xは、Pという人に手紙を書いています。そこには「先週Yと会って、あの店をやる段取りを決めた」とあります。この手紙の記載を、Xが先週Yと会って段取りを決めた事実の証明に使うなら、原則として証拠にできません。ところが、同じ手紙を別の事実の証明に使うと、伝聞法則の問題そのものが消えることがあります。何が違うのか。これが今日の中心の問いです。前回は、Wの話をXがバッグを奪ったことの証明に使えば伝聞で、Wは事件の直後にFと会って話をした事実だけの証明に使うなら、伝聞ではない、と見ました。そして、伝聞かどうかを決める3つの問い、つまり体験事実を含むか、内容の真実性が問題になるか、誤りの入る危険が低い類型か、のうち、問い2と問い3は要証事実が決まらないと答えが出ない、と言って終わりました。今日は、その要証事実を解きます。問いは2つです。1つ目。要証事実を、誰が決めるのか。そして2つ目。当事者が示す立証趣旨は、裁判所をどこまで縛るのか。先に答えを言います。要証事実は、請求した当事者の立証趣旨を土台にします。ただし土台のままでは意味がないときは、裁判所が実質を見て置き直します。この答えの理由を、順に組み立てます。
3つの言葉を分ける——要件たる事実・要証事実・立証趣旨

3つの言葉を階段にして分けます。一番上は、法律が犯罪の成立に求める要件です。最終的に証明しなければならない事実で、要件たる事実と言います。共同正犯なら、XとYの間に共謀があったこと、です。ただ、共謀という言葉は、法律が決めた枠の名前です。枠のままでは、どの証拠を当てればよいかが決まりません。そこで1段下で、その枠を、この事件で実際に起きた出来事に置き直します。これが要証事実です。共謀なら、XとYが、店を狙う犯罪を一緒にやると合意した、という出来事です。一般には、この意味で主要事実と同じ言葉として使います。主要事実は、証拠の分類の回で、犯罪事実そのもの、証明のゴールとして見ました。要件たる事実は法律の言葉で書いたゴール、主要事実はそれをこの事件の出来事で書いたゴール、と押さえてください。一番下が立証趣旨です。請求する当事者が、証拠ごとに示す、この証拠で何を示したいのか、という荷札のようなものです。規則189条1項が、証拠調べの請求は証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示してする、と定めています。全文を出します。
条文刑事訴訟規則第189条第1項
刑事訴訟規則第189条第1項 証拠調の請求は、証拠と証明すべき事実との関係を具体的に明示して、これをしなければならない。
設例に当てはめます。検察官は、Xの手紙を請求して、立証趣旨を「XとYの間の意思連絡」としたとします。意思連絡、つまり互いに犯罪をやる意思を伝え合ったこと、手紙で言えば、会って段取りを決めたことです。意思連絡があったと言えれば、犯罪を共同で行う合意があったと推認できるからです。ゴール、その支え、証拠ごとの荷札という、三段の階段になります。同じとは限りません。立証趣旨は、請求する側の申告です。要証事実は、証明が必要な事実そのものです。この2つが、いつも重なるとは限りません。そこが今日の入口です。なお、立証趣旨そのものは、証拠調べの請求の回で一度見ています。

今日の順番を示します。まず、同じ手紙が要証事実の置き方で伝聞にも非伝聞にもなることを見ます。次に、誰が要証事実を決めるのかを、日記の設例で組み立てます。続いて、要証事実は主要事実に限らないこと、立証趣旨の拘束力をめぐる議論を見ます。最後に、名誉毀損の設例で、同じ記載が伝聞にも非伝聞にもなる場面を判定し、判断の手順にまとめます。
同じ供述でも、要証事実の置き方で変わる

まず、手紙の1つ目の使い方です。記載どおりに、Xが先週Yと会って段取りを決めた、と認定して、そこから合意を推認します。ここで聞きます。この使い方で、手紙の内容の真実性は問題になりますか?なります。手紙に書かれたとおりのことがあったかどうかが、そのまま証明の中身になるからです。だから、伝聞になると思います。Xが本当にそう言ったのか、正確に覚えていたのか、そのとおりに書いたのか。そこを確かめないと使えません。公判期日外の供述を内容とし、内容の真実性の証明に使うので、伝聞証拠です。Xの手紙は、被告人が作った供述書です。伝聞例外の要件を満たさない限り、証拠能力は認められません。要件の中身は例外の回で見ます。次に、使い道を変えます。別の事件で、Xは「Pとは何年も連絡を取っていない」と主張しているとします。検察官が、同じ手紙を、XがPに手紙を書いた事実の証明に使います。
内容の真実性が問題にならないので、供述証拠として使っていません。伝聞法則が適用されず、非伝聞です。手紙は一字も変わっていません。変わったのは、何を証明するために使うか、だけです。ここで、前回の3つの問いを、要証事実の目で整理します。問い1。供述に体験事実が含まれていなければ、見る、覚える、言葉にする、伝える、という過程がそもそもないので、伝聞ではありません。問い2。供述内容どおりの事実があろうとなかろうと証拠価値があるなら、内容の真実性は問題にならず、伝聞ではありません。問い3。真実性が問題になる使い方でも、誤りの入る余地が乏しい類型なら、非伝聞とする余地があります。
境界のペアで見ます。脅迫の事件で、被告人が被害者に「俺の仲間は刃物を持っている」と言ったとします。この発言を、被害者が怖がる言葉を言われた事実の証明に使うなら、仲間が本当に刃物を持っているかどうかは関係がありません。非伝聞です。同じ発言を、仲間が刃物を持っている事実の証明に使うなら、内容の真実性が問題になり、伝聞です。大事なのは、伝聞法則が適用されるのは、内容が真実かどうかを確かめる必要がある使い方のときだ、という点です。真実性を確かめるには反対尋問が必要になります。だから、真実性が問題にならなければ、供述の形をしていても、そのまま使えます。伝聞かどうかは、供述の見た目ではなく、要証事実によって相対的に決まるのです。
要証事実は誰が決めるのか

出発点は、そのとおりです。第一次的には、請求した当事者の立証趣旨が基礎になります。証拠を選んで請求し、その証拠で何を証明するかを示すのは、当事者主義のもとでは当事者の役割だからです。立証趣旨どおりに使って推論した結果が、争点の解決に役立つなら、その使い方を前提に、伝聞かどうかを判断します。手紙の設例で、立証趣旨を意思連絡とした場合がこれです。意思連絡から合意が推認され、共謀という争点の解決に役立つからです。問題は、立証趣旨どおりに使っても、争点の解決に役立たない場合です。日記の設例で考えます。Xが脅迫罪で起訴されました。被害者Vの日記帳に「ある日、Xに『店を燃やす』と言われた」と書かれています。検察官は日記帳を請求し、立証趣旨を「Vが日記をつけていた事実」としました。

ここで立ち止まります。Vが日記をつけていた事実が証明できたとして、Xが脅迫したかどうかという争点は、解決しますか?しません。日記をつけていたことと、Xが脅したことは、別の話です。立証趣旨どおりでは、証拠価値がありません。荷札には日記をつけていた事実と書いてあっても、中身の荷は、記載どおりの脅迫があった、という主張です。そこで裁判所は、立証趣旨とは別に、実質的な要証事実を、記載どおりの脅迫があったこと、と置きます。すると内容の真実性が問題になり、日記は伝聞証拠です。理由は、前に見た自由心証主義です。318条は、証拠の証明力は裁判官の自由な判断に委ねる、と定めています。全文を出します。
条文刑事訴訟法第318条
刑事訴訟法第318条 証拠の証明力は、裁判官の自由な判断に委ねる。

証明力とは、証拠が事実をどれだけ推認させるかという値打ちで、その評価は裁判官に委ねられています。ところが、証拠の値打ちは、何の証明に使うかを決めないと測れません。さっきの日記がそうでした。その使い道を当事者の荷札で固定されたら、裁判官の評価は自由とは言えません。だから裁判所は、証拠から事実を認定する立場として、実質的な狙いに即して要証事実を置き直せる、と理解されています。そのうえで、置き直した要証事実を前提に、伝聞かどうか、つまり証拠能力を判断します。318条が自由にしたのは証明力の側で、証拠能力の判断そのものではありません。最高裁の判例に、同じ型の判断があります。実況見分調書、つまり捜査官が現場などの状況を見て記録した書面などで、被害者や被疑者に被害や犯行の様子を再現させた部分について、立証趣旨が「被害再現状況」「犯行再現状況」とされていても、実質では、再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になる、とした決定です。カードで出します。
判例最高裁判所第二小法廷決定・平成17年9月27日(刑集59巻7号753頁)
立証趣旨が再現状況でも、実質の要証事実は再現どおりの犯罪事実の存在 立証趣旨が「被害再現状況」,「犯行再現状況」とされていても,実質においては,再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される。
この決定は、立証趣旨の言葉と、実質の要証事実がずれる例として使います。再現部分を含む調書の証拠能力の要件は、別の回で扱います。もう1つ、高裁の判決です。裁判所は立証趣旨に拘束されるのか、という問いに答えたものです。
判例東京高等裁判所判決・昭和27年11月15日(高刑集5巻12号2201頁)
立証趣旨は請求の採否の参考にすぎない 刑事訴訟規則第百八十九条が証拠調の請求にあたり証拠と証明すべき事実との関係(立証趣旨)を明らかにすることを要求しているのは、さしあたり裁判所がその請求の採否の決定をするについてはその参考とするためであると解すべきであつて……立証趣旨なるものにそれ以上の強い効力を認めることは、法の精神とするところではないと解するのを妥当とする。
この判決は、証拠能力があり、適法な証拠調べを経た証拠なら、提出した側の立証趣旨にかかわらず、罪となるべき事実の認定に使える、という結論です。立証趣旨は採否の参考にとどまり、それ以上の強い効力はない、という理由づけです。実質的な要証事実を置き直さずに、請求そのものを却下すべきだ、という見解もあります。立証趣旨どおりでは証拠価値がない、つまり関連性がない、という理由です。ただ、判例は、さきほどの最高裁の決定のように、立証趣旨の言葉にかかわらず、実質的な要証事実を置いて、伝聞かどうかを判断しています。答案も、この判例の整理で進めます。ここまでを規範としてまとめます。
⭐ 論文で書く規範:伝聞性判断における要証事実の設定 要証事実は第一次的には当事者の立証趣旨を基礎に設定する | 立証趣旨どおりに用いたのでは争点の解決に資せず証拠価値を見出せない場合は裁判所が争点や訴訟の経過を踏まえて実質的な要証事実を設定する | その要証事実との関係で内容の真実性が問題となるかを判断し伝聞証拠性を決する (規範(判例の事例判断を参照して整理した学説上の規範)——答案で使う)
出どころを区別しておきます。判例が示したのは、再現状況の事例で実質の要証事実を置いた、という事例判断です。今の3つの文は、その事例判断などを参照して整理した、学説上の規範です。判例が一般論として、この文言を述べたわけではありません。境界も、もう一度確認します。手紙の設例は、立証趣旨どおりで争点の解決に役立つので、そのまま基礎になります。日記の設例は、役立たないので、実質的な要証事実に置き直します。線は、争点の解決に役立つかどうか、です。
要証事実は主要事実に限らない

主要事実だけを見るのではありません。要証事実は主要事実とは限らず、関連性の回でも、間接事実が要証事実になりうると触れました。伝聞かどうかを判断するときに考えるのは、その証拠から立証される事実です。それは間接事実や補助事実のこともあります。前回のひったくりの事件に戻ります。犯人性が争点で、Xがバッグを奪ったことが主要事実です。Sが書いた日誌に「事件の夜、駅前でXを見た」とあります。検察官は、この日誌を、Xが事件の夜に現場付近にいたことの証明のために請求します。主要事実を推認させる事実で、証拠の分類の回で見た間接事実です。この設例の要証事実は、Xが事件の夜に現場付近にいたことです。日誌の記載どおりXがそこにいたかどうかの真実性が問題になるので、伝聞です。要証事実は、奪ったという主要事実でなくても、伝聞性はこの間接事実との関係で判断されます。補助事実は、名前と一文だけ押さえます。証拠の分類の回で見た補助証拠が証明する事実で、証人の信用性のように、証拠の証明力にかかわる事実です。これも要証事実になりえます。弾劾証拠としての使い方は、別の回で扱います。
立証趣旨は裁判所を縛るか、その議論が伝聞かどうかの判断に効く場面

ここで、以前に見た内容を思い出してください。立証趣旨の拘束力について、縛られるのは、請求した当事者と裁判所のどちらでしたか?請求した当事者です。相手方は立証趣旨を前提に同意や異議を決めるので、請求した側があとから別の事実に使うことは許されません。裁判所は縛られません。ここから先が、今日の新しい中身です。さらに当事者主義を徹底して、裁判所の事実認定にも立証趣旨の拘束力を認める主張があります。この立場だと、裁判所は立証趣旨と異なる要証事実を置けません。伝聞かどうかの判断は、いつも立証趣旨を出発点に決まることになります。
立証趣旨は「日記をつけていた事実」です。裁判所にも拘束力を認めるなら、その事実で伝聞かどうかを判断することになり、内容の真実性は問題になりません。非伝聞のままです。実質は、記載どおりの脅迫を証明するために使う証拠が、伝聞法則を通らずに入りうる、という構図になります。実務の理解は、裁判所が実質的な要証事実を置いて伝聞として扱います。立証趣旨の書き方ひとつで、伝聞法則の網をくぐれるかが変わる。だから、拘束力の議論は、伝聞証拠性に直結します。狙いは2つです。1つ目は、当事者が立証趣旨の範囲で尋問などを進められるようにして、集中審理を実現し、証拠調べを合理化すること。2つ目は、裁判所の事実認定で当事者に不意打ちを与えず、公平な裁判を実現することです。現在は、不意打ちなどの問題は、求釈明や公判前整理手続などの争点を早く顕在化させる措置で解消されます。公判前整理手続は、公判の前に争点と証拠を整理しておく手続です。そのため、実務では、裁判所は立証趣旨に縛られず、自分で要証事実を置ける、という理解が定着しています。結論の決め手は、拘束力を裁判所にまで認めなくても不意打ちは防げるのに、認めると伝聞法則が骨抜きになりうる、という点です。先ほどの高裁の判決も、伝聞法則との関係で、立証趣旨によって同意の意味や反対尋問の範囲が変わる場合はありうる、としています。ただ、それは証拠能力の問題であって、裁判所が立証趣旨に拘束された、ということではない、と整理しています。
ただし、立証趣旨を軽視してよいわけではありません。公判前整理手続や公判の立証で、証拠を厳選し、尋問が適切かどうかを判断するときに、立証趣旨は極めて重要です。答案では、結論を「裁判所は拘束されない」とし、理由を、不意打ちは他の手続で防げる、と1、2行で添えれば足ります。
名誉毀損の2場面——同じ記載が伝聞にも非伝聞にもなる

最後に、もう1つの設例です。被告人Xが、町会長Bは補助金を私的に流用している、と書いたチラシを配り、名誉毀損罪で起訴されました。弁護人は、記載の事実は真実だと主張しています。条文を2つ出します。
条文刑法第230条第1項
刑法第230条第1項 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
条文刑法第230条の2第1項
刑法第230条の2第1項 前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
230条1項は、その事実の有無にかかわらず、と書いています。事実を摘示して名誉を毀損する行為があれば成立し、記載が真実かどうかは、犯罪の成立と関係がありません。230条の2は、公共の利害に関する場合などに、真実であることの証明があれば罰しない、とする特例です。つまり、弁護人が特例を主張する側では、記載が真実かどうかが争点になります。

場面1です。弁護人が、同じ趣旨を報じた地元紙の記事を請求し、立証趣旨を「新聞に報道があった事実」としました。争点は、チラシの記載が真実かどうかです。報道があったことが証明されても、記事の内容が真実でないなら、争点の解決には役立ちません。立証趣旨どおりでは、証拠価値がないのです。実質的な要証事実は、記事の内容の真実性、つまりチラシの記載が真実であることです。その真実性が問題になるので、記事は伝聞証拠です。伝聞例外に当たらない限り、使えません。

場面2です。今度は検察官が、チラシの現物を請求し、立証趣旨を「チラシが配布された事実」としました。名誉毀損罪は、その事実の有無にかかわらず成立します。名誉を毀損する事実を摘示した行為があったことは、チラシがそこにあったことで確認できます。チラシは、供述証拠として使わなくても、その存在だけで名誉毀損の行為の存在を証明できます。立証趣旨どおりの要証事実で足りるので、内容の真実性は問題になりません。非伝聞として証拠能力が認められます。記載が真実かどうかは、弁護人が230条の2で主張する、別の争点です。検察官のこの証拠は、その争点には使いません。

2つを並べます。同じ内容の記載でも、争点が記載の真実かどうかになる側、つまり場面1では伝聞です。争点が名誉毀損の行為があったかどうかになる側、つまり場面2では非伝聞です。分かれ目は、記載の内容の真実性が、争点の解決に必要かどうか、です。この型を、最高裁の大法廷判決が示しています。この事件では、記事が真実かどうかに加えて、もう1つの問いがありました。真実だと証明できなくても、被告人が確かな資料や根拠に照らして真実だと信じ、そう信じたことに相当の理由があれば、名誉毀損の故意がなく、罪は成立しない、とこの判決は判断しています。被告人側が申請した証人が、記事の内容に関する情報を市役所の職員から聞き込んで被告人に提供した旨を証言し、検察官が伝聞だと異議を述べて、この部分が排除された事件です。カードで出します。
判例最高裁判所大法廷判決・昭和44年6月25日(刑集23巻7号975頁)
同じ証言でも、要証事実によって伝聞にも非伝聞にもなる 本件記事内容が真実であるかどうかの点については伝聞証拠であるが、被告人が本件記事内容を真実であると誤信したことにつき相当の理由があつたかどうかの点については伝聞証拠とはいえない
同じ証言が、記事の内容が真実かどうかを証明するために使うなら伝聞で、被告人が真実だと信じたことに相当の理由があったかどうかを証明するために使うなら非伝聞です。信じた理由の証明なら、聞き込みの内容が本当かどうかは関係がなく、そう聞いて信じた事実だけが問題になるからです。この判決は、立証趣旨に制限を加えずに証人を採用した経過から、立証趣旨は、相当の理由をも含むものと解するのが相当だ、としています。裁判所が、請求の経過を見て、立証趣旨の実質を読み取っている例です。
要証事実を置く手順とまとめ

要証事実を置いて伝聞かどうかを判断する順番は、5段階です。1つ目。問題の証拠と、請求者が示した立証趣旨を確認します。2つ目。立証趣旨どおりに推論した結果が、争点の解決、つまり主要事実、間接事実、補助事実の証明に役立つかを検討します。3つ目。役立つなら立証趣旨どおり、役立たないなら、争点や訴訟の経過から、実質的な要証事実を設定します。4つ目。その要証事実との関係で、内容の真実性が問題になるかを判断します。5つ目。問題になるなら伝聞証拠で、例外の検討へ進みます。問題にならないなら非伝聞です。ここは論文で論点になりうる場面です。
日記の設例も、名誉毀損の場面1も、ここで役立たないと分かったから、裁判所が実質的な要証事実を置き直しました。
今日の地図(保存版)

まとめます。1つ目。要件たる事実は最終ゴール、要証事実は証明が必要な事実、立証趣旨は請求者が証拠ごとに示す荷札です。要証事実は、主要事実とは限らず、間接事実や補助事実のこともあります。2つ目。要証事実は、第一次的には立証趣旨を基礎に決まります。立証趣旨どおりでは争点の解決に役立たないときは、裁判所が、争点や訴訟の経過を踏まえて、実質的な要証事実を置きます。理由は自由心証主義です。裁判所にまで拘束力を認めると、立証趣旨の書き方ひとつで伝聞法則の網をくぐれてしまうので、実務は認めません。3つ目。同じ供述や記載が、要証事実によって伝聞にも非伝聞にもなります。手紙は、記載どおりの事実の証明なら伝聞で、手紙が存在した事実の証明なら非伝聞でした。名誉毀損では、記載の内容の真実性が争点の解決に必要かどうかが、分かれ目でした。
発言があったこと自体を証明する場合、行為の一部として発した言葉、心理状態の供述、文書の存在、情況証拠です。今日の軸を使って、順に判定していきます。
参照条文
- 刑事訴訟規則第189条第1項
- 刑事訴訟法第318条
- 刑法第230条第1項
- 刑法第230条の2第1項