開示命令と証拠の整理(証拠開示に関する裁定・提示命令・採否留保)
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第6章 公判の応用 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:弁護人Bが、取調べのときに警察官が書いたメモの開示を請求
- 検察官Aは「開示しない」と理由を告げる
- ここで引き下がるしかないのか
- 中身を知らない弁護人は、開示すべき証拠だとどう示すのか
- 答え=裁判所Cが決める
弁護人が、被告人の取調べのときに警察官が書いたメモを見せてほしい、と請求しました。検察官の返事は、開示しません、でした。理由も告げられました。弁護人は、ここで引き下がるしかないのでしょうか。2本前の最後に、検察官が応じないときは、誰が決めるのか、という問いを残しました。前の回では、裁判所が決定で開示を命じることを開示命令という、と一言で確かめただけでした。今日は、その問いに答え、開示命令の中身を歩きます。答えは、裁判所が決める、です。そして、中身を知らない弁護人に代わって、裁判所が中身を確かめる道も用意されています。
図:開示の段階の地図
- 検察官の請求証拠の開示・一覧表・類型証拠開示・被告人側の主張の明示・主張関連証拠開示は薄く=済み
- 右端を濃く=どの段階で拒まれても来る場所「裁判所が決める」
- その先の後始末=主張の追加・変更→証拠の採否の決定→使い道の縛り
開示の段階を、地図1枚で受けます。検察官が取調べを請求した証拠の開示、検察官が保管する証拠の一覧表、法律が挙げる類型に当たる証拠を請求して開く類型証拠の開示は、2本前に歩きました。被告人側の主張の明示と、その主張に関連する証拠を開く主張関連証拠の開示は、前の回に歩きました。どれも済みです。今日は、地図の右端です。どの段階で検察官に拒まれても、最後に来る場所は同じです。そこから先は、後始末が3つ続きます。主張の追加と変更、証拠の採否の決定、開示された証拠の使い道の縛りです。
図:前の回の取調べメモの決定から受ける2点
- ①開示命令の対象は、検察官が現に保管している証拠に限られない
- ②対象かどうかは裁判所が判断する
- 必要があれば、検察官に提示を命じられる
前の回の取調べのメモの決定からは、2点だけ受けます。1つ目。開示命令の対象は、検察官が現に保管している証拠に限られません。警察が持っているメモでも、対象になりえます。2つ目。対象かどうかは、裁判所が判断します。そのために必要があれば、検察官にメモの提示を命じることができます。提示とは、裁判所に見せることでした。今日は、その仕組みを条文で歩きます。
裁定は2種類
図:証拠開示に関する裁定の2種類
- 316条の25=開示する側の請求(検察官は請求証拠の開示/被告人側は自分の請求証拠の開示)→時期・方法の指定と条件の付与
- 316条の26=開示を受ける側の請求→開示命令
- どちらも、316条の5が整理手続でできることとして挙げる「証拠開示に関する裁定」
裁判所が決める、と言いました。条文は、この決定を、証拠開示に関する裁定と呼びます。裁定は総称で、中身は、2つの決定に分かれます。1つ目は、開示の時期や方法を指定し、条件を付ける決定。2つ目は、開示を命じる決定です。ここで1問です。検察官が開示を拒んでいます。裁判所に開示を命じてほしいと請求するのは、開示する側でしょうか、開示を受ける側でしょうか?開示を受ける側の、弁護人だと思います。ただ、条文には、開示する側が請求する決定も、別に用意されています。まず、そちらから、全文で見ます。
条文刑事訴訟法第316条の25第1項〜第3項
刑事訴訟法第316条の25第1項〜第3項——時期・方法の指定と条件の付与 1 裁判所は、証拠の開示の必要性の程度並びに証拠の開示によつて生じるおそれのある弊害の内容及び程度その他の事情を考慮して、必要と認めるときは、第三百十六条の十四第一項(第三百十六条の二十一第四項において準用する場合を含む。)の規定による開示をすべき証拠については検察官の請求により、第三百十六条の十八(第三百十六条の二十二第四項において準用する場合を含む。)の規定による開示をすべき証拠については被告人又は弁護人の請求により、決定で、当該証拠の開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。 2 裁判所は、前項の請求について決定をするときは、相手方の意見を聴かなければならない。 3 第一項の請求についてした決定に対しては、即時抗告をすることができる。
部品に分けます。請求するのは、開示する側です。検察官は、自分の請求証拠の開示について。被告人側は、自分の請求証拠の開示について。できることは、時期か方法を指定すること、または条件を付けることです。開示そのものを命じる条文ではありません。物差しは、開示の必要性の程度と、開示で生じるおそれのある弊害の内容と程度です。開示する側が裁判所に頼む理由は、条文を並べて読むと分かります。類型証拠の316条の15と、主張関連証拠の316条の20には、検察官が必要と認めるときは、開示の時期や方法を指定し、条件を付けられる、という一文があります。検察官が、自分で言えるのです。ところが、検察官の請求証拠を開く316条の14と、被告人側の請求証拠を開く316条の18には、その一文がありません。請求証拠は、自分が公判で使うと決めた証拠です。相手は、中身を見なければ、反論の準備ができません。だから、弊害のおそれがあっても、証拠の中身を見せずに済ませる道は、ありません。拒めない代わりに、中間の解決を裁判所に求める道があります。時期を遅らせる、方法を限る、条件を付ける、です。宅配に例えると、荷物を渡すこと自体は断れないけれど、配達を遅らせてほしい、玄関で見せるだけにしてほしい、と業者に頼む形です。設例で見ます。検察官が請求する通行人の供述録取書に、被告人側の手に渡ると、通行人への接触や威迫に使われかねない内容が含まれているとします。検察官は、調書の中身の開示は拒めません。そこで、閲覧だけを認めて謄写は認めない、あるいは公判の直前に開示する、といった時期と方法と条件を決めてほしい、と裁判所に請求できます。条件の中身は、事情に応じて裁判所が決めます。
比べます。同じ通行人の警察官調書を、類型証拠として開示する場面なら、検察官は、裁判所に頼む必要がありません。閲覧だけにする、と自分で決められます。裁判所への請求が要るのは、この一文が無い、請求証拠の開示のほうです。なお、請求証拠でも、証人などの氏名と住居に限っては、害を加えられるおそれがあるとき、被告人に知らせてはならないという条件を、検察官が自分で付けられます。299条の4という条文を、316条の23が準用しています。
開示命令
図:316条の25と316条の26の対比表
- 請求する人=開示する側/開示を受ける側
- 対象=請求証拠・被告人側の請求証拠/請求証拠・類型証拠・主張関連証拠・被告人側の請求証拠
- できること=時期・方法の指定と条件のみ/開示そのものを命じなければならない
- 共通=決定前に相手方の意見を聴く・即時抗告
- 注記=316条の15・20では検察官が自分で条件を付けられる
もう1つの条文が、開示を受ける側の請求です。これが開示命令です。全文で見ます。
条文刑事訴訟法第316条の26第1項〜第3項
刑事訴訟法第316条の26第1項〜第3項——開示命令 1 裁判所は、検察官が第三百十六条の十四第一項若しくは第三百十六条の十五第一項若しくは第二項(第三百十六条の二十一第四項においてこれらの規定を準用する場合を含む。)若しくは第三百十六条の二十第一項(第三百十六条の二十二第五項において準用する場合を含む。)の規定による開示をすべき証拠を開示していないと認めるとき、又は被告人若しくは弁護人が第三百十六条の十八(第三百十六条の二十二第四項において準用する場合を含む。)の規定による開示をすべき証拠を開示していないと認めるときは、相手方の請求により、決定で、当該証拠の開示を命じなければならない。この場合において、裁判所は、開示の時期若しくは方法を指定し、又は条件を付することができる。 2 裁判所は、前項の請求について決定をするときは、相手方の意見を聴かなければならない。 3 第一項の請求についてした決定に対しては、即時抗告をすることができる。
請求するのは、相手方、つまり開示を受ける側です。検察官が開示すべき証拠を開示していないと裁判所が認めるときは、被告人側の請求により、開示を命じます。逆に、開示すべき証拠を出していないのが被告人側なら、請求できるのは検察官です。冒頭の、取調べのメモを見せてもらえない弁護人は、前者です。後者の例は、弁護人が、証人として請求した人の氏名と住居を、検察官に知らせない場合です。このときは、検察官が請求します。大事なのは、命じなければならない、という書き方です。要件を満たすと認めれば、裁判所には命じる義務があります。裁量で命じるかどうかを選べるわけではありません。できる、とは書いていないのです。一方、後段の、時期や方法の指定と条件の付与は、できる、です。2つの文末を、取り違えないでください。
開示すべき証拠だと認めた時点で、開示は、法律がすでに義務づけています。裁判所が、命じない、を選ぶ余地はありません。そのうえで、仕方を整えるかどうかは、事情に応じて裁判所が見る、という組み立てです。ここで復習を1問です。2本前に見ました。任意開示について、弁護人に法律上の開示請求権はありましたか?ありませんでした。検察官が自発的に見せる運用で、請求権はありませんでした。この答えが、条文に戻って見えます。316条の26が挙げているのは、請求証拠、類型証拠、主張関連証拠、被告人側の請求証拠の開示だけです。請求権のある開示だけが、対象に並んでいます。任意開示は、列挙の外です。だから、検察官が任意で見せると言った証拠を見せなくても、開示命令は請求できません。2本前に、裁定は任意開示に使えない、と言った理由は、これです。ここは、論文で論点になりうる部分です。では、任意開示を断られた弁護人は、どうするか。その証拠が、類型証拠か主張関連証拠の要件に当たると示して、請求し直します。請求権のある開示に乗れば、応じないときに、開示命令を請求できます。
手続の流れと即時抗告
図:裁定の手続
- 請求(書面が原則・謄本を相手方へ送る・整理手続期日では口頭も許される)→決定の前に相手方の意見を聴く→決定→即時抗告(提起期間3日・提起期間内と申立てで執行は停止)
- 注記=開示しない場合、検察官は理由を告げる(類型証拠・主張関連証拠)
手続の流れです。請求は、書面でするのが原則です。請求した人は、速やかに、書面の謄本を相手方に送ります。ただし、整理手続の期日では、裁判所が口頭の請求を許すこともできます。決定を出す前に、裁判所は、相手方の意見を必ず聴きます。条文は、聴かなければならない、と定めています。請求した側の言い分だけでは決めない、ということです。ここで聴く意見は、証拠調べの請求に対する、同意するか異議がないかという意見とは別のものです。同じ意見という言葉ですが、場面が違います。もう1点。類型証拠と主張関連証拠の請求を、検察官が開示しないときは、検察官は、開示しない理由を相手に告げます。冒頭の弁護人が、理由を告げられたのは、この決まりのためです。理由が分かれば、弁護人は、裁判所への請求で、何を争えばよいかが分かります。
即時抗告ができます。即時抗告とは、法律が特に認めた場合にだけできる不服申立てで、提起期間が決まっているものです。期間は3日です。その3日の間と、即時抗告の申立てがあったときは、裁判の執行が止まります。
条文刑事訴訟法第422条
刑事訴訟法第422条——即時抗告の提起期間 即時抗告の提起期間は、三日とする。
通常、訴訟手続に関して判決前にした決定には、特に認める規定が無ければ、抗告はできません。整理手続に付す決定のところで出てきた言い方です。裁定は、316条の25と26の第3項が、特に認めています。だから、争えます。早く確定させる必要があるので、期間は短く、3日です。3日という期間と、執行が止まることの、2点を覚えてください。
条文刑事訴訟法第425条
刑事訴訟法第425条——即時抗告の執行停止 即時抗告の提起期間内及びその申立があつたときは、裁判の執行は、停止される。
執行が止まる意味を、設例で言います。開示を命じる決定が出ても、検察官が3日以内に即時抗告をすれば、開示はまだされません。一度見せた証拠は、見なかったことにできないからです。
提示命令
図:提示命令
- 開示すべきかを決めるには中身を見る必要がある
- しかし相手に見せれば開示したのと同じ
- だから裁判所だけが見る(何人にも閲覧・謄写をさせない)
- 1項=請求に係る証拠の提示(検察官・被告人・弁護人に命じられる)/2項=検察官の保管する証拠で、裁判所が指定する範囲の標目の一覧表の提示
冒頭の、もう1つの問いです。メモの中身を知らない弁護人は、どうやって、開示すべき証拠だと示せばよいのか。答えが、提示命令です。開示すべきかどうかを決めるには、裁判所が中身を見なければなりません。しかし、相手に見せてしまえば、開示したのと同じです。審判だけが映像で判定を確かめるのに似ています。結論が出る前に、映像を相手に見せては、判定する意味がありません。だから、裁判所だけが見ます。条文です。
条文刑事訴訟法第316条の27第1項・第2項
刑事訴訟法第316条の27第1項・第2項——提示命令 1 裁判所は、第三百十六条の二十五第一項又は前条第一項の請求について決定をするに当たり、必要があると認めるときは、検察官、被告人又は弁護人に対し、当該請求に係る証拠の提示を命ずることができる。この場合においては、裁判所は、何人にも、当該証拠の閲覧又は謄写をさせることができない。 2 裁判所は、被告人又は弁護人がする前条第一項の請求について決定をするに当たり、必要があると認めるときは、検察官に対し、その保管する証拠であつて、裁判所の指定する範囲に属するものの標目を記載した一覧表の提示を命ずることができる。この場合においては、裁判所は、何人にも、当該一覧表の閲覧又は謄写をさせることができない。
1項は、請求に係る証拠の提示です。命じられる相手は、検察官、被告人、弁護人のいずれもです。命じるのは、必要があると認めるときにできる、という裁量です。この場合、裁判所は、何人にも、その証拠を閲覧も謄写もさせられません。請求した弁護人にも、見せないのです。2項は、一覧表の提示です。被告人側の開示命令の請求について、検察官に、その保管する証拠のうち、裁判所が指定する範囲のものの標目を記載した一覧表を出させます。この一覧表も、何人にも閲覧や謄写をさせません。一覧表を出させるのは、証拠があるかどうかを確かめるためです。検察官が、そのような証拠は無い、と答えたとき、弁護人には確かめる手段がありません。裁判所が、範囲を指定して標目を並べさせれば、本当に無いのかが分かります。
一覧表は、2本前にも出てきました。同じものですか。別物です。2本前の一覧表は、316条の14第2項のものです。検察官が保管する証拠の一覧で、請求があれば被告人側に交付されます。今日の一覧表は、316条の27第2項のものです。裁判所だけが見る、提示用です。範囲は裁判所が指定し、記載事項は規則で、証拠ごとの種類、供述者や作成者、作成年月日などと決められています。
図:2つの一覧表の対比
- 316条の14第2項=検察官が保管する証拠の一覧・請求があれば被告人側に交付・品名と数量/標目・作成年月日・供述者や作成者の氏名
- 316条の27第2項=裁判所が指定する範囲・提示用・何人にも閲覧謄写させない・裁判所だけが見る
2つを並べます。被告人側に渡るのは、316条の14第2項の一覧表だけです。316条の27第2項の一覧表は、渡りません。短答では、提示用の一覧表は被告人側に交付される、と出れば、×です。もう1つ、名前の注意です。証拠調べの請求の回で、提示命令という言葉が出ました。あれは、規則192条で、証拠決定の判断のために、証拠書類や証拠物を見せるよう命じるものでした。今日の提示命令は、開示を命じるかどうかの判断のためで、何人にも閲覧や謄写をさせない、という文言が条文にあります。同じ言葉の、別の規定です。
設例で通す
図:設例の流れ
流れを1本で通します。前の回から続くひったくり事件です。夜道でスマートフォンを奪われた窃盗で、被告人は、犯人は自分ではない、と争っています。配役は、Aが検察官、Bが弁護人、Cが裁判所です。前の回で、Bは、事件の時刻に被告人はゲームセンターにいた、というアリバイを主張しました。今日は、この事件に事情を1つ足します。検察官の請求証拠に、被告人の自白の検察官調書、乙1もあった、とします。Bは、アリバイに加えて、乙1は長い取調べで疲れてサインしたもので、取調べは威圧的だった、という主張を、公判でする予定の主張、つまり予定主張として明らかにしました。そして、取調べの警察官が自分の覚えのために取ったメモを、主張関連証拠として請求します。Aは、そのようなメモは検察庁の記録の中には無い、と応じません。理由は告げます。Bは、書面で、開示命令を請求します。Cは、Aの意見を聴きます。Cは、メモの提示を命じることにしました。Aは記録に無いと言い、Bは中身を知りません。見なければ、Bの主張に関連するかを判断できないので、必要があると認めたのです。メモが警察署にあっても、前の回の決定の考え方で、検察官が現に持っていなくても対象になりえます。ここで、Cだけがメモを見ます。なぜ、裁判所だけが見るのでしょうか?
開示するかどうかが決まる前に、相手に見せたら、拒んだ意味が無くなってしまうからです。Cが、メモは主張に関連し、開示の必要性があり、弊害も大きくない、と認めれば、開示を命じなければなりません。認めなければ、請求は退けられます。どちらの決定にも、不服があれば、3日以内に即時抗告ができ、その間は執行が止まります。最初の問いの答えです。Bは、メモの中身を知らなくてかまいません。Bが示すのは、メモの中身ではなく、自分の主張とのつながりと、開示が必要な理由です。中身は、提示命令によって、裁判所が確かめてくれます。
主張の追加・変更
図:往復する手続
- Bが予定主張を追加(取調べで「認めないと帰れない」と言われた)→追加した主張に関連する証拠の開示を請求(316条の22第5項)→Aが警察官の証人尋問を追加請求(316条の21第2項)→追加請求の証拠について、開示・類型証拠開示・意見が繰り返される(同条4項)
- 注記=やむを得ない事由は要件にない
- 整理手続終結後の316条の32とは別の場面
開示と主張のやり取りを受けて、双方は、主張を足したり変えたりします。手続は一方通行ではなく、往復します。検察官の側は316条の21、被告人側は316条の22です。主要な部分を全文で見ます。
条文刑事訴訟法第316条の21第1項・第4項
刑事訴訟法第316条の21第1項・第4項——検察官の証明予定事実の追加・変更 1 検察官は、第三百十六条の十三から前条まで(第三百十六条の十四第五項を除く。)に規定する手続が終わつた後、その証明予定事実を追加し又は変更する必要があると認めるときは、速やかに、その追加し又は変更すべき証明予定事実を記載した書面を、裁判所に提出し、及び被告人又は弁護人に送付しなければならない。この場合においては、第三百十六条の十三第一項後段の規定を準用する。 4 第三百十六条の十四第一項、第三百十六条の十五及び第三百十六条の十六の規定は、第二項の規定により検察官が取調べを請求した証拠についてこれを準用する。
条文刑事訴訟法第316条の22第1項・第5項
刑事訴訟法第316条の22第1項・第5項——被告人側の予定主張の追加・変更 1 被告人又は弁護人は、第三百十六条の十三から第三百十六条の二十まで(第三百十六条の十四第五項を除く。)に規定する手続が終わつた後、第三百十六条の十七第一項の主張を追加し又は変更する必要があると認めるときは、速やかに、裁判所及び検察官に対し、その追加し又は変更すべき主張を明らかにしなければならない。この場合においては、第三百十六条の十三第一項後段の規定を準用する。 5 第三百十六条の二十の規定は、第一項の追加し又は変更すべき主張に関連すると認められる証拠についてこれを準用する。
設例を続けます。メモの開示を受けたBは、メモを見て、予定主張に、取調べで、認めないと帰れない、と言われた、という事情を追加します。これが、316条の22第1項です。すると、追加した主張に関連する証拠について、Bは、新たに開示を請求できます。同条5項が、主張関連証拠開示の316条の20を準用しているからです。例えば、別の警察官が取調べの状況を記録した資料です。Aも、追加した主張に対応して、取調べを担当した警察官の証人尋問を、追加で請求します。これが、316条の21第2項です。追加請求した証拠には、4項で、請求証拠の開示と、類型証拠の開示と、被告人側の意見の規定が準用されます。つまり、これまでの手続が、必要に応じて繰り返されるのです。追加と変更の期限は、裁判所が当事者の意見を聴いて、定めることができます。定めなければならない、ではありません。
手続が終わった後、というのは、整理手続が終わった後のことですか。違います。316条の13から20までの手続とは、検察官が証明する予定の事実を示して請求証拠を開くところから、類型証拠の開示、被告人側の主張の明示、主張関連証拠の開示までの、ひと回りです。冒頭の地図で、もう歩いた、と言った部分です。このひと回りが終わった後、という意味です。整理手続そのものは、まだ続いています。弁別を1つ。追加と変更の条文には、やむを得ない事由という要件がありません。理由は、整理手続が終わったあとの場面と比べると分かります。整理手続の出口のところで見た316条の32は、整理手続が終わったあとは、やむを得ない事由で請求できなかったものを除いて、証拠調べを請求できない、という条文でした。終わったあとに自由に請求できると、絞った争点も、立てた審理計画も崩れるからです。追加と変更は、終わる前の話です。争点も審理計画も、まだ固めている途中です。途中で主張を足したり変えたりするのは、整理そのものです。だから、やむを得ない事由は要りません。2つを混ぜないでください。短答では、追加と変更にはやむを得ない事由が必要、と出れば、×です。動かせるのは、主張だけではありません。整理手続の中では、訴因や罰条の追加、撤回、変更を許すこともできます。
証拠の整理と採否
図:前倒し
- 通常(公判廷)=請求→相手方の意見→採否の決定
- 整理手続=同じ流れを前倒し(7号=意見を確かめる/8号=採用・却下の決定/9号=順序と方法)
- 決めきれないものは採否留保
- 例=被告人の警察官調書は被告人質問を見てから判断
- 不同意の書証に代えて証人尋問を請求
主張と証拠が出そろうと、証拠の採否を決める段階です。通常は、公判廷で、証拠調べを請求し、相手方の意見を聴き、採否を決めます。この流れが、整理手続の中へ前倒しされています。条文です。
条文刑事訴訟法第316条の5(柱書・第7号〜第9号)
刑事訴訟法第316条の5(柱書・第7号〜第9号)——公判前整理手続でできること 公判前整理手続においては、次に掲げる事項を行うことができる。 七 証拠調べの請求に関する意見(証拠書類について第三百二十六条の同意をするかどうかの意見を含む。)を確かめること。 八 証拠調べをする決定又は証拠調べの請求を却下する決定をすること。 九 証拠調べをする決定をした証拠について、その取調べの順序及び方法を定めること。
号の違いを分けます。7号は、意見を確かめること。8号は、採用か却下かの決定。9号は、採用した証拠の、取調べの順序と方法を定めることです。意見を確かめるのが7号、決めるのが8号と9号、と分けて覚えてください。採否は、整理手続のうちに全部を決める決まりではありません。早く決められるものは決めますが、法廷の審理が進んでみないと必要かどうか分からない証拠もあるからです。決定を保留することを、採否留保といいます。この結論は、整理手続の終わり方のところで見ました。なぜ留保が要るかを、設例で確かめます。ひったくり事件で、検察官が、被告人の警察官調書、乙2を請求したとします。弁護人は、不同意で、被告人質問で足りる、という意見です。被告人が法廷で何を話すかは、被告人質問をしてみないと分かりません。調書が必要かどうかは、被告人質問のあとでないと判断できません。だから、整理手続の段階では、採否を留保します。もう1つ、意見から追加請求へ移る往復です。通行人の検察官調書、甲1に、弁護人が不同意としたとします。書面は、326条の同意が無ければ、そのままでは証拠にできません。検察官は、書面に代えて、通行人の証人尋問を請求します。裁判所は、弁護人の意見を聴いて採否を決めます。公判廷でするはずのやり取りを、整理手続の中で済ませる。これが、前倒しです。
開示された証拠の使い道
図:使い道の縛り
- 281条の4第2項=違反した場合の措置の考慮事情
- 禁止は開示の経路を問わず及ぶ(請求証拠・類型証拠・主張関連証拠・開示命令で開いたもの)
- 位置づけ=広い開示を支える裏側の規律
- 処罰の条文は281条の5
ここまでが、整理手続の中の流れです。最後に、開示された証拠の、その後を見ます。公判の事前準備の回で見た、目的外使用の禁止です。281条の4第1項は、被告人と弁護人(これらであった人も含みます)が、開示された証拠のコピーを、その事件の裁判やその準備以外の目的で、人に渡したり見せたりすることを禁じていました。足すことが3つあります。1つ目。この禁止は、開示の経路を問わず及びます。条文の対象は、検察官が、被告事件の審理の準備のために、閲覧や謄写の機会を与えた証拠に係る複製等、つまり証拠のコピーです。請求証拠も、類型証拠も、主張関連証拠も、開示命令で開いたものも、同じです。取調べのメモも、開示されれば同じです。2つ目。違反した場合の措置の、考慮事情を定める条文があります。
条文刑事訴訟法第281条の4第2項
刑事訴訟法第281条の4第2項——違反した場合の措置 前項の規定に違反した場合の措置については、被告人の防御権を踏まえ、複製等の内容、行為の目的及び態様、関係人の名誉、その私生活又は業務の平穏を害されているかどうか、当該複製等に係る証拠が公判期日において取り調べられたものであるかどうか、その取調べの方法その他の事情を考慮するものとする。
措置とは、違反に対して取られる対応のことです。この条文は、どの対応を、どの重さで取るかを決めるときに、考慮する事情を並べたものです。処罰の根拠となる条文は、281条の5です。被告人の防御権を踏まえる、と明記されているのが特徴です。たとえば、法廷ですでに読み上げられた調書の写しと、まだ法廷に出ていない、関係者の私生活が書かれた調書の写しとでは、害の大きさが違います。防御のために使った事情があるかも見ます。一律には扱わない、ということです。3つ目は、位置づけです。開示を広げるほど、使い道を縛る規律が要ります。裁判所が開示の仕方を決める物差しは、弊害のおそれでした。使い道の縛りは、その弊害を、開示のあとで抑えます。目的外使用の禁止は、広い開示を支える、裏側の規律です。
今日の地図(保存版)
図:証拠開示3本の一本道
短答で確認します。316条の25の請求ができるのは、開示を受ける側である。×です。開示する側です。316条の25の決定は、開示を命じるものである。×です。時期と方法の指定と条件の付与で、開示を命じるのは316条の26です。開示を命じるかどうかは、裁判所の自由な裁量である。×です。命じなければならない、と書かれています。任意開示で見せると言った証拠を見せないとき、開示命令を請求できる。×です。列挙に無い開示です。被告人側が開示すべき証拠を開示していないとき、検察官は開示命令を請求できる。○です。裁定の請求について、決定の前に相手方の意見を聴く。○です。開示命令の決定に不服を申し立てられない。×です。即時抗告ができ、提起期間は3日です。提示された証拠は、相手方も閲覧できる。×です。何人にも閲覧も謄写もさせられません。提示用の一覧表は、被告人側に交付される。×です。交付されるのは、316条の14第2項の一覧表です。提示を命じるかどうかは、必要があると認めるときにできる。○です。追加と変更には、やむを得ない事由が必要である。×です。追加した主張に関連する証拠には、316条の20が準用される。○です。整理手続で、すべての証拠の採否を決めなければならない。×です。採否留保があります。316条の5の7号は、証拠の採否の決定を定めている。×です。7号は意見の確認で、採否の決定は8号、順序と方法は9号です。目的外使用の禁止は、開示命令で開示された証拠にも及ぶ。○です。
今日のまとめです。検察官が先に開き、被告人側が主張を示して開く。応じなければ、裁判所が決める。決める中身は、開示の仕方を整えるか、開示を命じるか。必要なら、裁判所だけが中身を見る。そして、主張と証拠が出そろったところで、採否を決めます。これが、証拠開示の3本の一本道です。次は、国民が裁判に加わる、裁判員裁判です。どんな事件が対象で、裁判官と裁判員がどう分担して判断するのかを見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第316条の25第1項〜第3項
- 刑事訴訟法第316条の26第1項〜第3項
- 刑事訴訟法第422条
- 刑事訴訟法第425条
- 刑事訴訟法第316条の27第1項・第2項
- 刑事訴訟法第316条の21第1項・第4項
- 刑事訴訟法第316条の22第1項・第5項
- 刑事訴訟法第316条の5(柱書・第7号〜第9号)
- 刑事訴訟法第281条の4第2項