刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#160

事後審と控訴理由

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第8章 上訴と救済手続 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

今日の問い。新しい事件の被告人Zは、居酒屋で客を殴ってけがをさせたとして傷害罪で起訴された。第一審の地方裁判所は有罪とし、拘禁刑1年6か月(実刑)。Zは不服で控訴を考えている。①控訴審は、第一審をもう一度最初からやり直してくれるのか。②「刑が重すぎる」「殴っていない」と言えば、どんな不服でも通るのか。③第一審の判決のあとに被害者と示談した。控訴審はこの示談を見てくれるのか 図:今日の問い

  • 新しい事件の被告人Zは、居酒屋で客を殴ってけがをさせたとして傷害罪で起訴された
  • 第一審の地方裁判所は有罪とし、拘禁刑1年6か月(実刑)
  • Zは不服で控訴を考えている
  • ①控訴審は、第一審をもう一度最初からやり直してくれるのか
  • ②「刑が重すぎる」「殴っていない」と言えば、どんな不服でも通るのか
  • ③第一審の判決のあとに被害者と示談した
  • 控訴審はこの示談を見てくれるのか

前回の最後に、個別の上訴は、次から1つずつ見ていきます、とお伝えしました。その1つ目が、控訴です。それに、前回、先に送っておいた問いもあります。一部に絞って争ったとき、控訴審がどこまで調べられるのか。その手前に置く道具立てを、今日そろえます。今日の被告人Zは、新しい事件の人で、前回のYとは別人です。Zは、居酒屋で客を殴ってけがをさせたとして、傷害罪で起訴されました。第一審の地方裁判所は有罪とし、拘禁刑1年6か月の実刑を言い渡しました。Zは不服で、控訴を考えています。問いは3つです。1つ目。控訴審は、第一審をもう一度、最初からやり直してくれるのか。2つ目。刑が重すぎる、殴っていない、と言いさえすれば、どんな不服でも控訴審で通るのか。3つ目。第一審の判決のあとに、Zは被害者と示談をしました。控訴審は、この示談を見てくれるのか。

先に、答えの形だけ言います。控訴審は、第一審の判決のどこが誤っていたかを審査する場所です。だから、不服は、法律が決めた誤りの形で言う必要があります。ただし、判決のあとの事情をくみ取る道は、別に用意されています。3つの問いの答えは、この3文のどこかに入っています。

地図。第一審判決→控訴申立書(第一審の裁判所へ)→控訴趣意書(控訴裁判所へ)→控訴審(事後審)→棄却/破棄。今日=この流れの中で、何を・どこまで・どう争えるかを見る 図:地図

  • 第一審判決→控訴申立書(第一審の裁判所へ)→控訴趣意書(控訴裁判所へ)→控訴審(事後審)→棄却/破棄
  • 今日=この流れの中で、何を・どこまで・どう争えるかを見る

地図です。第一審の判決に不服なら、まず控訴申立書を、第一審の裁判所に出します。次に、控訴の理由を述べる書面、控訴趣意書を、控訴審を担当する裁判所、つまり控訴裁判所に出します。それを受けて控訴審が審査して、結論は、棄却か破棄です。結論の中身は、次の回に見ます。今日は、この流れの中で、何を理由に、どこまで、どうやって争えるかを見ます。

控訴審の構造・覆審と続審と事後審

控訴=地方裁判所・簡易裁判所がした第一審の判決に対する上訴(372条「控訴は、地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審の判決に対してこれをすることができる。」)。控訴審の3類型。覆審=第一審の審理を最初からやり直す/続審=第一審の審理を引き継ぎ、新しい証拠も加えて続ける(民事の控訴審がこれに近い)/事後審=原判決を対象に、その当否を事後的に審査する。旧法=覆審/現行法=事後審(条文に「事後審」とは書かれていない。仕組みから解釈で立てる)。現行法が事後審の理由=第一審は直接主義・口頭主義を徹底しており繰り返すと第一審の意義が薄れる/事実認定を全部第一審に任せきりにもできない/法令違反の審査を最高裁だけが行うと負担が重すぎる

  • 控訴=地方裁判所・簡易裁判所がした第一審の判決に対する上訴(372条「控訴は、地方裁判所又は簡易裁判所がした第一審の判決に対してこれをすることができる。」)
  • 控訴審の3類型
  • 覆審=第一審の審理を最初からやり直す/続審=第一審の審理を引き継ぎ、新しい証拠も加えて続ける(民事の控訴審がこれに近い)/事後審=原判決を対象に、その当否を事後的に審査する
  • 旧法=覆審/現行法=事後審(条文に「事後審」とは書かれていない。仕組みから解釈で立てる)
  • 現行法が事後審の理由=第一審は直接主義・口頭主義を徹底しており繰り返すと第一審の意義が薄れる/事実認定を全部第一審に任せきりにもできない/法令違反の審査を最高裁だけが行うと負担が重すぎる

まず、控訴は、地方裁判所と簡易裁判所がした第一審の判決に対する上訴です。第372条です。控訴を扱うのは、高等裁判所です。その控訴審が、どういう審理をするかには、3つの型がありえます。1つ目は、覆審です。第一審の審理を、最初からやり直します。第一審の結果は、いったん白紙です。2つ目は、続審です。第一審の審理を引き継いで、新しい証拠も加えながら、審理を続けます。民事の控訴審が、これに近いです。3つ目は、事後審です。事件そのものを審理し直すのではなく、第一審の判決を対象にして、その当否を、あとから審査します。

居酒屋の目撃者がいたとします。覆審なら、その目撃者を、控訴審でもう一度、呼んで話を聞きます。続審なら、第一審で聞いたところはそのまま使って、足りない部分を追加します。事後審なら、第一審の判決書と記録を読んで、判断に誤りがないかを点検します。やり直す、続ける、審査する、の3つです。昔の法律では、控訴審は覆審でした。今の法律は、事後審です。理由は3つあります。1つ目。第一審は、公判の原則の回で見た、証人を目の前で聞く、直接主義と、口頭で審理する、口頭主義を徹底しています。控訴審で同じことを繰り返すと、第一審の判決の意味が薄れ、審理の充実が図れません。これは、控訴審で証拠を足して審理を続ける、続審にも当てはまります。控訴審が自分で心証を作り直せば、第一審で証人を目の前で聞いた意味が、やはり薄れるからです。2つ目。かといって、事実の認定を、すべて第一審に任せきりにもできません。誤った事実の認定のまま、判決が確定してはいけないからです。そこで控訴審は、自分で心証を作り直すのではなく、第一審の事実の認定に誤りがないかを、判決と記録から点検するのです。3つ目。法令違反の審査を、最高裁だけに任せると、負担が重すぎます。だから、最高裁の前に、一度は法令違反も審査しておく必要があります。まとめて、やり直しも続けもせず、第一審の判決を対象に、事実の認定と法令違反の両方を審査する。これが、現行法の事後審です。

注意点があります。条文に、事後審、とは書かれていません。あとで見る条文の仕組みから、解釈でそう理解します。Zの1つ目の問いの答えが出ました。控訴審は、第一審のやり直しではありません。第一審の判決の当否を審査する場所です。

事後審の帰結・3つの現れ

事後審だから、条文にはこう現れる。1つ目=控訴する側は、第一審判決の誤りを理由として主張する(384条・376条)。2つ目=控訴審が調べる対象は、趣意書に包含された事項が中心(392条1項)。包含されない事項も、控訴理由に関するものは職権で調査できる(392条2項)。3つ目=結論は、原判決の維持(棄却)か取り消し(破棄)。理由がなければ棄却(396条)/理由があれば破棄(397条1項)。実務の中心=証人の呼び直しではなく、記録と趣意書の精査 図:事後審だから、条文にはこう現れる

  • 1つ目=控訴する側は、第一審判決の誤りを理由として主張する(384条・376条)
  • 2つ目=控訴審が調べる対象は、趣意書に包含された事項が中心(392条1項)
  • 包含されない事項も、控訴理由に関するものは職権で調査できる(392条2項)
  • 3つ目=結論は、原判決の維持(棄却)か取り消し(破棄)
  • 理由がなければ棄却(396条)/理由があれば破棄(397条1項)
  • 実務の中心=証人の呼び直しではなく、記録と趣意書の精査

事後審は、第一審の判決を対象に、その当否を審査する場でした。この1つの性格が、条文の仕組みに3つの形で現れます。1つ目。審査の対象が第一審の判決なので、控訴する側は、その判決のどこが誤っていたかを、理由として主張します。第384条で、控訴は法定の理由に限る、と決まっていて、第376条で、その理由を趣意書に書いて出す、と決まっています。2つ目。控訴審は、指摘された誤りを審査する場なので、調べる対象は、趣意書に書かれた事項が中心です。第392条第1項です。書かれていない事項でも、控訴理由に関するものは、職権で、つまり、当事者の申立てがなくても裁判所が自分の判断で、調べられます。第392条第2項です。3つ目。結論です。理由がなければ棄却、第396条。理由があれば破棄、第397条第1項です。棄却は、第一審の判決を維持すること、破棄は、取り消すことです。審理の続きを進めて新しい判決を出す場ではなく、判決の当否を審査する場なので、答えも、正しければ維持、誤っていれば取り消し、の形が基本です。取り消したあと、差し戻すか、自分で判決するかは、次の回で見ます。

証人を呼び直すのではなく、記録と趣意書を精査するのが中心です。ここから先は、この3つの現れを、順に見ていきます。

控訴理由・法定の4類型

控訴理由は法定(384条)。控訴の申立ては、377条〜382条と383条に規定する事由があることを理由とするときに限る。4類型。訴訟手続の法令違反(377条〜379条)=裁判の進め方の誤り。例:公開しなかった/合議体で裁くべき事件を1人で判決した。法令適用の誤り(380条)=法令の解釈・適用の誤り(認定した事実への当てはめの誤りを含む)。例:正当防衛が成立するのに成立しないとした。量刑不当(381条)=刑の量定が不当。例:重すぎる。事実誤認(382条)=事実の認定の誤り。例:殴ったのはZでないのにZと認定した。383条=再審の請求ができる場合にあたる事由/判決後の刑の廃止・変更・大赦 図:控訴理由は法定

  • 384条
  • 控訴の申立ては、377条〜382条と383条に規定する事由があることを理由とするときに限る。4類型。訴訟手続の法令違反(377条〜379条)=裁判の進め方の誤り。例:公開しなかった
  • 合議体で裁くべき事件を1人で判決した。法令適用の誤り(380条)=法令の解釈・適用の誤り(認定した事実への当てはめの誤りを含む)。例:正当防衛が成立するのに成立しないとした。量刑不当(381条)=刑の量定が不当。例:重すぎる。事実誤認(382条)=事実の認定の誤り。例:殴ったのはZでないのにZと認定した。383条=再審の請求ができる場合にあたる事由
  • 判決後の刑の廃止・変更・大赦

控訴は、なんとなく不服だから、では足りません。法律が決めた理由に限られます。

条文刑事訴訟法第384条

刑事訴訟法第384条 控訴の申立は、第三百七十七条乃至第三百八十二条及び前条に規定する事由があることを理由とするときに限り、これをすることができる。

第377条から第382条、それに第383条です。中身は、大きく4つの類型に整理できます。1つ目。訴訟手続の法令違反です。裁判の進め方の誤りで、第377条から第379条です。たとえば、公開すべき審判を公開しなかった、合議体で裁くべき事件を1人の裁判官で判決した、というものです。2つ目。法令適用の誤りです。第380条で、法令の解釈や適用の誤りです。認定した事実への当てはめを誤った場合も含みます。たとえば、正当防衛が成立するのに、成立しないと判断した場合です。3つ目。量刑不当で、第381条です。刑の量定が不当、重すぎる、あるいは軽すぎる場合をいいます。4つ目。事実誤認で、第382条です。たとえば、殴ったのはZではないのに、Zだと認定した場合です。第383条は、少し別の定めです。再審の請求ができる場合にあたる事由があること、それに、判決のあとに刑の廃止や変更、大赦があったこと、という2つの事由が、控訴理由として別に挙げられています。

言い方を、法定の理由の形に直します。刑が重い、は量刑不当。殴っていない、は事実誤認です。そのうえで、趣意書に、その事由があると信じるに足りる事実を、記録や証拠に現れているものから示します。ただ、訴訟手続の法令違反については、さらに一段、区別があります。次に見ます。

絶対的控訴理由と相対的控訴理由

絶対的控訴理由(判決への影響を問わず、あれば原判決は破棄される)。377条=1号 法律に従って判決裁判所を構成しなかった/2号 法令により判決に関与できない裁判官が判決に関与した/3号 審判の公開に関する規定に違反した。378条=1号 不法に管轄又は管轄違を認めた/2号 不法に公訴を受理し又は棄却した/3号 審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は受けない事件について判決をした/4号 判決に理由を付けず、又は理由にくいちがいがある 図:絶対的控訴理由

  • 判決への影響を問わず、あれば原判決は破棄される
  • 377条=1号 法律に従って判決裁判所を構成しなかった
  • 2号 法令により判決に関与できない裁判官が判決に関与した
  • 3号 審判の公開に関する規定に違反した。378条=1号 不法に管轄又は管轄違を認めた
  • 2号 不法に公訴を受理し又は棄却した
  • 3号 審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は受けない事件について判決をした
  • 4号 判決に理由を付けず、又は理由にくいちがいがある

訴訟手続の法令違反には、2種類あります。ここで、前に扱った内容を1問です。訴因の外にはみ出して認定したとき、その違反は、判決への影響を問わずに、控訴理由になりますか?問わないと思います。審判の請求を受けない事件について判決をしたことになって、第378条第3号に当たるからです。こうした重大な違反を、絶対的控訴理由といいます。第377条と第378条です。あれば、判決への影響を問わず、第一審判決が破棄されます。第397条第1項です。

条文刑事訴訟法第377条

刑事訴訟法第377条 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、その事由があることの充分な証明をすることができる旨の検察官又は弁護人の保証書を添附しなければならない。 一 法律に従つて判決裁判所を構成しなかつたこと。 二 法令により判決に関与することができない裁判官が判決に関与したこと。 三 審判の公開に関する規定に違反したこと。

1号は、裁判所の構成違反です。2号は、除斥の事由のある裁判官のように、法令で判決に関与できない裁判官が関与した場合です。3号は、審判の公開に関する規定の違反です。

条文刑事訴訟法第378条

刑事訴訟法第378条 左の事由があることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつてその事由があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。 一 不法に管轄又は管轄違を認めたこと。 二 不法に、公訴を受理し、又はこれを棄却したこと。 三 審判の請求を受けた事件について判決をせず、又は審判の請求を受けない事件について判決をしたこと。 四 判決に理由を附せず、又は理由にくいちがいがあること。

1号は管轄の誤り、2号は、訴訟条件の判断の誤りです。3号は、判決漏れや、訴因の外にはみ出した認定です。4号は、判決に理由がない、理由にくいちがいがある場合で、有罪判決の回で、理由不備と理由齟齬と呼んだものです。これに対して、それ以外の訴訟手続の法令違反は、相対的控訴理由です。

影響要件の有無。377条・378条=影響を問わない(絶対的)。379条=訴訟手続の法令違反が「判決に影響を及ぼすことが明らか」。380条=法令適用の誤りが「判決に影響を及ぼすことが明らか」。382条=事実誤認が「判決に影響を及ぼすことが明らか」。381条=刑の量定が不当であること(「影響が明らか」の文言なし)。「明らか」=可能性があるだけでは足りない。違反がなかったなら現になされている判決と異なる判決がなされたであろう蓋然性(最大判昭30・6・22) 図:影響要件の有無

  • 377条・378条=影響を問わない(絶対的)
  • 379条=訴訟手続の法令違反が「判決に影響を及ぼすことが明らか」
  • 380条=法令適用の誤りが「判決に影響を及ぼすことが明らか」
  • 382条=事実誤認が「判決に影響を及ぼすことが明らか」
  • 381条=刑の量定が不当であること(「影響が明らか」の文言なし)
  • 「明らか」=可能性があるだけでは足りない
  • 違反がなかったなら現になされている判決と異なる判決がなされたであろう蓋然性(最大判昭30・6・22)

条文刑事訴訟法第379条

刑事訴訟法第379条 前二条の場合を除いて、訴訟手続に法令の違反があつてその違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであることを理由として控訴の申立をした場合には、控訴趣意書に、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実であつて明らかに判決に影響を及ぼすべき法令の違反があることを信ずるに足りるものを援用しなければならない。

前の2条の場合を除いて、違反が、判決に影響を及ぼすことが明らかなときに限る、とあります。違反が確かにあっても、判決の結論が変わらないなら、控訴理由になりません。明らか、というのは、どの程度のことですか。影響がありそう、では足りないんですか。足りません。最高裁は、こう言っています。

判例最大判昭30・6・22 刑集9巻8号1189頁

訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすことが明らか 刑訴三七九条の場合は、訴訟手続の法令違反が判決に影響を及ぼすべき可能性があるというだけでは、控訴理由とすることはできないのであつて、その法令違反がなかつたならば現になされている判決とは異る判決がなされたであろうという蓋然性がある場合でなければ、同条の法令違反が判決に影響を及ぼすことが明らかであるということはできないのである。そして以上の判定については、絶対的控訴理由(三七七条三七八条)に当る場合は常に相当因果関係があるものと訴訟法上みなされているものと解すべきであるが、三七九条の場合には、裁判所が当該事件について具体的に諸般の情況を検討して判断すべき問題であつて

可能性があるだけでは足りません。その違反がなければ、違う判決になったであろう、という蓋然性が必要です。条文が、影響を及ぼす、ではなく、影響を及ぼすことが明らか、と書いているからです。明らか、と言える以上、影響がありうる、では足りず、違反がなければ結論が変わっていた、と言えるところまで要る、という読み方です。そして、絶対的控訴理由に当たるときは、この影響は、常にあるものとみなされています。だから、影響を問わないのです。条文の並びを見てください。第379条、第380条、第382条には、判決に影響を及ぼすことが明らか、と書いてあります。ところが、第381条の量刑不当には、この文言がありません。量刑不当にも影響の要件がある、と覚えるのは、条文と違います。Zで考えます。判決に理由がまったく付いていなければ、第378条第4号で、影響を問わず破棄です。一方、証拠能力のない書面を証拠に採用したけれど、ほかの証拠だけでも、同じ判決になるなら、第379条で、影響が明らかとはいえず、控訴理由になりません。Zの2つ目の問いの答えです。法定の理由に直す。訴訟手続の法令違反なら、重大なものは影響を問わず、それ以外は影響が明らかなときだけです。

事実誤認の審査・論理則と経験則

事実誤認の審査(382条)。控訴審は第一審と同じ立場で事件そのものを審理し直さない=第一審判決を対象に事後的に審査する。事実誤認=第一審判決の事実認定が論理則・経験則等に照らして不合理であること。控訴審の心証と違うだけでは足りない→不合理であることを具体的に示す必要。裁判員制度の導入を契機に直接主義・口頭主義が徹底された第一審では、より強く妥当(最判平24・2・13)。審査のしかたは裁判員裁判に限らない 図:事実誤認の審査

  • 382条
  • 控訴審は第一審と同じ立場で事件そのものを審理し直さない=第一審判決を対象に事後的に審査する。事実誤認=第一審判決の事実認定が論理則・経験則等に照らして不合理であること。控訴審の心証と違うだけでは足りない→不合理であることを具体的に示す必要。裁判員制度の導入を契機に直接主義・口頭主義が徹底された第一審では、より強く妥当(最判平24・2・13)。審査のしかたは裁判員裁判に限らない

事後審の考え方が、最もはっきり出るのが、事実誤認の審査です。第382条の事実誤認も、判決に影響を及ぼすことが明らかな場合に限られていました。事案を簡単に言います。薬物の輸入事件で、被告人は、持ち込んだ缶の中に違法な薬物が入っているとは知らなかった、と争いました。裁判員が加わった第一審は、弁解を排斥できないとして、無罪にしました。控訴審は、事実誤認があるとして、破棄して有罪にしました。最高裁は、その控訴審の判決を破棄して、控訴を棄却しました。第一審の無罪が維持されたのです。

判例最判平24・2・13 刑集66巻4号482頁

控訴審における事実誤認の審査 刑訴法は控訴審の性格を原則として事後審としており,控訴審は,第1審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく,当事者の訴訟活動を基礎として形成された第1審判決を対象とし,これに事後的な審査を加えるべきものである。 …… 控訴審における事実誤認の審査は,第1審判決が行った証拠の信用性評価や証拠の総合判断が論理則,経験則等に照らして不合理といえるかという観点から行うべきものであって,刑訴法382条の事実誤認とは,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることをいうものと解するのが相当である。したがって,控訴審が第1審判決に事実誤認があるというためには,第1審判決の事実認定が論理則,経験則等に照らして不合理であることを具体的に示すことが必要であるというべきである。このことは,裁判員制度の導入を契機として,第1審において直接主義・口頭主義が徹底された状況においては,より強く妥当する。

最初の一文が、事後審そのものです。控訴審は、第一審と同じ立場で事件そのものを審理するのではなく、第一審判決を対象に、事後的な審査を加えます。そして、事実誤認の審査は、第一審の判断が、論理則、経験則等に照らして不合理といえるか、という観点で行います。控訴審の裁判官が、自分なら有罪だと思った、では足りないんですか。足りません。控訴審の心証と違う、というだけでは破棄できません。第一審の推論の、どこが筋道に反するのか、どこが経験に反するのかを、具体的に示す必要があります。論理則と経験則は、自由心証の回で見た、合理的な判断のルールです。論理則は、筋道の通った推論のルールで、たとえば、互いに矛盾する2つの事実を、両方とも認めてはいけない、という決まりです。経験則は、世の中の経験から導かれる、通常こうなる、という法則です。あの回で、理由づけが不合理なら上訴審で是正される、と言ったのが、この審査です。Zの場合も同じです。殴っていない、と主張するなら、第一審の推論のどこが、論理則や経験則に反するかを、具体的に示さなければなりません。ここは、論文で論点になりうる箇所です。裁判員裁判の回で見たとおり、裁判員裁判では、法廷で直接取り調べる証拠が中心になりました。判例が、裁判員制度の導入をきっかけに、直接主義と口頭主義が徹底された状況では、より強く妥当する、と言うのはそのためです。ただ、この審査のしかた自体は、裁判員裁判に限らず、控訴審の事実誤認の審査すべてに当てはまります。

控訴審の手続・申立書から趣意書まで

控訴の手続の流れ。第一審判決→控訴申立書を第一審の裁判所に差し出す(374条「控訴をするには、申立書を第一審裁判所に差し出さなければならない。」/期間14日=373条)→第一審の裁判所が訴訟記録・証拠物を控訴裁判所に送付(規則235条)→控訴裁判所が趣意書の最終日を指定して通知(規則236条)。最終日は送達の翌日から起算して21日目以後(規則236条3項)→控訴趣意書を控訴裁判所に差し出す(376条1項「控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければならない。」)。期間内に趣意書を出さないとき→決定で控訴棄却(386条1項1号)。控訴審には予断排除の制約がない 図:控訴の手続の流れ

  • 第一審判決→控訴申立書を第一審の裁判所に差し出す(374条「控訴をするには、申立書を第一審裁判所に差し出さなければならない。」/期間14日=373条)→第一審の裁判所が訴訟記録・証拠物を控訴裁判所に送付(規則235条)→控訴裁判所が趣意書の最終日を指定して通知(規則236条)
  • 最終日は送達の翌日から起算して21日目以後(規則236条3項)→控訴趣意書を控訴裁判所に差し出す(376条1項「控訴申立人は、裁判所の規則で定める期間内に控訴趣意書を控訴裁判所に差し出さなければならない。」)
  • 期間内に趣意書を出さないとき→決定で控訴棄却(386条1項1号)
  • 控訴審には予断排除の制約がない

手続に入る前に、前回までに見たことを1問です。控訴申立書は、どの裁判所に差し出しますか?第一審の裁判所です。申立書は上訴裁判所に宛てて書きますが、出す先は原裁判所でした。第374条です。申立てをすると、確定と執行が止まり、事件が上級の裁判所へ移ります。確定遮断と、移審でした。期間は14日です。ここから先が、控訴に特有の流れです。控訴の手続は、2段階になっています。まず、控訴申立書です。ここには、控訴する、という意思を示します。理由は、あとの趣意書で述べます。次に、第一審の裁判所が、訴訟記録と証拠物を、控訴裁判所に送ります。控訴裁判所は、趣意書を出すべき最終日を指定して、控訴した人に通知します。規則で、最終日は、通知書の送達があった日の翌日から数えて、21日目以後の日と決まっています。実務上は、1か月程度が多いです。そして、控訴した人が、控訴趣意書を、控訴裁判所に差し出します。第376条第1項です。趣意書には、控訴の理由を簡潔に示し、必要な資料や保証書も添えます。Zの場合を例にします。控訴申立書には、控訴する、とだけ書きます。そして、1か月後の最終日までに、趣意書に、判決に理由が付いていない、刑が重すぎる、と書いて出します。

期間内に出さないと、決定で控訴が棄却されます。第386条第1項第1号です。方式に違反するときや、控訴の理由に当たらないことが明らかなときも、決定で棄却されます。棄却の全体は、次の回に見ます。もう1つ、第一審との違いがあります。第一審では、前に見たとおり、裁判官が先入観を抱かないよう、起訴状だけを裁判所に出す、起訴状一本主義でした。控訴審には、その制約がありません。訴訟記録と証拠物が送られるので、控訴裁判所は、趣意書と第一審の判決とあわせて、事前に精査できます。

控訴審の手続・調査と出頭と弁論

調査義務と職権調査(392条)。1項=趣意書に包含された事項は調査しなければならない。2項=包含されない事項でも、377条〜383条に規定する事由に関しては職権で調査できる。事実の取調べ(393条1項)=必要があるとき、請求または職権で。準用(404条)=第二編中公判に関する規定は控訴の審判に準用。出頭(390条)=被告人は公判期日に出頭することを要しない(原則)。ただし、裁判所は、一定額以下の罰金・科料に当たる事件以外で、出頭が権利の保護のため重要と認めるときは出頭を命ずることができる(出頭する権利があるので公判期日には召喚する・273条2項)。弁論(387〜389条)=弁護士以外の弁護人は選任できない/被告人のためにする弁論は弁護人でなければできない/検察官・弁護人は趣意書に基づいて弁論する 図:調査義務と職権調査

  • 392条
  • 1項=趣意書に包含された事項は調査しなければならない。2項=包含されない事項でも、377条〜383条に規定する事由に関しては職権で調査できる。事実の取調べ(393条1項)=必要があるとき、請求または職権で。準用(404条)=第二編中公判に関する規定は控訴の審判に準用。出頭(390条)=被告人は公判期日に出頭することを要しない(原則)。ただし、裁判所は、一定額以下の罰金・科料に当たる事件以外で、出頭が権利の保護のため重要と認めるときは出頭を命ずることができる(出頭する権利があるので公判期日には召喚する・273条2項)。弁論(387〜389条)=弁護士以外の弁護人は選任できない
  • 被告人のためにする弁論は弁護人でなければできない
  • 検察官・弁護人は趣意書に基づいて弁論する

控訴裁判所が、何を調べるかは、第392条が定めています。事後審の2つ目の現れ、趣意書が中心、を定めた条文です。

条文刑事訴訟法第392条

刑事訴訟法第392条 控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。 2 控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる。

第1項は、義務です。趣意書に書かれた事項は、調査しなければなりません。第2項は、できる、です。趣意書に書かれていなくても、控訴理由に関する事項なら、職権で調べられます。Zの趣意書が量刑不当だけでも、記録を見て、判決に理由が付いていないと気づけば、第378条第4号の事由として調べて、破棄できます。第397条第1項です。調査のために必要があるときは、請求または職権で、事実の取調べもできます。第393条第1項です。この取調べが、どこまで許されるかは、後の節で詳しく見ます。控訴審の公判には、特別の定めがない限り、第一審の公判の規定が、控訴審にも当てはめて使われます。これを準用といいます。第404条です。そのうえで、控訴審には、事後審であることから来る、3つの特則があります。1つ目。被告人は、原則として、公判期日に出頭する必要がありません。第390条です。ただし、一定額以下の罰金や科料にあたる事件を除き、裁判所は、出頭が被告人の権利を守るために重要だと認めるときは、出頭を命じることができます。また、被告人には出頭する権利があるので、公判期日には被告人を召喚します。2つ目。弁論は、弁護士である弁護人でなければできません。第387条、第388条です。被告人が自分で弁論することは認められません。3つ目。公判期日には、検察官と弁護人が、趣意書に基づいて弁論します。第389条です。

被告人が出頭しなくてよく、自分で弁論もできないのは、事後審だからです。事実を目の前で聞き直す場ではなく、判決の誤りを法的に審査する場なので、被告人を出頭させる意味は少ないですし、法的な知識のある専門家に弁論させるのが適当だからです。

第一審後の事情をどこまで取り込めるか

第一審後の事情=時点と道具で3層に分ける。原則=第一審の記録・証拠を基礎に、第一審判決の言渡しの時点を基準に審査。上の層=382条の2:第一審の弁論終結前に存在した証拠でやむを得ない事由で請求できなかったもの(第1項)/弁論終結後・判決前に生じた事実(第2項)→趣意書に援用できる(疎明資料を添える)→疎明があれば、刑の量定の不当・判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するため欠くことができない場合に限り取調べは義務(393条1項但書)。真ん中の層=393条1項本文:第一審判決以前の事実でやむを得ない事由がないもの→義務ではなく裁量(最決昭59・9・20)。下の層=393条2項:第一審判決後に生じた刑の量定に影響を及ぼすべき情状→職権(取調べは控訴裁判所の判断)。第一審で量刑上有利と考えて認めていた、という事情はやむを得ない事由に当たらない(最決昭62・10・30)

  • 第一審後の事情=時点と道具で3層に分ける
  • 原則=第一審の記録・証拠を基礎に、第一審判決の言渡しの時点を基準に審査
  • 上の層=382条の2:第一審の弁論終結前に存在した証拠でやむを得ない事由で請求できなかったもの(第1項)/弁論終結後・判決前に生じた事実(第2項)→趣意書に援用できる(疎明資料を添える)→疎明があれば、刑の量定の不当・判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するため欠くことができない場合に限り取調べは義務(393条1項但書)
  • 真ん中の層=393条1項本文:第一審判決以前の事実でやむを得ない事由がないもの→義務ではなく裁量(最決昭59・9・20)
  • 下の層=393条2項:第一審判決後に生じた刑の量定に影響を及ぼすべき情状→職権(取調べは控訴裁判所の判断)
  • 第一審で量刑上有利と考えて認めていた、という事情はやむを得ない事由に当たらない(最決昭62・10・30)

ここで、立ち止まって考えてください。事後審は、第一審の記録を基礎に、第一審判決の時点を基準に審査する場です。それなら、第一審の判決のあとにできた示談を、控訴審は、どう扱うことになるでしょうか?基準の時点が違うから扱えない、という筋と、それでは被告人に酷だ、という筋。その両方が、条文に反映されています。原則は、趣意書に援用できる、つまり、控訴の理由の裏づけとして引いて示せるのは、訴訟記録と、原裁判所で取り調べた証拠に現れている事実です。控訴理由のところで、記録や証拠に現れているものから示す、と言ったのが、この原則です。その例外と補完を、時点と道具で、3つの層に分けて整理します。上の層は、第382条の2です。第一審の弁論終結前に存在した証拠で、やむを得ない事由によって取調べを請求できなかったもの、それに、弁論終結後、判決前に生じた事実です。弁論終結とは、第一審の審理を終えて、最終陳述をした時点です。

条文刑事訴訟法第382条の2第1項・第2項

刑事訴訟法第382条の2第1項・第2項 やむを得ない事由によつて第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかつた証拠によつて証明することのできる事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものは、訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠に現われている事実以外の事実であつても、控訴趣意書にこれを援用することができる。 2 第一審の弁論終結後判決前に生じた事実であつて前二条に規定する控訴申立の理由があることを信ずるに足りるものについても、前項と同様である。

第1項が、弁論終結前の証拠で、やむを得ない事由があるもの。第2項が、弁論終結のあと、判決の前に生じた事実です。どちらも、趣意書に援用できます。その場合は、第3項で、疎明の資料を添えます。疎明とは、令状の回で見たとおり、確信までは要らず、一応確からしい、と思わせる程度の立証です。そして、疎明があれば、刑の量定の不当や、判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために、欠くことのできない場合に限って、控訴裁判所は取調べを義務づけられます。これが第393条第1項の但書です。

条文刑事訴訟法第393条第1項・第2項

刑事訴訟法第393条第1項・第2項 控訴裁判所は、前条の調査をするについて必要があるときは、検察官、被告人若しくは弁護人の請求により又は職権で事実の取調をすることができる。但し、第三百八十二条の二の疎明があつたものについては、刑の量定の不当又は判決に影響を及ぼすべき事実の誤認を証明するために欠くことのできない場合に限り、これを取り調べなければならない。 2 控訴裁判所は、必要があると認めるときは、職権で、第一審判決後の刑の量定に影響を及ぼすべき情状につき取調をすることができる。

本文は、できる、但書は、しなければならない、です。本文と但書で、裁量と義務が分かれています。第382条の2で、新しい証拠や事実を趣意書に引いてよい、とした以上、疎明がそろい、量刑や事実誤認の証明に欠かせないなら、控訴裁判所も調べなければならない、という組み合わせです。

区別:取調べが義務になる場合と裁量の場合。義務=382条の2の疎明があり、刑の量定の不当・判決に影響を及ぼすべき事実の誤認の証明に欠くことができない(393条1項但書)。裁量=やむを得ない事由の疎明がなくても、第一審判決以前の事実で、控訴裁判所が必要と認めるとき(393条1項本文・最決昭59・9・20)。第一審で認めて争わなかったのは量刑上の得策だった、という訴訟戦術はやむを得ない事由に当たらない→義務ではなく裁量(最決昭62・10・30)。判決後の情状は393条2項(職権) 図:区別:取調べが義務になる場合と裁量の場合

  • 義務=382条の2の疎明があり、刑の量定の不当・判決に影響を及ぼすべき事実の誤認の証明に欠くことができない(393条1項但書)
  • 裁量=やむを得ない事由の疎明がなくても、第一審判決以前の事実で、控訴裁判所が必要と認めるとき(393条1項本文・最決昭59・9・20)
  • 第一審で認めて争わなかったのは量刑上の得策だった、という訴訟戦術はやむを得ない事由に当たらない→義務ではなく裁量(最決昭62・10・30)
  • 判決後の情状は393条2項(職権)

では、やむを得ない事由とは、どこまで含むのでしょうか。第一審のときには、その証拠があることを知りようがなかった、という場合は、当たりうると考えられています。問題は、出せたのに、自分の判断で出さなかった場合です。事案は、第一審の判決が実刑だったので控訴し、第一審では認めていた事実を、控訴審で争うに至ったものです。

判例最決昭62・10・30 刑集41巻7号309頁

やむを得ない事由に当たらない事情 被告人が第一審判決判示第一の事実を認めて争わなかつたのは、量刑上有利に参酌してもらつた方が得策であると考えていたものである …… 右弁護人主張のような事情があつたとしても、そのような事情は刑訴法三八二条の二にいう「やむを得ない事由」に当たらないとの原判決の判示は正当であるから、このような証拠は同法三九三条一項但書によりその取調が義務付けられるものではなく、ただ同項本文により取り調べるかどうかが裁量にまかせられているものであつて

第一審で認めて争わなかったのは、そのほうが量刑上有利だと考えたからだ、という事情は、やむを得ない事由に当たりません。第一審で取調べを控えたのは、当事者の戦術の判断だからです。そして、その証拠は、但書で取調べが義務づけられるものではなく、本文により、取り調べるかどうかが裁量にまかされている、と言っています。Zの追加の問いに答えます。第一審では、量刑上そのほうが有利だと考えて、殴ったことを認めていたZが、控訴審で、実は殴っていない、と言い出し、新しい証人を呼びたいと言ったらどうなるか。この事情は、さきほどの判例の事案と同じで、やむを得ない事由にはあたりません。取調べは義務ではなく、裁量です。認められるかは、控訴裁判所の判断です。真ん中の層は、その裁量です。事案は、検察官が量刑不当を理由に控訴し、第一審で請求していなかった前科の調書などを、控訴審で請求して、取り調べられたものです。

判例最決昭59・9・20 刑集38巻9号2810頁

控訴審における裁量による事実の取調べ 右「やむを得ない事由」の疎明の有無は、控訴裁判所が同法三九三条一項但書により新たな証拠の取調を義務づけられるか否かにかかわる問題であり、同項本文は、第一審判決以前に存在した事実に関する限り、第一審で取調ないし取調請求されていない新たな証拠につき、右「やむを得ない事由」の疎明がないなど同項但書の要件を欠く場合であつても、控訴裁判所が第一審判決の当否を判断するにつき必要と認めるときは裁量によつてその取調をすることができる旨定めていると解すべきである

やむを得ない事由の疎明がなくても、第一審判決以前に存在した事実に関する限り、控訴裁判所が、第一審判決の当否を判断するのに必要と認めるときは、裁量で取り調べられます。但書は、取調べが義務になる場合を絞っているだけで、本文の、できる、という権限までは消していないからです。義務ではないけれど、道は閉ざされていない、ということです。ここは、論文で論点になりうる箇所です。上の層は、条件がそろえば義務、真ん中の層は、裁量です。ここまでは、すべて第一審の判決より前の話でした。残る1つ、下の層が、判決のあとの事情です。なお、判決のあとに生じた事実は、第382条の2の文言には入っていません。第382条の2は、弁論終結前の証拠と、弁論終結後判決前の事実だけです。判決のあとの事情には、別の道が用意されています。次に見ます。

判決後の情状・職権の取調べと破棄

判決後の情状。第一審判決後に生じた刑の量定に影響を及ぼすべき情状(示談・被害弁償・身柄の状況の変化など)→393条2項=必要があると認めるとき、職権で取調べ→397条2項「第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。」=2項破棄。控訴理由の主張がなくても破棄できる。破棄したあとの処理(差戻し・自判)は次の回 図:判決後の情状

  • 第一審判決後に生じた刑の量定に影響を及ぼすべき情状(示談・被害弁償・身柄の状況の変化など)→393条2項=必要があると認めるとき、職権で取調べ→397条2項「第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。」=2項破棄
  • 控訴理由の主張がなくても破棄できる
  • 破棄したあとの処理(差戻し・自判)は次の回

第一審の判決のあとに生じた、刑の量定に影響を及ぼすべき情状です。たとえば、判決のあとに成立した示談、被害の弁償、身柄の状況の変化などです。これを取り込む道が、さきほどのカードの第2項、第393条第2項です。必要があると認めるとき、控訴裁判所は、職権で取調べができます。Zの3つ目の問いの答えです。判決のあとに成立した示談は、第393条第2項で、控訴審が職権で取り調べられます。ただし、取り調べるかどうかは、控訴裁判所の判断で、被告人に請求権があるわけではありません。条文がつながっています。第393条第2項による取調べの結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反する、と認めるときは、判決で原判決を破棄できます。第397条第2項です。第1項の破棄が、控訴理由があるときに破棄しなければならない、という規定だったのに対し、第2項は、控訴理由の主張がなくても、判決後の事情を理由に、原判決を破棄できる道です。破棄したあとどう処理するかは、次の回に見ます。整理します。判決のあとの示談は、第一審の判決が誤っていたことを示すものではありません。誤りがあったから破棄する、のではなく、判決後の事情を見て、このままでは明らかに正義に反する、というとき、破棄できる。事後審だけれど、判決後の事情をくみ取る道を、別に置いている、というわけです。

節目のミニ事例

節目のミニ事例。設定を入れ替えて結論を確かめる。問1=第一審の弁論終結のあと判決の前にZが被害者と示談。量刑不当を主張する趣意書に援用できるか→382条の2第2項→できる(疎明資料を添える)。問2=同じ示談が判決の言渡しのあとに成立→382条の2は使えない→393条2項=控訴裁判所が職権で取り調べることができる。問3=第一審判決に理由がまったく付いていない→378条4号→影響を問わず控訴理由になり破棄。問4=証拠能力のない書面を採用したが、ほかの証拠だけでも同じ判決→379条→影響が明らかでなく控訴理由にならない。分かれ目=示談がいつか/違反が重大か 図:節目のミニ事例

  • 設定を入れ替えて結論を確かめる
  • 問1=第一審の弁論終結のあと判決の前にZが被害者と示談
  • 量刑不当を主張する趣意書に援用できるか→382条の2第2項→できる(疎明資料を添える)
  • 問2=同じ示談が判決の言渡しのあとに成立→382条の2は使えない→393条2項=控訴裁判所が職権で取り調べることができる
  • 問3=第一審判決に理由がまったく付いていない→378条4号→影響を問わず控訴理由になり破棄
  • 問4=証拠能力のない書面を採用したが、ほかの証拠だけでも同じ判決→379条→影響が明らかでなく控訴理由にならない
  • 分かれ目=示談がいつか/違反が重大か

節目のミニ事例です。Zの設定を入れ替えて、結論がどう変わるかを確かめます。1つ目。第一審の弁論が終わったあと、判決の言渡しの前に、Zは被害者と示談しました。控訴審で量刑不当を主張するとき、この示談を、趣意書に援用できるでしょうか。弁論終結後、判決前に生じた事実なので、第382条の2第2項で、援用できます。疎明の資料を添えます。2つ目。同じ示談が、判決の言渡しのあとに成立していたら、どうでしょう。判決の前なら第382条の2、判決のあとなら第393条第2項の職権。1つ目と2つ目は、示談がいつ成立したか、で道具が逆になりました。3つ目。第一審の判決に、理由がまったく付いていませんでした。控訴理由になるでしょうか。

第378条第4号で、絶対的控訴理由なので、判決への影響を問わず、控訴理由になって、破棄されます。4つ目。第一審が、証拠能力のない書面を証拠に採用していました。けれど、ほかの証拠だけでも、同じ判決になります。理由がまったく無いのは、影響を問わない違反。証拠の採用の誤りは、影響が明らかでなければ控訴理由にならない違反。3つ目と4つ目は、違反が重大か、で結論が逆になりました。示談の分かれ目は、いつ成立したか。訴訟手続の違反の分かれ目は、影響を問う違反かどうか、です。

今日の地図(保存版)

まとめ。Zの答え=①控訴審は第一審のやり直しではない。第一審判決の当否を審査する事後審。②控訴は法定の控訴理由(訴訟手続の法令違反・法令適用の誤り・量刑不当・事実誤認)に限る。訴訟手続の法令違反は、重大なら影響を問わず(絶対的)、それ以外は影響が明らかなときだけ(相対的)。量刑不当は影響の文言なし。事実誤認は、論理則・経験則に照らして不合理だと具体的に示す。③第一審のあとの事情は時点と道具で分ける。弁論終結前の証拠・弁論終結後判決前の事実=382条の2/判決以前の事実の裁量取調べ=393条1項本文/判決後の情状=393条2項→397条2項。流れ=申立書→記録送付→趣意書→調査・取調べ→棄却/破棄 図:まとめ

  • Zの答え=①控訴審は第一審のやり直しではない
  • 第一審判決の当否を審査する事後審
  • ②控訴は法定の控訴理由(訴訟手続の法令違反・法令適用の誤り・量刑不当・事実誤認)に限る
  • 訴訟手続の法令違反は、重大なら影響を問わず(絶対的)、それ以外は影響が明らかなときだけ(相対的)
  • 量刑不当は影響の文言なし
  • 事実誤認は、論理則・経験則に照らして不合理だと具体的に示す
  • ③第一審のあとの事情は時点と道具で分ける
  • 弁論終結前の証拠・弁論終結後判決前の事実=382条の2/判決以前の事実の裁量取調べ=393条1項本文/判決後の情状=393条2項→397条2項
  • 流れ=申立書→記録送付→趣意書→調査・取調べ→棄却/破棄

Zの3つの問いに答えます。まず1つ目。控訴審は、第一審のやり直しではありません。第一審の判決の当否を審査する、事後審です。2つ目。控訴は、法定の控訴理由に限られます。訴訟手続の法令違反、法令適用の誤り、量刑不当、事実誤認の4つです。訴訟手続の法令違反のうち、重大な違反は、影響を問わない絶対的控訴理由で、それ以外は、判決に影響を及ぼすことが明らかなときだけです。量刑不当には、この影響の文言がありません。事実誤認は、控訴審の心証と違うだけでは足りず、第一審の推論が論理則や経験則に照らして不合理だと、具体的に示す必要があります。3つ目。第一審のあとの事情は、時点と道具で分けます。弁論終結前の証拠と、弁論終結後判決前の事実は、第382条の2。第一審判決以前の事実は、やむを得ない事由がなくても、第393条第1項本文の裁量。判決のあとの示談などは、第393条第2項の職権の取調べで、結果によっては第397条第2項で破棄できます。第一審では量刑上有利だと考えて認めていた事実を、控訴審で争う新証拠は、やむを得ない事由には当たらず、取調べは義務ではなく裁量です。流れは、控訴申立書、記録の送付、趣意書、調査と取調べ、そして棄却か破棄です。ところで、判決の一部に絞って争ったとき、控訴審は、争われていない部分まで調べられるのでしょうか。この問いは、次の回で扱います。

参照条文

  • 刑事訴訟法第384条
  • 刑事訴訟法第377条
  • 刑事訴訟法第378条
  • 刑事訴訟法第379条
  • 刑事訴訟法第392条
  • 刑事訴訟法第382条の2第1項・第2項
  • 刑事訴訟法第393条第1項・第2項

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