刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#159

上訴の総論と不利益変更禁止の原則

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第8章 上訴と救済手続 ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

今日の問い。新しい事件の被告人Yは、店の売上金を盗んだ窃盗と、別の日に店の看板を壊した器物損壊で起訴された。第一審=窃盗は有罪(拘禁刑1年・実刑)、器物損壊は無罪。Yは窃盗の有罪に不服。①検察官は何も不服を言わず、Yだけが控訴したとき、控訴審は刑を重くしてよいか。②器物損壊の無罪に、無罪でも名誉が傷ついたとしてYは控訴できるか。③窃盗の有罪の部分だけをYは控訴できるか 図:今日の問い

  • 新しい事件の被告人Yは、店の売上金を盗んだ窃盗と、別の日に店の看板を壊した器物損壊で起訴された
  • 第一審=窃盗は有罪(拘禁刑1年・実刑)、器物損壊は無罪
  • Yは窃盗の有罪に不服
  • ①検察官は何も不服を言わず、Yだけが控訴したとき、控訴審は刑を重くしてよいか
  • ②器物損壊の無罪に、無罪でも名誉が傷ついたとしてYは控訴できるか
  • ③窃盗の有罪の部分だけをYは控訴できるか

前回の最後に、次は確定する前の話をします、とお伝えしました。裁判が確定したあとの効力は、前回までで終わりです。今日からは、裁判の結果に不服があるとき、確定する前に上級の裁判所へ是正を求める手続、つまり上訴を見ます。今日の被告人Yは、前の章とは別の事件の人です。Yは、店の売上金を盗んだ窃盗と、別の日に店の看板を壊した器物損壊で起訴されました。第一審は、窃盗を有罪として拘禁刑1年の実刑、器物損壊は無罪としました。Yは、窃盗の有罪に不服です。問いは3つあります。1つ目。検察官は何も不服を言わず、Yだけが控訴したとき、控訴審は刑をもっと重くしてよいか。2つ目。器物損壊の無罪について、無罪でも名誉が傷ついたとして、Yは控訴できるか。3つ目。窃盗の有罪の部分だけを、Yは控訴できるか。

先に、答えの形だけ言います。上訴には、誰が、何を求めて、どこまで争えるか、という決まりがあります。3つの問いは、その決まりのどれかに当たります。鍵になる物差しは、主文です。前に有罪判決の回で見た、判決の結論として言い渡す部分、たとえば、被告人を拘禁刑1年に処する、という一文のことです。今日は、共通の決まりを順に押さえて、最後にYの3つの問いへ答えます。

裁判の結果に不服があるときの地図。確定する前=上訴(控訴・上告・抗告)/確定した後=再審・非常上告。今日=確定する前の不服申立て全部に共通する決まりごと 図:裁判の結果に不服があるときの地図

  • 確定する前=上訴(控訴・上告・抗告)/確定した後=再審・非常上告
  • 今日=確定する前の不服申立て全部に共通する決まりごと

地図です。裁判の結果に不服があるときの道は、大きく2つに分かれます。確定する前に使うのが上訴で、控訴、上告、抗告があります。確定したあとに使う特別な救済が、再審と非常上告です。再審などの中身は、この章の後ろで見ます。今日見るのは、確定する前の不服申立て全部に共通する決まりごとです。誰が上訴できるか、被告人は何を求めてなら上訴できるか、いつまでにどう出すか、判決の一部だけを争えるか、そして刑を重くされないか。この順に進みます。

上訴とは何か・上訴の種類

上訴=まだ確定していない裁判について、上級の裁判所に不服を申し立てること。目的=事実認定の誤りの是正/法令の解釈適用の統一/被告人の人権の具体的な救済。種類(原裁判→上訴→上訴裁判所):第一審(地方裁判所・簡易裁判所)の判決→控訴(372条)→高等裁判所/控訴審(高等裁判所)の判決→上告(405条)→最高裁判所/地方裁判所・簡易裁判所の決定→抗告(通常抗告・即時抗告。419条)→高等裁判所/裁判官の命令→準抗告(429条)→管轄の地方裁判所など/不服申立てが認められていない決定・命令→特別抗告(433条)→最高裁判所

  • 上訴=まだ確定していない裁判について、上級の裁判所に不服を申し立てること
  • 目的=事実認定の誤りの是正/法令の解釈適用の統一/被告人の人権の具体的な救済
  • 種類(原裁判→上訴→上訴裁判所):第一審(地方裁判所・簡易裁判所)の判決→控訴(372条)→高等裁判所/控訴審(高等裁判所)の判決→上告(405条)→最高裁判所/地方裁判所・簡易裁判所の決定→抗告(通常抗告・即時抗告。419条)→高等裁判所/裁判官の命令→準抗告(429条)→管轄の地方裁判所など/不服申立てが認められていない決定・命令→特別抗告(433条)→最高裁判所

上訴とは、まだ確定していない裁判に対して、上級の裁判所へ不服を申し立てることです。確定した裁判には使えません。裁判も人の営みですから、誤りをなくすことはできません。そこで、確定する前に、上の裁判所に見直してもらう機会を用意しています。目的は3つです。1つ目は、事実認定の誤りを正すこと。たとえば、犯人を取り違えた判決を直します。2つ目は、法令の解釈と適用を統一すること。同じ条文を裁判所ごとにばらばらに読んでは、同じ行為なのに結論が割れます。3つ目は、刑罰を受ける被告人の人権を、具体的に救うことです。ただし、いつまでも争えるのでは、判断の安定が保てません。だから上訴は確定する前だけの道で、期間も限られています。種類を見ます。上訴の名前は、不服の対象になる裁判の形式で決まります。判決には、控訴と上告。決定には、抗告。命令には、準抗告です。

判決は、事件そのものについて結論を出す裁判です。決定は、裁判所が手続上の判断などをする裁判で、たとえば保釈を許すかどうかです。命令は、裁判体としてではなく、個々の裁判官がする裁判で、たとえば令状を出すことです。前に裁判の意義の回で見た比較表のとおりです。流れで言うと、地方裁判所や簡易裁判所の第一審の判決に不服なら、高等裁判所への控訴です。その控訴審の判決に不服なら、最高裁判所への上告です。決定に不服なら抗告で、行き先は高等裁判所です。裁判官の命令には、準抗告があります。さらに、不服申立てが認められていない決定や命令には、憲法違反や判例違反など、上告と同じ事由がある場合に限って、最高裁判所への特別抗告ができます。

通常抗告と即時抗告があります。通常抗告は、明文の規定がなくても、原則としてできます。即時抗告は、明文の規定がある場合だけで、そのかわり期間が短く決まっています。それぞれの中身は後の回で扱いますので、今日は名前と行き先だけ押さえてください。

上訴権者・誰が上訴できるか

上訴権者。判決=検察官・被告人(351条1項)。決定=検察官・被告人に加えて決定を受けた者(352条)。被告人のためにできる者=法定代理人・保佐人(353条)/勾留の理由の開示を請求した者(354条)/原審における代理人・弁護人(355条)。いずれも被告人の明示した意思に反してはできない(356条)。審級代理との関係=第一審の弁護人は新たな選任なしに控訴できる(第一審の選任の効力は判決宣告で終わらない・最決平4・12・14)。検察官は被告人の利益のためにも上訴できる 図:上訴権者

  • 判決=検察官・被告人(351条1項)
  • 決定=検察官・被告人に加えて決定を受けた者(352条)
  • 被告人のためにできる者=法定代理人・保佐人(353条)/勾留の理由の開示を請求した者(354条)/原審における代理人・弁護人(355条)
  • いずれも被告人の明示した意思に反してはできない(356条)
  • 審級代理との関係=第一審の弁護人は新たな選任なしに控訴できる(第一審の選任の効力は判決宣告で終わらない・最決平4・12・14)
  • 検察官は被告人の利益のためにも上訴できる

誰が上訴できるか。上訴は、裁判への不服申立てですから、権利を持つのは、まず裁判を受けた人です。判決については、検察官と被告人です。

条文刑事訴訟法第351条第1項

刑事訴訟法第351条第1項 検察官又は被告人は、上訴をすることができる。

決定については、検察官と被告人に加えて、決定を受けた人も抗告できます。352条です。たとえば、証人が、正当な理由なく出頭しないとして、過料というお金の制裁の決定を受けたとき、その証人です。できる人が、条文で決まっています。被告人の法定代理人と保佐人が、353条です。勾留について理由の開示があったときは、その請求をした人も、被告人のために上訴できる、と354条に規定があります。そして、原審における代理人と弁護人が、355条です。

条文刑事訴訟法第355条

刑事訴訟法第355条 原審における代理人又は弁護人は、被告人のため上訴をすることができる。

ただし、これらは、被告人の明示した意思に反してはできません。

条文刑事訴訟法第356条

刑事訴訟法第356条 前三条の上訴は、被告人の明示した意思に反してこれをすることができない。

上訴するかどうかは、本来、被告人自身が決めることだからです。本人が上訴しないと明示しているのに、周りの人が控訴してしまうことは許されません。審級代理の原則は、公訴提起後の弁護人の選任を、審級ごとにする、というものでした。ただ、第一審の弁護人は、新たに控訴審のために選任されなくても、控訴の申立てができます。355条の、原審における弁護人だからです。理由は、第一審の弁護人選任の効力が、判決の宣告で終わらないからです。最高裁も、そう判断しています。考えてみてください。選任が判決の宣告で終わるなら、判決の直後、控訴の期間が走り始めたところで、被告人は弁護人なしに判断することになります。それでは、被告人の保護に欠けます。ただし、控訴の申立てをしたあとの控訴審の手続については、弁護人を新しく選び直す必要がある、とされています。また、判決のあとで新しく選ばれた弁護人も、被告人を代理して、控訴の申立てができるとされています。検察官は別です。検察官は公益の代表者で、被告人の正当な利益を守ることも任務なので、被告人の利益のためにも上訴できます。このとき、上訴の利益は問題になりません。次の節で見ます。なお、被告人が死刑判決を受けて、上訴は望まないと明示しているとき、弁護人が上訴できるかは、見解が分かれる問題です。死刑の取り返しのつかなさをどう考えるかに関わるので、放棄の制限のところで、またつながります。

上訴の利益・被告人は何を求めてなら上訴できるか

上訴の利益(規範)=被告人は自己に不利益な裁判を求めて上訴できない。不利益か否かは主文を標準に客観的に判断する。許されない上訴の例=無罪に有罪を求める/軽い罪の認定に重い罪の認定を求める/免訴など形式裁判に無罪を求める→不適法な上訴として決定で棄却(385条1項・414条)。適法な例=有罪(拘禁刑1年)に無罪や軽い刑を求める。検察官は公益の代表者→上訴の利益は問題にならない。Yの2つ目の問い=器物損壊の無罪に控訴→利益なし

2つ目の問い、無罪の部分にYは控訴できるか、の結論から言います。できません。被告人は、自分に不利益な内容を求めて上訴することはできないからです。

⭐ 論文で書く規範:上訴の利益 被告人は自己に不利益な裁判を求めて上訴できない | 不利益か否かは主文を標準に客観的に判断する (規範(解釈で立てる・不服の利益))

上訴の利益は、条文にそのまま書かれた要件ではありません。解釈で立てる規範です。輪郭を、境界の内と外で見ます。たとえば、Yの窃盗の有罪判決に対して、無罪や、もっと軽い刑を求めて控訴するのは、自分に有利な内容を求めているので、適法です。一方、無罪判決に対して有罪を求める、軽い罪の認定に対して重い罪の認定を求める、といった上訴は、不利益な内容を求めているので許されません。上訴の利益のない上訴は、不適法として、決定で棄却されます。385条1項と、上告への準用の414条です。385条1項の文言は、方式違反と上訴権の消滅後を挙げているだけで、利益の欠如そのものは書いていません。それでも、不適法な上訴として、同じ扱いで棄却されます。

有利か不利かは、被告人の気持ちではなく、主文を標準に、客観的に判断します。気持ちを基準にすると、不服があると言えば誰でも上訴できてしまいます。そして、無罪は、被告人にとって最も有利な主文です。それより有利な主文はありません。だから、Yの2つ目の問いの答えは、控訴できない、です。形式裁判も同じです。免訴や公訴棄却で手続が打ち切られた被告人が、実体を審理して無罪にしてほしいと上訴することも、許されません。前に免訴を見たとおりです。処罰されない結論になっている以上、主文の上で不利益がないからです。検察官は別です。公益の代表者として、被告人の利益のためにも上訴できるので、上訴の利益は問題になりません。ここは、論文で論点になりうる箇所です。

上訴の申立ての方法と効力

上訴の申立て。第一審判決→控訴申立書(宛先=高等裁判所)→提出先=第一審の裁判所(374条)。上告=414条/抗告=423条。効力=確定と執行の停止(確定遮断)/事件が上級審へ移る(移審)。例外=通常抗告は原則として執行を停止しない(424条1項・原裁判所は決定で停止できる)。即時抗告は停止の効力あり 図:上訴の申立て

  • 第一審判決→控訴申立書(宛先=高等裁判所)→提出先=第一審の裁判所(374条)
  • 上告=414条/抗告=423条
  • 効力=確定と執行の停止(確定遮断)/事件が上級審へ移る(移審)
  • 例外=通常抗告は原則として執行を停止しない(424条1項・原裁判所は決定で停止できる)
  • 即時抗告は停止の効力あり

申立ての方法に入る前に、前回までに見たことを1問です。裁判が確定するとは、どういう状態になることでしたか?上訴などの通常の不服申立てでも、もう争えなくなった状態です。ですから、上訴の申立てがあれば、確定しません。ここからは、その確定を止める仕組みを見ます。申立ての方法です。上訴をするには、申立書を原裁判所に差し出します。この申立書は、上訴裁判所に宛てて書きます。控訴なら374条、上告なら414条、抗告なら423条です。たとえば、Yが地方裁判所の判決に控訴するなら、高等裁判所に宛てた控訴申立書を、判決をした地方裁判所に出します。

申立書の宛先は上訴裁判所ですが、実際に差し出す先は原裁判所です。この2つは別で、取り違えやすい点です。申立てをすると、効力が2つ生じます。1つ目は、確定と、裁判の執行が止まることです。確定遮断とも言います。2つ目は、事件が、上級の裁判所へ移ることです。移審といいます。たとえば、Yが控訴すれば、第一審の判決は確定せず、拘禁刑1年の執行も始まらず、事件は高等裁判所へ移ります。例外が1つあります。通常抗告は、原則として、裁判の執行を停止する効力がありません。424条1項です。ただし、原裁判所は、決定で、抗告の裁判があるまで執行を停止できます。即時抗告には、停止の効力があります。決定は手続を進めるためのものが多く、いちいち止めると手続が進まなくなるから、と説明されます。

上訴権の発生・消滅・回復

上訴権の期間。発生=裁判の告知から提起期間が進行(358条)。期間=控訴・上告14日(373条・414条)/即時抗告3日(422条)/特別抗告5日(433条2項)/通常抗告は実益がある限りいつでも。初日不算入(55条1項)。期間の末日が休日等なら算入しない(55条3項)。消滅=期間の経過/放棄・取下げ(359条)。法定代理人・保佐人・開示請求者が被告人のために上訴した場合、放棄・取下げには書面による被告人の同意が要る(360条)。放棄・取下げ後は再上訴不可(361条)。死刑・無期拘禁刑の判決は放棄できない(360条の2)。回復=責に帰することができない事由で期間内にできなかったとき原裁判所へ請求(362条)。事由が止んだ日から提起期間に相当する期間内・上訴の申立てと同時(363条) 図:上訴権の期間

  • 発生=裁判の告知から提起期間が進行(358条)
  • 期間=控訴・上告14日(373条・414条)/即時抗告3日(422条)/特別抗告5日(433条2項)/通常抗告は実益がある限りいつでも
  • 初日不算入(55条1項)
  • 期間の末日が休日等なら算入しない(55条3項)
  • 消滅=期間の経過/放棄・取下げ(359条)
  • 法定代理人・保佐人・開示請求者が被告人のために上訴した場合、放棄・取下げには書面による被告人の同意が要る(360条)
  • 放棄・取下げ後は再上訴不可(361条)
  • 死刑・無期拘禁刑の判決は放棄できない(360条の2)
  • 回復=責に帰することができない事由で期間内にできなかったとき原裁判所へ請求(362条)
  • 事由が止んだ日から提起期間に相当する期間内・上訴の申立てと同時(363条)

上訴権は、裁判が告知された日から進む期間の中で使います。358条です。期間の長さは、控訴と上告が14日です。即時抗告は3日、特別抗告は5日です。通常抗告は、実益がある限り、いつでもできます。数え方は、初日を算入しません。55条1項です。たとえば4月1日に判決が言い渡されたなら、4月2日が1日目で、14日目の4月15日が期限です。期間の末日が、土曜日や日曜日、祝日、年末年始に当たるときは、その日は期間に算入しません。55条3項です。15日が土曜日なら、日曜日をまたいで、月曜日の17日が期限になります。上訴権は、期間が過ぎると消えます。ほかに、放棄と取下げで消えます。359条です。検察官、被告人、決定を受けた人ができます。被告人の法定代理人や保佐人、それに勾留の理由の開示を請求した人が、被告人のために上訴したときは、書面による被告人の同意を得て、放棄や取下げをします。360条です。一度放棄や取下げをすると、その事件について、さらに上訴はできません。361条です。同意した被告人も同じです。いったんやめたら復活しない、と覚えてください。例外があります。重い刑には、放棄を認めません。

条文刑事訴訟法第360条の2

刑事訴訟法第360条の2 死刑又は無期拘禁刑に処する判決に対する上訴は、前二条の規定にかかわらず、これを放棄することができない。

条文が禁じているのは、放棄だけです。放棄は、上訴の申立てをする前に、上訴の道を自分から閉じることです。死刑や無期拘禁刑のように取り返しのつかない刑について、被告人が自分から上訴の道を閉じることを防ぐ趣旨です。取下げは、一度上訴の申立てをしたあとでやめることで、条文の禁止の対象に入っていません。さきほどの、死刑判決で被告人が上訴を望まないときに弁護人が上訴できるか、という問題も、この取り返しのつかなさをどこまで重く見るかをめぐる争いです。最後に、回復です。期間が過ぎても、自己または代人の責に帰することができない事由で、期間内に上訴できなかったときは、原裁判所に、上訴権回復の請求ができます。362条です。たとえば、天災で交通が途絶え、申立書を出せなかった場合です。請求は、事由が止んだ日から、上訴の提起期間に相当する期間内に、上訴の申立てと同時にしなければなりません。363条です。

一部上訴・主文が複数のときだけ

一部上訴の3パターン(Yの設例)。併合罪の一部が無罪=窃盗は有罪・器物損壊は無罪→主文は「拘禁刑1年に処する」と「器物損壊の公訴事実は無罪」の2つ→一部上訴できる(窃盗の部分だけ)。牽連犯の一部が無罪=建造物侵入と窃盗で侵入のみ無罪→主文では無罪を言い渡さず刑だけ→主文は1つ→できない。併合罪の全部有罪=窃盗も器物損壊も有罪→併合罪の加重(刑法47条)で刑は1つ→主文は1つ→できない 図:一部上訴の3パターン

  • Yの設例
  • 併合罪の一部が無罪=窃盗は有罪・器物損壊は無罪→主文は「拘禁刑1年に処する」と「器物損壊の公訴事実は無罪」の2つ→一部上訴できる(窃盗の部分だけ)。牽連犯の一部が無罪=建造物侵入と窃盗で侵入のみ無罪→主文では無罪を言い渡さず刑だけ→主文は1つ→できない。併合罪の全部有罪=窃盗も器物損壊も有罪→併合罪の加重(刑法47条)で刑は1つ→主文は1つ→できない

3つ目の問いに入ります。窃盗の有罪の部分だけを、Yは控訴できるか。上訴の移審の効力は、原裁判の全部に及ぶのが原則です。一個の裁判なら、全部が上級審へ移ります。例外が、一部上訴です。

条文刑事訴訟法第357条

刑事訴訟法第357条 上訴は、裁判の一部に対してこれをすることができる。部分を限らないで上訴をしたときは、裁判の全部に対してしたものとみなす。

一部に対してできる、と書いてあります。ただし、無条件ではありません。主文が複数あるときに限って認められます。主文が1つなら、一部上訴はできません。ここで、前に見たことを1問です。牽連犯のように、科刑上一罪の一部だけを無罪にするとき、主文で無罪を言い渡しますか?言い渡しません。有罪部分の刑だけを言い渡して、一部無罪は理由の中で示します。牽連犯は、科刑上一罪、つまり別々の罪でも、刑を科すときは一体として扱われる関係でした。全体が1個の事件として審判され、結論も1つしか出ないので、主文に載るのは有罪部分の刑だけで、そこに無罪を並べることはできません。これに対して併合罪は、別々の犯罪として扱う関係で、罪ごとに有罪か無罪かが出ます。その違いが、ここで効いてきます。3つのパターンで比べます。1つ目は、併合罪の一部が無罪の場合です。Yの設例がこれです。主文は、拘禁刑1年に処する、と、器物損壊の公訴事実については無罪、の2つです。主文が2つなので、窃盗の部分だけに一部上訴できます。3つ目の問いの答えは、できる、です。2つ目は、牽連犯の一部が無罪の場合です。Yが、閉店後の店に侵入して売上金を盗んだ、建造物侵入と窃盗で起訴され、侵入のところだけ無罪になったとします。この2つは牽連犯でした。主文では無罪を言い渡さず、刑だけを言い渡します。つまり主文が1つなので、窃盗の部分だけを切り出す一部上訴はできません。

3つ目は、併合罪の全部が有罪の場合です。Yの窃盗も器物損壊も有罪だったとします。併合罪として刑が加重され、宣告される刑は1つです。刑法47条です。主文は1つなので、一部上訴はできません。軸は、罪の数ではなく、主文の数です。1つの刑を言い渡す主文を、中途半端に切り分けて確定させることはできません。ですから、併合罪でも全部有罪なら不可で、牽連犯でも一部が無罪なら不可です。

共通の物差し=主文。上訴の利益=主文を標準に有利か不利かを判断/一部上訴=主文が複数のときだけ。軸は罪の数ではなく主文の数。併合罪でも全部有罪なら不可・牽連犯でも一部無罪なら不可。一部上訴で上訴しなかった主文の部分は移審せず確定へ向かう。一部に絞った争いで控訴審がどこまで調べられるかは控訴審の回で扱う

  • 共通の物差し=主文
  • 上訴の利益=主文を標準に有利か不利かを判断/一部上訴=主文が複数のときだけ
  • 軸は罪の数ではなく主文の数
  • 併合罪でも全部有罪なら不可・牽連犯でも一部無罪なら不可
  • 一部上訴で上訴しなかった主文の部分は移審せず確定へ向かう
  • 一部に絞った争いで控訴審がどこまで調べられるかは控訴審の回で扱う

気づいてほしいのは、さっきの上訴の利益も、主文を標準に見ていたことです。主文が、有利か不利かを決め、一部上訴ができるかどうかも決めます。上訴の共通の物差しが、主文なのです。上訴しなかった主文の部分は、移審せず、確定へ向かう、と考えられています。検察官が器物損壊の無罪に控訴していれば、別です。なお、一部に絞って争ったとき、控訴審がどこまで調べられるのか、という問題があります。これは、控訴審の回で扱います。

不利益変更禁止の原則とその射程

不利益変更禁止(402条・414条)=被告人が控訴し、又は被告人のため控訴した事件では、原判決の刑より重い刑を言い渡せない。趣旨=控訴をためらわせない。射程=被告人側のみが上訴した事件に限る(検察官も上訴した事件は適用なし)/禁止は重い刑の言渡しだけ(刑が重くならなければ不利な事実認定は許される)。Yの1つ目の問い=Yだけが控訴→拘禁刑1年を超えて重くできない

1つ目の問いです。Yだけが控訴したとき、控訴審は刑を重くしてよいか。控訴審が刑を重くできるとすると、困ったことが起きます。控訴したら重くされるかもしれない、と思えば、被告人は、不服があっても控訴をためらいます。それを防ぐために、条文はこう決めています。

条文刑事訴訟法第402条

刑事訴訟法第402条 被告人が控訴をし、又は被告人のため控訴をした事件については、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。

被告人が控訴した事件では、原判決の刑より重い刑を言い渡せません。上告にも、414条で準用されます。Yだけが控訴したなら、控訴審は、拘禁刑1年より重くはできません。1つ目の問いの答えは、重くできない、です。趣旨は、さきほどのとおり、被告人に控訴をためらわせないことです。一方で、どうせ重くならないのだから、とりあえず控訴しておこう、という濫上訴の一因になっている、との批判もあります。射程は2つあります。1つ目。適用されるのは、被告人側だけが上訴した事件です。検察官も上訴した事件では、適用がありません。たとえば、Yが控訴し、検察官も、刑が軽すぎるとして控訴したなら、控訴審は、1年より重い刑を言い渡せます。検察官も不服を申し立てている以上、被告人が重くされるのを恐れて控訴をためらう、という保護の場面ではないからです。2つ目。禁止されるのは、重い刑を言い渡すことだけです。刑が重くならなければ、原判決より被告人に不利な事実を認定することは許されます。たとえば、第一審が衝動的な犯行と認定した窃盗を、控訴審が計画的な犯行だったと認定しても、刑が1年のままなら許されます。刑が1年から1年6か月に変われば、許されません。

⭐ 論文で書く規範:不利益変更禁止の射程 適用は被告人側のみが上訴した事件に限る | 検察官も上訴した事件には適用がない | 禁止されるのは重い刑の言渡しだけ | 刑が重くならなければ不利益な事実認定は許される (規範(402条の解釈で立てる))

保護したいのは、刑を重くされる不安だからです。事実の認定が変わっても、刑が変わらなければ、控訴をためらう理由にはなりません。ここも、論文で論点になりうる箇所です。

「重い刑」の測り方・総合観察

3つの判例の比較。最決昭39・5・7=第一審の刑から刑の種類が変わり刑期は短い(禁錮2年6月→懲役2年)=重くなっていない(自由拘束・法益剥奪が実質的にいずれが重いかを具体的に考察)。最決昭55・12・4=実刑(懲役1年)→刑期は長いが保護観察付執行猶予(懲役1年6月・3年間執行猶予)=重くなっていない(執行猶予の有無も考慮)。最大判昭26・8・1=執行猶予付き(懲役6月・3年間執行猶予)→刑期は短い実刑(禁錮3月)=重くなっている(執行猶予は重要な要素) 図:3つの判例の比較

  • 最決昭39・5・7=第一審の刑から刑の種類が変わり刑期は短い(禁錮2年6月→懲役2年)=重くなっていない(自由拘束・法益剥奪が実質的にいずれが重いかを具体的に考察)
  • 最決昭55・12・4=実刑(懲役1年)→刑期は長いが保護観察付執行猶予(懲役1年6月・3年間執行猶予)=重くなっていない(執行猶予の有無も考慮)
  • 最大判昭26・8・1=執行猶予付き(懲役6月・3年間執行猶予)→刑期は短い実刑(禁錮3月)=重くなっている(執行猶予は重要な要素)

重い刑、とは何でしょうか。刑期だけでは決まりません。2つの例で考えます。1つ目。第一審が拘禁刑1年の実刑。控訴審が拘禁刑1年6か月で、執行猶予3年、保護観察付き。刑期は6か月長くなりました。2つ目。第一審が拘禁刑6か月で、執行猶予3年。控訴審が拘禁刑3か月の実刑。刑期は3か月短くなりました。どちらが重くなったでしょうか。2つ目の、実刑にしたほうだと思います。1つ目は、刑務所に入らなくていいかもしれないので、むしろ軽いです。最高裁の規範を見ます。

判例最決昭39・5・7 刑集18巻4号136頁

不利益変更禁止と刑の軽重の比べ方 刑訴四〇二条のいわゆる不利益変更禁止の規定に違反するか否かは、第一、二審において言い渡された主文の刑を、刑名等の形式のみによらず、具体的に全体として綜合的に観察し、第二審の判決の刑が第一審の判決の刑よりも実質上被告人に不利益であるか否かによつて判断すべきものであることは、当裁判所の屡次の判例……とするところである。 本件において、被告人に対する自由拘束、法益剥奪は実質的にいずれが重いかを具体的綜合的に考察すれば、第一審判決が被告人に対し禁錮二年六月の刑を言い渡したのを原審が懲役二年の刑に変更したからといつて、原判決が第一審判決の言い渡した刑を被告人に不利益に変更したとはいえない。

刑名などの形式だけで比べず、具体的に全体として総合的に観察する、と言っています。この事案は、刑の種類が変わり、刑期は短くなった場合でした。禁錮と懲役は、今の拘禁刑にまとめられる前の刑の名前で、刑務作業の義務がある懲役のほうが、名前の上では重い刑でした。自由の拘束や法益の剥奪が、実質的にどちらが重いかを見て、重くなったとはいえない、と結論しています。名前の格ではなく、中身で比べる、ということです。次は、執行猶予の位置づけです。第一審が執行猶予付きの刑を言い渡し、原審が、それより刑期の短い、執行猶予のない刑に変えた事案です。

判例最大判昭26・8・1 刑集5巻9号1715頁

刑の軽重の比較と執行猶予 そこで、第一審の言渡した懲役六月、執行猶予三年間の刑と原審の言渡した禁錮三月の刑とはその何れが重いかの問題を生ずる。 …… しかし、本件において第一審の刑と第二審の刑とを実質的に考察すると、第一審における執行猶予の言渡は重要な要素であつて、執行猶予の場合は現実に刑の執行を受ける必要はなく、かつ言渡を取消されないで猶予の期間を経過したときは刑の言渡そのものが效力を失うこととなるのである。それ故に、実質的には執行猶予のもつ法律的社会的価値判断は実際において高く評価されており又さるべきものである。かくて、本件において第一審の懲役六月が第二審において禁錮三月に変更されているにかかわらず、前者には執行猶予がつけられていたが後者にはこれがつけられていないのであるから、この具体的な両者の刑の比較の総体的考察において、原審の刑は重くなつていると言わなければならぬ。

執行猶予は重要な要素で、猶予の期間を無事に過ぎれば、刑の言渡しそのものが効力を失います。だから高く評価されるべきで、執行猶予のない刑に変えた原審の刑は、重くなっている、と判断しました。もう1つ、のちの最高裁の決定も、同じ考え方に立ちます。第一審の実刑を、刑期は6か月長くなるけれど、保護観察付きの執行猶予が付いた刑に変えた事案です。主文を全体として総合的に観察すれば、実質上不利益とはいえない、としました。刑の軽重を比べるときは、執行猶予の有無も考慮すべきだ、という考え方です。

⭐ 論文で書く規範:「重い刑」かどうかの判断 刑名等の形式のみによらず、具体的に全体として総合的に観察する | 第二審の刑が第一審の刑より実質上被告人に不利益か否かで判断する | 執行猶予の有無は重要な要素 (規範(判例型))

決め手は、実刑か執行猶予付きかで、現実に刑務所へ入るかどうかが変わることです。刑期の数字より、重い要素になりえます。執行猶予も、刑と一緒に主文で言い渡すものでした。ここでも、比べているのは主文の全体です。Yの1つ目の問いに戻ります。Yだけが控訴した事件です。第一審の実刑1年を、控訴審が拘禁刑1年6か月の実刑にすれば、重くなっているので許されません。同じ1年6か月でも、執行猶予付きに変えるなら、重くなったとはいえず、許されます。

節目のミニ事例

節目のミニ事例。設定を入れ替えて結論を確かめる。問1=窃盗は有罪(拘禁刑1年)・器物損壊は無罪。窃盗の部分だけ控訴できるか→主文2つ→できる。問2=建造物侵入と窃盗(牽連犯)で侵入のみ無罪・窃盗は有罪。窃盗の部分だけ控訴できるか→主文1つ→できない。問3=Yだけが控訴。実刑1年を拘禁刑1年6か月(執行猶予3年・保護観察付)に変更→全体で重くない→違反でない。問4=問3で検察官も控訴していた。実刑1年6か月にできるか→適用なし→できる。分かれ目=主文の数/誰が上訴したか 図:節目のミニ事例

  • 設定を入れ替えて結論を確かめる
  • 問1=窃盗は有罪(拘禁刑1年)・器物損壊は無罪
  • 窃盗の部分だけ控訴できるか→主文2つ→できる
  • 問2=建造物侵入と窃盗(牽連犯)で侵入のみ無罪・窃盗は有罪
  • 窃盗の部分だけ控訴できるか→主文1つ→できない
  • 問3=Yだけが控訴
  • 実刑1年を拘禁刑1年6か月(執行猶予3年・保護観察付)に変更→全体で重くない→違反でない
  • 問4=問3で検察官も控訴していた
  • 実刑1年6か月にできるか→適用なし→できる
  • 分かれ目=主文の数/誰が上訴したか

節目のミニ事例です。Yの設定を入れ替えて、結論がどう変わるかを確かめます。1つ目。窃盗は有罪で拘禁刑1年、器物損壊は無罪。Yは、窃盗の部分だけ控訴できるでしょうか。主文が2つなので、できます。2つ目。Yが、建造物侵入と窃盗で起訴されました。この2つは牽連犯です。侵入のところだけ無罪で、窃盗は有罪で拘禁刑1年です。窃盗の部分だけ控訴できるでしょうか。牽連犯の一部無罪は、主文で無罪を言い渡さないので、主文は1つです。だから、できません。1つ目と2つ目は、主文が2つか1つかで、結論が逆になりました。3つ目。Yだけが控訴しました。第一審の実刑1年を、控訴審が拘禁刑1年6か月、執行猶予3年、保護観察付きに変えました。402条に違反するでしょうか。

刑期は長くなっても、全体で見ると重くなっていません。実刑が執行猶予付きになったので、違反ではありません。4つ目。3つ目と同じ事案で、検察官も、刑が軽すぎるとして控訴していました。控訴審は、実刑で拘禁刑1年6か月を言い渡せるでしょうか。検察官も上訴しているので、402条は適用されません。重くしても、できます。一部上訴の分かれ目は、主文の数。不利益変更禁止の分かれ目は、誰が上訴したかと、刑が全体で重くなるか、です。

今日の地図(保存版)

まとめ。Yの答え=1つ目:Yだけが控訴→刑を重くできない(402条・総合観察)/2つ目:器物損壊の無罪に控訴→上訴の利益がなく不適法(主文基準)/3つ目:窃盗の有罪だけに控訴→主文が2つなので一部上訴できる(357条)。上訴の共通ルール=上訴権者(351条〜356条)/上訴の利益(主文基準)/申立ては原裁判所へ・効力は確定と執行の停止と移審/期間(14日・3日・5日・初日不算入)・放棄できない裁判・回復/一部上訴(主文が複数)/不利益変更禁止(被告人側のみ・刑だけ・総合観察) 図:まとめ

  • Yの答え=1つ目:Yだけが控訴→刑を重くできない(402条・総合観察)/2つ目:器物損壊の無罪に控訴→上訴の利益がなく不適法(主文基準)/3つ目:窃盗の有罪だけに控訴→主文が2つなので一部上訴できる(357条)
  • 上訴の共通ルール=上訴権者(351条〜356条)/上訴の利益(主文基準)/申立ては原裁判所へ・効力は確定と執行の停止と移審/期間(14日・3日・5日・初日不算入)・放棄できない裁判・回復/一部上訴(主文が複数)/不利益変更禁止(被告人側のみ・刑だけ・総合観察)

Yの3つの問いに答えます。まず1つ目。Yだけが控訴した事件なので、402条により、控訴審は刑を重くできません。重いかどうかは、刑名や刑期ではなく、実刑か執行猶予付きかも含めて、全体で見ます。2つ目。器物損壊の無罪は、主文で見て、被告人にとって最も有利です。上訴の利益がないので、控訴は不適法で、決定で棄却されます。3つ目。窃盗の有罪と器物損壊の無罪で、主文が2つあるので、窃盗の部分だけに一部上訴ができます。共通の決まりごとを、一覧にします。誰が上訴できるか。何を求めてなら上訴できるか、つまり上訴の利益。申立ては原裁判所に出し、確定と執行が止まって、事件が上級審へ移る。期間と、放棄と、回復。一部上訴は、主文が複数のときだけ。不利益変更禁止は、被告人側のみが上訴した事件で、禁止されるのは刑だけです。上訴の利益も、一部上訴も、刑が重くなったかの比べ方も、主文という同じ物差しで見る。これが、最初にお伝えした今日の物差しでした。個別の上訴は、次から1つずつ見ていきます。

参照条文

  • 刑事訴訟法第351条第1項
  • 刑事訴訟法第355条
  • 刑事訴訟法第356条
  • 刑事訴訟法第360条の2
  • 刑事訴訟法第357条
  • 刑事訴訟法第402条

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