有罪判決と罪となるべき事実
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第7章 裁判 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:今日の地図と問い
- 判決書の型→有罪判決の主文→335条1項の3点セット(罪となるべき事実・証拠の標目・法令の適用)→罪となるべき事実の具体性(基準・共謀の判示)→335条2項→書かなかったら(理由不備・理由齟齬)→無罪判決との対比
- 問い=判決書に「被告人は、Yと共謀の上」とだけ書いてあり、いつ・どこで・どう相談したかは書かれていない
- これで罪となるべき事実を示したことになるか
前回の最後に、予告しました。次は、有罪判決の中身です。判決書には何を書き、罪となるべき事実を、どこまで具体的に書くのかを見ます。事例から入ります。共犯事件の有罪判決です。判決書の罪となるべき事実に、被告人は、Yと共謀の上、と書かれています。そのあとに、実際にやった行為が続きます。ところが、いつ、どこで、どう相談したのかは、一言も書かれていません。これで、罪となるべき事実を示したことになるのでしょうか。判決書を読んでも共謀の中身が見えない、という不安には理由があります。ただ、訴因の回でも、似た問いを見ました。起訴状に、Yと共謀の上、とだけ書いてあって足りるのか、という問いです。今度は起訴状ではなく、判決書の側で、同じ問いが立ちます。物差しは同じなのでしょうか。答えは、今日の山場で出します。地図です。今日の話は、7つです。判決書には何を書くのか。有罪判決の主文には何が載るのか。有罪の理由に必ず示す3つは何か。罪となるべき事実を、どこまで具体的に書けば足りるのか。当事者が主張した事情には、どう答えるのか。書かなければどうなるのか。最後に、無罪判決の書き方との違いです。先に、見通しを1つだけ言っておきます。判決書は、証拠で事実を認め、事実に法令を当てはめる、その筋道を紙に写したものです。だから、書くべきなのは、その筋道に要るものだけです。
判決書と宣告
図:判決書の型
- 設例
- 主文=被告人を拘禁刑1年6月に処する。理由=罪となるべき事実(被告人は、Yと共謀の上、令和6年4月5日午後11時ころ、東京都内のC方店舗において、C管理の現金約10万円を窃取した)
- 証拠の標目(被告人の公判供述・証人Cの公判供述・捜査報告書(甲2))
- [事実認定の補足説明]
- 法令の適用(刑法60条・235条=拘禁刑を選択)
- [量刑の理由]。判決書は裁判官が作り署名押印(規則54条・55条)。例外=地裁・簡裁の調書判決(規則219条)
まず、判決書の外枠です。裁判をするときは、裁判書を作ります。刑事訴訟規則53条です。
条文刑事訴訟規則第53条
刑事訴訟規則第53条 裁判をするときは、裁判書を作らなければならない。但し、決定又は命令を宣告する場合には、裁判書を作らないで、これを調書に記載させることができる。
決定や命令は、宣告するのであれば、書面を作らず、調書に書いて済ませることができます。判決には、この例外がありません。判決は、判決書を作ります。判決書は、大きく2つの部分でできています。結論を述べる主文と、その根拠を述べる理由です。理由が常に必要なことは、前回の、44条で見ました。区別が必要です。判決は、公判廷で宣告されて、告知されます。判決書は、その判決の内容を証明する文書です。ですから、宣告の時点で、判決書の原本ができていなくても構いません。実務には、審理が終わったあと、判決書を作る前に、直ちに言い渡す即日判決もあります。宣告の方式は、前回の、規則35条2項でした。判決書は、裁判をした裁判官が作って、署名押印します。規則54条と55条です。ただし、例外が1つあります。上訴の申立てがない場合に、判決の主文、罪となるべき事実の要旨、罰条を、公判調書の末尾に記載して、判決書に代える調書判決です。規則219条です。例外ですから、名前だけ押さえてください。今日の設例を1つ決めます。被告人が、Yと共謀の上、Cの店舗で現金約10万円を盗んだ窃盗です。判決書は、この形になります。主文は、被告人を拘禁刑1年6月に処する。理由には、罪となるべき事実、証拠の標目、法令の適用が並びます。争いのある事件では、事実認定の補足説明が入ります。量刑の理由が入ることもあります。量刑の理由は、別の回で扱います。
有罪判決の主文
図:有罪判決の主文に載るもの
- ①主刑=被告人を拘禁刑1年6月に処する
- ②未決勾留日数の算入=未決勾留日数中30日をその刑に算入する(刑法21条=全部又は一部を算入できる)
- ③刑の全部の執行猶予・保護観察=この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する(刑法25条・25条の2)
- ④没収・追徴(刑法19条・19条の2)
- ⑤訴訟費用の負担=被告人の負担とする(181条)
- 刑の免除は334条=有罪の一種
- 実際の主文は事件に応じて必要なものだけ
有罪判決の主文です。まず、有罪の言渡しの根拠になる条文を、全文で読みます。333条1項です。
条文刑事訴訟法第333条第1項
刑事訴訟法第333条第1項 被告事件について犯罪の証明があつたときは、第三百三十四条の場合を除いては、判決で刑の言渡をしなければならない。
犯罪の証明があったときは、判決で刑を言い渡します。この証明は、合理的な疑いを超える証明です。自由心証主義と利益原則の回で見たとおりです。例外は、334条です。犯罪の証明はあっても、刑を免除する場合は、刑を言い渡す代わりに、刑を免除する旨を言い渡す判決になります。それでも、犯罪の証明はありますから、有罪判決の一種として扱い、後で見る335条の対象です。主文に載るものを、板で一覧にします。1つ目は主刑です。被告人を拘禁刑1年6月に処する、という形です。2つ目は、未決勾留日数の算入です。判決が確定する前に、被告人が勾留されていた日数です。刑を言い渡すときに、その全部または一部を、刑の期間に数えてあげることができます。刑法21条です。たとえば、未決勾留日数のうち30日を、拘禁刑に算入する、という書き方です。3つ目は、執行猶予です。刑の全部の執行猶予、つまり、言い渡した刑をすぐには執行せず、一定の期間、その執行を猶予する扱いは、刑の言渡しと同時に、判決で言い渡します。333条2項です。必要があれば、保護観察も付けます。4つ目は、没収と追徴です。5つ目は、訴訟費用の負担です。刑の言渡しをするときは、被告人が貧困のために納められないことが明らかな場合を除いて、訴訟費用の全部または一部を、被告人に負担させなければなりません。181条です。実際の主文は、事件に応じて、必要なものだけが並びます。量刑や訴訟費用の詳しい扱いは、別の回で見ます。今日は、主文が結論の意思表示であること、そして何が載るのかを押さえてください。
335条1項の3点セット
図:335条1項の流れ
- 証拠(317条=事実の認定は証拠による)→標目として示す→認定した事実=罪となるべき事実(構成要件に該当する事実)→法令の適用(罰条・刑種の選択・併合罪など)→主文
- 三段論法=大前提=法令/小前提=認定した事実/結論=主文
- 罪となるべき事実=犯罪を構成すべき積極的要件に該当する事実
ここが、今日の土台です。有罪の言渡しに、何を示さなければならないのか。335条です。
条文刑事訴訟法第335条第1項・第2項
刑事訴訟法第335条第1項・第2項 有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。 2 法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならない。
今日は、1項から見ます。罪となるべき事実、証拠の標目、法令の適用。この3つです。2項は、後で見ます。なぜ、この3つなのか。判決は、三段論法で組み立てられています。大前提は、法令です。窃盗なら、刑法235条です。小前提は、認定した事実です。被告人が、Cの現金を盗んだ、という事実です。結論が、主文です。そして、その小前提は、思いつきでは立てられません。事実の認定は、証拠によらなければならないからです。317条です。流れで言うと、証拠から事実を認めて、事実に法令を当てはめて、主文に至ります。その3つの段が、そのまま判決書に写されます。証拠の段が証拠の標目、事実の段が罪となるべき事実、当てはめの段が法令の適用です。答えだけでなく、使った式と前提の数字を書く答案に似ています。ただ、計算の途中のメモまで全部写す必要はありません。採点する人が、この式でこの答えが出る、と確かめられれば足ります。判決書も、三段のそれぞれに要るものを示せば足ります。
罪となるべき事実というのは、事件の経緯を全部書くことでしょうか。違います。罪となるべき事実とは、犯罪を構成する積極的な要件に当たる事実のことです。窃盗なら、他人の財物を窃取した、という事実です。構成要件とは、刑法の条文が犯罪ごとに定めている型のことでした。罪となるべき事実は、その型に当てはまる事実、つまり、構成要件に該当する事実です。事件の背景や動機などは、必要に応じて書かれることはあっても、罪となるべき事実そのものではありません。法令の適用も、見ておきます。罰条である、刑法235条。共同正犯の、刑法60条。選択できる刑の中から、拘禁刑を選ぶこと。罪が複数なら、併合罪の処理。執行猶予の根拠条文。こうしたものを、条番号を並べて示します。
証拠の標目
図:証拠の標目
- 標目=罪となるべき事実を認定した根拠となる証拠の名前(例=被告人の公判供述/証人Cの公判供述/捜査報告書(甲2))
- 名前の列挙で足りる=どの証拠からどの事実を認めたかの説明(証拠説明)までは法の要求でない
- 実務では争いのある事件で「事実認定の補足説明」「争点に対する判断」を別に立てる(法律上の義務ではない)
- 弁別=証拠名だけ→適法/補足説明が無い→それだけでは違法でない/標目すら無い→335条1項違反
条文を使う前に、予想してください。判決書の標目に、被告人の公判供述、証人Cの公判供述、とだけ書いてあります。どの事実を、どの証拠から認めたのかは、書かれていません。これは、335条1項に違反するでしょうか?標目とは、罪となるべき事実を認めた根拠となる、証拠の名前です。名前を並べれば足ります。どの証拠からどの事実を認めたのか、という説明、つまり証拠説明までは、法は求めていません。考え方は、こうです。335条1項が要求しているのは、事実の認定が、証拠によるものだと示すことです。証拠の中身を分析して見せることまでは、求めていません。分析は、控訴審が、記録と証拠を見て確かめられます。ただし、実務は、そこで止まりません。争いのある事件で、標目だけでは、なぜその事実を認定できたのかが分からないときは、事実認定の補足説明や、争点に対する判断といった項目を、別に立てます。間接事実から、どう推認したのかなどを説明する項目です。これは法律上の義務ではありません。裁判所が、判決を分かりやすくするために、付け加えているものです。弁別します。標目に、証拠の名前しか書いていない。適法です。補足説明が書かれていない。それだけでは、違法になりません。標目そのものが、書かれていない。これは、335条1項の違反です。この、書かれていなかった場合にどうなるのかは、あとで見ます。
罪となるべき事実の具体性
図:罪となるべき事実の具体性
- 基準
- 基準=構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明白であれば足りる(細部まで尽くす必要はない)
山場の前半です。罪となるべき事実を、どこまで具体的に書けば足りるのか。まず、結論の型から言います。構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に、具体的で明白であれば足りる。これが基準です。書かれた事実だけを読んで、その犯罪の型に当てはまるかどうかを、確かめられる程度、という意味です。細部まで尽くす必要は、ありません。判例で確かめます。殺人未遂の事件です。第一審判決は、未必の殺意をもって、被害者の身体を、有形力を行使して、被告人方の屋上の手摺り越しに、約7.3メートル下方のコンクリート舗装の路上に落下させ、路面に激突させた、と判示しました。この判示に対して、被告人は、どのようにして落下させたのか、つまり手段と方法が書かれていない、と争いました。最高裁は、こう述べました。
判例最決昭58・5・6 刑集37巻4号375頁
罪となるべき事実の判示の具体性 被告人がどのようにして被害者の身体を右屋上から道路に落下させたのか、その手段・方法については、単に「有形力を行使して」とするのみで、それ以上具体的に摘示していないことは、所論のとおりであるが、前記程度の判示であつても、被告人の犯罪行為としては具体的に特定しており、第一審判決の罪となるべき事実の判示は、被告人の本件犯行について、殺人未遂罪の構成要件に該当すべき具体的事実を、右構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明白にしているものというべきであり

結論は、上告棄却です。判決書の中身を、書かれている部分と、書かれていない部分に分けて見ます。書かれているのは、屋上の手摺り越しに、約7.3メートル下の路面に落下させ、激突させた、という点です。殺人の実行行為と、その結果です。書かれていないのは、手で押したのか、抱え上げたのか、といった、力の加え方の細かい中身です。なぜ足りるのかを、考え方として説明します。殺人未遂の構成要件に当たるかどうかは、人を高所から落下させて死の危険を生じさせた、という核心で判定できます。手で押したか抱え上げたかは、その判定を左右しません。だから、手段の細かい中身が欠けていても足りる、と考えられます。境界の外の例も作っておきます。判決書に、被告人は、Cを殺そうとしたが、未遂に終わった、とだけ書いてあるとします。これでは、何をしたのか分かりません。実行行為が分からないので、殺人未遂の構成要件に当たるかどうかを、判定できません。足りません。
図:細部まで書かなくてよい理由
理由は2つあります。1つは、人の記憶にも証拠にも限界があることです。時刻も手口も、厳密に特定できなければ有罪にできない、とすると、明らかに犯人なのに処罰できない事態が生じます。もう1つは、判決の役割です。判決は、起こったことを細大漏らさず記録するものではありません。法令を適用する根拠になる事実を示すものです。この基準は、手段だけでなく、日時、場所、凶器にも及びます。どこまで幅を持たせた書き方が許されるのか、つまり、概括的な認定や、択一的な認定の限界は、次の回で見ます。今日は、基準そのものを押さえてください。訴因との関係を、1つだけつなぎます。256条3項は、訴因を、できる限り日時、場所、方法で罪となるべき事実を特定して書け、と定めています。そして、訴因の特定の回で見た、罪となるべき事実説は、識別説より厳しい見解でした。構成要件に該当する事実の記載に加えて、裁判所が有罪だと確信できるところまで具体的に書くこと、つまり、有罪判決に書く罪となるべき事実と同じ程度の具体性を、起訴の段階にも求める考え方です。ほかの事件と区別できれば足りる、とする識別説とは、そこが違います。起訴状と判決書は、同じ、罪となるべき事実という言葉を使っています。この説に立てば、物差しも同じ、ということになります。
共謀の判示
図:共謀の判示と冒頭の問い
冒頭の問いを、回収します。その前に、前の回の復習を1問です。起訴状に、Yと共謀の上、とだけ書いてあっても、識別説の立場から足りるとされたのは、なぜだったでしょうか?共謀の経緯が書かれていなくても、実行行為の部分で、どの事件のことなのかを、ほかの事実と区別できるからです。では、判決書の側で、同じ問いを考えます。まず、共謀とは何かです。刑法で見たとおり、共謀共同正犯は、2人以上の者が、特定の犯罪を行うために、共同意思の下に一体となって、互いに他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移す、という内容の謀議をして、その結果、犯罪を実行したと認められるときに成立します。この先で見る、最高裁の判断は、2つの層に分かれます。共謀をどう認定するか、という層と、判決書にどう書くか、という層です。
図:共謀の認定と判示
- 共謀=共謀共同正犯の罪となるべき事実(厳格な証明が必要)
- 判決書に書くのは「共謀の上」=成立が明らかであれば足りる
- 書かれなくてよいもの=謀議の日時・場所・内容の詳細(実行の方法・各人の分担役割)
まず、認定の層です。注意してほしいのは、この共謀や謀議が、共謀共同正犯の、罪となるべき事実そのものだという点です。そうだとすれば、共謀の事実を認めるには、厳格な証明が必要です。厳格な証明の回で見たとおり、有罪か無罪かを決める中心の事実、つまり構成要件に該当する事実は、証拠能力のある証拠を、公判廷での適式な証拠調べにかけて、初めて認めることができるからです。そのうえで、最高裁は、判決書への書き方について、こう述べました。練馬事件と呼ばれる大法廷判決です。共犯者の供述の回で出た判決の、別の部分です。
判例最大判昭33・5・28 刑集12巻8号1718頁
共謀の判示の程度 ここにいう「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならないから、これを認めるためには厳格な証明によらなければならない ……しかし「共謀」の事実が厳格な証明によつて認められ、その証拠が判決に挙示されている以上、共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらに進んで、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない。
図:「共謀の上」で足りる条件
冒頭の問いの答えは、足りる、です。被告人は、Yと共謀の上、と書かれていれば、共謀の判示としては十分です。ただし、条件があります。1つ目。共謀が、厳格な証明で認定されていること。2つ目。その証拠が、判決に挙示されていること。そして3つ目。実行行為の部分が、具体的に書かれていることです。共謀の中身を書かなくてよいのなら、共謀の認定は、いい加減でもよいことになりませんか。ここが肝心です。共謀の細部を書かなくてよいのは、共謀の認定が軽くなったからではありません。認定そのものには、厳格な証明が要ります。決め手は、証拠が標目に挙げられている点です。共謀の認定に疑問を持った人は、標目に挙がっている証拠で、確かめられます。判決書の中に細部が書かれていなくても、認定の根拠は、示されているのです。さきほどの、標目の節と、基準の節が、ここでつながります。境界の外も確認します。被告人は、Yと共謀の上、犯行に及んだ、とだけ書いてあって、実行行為の中身がまったく書かれていないとします。これは足りません。何を実行したのかが分からず、構成要件に当たるかどうかを、判定できないからです。省けるのは共謀の細部であって、実行行為の核心までは省けません。訴因の側と、結論はそろいました。識別説からも、罪となるべき事実説からも、共謀の上、で足りる。判決書の側でも、足ります。ただ、理由の筋は同じではありません。起訴状の側で識別説が中心に見ていたのは、ほかの事件と区別できるか、でした。判決書の側で見るのは、構成要件に当たるかを判定できるか、そして、認定の根拠になった証拠が挙がっているか、です。
判決書に書くべきなのは、証拠で事実を認め、事実に法令を当てはめる筋道に要るものだけです。共謀の細部は、その筋道に要らないから、書かなくてよいのです。
335条2項
図:335条2項
- 判断を示す対象=法律上犯罪の成立を妨げる理由(違法性阻却=正当防衛36条・緊急避難37条/責任阻却=心神喪失39条1項)/刑の加重減免の理由となる事実(累犯=加重/中止未遂・心神耗弱39条2項・親族相盗例=減免。法律上当然に刑が変わる事情だけ。裁量的減免=自首・過剰防衛は対象外)
- 条件=主張されたとき
- 主張が無ければ義務なし(重要な争点なら実務は補足説明で書く)
- 対象外=犯罪事実の否認(不能犯の主張=最決昭28・3・24)
- 同じ「心神」でも、心神喪失=罪とならない(無罪・336条前段)/心神耗弱=有罪で刑を減軽
次は、335条2項です。1項と同じ条文の、続きです。法律上犯罪の成立を妨げる理由、または、刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければなりません。分けて見ます。法律上犯罪の成立を妨げる理由とは、構成要件には当たるけれども、犯罪が成立しなくなる事情です。正当防衛、緊急避難のような違法性を消す事由。心神喪失のような責任を消す事由です。刑の加重減免の理由とは、刑を重くしたり、軽くしたり、免除したりする事情です。累犯は加重です。中止未遂、心神耗弱、親族相盗例は、減免です。ただし、自首や過剰防衛のように、刑を軽くするかどうかが裁判所の裁量に任されている事情は、入りません。法律上当然に刑が変わる事情だけが、対象です。大事なのは、主張されたとき、という文言です。弁護人が、正当防衛だと主張したなら、判決は、それを認めない場合でも、認めない判断を示さなければなりません。主張がなければ、判断を示す義務はありません。それでも、重要な争点であれば、実務は、補足説明で判断を示しています。ここで、予想してください。被告人が、自分の行為は不能犯だと主張したのに、判決がそれに触れませんでした。335条2項の違反でしょうか?
気持ちは分かりますが、違います。不能犯とは、刑法で見たとおり、行為の性質上、結果が起きる危険がそもそも無いために、実行の着手が認められず、未遂犯にもならない場合でした。ですから、不能犯の主張は、構成要件に当たる行為をした、ということそのものを争う、罪となるべき事実の否認です。最高裁の決定も、不能犯の主張は犯罪事実の否認であって、335条2項により判断を示すべき事項ではない、と判断しています。2項が対象にするのは、構成要件に当たることを前提にして、それでも犯罪が成立しない、あるいは刑が変わる、という主張です。否認に対しては、判決が罪となるべき事実を認定して示した時点で、答えがもう出ています。認めた事実そのものが、その主張を退けているからです。正当防衛の主張は違います。罪となるべき事実を認めても、それだけでは答えになりません。だから、2項が、別に判断を示せと求めているのです。同じ心神でも、区別が必要です。心神喪失は、罪とならない場合ですから、無罪です。心神耗弱は、有罪で、刑を減軽する場合です。刑法39条の、1項と2項です。心神耗弱が主張されたなら、判決は、有罪を言い渡したうえで、2項の判断を示します。
書かなかったら——理由不備・理由齟齬
図:理由不備・理由齟齬
- 378条4号
- 理由不備=有罪判決で335条1項の3点(罪となるべき事実・証拠の標目・法令の適用)を欠く(2項の判断遺脱は含まない=379条の訴訟手続違反・判決に影響を及ぼすことが明らかな場合に限る/最判昭28・5・12)。理由齟齬=理由の中、または主文と理由の間に矛盾がある。控訴理由(絶対的控訴理由)=判決に影響を及ぼすことが明らかかどうかを問わない(379条の一般の訴訟手続違反とは違う)。控訴趣意書に、その事由があることを信ずるに足りる事実(訴訟記録・原裁判所で取り調べた証拠に現れているもの)を援用する。規則220条=有罪判決の宣告で上訴期間と上訴申立書を差し出すべき裁判所を告知
ここまで、判決に何を書くべきかを見ました。では、書かなかったら、どうなるのでしょうか。担保になるのが、378条です。
条文刑事訴訟法第378条柱書・第4号
刑事訴訟法第378条柱書・第4号 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつてその事由があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。 四 判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること。
判決に理由を付けていないこと、これが理由不備です。理由にくいちがいがあること、これが理由齟齬です。理由の中で矛盾している場合や、主文と理由が食い違っている場合です。どちらも、控訴の理由になります。判決に影響したかどうかは、問われないのですか。問われません。これが絶対的控訴理由です。379条は、訴訟手続の法令違反について、判決に影響を及ぼすことが明らかな場合でなければ、控訴の理由にならないとしています。378条4号は、その要件を要求しません。理由がない判決は、それ自体が、重大な欠陥だからです。つながりを整理します。335条1項は、有罪判決に、罪となるべき事実、証拠の標目、法令の適用の3点を示せと要求しています。この3点のどれかを欠いた判決は、理由不備として、控訴で争えます。一方、2項の判断を示さなかったときは、理由不備ではなく、379条の訴訟手続の法令違反の問題です。その場合は、判決に影響を及ぼすことが明らかなときに限って、控訴の理由になります。控訴理由を主張する側は、控訴趣意書に、その事由があることを信ずるに足りる事実を、記録や証拠から援用します。有罪判決を宣告するときには、被告人に、上訴の期間と、上訴申立書を差し出すべき裁判所を告げます。規則220条です。控訴期間の数え方は、上訴の回で扱います。控訴審が理由不備をどう審査するのかも、控訴審の回で見ます。
無罪判決との対比
図:無罪の2場面
- 公訴事実→審理→①被告事件が罪とならない(証明された事実が構成要件に当たらない/犯罪成立阻却事由が認められた)②犯罪の証明がない(合理的な疑いを超える証明に至らない)
- 設例=わいせつ物頒布(刑法175条)で起訴された表現物について、頒布の事実は証明されたが「わいせつ」に当たらないと判断→無罪(①)
- 公訴棄却ではない
- 起訴状の記載自体から罪を包含しないことが明白→公訴棄却の決定(339条1項2号)
- 分かれ目=審理をした結果か、起訴状の記載自体か
最後に、無罪判決との対比です。無罪の言渡しの根拠は、336条です。
条文刑事訴訟法第336条
刑事訴訟法第336条 被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。
2つの場面があります。1つ目は、罪とならないときです。審理の結果、公訴事実のとおりの事実は認められたが、それが構成要件に当たらない場合です。あるいは、正当防衛や心神喪失のような、犯罪の成立を妨げる事由が認められた場合です。2つ目は、犯罪の証明がないときです。合理的な疑いを超える証明に至らなかった場合です。利益原則の回で見たとおりです。設例で、1つ目を確かめます。わいせつな物を頒布した罪、刑法175条で、ある表現物の頒布者が起訴されました。審理の結果、頒布した事実は証明されました。しかし、その表現は、わいせつには当たらないと、裁判所は判断しました。このとき、裁判所は、無罪を言い渡します。
ここで、前回までの復習を1問です。起訴状に記載された事実が、真実であっても、何らの罪となるべき事実を包含していないとき、裁判所は、何をするのでしたか?339条1項2号で、公訴を棄却する決定をします。分かれ目は、審理をした結果か、起訴状の記載自体からか、です。起訴状の記載を見ただけで、罪を構成しないことが明白なら、審理に入らず、公訴棄却の決定です。今回は、審理で事実を調べて、証明された事実を、法的に評価して、わいせつに当たらないと判断しました。頒布したかどうかは、あったかなかったかを確かめれば決まる事実です。これに対して、わいせつかどうかは、表現の中身を調べたうえで、評価を経なければ決まりません。こういう要素を、刑法で見たとおり、規範的構成要件要素と呼びます。起訴状を読んだだけでは判断できず、証明された事実を評価して、構成要件に当たるかを決めるものです。だから、審理の結果としての、無罪になります。無罪判決の書き方です。有罪判決の335条のような、法定の記載事項は、ありません。ただ、理由は常に必要です。実際には、公訴事実の要旨を掲げ、無罪となる理由を書いて、罪とならないのか、証明がないのか、どちらなのかを示すのが、通例です。
図:一部無罪と主文
- 全部無罪=主文「被告人は無罪」
- 公訴事実の一部を無罪とする(別罪の関係)=主文「起訴状記載の第2の公訴事実については、被告人は無罪」
- 科刑上一罪・包括一罪の一部のみを無罪とするとき=主文で無罪を言い渡さない(有罪部分の刑だけを言い渡し、一部無罪は理由中で示す)
一部無罪も、見ておきます。公訴事実が全部無罪なら、主文は、被告人は無罪、です。公訴事実が複数あり、別々の罪の関係にあって、その一部だけが無罪になるなら、主文で、起訴状記載の第2の公訴事実については、被告人は無罪、と言い渡します。注意が必要なのは、科刑上一罪や包括一罪の場合です。複数の行為が、全体で1つの罪として扱われる関係にあるとき、その一部だけを無罪とするなら、主文では無罪を言い渡しません。有罪とする部分の刑だけを言い渡して、一部が無罪であることは、理由の中で示します。この場合は、全体が1個の事件として審判され、結論も1つしか出ません。有罪とする部分がある以上、主文に載るのは、その刑の言渡しだけで、そこに無罪を並べることはできないのです。
節目のミニ事例と短答
図:節目のミニ事例と短答
節目のミニ事例です。最初の3つ。1つ目。判決は、決定や命令と同じように、調書の記載で裁判書に代えられますか。判決書が、宣告の時点で、できていなくてもよいのは、なぜですか。判決は、判決書が必要で、調書では代えられません。ただ、判決書は、判決の内容を証明する文書にすぎないので、宣告の時点で原本ができていなくても構いません。2つ目。標目に、証拠の名前だけが書かれ、どの事実をどの証拠から認めたのかの説明がありません。違法ですか。違法ではありません。法が求めているのは、標目の列挙までだからです。ただ、標目そのものが書かれていなければ、335条1項の違反になります。では3つ目。殺人未遂で、手段が、有形力を行使して、とだけ書かれていました。足りますか。
足ります。実行行為と結果の核心が書かれていて、構成要件に該当するかどうかを判定できるからです。次の2つは、共謀と2項です。判決に、被告人は、Yと共謀の上、とだけ書かれています。足りるのは、どんな条件のときですか。共謀が厳格な証明で認定されていて、その証拠が判決に挙示されていて、実行行為の部分が具体的に書かれているときです。次です。正当防衛を主張したのに、判決が触れませんでした。不能犯の主張に、判決が触れませんでした。それぞれ、335条2項の問題になりますか。正当防衛の主張には判断を示す義務があるので、問題になります。不能犯は犯罪事実の否認なので、2項の義務はありません。残りは、○×です。理由不備や理由齟齬は、判決に影響を及ぼすことが明らかでなくても、控訴の理由になる。○です。表現物が、審理の結果、わいせつに当たらないと判断された。無罪であって、公訴棄却ではありません。科刑上一罪の一部を無罪とするとき、主文で、一部無罪を言い渡す。×です。主文では言い渡さず、理由の中で示します。
今日の地図(保存版)
図:まとめの地図
- 判決書=主文と理由(判決は判決書が必要・内容を証明する文書)
- 有罪判決の主文=主刑・未決算入・執行猶予・没収追徴・訴訟費用
- 335条1項=罪となるべき事実・証拠の標目・法令の適用
- 罪となるべき事実=構成要件該当性を判定できる程度
- 「共謀の上」で足りる(厳格な証明・証拠の挙示・実行行為は具体的)
- 335条2項=主張された犯罪不成立・刑の加重減免の事由に判断(不能犯の主張は対象外)
- 378条4号=理由不備・理由齟齬は絶対的控訴理由
- 無罪=336条の2場面(罪とならない/証明がない)・起訴状の記載自体から明白なら公訴棄却の決定
今日のまとめです。判決には、判決書が要ります。決定や命令と違い、調書では代えられません。判決書は、判決の内容を証明する文書ですから、宣告のときに原本ができていなくても構いません。有罪判決の主文には、主刑、未決勾留日数の算入、執行猶予、没収と追徴、訴訟費用の負担が載ります。理由には、335条1項のとおり、罪となるべき事実、証拠の標目、法令の適用を示します。証拠から事実を認め、事実に法令を当てはめる、三段論法の写しです。標目は、証拠の名前の列挙で足ります。罪となるべき事実は、構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に、具体的で明白であれば足ります。冒頭の問いの答えです。被告人は、Yと共謀の上、とだけ書いてあっても、足ります。共謀が厳格な証明で認定され、その証拠が挙示されていて、実行行為の部分が具体的に書かれている限りは、成立が明らかであれば足り、日時、場所、内容の詳細までは、要りません。335条2項は、主張された、犯罪の成立を妨げる理由と、刑の加重減免の理由に、判断を示す義務です。不能犯のような犯罪事実の否認は、対象になりません。罪となるべき事実、証拠の標目、法令の適用のどれかを欠いた判決は、378条4号の理由不備として、影響を問わず、控訴で争えます。2項の判断を示さなかったときは、379条で、影響が明らかな場合に限られます。無罪の言渡しは、336条の2つの場面です。罪とならないとき。証明がないとき。審理の結果として構成要件に当たらないなら無罪、起訴状の記載自体から罪を包含しないことが明白なら、公訴棄却の決定でした。
次は、どちらかだと分かっていても、どちらかまでは決められないとき、判決はどう書けるのかを見ます。幅のある書き方の限界を、そこで確かめます。
参照条文
- 刑事訴訟規則第53条
- 刑事訴訟法第333条第1項
- 刑事訴訟法第335条第1項・第2項
- 刑事訴訟法第378条柱書・第4号
- 刑事訴訟法第336条