公判前整理手続の目的と進行の全体像
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第6章 公判の応用 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:公判が始まる前に、何を争うのか、どの証拠を調べるのか、何日で終えるのかが決まっている裁判がある
- 法廷が開かれる前の、見えない会議
- 第5章=証拠が法廷で使えるか/第6章=裁判をどう進めるか
公判が始まる前に、何を争うのか、どの証拠を調べるのか、何日で終えるのかが、もう決まっている裁判があります。法廷が開かれる前の、見えない会議です。前の回の最後に、公判を始める前に、争点と証拠を絞り込む手続を扱う、と予告しました。今日は、その手続、公判前整理手続の入口です。法廷で初めて争点が出てくるのではないか、という疑問への答えを先に言います。この手続は、法廷で何を争うかを、法廷の前に、当事者に出させて決めておく手続です。争点が決まれば、必要な証拠が決まり、必要な証拠が決まれば、何日で終えるかも決まります。この一本の流れを、今日の軸にします。
第5章までは、出てきた証拠が使えるかを見てきました。第6章は、視点が変わります。裁判をどう進めるか、です。その一番手前にある手続が、今日の主役です。この手続は、これまでの回にも出てきました。事前準備と並ぶもう一方の準備として、整理のあとの証拠調べ請求の制限として。訴因変更の制限の回では、316条の2の条文と、その趣旨まで見ました。今日から2回で、この手続そのものを正面から扱います。
目的と4つの柱

- 刑事訴訟法316条の2第1項=付す決定
- 時期=第一回公判期日前
- 請求者=検察官・被告人・弁護人(職権でも可)
- 目的=充実した公判の審理を継続的・計画的かつ迅速に行うため
- 4つの柱(316条の5の各号を束ねた整理)=①争点の整理(4号)②証拠の整理(5号〜10号)③その前提としての証拠開示(11号=証拠開示に関する裁定)④審理計画の策定(13号)
まず、手続の根本の条文です。訴因変更の回でも見た条文ですが、今日は読みどころを1つずつ確かめます。
条文刑事訴訟法第316条の2第1項
刑事訴訟法第316条の2第1項——公判前整理手続に付する決定 裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うため必要があると認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日前に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を公判前整理手続に付することができる。
読みどころは4つあります。付すのは、裁判所の決定です。請求できるのは、検察官、被告人、弁護人の3者で、裁判所が職権で付すこともできます。時期は、第一回公判期日前です。そして目的は、充実した公判の審理を、継続的、計画的かつ迅速に行うことです。目的の文言のとおり、この手続は公判の準備であって、有罪かどうかを決める場ではありません。決めるのは、法廷で何を争い、どの証拠を調べ、いつ行うか、です。条文には、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備、とあります。これが手続の中身で、整理すべきものは争点と証拠です。では、手続の中で、具体的に何ができるのか。それを並べているのが、316条の5です。公判前整理手続においては、次に掲げる事項を行うことができる、として、13の号を並べています。この号を束ねると、4つの柱になります。1つ目、争点の整理。4号の、公判期日においてすることを予定している主張を明らかにさせて、事件の争点を整理すること、です。2つ目、証拠の整理。5号から10号です。証拠調べの請求をさせ、証拠と証明すべき事実との関係、つまり立証趣旨を明らかにさせ、相手方の意見を確かめ、取り調べるかどうかを決め、取調べの順序や方法まで定めます。3つ目、その前提になる証拠開示。証拠を整理するには、お互いがどんな証拠を持っているかを知らないといけません。そこで11号は、証拠開示に関する裁定、つまり、開示をめぐって言い分が分かれたときに、裁判所が決定で判断することまで、手続の中でできるとしています。4つ目、審理計画の策定。13号の、公判期日を定め、又は変更することなどです。残りの号には、訴因や罰条を明確にさせることなどが並びます。争点を整理するから証拠が整理でき、証拠が整理できるから計画が立つ。開示は、その証拠の整理の前提です。だから、柱はこの4本になります。
訴訟関係人には、互いに協力し、裁判所にも進んで協力する義務が、条文で課されています。
条文刑事訴訟法第316条の3第1項・第2項
刑事訴訟法第316条の3第1項・第2項——裁判所の努力義務と訴訟関係人の協力 裁判所は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるよう、公判前整理手続において、十分な準備が行われるようにするとともに、できる限り早期にこれを終結させるように努めなければならない。 2 訴訟関係人は、充実した公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うことができるよう、公判前整理手続において、相互に協力するとともに、その実施に関し、裁判所に進んで協力しなければならない。
第1項は、裁判所です。十分な準備が行われるようにしつつ、できる限り早く終えるように努めます。第2項は、訴訟関係人です。検察官、被告人、弁護人は、お互いに協力し、裁判所にも、進んで協力しなければなりません。争点を出すのは、当事者です。裁判所は、その整理を管理して、手続が早く終わるように努める。役割がこう分かれています。
争点とは何か
図:設例
- 駅前の傷害事件
- (a)被告人「殴ったが、先に胸ぐらをつかまれ身を守った」→争点=正当防衛の成否(犯人性の証拠は最小限)
- (b)被告人「殴っていない・人違い」→争点=犯人性(正当防衛の証拠は不要)
- (c)事件の時刻が午後9時か9時半かの食い違い=(a)(b)では結論に影響せず争点にならない/「その時刻は別の場所にいた」と主張すれば決定的な争点
- 争点が絞れる→証拠が絞れる→審理計画が組める
争点という言葉を、設例で見ます。駅前で、Aさんが、Bさんにケガをさせたとして、傷害の罪で起訴された事件です。場合1。Aさんが、確かに殴ったが、先に胸ぐらをつかまれて、身を守ったのだ、と主張します。この場合、殴ったこと自体は争いがありません。争いになるのは、正当防衛が成り立つかです。これが争点です。誰が殴ったかを証明する証拠は、最小限で足ります。場合2。Aさんが、殴っていない、人違いだ、と主張します。今度の争点は、犯人かどうか、犯人性です。正当防衛の話は出てきませんから、胸ぐらをつかまれたかどうかを調べる証拠は、要りません。
同じ傷害事件なのに、調べるべき証拠が全然違います。そこがポイントです。争点が決まると、必要な証拠が決まります。さらに、場合3を見ます。事件が起きた時刻について、検察官は午後9時、目撃者は午後9時半と、食い違っているとします。場合1や場合2では、時刻が9時でも9時半でも、結論は変わりません。ですから、争点になりません。ところが、Aさんが、その時刻には、別の場所にいた、と主張したら、時刻は結論を左右する決定的な争点になります。争点は、検察官と被告人側の主張が対立して、しかも、その結論を左右する点です。争点になるかどうかは、主張の組合せで決まります。そして、争点が絞れて初めて、必要な証拠が絞れます。証拠が絞れて初めて、何日の予定で、どの順番で調べるかという審理計画が組めます。目的の条文にある、継続的、計画的かつ迅速、は、この流れの先にあります。たとえば、旅行の幹事を思い浮かべてください。当日になって初めて、反対意見や希望が出てくると、行程が崩れます。先に、行きたい所と避けたい所を出してもらえば、行程が組めます。公判前整理手続は、その事前の出し合いを、決まった順番とルールで、法律上の義務として、しかも、整理のあとは原則として新しい証拠を出せなくなる、という裏付けをもって行う仕組みです。
新設の経緯と事前準備との違い
図:事前準備の限界→五月雨式の長期化→裁判員制度の導入→平成16年の改正で新設
この手続は、昔からあったのではありません。平成16年の改正で作られました。なぜ作られたのか。その前に、少し前の回の復習を1問です。事前準備で、検察官が弁護人に事前に見せなければならない証拠は、どれでしたか?検察官が、請求しようとする証拠です。299条1項でした。ここが、出発点です。事前準備は、すべての事件で行う準備です。ところが、弁護人には、公判で何を主張するかを、先に明らかにする義務がありません。検察官にも、請求しない証拠まで、見せる義務がありません。争点が複雑な事件や、対立が深い事件では、公判が始まってから、争点が次々に出てきます。そのたびに、証拠を請求し直し、期日を新しく入れます。これを、いわゆる五月雨式の審理と呼びます。五月雨式とは、連続せずに、間をあけて、だらだら開かれる審理のことです。審理が長引いて、見通しも立たない、という例がありました。
駅前の事件なら、公判の途中でAさんが初めて正当防衛を言い出し、証人を呼び直して、期日を足す、ということです。そこへ、裁判員制度の導入が重なります。本業のある市民に参加してもらうのですから、継続的、計画的、迅速な審理が、一層必要になります。こうして、平成16年の改正で、公判前整理手続が新設されました。旧来の証拠開示も、確認します。この手続の導入前は、検察官が手持ちの証拠を開示するという規定がありませんでした。到達点は、最高裁の決定です。
判例最決昭44・4・25 刑集23巻4号248頁
旧来の証拠開示——訴訟指揮権による証拠の閲覧命令 裁判所は、その訴訟上の地位にかんがみ、法規の明文ないし訴訟の基本構造に違背しないかぎり、適切な裁量により公正な訴訟指揮を行ない、訴訟の合目的的進行をはかるべき権限と職責を有するものであるから、本件のように証拠調の段階に入つた後、弁護人から、具体的必要性を示して、一定の証拠を弁護人に閲覧させるよう検察官に命ぜられたい旨の申出がなされた場合、事案の性質、審理の状況、閲覧を求める証拠の種類および内容、閲覧の時期、程度および方法、その他諸般の事情を勘案し、その閲覧が被告人の防禦のため特に重要であり、かつこれにより罪証隠滅、証人威迫等の弊害を招来するおそれがなく、相当と認めるときは、その訴訟指揮権に基づき、検察官に対し、その所持する証拠を弁護人に閲覧させるよう命ずることができるものと解すべきである。
要件の骨子を読み取ります。時期は、証拠調べの段階に入ったあとです。弁護人が具体的な必要性を示して申し出ます。閲覧が被告人の防禦のために特に重要で、罪証隠滅や証人威迫のおそれがなく、相当と認めるときに、裁判所が訴訟指揮権に基づいて、検察官に閲覧を命じられます。弁護人の権利ではなく、裁判所の訴訟指揮の範囲での話です。現在の制度は、公判の開始前から、弁護側が開示を請求できる仕組みを法律で定めています。要件を満たし、相当と認められれば、検察官が開示します。開示すべき証拠を開示しないときは、裁判所が決定で開示を命じる、裁定の制度も用意しています。ここが、旧来との差です。
図:比較表
- 事前準備 vs 公判前整理手続
- 対象=すべての事件/裁判所が付す決定をした事件(裁判員裁判は必ず)
- 弁護人の主張明示=義務なし/あり(316条の17)
- 検察官の証拠開示=請求する証拠だけ(299条1項)/請求証拠と類型証拠と主張関連証拠(316条の14・15・20)
- 整理後の証拠調べ請求=制限なし/やむを得ない事由がなければ不可(316条の32)
- 整理の結果=なし/争点及び証拠の整理の結果を確認(316条の24)
事前準備と公判前整理手続を、表で比べます。対象は、事前準備がすべての事件、整理手続が、裁判所が付す決定をした事件です。弁護人の主張の明示は、事前準備にはなく、整理手続にはあります。検察官の開示は、事前準備では請求する証拠だけです。整理手続では、請求する証拠に加えて、類型証拠と主張関連証拠にも広がります。類型証拠は、検察官の証拠を信じてよいかを確かめる材料、主張関連証拠は、弁護側の主張に関連する証拠です。整理のあとの証拠調べ請求は、事前準備では制限がありません。整理手続では、やむを得ない事由がなければできません。このように、整理のあとは、やむを得ない事由がない限り、新しい証拠調べ請求ができなくなる効果を、失権効と呼びます。中身は、次の回で扱います。そして、手続の最後に、整理の結果を確認する、という仕上げがあるのも、整理手続だけです。
主張の明示、開示の広がり、整理後の請求制限、結果の確認。この4つが、事前準備に足されたものです。争点が絞れて、証拠が絞れて、計画が組める、という流れを成り立たせるための道具、と覚えてください。
対象事件
図:対象事件
- 刑事訴訟法316条の2第1項=裁判所の裁量(限定なし・実務は争いのある事件)/裁判員法49条=裁判員裁判対象事件は必ず付す
- 必要的の根拠は裁判員法49条(316条の2ではない)
- 付す決定・請求却下の決定には検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴く(316条の2第2項)
どの事件が、この手続の対象になるのか。316条の2第1項は、対象事件を絞っていません。必要があると認めるとき、と書いてあるだけで、裁判所の裁量です。実際には、事実に争いのある事件が中心になります。ただし、例外があります。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第49条
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第49条——必要的な付し 裁判所は、対象事件については、第一回の公判期日前に、これを公判前整理手続に付さなければならない。
裁判員裁判の対象事件は、必ず付さなければなりません。本業のある市民に、決まった日程で続けて参加してもらうには、争点と証拠を先に絞って日程を組んでおくことが欠かせないからです。対象事件の中身は、裁判員裁判の回で見ます。必ず付す、の根拠は、316条の2でいいですか。違います。そこが短答の落とし穴です。必ず付す、の根拠は、裁判員法49条です。一方、316条の2第1項は、あくまで裁量です。もう1点。付す決定をするとき、また、請求を却下する決定をするときには、あらかじめ、検察官と、被告人又は弁護人の意見を聴きます。316条の2の第2項です。
期日間整理手続

- 刑事訴訟法316条の28第1項=審理の経過に鑑み必要と認めるとき・第一回公判期日後・決定で付す
- 同条2項=前款の規定を準用(316条の2第1項と316条の9第3項を除く)
- 違いは時期だけ
- 設例=認めていた被告人が罪状認否で否認に転じた→公判期日の間に争点と証拠を整理し直す
次は、公判が始まってからの整理です。その前に1問です。公判前整理手続や、これから見る期日間整理手続に付された事件で、弁護人がいなくても、公判は開けますか?開けません。必要的弁護事件になる、と見ました。316条の29です。289条1項の重い事件に当たらなくても、整理手続に付された事件は、弁護人がいなければ開廷できません。では、条文です。
条文刑事訴訟法第316条の28第1項
刑事訴訟法第316条の28第1項——期日間整理手続に付する決定 裁判所は、審理の経過に鑑み必要と認めるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、第一回公判期日後に、決定で、事件の争点及び証拠を整理するための公判準備として、事件を期日間整理手続に付することができる。
条文刑事訴訟法第316条の28第2項前段
刑事訴訟法第316条の28第2項前段——準用 期日間整理手続については、前款(第三百十六条の二第一項及び第三百十六条の九第三項を除く。)の規定を準用する。
316条の2第1項と比べてください。付すことができる、決定で、争点及び証拠を整理するための公判準備、請求者、職権。ほとんど同じです。違いは、時期だけです。第一回公判期日後、です。第2項は、公判前整理手続の規定を準用します。準用というのは、そのまま当てはめる、という意味です。ですから、やることは同じで、争点の整理、証拠の整理、開示、審理計画を、公判が始まったあとに行います。たとえば、Aさんが、起訴状の事実を認めていて、審理は短く済むはずだったとします。ところが、第一回の公判期日の罪状認否で、急に否認に転じました。その場で審理を続けると、争点も証拠も決まっていません。そこで、公判期日と公判期日の間に、争点と証拠を整理し直します。これが、期日間整理手続の出番です。手続の違いは、時期だけです。公判前整理手続は第一回公判期日の前、期日間整理手続は後。短答では、この時期を入れ替えた肢が出ます。
進行の全体像:5つの段階
図:公判前整理手続の流れ
- A=検察官、B=弁護人、C=裁判所
- ①Aの証明予定事実記載書と請求証拠(316条の13)→Bに開示(316条の14)②Bの請求で類型証拠開示(316条の15)→Bの証拠意見(316条の16)③Bの主張の明示と証拠請求(316条の17)→Aの証拠意見(316条の19)④Bの請求で主張関連証拠開示(316条の20)⑤Cが争点及び証拠の整理の結果を確認(316条の24)
いよいよ、手続の流れです。手続は、5つの段階で進みます。まず全体を見せて、そのあとで、なぜこの順番なのかを説明します。1つ目。検察官が、証明予定事実記載書を出して、それを証明する証拠の取調べを請求します。条文は、316条の13です。
条文刑事訴訟法第316条の13第1項前段・第2項
刑事訴訟法第316条の13第1項前段・第2項——検察官の証明予定事実記載書と証拠請求 検察官は、事件が公判前整理手続に付されたときは、その証明予定事実(公判期日において証拠により証明しようとする事実をいう。以下同じ。)を記載した書面を、裁判所に提出し、及び被告人又は弁護人に送付しなければならない。 2 検察官は、前項の証明予定事実を証明するために用いる証拠の取調べを請求しなければならない。
証明予定事実は、公判期日で証拠により証明しようとする事実です。検察官が、うちはこの事実を、この証拠で証明します、と先に出します。請求された証拠は、弁護人に開示されます。根拠は316条の14で、閲覧や謄写の機会が与えられます。

- 段階②=類型証拠開示(316条の15)
- 弁護側の請求→証拠の類型のいずれかに当たり、検察官請求証拠の証明力を判断するために重要→検察官が開示の必要性と弊害を考えて相当と認めるときに開示
- 例=検察官が証人として請求した目撃者の、捜査段階の供述調書
- そのうえで弁護側が検察官請求証拠に証拠意見(316条の16)
2つ目。類型証拠開示です。検察官の請求証拠を、どこまで信じてよいか。その証明力、つまりその証拠をどれくらい信じるかを確かめる材料を、弁護側が求める段階です。たとえば、検察官が目撃者を証人として請求したなら、その目撃者が捜査の段階で話した内容を記録した供述調書です。話が前後で変わっていないかを確かめられます。法律は、証拠物や、こうした供述調書などの類型を列挙しています。そのどれかに当たり、検察官の請求証拠の証明力を判断するために重要なものを弁護側が請求し、検察官は、開示の必要性と、開示で生じるおそれのある弊害を考えて、相当と認めるときに開示します。316条の15です。そのうえで、弁護側は、検察官の請求証拠について、同意するかどうか、異議がないかという、証拠意見を述べます。316条の16です。要件と類型の細目は、証拠開示の回で見ます。3つ目。被告人側の主張の明示です。
条文刑事訴訟法第316条の17第1項前段
刑事訴訟法第316条の17第1項前段——被告人側の主張の明示 被告人又は弁護人は、第三百十六条の十三第一項の書面の送付を受け、かつ、第三百十六条の十四第一項並びに第三百十六条の十五第一項及び第二項の規定による開示をすべき証拠の開示を受けた場合において、その証明予定事実その他の公判期日においてすることを予定している事実上及び法律上の主張があるときは、裁判所及び検察官に対し、これを明らかにしなければならない。

- 段階③=被告人側の主張の明示(316条の17第1項)
- 時期=検察官の書面の送付と、請求証拠・類型証拠の開示を受けた後
- 主張があるときに明らかにする
- 証明予定事実があれば証拠の取調べを請求(316条の17第2項)→検察官に開示(316条の18)→検察官の証拠意見(316条の19)
- 段階④=弁護側の請求で主張関連証拠開示(316条の20)
注目点が2つあります。1つは、条文の中に、送付を受け、かつ、開示を受けた場合において、とあることです。主張を明らかにするのは、検察官の書面と、請求証拠と類型証拠の開示を受けたあとです。もう1つは、主張があるとき、です。主張がなければ、明らかにすべきものもありません。主張がない場合まで、何かを言わせる条文ではありません。被告人側にも、公判で証拠によって証明しようとする事実、つまり証明予定事実があれば、それを証明する証拠の取調べを請求しなければなりません。ここまでが316条の17で、請求は第2項です。請求した証拠は検察官に開示されます。316条の18です。検察官は、その証拠について意見を述べます。316条の19です。4つ目。主張関連証拠開示です。被告人側が明らかにした主張に関連する証拠を、弁護側の請求で、開示してもらいます。316条の20です。これも名前と位置だけです。5つ目。結果の確認です。
条文刑事訴訟法第316条の24
刑事訴訟法第316条の24——争点及び証拠の整理の結果の確認 裁判所は、公判前整理手続を終了するに当たり、検察官及び被告人又は弁護人との間で、事件の争点及び証拠の整理の結果を確認しなければならない。

- 段階⑤=裁判所が手続の終了に当たり、争点及び証拠の整理の結果を確認(316条の24)=何を争い、どの証拠を調べるかが確定
- 途中の補完=証明予定事実と証拠請求の追加・変更(検察官=316条の21・被告人側=316条の22)
- 開示の時期・方法の指定(316条の25)
手続を終えるときに、裁判所が、検察官と、被告人又は弁護人との間で、争点と証拠の整理の結果を確認します。ここで、何を争って、どの証拠を調べるかが、はっきり確定します。訴因変更の回で見た、整理した争点や審理計画を壊すような訴因変更は制限されることがある、という物差しも、ここで確定した争点が基準になります。途中の補完も、短く触れます。手続の途中で、証明予定事実を追加したり、請求する証拠を追加したり、変更したりできます。条文は、316条の21と、316条の22です。たとえば、弁護側の主張を見た検察官が、証明予定事実を追加し、それを証明する証拠の請求も追加する、という動きです。また、開示の時期や方法の指定を求める裁定は、316条の25です。証拠開示の回で扱います。裁判所は、その間に、証拠調べをするかどうかの決定などをして、手続を整えていきます。ここで1問です。検察官の証明予定事実を見たあと、弁護側が最初にできることは何でしたか?そして、自分の主張を明らかにするのは、証拠の開示を受ける前と後のどちらでしたか?
最初にできるのは、類型証拠の開示請求でした。主張の明示は、開示を受けたあとでした。では、なぜこの順番なのかを説明します。
なぜこの順番なのか
図:順番の理由
- 検察官が先に手の内(証明予定事実と請求証拠)を見せる→弁護側はそれを見て反論の材料(類型証拠)を請求できる→材料を得てから自分の主張を決めて明示する→主張が決まって初めて主張に関連する証拠を請求できる
- 情報の差を埋めながら一歩ずつ進む設計
順番の理由は、情報の差です。検察官は、捜査という、強い証拠収集の手段を使って、すでに多くの証拠を持っています。被告人側は、持っていません。もし、弁護側が先に、自分の主張を決めて明らかにするとしたら、どうでしょう。相手の証拠を何も知らないまま、主張を決めなければなりません。だから、順番を逆にします。まず、検察官が先に、手の内を見せます。証明予定事実と、請求する証拠です。弁護側は、それを見て、反論の材料になりそうな証拠、類型証拠を請求できます。そして、材料を得てから、自分の主張を決めて、明らかにします。主張が決まって初めて、その主張に関連する証拠、つまり主張関連証拠を請求できます。最後に、結果を確認して終わります。一歩ずつ、情報の差を埋めながら、進んでいく設計です。これが、5つの順番の理由です。条文の番号を暗記するより、この理由を持っていれば、順番を入れ替えた肢に気づけます。
検察官が、AさんがBさんを殴った、という証明予定事実と、Bさんや目撃者の供述などの証拠を出します。弁護側はそれを見て、目撃者の話の信用性を確かめる材料を、類型証拠として請求します。そのうえで、Aさんが、先に胸ぐらをつかまれたので身を守った、と主張を明らかにします。ここで、争点が正当防衛の成否に決まります。争点が決まったので、弁護側は、その主張に関連する証拠として、検察官の手元にある、つかみ合いの様子が分かる記録の開示を請求できます。調べる証拠と証人が絞れれば、公判を何日で終えるかの計画が組めます。最初に見た一本の流れが、5つの段階の中で動いているわけです。
主張があるときに明らかにする、という条文の形と、黙秘権との関係は、証拠開示の回で見ます。最後に、第1章の審理の構造の回で、316条の17と316条の19を先取りして、争点をどちらが主導して決めるかも、条文は当事者に委ねている、と見ました。その話に戻ります。主張と、それを証明する証拠の請求を出すのは被告人側で、316条の17です。検察官がその証拠に意見を述べるのは、316条の19です。裁判所は、316条の3で見たとおり、手続を管理します。争点を出すのは当事者で、裁判所はそれを整理する。これが、この手続の分担です。
手続のIT化の改正

補足です。手続のIT化の改正が成立していて、公判前整理手続にも関わります。令和7年法律第39号です。内容は、書面に加えて電磁的記録を提出させる方法を認めること、そして、相当と認めるとき、検察官、弁護人、被告人が、同じ場所に集まらず、映像と音声の送受信で期日の手続に参加できるようにすることなどです。もう使えるのですか。違います。公判前整理手続に関するこの部分は、公布されていますが、まだ施行されていません。施行は、令和9年3月31日までの間において政令で定める日、とされています。ですから、現行の条文は、書面と出頭が前提です。たとえば316条の2の第3項は、訴訟関係人を出頭させて陳述させ、又は書面を提出させる方法で行う、と定めています。試験で問われるのは、現行の条文です。
今日の地図(保存版)
図:短答の落とし穴
短答の確認です。公判前整理手続は、第一回公判期日前に、決定で付する。○です。公判前整理手続に付すには、被告人の請求がなければならない。×です。検察官、被告人、弁護人の請求、または職権で付せます。裁判員裁判の対象事件は、必ず公判前整理手続に付さなければならない。○です。根拠は、裁判員法49条です。期日間整理手続は、第一回公判期日前に行われる。×です。後です。公判前整理手続の規定が準用される、という点は、○です。検察官は、公判前整理手続で、手持ちの証拠をすべて弁護人に開示しなければならない。×です。請求証拠は開示されますが、類型証拠と主張関連証拠は、要件と相当性で決まります。被告人側は、公判期日でする予定の主張があるときは、裁判所と検察官に明らかにしなければならない。○です。316条の17第1項です。裁判所は、手続を終えるに当たり、争点と証拠の整理の結果を、検察官、被告人又は弁護人との間で確認しなければならない。○です。316条の24です。今日のまとめです。公判前整理手続は、第一回公判期日前に、争点と証拠を整理して、公判の審理を継続的、計画的かつ迅速に行うための手続です。争点が絞れて、証拠が絞れて、審理計画が組める。この一本の流れが軸でした。事前準備に足されたのは、主張の明示、開示の広がり、整理後の請求制限、結果の確認です。必ず付すのは裁判員裁判の対象事件で、根拠は裁判員法49条。期日間整理手続は、違いが時期だけの、公判後の整理でした。進行は、検察官の先行、類型証拠、被告人側の主張、主張関連証拠、結果の確認の、5つの段階で、順番の理由は情報の差を埋める設計でした。ここは論文で論点になりうる部分です。
次の回では、この手続をどう始めるのか、整理が終わったあと、公判で何が変わるのかを見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第316条の2第1項
- 刑事訴訟法第316条の3第1項・第2項
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第49条
- 刑事訴訟法第316条の28第1項
- 刑事訴訟法第316条の28第2項前段
- 刑事訴訟法第316条の13第1項前段・第2項
- 刑事訴訟法第316条の17第1項前段
- 刑事訴訟法第316条の24