概括的認定と択一的認定
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第7章 裁判 ③/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:今日の地図と問い
- 判決の書き方の幅=①概括的認定(「ころ」と幅で書く)→②同一構成要件内の択一的認定(日時・実行行為者)→③その例外(過失)→(次)違う犯罪の間
- 問い=被告人はYと共謀の上Cを殺害したと認定されたが、刺したのが被告人かYかは決められない
- 判決書に「被告人またはYが、Cを刺して殺害した」と書いてよいか
前回の最後に、予告しました。どちらかだと分かっていても、どちらかまでは決められないとき、判決はどう書けるのかを見ます。幅のある書き方の限界を、今日確かめます。事例から入ります。被告人は、Yと共謀の上、Cを殺害したと認定されました。ところが、証拠調べを尽くしても、Cをナイフで刺したのが被告人なのか、Yなのかだけは、どうしても決められませんでした。判決書に、被告人またはYが、Cを刺して殺害した、と書いてよいのでしょうか。どちらか分からないまま有罪にしてよいのか、という引っかかりは、大事な直観です。疑わしきは被告人の利益に、という原則を、利益原則と呼ぶのでした。真偽不明の不利益は検察官が負う、という原則です。利益原則の回で、共謀があったかなかったか、どちらとも決まらないときは、共謀はなかったものとして裁く、と見ました。そのとき、どちらかは確かに強盗の共謀だ、というような場合は、択一的認定という別の問題です、と預けていました。その預けた話に、今日から入ります。答えは、山場で出します。地図です。今日の話は、4つです。まず、択一的認定とは何か。次に、日時や方法に幅を持たせる、概括的認定。そのうえで、日時の択一と、実行行為者の択一を見ます。最後に、同じ犯罪の中でも許されない例外として、過失の択一です。違う犯罪のどちらかだと分かっているときの話は、今日は扱いません。
択一的認定とは何か
図:択一的認定の定義と3つの物差し
- 定義=AとBは両立しない(一方しか成り立たない)
- AかBのどちらかは合理的な疑いを超えて証明されたが、どちらかまでは証明されない→判決に「AまたはB」と書く
- 概括的認定との違い=「1月6日ころ」のように範囲で書く(二者択一ではない)
- 物差し=①罪となるべき事実として足りるか(335条1項・理由不備は378条4号)②利益原則に反しないか(336条後段)③罪刑法定主義に反しないか(A罪またはB罪という合成した犯罪を作っていないか)
まず、言葉を整理します。択一的認定とは、AとBが両立しない、つまり、どちらか一方しか成り立たない関係にあるとき、判決に、AまたはB、と書くことです。条件が1つあります。AかBのどちらかであることは、合理的な疑いを超えて証明されている。けれども、どちらであるかまでは、証明できない。この状況だけが、択一的認定の出番です。似た言葉に、概括的認定があります。こちらは、1月6日ころ、のように、事実の書き方に幅を持たせることです。AかBかの二者択一ではなく、範囲で書きます。訴因の追加の話で、予備的、または択一的な訴因、というのが出てきました。起訴状には、択一的に書いてよい、という条文があるのですか。あります。256条5項です。
条文刑事訴訟法第256条第5項
刑事訴訟法第256条第5項 数個の訴因及び罰条は、予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
ただし、この条文は、起訴状の規定です。検察官が、訴因を、予備的に、または択一的に並べて書けるという内容で、判決の理由について、択一的に書いてよいと定めた条文は、ありません。ですから、判決に、AまたはB、と書けるかどうかは、条文の一言ではなく、考え方で決めるしかありません。その考え方が、3つの物差しです。今日だけでなく、択一的認定を扱う話では、毎回これを当てます。1つ目。罪となるべき事実として足りるか。罪となるべき事実とは、構成要件に該当する事実のことで、有罪判決の理由に必ず示すものでした。前回見た、335条1項です。基準は、構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に、具体的で明白か、でした。書かれた事実だけを読んで、その犯罪の型に当てはまるかを確かめられる程度、という意味です。足りなければ、理由不備です。378条4号でした。2つ目。利益原則に反しないか。336条後段、犯罪の証明がないときは無罪、という原則です。AにもBにも、それぞれ合理的な疑いが残るのに、AまたはBと書いて有罪にしてよいのか、という問いです。3つ目。罪刑法定主義に反しないか。AまたはBという書き方が、法律のどこにも書かれていない、合成した犯罪を作って処罰することにならないか、という問いです。たとえば、Aの罪またはBの罪、という犯罪は、刑法のどこにもありません。
今日は、AとBが、同じ犯罪の中の話です。その場合は、3つ目は問題になりません。本格的に効いてくるのは、違う犯罪の間の話です。今日は、3つとも通るかどうかを、順に確かめます。
概括的認定
図:概括的認定
- 基準(前回)=構成要件に該当するかを判定できる程度に具体的に明白であれば足りる→手段だけでなく日時・場所・凶器にも及ぶ
- 物差し①判定できる幅なら足りる②構成要件に当たる具体的事実の存在は合理的な疑いを超えて証明済み=利益原則に反しない③同じ構成要件の中の幅=合成した犯罪ではない
- 限界=構成要件に当たるか判定できないほど広い/防御(アリバイの主張など)を妨げるほど広い→足りない
先に、概括的認定です。前回、罪となるべき事実の基準を見ました。構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に、具体的で明白であれば足りる。殺人未遂で、手段を、有形力を行使して、とだけ書いた判示が足りるとされたのでした。この基準は、手段だけの話ではありません。日時、場所、凶器にも、同じように及びます。書けるなら、書いたほうがよいのは事実です。ただ、証拠から、そこまで絞れないことがあります。そのとき、1月6日ころ、と書いてよいのか。3つの物差しに当てます。1つ目。1月6日ころ、と書いても、窃盗なら窃盗の構成要件に当たるかどうかを、判定できます。日付が多少ずれても、判定は変わりません。2つ目。窃盗をした、という構成要件に当たる具体的な事実そのものは、合理的な疑いを超えて証明されています。幅があるのは日時だけで、犯罪の存在に疑いは残っていません。だから、利益原則に反しません。3つ目。幅があっても、同じ窃盗の中の話です。新しい犯罪を作ってはいません。3つとも通りますから、足ります。限界も押さえます。幅を持たせすぎて、構成要件に当たるかどうかを判定できなくなれば、足りません。もう1つ、被告人の防御を妨げるほど幅が広い場合も、足りません。たとえば、被告人が、その日は海外にいた、とアリバイを主張しようとしても、いつの話か分からなければ、主張のしようがありません。ただ、何日までなら足りる、という数字の線は、決まっていません。判定できるか、防御を妨げないか、この2つの物差しで、事件ごとに考えます。
日時の択一
図:日時の択一
- 設例
- ひったくり(窃盗)。犯行は大みそかの深夜零時の前後1時間のどこか。12月31日か1月1日かは決められない。判決=「12月31日または1月1日」。物差し表=①どちらの日でも窃盗の構成要件に当たるかを判定できる○②窃盗をしたこと自体は合理的な疑いを超えて証明済み○③どちらも同じ窃盗=合成した犯罪ではない○→許される。同じ構成要件の中の択一は原則許される(例外=過失)。「1月1日ころ」と書く概括的認定でも同じ
次は、択一的認定です。まず、いちばん単純な形、日時の択一です。設例を作ります。路上で、被告人が、Cのバッグをひったくりました。目撃者の証言や防犯カメラの記録から、犯行は、大みそかの深夜零時の前後1時間のどこかだと分かりました。けれども、零時をまたいだのか、またがなかったのかが、決められません。12月31日の犯行なのか、1月1日の犯行なのか、どちらかです。では、判決に、12月31日または1月1日、と書いてよいでしょうか。予想してから、3つの物差しに当ててください。当ててみます。1つ目。どちらの日であっても、窃盗の構成要件に当たるかどうかを、判定できます。2つ目。ひったくった事実そのものは、合理的な疑いを超えて証明されています。日にちが決まらないだけで、犯罪があったことには疑いがありません。3つ目。12月31日の窃盗でも、1月1日の窃盗でも、同じ窃盗罪です。合成した犯罪は、作っていません。3つとも通りますから、許されます。同一構成要件の中の択一的認定は、原則として許される。ここが、今日の1つ目の結論です。例外が1つあります。それは、のちほど見ます。
疑いが残っているのは、日にちだけなのに、利益原則は、日にちについても被告人に有利に考えなくていいのですか。よい質問です。利益原則が守るのは、無罪になるべき人が有罪にされないことです。12月31日だと仮定しても、1月1日だと仮定しても、被告人は同じ窃盗罪で有罪です。どちらに転んでも結論が変わらないなら、日にちの疑いは、被告人に不利益をもたらしません。だから、利益原則に反しないのです。仕分け棚で考えると、見通しがよくなります。判決は、認定した事実を、構成要件という棚に仕分ける作業です。窃盗の棚に入れるために必要なのは、窃盗をしたこと、であって、その棚の前列に置くのか後列に置くのかは、棚に入れるためには要りません。日にちは、前列か後列か、にあたる情報です。
実行行為者の択一
図:冒頭の問いの回収
- 関係図=被告人とYが共謀(点線)→実行行為(刺したのが被告人かYかは決まらない=「どちらか」の枠)→C(被害者)
- 共謀が認定されている→どちらが実行しても共同正犯=殺人罪の構成要件に当たるかを判定できる
山場です。冒頭の問いに戻ります。被告人は、Yと共謀の上、Cを殺害した。刺したのが、被告人なのかYなのかは、決められない。実は、本物の事件があります。その前に、訴因変更の回の復習を1問です。訴因では、実行行為者は被告人と書かれていたのに、判決が、Aさんまたは被告人、と、実行行為者を択一的に認定したとき、訴因変更が要らなかったのは、どんな条件を満たしたからだったでしょうか?被告人に不意打ちを与えるものではなく、しかも、訴因に書かれた事実より被告人にとって不利益ではなかったからです。それは、訴因変更が要るかどうか、という問題でした。今日見るのは、同じ決定の、別の部分です。判決書に、実行行為者を択一的に書いて、罪となるべき事実の判示として足りるのか、という問題です。事案を確認します。青森の、口封じのための殺人事件です。判決は、殺害の日時を、午後8時ころから、翌日の未明までの間、場所を、青森市内またはその周辺に停車中の自動車内、方法を、扼殺、絞殺、またはこれに類する方法、と書きました。かなり幅のある書き方です。そのうえで、実行行為者は、Aさんまたは被告人、あるいはその両名、と択一的に書いています。Aさんは、被告人と共謀した共犯者で、設例でいえば、Yの立場にあたる人です。被告人は、これでは罪となるべき事実の判示として足りない、と争いました。最高裁は、こう述べました。
判例最決平13・4・11 刑集55巻3号127頁
実行行為者を択一的に書いた判示 その事件が被告人とAの2名の共謀による犯行であるというのであるから、この程度の判示であっても、殺人罪の構成要件に該当すべき具体的事実を、それが構成要件に該当するかどうかを判定するに足りる程度に具体的に明らかにしているものというべきであって、罪となるべき事実の判示として不十分とはいえないものと解される。
図:実行行為者の択一が足りる理由
- 判示=実行行為者は「A(設例のY)または被告人、あるいはその両名」でも罪となるべき事実として足りる
- 理由=2人の共謀による犯行→どちらが刺しても2人とも殺人罪の共同正犯(一部実行の全部責任)→殺人罪の構成要件に当たるかを判定できる
- 物差し表=①判定できる○②共謀の上の殺人は合理的な疑いを超えて証明済み・どちらでも結論は同じ○③同じ殺人罪の共同正犯=合成した犯罪ではない○
- 実行行為者の特定は量刑の事情としては重要=ただし判定できるかとは別の物差し
結論は、足りる、です。冒頭の問いの答えも、書いてよい、です。理由は、判決文の最初の言葉にあります。2人の共謀による犯行だというのであるから、です。共謀共同正犯では、2人が共謀して、そのうちの誰かが実行したなら、共謀した2人は、どちらも殺人罪の共同正犯です。共謀していれば、相手が実行した部分も、自分がおこなったものとして責任を負うからです。一部だけを実行した者にも、全部の結果について責任が及ぶ。刑法で見た、一部実行の全部責任です。ですから、刺したのが被告人でもYでも、被告人もYも、殺人罪の共同正犯になります。誰が刺したのかが決まらなくても、殺人罪の構成要件に当たる事実は、判定できます。3つの物差しで、順に確かめます。1つ目。判定できますから、足ります。2つ目。殺人が、2人の共謀の上で行われたことは、合理的な疑いを超えて証明されています。被告人もYも、どちらの場合でも殺人罪の責任を負います。どちらに転んでも結論が変わりません。だから、利益原則に反しません。3つ目。どちらの場合も、同じ殺人罪の共同正犯です。合成した犯罪では、ありません。
実行行為者がだれであるかは、量刑の事情としては重要です。訴因変更の回で見たとおりです。ただ、今日の問いは、有罪の言渡しに必要な罪となるべき事実として足りるか、です。量刑のために実行者を特定する必要がある、という話と、構成要件に当たるかを判定できる、という話は、別の物差しです。後者で見る限り、足ります。ここで、決定的に大事な前提があります。この結論は、共謀が認定されているから、成り立ちます。
図:共謀が前提
- 共謀が認定されている→「被告人またはYが実行」で足りる(どちらでも共同正犯)
- 共謀が認定できない→「被告人またはYが実行」だけでは被告人が実行したことは証明されていない→被告人には認定できない(共謀が真偽不明なら共謀はなかったものとして裁く=利益原則)
- 実行行為者の択一が許されるのは、共謀という土台があるから
共謀が認定できないときを、考えます。被告人またはYが、Cを刺した、とだけ書いたとします。これでは、被告人が刺したことは、証明されていません。Yが刺したのかもしれず、そのとき被告人は、共謀がなければ、何もしていない人です。共謀があったかなかったか、どちらとも決まらないときは、共謀はなかったものとして裁く。利益原則の回で見た、この扱いに従えば、被告人については、実行したことも、共謀したことも認められません。殺人罪の有罪を、言い渡せないのです。整理します。実行行為者の択一が許されるのは、共謀が認定できているという土台があるからです。土台がなければ、どちらかが刺した、という事実は、被告人の罪とは結びつきません。
過失の択一
図:過失の態様の択一
- 設例
- 配送トラックを後退させた被告人が、後方の歩行者Cをひいて死亡させた。Cが運転席から見える位置(ミラーやモニターを見れば見えた)にいたのか、死角にいたのかは決められない。見える位置なら=ミラーやモニターを確認しなかった過失。死角なら=降りて後方を確認すべきなのにしなかった過失。判決に「確認しなかった過失または降りて確認しなかった過失」と書いてよいか
ここまで、日時の択一も、実行行為者の択一も、同じ犯罪の中なら許されました。次は、過失です。設例を作ります。配送トラックを後退させていた被告人が、後ろにいた歩行者のCをひいて、死亡させました。ところが、ひかれる前のCが、運転席から、ミラーやモニターを見れば見える位置にいたのか、それとも、見えない死角の中にいたのかが、決められません。見える位置にいたなら、被告人の過失は、ミラーやモニターを確認しなかったことです。死角にいたなら、降りて後方を確認すべきだったのに、しなかったことです。罪名は、自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律5条の、過失運転致死傷罪です。立ち止まって、予想してください。判決に、確認しなかった過失または降りて確認しなかった過失、と書いてよいでしょうか? 日時の択一と、何が違うと思いますか?
条文自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条
自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条 自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、七年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。ただし、その傷害が軽いときは、情状により、その刑を免除することができる。
同じ罪名の中の択一なら、日時の択一と同じに見えます。ところが、結論は、許されない、です。理由を見ます。条文を読んでください。必要な注意を怠り、としか書かれていません。どんな注意を怠ったのかは、条文のどこにも書かれていません。窃盗や殺人は、他人の財物を窃取する、人を殺す、と行為の中身が条文に書いてあります。過失犯は、行為の中身が、条文に書かれていない構成要件です。開かれた構成要件、つまり、条文に中身が書かれておらず、事件ごとに補って初めて特定される構成要件、と呼ばれます。
図:過失の三層
- 訴因の過失の記載=前提事実(注意義務を課す根拠となる事実)→注意義務の内容→過失の態様(注意義務に違反した行為そのもの)
- 設例=前提事実(Cの位置)が違うと→注意義務の内容が違う(確認しながら下がる/降りて確認する)→過失の態様が違う
- 択一にすると三層のどこが動くか決まらない
訴因変更の回で見たとおり、訴因の過失の記載は、三層でできていました。前提事実、つまり注意義務を課す根拠となる事実です。たとえば、後ろに歩行者がいた、という事実です。そのうえに、注意義務の内容、被告人が何をすべきだったか。そして、過失の態様、注意義務に違反した行為そのものです。条文に中身がないので、この三層で補ってはじめて、罪となるべき事実が特定されます。設例に当てます。Cの位置が違えば、前提事実が違います。前提事実が違えば、課される注意義務の内容も違い、怠った態様も違います。確認しなかった過失または降りて確認しなかった過失、と択一的に書くと、被告人が何をすべきで、何を怠ったのかが、特定されません。過失の内容が決まらないのですから、罪となるべき事実として足りない。1つ目の物差しで、すでに落ちます。
違いは、特定されなくなるものが、構成要件の中身かどうかです。窃盗では、条文が、窃取という行為の中身を定めています。日にちは、その中身の外側の情報で、決まらなくても、窃盗の棚には入れられました。過失は、棚のふだの中身にあたる注意義務そのものが、前列と後列で別物になります。ふだが書けなければ、棚に入れようがありません。2つ目の物差しも、見ます。見える位置なのに見落としたのと、死角で確認が足りなかったのでは、悪質さが違います。見える位置なら、ミラーやモニターを見るだけで避けられた事故です。手間をかけずに避けられたのに避けなかった、というほうが、重い非難を受けます。択一的に書けば、見える位置だったとは証明されていないのに、その重いほうの過失まで、認めることになりかねません。有罪にする範囲を、疑いの残る部分まで広げることになり、利益原則にも反します。3つ目は、同じ過失運転致死傷罪の中の話ですから、問題になりません。日時や実行行為者の択一と、何が違うのかを、短く言います。日時や実行行為者は、どちらに転んでも、同じ構成要件の同じ中身に当たります。実行行為者の違いは、量刑の事情にとどまります。過失の態様は、どちらかで、構成要件の中身にあたる注意義務そのものと、悪質さが変わります。
検察官は、Cが見える位置にいても死角にいても事故を避けられたはずの、両方をカバーする注意義務を組み立てて、訴因を追加、または変更する、という道が考えられます。たとえば、ミラーなどで後方を確認し、見えなければ降りて確認しながら、進行すべき義務、という形です。どちらか一方の過失を認定するのではなく、両方を包む義務の違反として、構成し直すのです。
節目のミニ事例と短答
図:節目のミニ事例と短答
節目のミニ事例です。最初の2つ。1つ目。判決に、犯行は1月6日ころ、と書かれていました。足りますか。2つ目。判決に、犯行は12月31日または1月1日、と書かれていました。同じ窃盗なら、許されますか。1つ目は、構成要件に当たるかを判定できて、防御も妨げない幅なので、足ります。2つ目は、どちらの日でも同じ窃盗なので、3つの物差しを通って、許されます。次の2つです。共謀が認定されているとき、被告人またはYが、Cを刺した、と書くのは許されますか。共謀が認定できないときは、どうでしょうか。共謀が認定されていれば、どちらが実行しても共同正犯なので許されます。共謀が認定できないときは、被告人が実行したことが証明されていないので、被告人には認定できません。次です。過失の態様について、確認しなかった過失または降りて確認しなかった過失、と択一的に書くのは、許されますか。
許されません。過失は注意義務の内容で特定されるので、択一にすると特定されず、悪質さも変わるので利益原則にも反します。残りは、○×です。同一構成要件の中の択一が許されるのは、足りる、利益原則に反しない、合成した犯罪を作らない、この3つを満たすからである。○です。判決に択一的に書けるのは、256条5項という明文があるからである。×です。5項は起訴状の規定で、判決には明文がありません。なお、択一的認定の可否の検討は、論文でも問われうる論点です。
今日の地図(保存版)
図:まとめの地図
- 択一的認定=AかBかは証明されたが、どちらかまでは証明されない→「AまたはB」
- 256条5項は起訴状の規定
- 3つの物差し=①罪となるべき事実として足りるか②利益原則③罪刑法定主義(合成した犯罪)
- 同一構成要件内=原則許される(日時・実行行為者=共謀が認定されていれば)
- 例外=過失の態様の択一(特定されず・利益原則に反する)
- 概括的認定=判定できて防御を妨げない幅
今日のまとめです。択一的認定とは、AかBのどちらかは証明されたが、どちらかまでは証明されないときに、判決にAまたはBと書くことです。起訴状には256条5項がありますが、判決にはその明文がありません。だから、3つの物差しで考えます。罪となるべき事実として足りるか、利益原則に反しないか、法律に無い合成した犯罪を作っていないか、です。同じ犯罪の中の話なら、原則として許されます。日時に幅を持たせる概括的認定は、構成要件を判定できて、防御を妨げない幅なら足ります。日時の択一も、どちらでも同じ窃盗ですから、許されます。冒頭の問いの答えです。被告人は、Yと共謀の上、Cを殺害したと認定されたが、刺した人は決められない。このとき、被告人またはYが、Cを刺して殺害した、と書いてよい。共謀が認定されていて、どちらが実行しても共同正犯になるからです。共謀が認定できなければ、書けません。例外は、過失です。過失の態様の択一は、注意義務の内容が決まらず、罪となるべき事実として足りません。重いほうの過失まで認めかねず、利益原則にも反します。同じ犯罪の中の話は、ここまでです。次は、違う犯罪のどちらかだと分かっているとき、判決はどう書けるのかを見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第256条第5項
- 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律第5条