単純窃盗どうしの一事不再理効(最判平15・10・7)
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第7章 裁判 ⑥/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:今日の問い
- 同じYの設例で、最初の起訴の仕方が違う
- Yは、夜中に閉店後の店舗に忍び込んで現金を盗むことを1年半ほど繰り返した
- そのうち数件が単純窃盗として起訴され、拘禁刑の有罪判決が確定(前訴)
- その後、前の裁判の判決が言い渡される前にYが同じ手口でやっていた別の数件が見つかった(後訴)
- 1つ目の問い=常習特殊窃盗として起訴されたら
- 2つ目の問い=また単純窃盗として起訴されたら
- 裁判所はどうするか
前回の最後に、問いを1つ残しました。前の裁判も、後の裁判も、ただの窃盗として起訴されていたら、どうなるか。今日は、その答えを見ます。最高裁の判断が出てきます。前回の地図を、おさらいします。前の裁判を、前訴と呼び、後の裁判を、後訴と呼びます。縦に前訴を、横に後訴をとり、それぞれ常習か単純かで、4つのマスができました。前回埋まったのは、前訴が常習の2マスです。常習と常習は、免訴。常習と単純は、常習性の発露と認められれば、免訴でした。常習性の発露とは、その窃盗が、繰り返して盗む癖の現れとしてなされたことです。物差しは、二重の危険でした。被告人は、公訴事実の同一性の範囲で、訴追の危険にさらされていたので、効力もその範囲に及びます。今日の場面で問われるのは、単一性があるかどうかです。使った道具は、柔らかい訴因基準説です。訴因を基準に比べながら、場合によっては、常習性の発露まで調べる考え方でした。常習窃盗は、常習特殊窃盗と常習累犯窃盗の総称でした。常習特殊窃盗は、夜間に店舗へ侵入するなど、盗犯等防止法2条の方法で、常習として盗む罪で、刑が重くなります。
同じYで考えますが、最初の起訴の仕方が違います。Yは、夜中に、閉店後の店舗に忍び込んで、現金を盗むことを、1年半ほど繰り返していました。そのうち数件が、ただの窃盗、つまり単純窃盗として起訴され、拘禁刑の有罪判決が確定しました。その後、前の裁判の判決が言い渡される前に、Yが同じ手口でやっていた別の数件が見つかりました。1つ目の問い。この別の数件が、常習特殊窃盗として起訴されたら。2つ目の問い。この別の数件が、また単純窃盗として起訴されたら。裁判所は、それぞれどうするでしょうか。先に、答えの形だけを言います。1つ目の問いは、免訴になりえます。ただし、常習性の発露と認められるときです。2つ目の問いは、免訴になりません。前の裁判の効力は、後の裁判に及びません。この分かれ目を、最高裁の判断で見ます。
図:今日の地図
- 前訴(常習/単純)×後訴(常習/単純)の4つのマス
- 前訴=常習の2マスは前回で埋まり(常習×常習=免訴/常習×単純=発露なら免訴)
- 今日埋めるのは前訴=単純の2マス(単純×常習/単純×単純)
- 使った道具=柔らかい訴因基準説
- 前訴=前の裁判/後訴=後の裁判
- 常習窃盗=常習特殊窃盗と常習累犯窃盗の総称
今日は、判例を2つ見ます。前訴が単純窃盗で後訴が常習のマスと、前訴も後訴も単純窃盗のマスの順です。最後に、4つのマスを一覧にして、検察官の起訴の仕方が結論を分けることまで見ます。
前訴が単純窃盗で後訴が常習窃盗の場合

- 前訴=単純窃盗、後訴=常習特殊窃盗(Yの1つ目の問い)
- 訴因だけを硬く比べると、単純窃盗と常習窃盗は当然には一罪にならない
- しかし後訴に常習窃盗の訴因がある→両訴因は実体的には常習一罪ではないかと強くうかがわせる→検討するきっかけ(引き金)→前訴の単純窃盗が常習性の発露として行われたかを実体審理して心証をとる→発露と認められる(同じ手口・近い時期)→1個の常習特殊窃盗の一部→一罪の一部について確定判決あり→単一性あり→刑訴337条1号で免訴
- 後の訴因に習癖の発露でない窃盗が混じれば、それは一罪の一部にならない
復習です。前訴が常習窃盗、後訴が単純窃盗のとき、柔らかい訴因基準説で、単純窃盗が常習性の発露かどうかを実体審理するきっかけになるのは、何でしたか?前訴か後訴の、どちらかの訴因に、常習窃盗があることです。今日の1つ目のマスは、その向きが逆になります。前訴が単純窃盗で、後訴が常習特殊窃盗。Yの1つ目の問いです。訴因だけを硬く比べれば、前の窃盗は、常習の一部にはなりません。単純窃盗と常習窃盗は、当然には一罪にならないからです。ただ、後の裁判には、常習特殊窃盗の訴因があります。すると、両方の訴因は、実体としては常習一罪ではないか、と強くうかがわせます。一罪かどうかを検討する、きっかけがあるわけです。引き金を引くのは、後訴の常習の訴因です。そこで、その限りで、前訴の単純窃盗が、常習性の発露として行われたかを、実体審理して心証をとります。Yは、夜中に閉店後の店舗へ忍び込んで現金を盗む、という同じ手口を、近い時期に繰り返しています。発露と認められます。すると、前の窃盗と、あとの窃盗は、1個の常習特殊窃盗の一部です。その一部について、すでに確定判決があります。単一性があり、前訴の効力が後訴に及びます。条文を見ます。
条文刑事訴訟法第337条
刑事訴訟法第337条 左の場合には、判決で免訴の言渡をしなければならない。 一 確定判決を経たとき。 二 犯罪後の法令により刑が廃止されたとき。 三 大赦があつたとき。 四 時効が完成したとき。
1号です。確定判決を経たときは、判決で免訴を言い渡します。Yの1つ目の問いの答えは、免訴です。後の裁判に挙がった窃盗なら、全部が常習の一部として扱われるんですか。違います。前回見たとおり、常習者でも、発露でない窃盗はあります。例えば、知人の家で目に入った財布を、ふと持ち出した窃盗は、一罪の一部になりません。ですから、結論は、発露と認められるときは免訴、と条件つきで覚えてください。ここは、論文で論点になりえます。
判例・前訴が単純窃盗で後訴が常習累犯窃盗
図:判例
- 被告人の窃盗5件が、包括して常習累犯窃盗(盗犯等防止法3条)の一罪として起訴され、第一審は有罪
- ところが被告人は、そのうち最初の1件と次の件の中間の時期の窃盗で、別の簡易裁判所から窃盗罪として有罪判決を受け、確定していた(前訴=単純窃盗)
- 最高裁は職権で調査
- 前の窃盗も常習累犯窃盗に当たる→最初の1件も確定判決前の犯行で、前の窃盗と1個の常習累犯窃盗を構成すべきもの→免訴とされるべき
- ただし破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない→上告棄却(最判昭43・3・29)
この考え方の判例を、1つ見ます。前の裁判が単純窃盗で、後の裁判が常習累犯窃盗の事案です。常習累犯窃盗は、盗犯等防止法3条で、一定の前科のある人が常習として窃盗をする罪でした。事案です。被告人の窃盗5件が、まとめて1個の常習累犯窃盗として起訴され、第一審は有罪としました。ところが被告人は、そのうちの最初の1件と、次の件との中間の時期の窃盗について、別の簡易裁判所から、窃盗罪として有罪判決を受け、すでに確定していました。これが前の裁判です。最高裁は、この点を職権で調べました。判断は2段です。1段目は、この1件をどう扱うべきだったか。2段目は、それを理由に原判決を破棄したか、です。判旨です。
判例最判昭43・3・29 刑集22巻3号153頁
前訴が単純窃盗の確定判決・後訴が常習累犯窃盗 右大牟田市における各窃盗も盗犯等の防止及び処分に関する法律三条所定の常習累犯窃盗に該当するものとみるべきであり、また前記の本件(一)の所為も右確定判決前の犯行であるから、右大牟田市における各窃盗犯行と共に一個の常習累犯窃盗罪を構成すべきものであつたといわなければならない。しからば、右一罪の一部について既に確定判決があつた以上、本件における前記(一)の所為については免訴とされるべきであり、この点を看過し前記のように右(一)の所為をも本件の有罪事実に含めた第一審判決ならびにこれを認容した原判決には法令の解釈適用を誤つた違法があることになる。 …… これらの点からすれば、原判決の前記違法については、いまだ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
読み替えます。右大牟田市における各窃盗とは、前の確定判決で認められた窃盗です。本件の一の所為とは、今回起訴された窃盗のうち、前の窃盗より前の時期の1件です。前の窃盗も、常習累犯窃盗に当たるとみるべきだ。この1件も、確定判決の前の犯行だから、前の窃盗とともに、1個の常習累犯窃盗を構成するはずだった。一罪の一部について、すでに確定判決がある以上、この1件は、免訴とされるべきだった。それを見落とした第一審と原判決には、法令の解釈適用を誤った違法がある、という判断です。ここが2段目です。注意してください。主文は、上告棄却です。免訴とされるべきだったが、それだけでは、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない、として棄却しました。残りの窃盗だけでも、常習累犯窃盗罪は成立しますし、刑も甚だしく不当ではないからです。前回見た、条例違反の常習罪の判例は、後の略式命令を破棄して、つまり取り消して、免訴を言い渡していました。こちらは、原判決を破棄せず、そのまま残しています。ですから、この判例について、免訴を言い渡したと覚えるのは誤りです。免訴とされるべきだった、と判示した、が正確です。この判例は、前訴が単純窃盗でも、後訴が常習窃盗なら、実体は常習一罪の一部と見て、免訴の扱いになる、という考え方を、示した例です。4つのマスの、前訴が単純で後訴が常習のマスの判例です。
前訴も後訴も単純窃盗の場合・問題の所在
図:問題の所在
- Yの2つ目の問い
- 後訴も単純窃盗として起訴。実体は1個の常習特殊窃盗かもしれない。しかし検察官は、立証の難易などを考えて、常習性の発露という面を外し、単純窃盗として起訴できる(一罪の一部起訴)。前訴・後訴の訴因は、どちらにも常習性が載っていない。(a)両訴因に書かれたことだけで比べる→別々の機会の単純窃盗=併合罪の関係→単一性なし→効力は及ばない
- (b)訴因に書かれていない常習性まで心証をとり、常習特殊窃盗として一罪と見る→単一性あり→免訴。以前に、同様の事案で免訴を言い渡した高裁判決があった
公訴の章で見た、一罪の一部だけを起訴することは、許されたでしょうか?許されます。どこまで起訴するかも、検察官の裁量です。これが、2つ目のマスで効いてきます。Yの2つ目の問いは、後の裁判も、単純窃盗として起訴された場合でした。実体としては、Yの窃盗は、1個の常習特殊窃盗かもしれません。しかし、検察官は、立証の難しさなどを考えて、常習性の発露という面を外し、単純窃盗として起訴できます。このとき、前の裁判の訴因にも、後の裁判の訴因にも、常習性は載っていません。ここで、考え方が2つに分かれます。1つ目は、両方の訴因に書かれたことだけで比べる考え方です。前回の言い方なら、2枚の起訴状だけを並べて比べます。別々の機会の単純窃盗は、併合罪の関係で、一罪ではありません。単一性がなく、前の裁判の効力は、及びません。2つ目は、訴因に書かれていない常習性まで、裁判所が証拠で心証をとる考え方です。起訴状の裏にある、Yの実際の生活ぶりまで調べるわけです。常習特殊窃盗として一罪と見れば、単一性があり、免訴です。1つ目を訴因基準説、2つ目を心証基準説と呼びます。前回見たこの対立が、どちらにも常習の訴因がない場面で問われるわけです。
なお、同じような事案で、免訴を言い渡した高裁判決がありました。これから見る最高裁の判決は、その高裁判決を変更しています。
判例・前訴も後訴も単純窃盗
図:判例
- 建造物侵入・窃盗の事件
- 確定判決で認定された別の機会の建造物侵入・窃盗(前訴)があり、その後、確定判決前に犯された余罪である本件各行為が、単純窃盗罪・建造物侵入罪として起訴された(後訴)
- 原判決は、実体的には常習特殊窃盗一罪を構成することは否定しえないとしながら、単純窃盗として起訴された以上、確定判決を経たときに当たらないとした
- 結論=前訴及び後訴の各訴因が共に単純窃盗罪の場合、両者が実体的には一つの常習特殊窃盗罪を構成するとしても、前訴の確定判決による一事不再理効は後訴に及ばない
- 建造物侵入が併せて起訴された場合も同じ
- 上告棄却・裁判官全員一致・判例変更(最判平15・10・7 刑集57巻9号1002頁)
最高裁の判断です。事案は、建造物侵入と窃盗の事件でした。確定判決で認められた、別の機会の建造物侵入と窃盗があります。これが前の裁判です。その後、確定判決の前に犯された余罪が、単純窃盗罪と建造物侵入罪として起訴されました。これが後の裁判です。原判決は、実体的には常習特殊窃盗の一罪を構成することは否定できないとしました。しかし、単純窃盗として起訴された以上、確定判決を経たときに当たらない、としました。被告人の側は、同じような事案で免訴とした高裁判決と食い違う、と主張しました。結論から言います。前の裁判の訴因も、後の裁判の訴因も、共に単純窃盗の場合は、実体的には1つの常習特殊窃盗罪を構成するとしても、前の裁判の一事不再理効は、後の裁判に及びません。後の裁判は免訴にならず、実体審理で、有罪か無罪かを判断します。上告は棄却で、裁判官全員一致です。同じような事案で免訴とした高裁判決は、この判決で、変更されました。判決を、3つに分けて見ます。まず、罪の性質と、一部起訴ができることを述べた部分です。
判例最判平15・10・7 刑集57巻9号1002頁
常習特殊窃盗罪の性質と一部起訴 常習特殊窃盗罪は,異なる機会に犯された別個の各窃盗行為を常習性の発露という面に着目して一罪としてとらえた上,刑罰を加重する趣旨の罪であって,常習性の発露という面を除けば,その余の面においては,同罪を構成する各窃盗行為相互間に本来的な結び付きはない。したがって,実体的には常習特殊窃盗罪を構成するとみられる窃盗行為についても,検察官は,立証の難易等諸般の事情を考慮し,常習性の発露という面を捨象した上,基本的な犯罪類型である単純窃盗罪として公訴を提起し得ることは,当然である。
常習性の発露という面を外せば、各窃盗の間に結び付きはないので、検察官は単純窃盗として起訴できる、という部分です。次に、判断の基準を示した部分です。
判例最判平15・10・7 刑集57巻9号1002頁
公訴事実の単一性の判断基準 訴因制度を採用した現行刑訴法の下においては,少なくとも第一次的には訴因が審判の対象であると解されること,犯罪の証明なしとする無罪の確定判決も一事不再理効を有することに加え,前記のような常習特殊窃盗罪の性質や一罪を構成する行為の一部起訴も適法になし得ることなどにかんがみると,前訴の訴因と後訴の訴因との間の公訴事実の単一性についての判断は,基本的には,前訴及び後訴の各訴因のみを基準としてこれらを比較対照することにより行うのが相当である。
前訴と後訴の各訴因のみを基準に比べる、という部分が基準です。最後に、本件へのあてはめと結論です。
判例最判平15・10・7 刑集57巻9号1002頁
前訴・後訴とも単純窃盗の場合のあてはめ 本件においては,前訴及び後訴の訴因が共に単純窃盗罪であって,両訴因を通じて常習性の発露という面は全く訴因として訴訟手続に上程されておらず,両訴因の相互関係を検討するに当たり,常習性の発露という要素を考慮すべき契機は存在しないのであるから,ここに常習特殊窃盗罪による一罪という観点を持ち込むことは,相当でないというべきである。そうすると,別個の機会に犯された単純窃盗罪に係る両訴因が公訴事実の単一性を欠くことは明らかであるから,前訴の確定判決による一事不再理効は,後訴には及ばないものといわざるを得ない。 以上の点は,各単純窃盗罪と科刑上一罪の関係にある各建造物侵入罪が併せて起訴された場合についても,異なるものではない。
理由は、次の節で、1つずつ読みます。建造物侵入が併せて起訴されていても、結論は同じ、というのが最後の1文です。
判旨の読み方
図:判旨の理由4つ
- ①少なくとも第一次的には訴因が審判の対象
- ②無罪の確定判決にも一事不再理効がある
- ③常習特殊窃盗罪の性質=常習性の発露という面に着目して一罪とし刑を加重する罪/常習性の発露という面を除けば各窃盗行為の間に本来的な結び付きはない
- ④一罪を構成する行為の一部起訴も適法
- 前回の多数説の理由3つ(訴因が審判の対象/前訴が無罪のとき困る/単純窃盗で起訴するのも訴追裁量)と重なるのは①②④
- 新しいのは③
- ②の筋=無罪の判決にも効力がある→無罪のときにも使える物差しが要る→有罪でも無罪でも前の裁判に必ずあるのは訴因
判決が挙げる理由は、4つです。1つ目。現行法では、少なくとも第一次的には、訴因が審判の対象だということ。訴因が審判の対象であることは、訴因の回で見ました。2つ目。無罪の確定判決にも、一事不再理効があること。3つ目。常習特殊窃盗という罪の性質です。4つ目。一罪を構成する行為の一部起訴も、適法にできること。前回、多数説が訴因基準説をとる理由を、3つ見ました。訴因が審判の対象であること、前訴が無罪のとき困ること、常習性を外して単純窃盗で起訴するのも検察官の裁量であること、です。判決の理由の1つ目、2つ目、4つ目は、この3つと中身が重なります。前回の3つに無かったのは、3つ目の罪の性質です。
たとえで考えます。常習特殊窃盗は、別々の機会の窃盗を、常習性という輪ゴムで束ねて、一つの重い罪にしたものです。輪ゴムを外せば、各窃盗の間に、本来的な結び付きはありません。単純窃盗として起訴されるときは、この輪ゴムが、はじめから掛かっていません。束ねる根拠が、訴因に載っていないのです。2つ目の理由は、こう説明されます。前の裁判で、Yが無罪になったとします。無罪の判決では、問題の窃盗が行われたかどうかが、そもそも確定していません。それでも、無罪の判決にも、一事不再理効があります。ですから、効力がどこまで及ぶかは、無罪のときにも使える物差しで決めなければなりません。無罪なら、盗みの背後に常習性があったかを比べる土台が、前の裁判にありません。有罪でも無罪でも、前の裁判に必ずあるのは、何が起訴されたか、つまり訴因です。だから、訴因の背後の実体で比べるやり方には、限界がある、と説明されます。
図:判例の示した基準とあてはめ
- 基準=前訴と後訴の間の公訴事実の単一性は、基本的には、前訴・後訴の各訴因のみを基準に比較対照して判断
- あてはめ=共に単純窃盗→常習性の発露という面は訴因として上程されていない→考慮すべき契機は存在しない→常習特殊窃盗罪による一罪という観点を持ち込むのは相当でない→単一性を欠く→一事不再理効は及ばない→Yの2つ目の問い=免訴にならない
この4つを合わせて、判例は、基準を示しました。前訴の訴因と後訴の訴因との間の公訴事実の単一性は、基本的には、前訴と後訴の各訴因のみを基準にして、比較対照して判断する。これが、判例の示した基準です。あてはめです。今回は、前訴も後訴も単純窃盗です。常習性の発露という面は、どちらの訴因にも、全く載っていません。判決は、両訴因の関係を検討するとき、常習性の発露という要素を考慮すべき契機は存在しない、と言いました。ですから、常習特殊窃盗罪による一罪という観点を持ち込むのは、相当でありません。別の機会の単純窃盗に係る両訴因は、単一性を欠き、前の裁判の効力は及びません。Yの2つ目の問いの答えは、免訴にならない、です。
訴因に載っていない常習性には、踏み込みません。次に、前回の柔らかい訴因基準説が、この判決のどこに書かれているかを見ます。なお書きと呼ばれる部分です。
判例最判平15・10・7 刑集57巻9号1002頁
前訴か後訴に常習窃盗の訴因がある場合 なお,前訴の訴因が常習特殊窃盗罪又は常習累犯窃盗罪(以下,この両者を併せて「常習窃盗罪」という。)であり,後訴の訴因が余罪の単純窃盗罪である場合や,逆に,前訴の訴因は単純窃盗罪であるが,後訴の訴因が余罪の常習窃盗罪である場合には,両訴因の単純窃盗罪と常習窃盗罪とは一罪を構成するものではないけれども,両訴因の記載の比較のみからでも,両訴因の単純窃盗罪と常習窃盗罪が実体的には常習窃盗罪の一罪ではないかと強くうかがわれるのであるから,訴因自体において一方の単純窃盗罪が他方の常習窃盗罪と実体的に一罪を構成するかどうかにつき検討すべき契機が存在する場合であるとして,単純窃盗罪が常習性の発露として行われたか否かについて付随的に心証形成をし,両訴因間の公訴事実の単一性の有無を判断すべきであるが
どちらかの訴因に常習窃盗がある場合は、発露かどうかを付随的に調べる、という部分です。続けて、本件との違いを述べます。
判例最判平15・10・7 刑集57巻9号1002頁
共に単純窃盗の本件との違い 本件は,これと異なり,前訴及び後訴の各訴因が共に単純窃盗罪の場合であるから,前記のとおり,常習性の点につき実体に立ち入って判断するのは相当ではないというべきである。
前訴が常習で後訴が単純の場合と、前訴が単純で後訴が常習の場合。この2つは、記載を比べるだけでも、実体は常習窃盗の一罪ではないかと、強くうかがわれます。だから、検討すべき契機があり、付随的に、発露かどうかを調べます。付随的とは、本筋の審理のかたわらで、という意味です。一方、今回は共に単純窃盗です。その契機がないので、実体に立ち入りません。判決は、柔らかい訴因基準説という名前は使っていませんが、その考え方に立つと理解されています。分かれ目は、はっきりしています。前訴か後訴の、どちらかの訴因に、常習窃盗があるかどうか。あれば、発露を調べます。なければ、調べず、訴因だけで単一性なしです。この判決は、4つのマスの結論を、1つの文章の中で、分けて示しています。
政策的な理由
図:政策的な理由
- 学説・解説の説明であって判決の理由ではない
- (1)併合罪との釣り合い=常習性の発露に至らない単純窃盗が複数→見つかる時期がばらけて、起訴も確定も何回かに分かれるのは珍しくない→そうした単純窃盗どうしは、実務では刑法45条後段の併合罪として扱われている→たまたま常習性の発露だったというだけで、前訴も後訴も単純窃盗なのに免訴になるなら、常習性のある被告人のほうが、かえって有利に扱われる。(2)心証基準説のゆがみ=被告人が自分の常習性をわざわざ主張・立証して免訴を狙う、不自然な訴訟の進め方を呼び込みかねない。→起訴状の裏の事情まで調べず、訴因どうしを形式的に比べて単一性を否定
ここからは、判決の理由ではありません。学説や解説が挙げる、政策的な説明です。2つあります。1つ目は、併合罪との釣り合いです。併合罪は、別々の機会に犯された罪どうしの関係でした。常習性の発露に至らない単純窃盗が、複数あったとします。見つかる時期がばらけて、起訴も確定も何回かに分かれることは、珍しくありません。そうした単純窃盗どうしは、実務では、刑法45条後段の併合罪として扱われています。条文を見ます。
条文刑法第45条
刑法第45条 確定裁判を経ていない二個以上の罪を併合罪とする。ある罪について拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
Yの前の裁判は、拘禁刑でした。後段の、拘禁刑以上の確定裁判がある場合に当たります。その裁判が確定する前に犯した罪は、併合罪です。併合罪になれば、後の裁判は免訴にならず、実体審理されます。ところが、犯行がたまたま常習性の発露として行われたからといって、前訴も後訴も単純窃盗の場合に免訴になるのでは、どうでしょうか。常習性のある被告人のほうが、常習性のない被告人より、かえって有利に扱われてしまう、と説明されています。2つ目は、訴訟の動き方のゆがみです。心証基準説に立って、後の裁判を免訴にすると、被告人が自分で、自分には常習性がある、と主張し、立証して、免訴を得ようとするでしょう。自分の悪い癖を、わざわざ証明するという、不自然な訴訟の進め方を、呼び込みかねない、と説明されています。ですから、前訴も後訴も単純窃盗の場合は、起訴状の裏の事情まで調べる必要はなく、訴因どうしを形式的に比べて、単一性を否定すべきだ、とされます。
4つのマスの総まとめ
図:4象限の総まとめ
- 4つのマス
- 前訴常習×後訴常習=免訴
- 訴因を比べれば常習一罪=単一性あり。前訴常習×後訴単純=発露と認められれば免訴
- 最判平15・6・2(条例違反の常習罪の例)・最判平15・10・7のなお書き
- 常習の訴因が引き金→実体審理。前訴単純×後訴常習=発露と認められれば免訴
- 最判昭43・3・29
- 同上。前訴単純×後訴単純=免訴にならない(効力は及ばない)
- 最判平15・10・7
- 常習性の発露は訴因に上程されず検討すべき契機がない。前提=前の裁判の判決が言い渡される前の窃盗。判決の後の窃盗は別の事件
4つのマスを、埋めます。前訴が常習で後訴も常習のマス。免訴です。訴因を比べれば、常習一罪で、単一性があります。前訴が常習で後訴が単純のマス。発露と認められれば、免訴です。前回見た、条例違反の常習罪の判例が、この例です。前訴が単純で後訴が常習のマス。これも、発露と認められれば、免訴です。判例は、今日の1つ目でした。そして、前訴も後訴も単純のマス。免訴になりません。前の裁判の効力は、後の裁判に及びません。判例は、今日の2つ目です。常習の訴因が1つでもあれば、発露を調べる。1つもなければ、調べない。そこが違いなんですね。どのマスでも、前提は同じです。前の裁判の判決が言い渡される前の窃盗に限られます。判決の後の窃盗は、別の事件です。
図:一括して起訴する意味
- 常習一罪の訴因で起訴するなら、判明している余罪は一括して起訴するのが実務の対応(分けて起訴すると、後の分は、発露と認められれば免訴になりうる)
- 単純窃盗として起訴するなら、分けて起訴しても免訴にならない
- →判例・解説の結論から導かれる実務上の帰結
- 常習一罪で起訴するかどうかの選択が結論を分ける
この表から、検察官の側に立った帰結が出ます。常習一罪の訴因で起訴するなら、判明している余罪は、一括して起訴するのが、実務の対応になります。分けて起訴すると、後の分は、発露と認められれば、免訴になりうるからです。一方、単純窃盗として起訴するなら、分けて起訴しても、免訴にはなりません。これは、判例の言葉ではなく、判例と解説の結論から導かれる、実務上の帰結です。常習一罪で起訴するかどうかの選択が、結論を分ける、ということです。
節目のミニ事例
図:節目のミニ事例
- 同じ余罪1件で、前の裁判/後の裁判を入れ替える
- 問1=前の裁判も後の裁判も単純窃盗→免訴にならない(実体審理)
- 問2=前の裁判は単純窃盗、後の裁判が常習特殊窃盗(同じ手口・近い時期)→常習の訴因が引き金→発露→常習一罪→免訴
- 問3=前の裁判が常習特殊窃盗、後の裁判は単純窃盗だが、余罪は知人宅で財布をふと持ち出したもの→引き金は引かれるが発露でない→免訴にならない
- 分かれ目=どちらかの訴因に常習窃盗があるか→あれば発露か
節目のミニ事例です。Yの余罪を1件だけ取り上げて、前の裁判と後の裁判の起訴の仕方を入れ替えます。1つ目。前の裁判も、後の裁判も、単純窃盗で起訴された。この余罪は、免訴になるでしょうか。なりません。どちらの訴因にも常習性が載っていないので、訴因だけを比べて、単一性なしです。実体審理に進みます。2つ目。前の裁判は単純窃盗のまま、後の裁判が常習特殊窃盗で、余罪は同じ手口で近い時期です。どうなるでしょうか。後の裁判の常習の訴因が引き金になります。発露と認められれば、1個の常習特殊窃盗の一部なので、免訴です。3つ目。前の裁判が常習特殊窃盗で、後の裁判は単純窃盗。ただし、その余罪は、知人宅で目に入った財布を、ふと持ち出したものです。この余罪は、免訴になるでしょうか。
前の裁判に常習の訴因があるので、発露かどうかは調べます。でも、癖の現れとは言いにくいので、常習一罪にならず、免訴になりません。1つ目と2つ目は、前の裁判か後の裁判を単純から常習に替えただけで、結論が逆になります。分かれ目は、どちらかの訴因に常習窃盗があるか。あれば、次に、発露かどうか、です。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- Yの1つ目の問い(前訴単純×後訴常習のマス)=発露と認められれば免訴(最判昭43・3・29=免訴とされるべきだが上告棄却)/2つ目の問い(前訴単純×後訴単純のマス)=免訴にならない・前訴の効力は及ばない(最判平15・10・7)
- 道具=訴因のみを比較対照(基本)+どちらかに常習窃盗の訴因があれば発露を調べる(柔らかい訴因基準説)
- 判旨の理由=訴因が審判の対象/無罪の確定判決にも効力/常習特殊窃盗罪の性質/一部起訴も適法
- 政策的な説明=併合罪との釣り合い/心証基準説のゆがみ
- 前回の2マス(前訴=常習)と今日の2マス(前訴=単純)で、4つのマスが全部埋まった
今日のまとめです。問いは2つでした。1つ目の問いの答えです。前の裁判が単純窃盗で、後の裁判が常習特殊窃盗なら、常習の訴因が引き金になります。単純窃盗が常習性の発露と認められれば、1個の常習特殊窃盗の一部で、免訴です。ただし、判例は、免訴とされるべきだったが、上告棄却でした。2つ目の問いの答えです。前の裁判も後の裁判も単純窃盗なら、免訴にはなりません。最高裁は、単一性を、前訴と後訴の各訴因のみを基準に比較対照して判断しました。常習性の発露という面は訴因に載っておらず、実体に踏み込む契機がないので、単一性なし。前の裁判の効力は及びません。理由は、判決が挙げた4つです。訴因が審判の対象であること、無罪の確定判決にも効力があること、常習特殊窃盗罪の性質、一部起訴の適法性。それに加えて、併合罪との釣り合いと、心証基準説のゆがみが、政策的な説明として挙げられています。道具は、訴因を基準に比べること。そして、どちらかの訴因に常習窃盗があれば、発露を調べること。この2つで、4つのマスが全部埋まりました。起訴の仕方が結論を分けることも、確認しました。ここまでで、裁判が確定したあとの効力の話は終わりです。次は、確定する前に、裁判の結果に不服がある場合の手続を見ます。
参照条文
- 刑事訴訟法第337条
- 刑法第45条