刑事訴訟法ゼロから刑事訴訟法#168

刑事訴訟法の歴史と改革の現在地

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第9章 総まとめ ①/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

導入

今日の問いと条文の貸し借り。問い①刑事訴訟法222条1項は、なぜ総則の条文をこんなに借りてくるのか(第九十九条第一項、第百条、第百二条、第百三条から第百五条まで、第百十条……を準用)。問い②316条の2、350条の2……と、枝番の条文はなぜ多いのか。総則(第1編)には裁判所の権限が置かれ、捜査機関は222条1項で準用し、令状を出す裁判官は207条1項で「裁判所又は裁判長と同一の権限」を持つ。今日の地図=4本の筋(条文の並び・市民の参加・起訴の選別・防御の拡充)と現在地。2026年10月時点の法律 図:今日の問いと条文の貸し借り

  • 問い①刑事訴訟法222条1項は、なぜ総則の条文をこんなに借りてくるのか(第九十九条第一項、第百条、第百二条、第百三条から第百五条まで、第百十条……を準用)
  • 問い②316条の2、350条の2……と、枝番の条文はなぜ多いのか
  • 総則(第1編)には裁判所の権限が置かれ、捜査機関は222条1項で準用し、令状を出す裁判官は207条1項で「裁判所又は裁判長と同一の権限」を持つ
  • 今日の地図=4本の筋(条文の並び・市民の参加・起訴の選別・防御の拡充)と現在地
  • 2026年10月時点の法律

第8章の再審と非常上告まで、刑事手続を、捜査から救済まで通してきました。最後の1本は、手続の流れではなく、条文そのものを歴史の側から見直します。思い出してほしい条文が2つあります。1つ目は、捜査の章で読んだ第222条です。第1項が、第99条第1項、第100条、第102条、第103条から第105条まで、第110条と、総則の条文を次々に準用していました。捜索や差押えの規定を、捜査機関のために書き直さず、総則から借りてくる形です。読んでいて疲れる条文ですが、こうなっているのには理由があるはずです。これが1つ目の問いです。第222条は、なぜ総則の条文を何十も借りてくるのか。2つ目の問いは、第316条の2や第350条の2のような、枝番のついた条文です。公判前整理手続も、証拠の開示も、枝番の条文の中にありました。なぜ、枝番の条文はこんなに多いのか。数えてみました。2026年10月の現行条文で、条番号に枝番のある条は211あります。本則の条文723のうち、約3割にあたります。

この2つの問いの答えは、歴史にあります。今日は4本の筋で歴史を通します。1本目は条文の並び。2本目は市民の参加。3本目は起訴の選別。4本目は防御の拡充です。そのあと、いまの法律がどこまで変わったかを、日付つきで確かめます。最後に判例と立法の関係を考え、ミニ事例で確かめて、手続の地図で全体を振り返ります。先に、見方を一つ渡します。古い家に増築を重ねた建物を思い浮かべてください。柱と間取りは昔のまま、新しい部屋は、あとから廊下の途中に差し込まれます。部屋番号を振り直さないなら、3号室の2という番号になります。刑事訴訟法の条文も、この姿に近いのです。

筋1 条文の並びに残る歴史

年表 4つの法律。治罪法(明治13年に公布)→明治の刑事訴訟法(明治23年に公布・同年11月1日に施行・治罪法を廃止)→旧刑事訴訟法(大正11年に公布・大正13年1月1日に施行)→現行刑事訴訟法(昭和23年7月10日に公布・昭和24年1月1日に施行・旧法の全部改正)。公布の年と施行の年は別。2026年10月時点の法律 図:年表 4つの法律

  • 治罪法(明治13年に公布)→明治の刑事訴訟法(明治23年に公布・同年11月1日に施行・治罪法を廃止)→旧刑事訴訟法(大正11年に公布・大正13年1月1日に施行)→現行刑事訴訟法(昭和23年7月10日に公布・昭和24年1月1日に施行・旧法の全部改正)
  • 公布の年と施行の年は別
  • 2026年10月時点の法律

1本目の筋は、条文の並びです。日本の刑事手続の法典を、年表にします。最初は、明治13年に公布された治罪法です。フランス法の影響を受けたとされています。明治23年には、明治の刑事訴訟法が公布され、同じ年の11月1日に施行されて、治罪法は廃止されました。次が旧刑事訴訟法で、大正11年に公布され、大正13年1月1日に施行されました。ここまでが戦前の法典です。そして、いまの刑事訴訟法です。昭和23年7月10日に公布され、昭和24年、つまり1949年の1月1日に施行されました。公布の年と施行の年は別、という点を、年表で確かめてください。

いまの刑事訴訟法は、形の上では、ゼロから作られた法典ではありません。旧刑事訴訟法の全部改正として成立しました。編の並びが、その痕跡です。総則から始まり、第一審、上訴、再審、非常上告、略式手続、裁判の執行と進む骨組みは、旧法から受け継がれています。一方で、中身には新しい考え方が入りました。予審、つまり公判の前に裁判官が事件を調べる手続は、なくなりました。起訴状一本主義が第256条第6項に、訴因制度が第256条第3項に置かれました。当事者主義的な仕組みが、このとき整えられたのです。まとめると、旧法の枠に新しい考え方を組み込んだ法典、と見ることができます。大陸法系、つまりフランスやドイツなどヨーロッパ大陸の法の系統の枠組みに、英米法、つまりイギリスやアメリカの法の系統の考え方を大きく加えたもの、と説明されます。

今日の問いと条文の貸し借り。問い①刑事訴訟法222条1項は、なぜ総則の条文をこんなに借りてくるのか(第九十九条第一項、第百条、第百二条、第百三条から第百五条まで、第百十条……を準用)。問い②316条の2、350条の2……と、枝番の条文はなぜ多いのか。総則(第1編)には裁判所の権限が置かれ、捜査機関は222条1項で準用し、令状を出す裁判官は207条1項で「裁判所又は裁判長と同一の権限」を持つ。今日の地図=4本の筋(条文の並び・市民の参加・起訴の選別・防御の拡充)と現在地。2026年10月時点の法律 図:今日の問いと条文の貸し借り

  • 問い①刑事訴訟法222条1項は、なぜ総則の条文をこんなに借りてくるのか(第九十九条第一項、第百条、第百二条、第百三条から第百五条まで、第百十条……を準用)
  • 問い②316条の2、350条の2……と、枝番の条文はなぜ多いのか
  • 総則(第1編)には裁判所の権限が置かれ、捜査機関は222条1項で準用し、令状を出す裁判官は207条1項で「裁判所又は裁判長と同一の権限」を持つ
  • 今日の地図=4本の筋(条文の並び・市民の参加・起訴の選別・防御の拡充)と現在地
  • 2026年10月時点の法律

冒頭の第222条の疑問に戻ります。総則、つまり第1編には、裁判所の権限が、まとめて置かれています。押収、捜索、検証、勾留などです。総則から始まるこの並びは、旧法から受け継いだものでした。捜査機関については、同じ中身を捜査の編にもう一度書くのではなく、総則にある条文を当てはめる、と第222条第1項が定めました。旧法の編成を引き継いだまま、捜査段階の令状主義などを組み込んだ結果、捜査機関の権限は、総則の条文を準用して借りる形になった、と説明されています。貸し借りは、もう1か所あります。令状を出す裁判官です。勾留の請求を受けた裁判官について、第207条第1項が何と定めているか、全文で読みます。

条文刑事訴訟法第207条第1項

刑事訴訟法第207条(第1項) 前三条の規定による勾留の請求を受けた裁判官は、その処分に関し裁判所又は裁判長と同一の権限を有する。但し、保釈については、この限りでない。

前三条とは、第204条から第206条です。その規定による勾留の請求を受けた裁判官は、勾留という処分に関して、裁判所又は裁判長と同一の権限を持ちます。ただし、保釈には、この権限が及びません。裁判所の権限を、捜査の段階の裁判官に貸す書き方です。ここで1問です。勾留の請求を受けた裁判官は、保釈を除いて、何と同一の権限を持つでしょうか? 答えを言葉にしてから、続きを聞いてください。条文は、裁判所又は裁判長と、並べています。勾留の請求を受けた裁判官は、保釈を除き、裁判所又は裁判長と同一の権限を有します。ひとつの条文が、裁判所の権限を、令状を出す裁判官に貸している形です。

枝番の例。足した条は枝番になる。222条の3=平成11年・通信傍受の根拠(当時は222条の2。令和8年5月21日に繰り下がり)/316条の2=平成16年・公判前整理手続/301条の2=平成28年の改正・取調べの録音・録画(施行は令和元年)/102条の2=令和7年法律第39号・電磁的記録提供命令(令和8年5月21日施行)/450条の2=令和8年法律第67号・再審(令和8年8月13日施行)。条番号は動かさずに差し込む 図:枝番の例

  • 足した条は枝番になる
  • 222条の3=平成11年・通信傍受の根拠(当時は222条の2。令和8年5月21日に繰り下がり)/316条の2=平成16年・公判前整理手続/301条の2=平成28年の改正・取調べの録音・録画(施行は令和元年)/102条の2=令和7年法律第39号・電磁的記録提供命令(令和8年5月21日施行)/450条の2=令和8年法律第67号・再審(令和8年8月13日施行)
  • 条番号は動かさずに差し込む

もう一つの問い、枝番です。足した条は、枝番になります。5つ見ます。通信傍受の根拠となる規定は、平成11年に設けられました。当時は第222条の2でしたが、令和7年の改正で、新しい第222条の2が入ったため、いまは第222条の3になっています。第316条の2は、平成16年の改正で入り、公判前整理手続を定めます。第301条の2は、平成28年の改正で入った取調べの録音・録画の規定で、施行は令和元年です。第102条の2は、令和7年法律第39号で入った電磁的記録提供命令で、令和8年5月21日から施行されています。第450条の2は、令和8年法律第67号で入った再審の規定で、令和8年8月13日に施行されました。

条番号を動かさずに差し込めば、既存の条を引用している他の規定との対応が崩れません。枝番は、そのための形だ、と見ると読みやすくなります。2つの問いの答えを、並べます。第222条の長い準用は、旧法の編成の上に、捜査の規定を載せた跡です。枝番は、あとから足された制度の跡です。冒頭の増築した家に重ねると、昔のままの柱と間取りが旧法から受け継いだ編の並びに、廊下の途中に差し込んだ3号室の2が枝番にあたります。条文は歴史の地層、と見てください。

筋2 市民の参加

市民参加の年表。陪審法=大正12年に公布→昭和3年10月1日に全面施行→昭和18年4月1日に施行が停止。検察審査会法=昭和23年に公布・即日施行。起訴議決の導入=平成16年に公布→平成21年5月21日に施行。裁判員法=平成16年に公布→平成21年5月21日に施行。公布と施行は別 図:市民参加の年表

  • 陪審法=大正12年に公布→昭和3年10月1日に全面施行→昭和18年4月1日に施行が停止
  • 検察審査会法=昭和23年に公布・即日施行
  • 起訴議決の導入=平成16年に公布→平成21年5月21日に施行
  • 裁判員法=平成16年に公布→平成21年5月21日に施行
  • 公布と施行は別

1本目は、条文の並びそのものの話でした。ここからの3本は、制度ごとに、いつ入り、どう引き継がれたかを見ます。2本目の筋は、市民の参加です。3つの制度を、年表で並べます。まず陪審法です。大正12年に公布され、昭和2年に一部が施行され、昭和3年10月1日に全面施行されました。ところが昭和18年4月1日、陪審法ノ停止ニ関スル法律が公布・施行され、陪審法の施行が止められました。次に検察審査会です。検察審査会法は、昭和23年7月12日に公布され、即日施行されました。刑事訴訟法の施行は昭和24年ですから、検察審査会のほうが先に動き出しています。その後、起訴議決に拘束力を持たせる改正が、平成16年に公布され、平成21年5月21日に施行されました。最後が裁判員法です。これも平成16年に公布され、平成21年5月21日に施行されました。起訴議決と、同じ日です。

起訴議決も裁判員法も、公布のあと施行までに、準備の期間を置いた形です。ここでも、公布の年と施行の年は別、という区別が効いてきます。

陪審法の骨格。2条=死刑・無期の事件は原則として陪審の評議に付す(法定陪審)/3条=長期3年を超える事件は被告人の請求で付す(請求陪審)/12条=陪審員の資格は30歳以上の男子・引き続き2年以上同一市町村内に住居・引き続き2年以上直接国税3円以上・読み書きができること/29条=陪審員は12人。陪審は事実の有無を答申し、裁判所は答申に拘束されない。昭和18年の停止法=廃止ではなく停止。使われなくなった理由として挙げられるもの=様々な見解がある 図:陪審法の骨格

  • 2条=死刑・無期の事件は原則として陪審の評議に付す(法定陪審)/3条=長期3年を超える事件は被告人の請求で付す(請求陪審)/12条=陪審員の資格は30歳以上の男子・引き続き2年以上同一市町村内に住居・引き続き2年以上直接国税3円以上・読み書きができること/29条=陪審員は12人
  • 陪審は事実の有無を答申し、裁判所は答申に拘束されない
  • 昭和18年の停止法=廃止ではなく停止
  • 使われなくなった理由として挙げられるもの=様々な見解がある

陪審法の中身を、条文で見ておきます。陪審員は12人でした。第29条です。死刑や無期の事件は、原則として陪審の評議に付されました。これを法定陪審といい、第2条です。長期3年を超える事件は、被告人の請求があれば付されました。これは請求陪審で、第3条です。陪審員の資格は、第12条にあります。30歳以上の男子で、引き続き2年以上同じ市町村に住み、引き続き2年以上、直接国税を3円以上納め、読み書きができることでした。いまの裁判員とは、ずいぶん違う顔ぶれです。もう一つ大事な点があります。陪審は、事実の有無について答申をします。答申とは、問われた点への答えを出すことです。ただし、裁判所は、その答申に拘束されませんでした。裁判員が裁判官と一緒に評議して判決を決めるのとは、仕組みが異なります。

停止と廃止は、別です。陪審法ノ停止ニ関スル法律の附則は、今次の戦争が終わったら再施行するものとする、と定めていました。施行を止めただけで、法律をなくしたわけではありません。陪審が使われなくなった理由には、様々な見解があります。挙げられているものは3つです。法曹三者が陪審裁判に消極的だったこと。請求陪審では、有罪になると被告人が費用を負担したため、辞退する被告人が多かったこと。戦火の拡大で、労力や費用のかかる陪審裁判が敬遠されたこと、などです。検察審査会の仕組みは、起訴のところで学んだとおりです。起訴相当の議決のあと、検察官がまた不起訴にしたときに、もう一度審査して出す2度目の議決が、起訴議決でした。起訴議決が出ると、指定弁護士が検察官に代わって公訴を提起します。この拘束力は、平成16年の改正までありませんでした。それ以前は、起訴相当の議決が出ても、検察官が不起訴を維持できたのです。

意見書の柱と、対応する法律。司法制度改革審議会の意見書(平成13年)=国民が裁判官と共に責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的・実質的に関与できる新たな制度を導入すること。同じ意見書に並んだ項目と対応する法律=裁判員制度→裁判員法(平成16年法律第63号・平成21年5月21日施行)/争点整理のための新たな準備手続と証拠開示の拡充→平成16年法律第62号(公判前整理手続は平成17年11月1日)/被疑者・被告人の公的弁護制度→同法(被疑者国選は平成18年10月2日)/検察審査会の議決への法的拘束力→同法(起訴議決は平成21年5月21日)。即決裁判手続も同法(平成18年10月2日) 図:意見書の柱と、対応する法律

  • 司法制度改革審議会の意見書(平成13年)=国民が裁判官と共に責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的・実質的に関与できる新たな制度を導入すること
  • 同じ意見書に並んだ項目と対応する法律=裁判員制度→裁判員法(平成16年法律第63号・平成21年5月21日施行)/争点整理のための新たな準備手続と証拠開示の拡充→平成16年法律第62号(公判前整理手続は平成17年11月1日)/被疑者・被告人の公的弁護制度→同法(被疑者国選は平成18年10月2日)/検察審査会の議決への法的拘束力→同法(起訴議決は平成21年5月21日)
  • 即決裁判手続も同法(平成18年10月2日)

裁判員制度の導入の経緯を見ます。平成13年に、司法制度改革審議会が意見書を出しました。意見書は、刑事裁判について、国民が裁判官と共に責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的かつ実質的に関与できる新たな制度を導入すること、を柱に挙げました。同じ意見書の中には、ほかの項目も並んでいました。争点整理のための新たな準備手続の創設と、証拠開示の拡充。公判の連日的開廷。被疑者や被告人の公的弁護制度。検察審査会の一定の議決への法的拘束力です。対応する法律を、板で見ます。裁判員制度は、裁判員法です。平成16年法律第63号で、施行は平成21年5月21日でした。ほかの項目の多くは、同じ平成16年の法律第62号、刑事訴訟法等の改正に入っています。公判前整理手続は平成17年11月1日。被疑者国選と、次に述べる即決裁判手続は、平成18年10月2日。起訴議決は平成21年5月21日です。

同じ意見書の柱が、別々の法律で、別々の日に実現した、という見方が使えます。日付を問われたときは、どの法律のどの項目かを分けて覚えると整理できます。裁判員制度の趣旨は、条文の言葉で確かめます。第1条を、全文で読みます。

条文裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第1条

裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第1条 この法律は、国民の中から選任された裁判員が裁判官と共に刑事訴訟手続に関与することが司法に対する国民の理解の増進とその信頼の向上に資することにかんがみ、裁判員の参加する刑事裁判に関し、裁判所法(昭和二十二年法律第五十九号)及び刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)の特則その他の必要な事項を定めるものとする。

条文の言葉で言えば、裁判員が裁判官と共に手続に関与することが、司法に対する国民の理解の増進と、その信頼の向上に資する、という趣旨です。裁判員制度の中身は、裁判員のところで学びました。ここでは、導入の事実と、条文が掲げる趣旨だけを押さえます。公判前整理手続と即決裁判手続の位置づけも、確かめます。公判前整理手続は、裁判員裁判の対象事件では、必ず付されます。裁判員法第49条です。一方、刑事訴訟法の手続としては、対象事件に限らず付すことができます。第316条の2です。即決裁判手続は、同じ平成16年の改正で入りました。明白で軽微な事件で、被疑者の同意があるときに、簡易迅速に処理する手続です。争いのない、簡易で明白な事件について、手続を合理化し、効率化する手続として設けられました。

即決裁判手続の利用は、伸びなかったとされます。平成24年から令和3年までの数字で見ます。司法統計年報によると、地方裁判所で、即決裁判手続により審判する旨の決定のあった人数は、平成24年に1,391人、令和元年に90人、令和3年には137人です。平成28年の改正では、公訴の取消しと再起訴の規定が入りました。いまの第350条の26です。中身は、即決裁判手続のところで学んだとおりです。

筋3 起訴の選別

起訴猶予の歴史。明治18年ごろ=運用として事実上始まる→旧刑事訴訟法279条=法律上初めて明文の根拠→現行248条に引き継がれた。始まりの理由として挙げられるもの=処罰の必要性の乏しい軽微事件の裁判を避ける刑事政策上の理由/監獄の経費を抑える国家財政上の理由。二面=①公判に付される前に手続から離れられる(烙印の回避・社会復帰・防御の負担の回避)/②検察官が有罪を見込める事件に絞って起訴する傾向があり、捜査で証拠を十分に固めようとする重心が捜査に寄る。 図:起訴猶予の歴史

  • 明治18年ごろ=運用として事実上始まる→旧刑事訴訟法279条=法律上初めて明文の根拠→現行248条に引き継がれた
  • 始まりの理由として挙げられるもの=処罰の必要性の乏しい軽微事件の裁判を避ける刑事政策上の理由/監獄の経費を抑える国家財政上の理由
  • 二面=①公判に付される前に手続から離れられる(烙印の回避・社会復帰・防御の負担の回避)/②検察官が有罪を見込める事件に絞って起訴する傾向があり、捜査で証拠を十分に固めようとする重心が捜査に寄る

3本目の筋は、起訴の選別です。検察官が、起訴するかどうかを選ぶ仕組みの歴史を見ます。起訴猶予は、明治18年ごろ、運用として事実上始まりました。法律上の根拠を初めて得たのは、旧刑事訴訟法の第279条です。それが、現行の第248条に引き継がれました。起訴猶予の制度は、戦前と戦後を通じて変わっていません。始まりの理由として挙げられるのは、処罰の必要性の乏しい軽微な事件の裁判を避ける、という刑事政策上の理由と、監獄の経費を抑える、という国家財政上の理由だと説明されています。現行の条文を、全文で読みます。

条文刑事訴訟法第248条

刑事訴訟法第248条 犯人の性格、年齢及び境遇、犯罪の軽重及び情状並びに犯罪後の情況により訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができる。

犯人の性格、年齢、境遇、犯罪の軽重と情状、犯罪後の情況によって、訴追を必要としないときは、公訴を提起しないことができます。有罪にできる事件でも、起訴しない選択があるわけです。運用が先で、明文があとから付き、現行法に引き継がれた、という順序を見てください。枝番で足された層ではなく、旧法から受け継いだ側の層にあたります。利点は確かにあります。公判に付される前に、手続から離れられます。有罪の烙印を避けられ、社会復帰がしやすく、公判で防御する負担も避けられます。一方で、もう一つの面が指摘されています。検察官が、有罪を見込める事件に絞って起訴する傾向があると、捜査の段階で証拠を十分に固めようとする重心が、捜査に寄ります。

起訴猶予の数字。令和6年の検察庁の終局処理人員総数78万2,735人(過失運転致死傷等及び道交違反を含む)のうち、起訴猶予は42万9,432人 図:起訴猶予の数字

数字を一つだけ見ておきます。令和6年の検察庁の終局処理人員は、過失運転致死傷等及び道交違反を含めて、総数78万2,735人でした。そのうち、起訴猶予は42万9,432人です。母集団を添えて読むと、起訴猶予が、実務の大きな部分を占めることが分かります。この選別のあり方は、捜査のとらえ方にも響きます。起訴にどの程度の嫌疑や事情を求めるかで、捜査に期待する役割が変わるからです。糾問的捜査観と弾劾的捜査観という、捜査の2つのとらえ方を学びました。糾問的捜査観は、捜査機関が優越する立場に立ち、被疑者を調べられる対象と見るとらえ方。弾劾的捜査観は、捜査を公判の準備と見て、被疑者を防御の主体と見るとらえ方でした。その違いは、この選別と、つながっています。

筋4 防御の拡充

防御の拡充の年表。当番弁護士=平成2年(1990年)9月に大分県弁護士会で始まり、平成4年(1992年)には全国52の弁護士会で実施。被疑者国選の3段階(当時の法文)=平成18年10月2日・死刑、無期、短期1年以上の懲役・禁錮に当たる事件/平成21年5月21日・死刑、無期、長期3年を超える懲役・禁錮に当たる事件/平成30年6月1日・勾留状が発せられている全事件(現行37条の2。改正は平成28年・法律第54号)。 図:防御の拡充の年表

  • 当番弁護士=平成2年(1990年)9月に大分県弁護士会で始まり、平成4年(1992年)には全国52の弁護士会で実施
  • 被疑者国選の3段階(当時の法文)=平成18年10月2日・死刑、無期、短期1年以上の懲役・禁錮に当たる事件/平成21年5月21日・死刑、無期、長期3年を超える懲役・禁錮に当たる事件/平成30年6月1日・勾留状が発せられている全事件(現行37条の2。改正は平成28年・法律第54号)

4本目の筋は、防御の拡充です。被疑者や被告人が、弁護人の助けを得られる範囲が、どう広がったかを見ます。出発点は、当番弁護士制度です。平成2年、1990年の9月に、大分県の弁護士会で始まりました。平成4年、1992年には、全国52の弁護士会で実施されたと、日弁連が公表しています。被疑者の段階に国選弁護がなかった時代に、弁護士会が担った仕組みでした。ここで、前に学んだことを1問だけ思い出してください。被疑者に国選弁護人を付ける制度は、憲法が直接に命じているでしょうか?

防御の拡充の年表(答え合わせ)。憲法34条=直ちに弁護人に依頼する権利/憲法37条3項=被告人が自ら依頼できないときは国で附する。被疑者国選の3段階は当時の法文。 図:防御の拡充の年表

  • 憲法34条=直ちに弁護人に依頼する権利
  • 憲法37条3項=被告人が自ら依頼できないときは国で附する
  • 被疑者国選の3段階は当時の法文

憲法の条文の差を、見直します。憲法34条が保障するのは、直ちに弁護人に依頼できることです。憲法37条3項は、被告人が自ら弁護人を依頼できないときは、国で附する、と定めています。国が付すと明文で書かれているのは、被告人についてだけです。被疑者に国が弁護人を付ける制度は、憲法の明文にはなく、法律、つまり刑事訴訟法第37条の2で設けられました。この条も、あとから足された枝番の条です。被疑者国選は、3段階で広がりました。まず平成18年10月2日に、死刑、無期、短期1年以上の懲役や禁錮に当たる事件が対象になりました。次に、平成21年5月21日に、死刑、無期、長期3年を超える懲役や禁錮に当たる事件へ広がりました。いずれも、当時の法文での対象です。3段階目が、平成30年6月1日。勾留状が発せられている全事件になり、これがいまの第37条の2です。日付の区別に注意してください。この拡大を決めた改正は、平成28年の法律第54号で、施行が2018年の6月1日です。改正の年と、施行の年は別です。

防御の拡充の年表(続き)。証拠開示=平成16年に公判前整理手続で立法化(316条の2以下)、平成28年の改正で拡充(平成28年12月1日施行) 図:防御の拡充の年表

  • 証拠開示=平成16年に公判前整理手続で立法化(316条の2以下)、平成28年の改正で拡充(平成28年12月1日施行)

被疑者国選の対象は、実際に段階を踏んで広がっています。証拠開示も、同じ流れの中にあります。平成16年の公判前整理手続の導入で、証拠開示が立法化されました。第316条の2以下です。平成28年の改正では、当事者が公判前整理手続を請求できることや、証拠の一覧表の交付、類型証拠開示の対象の拡大が入りました。施行は平成28年12月1日で、中身は、公判前整理手続のところで学びました。取調べの録音・録画は、このあとの平成28年改正でまとめて見ます。ここで一つだけ。取調べに弁護人が立ち会うことを定めた規定は、いまの刑事訴訟法にはありません。設けるべきだという議論が続いています。

平成28年改正をひとまとめに

平成28年法律第54号の背景。時系列で=平成22年に厚生労働省の元局長の事件で無罪判決→同年11月に法務省の「検察の在り方検討会議」→平成23年3月31日に提言「検察の再生に向けて」(取調べの可視化などを含む)→同年9月に「検察の理念」。 図:平成28年法律第54号の背景

平成28年の刑事訴訟法等の改正を、ひとまとめにして見ます。法律第54号です。まず背景を、時系列で並べます。平成22年に、厚生労働省の元局長の事件で、無罪判決が出ました。同じ年の11月に、法務省で検察の在り方検討会議が開かれ、平成23年3月31日に、取調べの可視化などを含む提言、検察の再生に向けて、がまとめられました。9月には、検察の理念も示されています。

平成28年法律第54号の背景(法制審議会の流れ)。平成23年6月に法制審議会の特別部会が設置され、平成25年1月の基本構想で2本の柱=「取調べへの過度の依存を改め、証拠収集手段を適正化・多様化するための方策」「供述調書への過度の依存を改め、より充実した公判審理を実現するための方策」→公布は2016年6月3日 図:平成28年法律第54号の背景

  • 平成23年6月に法制審議会の特別部会が設置され、平成25年1月の基本構想で2本の柱=「取調べへの過度の依存を改め、証拠収集手段を適正化・多様化するための方策」「供述調書への過度の依存を改め、より充実した公判審理を実現するための方策」→公布は2016年6月3日

法制審議会では、平成23年6月に特別部会が設置されました。平成25年1月の基本構想で、2本の柱が掲げられます。取調べへの過度の依存を改め、証拠収集手段を適正化、多様化するための方策。供述調書への過度の依存を改め、より充実した公判審理を実現するための方策。そして、平成28年6月3日に、法律第54号が公布されました。

平成28年法律第54号の9項目。9項目と施行日=職権保釈の考慮事情(90条)平成28年6月/被疑者国選の全勾留事件への拡大(37条の2)平成30年6月1日/取調べの録音・録画(301条の2)令和元年6月1日/合意制度・刑事免責 平成30年6月1日/公判前整理手続の充実(316条の2・14・15)平成28年12月1日/証人保護(氏名等の秘匿・勾引要件) 平成28年12月1日/被害者保護の拡充 平成30年6月1日/即決裁判手続の改正(公訴の取消しと再起訴・現350条の26)平成28年12月1日/通信傍受法の改正 平成28年12月1日・令和元年6月1日 図:平成28年法律第54号の9項目

軸は、取調べと供述調書に頼りすぎない方向、の1本です。この軸から9項目を見ると、取調べそのものを記録に残すのが、録音・録画。証拠を集める手段を広げるのが、合意制度と刑事免責と通信傍受。公判の審理の側では、証拠の開示を広げ、証人と被害者を守る措置を足しました。残る保釈、被疑者国選、即決裁判手続も、同じ2本の柱の下に置かれた項目です。保釈と被疑者国選は取調べに頼る捜査を改める柱の側、即決裁判手続は供述調書に頼る公判を改める柱の側で、身体の拘束と弁護と手続の見直しにあたります。そのうえで、学んだ回と、施行日で結んで読みます。1つ目は、職権保釈の考慮事情です。職権保釈は、裁判所が適当と認めるときに、職権で許す保釈でした。その判断で、逃亡や罪証隠滅のおそれの程度と、拘束が続くことで被告人が受ける不利益の程度を考慮する、と保釈のところで学びました。施行は平成28年6月です。2つ目は、被疑者国選が全勾留事件に広がったことで、施行は平成30年6月1日。3つ目は、取調べの録音・録画で、第301条の2です。対象は、条文の3類型でした。死刑又は無期の事件。短期1年以上の拘禁刑に当たる罪で、故意の犯罪行為により被害者を死亡させたもの。そして検察官が独自に捜査した事件です。施行は令和元年6月1日です。4つ目は、合意制度と刑事免責です。合意制度は、一定の財政経済犯罪や薬物銃器犯罪について、他人の刑事事件の解明に協力する見返りに、検察官が処分を軽くする制度でした。刑事免責は、裁判所が証人に免責を与えて、証言拒絶権を失わせる制度です。どちらも施行は平成30年6月1日。5つ目は、公判前整理手続の充実で、第316条の2と、第316条の14、第316条の15です。施行は平成28年12月1日です。6つ目は、証人保護と証言確保です。証人保護のところで学んだとおり、証人の氏名などを秘匿する対象が広がりました。これも同じ平成28年12月1日の施行です。7つ目は、被害者保護の拡充で、裁判所の構内まで来なくても証言できる、構外ビデオリンクなどが入り、平成30年6月1日。8つ目は、即決裁判手続の改正で、公訴の取消しと再起訴の規定です。平成28年12月1日の施行で、入った当時は第350条の12。平成30年6月1日に合意制度が入った条番号のずれで、いまの第350条の26になりました。

9つ目が、通信傍受法の改正です。通信傍受のところで学んだ、対象犯罪の追加と、2つの新しい方式が、この改正でした。再生する場面だけ立会いを置く一時的保存命令方式と、捜査機関の施設で立会いなしに行う特定電子計算機方式です。施行は2段階で、平成28年12月1日と、令和元年6月1日でした。一括改正は、1つの方向に沿った項目の束、と読みます。この束が、枝番の条文を一度に増やしました。冒頭の問いの2つ目への、答えのひとつです。

現在地1 手続のデジタル化

手続のデジタル化。2026年10月時点の法律。令和7年法律第39号(令和7年5月23日に公布)。令和7年6月12日に一部施行(施行済み)=電磁的記録の取調べの方式(307条の2)など/令和8年5月21日に施行(施行済み・現行法)=記録命令付差押えが廃止され、電磁的記録提供命令(102条の2)が新設・秘密保持命令/残り(未施行)=令状(逮捕状・捜索差押許可状など)の電子的な請求・発付、書類の電子化、申立て等の電子的な提出(54条の2以下)など。施行日は「令和9年3月31日までの間において政令で定める日」(上限であって施行日ではない) 図:手続のデジタル化

  • 2026年10月時点の法律
  • 令和7年法律第39号(令和7年5月23日に公布)
  • 令和7年6月12日に一部施行(施行済み)=電磁的記録の取調べの方式(307条の2)など/令和8年5月21日に施行(施行済み・現行法)=記録命令付差押えが廃止され、電磁的記録提供命令(102条の2)が新設・秘密保持命令/残り(未施行)=令状(逮捕状・捜索差押許可状など)の電子的な請求・発付、書類の電子化、申立て等の電子的な提出(54条の2以下)など
  • 施行日は「令和9年3月31日までの間において政令で定める日」(上限であって施行日ではない)

ここからは、現在地です。いまの法律が、どこまで変わったかを、日付で分けて確かめます。基準は、2026年10月時点の法律です。1つ目は、手続のデジタル化です。情報通信技術の進展等に対応するための刑事訴訟法等の一部を改正する法律、令和7年法律第39号です。令和7年5月23日に公布されました。施行は段階的で、3つに分かれます。1段階目は、令和7年6月12日です。電磁的記録の取調べの方式を定める第307条の2などが、施行済みです。2段階目は、令和8年5月21日で、これも施行済み、つまり現行法です。記録命令付差押えが廃止され、電磁的記録提供命令が、第102条の2に新設されました。記録媒体ごと差し押さえる形から、必要なデータを提供させる形への組み替えでした。命令を受けたことなどを口外しないよう命じる秘密保持命令も、この日からです。中身は、電磁的記録のところで学びました。

3段階目の施行日は、まだ決まっていません。対象は、逮捕状や捜索差押許可状といった令状の電子的な請求と発付、書類の電子化、申立てなどの電子的な提出です。施行日は、令和9年3月31日までの間において政令で定める日、とされています。これは上限であって、施行日ではありません。2026年10月11日の時点で、その日は定められていません。試験で問われるのは、現行の条文です。たとえば第219条第1項は、令状を書面とし、記名押印を求める形のままです。未施行の部分は、予定の概観として押さえ、条文の逐語は覚えません。令状の請求のところや、公判の準備のところ、公判前整理手続のところで、いまは書面や出頭が前提、と触れた場面がありました。改正で変わるのは、その部分です。

現在地2 再審の改正とその他の近年の改正

再審の改正。2026年10月時点の法律。令和8年法律第67号(令和8年7月24日に公布)の3段階=第1段階 2026年8月13日(施行済み)442条・448条3項・450条・450条の2・450条の3など/第2段階 2026年10月20日 費用補償(188条の2・188条の3・188条の6・188条の7)/第3段階 公布から1年以内に政令で定める日(調査・審判開始の手続や証拠提出命令など。政令は未制定) 図:再審の改正

  • 2026年10月時点の法律
  • 令和8年法律第67号(令和8年7月24日に公布)の3段階=第1段階 2026年8月13日(施行済み)442条・448条3項・450条・450条の2・450条の3など/第2段階 2026年10月20日 費用補償(188条の2・188条の3・188条の6・188条の7)/第3段階 公布から1年以内に政令で定める日(調査・審判開始の手続や証拠提出命令など。政令は未制定)

2つ目の現在地は、再審の改正です。その前に、前の回の要点を1問。再審公判で、元の判決の刑より重い刑を言い渡せるでしょうか?第452条が、原判決の刑より重い刑を言い渡せない、と定めていました。この再審が、令和8年法律第67号で改正されました。令和8年7月24日に公布され、3段階で施行されます。第1段階は、2026年8月13日で、施行済みです。第442条、第448条第3項、第450条、第450条の2、第450条の3などが、対象です。再審のところで読んだとおり、再審開始の決定に対する即時抗告は、取り消されるべきものと認めるに足りる十分な根拠がある場合に限られ、期間は14日になりました。第2段階が、2026年10月20日です。費用補償、つまり無罪になった人に裁判の費用を補う制度の、第188条の2、第188条の3、第188条の6、第188条の7が、この日から変わります。第188条の2に第2項が加わり、再審で無罪の判決が確定したとき、再審の請求の手続に要した費用も、補償の対象になります。第3段階は、公布から1年以内に政令で定める日で、調査や審判開始の手続、証拠提出命令などです。2026年10月11日の時点で、その政令は定められていません。

2026年10月11日の時点で効力があるのは、第1段階までです。第2段階は2026年10月20日から、第3段階は政令で決まる日から、という整理になります。

その他の近年の改正。2026年10月時点の法律。拘禁刑への一本化(令和4年・2025年6月1日施行)/保釈中の逃亡防止措置(令和5年・段階施行・位置測定端末は未施行)/性犯罪関連の改正(令和5年・公訴時効の延長は2023年6月23日施行/その他の主な部分は2023年7月13日施行) 図:その他の近年の改正

  • 2026年10月時点の法律
  • 拘禁刑への一本化(令和4年・2025年6月1日施行)/保釈中の逃亡防止措置(令和5年・段階施行・位置測定端末は未施行)/性犯罪関連の改正(令和5年・公訴時効の延長は2023年6月23日施行/その他の主な部分は2023年7月13日施行)

その他の近年の改正も、学んだ範囲で受け直します。拘禁刑への一本化は令和4年の改正で、2025年6月1日に施行されました。保釈中の逃亡防止の措置は、令和5年の改正で、段階的に施行され、位置測定端末の部分は未施行です。性犯罪関連の改正は令和5年です。公訴時効を延ばす部分は公布の日の2023年6月23日から、そのほかの主な部分については2023年7月13日から施行されました。

判例がつくる時代から立法が動かす時代へ

対比。判例が形を示した例と、立法に委ねられた例。強制採尿=既存の捜索差押令状に、医師が医学的に相当と認められる方法で行う旨の条件を付す形で認めた(最決昭55・10・23)。採尿場所への連行も、令状の効力として認められる場合がある(最決平6・9・16)。GPS捜査=令状なしのGPS捜査は違法。令状を発付することにも疑義がある。立法的な措置が講じられることが望ましい(最高裁大法廷・裁判官全員一致)。理由の背景=強制処分法定主義(197条1項ただし書) 図:対比

  • 判例が形を示した例と、立法に委ねられた例
  • 強制採尿=既存の捜索差押令状に、医師が医学的に相当と認められる方法で行う旨の条件を付す形で認めた(最決昭55・10・23)
  • 採尿場所への連行も、令状の効力として認められる場合がある(最決平6・9・16)
  • GPS捜査=令状なしのGPS捜査は違法
  • 令状を発付することにも疑義がある
  • 立法的な措置が講じられることが望ましい(最高裁大法廷・裁判官全員一致)
  • 理由の背景=強制処分法定主義(197条1項ただし書)

最後の視点は、判例と立法です。手続の形を決めてきたのは、立法だけではありません。判例が形を示した例から見ます。強制採尿です。最高裁は、既存の捜索差押令状に、医師が医学的に相当と認められる方法で行う旨の条件を付す形で、強制採尿を認めました。採尿の場所へ連れていくことも、令状の効力として認められる場合がある、と示しています。新しい条文を待たずに、解釈で手続の形ができた例です。中身は、強制採尿のところで学びました。対照的なのが、GPS捜査です。車に秘かにGPS端末を付けて位置を把握する捜査について、最高裁の大法廷は、令状なしで行えば違法だとしました。そのうえで、令状を発付することにも疑義がある、と述べています。背景には、強制処分法定主義があります。第197条第1項ただし書は、強制の処分は、法律に特別の定めがある場合でなければできない、と定めているからです。判旨の一文を読みます。裁判官全員一致でした。

判例最大判平29・3・15 刑集71巻3号13頁

立法的な措置が望ましい——GPS捜査 GPS捜査が今後も広く用いられ得る有力な捜査手法であるとすれば,その特質に着目して憲法,刑訴法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい。

有力な捜査手法であるとすれば、その特質に着目して、憲法と刑事訴訟法の諸原則に適合する立法的な措置が講じられることが望ましい、という一文です。令状という既存の枠に収めるのではなく、立法で形を作ることを求めています。ここは、論文で論点になりうる部分です。いまの刑事訴訟法の現行条文には、捜査としてのGPSを定める規定は置かれていません。分かれ目の一つは、既存の令状の枠に収まるかどうかです。強制採尿は、既存の令状に条件を付けることで、枠の中に収まりました。GPS捜査は、令状を発付すること自体に疑義があるとされ、枠に収まるか分からないものでした。GPS捜査のところで見たとおり、車と罪名を特定しても行動の過剰な把握を抑えられず、事前の令状呈示も想定できないからです。収まるなら解釈で足り、収まらないなら立法が望ましい、という見方ができます。平成以降の流れを並べます。通信傍受が平成11年、裁判員と公判前整理が平成16年、そして平成28年の改正、令和7年のデジタル化、令和8年の再審です。解釈でどこまで解決するか、立法に委ねるべきことは何か。この視点を持っておくと、新しい制度に出会ったときに整理しやすくなります。ここで1問です。GPS捜査について、大法廷は、解釈でできるとしたでしょうか、立法が望ましいとしたでしょうか?

立法的な措置が講じられることが望ましい、と述べました。令状を発付することにも疑義がある、という点とセットで覚えてください。

ミニ事例

ミニ事例1。次のうち、判例が形を示して足りたものと、立法が必要(望ましい)とされたものを分けよ。ア 強制採尿を行うための令状の形/イ 公判の前に争点と証拠を整理する手続/ウ 車に秘かにGPS端末を付けて位置を把握する捜査 図:ミニ事例1

  • 次のうち、判例が形を示して足りたものと、立法が必要(望ましい)とされたものを分けよ
  • ア 強制採尿を行うための令状の形/イ 公判の前に争点と証拠を整理する手続/ウ 車に秘かにGPS端末を付けて位置を把握する捜査

節目のミニ事例を3問出します。1問目です。板の3つを、判例が形を示して足りたもの、立法が必要、あるいは望ましいとされたもの、に分けてください。アは強制採尿を行うための令状の形、イは公判の前に争点と証拠を整理する手続、ウは車に秘かにGPS端末を付けて位置を把握する捜査です。少し考えてください。分け方は、次のとおりです。アは、既存の捜索差押令状に条件を付ける形で、判例が形を示しました。イは、平成16年の改正で公判前整理手続が入りました。ウは、判例が、令状を発付することに疑義があるとして、立法が望ましいとしています。

ミニ事例2。次の4つの筋のどれの改正か。①条文の並び ②市民の参加 ③起訴の選別 ④防御の拡充。ア 勾留された被疑者は全員、請求により国選弁護人を付けてもらえる/イ 検察官が不起訴にした事件でも、市民の議決を経て起訴されることがある/ウ 犯罪の軽重や犯罪後の情況によっては、起訴しないという判断ができる 図:ミニ事例2

  • 次の4つの筋のどれの改正か
  • ①条文の並び
  • ②市民の参加
  • ③起訴の選別
  • ④防御の拡充
  • ア 勾留された被疑者は全員、請求により国選弁護人を付けてもらえる/イ 検察官が不起訴にした事件でも、市民の議決を経て起訴されることがある/ウ 犯罪の軽重や犯罪後の情況によっては、起訴しないという判断ができる

2問目です。アからウは、4つの筋のどれにあたるでしょうか。ア、勾留された被疑者は全員、請求により国選弁護人を付けてもらえる。イ、検察官が不起訴にした事件でも、市民の議決を経て起訴されることがある。ウ、犯罪の軽重や犯罪後の情況によっては、起訴しないという判断ができる。条文の並び、市民の参加、起訴の選別、防御の拡充から選んでください。アは防御の拡充です。被疑者国選が全勾留事件へ広がったのは、平成28年の改正で、施行が2018年6月1日でした。イは市民の参加です。起訴議決の導入で、施行は平成21年5月21日でした。ウは起訴の選別で、第248条の起訴猶予です。

ミニ事例3(2026年10月11日の時点)。次のうち、その日に現に効力があるものはどれか。また、日が決まっている未施行のものはどれか。ア 電磁的記録提供命令(102条の2)/イ 令状の電子的な請求・発付/ウ 再審請求の手続の費用を費用補償の対象に加える改正(188条の2第2項) 図:ミニ事例3

  • 2026年10月11日の時点で、次のうち、その日に現に効力があるものはどれか。また、日が決まっている未施行のものはどれか
  • ア 電磁的記録提供命令(102条の2)
  • イ 令状の電子的な請求・発付
  • ウ 再審請求の手続の費用を費用補償の対象に加える改正(188条の2第2項)

3問目です。2026年10月11日の時点で考えてください。ア、電磁的記録提供命令。イ、令状の電子的な請求と発付。ウ、再審請求の手続の費用を費用補償の対象に加える改正、第188条の2第2項。その日に現に効力があるものはどれか。日が決まっている未施行のものはどれか。整理は、次のとおりです。アの電磁的記録提供命令は、令和8年5月21日から施行されていて、現行です。イの令状の電子的な請求と発付は、その日の時点ではまだ未施行で、日は未定でした。令和9年3月31日までの間において政令で定める日、とされているだけでした。ウは、その日の時点では未施行でしたが、2026年10月20日からと、日が決まっていました。現行か未施行かは、「いつの時点か」と、「どの段階の施行か」の、2つで決まります。日付を添えて言う習慣をつけると、取り違えを防げます。

手続の地図で振り返る

手続の流れの地図。第2章 捜査/第3章 公訴/第4章 公判手続・第6章 公判の応用/第5章 証拠法/第7章 裁判/第8章 上訴と救済手続。今日の4本の筋と現在地が触れた場所=捜査は被疑者国選・録音録画・電磁的記録提供命令/公訴は起訴猶予・起訴議決/公判は公判前整理・裁判員・即決/証拠は301条の2・開示/救済は再審の改正。第7章 裁判は今日は触れていない。条文の並びは全体(どの章にも)=総則からの準用・枝番の条文。2026年10月時点の法律 図:手続の流れの地図

  • 第2章 捜査/第3章 公訴/第4章 公判手続・第6章 公判の応用/第5章 証拠法/第7章 裁判/第8章 上訴と救済手続
  • 今日の4本の筋と現在地が触れた場所=捜査は被疑者国選・録音録画・電磁的記録提供命令/公訴は起訴猶予・起訴議決/公判は公判前整理・裁判員・即決/証拠は301条の2・開示/救済は再審の改正
  • 第7章 裁判は今日は触れていない
  • 条文の並びは全体(どの章にも)=総則からの準用・枝番の条文
  • 2026年10月時点の法律

手続の流れの地図で、全体を振り返ります。捜査、公訴、公判、証拠、裁判、そして上訴と救済へと進む流れです。捜査の章には、被疑者国選、取調べの録音・録画、電磁的記録提供命令がありました。防御が広がった筋と、デジタル化の現在地が、ここに触れています。公訴の章には、起訴猶予と起訴議決があります。起訴の選別の筋と、市民の参加の筋が、重なる場所です。公判の章では、公判前整理手続と裁判員、即決裁判手続に出会いました。証拠の章では、取調べの録音・録画の規定と、証拠開示です。そして、救済の章は、再審の改正が、いまも段階的に施行されている場所でした。

条文の並びの筋は、特定の章ではなく、全体を貫いています。総則からの準用や、枝番の条文が、どの章にも出てきたからです。冒頭の2つの問いに、答えます。第222条が総則の条文を借りるのは、旧法の編成の上に、捜査の規定を載せた跡です。枝番の条文が多いのは、あとから足された制度の跡で、平成28年の改正のような束が、まとめて枝番を増やしました。条文は、歴史の地層です。条文を読むときは、この規定は、いつ、何のために足されたのか、と問いかけてください。これで、刑事訴訟法を、手続の最初から最後まで通しました。

参照条文

  • 刑事訴訟法第207条第1項
  • 裁判員の参加する刑事裁判に関する法律第1条
  • 刑事訴訟法第248条

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