公判前整理手続の進行と公判での変化(必要的弁護・証拠調べ請求の制限)
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第6章 公判の応用 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:公判が始まってから、切り札の証拠を出す
- ドラマではよくある場面
- 公判前整理手続を経た事件では、原則としてできない
- なぜできないのか/どんなときなら出せるのか
ドラマでは、裁判の途中で、弁護人が決定的な証拠を取り出して、形勢が逆転します。ところが、公判前整理手続を経た事件では、これは原則としてできません。切り札になる証拠を、なぜあとからは出せないのか。今日の入口はこの問いです。答えは、前の回の軸、争点が絞れて、証拠が絞れて、審理計画が組める、に戻ると分かります。そして、どんなときなら出せるのか。条文にある例外の入口と、その代表的な型を、設例で当てはめます。前の回の最後に、この手続をどう始めるのか、整理が終わったあと公判で何が変わるのかを見る、と予告しました。今日はそれに答えます。手続の最初から終わりまで、時間の順に歩きます。
図:前の回の5つの段階
- ①検察官の証明予定事実記載書と証拠調べ請求②類型証拠開示③被告人側の主張の明示④主張関連証拠開示⑤争点及び証拠の整理の結果の確認
- 今日歩く範囲=入口(付す決定・弁護人・期日)と出口(終結・公判・失権効)
前の回の5つの段階を、地図で受け直します。検察官の証明予定事実記載書と証拠調べ請求。類型証拠開示。被告人側の主張の明示。主張関連証拠開示。争点及び証拠の整理の結果の確認です。中身と順番の理由は、前の回のとおりです。今日歩くのは、この5つの段階の手前と向こう側です。手前は、手続がどう始まり、期日で誰が何をするか。向こう側は、手続がどう終わり、そのあとの公判が何を変えるかです。類型証拠と主張関連証拠の中身は、次の回で扱います。
開始:付す決定のあと
図:開始
- 付す決定・請求を却下する決定の前=検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴く(316条の2第2項)
- 決定に対する抗告はできない(420条1項)
- 進め方=期日を開く方法か書面を出させる方法(同3項)
- 期日は裁判長が定めて通知(316条の6)
- 証明予定事実記載書の提出と証拠請求の期限を定める(316条の13第4項)
まず、付す決定がされるところからです。付す決定そのものは、前の回に出た316条の2第1項です。決定をする前には、請求を却下する場合も含めて、検察官と、被告人又は弁護人の意見を聴きます。第2項です。この決定に対して、不服を申し立てる抗告はできません。420条1項が、訴訟手続に関して判決前にした決定には、特に即時抗告を認める規定がない限り抗告できないと定めていて、付す決定には即時抗告を認める規定がないからです。手続の途中の決定ごとに抗告を許すと審理が止まるので、不服は判決に対する上訴の中で争わせる、という趣旨です。裁判員裁判の対象事件は、裁判員法49条で必ず付します。ですから、事件が裁判所に係属すると、直ちに付す決定がされます。付したあとの進め方は2通りです。期日を開いて訴訟関係人を出頭させて陳述させる方法と、書面を提出させる方法です。316条の2第3項です。期日を開くなら、裁判長が期日を定めて、検察官、被告人、弁護人に通知します。316条の6です。期日の変更もできて、その場合も意見を聴きます。開始後の最初の動きは、期限の設定です。裁判所は、検察官と、被告人又は弁護人の意見を聴いて、証明予定事実記載書の提出と、証拠調べ請求の期限を定めます。316条の13第4項で、5つの段階の1つ目の入口にあたります。開始で一番大事なルールがあります。弁護人がいなければ、手続は行えません。
条文刑事訴訟法第316条の4第1項・第2項
刑事訴訟法第316条の4——公判前整理手続と弁護人 公判前整理手続においては、被告人に弁護人がなければその手続を行うことができない。 2 公判前整理手続において被告人に弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。
第2項で弁護人を付すのは、裁判所ではなく裁判長です。短答では、この主語が問われます。なぜそこまで、弁護人が欠かせないのですか。手続の中の作業が、法律の専門知識と技能を要するからです。争点を絞り、主張を明らかにし、証拠の整理に応じる。被告人が1人で検察官と向き合えば、自分に不利な整理を、そのまま受け入れかねません。しかも整理のあとは、証拠を出し直すことが原則できなくなります。
図:必要的弁護の比較
- 289条1項=死刑又は無期若しくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件(事件の重さで決まる)/316条の4=事件の重さと無関係(整理手続に付したことで決まる)
- 設例=駅前の事件が暴行罪(208条・2年以下の拘禁刑等)で争点があり整理手続に付された→289条1項に当たらなくても弁護人がなければ行えない
- 傷害罪(204条・長期15年)なら289条1項にも当たる
289条1項のことですね。289条1項は、死刑又は無期若しくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件、という、事件の重さで必要的弁護を決めます。316条の4は違います。事件の重さと関係なく、整理手続に付したことで決まります。駅前の事件で考えます。Aさんの行為が、ケガに至らない暴行罪として起訴されたとします。暴行罪は2年以下の拘禁刑などですから、289条1項には当たりません。それでも、争点があるとして整理手続に付されたなら、弁護人がいなければ手続を行えません。傷害罪なら、長期15年ですから、289条1項にも当たります。軸は、事件の重さではなく、手続の種類で必要的になる、という点です。
進行の打合せ
図:進行の打合せ
- 規則178条の16=三者打合せ(第一回公判期日前に検察官・弁護人を出頭させ、期日の指定その他進行に必要な事項を打ち合わせる。ただし予断を生じさせるおそれのある事項にわたることはできない)
- 規則178条の15=書記官を通じた準備の問合せ・促し
- 進行の話はよい/中身(心証)はできない
整理手続に付された事件でも、進行の打合せはできます。事前準備の回で見た三者打合せで、規則178条の16です。第一回公判期日前に、検察官と弁護人を出頭させて、期日の指定その他、進行に必要な事項を打ち合わせます。ただし、事件につき予断を生じさせるおそれのある事項にわたることはできません。もう1つ、規則178条の15は、裁判所書記官を通じて、準備の進み具合を問い合わせ、促す規定です。三者打合せは178条の16です。条番号を取り違えないでください。駅前の事件で考えます。目撃者を何人呼ぶか、尋問に何時間かかりそうかを伝えるのは、進行の話で構いません。ところが、その目撃者が殴るところをはっきり見たのかを、裁判所が聞き出すのは、事件の中身です。心証に触れますから、できません。付された事件では、事前準備の規定の一部は適用されません。規則217条の19が適用しない規定を列挙していますが、細目を暗記する必要はなく、178条の15と16は適用される、と押さえれば足ります。実務では、整理手続を充実させ、迅速に進めるために、起訴後の早い時期に三者で進め方の認識を共有します。
期日:誰が出るか
図:期日
- 受訴裁判所が主宰(316条の2第1項)
- 検察官又は弁護人が出頭しない→その期日の手続を行えない(316条の7)
- 弁護人が出頭しない・在席しなくなった→裁判長が職権で付す(316条の8)
期日を主宰するのは、付す決定をした受訴裁判所です。出席者のルールを見ます。
条文刑事訴訟法第316条の7
刑事訴訟法第316条の7——検察官又は弁護人が出頭しない場合 公判前整理手続期日に検察官又は弁護人が出頭しないときは、その期日の手続を行うことができない。
検察官か弁護人のどちらかが出頭しないときは、その期日の手続を行えません。出頭が義務だと覚えるより、欠けたら手続ができない、と覚えるほうが条文に忠実です。手続を止めないための条文が、316条の8です。弁護人が期日に出頭しないとき、又は在席しなくなったときは、裁判長が職権で弁護人を付さなければなりません。出頭しないおそれがあるときは、裁判所が職権で付すことができます。訴訟指揮の回で見た、289条2項と3項と同じ作りです。次は被告人です。
条文刑事訴訟法第316条の9第1項〜第3項
刑事訴訟法第316条の9第1項〜第3項——被告人の出頭 被告人は、公判前整理手続期日に出頭することができる。 2 裁判所は、必要と認めるときは、被告人に対し、公判前整理手続期日に出頭することを求めることができる。 3 裁判長は、被告人を出頭させて公判前整理手続をする場合には、被告人が出頭する最初の公判前整理手続期日において、まず、被告人に対し、終始沈黙し、又は個々の質問に対し陳述を拒むことができる旨を告知しなければならない。
第1項は、被告人は出頭することができる。権利であって、義務ではありません。手続には弁護人が必ずいて、法律の作業は弁護人が担うからです。第2項は、裁判所が必要と認めるときは、出頭を求めることができる。求めたときは、速やかに検察官と弁護人に知らせます。規則217条の11です。第3項が、黙秘権の告知です。告知するのは、被告人が出頭する最初の期日です。毎回ではありません。弁護人が陳述し、書面を出します。弁護人の陳述や書面について被告人の意思を確かめる必要があるときは、被告人に質問して、被告人と連署した書面の提出を求めることができます。316条の10です。期日には裁判所書記官が立ち会って、調書を作ります。316条の12です。この調書は、あとで公判で明らかにされる書面になります。公開についても押さえます。公判前整理手続の期日は、公開の法廷で行うことを要しません。公判の準備であって、公開が求められる公判期日の審理そのものではないからです。非公開の法廷や準備室などで行われ、被告人が出頭する場合は、非公開の法廷が多いとされます。なお、映像と音声で期日に参加できるようにする改正は、前の回で見たとおり未施行です。現行の条文は、出頭が前提です。
受訴裁判所が主宰してよい理由

- 問い=起訴状一本主義(256条6項)は裁判所が白紙で第一回公判に臨むための仕組み
- 整理手続は同じ裁判所の前で証拠請求・主張の明示をする
- 矛盾しないか
- 結論=反しないと解されている
- 理由①両当事者が対等に関与②目的が争点整理と審理計画の策定
- 歯止め=316条の13第1項後段
起訴状一本主義は、256条6項で、起訴状に裁判官に予断を生じさせるおそれのある書類その他の物を添付できないとする原則でした。確かに、同じ裁判所が整理手続を主宰するのは緊張がありそうです。しかし、予断排除には反しないと解されています。理由は2つです。1つ目は、両当事者が対等に関与することです。検察官だけが裁判所に話すのではありません。ですから、捜査の側が固めた見立てを、裁判所がそのまま受け継ぐ形にはなりません。2つ目は、目的が、争点の整理と審理計画の策定にあることです。有罪か無罪かの心証を取る手続ではありません。理由だけでなく、条文上の歯止めがあります。316条の13第1項の後段です。前の回では前段を見ました。
条文刑事訴訟法第316条の13第1項後段
刑事訴訟法第316条の13第1項後段——予断を生じさせるおそれのある事項の記載の禁止 この場合においては、当該書面には、証拠とすることができず、又は証拠としてその取調べを請求する意思のない資料に基づいて、裁判所に事件について偏見又は予断を生じさせるおそれのある事項を記載することができない。
「この場合」は、前段の証明予定事実記載書を受けます。証拠にできない資料や、証拠として請求する意思のない資料に基づいて、裁判所に偏見や予断を生じさせるおそれのある事項は書けません。同じ縛りは、追加や変更の書面を定める316条の21、被告人側の主張の明示を定める316条の17と316条の22にも及びます。さらに、316条の30の被告人側の冒頭陳述にも及びます。駅前の事件で考えます。検察官が、Aさんは普段から人とよくもめる、という噂話をもとに、粗暴な性格だと書いたとします。この噂話は、証拠にできず、請求するつもりもない資料です。ですから書けません。一方、請求する目撃者の証言で立証する事実として、Aさんが殴った、と書くのは書けます。
証拠で証明する事実なら書けます。裁判所の印象だけを動かす材料は書けません。
終結
図:終結
- できる限り早期に(316条の3)
- 争点及び証拠の整理を遂げる→証拠の採否の決定(316条の5第1項8号・9号)→公判期日を定め審理予定を定める(同13号)→終了に当たり結果を確認(316条の24)
- 採否留保あり
- 結果は調書に残る(316条の12第2項)
手続の終わり方です。できる限り早期に終結させるように努める、というのは、前の回の316条の3でした。終えるまでに、裁判所は、争点及び証拠の整理を遂げます。そのうえで、証拠の採否を決めます。採用するか、却下するか、取り調べる順序や方法をどうするかです。316条の5第1項の8号と9号です。さらに、公判期日を定めて、審理の予定を定めます。同じ13号です。最後に、手続の終了に当たって、検察官と、被告人又は弁護人との間で、争点及び証拠の整理の結果を確認します。前の回に出た316条の24です。すべては決めなくてよいです。公判審理の状況を見ないと、取調べの必要性を判断できない証拠は、決定を留保できます。採否留保です。この留保は、あとで失権効の例外の話につながります。整理の結果は、期日の調書に残ります。316条の12第2項です。この調書が、公判で明らかにされます。
公判で何が変わるか
図:公判の流れの比較
- 付されていない事件=冒頭手続→検察官の冒頭陳述(被告人側は任意)→証拠調べ請求→相手方の意見→裁判所の決定→取調べの実施
- 付された事件=冒頭手続→検察官の冒頭陳述→被告人側の冒頭陳述(必ず)→整理手続の結果の顕出→取調べの実施(請求・意見・決定は整理手続の中で済み)
- 弁護人=289条1項の事件だけ必要的/316条の29=必ず
ここまでが手続の中です。整理を経た事件の公判は何が違うのか。その前に、冒頭手続の回を思い出して1問です。公判前整理手続に付されていない事件で、被告人側の冒頭陳述は、義務でしたか?義務ではありませんでした。裁判所の許可を得て行えるだけでした。付された事件では、これが義務に変わります。表で比べます。付されていない事件は、冒頭手続、検察官の冒頭陳述のあと、証拠調べの請求、相手方の意見、裁判所の決定、取調べの実施と進みます。付された事件は、冒頭手続、検察官の冒頭陳述、被告人側の冒頭陳述、整理手続の結果を明らかにすること、取調べの実施です。証拠調べの請求、意見、決定は、整理手続の中で済んでいるので、原則として公判では行いません。変わる点を、3つの条文で確かめます。
条文刑事訴訟法第316条の29
刑事訴訟法第316条の29——必要的弁護 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件を審理する場合には、第二百八十九条第一項に規定する事件に該当しないときであつても、弁護人がなければ開廷することはできない。
1つ目は弁護人です。整理手続に付された事件を審理するときは、289条1項に当たらなくても、弁護人がなければ開廷できません。期日間整理手続に付された事件も同じです。手続の中だけでなく、公判でも弁護人は必須になります。
条文刑事訴訟法第316条の30
刑事訴訟法第316条の30——被告人側の冒頭陳述 公判前整理手続に付された事件については、被告人又は弁護人は、証拠により証明すべき事実その他の事実上及び法律上の主張があるときは、第二百九十六条の手続に引き続き、これを明らかにしなければならない。この場合においては、同条ただし書の規定を準用する。
2つ目は、被告人側の冒頭陳述です。主張があるときは、検察官の冒頭陳述に引き続いて明らかにしなければなりません。義務です。296条ただし書を準用しますから、予断排除の縛りも同じです。期日間整理手続の事件でも、同じですか。違います。公判前整理手続に付された事件だけです。期日間整理手続は、第一回公判期日のあとに行いますから、冒頭陳述の段階をすでに過ぎているのが通常です。なぜ必要的かというと、争点が整理されている以上、被告人側も最初に方針を示さなければ、計画的で迅速な審理にならないからです。
条文刑事訴訟法第316条の31第1項
刑事訴訟法第316条の31第1項——公判前整理手続の結果の顕出 公判前整理手続に付された事件については、裁判所は、裁判所の規則の定めるところにより、前条の手続が終わつた後、公判期日において、当該公判前整理手続の結果を明らかにしなければならない。
3つ目は結果の顕出です。被告人側の冒頭陳述が終わったあと、公判期日で、整理手続の結果を明らかにします。方法は、調書の朗読か、要旨の告知で、書記官に行わせることもできます。なぜ明らかにするのか。整理手続は公判の準備にすぎず、非公開でよかったからです。その結果を、公開の法廷で明らかにする必要があります。期日間整理手続の事件も、第2項で、その手続が終わったあとに結果を明らかにします。1問です。付された事件の公判で、検察官の冒頭陳述のあと、まず何が行われますか。その次は?被告人側の冒頭陳述です。その次に、整理手続の結果を明らかにして、そのあとで取調べに入ります。請求と決定は、整理手続で済んでいます。ただし、公判で証拠調べの請求、意見、決定が全く行われないわけではありません。整理手続で採否を留保した証拠の決定、やむを得ない事由による請求、職権による取調べの余地があります。次の山場に進みます。
失権効:整理のあとの証拠調べ請求
図:失権効
- 316条の32
- 当事者は、やむを得ない事由によって整理手続で請求できなかったものを除き、整理手続が終わった後は証拠調べを請求できない(298条1項にかかわらず)。期日間整理手続の後も同じ。裁判所の職権による取調べは妨げない。制限されるのは当事者の請求
冒頭の問いに答える条文です。
条文刑事訴訟法第316条の32第1項・第2項
刑事訴訟法第316条の32第1項・第2項——公判前整理手続又は期日間整理手続の終了後の証拠調べ請求の制限 公判前整理手続又は期日間整理手続に付された事件については、検察官及び被告人又は弁護人は、第二百九十八条第一項の規定にかかわらず、やむを得ない事由によつて公判前整理手続又は期日間整理手続において請求することができなかつたものを除き、当該公判前整理手続又は期日間整理手続が終わつた後には、証拠調べを請求することができない。 2 前項の規定は、裁判所が、必要と認めるときに、職権で証拠調べをすることを妨げるものではない。
第1項を分けて読みます。主語は検察官と、被告人又は弁護人、つまり当事者です。298条1項は、当事者が証拠調べを請求できるという一般の規定ですが、それにかかわらず、やむを得ない事由によって整理手続で請求できなかったものを除いて、整理手続が終わった後は、証拠調べを請求できません。期日間整理手続の後も同じです。第2項は、裁判所が必要と認めるときに、職権で証拠調べをすることは妨げない、です。制限されるのは当事者の請求であって、職権ではありません。なぜここまで、厳しく制限するのですか。整理のあとに新しい証拠を自由に請求できるなら、絞った争点も、立てた審理計画も崩れて、整理した意味がなくなるからです。整理手続は、証拠を中で出し切っておく約束だと、前に見ました。ただし、終わる前なら、追加も変更もできます。316条の21と22です。失権するのは、整理が終わった後です。では、どんなときなら出せるのか。やむを得ない事由です。条文に定義はなく、個別の事情を勘案して判断されます。代表的な型が3つあります。ただし、これは例であって一覧表ではなく、緩やかには解されません。1つ目は、証拠がもともとあったのに、その存在に気づかなかったことに無理がない場合。2つ目は、存在は分かっていても、持ち主の行方が知れないなどで、現実には請求できなかった場合。3つ目は、存在も分かり請求もできたが、相手方の示した主張や証拠の状況から、請求は要らないと考えたことに十分な理由がある場合です。
図:やむを得ない事由の3つの型と設例
- 型1=存在を知らなかった(予備のレコーダー)/型2=物理的に不可能(所在不明の目撃者)/型3=請求不要と考えた十分な理由(ケガの程度を争わないと明示された)
- 前提=(a)(b)は争点が犯人性(Aさんは人違いと主張)
- (c)は別の場面
駅前の事件で当てはめます。(a)と(b)は、争点が犯人性で、Aさんは人違いだと主張している前提です。(a)整理手続の終了後に、近くの店の取り壊しで、事件の夜の映像を録画していた予備のレコーダーが、偶然見つかりました。店は、録画は自動で消えると説明していて、警察も弁護人も、存在を知るすべがありませんでした。(b)目撃者のCさんの存在は知っていましたが、海外にいて連絡がつかず、整理手続の終了までに所在が分かりませんでした。終了後に帰国して、所在が判明しました。(c)別の場面です。弁護人は整理手続で、Bさんのケガの程度は診断書のとおりで争わない、と明らかにしていました。そこで検察官は、診断した医師の尋問は請求せず、診断書だけを請求していました。ところが整理手続の終了後に、被告人側が、ケガの程度を争う主張に転じました。この3つは、先ほどの3つの型のどれに当たるでしょうか。
決め手を確認します。(a)は、警察も弁護人も、知るすべがなかった点です。(b)は、知ってはいても、整理手続の終了までに請求する手段が現実になかった点です。(c)は、被告人側が争わないと明らかにしたことが、検察官が請求の必要がないと考えた十分な理由になる点です。なお(c)は、3つ目の型に当たりうる、という整理です。被告人側の新しい主張そのものが許されるかは、次の論点で見ます。反対の例が、冒頭のドラマの切り札です。弁護人が整理手続の間から手元に持っていて、法廷で驚かせるために取っておいた証拠は、請求できる状況だったのに、十分な理由なく請求しなかったものです。3つの型のどれにも当たらず、やむを得ない事由はありません。3つは例ですから個別の事情で決まりますが、この線は押さえてください。
証明力を争う、つまり弾劾のための調書の取調べ請求について、裁判例があります。検察側の証人の尋問が終わったあとに、被告人側がその証言を弾劾するための調書の取調べを請求した事案で、やむを得ない事由に当たると判断されました。尋問を聞くまでは、弾劾が必要かどうか判断しにくいからだと考えられます。証人が公判で調書と異なる供述をした場合も、やむを得ない事由に当たるといわれます。ただし、注意があります。やむを得ない事由があれば、取調べの必要性は問われない、は誤りです。必要性は、別に慎重に吟味されます。やむを得ない事由があっても、必要性がなければ採用されません。実務の工夫も一言。可能性のある証拠を、あらかじめ整理手続で請求しておき、採否の決定を、公判審理の状況を見て決める運用があります。先ほどの採否留保です。ここは論文で論点になりうる部分で、失権効の範囲と、やむを得ない事由の当てはめが問われます。
制限されるのは証拠調べ請求であって主張ではない
図:整理後の被告人質問
- 316条の32が止めるのは証拠調べの請求
- 整理手続で明示しなかった主張を直接禁じる条文はない
- では、整理手続に出さなかった主張に沿った被告人質問を、裁判長は止められるか
- 手がかり=295条1項
316条の32が止めるのは、証拠調べの請求です。整理手続で明らかにしなかった主張を、公判ですること自体を直接禁じる条文は、ありません。では、整理手続に出さなかった主張に沿った被告人質問を、裁判長は止められるでしょうか。手がかりは、295条1項です。訴訟指揮の回で見ました。
条文刑事訴訟法第295条第1項
刑事訴訟法第295条第1項——訴訟関係人の尋問・陳述の制限 裁判長は、訴訟関係人のする尋問又は陳述が既にした尋問若しくは陳述と重複するとき、又は事件に関係のない事項にわたるときその他相当でないときは、訴訟関係人の本質的な権利を害しない限り、これを制限することができる。訴訟関係人の被告人に対する供述を求める行為についても同様である。
重複するとき、事件に関係のない事項にわたるとき、その他相当でないときは、本質的な権利を害しない限り、制限できます。被告人に供述を求める質問も、同じ扱いです。整理手続に出さなかった主張に沿う質問が、これで制限できるのかが問題です。最高裁の決定が答えています。
図:事案の整理
- 詐欺の事件
- 整理手続で弁護人=犯人性を否認し、アリバイ(犯行日時に自宅ないしその付近にいた)だけ明示
- それ以上は明らかにせず、裁判所も求釈明せず
- 公判の被告人質問=自宅でテレビを見ていた・知人夫婦と約束・午後4時30分頃に知人方へ→弁護人がさらに質問→検察官が異議→第1審が制限
- 被告人は最終陳述でアリバイの具体的内容を陳述(制限されず)
事案です。詐欺の事件でした。整理手続で、弁護人は犯人性を否認して、その日時には犯行場所におらず、自宅かその付近にいた、というアリバイだけを明らかにしました。それ以上は明らかにせず、裁判所も、もっと具体的に述べるよう求める求釈明を、しませんでした。公判の被告人質問で、被告人は、自宅でテレビを見ていた、知人夫婦と会う約束があり、午後4時30分頃に知人方へ行った、と述べました。弁護人がさらに詳しく聞こうとすると、検察官が、整理手続での主張以外で、立証事項と関連性がない、と異議を述べました。第1審はこれを認めて、質問を制限しました。最高裁の判断を、一般論、あてはめ、結論の3つに分けて読みます。まず、一般論です。
判例最決平27・5・25 刑集69巻4号636頁
最高裁の判断——一般論 公判前整理手続終了後の新たな主張を制限する規定はなく、公判期日で新たな主張に沿った被告人の供述を当然に制限できるとは解し得ないものの、公判前整理手続における被告人又は弁護人の予定主張の明示状況(裁判所の求釈明に対する釈明の状況を含む。)、新たな主張がされるに至った経緯、新たな主張の内容等の諸般の事情を総合的に考慮し、前記主張明示義務に違反したものと認められ、かつ、公判前整理手続で明示されなかった主張に関して被告人の供述を求める行為(質問)やこれに応じた被告人の供述を許すことが、公判前整理手続を行った意味を失わせるものと認められる場合(例えば、公判前整理手続において、裁判所の求釈明にもかかわらず、「アリバイの主張をする予定である。具体的内容は被告人質問において明らかにする。」という限度でしか主張を明示しなかったような場合)には、新たな主張に係る事項の重要性等も踏まえた上で、公判期日でその具体的内容に関する質問や被告人の供述が、刑訴法295条1項により制限されることがあり得るというべきである。
構造を分けます。まず、新たな主張を制限する規定はないので、供述を当然には制限できません。ただし、2つの要件がそろえば、295条1項で制限されることがあり得ます。1つ目は、主張明示義務に違反したと認められること。前記主張明示義務は、主張があるときに明らかにする、316条の17第1項の義務のことです。2つ目は、その質問や供述を許すことが、整理手続を行った意味を失わせると認められることです。例として、求釈明にもかかわらず、アリバイの主張をする予定である、具体的内容は被告人質問で明らかにする、という限度でしか主張を明示しなかった場合が挙げられています。あてはめです。
判例最決平27・5・25 刑集69巻4号636頁
最高裁の判断——あてはめ 本件質問等は、被告人が公判前整理手続において明示していた「本件公訴事実記載の日時において、大阪市西成区内の自宅ないしその付近にいた。」旨のアリバイの主張に関し、具体的な供述を求め、これに対する被告人の供述がされようとしたものにすぎないところ、本件質問等が刑訴法295条1項所定の「事件に関係のない事項にわたる」ものでないことは明らかである。 ……前記主張明示義務に違反したものとも、本件質問等を許すことが公判前整理手続を行った意味を失わせるものとも認められず、本件質問等を同条項により制限することはできない。
決め手は、整理手続で明示していたアリバイの主張を具体化する質問だった点です。明示済みの主張の具体化は、事件に関係のない事項にあたらず、2つの要件のどちらにも当たりません。前の回のたとえで言えば、旅行の幹事に先に伝えておいた行き先の中身を、当日に詳しく話すだけです。組んだ行程は崩れません。では、結論です。
判例最決平27・5・25 刑集69巻4号636頁
最高裁の判断——結論 そうすると、検察官の異議申立てを容れて本件質問等を制限した第1審裁判所の措置は是認できず、原判決が同措置は同条項に反するとまではいえない旨判示した点は、同条項の解釈適用を誤ったものといわざるを得ない。もっとも、原判決は、本件質問等を制限した措置が違法であったとしても、被告人が、最終陳述において、前記アリバイの主張の具体的な内容を陳述しており、この陳述は制限されなかったことなどを指摘し、前記法令解釈の誤りは判決に影響を及ぼすものではない旨判示しており、その結論は相当であるから、原判決に、判決に影響を及ぼすべき違法があるとはいえない。
結論の取り違えに注意してください。制限は違法でした。しかし、被告人が最終陳述でアリバイの具体的内容を述べており、それは制限されなかったことなどから、判決に影響はなく、上告は棄却されました。制限が適法とされたのではありません。
図:整理後の被告人質問の判断
- 新たな主張→条文は主張を直接制限しない→295条1項で制限されうるのは①主張明示義務違反かつ②整理手続を行った意味を失わせる場合
- 明示済みの主張の具体化は制限できない
- 設例=「その時刻はよその場所にいた」と明示→「友人と会っていた」と具体化=制限できない/求釈明に「詳細は被告人質問で話す」としか答えず公判で初めて「別の駅で友人に会っていた」=制限されうる
型にまとめます。1つ目、整理後の新たな主張を、直接制限する規定はありません。2つ目、295条1項による制限は、主張明示義務に違反し、かつ、整理手続を行った意味を失わせるときに限られます。3つ目、明示済みの主張を具体化する質問は、制限できません。先ほどの(c)に戻ります。被告人側がケガの程度を争う主張に転じること自体を、直接禁じる条文はありません。その場合に検察官が医師の尋問を請求できるかは、316条の32のやむを得ない事由の問題として考えます。駅前の事件で2つに分けます。整理手続で、その時刻にはよその場所にいた、とだけ明らかにして、公判で、友人と会っていた、と具体化する場合は、明示済みの主張の具体化ですから、制限できません。一方、裁判所が求釈明したのに、詳細は被告人質問で話す、としか答えず、公判で初めて、実は別の駅で友人に会っていた、と話し始める場合は、2つの要件に当たりえて、制限されうる場合です。整理後の訴因変更は、すでに見ました。争点整理や審理計画の策定がされた趣旨を没却する訴因変更請求は許されない、という物差しでした。整理された争点そのものを動かすか、審理計画を大きく組み直す必要があるか、です。証拠調べの請求、主張、訴因変更と、整理のあとの制限は、場面ごとに別の枠組みで考える、と整理できます。ここも論文で論点になりうる部分です。
今日の地図(保存版)
図:短答の落とし穴
短答の確認です。公判前整理手続は、被告人に弁護人がなくても行えて、公判で弁護人を付せばよい。×です。弁護人がなければ手続を行えません。付すのは裁判長です。弁護人が必要になるのは、死刑又は無期若しくは長期3年を超える拘禁刑に当たる事件に限る。×です。事件の重さと関係なく、整理手続に付したことで決まります。被告人は、期日に出頭する義務がある。×です。出頭することができる、という権利です。黙秘権の告知は、被告人が出頭する最初の期日です。毎回ではありません。期日は、公開の法廷で行わなければならない。×です。三者打合せの根拠は、規則178条の15だ。これも×です。178条の16です。被告人側の冒頭陳述は、期日間整理手続に付された事件でも必要的である。×です。公判前整理手続に付された事件です。整理手続の終了後は、いかなる事情があっても、新たな証拠調べを請求できない。×です。やむを得ない事由があれば請求できます。裁判所の職権による取調べは妨げられません。やむを得ない事由があれば、取調べの必要性は問われない、も×です。316条の32は、整理手続で明示しなかった主張に沿った被告人質問を、直接禁じている。×です。証拠調べ請求の制限で、主張を制限する規定はありません。最高裁は、整理手続で明示された主張を具体化する質問を制限した措置を適法とした。これも×です。制限できないとしました。ただし、判決に影響しないとして上告を棄却しています。
今日のまとめです。整理手続は、証拠を中で出し切っておく約束でした。始めるには弁護人が欠かせず、期日は検察官と弁護人が揃って行い、被告人の出頭は権利です。同じ裁判所が主宰しても、対等な関与と、争点整理という目的、そして書いてはいけない事項の歯止めで、予断排除に反しません。整理を経た公判は、弁護人が必須で、被告人側の冒頭陳述があり、整理の結果が法廷で明らかにされます。整理のあとの証拠調べ請求は、やむを得ない事由がなければできません。そして、制限されるのは請求であって、主張ではありません。主張に沿う被告人質問は、主張明示義務違反で、しかも整理手続の意味を失わせる場合に限って制限されます。次の回では、検察官の手元にある証拠を、弁護側はどこまで見ることができるのかを扱います。
参照条文
- 刑事訴訟法第316条の4第1項・第2項
- 刑事訴訟法第316条の7
- 刑事訴訟法第316条の9第1項〜第3項
- 刑事訴訟法第316条の13第1項後段
- 刑事訴訟法第316条の29
- 刑事訴訟法第316条の30
- 刑事訴訟法第316条の31第1項
- 刑事訴訟法第316条の32第1項・第2項
- 刑事訴訟法第295条第1項