平和主義と9条
問い:自衛隊はの「戦力」に当たるのか。そして最高裁は、この問いに答えたことがあるのか。
骨組み
- 1は何を放棄したか(条文・学説):放棄の対象=国権の発動たる戦争・武力による威嚇・武力の行使(「国際紛争を解決する手段としては」の限定つき)。1項限定放棄説(通説)=放棄したのは侵略戦争だけ(国際法上の用語例)/1項全面放棄説=自衛戦争も含めて放棄
- 2で自衛戦争も放棄されたか(条文・学説):2項全面放棄説(通説)=「前項の目的」=平和への希求 →「戦力」=軍隊および有事の際にそれに転化しうる程度の実力部隊 → 自衛戦争も不可能/2項限定放棄説(少数説)=「戦力」=自衛のための最小限度の実力を超える実力。少数説への批判は4点。交戦権の意義は「戦力」の説とは別に2説=①国家として戦争を行う権利(文字どおり)/②国際法上交戦国に認められる権利(通説)。2項全面放棄説に立っても、交戦権を①で読む見解がある
- 3自衛隊の合憲性(学説と政府見解):通説を通しで当てる(1項限定+2項全面)と違憲。政府見解は制定当初は通説と同じ → 現在は「戦力」=自衛のための必要最小限度を超える実力(論拠は明示しない)→ 合憲。最高裁は一貫して判断を回避
- 4自衛権(判例・学説):砂川判決=固有の自衛権は否定されていない(個別的自衛権と解されている)。通説=個別的は認められ、集団的は認められない。自衛隊違憲の通説でも個別的自衛権はある(行使は警察力・群民蜂起など)。政府見解は平成26年の閣議決定で集団的自衛権の行使も限定的に認める方向に変更
- 5砂川事件(最大判昭34・12・16):禁止される戦力=わが国が指揮権・管理権を行使し得る戦力=外国の軍隊は当たらない(自衛のための戦力の可否は「別として」)。安保条約は一見極めて明白に違憲無効と認められない限り司法審査権の範囲外(第一次的には内閣および国会)。結論=破棄差戻し。自衛隊の合憲性は判断していない
- 6警察予備隊違憲訴訟と恵庭事件:警察予備隊=最高裁大法廷(最大判昭27・10・8)・具体的事件を離れた訴えは却下(抽象的違憲審査の権限なし)/恵庭=札幌地判昭42・3・29・通信線は自衛隊法121条の客体に当たらず無罪=憲法判断を回避
- 7長沼訴訟の三審:一審(札幌地判昭48・9・7)=自衛隊は「戦力」で違憲と正面から判断/控訴審(札幌高判昭51・8・5)=主に訴えの利益の消滅で一審取消し・却下+統治行為論(一見極めて明白に違憲な場合を除き司法審査の範囲外)/上告審(最判昭57・9・9)=訴えの利益の点で維持・憲法問題に触れない
- 8平和的生存権の裁判例:長沼控訴審=裁判規範として具体化されていない(否定)/名古屋高判平20・4・17=具体的権利性が肯定される場合があると傍論で述べた(請求は退けた)
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます。短答は「判例の立場」「通説」「政府見解」を分けて問うので、出どころを混ぜない。最大判=最高裁大法廷の判決、最判=最高裁小法廷の判決、高判・地判=高裁・地裁の判決。
1——何を放棄したか条文学説
- :日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
- 放棄の対象は3つ:国権の発動たる戦争(国家が正式に行う戦争)・武力による威嚇・武力の行使。3つすべてに「国際紛争を解決する手段としては」という限定が付く。
- 対立点=この限定が何を指すか。
| 「国際紛争を解決する手段としては」 | 1項で放棄したもの | |
|---|---|---|
| 1項全面放棄説 | およそ戦争は国際紛争を解決する手段として行われる | 自衛戦争も含めすべての戦争 |
| 1項限定放棄説(通説) | 国際法上の用語例(例:不戦条約1条)では、この言い回しは侵略戦争を指す | 侵略戦争だけ |
- 通説の1項限定放棄説では、自衛戦争は1項では放棄されていない → 自衛戦争ができるかは2項に持ち越される(項目2)。
他国が上陸してきたのに反撃する場合:1項全面放棄説なら1項で放棄済み。1項限定放棄説なら1項では放棄されていない=結論は2項で決まる。
出題1項で全ての戦争を放棄しても、2項を動機と読めば自衛戦争は認められる(×)9条1項は自衛・侵略を問わず全ての戦争を放棄した②④の見解では自衛戦争も認められず、戦力の保持も一切許されない(○)1項は自衛戦争を放棄せず2項を動機とする見解に、国際法上の用例を尊重せよとの批判が当たる
- 「通説は、により自衛戦争も含めて一切の戦争が放棄されたと解する」(通説は1項限定放棄説=1項で放棄したのは侵略戦争だけ)
- 「1項限定放棄説が通説である以上、通説からは自衛隊は合憲となる」(通説はそのうえで2項全面放棄説を採るので、通しで当てると違憲)
- 「が放棄するのは戦争だけで、武力による威嚇は含まれない」(戦争・武力による威嚇・武力の行使の3つ)
2——自衛戦争も放棄されたか条文学説
- :前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
- 対立は3段でつながる:「前項の目的」の読み方 →「戦力」の定義 → 自衛戦争が物理的にできるか。
| 「前項の目的」 | 「戦力」 | 自衛戦争 | |
|---|---|---|---|
| 2項全面放棄説(通説) | 1項に至った動機=平和への希求 | 軍隊および有事の際にそれに転化しうる程度の実力部隊 | 戦力が無い以上、物理的に不可能=放棄 |
| 2項限定放棄説(少数説) | 侵略戦争の放棄という目的(実質は「前項の規定」と読み替え) | 自衛のための最小限度の実力を超える実力 | 最小限度の実力で可能=放棄していない |
- 通説:「前項の目的」=1項で侵略戦争を放棄するに至った動機(平和への希求)と読む → これに照らし「戦力」=軍隊および有事の際にそれに転化しうる程度の実力部隊 → これを持てない以上、自衛のためでも物理的に戦争ができない。
- 少数説:「前項の目的」=侵略戦争を放棄するという目的と読む → これに照らし「戦力」=侵略戦争のための戦力=自衛のための最小限度の実力を超える実力 → 最小限度の実力は持てるので、それを使って自衛戦争ができる。
- 「読み替え」の意味:「目的」という語を、1項が定めた中身(侵略戦争の放棄)そのものを指すと読むので、実質は「前項の規定」「前項の内容」と読み替えるのと同じになる。
- 少数説への批判(4点):①「自衛のための最小限度を超える実力」と「最小限度の実力」の区別は実際には不可能に近い ②2項後段が交戦権を否認していることの説明が困難 ③憲法には以外に戦争や軍隊の存在を予定した規定が無い ④1項とは別にわざわざ2項を置いた意味が説明できない。
- :内閣総理大臣その他の国務大臣は、文民でなければならない。
- 文民の範囲には解釈の幅がある(もと職業軍人・現職の自衛官をどう扱うか)。ただ、大臣を「文民」に限る規定は、軍人(軍隊)の存在を予定した規定とされる=批判③が「以外に」と言うのはこのため。
| 「交戦権」の意義 | 中身 |
|---|---|
| ① | 文字どおり戦争をする権利(国家として戦争を行う権利) |
| ②(通説) | 国際法上の用法に従い、国際法上交戦国に認められる権利(敵の船舶の拿捕・敵の領土の占領統治・敵の兵力を兵器で殺傷する権利など) |
- 交戦権の2説は、「戦力」の2説(全面放棄/限定放棄)とは別の争い。2項全面放棄説を採れば交戦権は②、と決まるわけではない。1項は侵略戦争の放棄、2項は一切の戦力の不保持とし、交戦権を「国家として戦争を行う権利」と読む見解もある=この見解とは、交戦権を②(敵国領土の占領・船舶の臨検や拿捕などの諸権利)と定義する記述は整合しない。
2項全面放棄説では、自衛のために作った部隊でも「有事に軍隊へ転化しうる程度の実力」なら「戦力」=目的ではなく実力の程度で決まる。2項限定放棄説では自衛戦争ができるはずなのに、2項後段は交戦国に認められる権利(交戦権)を否認している=なぜ否認したのかの説明が困難=批判②。
出題9条2項は単なる確認的規定でなく、実質的な意義を持つ規定と解すべき1項が侵略戦争のみの放棄でも、2項で戦力不保持・交戦権否認なら自衛戦争も放棄(○)1項は自衛戦争を放棄せず、2項は警察力を上回る実力の保持を禁じる①③の見解では自衛戦争が認められ、そのための戦力保持も許される(○)①④の見解では一切の戦力保持が禁じられる結果、自衛戦争も放棄される(○)1項は自衛戦争を放棄せず2項を動機とする見解でも全面放棄説でも、全ての戦争が放棄される(○)交戦権=敵国領土の占領、船舶の臨検・拿捕など交戦国に認められる諸権利
- 「通説は、2項の『戦力』を自衛のための最小限度の実力を超える実力と解する」(それは少数説の2項限定放棄説。通説は軍隊および有事の際に転化しうる程度の実力部隊)
- 「通説は、2項の『前項の目的』を侵略戦争の放棄という目的と解する」(通説は平和への希求。侵略戦争の放棄と読むのは少数説)
- 「交戦権とは、文字どおり戦争をする権利をいうと解するのが通説である」(通説は国際法上交戦国に認められる権利)
- 「交戦権を国家として戦争を行う権利と解する見解は、交戦権を国際法上交戦国に認められる諸権利と定義することと整合する」(整合しない。交戦権の意義の2説は別の定義)
3自衛隊の合憲性——学説と政府見解学説
- 1項と2項の対立は並列の4択ではない。1項限定放棄説を採ったときだけ、2項の対立に進む。
| 「戦力」の意味 | 自衛隊 | |
|---|---|---|
| 通説 | 軍隊および有事の際にそれに転化しうる程度の実力部隊 | 違憲 |
| 政府見解(制定当初) | 通説と同じ | —(まだ自衛隊は無い) |
| 政府見解(現在) | 自衛のための必要最小限度の実力を超える実力(自衛隊が作られたのに伴い変更。論拠は明示していない) | 合憲 |
| 最高裁 | 自衛隊の合憲性について一貫して判断を回避。正面から論じた最高裁判例は無い | |
- 現在の政府見解と2項限定放棄説の違いは理由づけ:2項限定放棄説は「前項の目的」の読み方から「戦力」の定義を導くが、政府はその論拠(条文の読み方)を明示していない。結論が同じでも同じものとして扱わない。
- 現在の政府見解の理屈を延ばすと、核兵器の保有についても、世界情勢によっては「戦力」に当たらないことになろう、とも指摘される(政府が述べたことではなく、その帰結の推論)。
出題政府は1項=侵略戦争の放棄と「前項の目的を達するため」の文言から自衛力保持を導く(×)
- 「政府は、憲法制定当初から、自衛のための必要最小限度の実力は『戦力』に当たらないと解してきた」(制定当初は通説と同じ解釈)
- 「最高裁は、自衛隊は『戦力』に当たらず合憲であると判断している」(一貫して判断を回避。正面から論じた最高裁判例は無い)
- 「1項全面放棄説・1項限定放棄説・2項全面放棄説・2項限定放棄説は、並列の4つの選択肢である」(2項の対立は1項限定放棄説を採ったときだけ問題になる)
4自衛権——個別的と集団的判例学説
| 意味 | 通説 | |
|---|---|---|
| 個別的自衛権 | 急迫不正の侵略を自国が受けたときに、自衛の行動をとる権利 | 憲法上認められる |
| 集団的自衛権 | 他国に対する武力攻撃を自国への攻撃とみなし、その他国と共同して防衛行動をとる権利 | 憲法上認められない |
- 最高裁(砂川事件・最大判昭34・12・16)は、日本国に自衛権があること自体は認めた。この自衛権は個別的自衛権のことと解されている。
- …しかしもちろんこれによりわが国が主権国として持つ固有の自衛権は何ら否定されたものではなく、わが憲法の平和主義は決して無防備、無抵抗を定めたものではないのである。
- しからば、わが国が、自国の平和と安全を維持しその存立を全うするために必要な自衛のための措置をとりうることは、国家固有の権能の行使として当然のことといわなければならない。
- 自衛権があるかと、実力をどこまで持てるか(項目2・3)は別の話。自衛隊を「戦力」として違憲とする通説でも、個別的自衛権の行使は認められる。ただし自衛隊による自衛戦争の形ではできず、警察力や、民衆が武器を持って対抗する群民蜂起などで行使することになる。少数説・政府見解なら、自衛隊による自衛戦争の形でも行使できる。
- 従来の政府見解:集団的自衛権の行使は憲法上認められない
- 平成26年の閣議決定(内閣が政府としての方針を正式に決める手続):わが国に対する武力攻撃に加え、わが国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これによりわが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由および幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合にも、自衛権の行使を認める=集団的自衛権の行使を限定的に認めると変更
- 平成27年:集団的自衛権の行使を認める安保関連法が成立
- この新しい政府見解と安保関連法は、に違反するとの見解が有力。
自国は攻撃されていないが、同盟国が攻撃されて共に反撃する=集団的自衛権の行使。通説は憲法上認めない。平成26年の閣議決定後の政府見解でも、他国が攻撃されただけでは足りず、少なくとも、それによりわが国の存立が脅かされ国民の権利が根底から覆される明白な危険が要る。
出題9条は我が国が主権国として持つ固有の自衛権を否定するものではない(○)
- 「学説では、個別的自衛権も集団的自衛権も、によって放棄されていないとするのが通説である」(通説は個別的は認め、集団的は認めない)
- 「自衛隊を『戦力』に当たり違憲とする通説は、わが国の自衛権そのものを否定する」(個別的自衛権は認め、警察力・群民蜂起などで行使する)
- 「砂川事件で最高裁が認めた自衛権には、集団的自衛権が含まれると解されている」(個別的自衛権と解されている)
- 「最高裁は、砂川事件において、わが国の平和主義は無防備・無抵抗を定めたものであるとした」(無防備、無抵抗を定めたものではない)
5砂川事件——外国の軍隊と統治行為判例
- 言葉:統治行為=高度に政治的な国家の行為について、裁判所が憲法に合うかの判断そのものを控える考え方。
- 事案:米軍が使用する飛行場に立ち入った者が、日米安全保障条約3条に基づく行政協定に伴う刑事特別法2条違反で起訴された。安保条約は、わが国がアメリカ合衆国に、わが国内およびその附近に軍隊を配備する権利を許容する等を定める条約。
- 第一審(東京地判昭34・3・30):駐留米軍はの「戦力」に当たり違憲 → それを前提に、刑事特別法2条はに違反し無効とした → 最高裁へ跳躍上告(控訴審を経ずに直接上告) → 最高裁(最大判昭34・12・16)は原判決を破棄し、東京地裁に差し戻した。
- 判断①:禁止される「戦力」=わが国が指揮権、管理権を行使し得る戦力=わが国自体の戦力。外国の軍隊は、駐留していても当たらない。ただし自衛のための戦力の保持まで禁じたかは「別として」答えていない。
- 従つて同条二項がいわゆる自衛のための戦力の保持をも禁じたものであるか否かは別として、同条項がその保持を禁止した戦力とは、わが国がその主体となつてこれに指揮権、管理権を行使し得る戦力をいうものであり、結局わが国自体の戦力を指し、外国の軍隊は、たとえそれがわが国に駐留するとしても、ここにいう戦力には該当しないと解すべきである。
- 判断②:安保条約は高度の政治性を有する → 違憲かどうかの判断は司法裁判所の審査に原則としてなじまない → だから一見極めて明白に違憲無効と認められない限り、司法審査権の範囲外(変則的な統治行為論)。判決の言葉では「裁判所の司法審査権の範囲外」=司法審査権の限界の問題。
- それ故、右違憲なりや否やの法的判断は、純司法的機能をその使命とする司法裁判所の審査には、原則としてなじまない性質のものであり、従つて、一見極めて明白に違憲無効であると認められない限りは、裁判所の司法審査権の範囲外のものであつて、それは第一次的には、右条約の締結権を有する内閣およびこれに対して承認権を有する国会の判断に従うべく、終局的には、主権を有する国民の政治的批判に委ねらるべきものであると解するを相当とする。
- 判断を委ねる先は、第一次的には内閣(締結権)と国会(承認権)、終局的には国民。「選挙で選ばれた機関」とは言っていない(内閣は選挙で選ばれた機関ではない)。
- 果してしからば、かようなアメリカ合衆国軍隊の駐留は、憲法九条、九八条二項および前文の趣旨に適合こそすれ、これらの条章に反して違憲無効であることが一見極めて明白であるとは、到底認められない。
そしてこのことは、憲法九条二項が、自衛のための戦力の保持をも許さない趣旨のものであると否とにかかわらないのである。 - :日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
- =判決は判断①でも結論でも、自衛のための戦力を持てるかを開けたまま結論を出した。判断したのは安保条約(米軍の駐留)で、自衛隊の合憲性は判断していない。
| 砂川事件(最大判昭34・12・16) | 苫米地事件(最大判昭35・6・8) | |
|---|---|---|
| 問題になった国家行為 | 安保条約(米軍の駐留) | 衆議院の解散 |
| 審査の余地 | 一見極めて明白に違憲無効なら審査できる(変則的な統治行為論) | 留保なし=裁判所の審査権の外(純粋な統治行為論) |
- 直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為のごときはたとえそれが法律上の争訟となり、これに対する有効無効の判断が法律上可能である場合であつても、かかる国家行為は裁判所の審査権の外にあり、その判断は主権者たる国民に対して政治的責任を負うところの政府、国会等の政治部門の判断に委され、最終的には国民の政治判断に委ねられているものと解すべきである。
出題駐留外国軍が9条2項の戦力に当たるかの判断は司法審査権の範囲外である(×)安保条約の合憲性は、一見極めて明白に違憲無効でない限り審査権の範囲外(○)安保条約に基づき駐留する米軍は9条2項の「戦力」に該当する「戦力」=我が国が指揮権・管理権を行使し得る戦力で、駐留外国軍は当たらない(○)自衛のための戦力保持を禁じるかについて、9条2項は一義的に明確な規定とはいえない(×)砂川事件判決の見解は、条約も一般に違憲審査の対象とする立場と結び付き得る(○)駐留外国軍も我が国の要請で武力を行使しうるので、9条2項の戦力に該当し得る(×)判例は、9条2項は自衛のための戦力の保持まで禁じたものではないとしている(×)
- 「砂川事件の最高裁判決は、自衛隊を合憲と認めた」(判断したのは安保条約・米軍の駐留。自衛隊の合憲性は判断していない)
- 「砂川事件で最高裁は、は自衛のための戦力の保持を禁じていないと判示した」(「禁じたものであるか否かは別として」と留保した)
- 「砂川事件で最高裁は、駐留米軍はの戦力に当たるが、安保条約は統治行為なので審査しないとした」(外国の軍隊はそもそも戦力に当たらない)
- 「砂川事件は、条約の違憲性の判断は第一次的には選挙で選ばれた国会のみに委ねられるとした」(条約の締結権を有する内閣および承認権を有する国会)
- 「砂川事件で最高裁は、安保条約は高度の政治性を有するので、例外なく司法審査の対象外であるとした」(一見極めて明白に違憲無効なら審査の余地を残す。留保が無いのは苫米地事件)
- 「砂川事件で最高裁は、第一審の違憲判断を是認して上告を棄却した」(原判決を破棄し、東京地裁に差し戻した)
6警察予備隊違憲訴訟と恵庭事件判例
| 裁判所 | どう終わったか | |
|---|---|---|
| 警察予備隊違憲訴訟 | 最高裁大法廷(最大判昭27・10・8) | 具体的事件を離れた訴えなので却下=警察予備隊の合憲性を判断していない |
| 恵庭事件 | 札幌地裁(札幌地判昭42・3・29) | 通信線は自衛隊法121条の客体に当たらない → 無罪=121条についての憲法判断を回避 |
- 警察予備隊違憲訴訟:当時の日本社会党の代表者が、自衛隊の前身である警察予備隊の設置・維持に関する一切の行為の無効確認を求めて、いきなり最高裁に訴えを提起した。下級審の裁判例ではない。
- 要するにわが現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所がかような具体的事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲牲を判断する権限を有するとの見解には、憲法上及び法令上何等の根拠も存しない。
- 恵庭事件:自衛隊の演習用の通信線を切断した被告人が、自衛隊法121条の「武器、弾薬、航空機その他の防衛の用に供する物」の損壊罪で起訴された刑事事件。通信線が客体に当たらなければ、それだけで無罪が決まる → を判断しなくても事件が片づく。
- 憲法判断回避=事件の解決に憲法判断まで必要でなければ、裁判所はそこまで踏み込まない、という準則。
- 「警察予備隊違憲訴訟は、地方裁判所に提起された下級審の事件である」(直接最高裁に提起され、最高裁大法廷が却下した)
- 「警察予備隊違憲訴訟で最高裁は、警察予備隊は『戦力』に当たらず合憲であるとした」(抽象的に合憲性を判断する権限は無いとして却下。合憲性には触れていない)
- 「恵庭事件で札幌地裁は、自衛隊法121条を合憲と判断したうえで、被告人を無罪とした」(客体に当たらないとして無罪にし、憲法判断を回避した)
7長沼訴訟の三審判例
- 事案:自衛隊の基地を建てるため、農林大臣が長沼町の国有保安林の指定を解除した。地域住民が指定解除処分の取消しを求めた行政訴訟。この保安林は水源かん養保安林で、控訴審は、流域に住む住民の洪水からの生命、身体の安全を、処分を争う利益と認めた。
- なぜが出てくるか:保安林の指定解除には森林法26条2項の「公益上の理由」が要る → 自衛隊基地の建設という目的がに反するなら「公益上の理由」を欠くのでは、という形でが争点になった。
- 第一審(札幌地判昭48・9・7):自衛隊はの「戦力」に当たり違憲と正面から判断
- 控訴審(札幌高判昭51・8・5):流域外の住民は原告適格を欠く、流域内の住民は代替の洪水防止施設で訴えの利益が消滅 → 一審判決を取り消し、訴えをいずれも却下。加えて、自衛隊の適合性は統治行為=一見極めて明白に違憲な場合を除き司法審査の範囲外とした
- 上告審(最判昭57・9・9):訴えの利益の点で控訴審を維持し上告棄却。憲法問題には触れない
- …本件保安林部分の解除により、その生命、身体の安全を侵害される不利益は、富士戸一号堰堤等の洪水防止施設により補填、代替されるに至り、同被控訴人らも、また、本件解除処分を争う具体的な利益を失つたものというべきである。
- 控訴審は、結論は原告適格・訴えの利益(訴えの入口の問題)で出したうえで、自衛隊の憲法適合性について「見解を付加する」として統治行為論を述べた=「深入りしなかった」のではない。
- したがつて、立法、行政機関の行為が一見極めて明白に違憲、違法の場合には、右行為の属性を問わず、裁判所の司法審査権が排除されているものではないと解すべきである。
- 右のとおりであるから、結局自衛隊の存在等が憲法第九条に適反するか否かの問題は、統治行為に関する判断であり、国会及び内閣の政治行為として窮極的には国民全体の政治的批判に委ねらるべきものであり、これを裁判所が判断すべきものではないと解すべきである。
- してみると、本件保安林の指定解除に伴う乙と表示のある上告人らの利益侵害の状態はなくなつたと認められるのであるから、右上告人らが本件保安林指定解除処分の取消しを求める訴えの利益は失われたものというべきであり、本件訴えは不適法として却下を免れないとした原審の判断は、正当として是認することができる。
- 言葉:訴えの利益=裁判で判断してもらう実際の必要性。無ければ訴えは却下され、請求の中身(自衛隊が合憲か・公益上の理由があるか)は判断されない。原告適格=その処分を争う法律上の利益を持つ者であること。
「自衛隊の合憲性に正面から答えた裁判例は無い」は誤り:長沼訴訟の第一審は自衛隊を違憲と正面から判断した。正面から判断していないのは最高裁。
- 「長沼訴訟の第一審は、訴えの利益の消滅を理由に、自衛隊の合憲性について判断しなかった」(第一審は自衛隊を「戦力」に当たり違憲と判断した)
- 「長沼訴訟の控訴審は、訴えの利益の消滅だけを理由とし、統治行為論には触れなかった」(自衛隊の適合性は統治行為で、一見極めて明白に違憲な場合を除き司法審査の範囲外とした)
- 「最高裁は、長沼訴訟において、自衛隊を合憲と判断した」(訴えの利益の点で控訴審を維持し、憲法問題に触れていない)
8平和的生存権の裁判例判例
- 前文第2段:「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する。」これを根拠に裁判で権利を主張できるか。
| 平和的生存権について | 結論 | |
|---|---|---|
| 長沼訴訟控訴審(札幌高判昭51・8・5) | 裁判規範として現実的・個別的内容をもつものとして具体化されていない | 訴え却下 |
| 自衛隊イラク派遣差止訴訟(名古屋高判平20・4・17) | 傍論で、具体的権利性が肯定される場合があると述べた | 控訴棄却=違憲確認・差止めは却下、損害賠償は棄却 |
- …前文中に定める「平和のうちに生存する権利」も裁判規範として、なんら現実的、個別的内容をもつものとして具体化されているものではないというほかないものである。
- そして,この平和的生存権は,局面に応じて自由権的,社会権的又は参政権的な態様をもって表れる複合的な権利ということができ,裁判所に対してその保護・救済を求め法的強制措置の発動を請求し得るという意味における具体的権利性が肯定される場合があるということができる。
- …全証拠によっても,現時点において,控訴人Aらの具体的権利としての平和的生存権が侵害されたとまでは認められない。
- 傍論=判決の中で、その事件の結論を出すのに必須ではない部分で述べられた裁判所の考え方。結論には影響しない。名古屋高裁は権利の一般論を肯定的に述べたが、当てはめでは、控訴人らの具体的権利としての平和的生存権の侵害までは認められないとして損害賠償請求を棄却し、違憲確認・差止めの訴えは不適法として却下した(控訴棄却)=一般論と結論が別。
- 上の2つのうち、平和的生存権を肯定的に述べた名古屋高判も、それは傍論(長沼控訴審は否定)。
- 同じ名古屋高裁判決は、航空自衛隊の空輸活動についても、傍論で次のように述べた。自衛隊の存在そのものの合憲性を判断したものではない。
- よって,現在イラクにおいて行われている航空自衛隊の空輸活動は,政府と同じ憲法解釈に立ち,イラク特措法を合憲とした場合であっても,武力行使を禁止したイラク特措法2条2項,活動地域を非戦闘地域に限定した同条3項に違反し,かつ,憲法に違反する活動を含んでいることが認められる。
- 「名古屋高裁は、平和的生存権の侵害を認め、自衛隊のイラク派遣の差止請求を認容した」(具体的権利性が肯定される場合があると傍論で述べたが、侵害は認めず請求は退けた)
- 「長沼訴訟の控訴審は、前文の平和的生存権に裁判規範性を認めた」(裁判規範として具体化されていないとした)
- 「名古屋高裁は、自衛隊の存在そのものが違憲であると判断した」(航空自衛隊の空輸活動の一部がに違反する活動を含むと述べたもので、しかも傍論)