攻防対象論と控訴審の裁判
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第8章 上訴と救済手続 ②/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
導入
図:地図
- 受け直す道具は3つ
- 事後審=第一審判決の当否をあとから審査する
- 調べる範囲=392条1項(趣意書に包含された事項は調査しなければならない)/392条2項(包含されない事項でも377条〜383条の事由は職権で調査できる)
- 移審と一部上訴=申立てで事件は上級審へ移る・原裁判の全部に及ぶのが原則/一部上訴は主文が複数のときだけ(軸は罪の数ではなく主文の数)
- 牽連犯の一部が無罪でも主文に無罪は載らず理由中で示される→主文は1つ→一部上訴できない
- 今日=この道具に限界はあるか
- そして控訴審はどう結論を出すか
前回の最後に、問いを1つ残しました。判決の一部に絞って争ったとき、控訴審は、争われていない部分にまで踏み込んで調べられるのか。今日はこの問いに答えます。そのあとで、控訴審がどんな結論を出せるのかを、棄却から自判まで見ていきます。答えに入る前に、使う道具を3つ、地図で受け直します。1つ目。控訴審は事後審です。事件そのものを審理し直すのではなく、第一審の判決を対象に、その当否をあとから審査します。2つ目。調べる範囲です。第392条第1項で、趣意書に書かれた事項は、調査しなければなりません。第2項で、書かれていない事項でも、控訴理由になる事由なら、職権で調べられます。3つ目。上訴の共通ルールです。上訴の申立てをすると、事件が上級の裁判所へ移ります。これが移審で、原則として、一個の裁判の全部に及びます。ただし、主文が複数あるときに限って、一部だけを上訴できます。軸は、罪の数ではなく、主文の数でした。牽連犯の一部だけが無罪のときは、主文に無罪は載らず、理由中で示されるだけなので、一部上訴はできません。今日は、この道具に限界があるのかを見ます。
図:今日の問い
- 被告人Zは、偽造された領収書を取引先に示し(偽造私文書行使)、それで代金を受け取った(詐欺)として起訴された
- この2つは手段と結果の関係にある牽連犯
- 第一審は、領収書を示した点を有罪(拘禁刑1年・執行猶予3年)とし、詐欺は、取引先が領収書を信じて払ったとはいえないとして、理由中で無罪の判断を示した
- 主文は有罪部分の刑だけ
- 検察官は控訴せず、Zが刑が重いとして控訴
- 控訴審が記録を読むと、詐欺も成立していると思われた
- ①控訴審は、詐欺の部分まで調べ直して、有罪にできるか
- ②402条があり、刑は重くできない
- ならば調べても構わないのではないか
- ③もし検察官も、詐欺の無罪に控訴していたら、どうなるか
今日の被告人Zは、前回の居酒屋の件とは別の事件の人です。Zは、偽造された領収書を取引先に示し、それで代金を受け取ったとして、偽造私文書行使と詐欺で起訴されました。この2つは、手段と結果の関係にある牽連犯とします。第一審は、領収書を示した点は有罪とし、拘禁刑1年、執行猶予3年を言い渡しました。詐欺は、取引先が領収書を信じて払ったとはいえないとして、理由の中で無罪の判断を示しました。主文は、有罪部分の刑だけです。検察官は控訴せず、Zだけが、刑が重いとして控訴しました。ところが、控訴審が記録を読むと、詐欺も成立しているように思われました。問いは3つです。1つ目。控訴審は、詐欺の部分まで調べ直して、有罪にできるのか。2つ目。第402条があって、刑は重くできないのだから、調べても構わないのではないか。3つ目。もし検察官も、詐欺の無罪に控訴していたら、どうなるのか。
先に、答えの形だけ言います。控訴審は、第一審の判決を審査する場所です。そして、その審査の範囲は、当事者がどこを争っているかで絞られます。だから、誰も争っていない部分は、事件が移ってきていても調べられません。3つの問いの答えは、この3文のどこかに入っています。
原則・移審は全部に及ぶ
図:原則
- Zの主文は1つ(有罪部分の刑だけ)→357条の一部上訴はできない→Zの控訴で、詐欺の無罪部分を含む第一審判決の全部が控訴審に移審
- 392条2項=趣意書にない事項でも377条〜383条の事由は職権で調査できる
- 詐欺の無罪判断=事実誤認(382条)の事由に関する事項→理屈の上では、控訴審は詐欺まで調べられそうに見える
- 402条=被告人が控訴した事件は、原判決の刑より重い刑を言い渡せない→「刑が重くならないなら、調べて有罪にしても不利益はなさそう」
本題の前に、前回までに見たことを、1問だけ確かめます。牽連犯の一部だけを無罪にするとき、主文で無罪を言い渡しますか?言い渡しません。理由の中で示すだけで、主文は有罪部分の刑だけでした。Zの設例が、まさにそれです。主文は1つなので、第357条の一部上訴はできません。すると、Zの控訴で、詐欺の無罪の判断も含めて、第一審判決の全部が控訴審に移ります。ここで、第392条を見ます。
条文刑事訴訟法第392条
刑事訴訟法第392条 控訴裁判所は、控訴趣意書に包含された事項は、これを調査しなければならない。 2 控訴裁判所は、控訴趣意書に包含されない事項であつても、第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に関しては、職権で調査をすることができる。
例えば、Zの趣意書は、量刑不当だけを書いたとします。それでも、詐欺の無罪の判断は、事実誤認、第382条の事由に関する事項です。第2項により、職権で調べられるように見えます。移審しているうえに、職権調査も趣意書の外に及ぶ。理屈の上では、控訴審は、詐欺まで調べられそうです。もう1つ、第402条があります。
条文刑事訴訟法第402条
刑事訴訟法第402条 被告人が控訴をし、又は被告人のため控訴をした事件については、原判決の刑より重い刑を言い渡すことはできない。
Zだけが控訴した事件なので、控訴審は、第一審より重い刑を言い渡せません。それなら、詐欺を調べて有罪と認めても、Zの刑は変わらず、損はしない。これが、Zの2つ目の問いの考え方です。調べられそうだ、という推論と、損はしないだろう、という推論。この2つが、次の判例で、どちらも否定されます。その前に、立ち止まってください。無罪になった詐欺の部分について、Zは控訴する意味があるでしょうか。検察官は、控訴したでしょうか?Zにとって無罪は、一番有利な判断なので、不服の利益がないです。検察官は、設例では控訴していません。自分に有利な判断を、被告人が争うことはできません。前々回の、上訴の利益です。つまり、詐欺の部分は、被告人にも検察官にも、争う人がいません。この状態を、判例がどう扱うかを見ます。
攻防対象論の判例
図:事案の構図
- 第一審判決の中身=有罪部分(Zが控訴)|無罪部分(理由中で示された・誰も控訴せず)
- 控訴審へ移審するのは両方
- 職権調査は有罪部分に及ぶ
- 無罪部分は「当事者間で攻防の対象からはずされた」=調べて有罪にすることは許されない(職権の限度を超え違法)
- この考え方=攻防対象論
事案です。住居侵入や暴力行為などで起訴された被告人について、第一審は、その一部を有罪とし、残りの部分には、犯罪の証明がないとして、理由の中で無罪の判断を示しました。この無罪の部分は、牽連犯や包括一罪として起訴された事実の一部だったので、主文では特に無罪を言い渡していません。被告人だけが控訴しました。すると控訴審は、職権で調査して、全部有罪だとして、原判決を破棄し、自分で判決をして、第一審と同じ刑を言い渡しました。控訴審が自分で判決をすることを、自判といいます。Zの設例と、同じ形です。大法廷の判断は、大きく3つの段に分かれます。1つ目、無罪の部分も含めて、全部が控訴審に移ること。2つ目、それでも職権の使い方には限度があること。3つ目、争いから外れた部分を調べて有罪にするのは違法だということ。
判例最大決昭46・3・24 刑集25巻2号293頁
控訴審の職権調査の限度(移審の範囲) 第一審判決がその理由中において無罪の判断を示した点は、牽連犯ないし包括一罪として起訴された事実の一部なのであるから、右第一審判決に対する控訴提起の効力は、それが被告人からだけの控訴であつても、公訴事実の全部に及び、右の無罪部分を含めたそのすべてが控訴審に移審係属すると解すべきである。 そうとすれば、控訴裁判所は右起訴事実の全部の範囲にわたつて職権調査を加えることが可能であるとみられないでもない。しかしながら、控訴審が第一審判決について職権調査をするにあたり、いかなる限度においてその職権を行使すべきかについては、さらに慎重な検討を要するところである。
まず1つ目の段です。前半は、先ほどの原則そのものです。被告人だけの控訴でも、無罪の部分を含めて、全部が控訴審に移ります。後半で、職権調査が可能だとみられないでもない、と認めます。Zの問いと同じ疑問を、判例自身が出しているのです。ただ、そのあとに、しかし、と続きます。職権をどこまで使うかは、さらに慎重な検討が要る、と。
判例最大決昭46・3・24 刑集25巻2号293頁
控訴審の職権調査の限度(控訴審の性格) 審判の対象設定を原則として当事者の手に委ね、被告人に対する不意打を防止し、当事者の公正な訴訟活動を期待した第一審の訴訟構造のうえに立つて、刑訴法はさらに控訴審の性格を原則として事後審たるべきものとしている。 …… そして、その事後審査も当事者の申し立てた控訴趣意を中心としてこれをなすのが建前であつて、職権調査はあくまで補充的なものとして理解されなければならない。
2つ目の段です。慎重に考える土台が、この2つのブロックです。第一審は、審判の対象を当事者が決め、被告人への不意打ちを防ぐ構造でした。その上に立つ控訴審は、事後審です。そして、事後審査は、当事者の出した趣意を中心にするもので、職権調査は、あくまで補充的なものです。
判例最大決昭46・3・24 刑集25巻2号293頁
控訴審の職権調査の限度(攻防の対象) そして、右のうち無罪とされた部分については、被告人から不服を申し立てる利益がなく、検察官からの控訴申立もないのであるから、当事者間においては攻防の対象からはずされたものとみることができる。 このような部分について、それが理論上は控訴審に移審係属しているからといつて、事後審たる控訴審が職権により調査を加え有罪の自判をすることは、被告人控訴だけの場合刑訴法四〇二条により第一審判決の刑より重い刑を言い渡されないことが被告人に保障されているとはいつても、被告人に対し不意打を与えることであるから、前記のような現行刑事訴訟の基本構造、ことに現行控訴審の性格にかんがみるときは、職権の発動として許される限度をこえたものであつて、違法なものといわなければならない。
3つ目の段です。決め手は、最初のブロックです。無罪の部分は、被告人には不服を申し立てる利益がなく、検察官の控訴もない。だから、当事者の間では、攻防の対象からはずされたものとみることができる。そして、そういう部分に、職権で調査を加えて有罪の自判をするのは、不意打ちであり、職権の発動として許される限度をこえて違法です。区別を、Zで確かめます。Zが量刑不当と書いた有罪の部分は、Zが争っている部分なので、調べられます。一方、詐欺の無罪の部分は、Zも検察官も争っていないので、調べられません。同じ判決の中でも、争われている部分と、攻防の対象から外れた部分とで、線が引かれます。
⭐ 論文で書く規範:攻防対象論 無罪とされて被告人に不服の利益がなく検察官も控訴しない部分は、当事者間で攻防の対象から外れる | 移審していても、職権で調べて有罪の自判をするのは、職権の発動として許される限度を超え違法 (規範(判例型))
この考え方を、攻防対象論といいます。条文に書かれた要件ではありません。最高裁が、事後審という仕組みと当事者主義から立てた規範です。ここは、論文で論点になりうる箇所です。
判例最大決昭46・3・24 刑集25巻2号293頁
控訴審の職権調査の限度(結論の処理) 原判決の違法は、未だもつてこれを破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
最後に、結論の処理です。この事案では、控訴審の判断は違法でした。けれど、言い渡された刑は第一審と同じで、破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められないとして、上告は棄却されました。違法でも、結果が変わらないために、破棄まではされない場合がある、ということです。Zの1つ目の問いの答えです。詐欺の部分は、被告人に不服の利益がなく、検察官も控訴していない。攻防の対象から外れているので、事件が移ってきていても、控訴審は調べて有罪にはできません。
理由と第402条との区別
図:理由の3本柱と402条との区別
- 理由=当事者主義(審判の対象は当事者が設定する)/事後審(調べる範囲は当事者の控訴趣意が中心・職権は補充)/不意打ちの防止(争いから外れた部分で突然、不利な認定をされない)
- 検察官から見れば、控訴しなかった=その部分の訴訟追行を断念したとみる
- 上訴の利益(主文基準)と同じ軸の上
- 402条と攻防対象論は別の問い
- 402条=刑を重くできるか/攻防対象論=争いから外れた部分を調べて認定してよいか
- 働く場面=移審はしているのに職権調査してよいかが問題になる場面(牽連犯・包括一罪の一部のように一部上訴できず全部が移審するとき)かつ被告人側のみが控訴し検察官が控訴していない部分
- 併合罪の一部無罪=主文が2つ→上訴しなかった部分は移審せず確定へ向かう
理由を整理します。柱は3本です。1つ目は、当事者主義です。審判の対象は、当事者が決めます。2つ目は、事後審です。調べる範囲は、当事者の控訴趣意が中心で、職権は補充にとどまります。そして3つ目は、不意打ちの防止です。争いから外れた部分で、突然、不利な認定をされてはいけません。検察官の側から見ると、控訴しなかったということは、その部分の訴訟追行を断念した、とみることになります。そして、上訴の利益のところで、主文を標準にしたことを思い出してください。無罪は、被告人にとって最も有利な判断で、不服の利益がありません。検察官が控訴しなければ、その部分を争う人は、誰もいなくなります。主文を物差しにする上訴の共通ルールと、同じ軸の上にある考え方です。
刑は変わらなくても、詐欺の有罪という認定が付きます。そこが損です。有罪の判断が付けば、Zは、詐欺でも有罪とされた人になります。しかも、Zは、詐欺は争点から外れたと思って、控訴の準備をしています。そこに、突然、有罪が出てくる。これが不意打ちです。第402条と攻防対象論は、別の問いです。第402条は、刑を重くできるか、という問いです。攻防対象論は、争いから外れた部分を調べて、認定してよいか、という問いです。前々回、第402条を見たときは、刑が重くならなければ、不利な事実を認定することは許される、としました。あれは、第402条だけを見たときの答えで、例も、争われている窃盗の中で、犯行の様子を認め直す話でした。争いから外れた部分なら、刑が重くならなくても、認定自体が許されません。だから、第402条があるから調べてよい、とはなりません。Zの2つ目の問いの答えです。この考え方が働く場面も絞っておきます。1つ目の条件は、移審はしているのに、職権調査してよいかが問題になる場面です。牽連犯や包括一罪の一部のように、一部上訴ができず、全部が移審するときです。併合罪の一部が無罪のときは、主文が2つなので、上訴しなかった部分は、そもそも移審せず、確定へ向かいます。調べる以前の話になります。2つ目の条件は、被告人側だけが控訴して、検察官が控訴していない部分であることです。検察官も控訴していれば、話が変わります。次に見ます。
展開・本位的訴因と予備的訴因
図:比較表
- 最決平元=同一の被害者・同一の交通事故で過失の態様の違いから本位的訴因と予備的訴因が構成された→第一審は予備的訴因を認定→被告人のみ控訴→控訴審が破棄差戻し→差戻審が本位的訴因を認定
- 判旨「予備的訴因に沿う事実を認定した第一審判決に対し被告人のみが控訴したからといつて、検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念して、本位的訴因が当事者間の攻撃防禦の対象から外れたとみる余地はない。」
- 最決平25=本位的訴因は賭博開張図利の共同正犯・予備的訴因は幇助犯→第一審は幇助犯を認定→被告人のみ控訴→控訴審が職権で共同正犯を認定し有罪自判→違法
- 表(行=訴因の関係/検察官の追行/攻防の対象/結論)
- 平元=同一の事故の過失の態様の違い(軽重なし)/断念とみる余地はない/攻防の対象に残る/差戻審が本位的訴因を審理判決しても違法でない
- 平25=異なる構成要件(共同正犯が重く幇助が軽い)/控訴せず断念したとみるべき/攻防の対象から外れた/職権で有罪自判は違法(刑が同じなので破棄せず棄却)
- 検察官も控訴したとき=訴訟追行を続けている/攻防の対象に残る/調べられる
攻防対象論は、無罪の部分だけの話ではありません。訴因の並べ方でも問題になります。訴因変更の全体像の回で見たことを、思い出してください。もとの訴因が本位的訴因、本位的訴因が認められないときに初めて判断してもらう訴因が、予備的訴因でした。事案です。賭場を開いて利益を図る、賭博開張図利という罪で、本位的訴因は共同正犯、予備的訴因は幇助犯でした。第一審は、共同正犯は認定できないが、幇助犯は認定できるとして、有罪にしました。検察官は控訴せず、被告人だけが控訴しました。すると控訴審は、職権で共同正犯を認定し、有罪の自判をしました。最高裁は、こう言いました。
判例最決平25・3・5 刑集67巻3号267頁
検察官が控訴しなかったときの本位的訴因 本件のように,第1審判決の理由中で,本位的訴因とされた賭博開張図利の共同正犯は認定できないが,予備的訴因とされた賭博開張図利の幇助犯は認定できるという判断が示されたにもかかわらず,同判決に対して検察官が控訴の申立てをしなかった場合には,検察官は,その時点で本位的訴因である共同正犯の訴因につき訴訟追行を断念したとみるべきであって,本位的訴因は,原審当時既に当事者間においては攻防の対象から外されていたものと解するのが相当である …… そうすると,原審としては,本位的訴因については,これを排斥した第1審裁判所の判断を前提とするほかなく,職権により本位的訴因について調査を加えて有罪の自判をしたことは,職権の発動として許される限度を超えたものであり,違法というほかない。
ここでも、見方は同じです。第一審が、本位的訴因の共同正犯は認められないが、予備的訴因の幇助犯は認められるとした。それに、検察官が控訴しない。そのとき、検察官は、本位的訴因の訴訟追行を断念したとみるべきだ、と言っています。だから、本位的訴因は、攻防の対象から外れていて、職権で調べて有罪にするのは違法です。この事案でも、刑は第一審と同じだったので、破棄はされず、上告は棄却されました。調べ直せる場合もあります。比べる判例があります。同じ被害者、同じ交通事故で、過失のあり方の違いから、本位的訴因と予備的訴因が組まれた事件です。第一審は、予備的訴因を認定しました。被告人だけが控訴し、控訴審は破棄して差し戻し、差戻審が本位的訴因を認定しました。最高裁は、こう言っています。予備的訴因に沿う事実を認定した第一審判決に、被告人のみが控訴したからといって、検察官が本位的訴因の訴訟追行を断念して、攻防の対象から外れたとみる余地はない。だから、差戻審が本位的訴因を審理して判決しても、違法ではありません。2つの分かれ目は、検察官が訴追を断念したとみられるか、です。断念という言葉は、2つの判例に共通です。何が結論を分けたのかは、判決の言葉ではなく、2つを比べた整理です。交通事故の事案は、同じ事故の過失のあり方の違いです。証拠関係しだいで、2つの訴因のどちらかが認められる関係で、軽重の差もありません。検察官は、どちらでも有罪にできれば足りるとして、追行を続けていたとみられます。予備的訴因で有罪になった時点で、検察官には、控訴して争う理由がないのです。控訴しなかったことを、あきらめたとは読めません。だから、断念とはいえません。賭博の事案は、重い共同正犯に対して、軽い幇助犯が認定されたのに、控訴しなかった。しかも、共同正犯と幇助犯は、構成要件が異なります。重い罪が退けられたのに控訴しないのは、軽い幇助犯で処罰されれば足りる、と受け入れたことになります。だから、断念とみられます。
Zの3つ目の問いの答えです。検察官も詐欺の無罪に控訴していれば、訴訟追行を続けているので、詐欺は攻防の対象に残ります。控訴審は、調べられます。ただし、無罪を覆して有罪にするには、さらに条件があります。あとで見ます。
控訴審の裁判・棄却と破棄
図:控訴審の裁判の表
- 大分類=棄却(原判決を維持)/破棄(取り消す)
- 棄却
- 不適法な控訴(方式違反・控訴権消滅後)が書面で明らか→決定(385条1項)/公判を開いて分かった→判決(395条)
- 趣意書の不備(期間内に出さない・方式違反や疎明資料・保証書の欠け・理由が明らかに377〜383条の事由に当たらない)→決定(386条1項)
- 決定への不服=異議申立て(385条2項・386条2項)/判決への不服=上告できる(405条)
- 理由なし(377〜383条の事由がない)→判決で棄却(396条)
- 破棄
- 理由あり→判決で破棄しなければならない(397条1項)
- 2項破棄(再掲)=393条2項の取調べの結果、破棄しなければ明らかに正義に反するとき破棄できる(397条2項・実務で最も多い)
- 管轄違い・公訴棄却を不法に言い渡した場合=原裁判所へ差戻し(398条)/管轄を不法に認めた場合=管轄第一審裁判所へ移送(399条)
- 決定と判決の軸=不適法かどうかが書面で明らかか/公判を開いて分かったか
ここから、控訴審の裁判です。結論は、大きく2つです。控訴棄却と、原判決の破棄です。棄却は、第一審の判決を維持すること。破棄は、取り消すことです。まず棄却から。控訴が不適法なとき、その形が2通りあります。
条文刑事訴訟法第385条第1項・第2項
刑事訴訟法第385条 控訴の申立が法令上の方式に違反し、又は控訴権の消滅後にされたものであることが明らかなときは、控訴裁判所は、決定でこれを棄却しなければならない。 2 前項の決定に対しては、第四百二十八条第二項の異議の申立をすることができる。この場合には、即時抗告に関する規定をも準用する。
条文刑事訴訟法第395条
刑事訴訟法第395条 控訴の申立が法令上の方式に違反し、又は控訴権の消滅後にされたものであるときは、判決で控訴を棄却しなければならない。
同じ不適法でも、書面を見ただけで明らかなときは、決定で棄却します。第385条第1項です。公判を開いて、はじめて不適法だと分かったときは、判決で棄却します。第395条です。分かれ目は、不適法かどうかが書面で明らかか、公判を開いて分かったか、です。決定には、異議の申立てができます。控訴審は高等裁判所なので、その決定には、通常抗告も即時抗告もできません。代わりに、同じ高等裁判所に異議を申し立てる道が置かれています。判決には、最高裁への上告ができます。趣意書に問題があるときも、決定で棄却されます。
条文刑事訴訟法第386条第1項・第2項
刑事訴訟法第386条 左の場合には、控訴裁判所は、決定で控訴を棄却しなければならない。 一 第三百七十六条第一項に定める期間内に控訴趣意書を差し出さないとき。 二 控訴趣意書がこの法律若しくは裁判所の規則で定める方式に違反しているとき、又は控訴趣意書にこの法律若しくは裁判所の規則の定めるところに従い必要な疎明資料若しくは保証書を添附しないとき。 三 控訴趣意書に記載された控訴の申立の理由が、明らかに第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由に該当しないとき。 2 前条第二項の規定は、前項の決定についてこれを準用する。
1号は、趣意書を期間内に出さないとき。2号は、方式に違反しているときや、必要な資料を添えていないとき。3号は、書かれた理由が、明らかに控訴理由に当たらないときです。これらは、公判を開くまでもなく決まるので、決定です。これも異議の申立てができます。趣意書の理由が、控訴理由に当たらないことが明らかとまではいえず、審理した結果、理由がなかった場合は、判決で棄却します。
条文刑事訴訟法第396条
刑事訴訟法第396条 第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由がないときは、判決で控訴を棄却しなければならない。
控訴理由がなければ、判決で棄却です。第396条です。次に、破棄です。
条文刑事訴訟法第397条第1項・第2項
刑事訴訟法第397条 第三百七十七条乃至第三百八十二条及び第三百八十三条に規定する事由があるときは、判決で原判決を破棄しなければならない。 2 第三百九十三条第二項の規定による取調の結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる。
控訴理由があれば、判決で原判決を破棄しなければなりません。第1項です。第2項は、前回扱った2項破棄で、判決後の情状を職権で取り調べた結果、破棄しなければ明らかに正義に反するときに、破棄できるものです。実務では、破棄の中で最も多い型です。ここでは、表の中で再確認するだけにします。そのほかに、管轄違いや公訴棄却を不法に言い渡したことを理由に破棄するときは、原裁判所へ差し戻します。管轄を不法に認めたことを理由に破棄するときは、管轄のある第一審の裁判所へ移送します。第398条と第399条です。
破棄したあと・差戻しと移送と自判
図:破棄後の処理
- 原則=差戻し(原裁判所に差し戻す)か移送(原裁判所と同等の他の裁判所に移送する)(400条本文)
- 例外=自判(400条但書)=訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によって、直ちに判決をすることができるものと認めるとき→控訴裁判所が自ら被告事件について判決する
- 理由=控訴審は事後審→「誤りがあるから第一審でやり直せ」と命じるのが本来の姿
- 自判でも被告人のみ控訴の事件では原判決より重い刑は言い渡せない(402条)
破棄したあと、控訴審は何をするのか。条文は、第400条です。
条文刑事訴訟法第400条
刑事訴訟法第400条 前二条に規定する理由以外の理由によつて原判決を破棄するときは、判決で、事件を原裁判所に差し戻し、又は原裁判所と同等の他の裁判所に移送しなければならない。但し、控訴裁判所は、訴訟記録並びに原裁判所及び控訴裁判所において取り調べた証拠によつて、直ちに判決をすることができるものと認めるときは、被告事件について更に判決をすることができる。
前の2条というのは、先ほどの管轄違いなどの第398条と第399条です。それ以外の理由で破棄するときは、原則として、差戻しか移送です。差戻しは、原裁判所、つまり第一審の裁判所に事件を返すことです。移送は、原裁判所と同等の、ほかの裁判所に事件を移すことです。原則が差戻しか移送なのは、控訴審が事後審だからです。最初から判決を作り直す場所ではなく、誤りがあるから、第一審でやり直しなさい、と命じるのが本来の姿です。第一審は、証人を目の前で聞く直接主義で審理した裁判所なので、やり直しも、そこで行うのが筋だと説明されます。例外が、但書です。訴訟記録と、原裁判所と控訴裁判所で取り調べた証拠によって、直ちに判決できるときは、控訴裁判所が自分で判決をします。これが、前半で出てきた自判です。自判のときも、被告人だけが控訴した事件なら、原判決より重い刑は言い渡せません。第402条です。Zの設例に戻ります。控訴審が、Zの量刑が不当だと考えて破棄するなら、第一審に差し戻すか、自分で判決をするか。記録だけで判断できるなら、自判もありえます。
無罪を破棄して有罪にする・事実の取調べ
図:破棄後の処理
- 続き
- 無罪を破棄して有罪の自判をするとき。最大判昭31・7・18=第一審が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言い渡した場合、控訴裁判所が破棄し、訴訟記録と第一審で取り調べた証拠のみで直ちに犯罪事実を確定して有罪の判決をすることは許されない(被告人の憲法上の権利を害し、直接審理主義・口頭弁論主義を害する)→400条但書は使えない→差戻し・移送するか、控訴審が自ら事実の取調べをする。補強=同じ型が事実誤認(証明がないとして無罪)の場合にも大法廷で示され(最大判昭31・9・26)、令和2年の最高裁もいまも維持。Zで受ける(問い③)=検察官も詐欺の無罪に控訴し、控訴審が詐欺は成立すると考えた場合→記録だけで有罪自判はできない
最後の問いが残っています。検察官も詐欺の無罪に控訴していて、控訴審が詐欺は成立すると考えた。このとき、記録を読んだだけで、有罪の自判をしてよいのでしょうか。事案です。船舶を無許可で輸出した行為が、当時の関税法の貨物に当たるかが争われました。第一審は、貨物に船舶は含まれない、という法令の解釈で、事実を確定しないまま無罪にしました。控訴審は、これを破棄して、書面を読んだだけで、有罪の自判をしました。最高裁の大法廷は、こう言いました。
判例最大判昭31・7・18 刑集10巻7号1147頁
無罪を破棄して有罪自判するには 被告人等は公開の法廷において、その面前で、適法な証拠調の手続が行われ、被告人等がこれに対する意見弁解を述べる機会を与えられた上でなければ、犯罪事実を確定され有罪の判決を言渡されることのない権利を保有するものといわなければならない。 それゆえ本件の如く、第一審判決が被告人の犯罪事実の存在を確定せず無罪を言渡した場合に、控訴裁判所が第一審判決を破棄し、訴訟記録並びに第一審裁判所において取り調べた証拠のみによつて、直ちに被告事件について犯罪事実の存在を確定し有罪の判決をすることは、被告人の前記憲法上の権利を害し、直接審理主義、口頭弁論主義の原則を害することになるから、かゝる場合には刑訴四〇〇条但書の規定によることは許されないものと解さなければならない。
被告人には、公開の法廷で、目の前で適法な証拠調べが行われ、意見や弁解を述べる機会を与えられたうえでなければ、有罪にされない権利があります。それなのに、第一審が事実を確定せずに無罪にした事件で、控訴審が、記録と第一審で調べた証拠だけで、犯罪事実を確定して有罪にする。これは、その権利を害し、直接主義と口頭主義にも反します。口頭主義は、公判の原則の回で見た、審理の中身を法廷で口頭で明らかにする、という原則です。判決の言う口頭弁論主義は、これのことです。だから、第400条但書の自判は使えません。では、どうするか。第一審に差し戻すか、移送するか。あるいは、控訴審が自分で事実の取調べをして、そのうえで自判します。事実の取調べは、前回見た第393条です。前回は、控訴審が調査に必要なときに使える手段として見ました。無罪を有罪に変えて自判するときは、その取調べが、自判の前提になります。事後審なのに、事実の取調べが要る場面があるのは、不思議に見えます。ただ、ここは、控訴審が自分で犯罪事実を新たに確定して、無罪を有罪に変えるときだ、と押さえれば筋が通ります。無罪を有罪に変えるのだから、被告人に、証拠調べと弁解の機会を与えなければなりません。射程も確認します。この判例は、事実を確定しないまま無罪にした場合の事案でした。その後、証拠が足りないとして無罪にした場合、いわゆる事実誤認の型にも、同じ結論が大法廷で示されています。近年の最高裁も、この考え方は変更する必要がない、と維持しています。いまも通用する規範です。
Zの3つ目の問いの続きです。検察官も控訴していれば、詐欺は攻防の対象に残ります。けれど、控訴審が詐欺は成立すると考えても、記録だけで有罪の自判はできません。第一審に差し戻すか、移送するか、事実の取調べをしたうえで自判するか、です。
破棄判決の拘束力
図:破棄判決の拘束力
- 裁判所法4条=上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する
- 破棄差戻し後の第一審は、破棄の判断に反することは許されない
- 理由=事件が上下の審級の間を往復し続けるのを防ぐ
- 範囲(最判昭43・10・25 刑集22巻11号961頁)=最高裁が高裁判決を破棄した事件で拘束力の範囲を述べた例
- 「破棄判決の拘束力は、破棄の直接の理由、すなわち原判決に対する消極的否定的判断についてのみ生ずるものであり、その消極的否定的判断を裏付ける積極的肯定的事由についての判断は、破棄の理由に対しては縁由的な関係に立つにとどまりなんらの拘束力を生ずるものではない」
最後の論点は、破棄判決の拘束力です。差し戻された第一審の裁判所は、控訴審の破棄の判断を、どこまで守る必要があるのか。
条文裁判所法第4条
裁判所法第4条 上級審の裁判所の裁判における判断は、その事件について下級審の裁判所を拘束する。
上級審の判断は、その事件について、下級審を拘束します。破棄されて差し戻された第一審の裁判所は、破棄の判断に反する判断をしてはいけません。理由は、同じ判断の食い違いが繰り返されて、事件が上下の裁判所を行き来し続けるのを防ぐためです。これを、破棄判決の拘束力といいます。全部ではありません。判例は、拘束力の範囲を絞っています。事案は、最高裁が高裁の判決を破棄した事件で、その後の上告審の判決が、拘束力の範囲を述べたものです。判決は、こう言っています。拘束力は、破棄の直接の理由になった、原判決に対する消極的否定的判断についてのみ生じる。それを裏付ける積極的肯定的な判断は、破棄の理由に対しては縁由的な関係、つまり間接的な関係にとどまり、拘束力を生じない、と、言い換えます。原判決のこの判断は誤りだ、という否定の部分が、下級審を縛ります。そう判断する根拠として、積極的に述べられた事情までは、縛りません。Zで置き直します。検察官も控訴し、控訴審が、取引先は領収書を信じていない、とした第一審の判断は誤りだとして、破棄して差し戻したとします。理由には、取引先の担当者の証言は信用できる、と書かれていました。差し戻された第一審は、同じ証拠のまま、取引先は信じていない、と判断し直すことはできません。ここが縛られる否定の部分です。けれど、担当者の証言は信用できる、という理由まで、そのまま採る義務はありません。往復を止めるには、同じ誤りを繰り返させなければ足ります。だから、縛るのは否定の部分だけです。この範囲の絞りが、短答で問われやすいところです。なお、この判例は上告審の破棄の例ですが、第4条の文言は、上級審の裁判所の判断が、下級審の裁判所を拘束する、というものなので、控訴審の破棄差戻しにも、そのまま及びます。
節目のミニ事例
図:節目のミニ事例
- 設定を入れ替えて結論を確かめる
- 問1=Zの設例で、検察官も詐欺の無罪に控訴していた
- 控訴審は詐欺を調べられるか→調べられる(検察官が控訴した=攻防の対象に残る。Zだけの控訴のときと結論が逆)
- 問2=Zは共犯者と共謀して倉庫の荷物を盗んだとして窃盗の共同正犯(本位的訴因)で起訴
- 第一審は共同正犯を認めず予備的訴因の幇助犯だけを認めて有罪
- Zだけが控訴
- 控訴審が共同正犯と考えて有罪自判できるか→できない(共同正犯と幇助は構成要件が違い軽重がある→検察官は断念したとみられる)
- 問3=Zは工場のクレーン作業で同僚にけがをさせたとして業務上過失傷害で起訴
- 本位的訴因=合図の確認を怠った過失/予備的訴因=荷の固定を怠った過失(同一の事故の過失の態様の違い)
- 第一審は予備的訴因を認定
- Zだけが控訴し、控訴審が破棄して差し戻した
- 差戻審が本位的訴因を認定できるか→できる
- 問4=検察官が控訴した事件で、控訴審が第一審の無罪を記録だけで破棄し有罪の自判→違法(事実の取調べが要る)
- 分かれ目=誰が控訴したか/検察官が断念したとみられるか/事実の取調べの有無
節目のミニ事例です。設定を入れ替えて、結論がどう変わるかを確かめます。1つ目。Zの設例で、検察官も、詐欺の無罪に控訴していました。控訴審は、詐欺を調べられるでしょうか。調べられます。検察官が控訴しているので、詐欺は攻防の対象に残っています。Zだけが控訴した場合とは、結論が逆になりました。2つ目。Zは、共犯者と共謀して倉庫の荷物を盗んだとして、窃盗の共同正犯の訴因で起訴されました。これが本位的訴因です。第一審は、共同正犯は認めず、予備的訴因の幇助犯だけを認めて、有罪にしました。Zだけが控訴しました。控訴審は、記録を読んで、共同正犯だと考えました。有罪の自判をできるでしょうか。
できません。共同正犯と幇助犯は構成要件が違って、重さも違います。検察官が控訴していないので、本位的訴因の追行を断念したとみられて、攻防の対象から外れています。3つ目。Zは、工場のクレーン作業で同僚にけがをさせたとして、業務上過失傷害で起訴されました。本位的訴因は、合図の確認を怠った過失。予備的訴因は、荷の固定を怠った過失です。同じ事故の、過失のあり方の違いです。第一審は、予備的訴因を認定しました。Zだけが控訴し、控訴審が破棄して差し戻しました。差戻審は、本位的訴因を認定できるでしょうか。できます。同じ事故の過失の違いなので、検察官が断念したとはいえません。2つ目と3つ目は、検察官が追行を断念したとみられるかで、結論が逆になりました。4つ目。検察官が控訴した事件で、控訴審が、第一審の無罪判決を、記録だけを読んで破棄し、有罪の自判をしました。適法でしょうか。
違法です。無罪を覆して有罪にするには、事実の取調べが必要です。整理しましょう。1つ目と、元の問いは、誰が控訴したかで結論が逆になります。2つ目と3つ目は、断念とみられるかで結論が逆になります。4つ目は、事実の取調べの有無です。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- Zの答え
- ①詐欺の部分は、被告人に不服の利益がなく検察官も控訴していない=攻防の対象から外れ、移審していても調べて有罪にできない
- ②402条は刑を重くできるかの問い
- 攻防対象論は争いの外の部分を調べてよいかの問い=別
- ③検察官も控訴していれば調べられる
- ただし無罪を破棄して有罪自判するには事実の取調べが要る
- 展開=検察官が訴追を断念したとみられるか
- 控訴審の流れ=控訴申立書→記録送付→趣意書→調査・取調べ→棄却(不適法・趣意書の不備=決定/不適法・理由なし=判決)/破棄(397条)→差戻し・移送が原則/直ちに判決できるとき自判(400条)→破棄判決は下級審を拘束(裁判所法4条)→判決に不服なら上告
Zの3つの問いに、順に答えます。1つ目。詐欺の部分は、被告人に不服の利益がなく、検察官も控訴していません。攻防の対象から外れているので、事件が移ってきていても、控訴審は調べて有罪にはできません。2つ目。第402条は、刑を重くできるか、という問いです。攻防対象論は、争いの外の部分を調べて、認定してよいか、という問いです。別の問いなので、刑が重くならなくても、調べてよいことにはなりません。3つ目。検察官も控訴していれば、調べられます。ただし、無罪を破棄して有罪の自判をするには、事実の取調べが要ります。展開の分かれ目は、検察官が訴追を断念したとみられるかでした。同じ事故の過失のあり方の違いなら断念とはいえず、重い共同正犯に対して軽い幇助犯が認定されたのに控訴しなければ、断念とみられます。控訴審の裁判を一覧にします。不適法な控訴と、趣意書の不備は、決定で棄却。公判を開いて不適法と分かったとき、理由がないときは、判決で棄却。理由があれば、判決で破棄します。破棄したあとは、差戻しか移送が原則で、直ちに判決できるときだけ自判です。破棄判決は、下級審を拘束します。控訴審の判決に不服があれば、最高裁に上告できます。
参照条文
- 刑事訴訟法第392条
- 刑事訴訟法第402条
- 刑事訴訟法第385条第1項・第2項
- 刑事訴訟法第395条
- 刑事訴訟法第386条第1項・第2項
- 刑事訴訟法第396条
- 刑事訴訟法第397条第1項・第2項
- 刑事訴訟法第400条
- 裁判所法第4条