証拠開示の基本と類型証拠開示(任意開示・証拠の一覧表)
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第6章 公判の応用 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:検察官が法廷に出す証拠は、集めた証拠の一部
- 出さなかった証拠の中に、目撃者が最初は違うことを言っていた調書があったら
- 弁護側はそれを見られるのか/見られるならどの段階で、どんな要件か
検察官が法廷に出してくる証拠は、検察官が集めた証拠の、一部です。出してこなかった証拠の中に、目撃者が最初は違うことを言っていた調書があったら、どうでしょうか。前の回の最後に、検察官の手元にある証拠を、弁護側はどこまで見ることができるのか、という問いを残しました。今日はこの問いに答えます。答えは1つではなく、段階があります。検察官が使う証拠は必ず見せる。使わない証拠のうち一定のものは、弁護側の請求で見せる。何があるのかは、一覧表で知らせる。この3つを、なぜそう決まっているのかから確かめます。
図:前に見た5つの段階
- ①検察官の証明予定事実記載書と証拠調べ請求→開示(316条の14)②弁護側の請求で類型証拠開示(316条の15)③被告人側の主張の明示④主張関連証拠開示⑤結果の確認
- 今日=①②(検察官が先に見せる段階)
- ③④⑤は薄く
公判前整理手続の5つの段階の地図を、1枚で受け直します。検察官の証明予定事実記載書と証拠調べ請求、それに続く開示が1つ目。弁護側の請求による類型証拠開示が2つ目です。3つ目以降は、被告人側が主張を明らかにしてからの段階です。今日歩くのは、1つ目と2つ目。検察官が先に見せる段階です。類型証拠開示は、前に名前と位置だけを見ました。今日は、要件を分けて、当てはめまで行います。条文の「重要」と「相当」という2つの言葉を、事例で分けられるようになることが、今日の目標です。
なぜ証拠開示が要るのか
図:手持ち証拠の差
- 証拠は捜査機関が強制処分も使って集め、検察官の手元に集まる→被告人側には強制的に集める手段がない
- 検察官が請求する証拠=有罪立証のために選んだ一部
- 開示=当事者対等の建前に中身を与える
- ただし全部を無条件に見せると=証人への働きかけ/関係者の名誉・プライバシー/罪証隠滅
まず、なぜ証拠開示が要るのかです。証拠は、警察や検察が、捜索や差押えのような強制処分も使って集めます。集まった証拠は、検察官の手元にあります。被告人の側には、強制的に証拠を集める手段がありません。持っている証拠に、最初から大きな差があります。しかも、検察官が法廷に出す証拠は、有罪を立証するために選んだ一部です。たとえば、目撃者が検察官に、犯人の顔をはっきり見たと話した調書を、検察官が請求したとします。ところが、同じ目撃者が最初に警察で、暗くて顔までは見ていないと話した調書もあるのに、こちらは請求されない。法廷には、検察官にとって都合のよい面しか出てきません。
だから、手持ち証拠の差を埋める仕組みが要ります。それが証拠開示です。当事者が対等に攻撃と防御をするという、当事者主義の建前に、中身を与える仕組みだと言えます。全部を無条件に見せると、別の問題が出ます。証人の住所や話した内容が知られれば、証人に働きかけて証言を変えさせようとする人が出るかもしれません。関係者の名誉やプライバシーも傷つきます。証拠を隠したり壊したりする、罪証隠滅につながる場合もあります。開示の必要性と、こうした弊害とを、天秤にかける必要があります。そこで法律は、段階と要件で調整しています。検察官が使う証拠は、必ず見せる。使わない証拠は、類型と相当性で絞って見せる。何があるのかは、一覧表で知らせる。今日の背骨はこの設計です。なお、この仕組みができる前は、開示を定めた規定がなく、裁判所が訴訟指揮で閲覧を命じる決定が到達点でした。前に見たとおりで、今は法律が段階を定めています。
検察官が請求する証拠の開示
図:比較表
- 299条1項(整理手続でない事件)=証拠書類・証拠物は閲覧する機会(実務では謄写も)/証人は氏名と住居を知る機会だけ
- 316条の14第1項(整理手続)=証拠書類・証拠物は閲覧(弁護人は謄写も)/証人等は氏名・住居+供述録取書等(公判で供述すると思料する内容が明らかになるもの)
最初の段階、検察官が使う証拠の開示です。その前に、事前準備の回の復習を1問です。通常の事件で、検察官が証人の尋問を請求するとき、299条1項は、事前に相手へ何を知らせることを求めていましたか?氏名と住居です。調書の中身までは含まれなかったと思います。整理手続では、これが一歩深くなります。流れを確かめます。検察官は、証明予定事実記載書を出し、その事実を証明するために用いる証拠の取調べを請求します。ここまでは前に見ました。この請求について、次の条文が置かれています。
条文刑事訴訟法第316条の13第3項
刑事訴訟法第316条の13第3項——299条1項の不適用 前項の規定により証拠の取調べを請求するについては、第二百九十九条第一項の規定は適用しない。
整理手続での請求には、299条1項は適用されません。その代わりに働く条文が、316条の14です。検察官請求証拠、つまり検察官が取調べを請求した証拠について、検察官は、速やかに開示をしなければなりません。
条文刑事訴訟法第316条の14第1項
刑事訴訟法第316条の14第1項——検察官請求証拠の開示 検察官は、前条第二項の規定により取調べを請求した証拠(以下「検察官請求証拠」という。)については、速やかに、被告人又は弁護人に対し、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、当該各号に定める方法による開示をしなければならない。 一 証拠書類又は証拠物 当該証拠書類又は証拠物を閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与えること。 二 証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人 その氏名及び住居を知る機会を与え、かつ、その者の供述録取書等のうち、その者が公判期日において供述すると思料する内容が明らかになるもの(当該供述録取書等が存在しないとき、又はこれを閲覧させることが相当でないと認めるときにあつては、その者が公判期日において供述すると思料する内容の要旨を記載した書面)を閲覧する機会(弁護人に対しては、閲覧し、かつ、謄写する機会)を与えること。
1号は、証拠書類と証拠物が対象です。閲覧する機会を与えます。弁護人に対しては、閲覧だけでなく謄写、つまり写しを取る機会も与えます。被告人本人には、閲覧する機会だけです。謄写が条文に書いてあるのは弁護人に対してだけ、という点は、短答で問われます。2号は、証人、鑑定人、通訳人、翻訳人です。氏名と住居を知る機会に加えて、その人の供述録取書等のうち、公判で話すと思われる内容が分かるものを、閲覧し、弁護人には謄写もさせます。供述録取書等とは、供述書、署名や押印のある供述録取書、そして供述を録音録画した記録媒体のことです。つまり、調書や録音録画です。
供述録取書等が存在しないとき、または閲覧させることが相当でないと認めるときは、公判で話すと思う内容の要旨を書いた書面を、閲覧させます。整理手続で証人の調書まで見られるのは、次の理由からです。弁護側は、検察官の証拠にどう意見を述べるか、自分の主張を明らかにするかを決めます。証人が何を話す予定かを知らなければ、その判断ができないからだと考えると分かりやすいです。299条1項の事前開示は、請求予定の証拠が固まった段階での、不意打ち防止の仕組みでした。整理手続の開示は、その先の争点整理まで見据えています。先ほどの目撃者を、検察官が証人として請求したとします。通常の事件なら、弁護側が知らされるのは、目撃者の氏名と住居だけです。整理手続なら、目撃者が検察官に話した調書まで、前もって読めます。時期は、速やかにです。開示そのものの期限を定めた条文はありません。裁判所が当事者の意見を聴いて期限を定めるのは、その手前の、証明予定事実記載書の提出と証拠調べの請求です。前に見た316条の13第4項です。起訴後何週間以内といった数字は、条文にはありません。
証拠の一覧表
図:何があるか分からなければ、請求のしようがない
- 請求証拠の開示の後に、被告人又は弁護人の請求があって初めて交付
- 一覧表=標目(見出し)だけ・中身ではない
- 中身を見るには開示請求が要る
請求された証拠は、これで見られます。では、請求されない証拠は、どうやって存在を知るのでしょうか。何があるのか分からなければ、開示を請求しようがありません。そこで、検察官が保管している証拠の一覧表が使われます。
条文刑事訴訟法第316条の14第2項
刑事訴訟法第316条の14第2項——証拠の一覧表の交付 検察官は、前項の規定による証拠の開示をした後、被告人又は弁護人から請求があつたときは、速やかに、被告人又は弁護人に対し、検察官が保管する証拠の一覧表の交付をしなければならない。
要点は2つです。1つ目は、請求があって初めて交付される、ということです。検察官が自分から渡す義務はありません。2つ目は、時期です。請求証拠の開示をしたあと、とあるだけで、被告人側が主張を明らかにする前でも請求できます。この制度は、平成28年の改正で入りました。一覧表に何が書かれるのか。そして、書かなくてよい場合は何か。続けて、3項と4項を見ます。
条文刑事訴訟法第316条の14第3項・第4項
刑事訴訟法第316条の14第3項・第4項——一覧表の記載事項と記載しない場合 3 前項の一覧表には、次の各号に掲げる証拠の区分に応じ、証拠ごとに、当該各号に定める事項を記載しなければならない。 一 証拠物 品名及び数量 二 供述を録取した書面で供述者の署名又は押印のあるもの 当該書面の標目、作成の年月日及び供述者の氏名 三 証拠書類(前号に掲げるものを除く。) 当該証拠書類の標目、作成の年月日及び作成者の氏名 4 前項の規定にかかわらず、検察官は、同項の規定により第二項の一覧表に記載すべき事項であつて、これを記載することにより次に掲げるおそれがあると認めるものは、同項の一覧表に記載しないことができる。 一 人の身体若しくは財産に害を加え又は人を畏怖させ若しくは困惑させる行為がなされるおそれ 二 人の名誉又は社会生活の平穏が著しく害されるおそれ 三 犯罪の証明又は犯罪の捜査に支障を生ずるおそれ
図:一覧表の記載事項と記載しない場合
- 左=記載事項3区分(証拠物=品名・数量/署名押印のある供述録取書=標目・作成年月日・供述者の氏名/その他の証拠書類=標目・作成年月日・作成者の氏名)
- 右=記載しないことができる3つのおそれ(害を加える行為・名誉や平穏の侵害・犯罪の証明や捜査への支障)
- 枠外=標目であって中身ではない
記載事項は、証拠の種類で3つに分かれ、証拠ごとに書きます。証拠物なら、品名と数量。署名や押印のある供述録取書なら、標目と、作成の年月日と、供述者の氏名。その他の証拠書類なら、標目と、作成の年月日と、作成者の氏名です。標目とは、書面の見出しにあたる名前です。ひったくりの事件で考えます。通行人が警察で話した調書があれば、一覧表には、通行人の警察官調書という標目と、作成の年月日と、通行人の氏名が載ります。何を話したかは、載りません。一覧表は、図書館の蔵書目録のようなものです。どんな本があるかは分かりますが、本の中身は、借りて読まなければ分かりません。
一覧表をもらえば、載っている調書の中身も読めるのですか。読めません。一覧表は、あくまで標目です。中身を見るには、次に見る類型証拠開示などの、開示の請求が別に要ります。一覧表は、何を請求するかを決める手がかりです。記載しなくてよい場合は、4項の3つのおそれです。たとえば、供述者の氏名を書けば、その人に危害が及ぶおそれがある場合は、1号です。2号は、名誉や社会生活の平穏が著しく害される場合、3号は、犯罪の証明や捜査に支障が出る場合です。ただし、これは検察官が、そのおそれがあると認める事項に限って、記載しないことができる、という例外です。5項は、交付のあとに新たに証拠を保管したときは、速やかに追加の一覧表を交付する、という定めです。
任意開示
図:検察官の手元の証拠の3層
- ①検察官請求証拠=必ず開示(316条の14)②類型証拠=請求+重要性+相当性(316条の15)③それ以外=法律上の請求権なし・検察官が自発的に見せる(任意開示)
- 右に一覧表(標目だけ・中身ではない)
ここで、検察官の手元の証拠を、3つの層に分けて整理します。1層目は、検察官請求証拠で、必ず開示されます。2層目は、請求と要件で開示される類型証拠です。3層目が、それ以外の証拠です。この3層目に、任意開示があります。任意開示とは、検察官が、請求予定の証拠以外の手持ち証拠を、自発的に弁護人に見せる運用です。大事なのは、法律上の請求権ではない、という点です。法律が弁護側に開示の請求を認めているのは、類型証拠と、次の回で見る主張関連証拠、つまり被告人側が明らかにした主張に関連する証拠だけです。検察官が義務でもないのに見せる理由は、2つ考えられます。1つは、類型証拠に当たると判断したものを、請求を待たずに見せることです。請求を待ち、要件を争うより、早く見せたほうが整理手続が早く進みます。もう1つは、類型や主張関連に当たらないかもしれない証拠でも、見せることで、争点が広がるのを防ぎ、弁護人に早く主張を明らかにしてもらえることです。整理手続の導入後、実務で広く行われています。1つ目の理由の例です。検察官が現場の実況見分調書を請求する事件で、別の日に同じ現場で作られた実況見分調書を、弁護人の請求を待たずに、最初から渡しておく、という形です。検察官が開示に応じないとき、裁判所に判断を求める仕組みがあります。ただし、これは請求権のある開示のための仕組みで、任意開示を断られても使えません。仕組みの中身は、次の回で見ます。ここで1問です。任意開示について、弁護人に法律上の開示請求権はありますか?
ありません。請求権があるのは、類型証拠のように、条文が定める開示だけだと理解しました。短答では、任意開示の請求権があるとする肢が×です。
類型証拠開示:目的と要件
図:類型証拠開示の流れ
いよいよ類型証拠開示です。まず目的です。目的は、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するためです。証明力とは、その証拠を、どれくらい信じてよいか、ということです。請求証拠を見るだけでは分からない、信用性を確かめる材料を、弁護側が求める仕組みです。条文の柱書を、全文で見ます。長いので、画面で追いながら、あとで部品に分けます。
条文刑事訴訟法第316条の15第1項
刑事訴訟法第316条の15第1項柱書——類型証拠開示 検察官は、前条第一項の規定による開示をした証拠以外の証拠であつて、次の各号に掲げる証拠の類型のいずれかに該当し、かつ、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であると認められるものについて、被告人又は弁護人から開示の請求があつた場合において、その重要性の程度その他の被告人の防御の準備のために当該開示をすることの必要性の程度並びに当該開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度を考慮し、相当と認めるときは、速やかに、同項第一号に定める方法による開示をしなければならない。この場合において、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。
部品に分けます。まず、前条第一項の開示をした証拠以外、とあります。請求証拠は、すでに見られるので、対象外です。そのうえで、要件は4つあります。1つ目は、法律が挙げる類型のいずれかに当たること。2つ目は、特定の検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であること。3つ目は、重要性の程度や防御準備の必要性と、開示の弊害を比べて、検察官が相当と認めること。4つ目は、被告人または弁護人からの開示の請求です。開示の相手は、被告人または弁護人です。1つ目と2つ目は、条文の客観的な枠です。3つ目は、検察官が天秤にかけて、相当と認めるかどうかです。重要性と相当性という2つの言葉は、このあと事例で分けます。効果も確認します。要件を満たせば、検察官は速やかに、開示をしなければなりません。方法は、316条の14第1項1号の方法、つまり弁護人なら閲覧し、かつ謄写する機会です。証拠そのものを見られます。ただし、検察官は、必要と認めるときは、開示の時期や方法を指定し、条件を付けることができます。そして、開示しないときは、検察官は、その理由を弁護側に告げなければなりません。刑事訴訟規則217条の26です。ここで1問です。類型のどれかに当たる証拠なら、検察官は必ず開示しなければなりませんか?
必ず開示とは限りません。類型に当たるだけでは足りず、重要性と相当性という2つの絞りを通る必要があります。この2つの絞りが、弊害との調整の中心です。類型証拠開示は、被告人側が主張を明らかにする前でも請求できます。ここで重要かどうかを測る相手は、被告人側の主張ではなく、検察官請求証拠です。この請求証拠をどれくらい信じてよいかを確かめる材料になるか、という問いですから、主張が決まる前でも答えられます。条文の順番もそうなっています。前に見た316条の17は、被告人側が主張を明らかにする時期を、請求証拠と類型証拠の開示を受けたあと、と定めています。検察官の立証の全体像を見て、情報の差を埋めてから、防御の方針を決めて主張を出す。そのための順番です。
類型を束で理解する
図:類型の束
- 1つ目の束=客観的な証拠(1号 証拠物/2号 裁判所又は裁判官の検証調書/3号 検察官等の検証調書・これに準ずる書面=実況見分調書の類/4号 鑑定書・これに準ずる書面/9号 検察官請求の証拠物の押収手続等記録書面)
- 2つ目の束=被告人以外の者の供述録取書等(5号イ・ロ/6号)
- 3つ目の束=被告人の供述録取書等と取調べ状況の記録(7号・8号)
- 各束に代表例
類型は、1号から9号まであります。全部を番号で暗記する必要はありません。3つの束で理解します。1つ目の束は、客観的な証拠です。2つ目の束は、被告人以外の者の供述録取書等。3つ目の束は、被告人の供述録取書等と、取調べ状況の記録です。1つ目の束、客観的な証拠から見ます。画面の全文では、1号から4号です。
条文刑事訴訟法第316条の15第1項第1号〜第4号
刑事訴訟法第316条の15第1項第1号〜第4号——1つ目の束(客観的な証拠) 一 証拠物 二 第三百二十一条第二項に規定する裁判所又は裁判官の検証の結果を記載した書面 三 第三百二十一条第三項に規定する書面又はこれに準ずる書面 四 第三百二十一条第四項に規定する書面又はこれに準ずる書面
証拠物、検証の結果を記載した書面、鑑定の結果を記載した書面などです。321条2項から4項は、伝聞例外で前に見た、検証調書と鑑定書の条文です。3号は、検察官、検察事務官、司法警察職員が作る検証の書面で、これに準ずる書面には、実況見分調書の類が入ります。代表例は、現場の様子を記録した実況見分調書です。このほか9号が、検察官が請求した証拠物について、いつ、どこで、誰が押収したかを記録した書面を挙げています。9号は平成28年の改正で加わりました。2つ目の束です。被告人以外の者の供述録取書等で、5号と6号です。
条文刑事訴訟法第316条の15第1項第5号・第6号
刑事訴訟法第316条の15第1項第5号・第6号——2つ目の束(被告人以外の者の供述録取書等) 五 次に掲げる者の供述録取書等 イ 検察官が証人として尋問を請求した者 ロ 検察官が取調べを請求した供述録取書等の供述者であつて、当該供述録取書等が第三百二十六条の同意がされない場合には、検察官が証人として尋問を請求することを予定しているもの 六 前号に掲げるもののほか、被告人以外の者の供述録取書等であつて、検察官が特定の検察官請求証拠により直接証明しようとする事実の有無に関する供述を内容とするもの
5号のイは、検察官が証人として尋問を請求した人の、供述録取書等です。ロは、検察官が調書を請求していて、その調書に弁護側が同意しなければ、検察官が証人尋問を請求する予定の人の、供述録取書等です。326条の同意とは、調書をそのまま証拠にすることに、相手方が同意することです。つまり、法廷に出てくる可能性が高い人の、請求した調書以外の調書が、この号の中心です。6号は、5号の人以外の調書でも、検察官がある請求証拠で直接証明しようとする事実の有無に関する供述が書かれていれば、含まれます。たとえば、被告人が犯人かどうかが争点で、検察官が請求していない別の通行人の調書に、犯人の特徴が書かれていれば、この号が検討の対象になります。5号と6号の分け方を、検察官が何を請求したかで整理します。その人を証人として請求したなら、イ。その人の調書を請求していて、弁護側が同意しなければ証人として請求する予定なら、ロ。どちらでもない人の調書でも、請求証拠で直接証明しようとする事実について話していれば、6号です。3つ目の束です。被告人自身の供述と、取調べの状況の記録です。
条文刑事訴訟法第316条の15第1項第7号・第8号
刑事訴訟法第316条の15第1項第7号・第8号——3つ目の束(被告人の供述録取書等と取調べ状況の記録) 七 被告人の供述録取書等 八 取調べ状況の記録に関する準則に基づき、検察官、検察事務官又は司法警察職員が職務上作成することを義務付けられている書面であつて、身体の拘束を受けている者の取調べに関し、その年月日、時間、場所その他の取調べの状況を記録したもの(被告人又はその共犯として身体を拘束され若しくは公訴を提起された者であつて第五号イ若しくはロに掲げるものに係るものに限る。)
7号は、被告人の供述録取書等で、被告人自身の調書です。8号は、身体拘束中の取調べが、いつ、どこで、どれくらいの時間行われたかを記録した書面です。平成28年の改正で、被告人に係るものだけでなく、共犯者として身体を拘束され、または起訴された人で、5号のイやロに当たる人に係るものにも広がりました。なぜ、この類型が選ばれているのですか。類型的に、請求証拠の信用性を確かめるのに役立ち、しかも開示の弊害が比較的小さいものだからです。同じ人物の別の供述、現場の客観的な記録、被告人自身の供述の経過。どれも、請求された証拠をどれくらい信じてよいかを確かめるのに、直接つながります。ここで1問です。検察官が目撃者の検察官調書を請求しています。同じ目撃者の警察官調書は、請求証拠の開示の段階で見られますか? 見られないとしたら、どう請求しますか?
請求された証拠ではないので、この段階では見られません。類型証拠として、請求した調書の証明力を判断するために重要だと明らかにして、請求することになります。検察官が請求したのは調書ですから、弁護側が同意しなければ目撃者を証人として請求する予定なら、5号のロに当たります。最初から目撃者を証人として請求していた場合は、イです。同じ人物の供述の変遷を比べるために、この束が使われます。
重要性と相当性の当てはめ
図:設例1の当てはめ
- 窃盗(ひったくり)
- 被告人は犯人性を争う
- 検察官の請求証拠=甲1 通行人の検察官調書(街灯の下で犯人の顔をはっきり見た)/甲2 昼間の見通しの実況見分調書
- 弁護人が請求=①通行人の警察官調書(5号→甲1の供述の変遷)②夜間の街灯の明るさを調べた実況見分調書(3号→甲1の前提条件)③請求されていない別の通行人の調書(6号→被告人が犯人か)
- ×=通行人の身上調書(重要性なし)
設例で当てはめます。夜道で、スマートフォンをひったくられた事件です。被告人は、犯人は自分ではない、と争っています。検察官は、通行人の検察官調書、甲1を請求しました。街灯の下で犯人の顔をはっきり見た、被告人に間違いない、という内容です。あわせて、昼間に現場の見通しを撮影した実況見分調書、甲2も請求しました。弁護人は、甲1の通行人の言い分を、どれくらい信じてよいかを確かめたいと考えます。請求は3つです。1つ目は、同じ通行人の警察官調書です。検察官は、甲1に弁護側が同意しなければ、通行人を証人として請求する予定です。調書を請求された人なので、5号のロにあたります。目的は、甲1の、顔をはっきり見たという供述に、変遷がないかを確かめることです。最初は暗くて顔までは見ていないと話していなかったか。2つ目は、夜間に同じ現場で、街灯の明るさを調べた実況見分調書です。3号の書面にあたります。甲2は昼間の見通しですから、夜の見え方は示しません。甲1の、街灯の下で見えたという前提条件が、本当に成り立つのかを確かめる材料です。3つ目は、請求されていない別の通行人の調書で、犯人は小柄だった、と話している内容のものです。6号にあたります。被告人が犯人かどうかという、検察官が立証しようとする事実の有無に関する供述だからです。
類型に当たっても、請求が通らない場合があります。たとえば、弁護人が、甲1の通行人の、出生、学歴、経歴、家族関係だけを書いた身上調書まで請求したとします。通行人が犯人を見たかどうかの供述の、信用性を判断するのに、類型的に重要とは言えません。これが、重要性が否定される例です。ある地方裁判所の決定が、この考え方を示しています。
判例横浜地決平20・5・22
裁判例の一例——身上経歴は重要性を欠く(地方裁判所の決定) 不開示事項のうち,出生,学歴及び経歴,家族関係については,供述の証明力を判断するにあたって類型的に重要性があるとは言えず,刑訴法316条の15第1項本文記載の重要性の要件を欠いている。
この決定の事案では、弁護人が、共犯とされる人たちの供述調書を、類型証拠として請求しました。検察官は、警察官調書を開示しましたが、身上調書のうち、出生や経歴、家族関係、前科前歴などの部分は除きました。その部分は、重要性が非常に低く、プライバシー侵害の弊害が大きい、という理由です。弁護人は裁判所に判断を求め、裁判所は、請求を棄却しました。注意点です。これは地方裁判所の決定の一例で、最高裁の判例のように、一般的な基準として覚えるものではありません。当てはめの一例として、重要性とは、この特定の証拠を信じてよいかに効くかどうかだ、と押さえてください。次に、相当性の例です。設例2。被告人の自白調書が請求された窃盗です。検察官は、被告人の検察官調書、乙1を請求しました。やりました、という内容です。被告人は、警察で長く取り調べられて、疲れてサインした、と言っています。
図:設例2の当てはめ
- 窃盗
- 検察官の請求証拠=乙1 被告人の検察官調書(やりました)
- 被告人=警察で長く取り調べられ疲れてサインした
- 弁護人が請求=①被告人の別の日付の供述調書(7号→乙1と前後で変わっていないか)②身体拘束中の取調べの年月日・時間・場所を記録した書面(8号→乙1をどれくらい信じてよいかの材料)
- 相当性が問題になる例=共犯者の前科前歴(効き目と弊害の天秤)
弁護人が請求するのは2つです。1つ目は、被告人の別の日付の供述調書です。7号にあたります。乙1の内容が、前後で変わっていないかを比べます。2つ目は、取調べ状況を記録した書面です。身体拘束中の取調べの、年月日、時間、場所を記録したもので、8号にあたります。この8号の目的を、任意性と言い切ってはいけません。条文の目的は、あくまで、請求証拠の証明力を判断するため、です。ここでは、乙1をどれくらい信じてよいかを確かめる材料、と言えば足ります。任意性の問題は、自白法則の回で扱った、別の論点です。では、相当性が問題になる場面です。弁護人が、共犯とされる人の前科前歴まで請求したとします。内容によっては、その人が自分の刑責を軽くしたい動機を推測させる事情になり、供述の信用性を判断するのに重要な場合もあります。そのため、重要性が全くないとは言えません。しかし、その人の供述調書がほかに全部開示されていれば、供述の変遷や整合性で、信用性は十分に判断できます。開示の必要性は下がり、名誉やプライバシーを侵すおそれが上回る場合があります。先ほどの決定は、この場面でも判断を示しています。
判例横浜地決平20・5・22
裁判例の一例——前科前歴は相当性を欠く(地方裁判所の決定) 共犯関係にある供述者に前科前歴があることは,その内容次第では,供述者が自らの刑責を軽くする動機を推知させる一事情となりうるなど,その供述の証明力を判断するために重要である場合があることは否定できない。しかし,共犯関係にある各供述者については既に,身上調書の不開示部分を除き,その供述調書が全て開示されていることなどに照らすと,供述の変遷,各供述間での整合性等によって十分各供述者の供述の証明力の判断をすることができるのであるから,前科前歴を開示する必要性は相当低いと言うべきである。一方,これを開示した場合には,共犯関係にある供述者の名誉あるいはプライバシーを不当に侵害するおそれは決して小さくない。以上より,上記各証拠の前科前歴に関する部分については,重要性が高いとまでは言えず,開示の必要性が相当低いと言うべきである一方,開示の弊害が決して小さくない本件事案においては,刑訴法316条の15第1項本文所定の相当性が認められない。
重要性は、その証拠が、特定の請求証拠を信じてよいかの判断に効くかどうかです。身上経歴は、ここで止まりました。相当性は、その効き目と、開示の弊害とを天秤にかけた結果です。前科前歴は、効き目が全くないわけではないが、弊害のほうが重い、と判断されました。2つは別の関門です。冒頭の答えに戻ります。検察官が使う証拠は、必ず見せる。何があるのかは、一覧表で知らせる。そして、使わない証拠のうち一定のものは、弁護側の請求で見せる。この一定のものとは、類型に当たり、重要性と相当性という2つの関門を通ったものです。ここは、論文で論点になりうる部分です。当てはめでは、どの類型に当たるか、どの請求証拠の証明力を判断するためか、なぜ重要か、そして弊害は何か、という順で書けるように、事例で練習しておくと役立ちます。
請求するときに明らかにすること
図:請求の際に明らかにする事項
- 316条の15第3項第1号
- イ=類型と、請求する証拠を識別するに足りる事項。ロ=特定の請求証拠の証明力を判断するために重要であること等、開示が必要な理由。実務の含意=何かありそうだから全部、では足りない
請求のしかたにも条文があります。何かありそうだから全部見せてください、では足りません。
条文刑事訴訟法第316条の15第3項(柱書・第1号)
刑事訴訟法第316条の15第3項(柱書・第1号)——請求の際に明らかにする事項 被告人又は弁護人は、前二項の開示の請求をするときは、次の各号に掲げる開示の請求の区分に応じ、当該各号に定める事項を明らかにしなければならない。 一 第一項の開示の請求 次に掲げる事項 イ 第一項各号に掲げる証拠の類型及び開示の請求に係る証拠を識別するに足りる事項 ロ 事案の内容、特定の検察官請求証拠に対応する証明予定事実、開示の請求に係る証拠と当該検察官請求証拠との関係その他の事情に照らし、当該開示の請求に係る証拠が当該検察官請求証拠の証明力を判断するために重要であることその他の被告人の防御の準備のために当該開示が必要である理由
3項は、第1項の請求のときに、2つを明らかにするよう求めています。イは、どの類型に当たるかと、請求する証拠を識別するに足りる事項です。どの証拠を指しているかが分かる程度、ということです。ロは、その証拠が、特定の請求証拠の証明力を判断するために重要である理由などです。ひったくりの設例の1つ目で、請求の型を見ます。弁護人は、こう言います。類型は5号のロ。対象は、甲1の通行人が警察で話した調書。甲1の、顔をはっきり見たという供述の証明力を判断するために、重要です。理由は、供述が前後で変わっていないかを確かめる必要があるからです。特定の証拠、類型、重要な理由。この3点を言って請求する、ということです。
請求の理由を明らかにしなければならないと、3項が定めています。理由が弱ければ、検察官は、開示しない理由を告げて応じないことがあります。請求の言い方は、結論に影響します。
尋問準備との関係
図:類型証拠開示の意味
- 反対尋問は、法廷で主尋問を聞いてからでは遅い
- 証人予定者の別の調書を前もって見て、公判で予想される証言との食い違いを探す(328条の自己矛盾供述による弾劾の材料)
- 被告人質問=自分の調書の変遷を把握
- 請求しなければ、検察官が自発的に見せる義務はない
類型証拠開示が何に効くのかを、尋問の面から確かめます。その前に、1問です。証人が公判で述べたことと、前に述べたことが食い違うとき、前の供述を証拠にするための根拠は何でしたか?328条の、自己矛盾供述による弾劾です。同じ証人が前に違うことを述べていた、という事実を示して、法廷での証言の信用性を減らす。これが弾劾でした。ただし、前に何を述べたかを知らなければ、突きようがありません。反対尋問は、法廷で主尋問を聞いてから考えるのでは遅いのです。証人予定者の別の調書を前もって見て、公判で予想される証言との食い違いを探しておく。そのための材料が、類型証拠開示です。ひったくりの設例で言えば、通行人が法廷で、顔をはっきり見た、と証言したとします。警察官調書に、暗くて顔までは見ていない、とあれば、弁護人はその食い違いを突けます。被告人質問でも同じです。被告人自身の供述調書の変遷を前もって把握しておけば、検察官が反対質問で突いてくる点に備えられます。注意点が1つあります。請求による開示なので、請求しなければ、検察官が自発的に見せる義務はありません。請求漏れは、弁護人の責任になります。
ここまでで見えないもの
図:類型の外にある証拠
- 例=警察官の取調べ時のメモ
- 類型に当たらない→この段階では請求の足がかりがない
- 類型証拠開示は主張の前
- それ以外を開く鍵は、被告人側が主張を明らかにしたあとの開示
- 検察官が応じないときは裁判所が判断する仕組みがある
ここまでで、請求証拠、類型証拠、そして任意開示を見ました。それでも、見えない証拠が残ります。類型は、法律が挙げた1号から9号に限られるからです。たとえば、警察官が被告人の取調べのときに、自分の覚えのために取ったメモです。被告人の署名も押印もないので、7号の、被告人の供述録取書等には当たりません。作成が義務づけられた取調べ状況の記録でもないので、8号にも当たりません。こうしたメモは、7号にも8号にも当たらず、この段階では、請求の足がかりがありません。それを開く鍵は、被告人側が主張を明らかにしたあとの開示です。さらに、検察官が開示に応じないときは、誰がどう決めるのか。次の回で扱います。
今日の地図(保存版)
図:短答の落とし穴
短答の確認です。検察官は、公判前整理手続で、手持ちの証拠をすべて被告人側に開示しなければならない。×です。請求証拠は必ず開示されますが、それ以外は、類型証拠や主張関連証拠として、要件と相当性で決まります。検察官請求証拠のうち、証拠書類や証拠物について、被告人に対しても謄写する機会を与えなければならない。×です。謄写が条文に書かれているのは、弁護人に対してです。検察官が証人として請求した者については、氏名と住居だけでなく、公判で話すと思われる内容が分かる供述録取書等も、弁護人には閲覧と謄写をさせます。○です。証拠の一覧表は、請求がなくても検察官が交付する。×です。請求があったときです。請求できる時期は、請求証拠の開示のあとで、被告人側が主張を明らかにする前でも構いません。一覧表に、証拠の内容の要旨が書かれる、も×です。標目や品名、年月日、氏名で、中身そのものではありません。任意開示について、被告人側に法律上の請求権がある。×です。検察官が自発的に見せる運用です。類型証拠に当たる証拠は、必ず開示される。×です。特定の請求証拠の証明力を判断するために重要で、かつ、必要性と弊害を比べて相当と認められることが要ります。類型証拠開示は、被告人側が主張を明らかにしたあとでなければ請求できない。これも×です。請求証拠の開示を受けたあとなら、主張の前でも請求できます。取調べ状況の記録は、被告人に係るものに限る。×です。共犯者側にも広がっています。検察官は、開示に応じないときは、理由を告げる必要はない。×です。理由を告げなければなりません。
今日のまとめです。手持ち証拠の差は埋めたいが、全部を無条件に見せると弊害が出る。だから、検察官が使う証拠は必ず開示し、保管する証拠は一覧表で知らせ、使わない証拠のうち、請求証拠の証明力を判断するために重要で、しかも相当な一定の類型だけを、弁護側の請求で開示します。重要性は、その証拠が特定の請求証拠を信じてよいかに効くかどうか、相当性は、その効き目と弊害の天秤です。次の回では、類型の外にある証拠を、弁護側がどうすれば見られるのかと、検察官が応じないときは誰が決めるのかを扱います。
参照条文
- 刑事訴訟法第316条の13第3項
- 刑事訴訟法第316条の14第1項
- 刑事訴訟法第316条の14第2項
- 刑事訴訟法第316条の14第3項・第4項
- 刑事訴訟法第316条の15第1項
- 刑事訴訟法第316条の15第1項第1号〜第4号
- 刑事訴訟法第316条の15第1項第5号・第6号
- 刑事訴訟法第316条の15第1項第7号・第8号
- 刑事訴訟法第316条の15第3項(柱書・第1号)