裁判員裁判(対象事件・構成・権限・評決・選任)
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第6章 公判の応用 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:9つの席
- 裁判官3人は全員「無罪」、裁判員6人は全員「有罪」
- 9人のうち6人、3分の2が有罪
- この被告人は有罪になるのか
- 答えは評決の条文で出す
裁判員6人の全員が、有罪、と言いました。裁判官3人の全員は、無罪、と言いました。9人のうち6人、3分の2が有罪です。この被告人は、有罪になるのでしょうか。仕掛けはあります。答えは、評決の条文のところで出します。先に、条文の言葉を1つだけ頭に置いてください。双方の意見を含む、です。序盤の回で先に送った裁判員裁判の構成と、直前の回で予告した対象事件と分担に、今日答えます。全体を貫く軸は1本です。国民が裁判に加わる。ただし、裁判官が基本的な担い手であり続けるように、設計されている。合憲かどうか、どの事件が対象か、誰がどう決めるか。どれも、この軸で説明がつきます。
制度の目的と位置づけ
図:3つの制度の比較
- 陪審=裁判官は加わらない・事実認定
- 参審=裁判官と共同・任期で参加
- 裁判員=裁判官と共同(参審に近い)・事件ごとにくじで選ぶ(陪審に近い)・事実認定と法令の適用と量刑
まず、この制度は何のためにあるのか。条文の1つ目です。この回では、裁判員の参加する刑事裁判に関する法律を、以下、裁判員法と呼びます。全文で見ます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第1条
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第1条 この法律は、国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)及び刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の特則その他の必要な事項を定めるものとする。
部品に分けます。裁判員が、裁判官と共に刑事訴訟手続に関与すること。それが、司法に対する国民の理解の増進と、その信頼の向上に資すること。この2点が、制度の目的です。条文が掲げているのは、結論の出来のよさではありません。司法への理解と信頼です。例で言います。ある市民が、裁判員として証人の話を聞き、証拠を見て、判決の言い渡しまで見届けた立場になったとします。その人は、裁判所の中で何が起きているかを、体験として知ります。体験が家族や職場で語られれば、裁判は遠い世界のものではなくなります。理解が広がり、それが信頼の土台になる、という筋です。
陪審は、市民だけで事実を判断し、裁判官は加わらない仕組みです。参審は、市民が裁判官と一緒に議論して決める仕組みで、一定の任期で参加する形が典型です。裁判員は、この2つの特徴を併せ持ちます。事件ごとに、くじで選ばれるところは、陪審に近い。裁判官と一緒に、事実認定、法令の適用、量刑まで話し合うところは、参審と共通します。最高裁も、この制度を、陪審制に類似する面と、参審制と共通する面を併せ持つ、我が国独特の制度だと述べています。
合憲性
図:争点と判旨
- 弁護人の主張4つ=①国民の司法参加の規定がない・裁判所にあたらない(32条・37条1項・76条1項・31条)②76条3項③76条2項④18条後段
- 判旨の骨=司法参加と諸原則は調和できる→合憲性は「諸原則に抵触するか」で決まる→確保されている限り内容は立法政策
- 全員一致で棄却
ここが、この回の山場の1つ目です。国民が裁判官と一緒に刑事裁判をする制度は、憲法に反しないのでしょうか。その疑問が、争いの出発点でした。最高裁の大法廷で、弁護人は4つの主張をしました。1つ目。憲法に国民の司法参加を定めた規定は無く、80条1項も下級裁判所が裁判官で構成されることを前提にしている。だから、裁判員の加わる裁判体は憲法の裁判所にあたらず、裁判を受ける権利や公平な裁判所の保障などに反する。2つ目。裁判官の職権行使の独立を定める76条3項に反する。3つ目。特別裁判所の設置を禁じる76条2項に反する。4つ目。意に反する苦役を禁じる18条後段に反する。大法廷は、4つとも退けました。全員一致です。中心になるのは、1つ目への答えで、次の判示です。
判例最大判平23・11・16 刑集65巻8号1285頁
国民の司法参加と憲法 国民の司法参加と適正な刑事裁判を実現するための諸原則とは,十分調和させることが可能であり,憲法上国民の司法参加がおよそ禁じられていると解すべき理由はなく,国民の司法参加に係る制度の合憲性は,具体的に設けられた制度が,適正な刑事裁判を実現するための諸原則に抵触するか否かによって決せられるべきものである。換言すれば,憲法は,一般的には国民の司法参加を許容しており,これを採用する場合には,上記の諸原則が確保されている限り,陪審制とするか参審制とするかを含め,その内容を立法政策に委ねていると解されるのである。
部品に分けます。前半。国民の司法参加と、適正な刑事裁判を実現するための諸原則は、調和させることができる。だから、国民の司法参加が、およそ禁じられているわけではない。後半。憲法は、一般的には国民の司法参加を許している。採用するなら、諸原則が確保されている限り、陪審にするか参審にするかを含めて、内容は立法政策に委ねている。諸原則の中身も、押さえます。憲法31条から39条が定める、刑事裁判の約束ごとです。適正な手続の保障、裁判を受ける権利、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利、令状主義、弁護人を依頼する権利、強制による自白の排除などです。大法廷は、これらを厳格に守るには、高度の法的な専門性が要る、と述べています。
大法廷は、憲法の条文の作りを見ています。旧憲法は、裁判官による裁判、と書いていました。今の憲法は、裁判所における裁判、と表現を改めています。この言い換えの意味は、判決の言葉そのものではなく、私たちの読みです。裁判官による裁判、なら、裁く人は裁判官に限られます。裁判所における裁判、なら、保障されるのは裁判所という場で裁かれることで、裁く人を裁判官だけに限る言葉ではない、と読めます。判決に戻ります。憲法を作った当時の政府部内でも、この書きぶりから、陪審や参審を採ることもできる、と理解されていました。しかも、最高裁判所と違って、下級裁判所については、裁判官だけで構成する、と明示した規定を置いていません。国民が加わる余地を、条文が閉じていないのです。
建物で言うと、耐震基準を満たしている限り、間取りは設計者が自由に決められる、という関係です。憲法が基準で、陪審にするか、参審にするか、裁判員制度のような形にするかが、間取りです。基準を割り込まなければ、どの間取りでも憲法違反にはなりません。選ぶのは国会だ、ということです。すると、問いはこう変わります。裁判員制度という間取りは、基準、つまり適正な刑事裁判の諸原則を満たしているか。大法廷は、満たしていると判断しました。決め手になる判示です。
判例最大判平23・11・16 刑集65巻8号1285頁
裁判員制度の仕組みと合憲の結論 このような裁判員制度の仕組みを考慮すれば,公平な「裁判所」における法と証拠に基づく適正な裁判が行われること(憲法31条,32条,37条1項)は制度的に十分保障されている上,裁判官は刑事裁判の基本的な担い手とされているものと認められ,憲法が定める刑事裁判の諸原則を確保する上での支障はないということができる。
この結論を支えた事情を、判決の言葉に沿って3つに整理します。1つ目。裁判官は、身分保障のもとで独立して職権を行使する。裁判員は、公平性と中立性を確保できるよう配慮された手続で選ばれる。2つ目。裁判員の関与する判断、つまり事実認定、法令の適用、量刑は、あらかじめ法律的な知識や経験を持っていることが必ずしも不可欠な事項であるとはいえない。様々な視点や感覚を反映できる。3つ目。憲法が定める刑事裁判の諸原則の保障は、裁判官の判断に委ねられている。この3つ目が、今日の軸の根拠です。憲法の原則を守る役目は、これまでどおり裁判官が担います。だから、裁判官は刑事裁判の基本的な担い手だ、と言えるのです。この判決がどこまで言ったのかも、確かめます。合憲とされたのは、いま見た仕組みを備えた裁判員制度です。国民が加わる制度なら何でも合憲だ、とは言っていません。仕組みの違う制度なら、諸原則に抵触するかを、改めて測ることになります。
2つ目の主張、裁判官の職権行使の独立を定める76条3項について、大法廷の答えは、憲法が国民の司法参加を許している以上、裁判官の多数意見が常に裁判の結論でなければならないとは解されない、でした。そのうえで、評決は単なる多数決ではなく、多数意見の中に少なくとも1人の裁判官が加わっていることが必要とされ、被告人の権利保護という観点からの配慮もされている、と述べています。この言葉が、冒頭の問いの答えにつながります。評決の節で回収します。3つ目と4つ目も、退けられています。特別裁判所とは、特定の人や事件のために、通常の裁判所の系列の外に置かれた裁判所です。裁判員の加わる合議体は地方裁判所に属し、控訴も上告もできるので、通常の裁判所の系列の内側にあり、あたりません。意に反する苦役とは、本人が望まないのに無理やり働かされることです。大法廷は、裁判員の職務は、参政権と同じように国民に権限を与えるもので、辞退の仕組みも柔軟に設けられている、として、苦役にあたらないとしました。ここは、結論と理由を一言ずつで足ります。短答では、裁判員の加わる裁判体は憲法上の裁判所にあたる、憲法は国民の司法参加を許容している、の2点を押さえてください。ここは、論文で論点になりうる部分です。
被告人に選択権はあるか
図:2つの判決の関係
- 大法廷=骨組み(諸原則が確保されている限り内容は立法政策)
- 第二小法廷=骨組みを「選択権がない」という具体的な主張に当てはめる→32条・37条に違反しない
- 被告人が除外を請求できる場合(次の節)は「選ぶ権利」とは別
大法廷判決のあとに、もう1つ、最高裁の判決が出ました。弁護人が、被告人には裁判員裁判を受けるか受けないかを選ぶ権利がある、と主張した事件です。選択権が無いことは、憲法32条と37条に反しないか、という争いでした。判示です。
判例最判平24・1・13 刑集66巻1号1頁
被告人の選択権 憲法は,刑事裁判における国民の司法参加を許容しており,憲法の定める適正な刑事裁判を実現するための諸原則が確保されている限り,その内容を立法政策に委ねていると解されるところ,裁判員制度においては,公平な裁判所における法と証拠に基づく適正な裁判が制度的に保障されているなど,上記の諸原則が確保されている。したがって,裁判員制度による審理裁判を受けるか否かについて被告人に選択権が認められていないからといって,同制度が憲法32条,37条に違反するものではない。
判決は、この結論を、先ほどの大法廷判決の趣旨に照らして明らかだ、と述べて結んでいます。2つの判決の関係は、骨組みと当てはめです。大法廷が、諸原則が確保されている限り内容は立法政策に委ねる、という骨組みを示しました。第二小法廷が、その骨組みを、選択権が無いという具体的な主張に当てはめて、違反しないとしたのです。骨組みが先で、当てはめが後です。ここから先は、判決そのものではなく、私たちの整理です。判決の理由は、この1段です。そのうえで、なぜ選択権が無くても許されるのかを考えます。憲法32条が保障するのは、裁判所で裁判を受ける権利です。37条1項は、公平な裁判所の裁判を保障します。大法廷の枠組みでは、裁判員の加わる裁判体も、公平な裁判所で、適正な裁判が制度的に保障されています。保障されているのは裁判の質で、どの種類の裁判体で裁かれるかを選ぶ権利までは、含まれない、と読めます。設例です。被告人が、裁判官だけで裁いてほしい、と言ったとします。対象事件であれば、その希望にかかわらず、裁判員裁判で進みます。
被告人が、裁判員裁判から外してほしいと請求できる場合も、あるのではないですか。あります。ただし、それは次の節で見る、危害のおそれなどの要件を満たしたときの請求です。選ぶ権利ではありません。短答では、被告人は裁判員裁判を受けるか否かを選択できる、と出れば、×です。
対象事件
図:対象事件の振り分け
どの事件が、裁判員裁判の対象になるのか。ここで、1問です。傷害、傷害致死、過失致死。同じように、人が傷ついたり亡くなったりする事件ですが、裁判員裁判の対象になるのは、どれでしょうか。人が亡くなっている、傷害致死と過失致死の2つだと思います。対象になるのは、傷害致死だけです。理由は、条文で確かめます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条第1項
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条第1項 1 地方裁判所は、次に掲げる事件については、次条又は第三条の二の決定があった場合を除き、この法律の定めるところにより裁判員の参加する合議体が構成された後は、裁判所法第二十六条の規定にかかわらず、裁判員の参加する合議体でこれを取り扱う。 一 死刑又は無期拘禁刑に当たる罪に係る事件 二 裁判所法第二十六条第二項第二号に掲げる事件であって、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係るもの(前号に該当するものを除く。)
対象は、2種類です。1号は、死刑又は無期拘禁刑に当たる罪の事件。刑が重い事件です。2号は、法定合議事件のうち、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件です。法定合議事件とは、法律が、裁判官3人の合議体で扱うと決めている事件です。短期、つまり刑の下限が1年以上の拘禁刑などに当たる罪が、これに当たります。1号に当たるものは、2号から除かれます。刑の重さで対象にするのが1号、刑がそこまで重くなくても、人が亡くなったという結果の重大さで対象にするのが2号、と整理できます。設例で当てはめます。傷害は、法定刑に下限が無く、法定合議事件でもないので、対象外です。傷害致死は、短期3年以上で、法定合議事件に当たります。そして、人を死亡させています。ここで、故意の犯罪行為により、とあるのが決め手です。傷害致死は、暴行や傷害という行為が故意の犯罪行為です。死亡という結果に、故意は要りません。だから、2号で対象になります。
過失致死は、行為そのものが過失です。故意の犯罪行為により、という条文の文言に当たりません。業務上過失致死も同じです。ほかの例も並べます。強盗致傷は、無期又は6年以上の拘禁刑で、無期を含みます。1号で対象です。殺人は、死刑を含むので、1号です。自動車の危険運転で人を死亡させた罪は、1年以上の有期拘禁刑で、短期が1年以上なので法定合議事件です。人の死亡があるので、2号の例です。取調べの録音・録画の回で、録音・録画の対象事件は、おおむね裁判員裁判の対象事件と重なる、と言いました。重なる部分は大きいですが、条文の範囲は完全に同じではありません。ここでは、2条1項そのものを覚えてください。
除外決定と構成
図:除外決定と構成の表
- 3条=危害のおそれ等で出頭確保・職務遂行が困難/3条の2=審判が著しく長期になる等で選任が困難・員数不足
- 請求できる人=検察官・被告人・弁護人・職権
- 意見を聴く・即時抗告できる
- 構成=裁判官3人と裁判員6人(裁判長は裁判官)/例外=裁判官1人と裁判員4人(争いがない・適当と認められる・異議がないことの確認)
復習を1問です。直前の回で見ました。即時抗告の提起期間は、何日でしたか?3日です。この即時抗告が、今日も出てきます。対象事件でも、裁判員裁判で扱わず、裁判官だけの合議体で扱う決定をする場合があります。除外の決定です。1つ目は、3条です。被告人やその仲間の言動などから、裁判員候補者や裁判員、その親族などに、生命、身体、財産への危害や、生活の平穏の著しい侵害のおそれがあるとします。そのために、候補者の出頭を確保したり、裁判員が職務を遂行したりすることが難しいときは、除外の決定をしなければなりません。2つ目は、3条の2です。公判前整理手続を経て、審判に要する期間が著しく長くなるなど、裁判員の選任や職務の遂行が困難なとき。また、欠けた裁判員と交代する補充裁判員がおらず、員数が足りなくなって、その後の審判が著しく長くなるときも含みます。手続は、2つの条文で共通です。請求できるのは、検察官、被告人、弁護人です。裁判所が職権でもできます。決定の前に、意見を聴きます。そして、決定に対して、即時抗告ができます。次に、構成です。条文を見ます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条第2項
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条第2項 2 前項の合議体の裁判官の員数は三人、裁判員の員数は六人とし、裁判官のうち一人を裁判長とする。ただし、次項の決定があったときは、裁判官の員数は一人、裁判員の員数は四人とし、裁判官を裁判長とする。
原則は、裁判官3人と裁判員6人です。裁判長は、裁判官です。例外が、裁判官1人と裁判員4人です。これには、3項と4項の要件が要ります。要件を、条文の言葉で拾います。まず、公判前整理手続による争点と証拠の整理で、公訴事実に争いがないと認められること。そして、事件の内容その他の事情を考慮して、適当と認められること。さらに、公判前整理手続で、検察官、被告人、弁護人に、異議のないことを確認すること。決定は、選任手続の期日までにします。被告人が事実を認めていれば、簡単な事件として、自動的に1人と4人になるのでしょうか。なりません。条文には、簡単な事件、という言葉はありません。争いがないと認められること、適当と認められること、異議のないことの確認。この3つが、要件です。被告人が異議を述べているのに、1人と4人にはできません。補充裁判員も、一言だけ触れます。審理の途中で、裁判員が病気などで職務を続けられなくなったときに備えて、補充裁判員を置けます。評決には加わりません。
裁判官と裁判員の分担
図:判断の仕分け表
- 裁判員も加わる合議=事実の認定/法令の適用/刑の量定
- 裁判官だけ=法令の解釈/訴訟手続に関する判断(証拠能力など)
- 具体例=「この自白調書を証拠にしてよいか」=裁判官のみ/「条文の暴行にどこまで含まれるか」=裁判官のみ/「証人の話は信用できるか」=合議/「この行為は傷害致死罪にあたるか」=合議/「刑は何年か」=合議
- 下段=質問(証人等は56条・被告人は59条)・自由心証62条・裁判官の判断に従う66条
構成が分かったので、次は、分担です。裁判員は、何を判断し、何を判断しないのか。6条です。1項は、裁判員の関与する判断を定めます。条文で見ます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第6条第1項(抜粋)
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第6条第1項(抜粋) 1 …次に掲げるもの(以下「裁判員の関与する判断」という。)は、第二条第一項の合議体の構成員である裁判官(以下「構成裁判官」という。)及び裁判員の合議による。 一 事実の認定 二 法令の適用 三 刑の量定
裁判員が裁判官と合議で行うのは、事実の認定、法令の適用、刑の量定の3つです。2項は、裁判官だけで行う判断です。条文で見ます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第6条第2項
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第6条第2項 2 前項に規定する場合において、次に掲げる裁判所の判断は、構成裁判官の合議による。 一 法令の解釈に係る判断 二 訴訟手続に関する判断(少年法第五十五条の決定を除く。) 三 その他裁判員の関与する判断以外の判断
裁判官だけで行うのは、法令の解釈に係る判断と、訴訟手続に関する判断です。まとめると、事実、適用、量刑は一緒に。解釈と手続は、裁判官だけで。この線引きです。括弧書きの少年法55条の決定は、事件を家庭裁判所に移す決定です。これだけは、裁判官だけの判断から除かれています。仕分けの練習をします。5つの判断を並べます。この自白調書を証拠として採用してよいか。これは、証拠能力の判断です。有罪か無罪かの中身を決めるのではなく、その証拠を審理の材料にしてよいかを決める、手続の進め方の判断です。ですから、訴訟手続に関する判断で、裁判官だけです。条文の暴行に、どこまで含まれるか。法令の解釈です。裁判官だけです。この証人の話は信用できるか。証明力の判断で、事実の認定です。裁判員も加わります。この行為は傷害致死罪の条文にあてはまるか。法令の適用です。裁判員も加わります。刑は何年が相当か。量刑です。裁判員も加わります。
解釈は、条文の意味そのものを決める作業です。暴行とは何か、のように、一般的な意味を定めます。適用は、決まった意味を、目の前の事実に当てはめる作業です。この行為は、その暴行にあたるか、と問います。意味を決める役目は裁判官。決まった意味を事実に当てはめる役目は、裁判官と裁判員の合議です。なぜ、こう分けるのか。先ほどの判示が、理由を示していました。裁判員の関与する判断は、法律の専門知識が必ずしも不可欠な事項であるとはいえず、様々な視点や感覚を反映できます。一方、憲法の刑事裁判の諸原則を守る判断は、裁判官が担います。今日の軸の、具体化です。裁判官だけで決めた判断が出たとき、裁判員はどうするのか。66条です。裁判長は、必要があると認めるとき、裁判官の合議で決めた法令の解釈や訴訟手続の判断を、評議で示します。裁判員は、それに従って職務を行います。次に、質問する権利です。裁判員は、裁判長に告げて、証人その他の者に質問できます。56条です。被告人にも、裁判長に告げて、質問できます。59条です。ここで、条番号の取り違えに注意してください。証人などは56条、被告人は59条です。
裁判員の関与する判断に必要な事項を、質問します。最後に、62条。裁判員の関与する判断で、証拠の証明力は、それぞれの裁判官と裁判員の自由な判断にゆだねられます。証人の話が信用できるか、は、一人ひとりが自分の経験と感覚で判断する、ということです。
評議と評決
図:評決の検算
- 9人の合議体・過半数は5人
- A=裁判官1と裁判員4(5人・双方を含む)→有罪にできる/B=裁判官0と裁判員6(6人・裁判官を含まない)→できない(冒頭の問いの答え)/C=裁判官3と裁判員1(4人・過半数に足りない)→できない/D=裁判官3と裁判員2(5人)→できる
- 裁判官1人と裁判員4人の合議体(過半数は3人)では、裁判員4人が有罪でも裁判官1人が無罪ならできない
いよいよ、冒頭の問いに戻ります。その前に、2つの条文の区別です。評議と評決です。評議は、話し合う場です。66条1項は、評議は構成裁判官と裁判員が行う、と定めます。2項は、裁判員は、評議に出席して、意見を述べなければならない、と定めます。義務です。5項は、裁判長に、法令の説明を丁寧に行い、評議を分かりやすく整理し、発言の機会を十分に設ける配慮を求めます。評決は、結論の数え方です。67条です。全文で見ます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第67条
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第67条 1 前条第一項の評議における裁判員の関与する判断は、裁判所法第七十七条の規定にかかわらず、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見による。 2 刑の量定について意見が分かれ、その説が各々、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見にならないときは、その合議体の判断は、構成裁判官及び裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数の意見になるまで、被告人に最も不利な意見の数を順次利益な意見の数に加え、その中で最も利益な意見による。
まず、1項です。条文の初めに出てくる裁判所法77条は、合議体の裁判は過半数の意見で決める、という通常の決まりです。67条1項は、その特則です。部品に分けます。合議体の員数の過半数。そして、構成裁判官と裁判員の、双方の意見を含むこと。条件は、2つです。この2つを、両方満たさなければなりません。9人の合議体なら、過半数は5人です。冒頭の問いに答えます。裁判員は6人が有罪、裁判官3人が無罪。6人は、過半数の5人以上です。1つ目の条件は満たします。しかし、6人は全員が裁判員で、裁判官の意見を含みません。2つ目の条件を満たしません。だから、有罪にはできません。結論は、無罪です。
検算で、輪郭を見ます。同じ5人でも、結論が分かれる例があります。裁判官1人と裁判員4人が有罪の場合。5人で過半数で、双方を含みます。有罪にできます。ところが、裁判員5人と裁判官0人が有罪の場合。同じ5人でも、裁判官を含みません。有罪にできません。分かれ目は、人数ではなく、裁判官が1人でも加わっているかどうかです。逆の例も見ます。裁判官3人が全員有罪でも、裁判員の賛成が1人だけなら、合計4人で、過半数の5人に足りません。有罪にできません。裁判官3人と裁判員2人なら、合計5人で、双方を含みます。有罪にできます。裁判官だけでは決まりません。裁判員だけでも決まりません。裁判官1人と裁判員4人の合議体では、5人で、過半数は3人です。裁判員4人全員が有罪でも、裁判官1人が無罪なら、裁判官の意見を含まないので、有罪にできません。
大法廷の言葉が理由になります。判決は、憲法が定める刑事裁判の諸原則の保障は、裁判官の判断に委ねられている、と述べています。別の箇所で、評決では多数意見の中に少なくとも1人の裁判官が加わっていることが必要とされ、被告人の権利保護という観点からの配慮もされている、とも述べています。この2つをつなぐのは、私たちの説明です。裁判員だけの多数で有罪にできるなら、原則を守る役の裁判官が、1人も賛成していない有罪が出てしまいます。それを避ける仕組みが、この要件だと読めます。逆に、裁判官の多数意見が、常に結論になるなら、国民が加わる意味がなくなります。判決も、そう述べていました。だから、裁判官側にも、裁判員側にも、拒否できる位置を与えます。合同の委員会で、事務局側と市民側の両方から、最低1人の賛成が要る決議、と同じ形です。裁判官と裁判員は、対等の権限を持って協力する。そういう設計です。補足を1つ。法令の解釈と訴訟手続の判断は、裁判官だけの合議でした。ですから、67条の対象ではありません。こちらは、通常の決まりどおり、裁判官だけで数えます。裁判官が3人なら、そのうち2人以上の意見で決まります。この節をまとめます。裁判員の1票と裁判官の1票は、同じ重さです。それでも、裁判官が1人も賛成しない有罪は出ません。国民が裁判に加わる。ただし、裁判官が基本的な担い手であり続ける。今日の軸が、票の数え方になったのが、67条1項です。
量刑の特則
図:67条2項の算術
- 15年=3人(全員裁判員)/12年=2人(全員裁判員)/10年=3人(裁判官2・裁判員1)/8年=1人(裁判官)
- 過半数は5人で、どの説も届かない
- 重い方から足す=15年の3人→12年を加えて5人(過半数だが裁判官を含まない)→10年を加えて8人(裁判官2・裁判員6・双方を含む過半数)
- 加えた中で最も利益な意見=10年
67条の2項です。刑の量定に特則があります。なぜ特則が要るのか。有罪か無罪かは二択ですが、刑は、何年が相当か、と意見が散らばります。そのまま過半数を探すと、どの説も届かず、結論が出ません。条文の言葉を部品に分けます。刑の量定で意見が分かれ、どの説も、双方の意見を含む過半数にならないとき。その場合は、被告人に最も不利な意見の数に、順次、利益な意見の数を加えます。双方を含む過半数になるまで加えて、その加えた中で、最も利益な意見によります。数字で一段ずつ見ます。9人の合議体で、意見が4つに分かれたとします。拘禁刑15年が3人。この3人は全員、裁判員です。12年が2人。この2人も、全員、裁判員です。10年が3人。裁判官2人と、裁判員1人です。8年が1人。裁判官です。合計で9人です。各説の人数を見ます。いちばん多い15年でも3人です。過半数の5人に届きません。そこで、最も不利な意見、つまり最も重い15年の3人から始めて、利益な意見を順に加えます。1段目。15年の3人に、12年の側の2人を加えます。3足す2で、5人です。人数は過半数に届きました。しかし、5人は全員が裁判員です。裁判官の意見を含みません。条件を満たしません。さらに加えます。2段目。ここに、10年の3人を加えます。5足す3で、8人です。内訳は、裁判官2人と裁判員6人。双方を含み、過半数です。ここで止めます。加えた中で、最も利益な意見は、10年です。結論は、拘禁刑10年です。8年の1人は、加えずに終わります。
15年を主張した3人は、結局、自分たちの意見より軽い10年で決まります。重い意見を述べた側から見れば、そう感じるでしょう。ただ、仕組みは、重い意見から順に足していき、裁判官と裁判員の双方を含む過半数に届いた時点で、足した中でいちばん軽い意見になる、というものです。全体でいちばん軽い意見そのものではありません。この例で、8年にならないのは、そのためです。量刑について、もう1点。量刑の評議では、過去の量刑の傾向が、目安として使われます。最高裁も、傾向を共通の出発点にして、評議を深める、という考え方を示しています。ただし、傾向に従う義務はありません。そのうえで、これまでの傾向から外れる量刑をするときは、その理由を具体的に、説得的に示すことが求められます。深掘りは、量刑の回で扱います。
裁判員の選任
図:選任の3区分
- 欠格事由(14条)=なれない
- 就職禁止事由(15条)=職務に就けない
- 辞退事由(16条)=申立てがあれば辞退できる
- 資格=衆議院議員の選挙権を有する者(13条)=18歳以上
- 注意=欠格と就職禁止は申立て不要・辞退は申立てが必要
後半に入ります。誰が裁判員になるのか。資格は、13条で、衆議院議員の選挙権を有する者、とされています。選挙権は、公職選挙法9条1項で、18歳以上です。2段で覚えてください。裁判員は18歳以上です。選ばれるときは、無作為の、くじです。ここから、3つの区別です。欠格事由、就職禁止事由、辞退事由。取り違えやすい、短答の核心です。まず、14条の欠格事由です。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第14条
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第14条 国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)第三十八条の規定に該当する場合のほか、次の各号のいずれかに該当する者は、裁判員となることができない。 一 学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に定める義務教育を終了しない者。ただし、義務教育を終了した者と同等以上の学識を有する者は、この限りでない。 二 拘禁刑以上の刑に処せられた者 三 心身の故障のため裁判員の職務の遂行に著しい支障がある者
欠格事由は、その人自身の条件で、そもそも裁判員になれない場合です。義務教育を終了していない者、拘禁刑以上の刑に処せられた者、心身の故障で職務の遂行に著しい支障がある者です。次が、15条の就職禁止事由です。職業や地位で、職務に就けない場合です。1項は、国会議員、国務大臣、裁判官、検察官、弁護士、司法警察職員、自衛官などを挙げます。2項は、拘禁刑以上の刑に当たる罪で起訴されて、事件が終結していない者や、逮捕又は勾留されている者です。ここは、条文の趣旨を、私たちの整理で言います。この制度の狙いは、法律の専門家ではない市民の視点や感覚を、裁判に反映することでした。法律の専門家が加われば、その視点が薄まります。さらに、公務の要職にある人や、捜査や裁判に直接かかわる人が加わると、職務の性質上、公平性の面でも問題が生じかねません。そういう整理ができます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第16条(抜粋)
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第16条(抜粋) 次の各号のいずれかに該当する者は、裁判員となることについて辞退の申立てをすることができる。 一 年齢七十年以上の者 … 三 学校教育法第一条、第百二十四条又は第百三十四条の学校の学生又は生徒(常時通学を要する課程に在学する者に限る。) 四 過去五年以内に裁判員又は補充裁判員の職にあった者
最後が、16条の辞退事由です。いまカードに出ている部分で言います。ここは、申立てをすれば辞退できる、という条文です。1号は、年齢70年以上の者。3号は、学生や生徒で、常時通学を要する課程にいる者。4号は、過去5年以内に、裁判員や補充裁判員だった者です。ほかに、重い疾病、介護や養育、事業上の重要な用務、父母の葬式などの重要な用務、重大な災害の再建など、個別の事情による辞退事由があります。短答の落とし穴は、ここです。欠格事由と就職禁止事由は、そもそもなれないので、辞退の申立てを待ちません。辞退事由は、申立てがあって、はじめて辞退できます。ですから、就職禁止事由のある人が、辞退の申立てをすれば裁判員になれる、という肢は、×です。選任の手続で、一言ずつ。検察官と被告人は、それぞれ、理由を示さずに、4人まで不選任の請求ができます。補充裁判員を置くときは、その人数に応じて増えます。36条です。裁判官1人と、裁判員4人の構成なら、3人までです。また、労働者が裁判員の職務のために休暇を取ったことを理由に、解雇その他の不利益な取扱いをしてはなりません。100条です。
守秘義務
図:守秘義務
- 守秘の対象=評議の秘密(評議の経過・各人の意見・その多少の数)と職務上知り得た秘密(事件関係者のプライバシー・他の裁判員の氏名など)
- 話してよい=公開の法廷で見聞きしたこと・参加した感想
- 罰則(108条)=現職1項(6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金)/職を離れた後2項(同じ刑)・3項(罰金のみ)
次は、守秘義務です。裁判員は、評議の秘密と、そのほかの職務上知り得た秘密を、漏らしてはなりません。9条2項と、70条1項です。70条1項を、カードで見ます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第70条第1項
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第70条第1項 1 構成裁判官及び裁判員が行う評議並びに構成裁判官のみが行う評議であって裁判員の傍聴が許されたものの経過並びにそれぞれの裁判官及び裁判員の意見並びにその多少の数(以下「評議の秘密」という。)については、これを漏らしてはならない。
評議の秘密とは、評議の経過、それぞれの裁判官と裁判員の意見、その多少の数です。裁判員を務めたことについて、何も話せなくなるわけではありません。話してよいものと、いけないものがあります。話してよいのは、公開の法廷で見聞きしたことと、裁判員を務めた感想や経験です。いけないのは、評議で誰がどんな意見を言ったか、なん対なんで決まったか、事件関係者のプライバシー、ほかの裁判員の氏名などです。例で言います。帰宅して、家族に、証人が法廷で涙ぐんでいた、と話すのは、公開の法廷で見たことです。話してよいです。私は有罪の意見だったが、5対4で決まった、と話すのは、評議の秘密です。いけません。なぜ、秘密にするのか。最高裁も、評議における自由な意見表明を保障するために、守秘義務を設けた、と述べています。誰がどう言ったか、何人が賛成したかが外に出れば、あとで責められたり、圧力をかけられたりするかもしれません。それでは、自由に意見を言えなくなります。罰則は、108条です。現職の裁判員が、評議の秘密や、職務上知り得た秘密を漏らしたとき。6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金です。1項です。職を離れたあとも、義務は続きます。ただし、漏らした内容によって、刑が分かれます。2項は、職にあった者が、職務上知り得た秘密を漏らしたとき、評議の秘密のうち、各人の意見やその多少の数を漏らしたとき、財産上の利益を得る目的で評議の秘密を漏らしたときです。1項と同じ刑です。3項は、それ以外の評議の秘密、たとえば評議の経過を漏らしたときで、50万円以下の罰金だけです。
審理の工夫
図:審理の工夫
- 必要的公判前整理手続(49条)=対象事件は必ず付す(一般の事件は裁量)
- 51条=裁判官・検察官・弁護人は迅速で分かりやすい審理に努める
- 55条=冒頭陳述は公判前整理手続の結果に基づき証拠との関係を具体的に明示
- 連日開廷(刑訴281条の6)
- 波及=人証中心・見て聞いて分かる審理
ここから、審理の工夫です。ここで1問です。裁判員裁判の対象事件で、公判前整理手続に付すのは、裁量でしたか、必須でしたか?必須だったと思います。裁判員法49条が、対象事件は、第1回公判期日前に、公判前整理手続に付さなければならない、と定めます。一般の事件が、刑事訴訟法316条の2で裁量なのと、対照的です。必須にする理由は、公判前整理手続の回で見たとおりです。市民を、何日も何か月も、拘束するわけにはいきません。争点と証拠を絞って、分かりやすく審理するためです。51条は、裁判官、検察官、弁護人に、裁判員の負担が過重にならないようにしつつ、審理を迅速で分かりやすいものとするよう努めることを求めます。55条は、冒頭陳述について、公判前整理手続の結果に基づいて、証拠との関係を具体的に明示することを求めます。冒頭陳述が、証拠と結びつかない抽象的な話では、市民には分かりにくいからです。審理に2日以上かかる事件は、できる限り、連日開廷します。刑事訴訟法281条の6で、以前の回で見ました。裁判員が、日常から離れる期間を短くするためです。
裁判員が加わると、証拠の出し方も変わるのでしょうか。変わりました。市民が、法廷でのやり取りを目と耳で確かめながら、理解できる審理が目指されます。そのため、証人の尋問など、法廷で直接取り調べる証拠が中心になり、調書を読み上げる運用は減りました。これまで見た、裁判所が自ら証拠に触れる直接主義と、口頭で審理する口頭主義が、実際の運用でも生かされた形です。
区分審理と部分判決
図:区分審理の流れ
- 被告人Xが事件①傷害致死・事件②強盗致傷・事件③殺人で起訴され、弁論を併合→区分審理の決定(71条)→事件①の裁判員が部分判決(事実認定)→任務終了(84条)→事件②も同様→併合事件審判(86条)で、区分しなかった事件③の審理と全体の刑の量定をして終局判決
- 決定は意見を聴き・即時抗告できる
最後の論点です。被告人Xが、仮に3つの事件で起訴されたとします。事件1は傷害致死、事件2は強盗致傷、事件3は殺人です。3つとも、裁判員裁判の対象事件です。弁論を併合して、1つの裁判で審理することにしました。併合は、別の回で見た、弁論の併合です。そこで使うのが、区分審理の決定です。71条1項を、要のところだけ見ます。
条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第71条第1項(抜粋)
裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第71条第1項(抜粋) 裁判所は、…併合した事件(以下「併合事件」という。)を一括して審判することにより要すると見込まれる審判の期間その他の裁判員の負担に関する事情を考慮し、その円滑な選任又は職務の遂行を確保するため特に必要があると認められるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で、…順次、審理する旨の決定(以下「区分審理決定」という。)をすることができる。 ただし、犯罪の証明に支障を生ずるおそれがあるとき、被告人の防御に不利益を生ずるおそれがあるときその他相当でないと認められるときは、この限りでない。
カードの太字のところが、決定の要件の中心です。併合した事件を一括して審判すると、審判の期間などの、裁判員の負担が大きくなります。その、円滑な選任や職務の遂行を確保するため、特に必要があると認められるとき、裁判所は、事件を区分して順次審理する決定をします。請求できるのは、検察官、被告人、弁護人で、職権でもできます。ただし、犯罪の証明に支障を生ずるおそれや、被告人の防御に不利益を生ずるおそれがあるときは、決定できません。決定の前に、意見を聴きます。決定に対して、即時抗告ができます。流れを、工事に例えます。長い工事を工区に分けて、工区ごとに担当チームが検査に合格して、解散する形です。事件1を担当する裁判員が、事件1について、有罪か無罪かといった事実の認定を、部分判決として言い渡します。84条により、部分判決の宣告で、その裁判員の任務は終わります。事件2も、同じ順序で進みます。事件3は区分しません。最後に残します。最後に、併合事件審判です。86条です。区分しなかった事件3の審理と、部分判決で示された事項を除く残りの審理、そして併合した事件全体の刑の量定を、最後の合議体がまとめて行い、終局の判決を言い渡します。事件3が有罪か無罪かを判断するのも、この最後の合議体です。部分判決で示された事項は、原則として、それによります。
区分審理では、裁判員は、部分判決のあとも、最後まで続けるのですか。続けません。部分判決の宣告で、その区分事件の裁判員の任務は終わります。短答では、部分判決のあとも併合事件審判まで職務を続ける、と出れば、×です。ただし、任務が終わっても、口は閉じたままです。併合事件の裁判がされるまでは、なお裁判員とみなして、守秘義務と罰則が及びます。108条4項です。
短答の落とし穴
図:短答の○×一覧
短答で確認します。裁判員6人全員が有罪でも、裁判官3人全員が無罪なら、有罪にできない。○です。評決は、裁判員だけの過半数でよい。×です。裁判官3人全員が有罪でも、裁判員の賛成が1人だけなら、有罪にできない。○です。合計4人で、過半数の5人に足りません。法令の解釈に係る判断は、裁判員も加わって合議で決める。×です。裁判官だけです。訴訟手続に関する判断も、×です。刑の量定は、裁判員も裁判官と共に合議で行う。○です。裁判員は被告人に質問できる。○です。59条で、裁判長に告げて行います。証人などへの質問は56条です。
被告人は、裁判員裁判を受けるか否かを選べるのでしょうか。選べません。×です。選択権が無くても、憲法32条、37条に違反しないとされています。傷害致死は対象事件である。○です。過失致死は、対象外で、×です。強盗致傷は、1号で対象で、○です。公判前整理手続で、公訴事実に争いがないと認められるとき、被告人が異議を述べても、裁判官1人と裁判員4人にできる。×です。検察官、被告人、弁護人に、異議のないことの確認が要ります。対象事件を除外する決定に対して、不服を申し立てられない。×です。即時抗告ができます。就職禁止事由のある者も、辞退の申立てをすれば裁判員になれる。×です。そもそも職務に就けません。年齢70歳以上の者は、辞退の申立てができる。○です。評議の秘密は、職を離れたあとも守る義務がある。○です。公開の法廷で見聞きしたことも、漏らしてはならない。×です。話してかまいません。区分審理では、裁判員は部分判決のあとも併合事件審判まで職務を続ける。×です。部分判決の宣告で、任務が終わります。
今日の地図(保存版)
図:まとめの地図
- 軸=国民が裁判に加わる・ただし裁判官が基本的な担い手
- 合憲性→対象事件→構成→権限の分担→評議と評決→量刑の特則→選任→守秘義務→審理の工夫→区分審理
- 冒頭の問いの答え=裁判官の意見を含まないので有罪にできない
今日のまとめです。軸は1本でした。国民が裁判に加わる。ただし、裁判官が基本的な担い手であり続けるように、設計されている。憲法は、国民の司法参加を許していて、適正な刑事裁判の諸原則が確保されている限り、内容は立法政策に委ねています。裁判員制度は、その諸原則を確保しているので、合憲です。被告人に、選択権はありません。対象事件は、死刑又は無期拘禁刑に当たる罪と、故意の犯罪行為により被害者を死亡させた法定合議事件です。構成は、裁判官3人と裁判員6人が原則です。事実の認定、法令の適用、刑の量定は一緒に、法令の解釈と訴訟手続は、裁判官だけで判断します。評決は、構成裁判官と裁判員の、双方の意見を含む過半数です。冒頭の問いの答えです。裁判員が6人とも有罪でも、裁判官3人が無罪なら、裁判官の意見を含まないので、有罪にできません。量刑は、重い方から票を足して、双方を含む過半数になるまで加え、その中で最も利益な意見によります。選任は、なれない、職務に就けない、申立てで辞退できる、の3つを区別します。守秘義務は、自由な意見表明のためで、職を離れたあとも続きます。複数の事件は、区分審理で、裁判員の負担を分けます。次は、被害に遭った人の保護です。法廷には、被害に遭った人も証人として立ちます。その負担をどう軽くするかを見ます。
参照条文
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第1条
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条第1項
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第2条第2項
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第6条第1項(抜粋)
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第6条第2項
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第67条
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第14条
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第16条(抜粋)
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第70条第1項
- 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第71条第1項(抜粋)