外国人の人権とマクリーン事件
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外国人の人権享有主体性(否定説・文言説・性質説)
問いの立て方
結論外国人に保障されるかは、条文の書き分けだけでは決まりません(判例・通説)。
問うべきは、どの人権が、どの範囲で外国人に及ぶかです。
条文憲法は、主語を書き分けています。
- 「何人も」:22条1項の職業選択の自由などです。
- 「国民は」:25条1項の生存権などです。
22条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。
25条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
3つの立場

定義まず、人権規定が外国人に及ぶかで、否定説と肯定説に分かれます。
肯定説は、どの人権がどこまで及ぶかで、さらに2つに分かれます。
- 否定説:3章の表題「国民の権利及び義務」を重視し、外国人には人権規定が適用されないとします。
- 文言説(肯定説):「何人も」の権利だけが、外国人にも保障されるとします。
- 性質説(肯定説):権利の性質上、日本国民のみを対象とするものを除き、外国人にも適用されるとします。
否定説が少数説である理由
結論外国人にも、一定の範囲で人権は及びます(肯定説)。
理由次の2つです。
- 前国家的な権利:人権は、国家ができる前から人が当然に持つ権利です(11条・97条の発想)。
- 国際協調主義:憲法は、前文や98条2項で国際協調主義を採っています。
11条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。この憲法が国民に保障する基本的人権は、侵すことのできない永久の権利として、現在及び将来の国民に与へられる。
97条|第十章 最高法規(97〜99条)この憲法が日本国民に保障する基本的人権は、人類の多年にわたる自由獲得の努力の成果であつて、これらの権利は、過去幾多の試錬に堪へ、現在及び将来の国民に対し、侵すことのできない永久の権利として信託されたものである。
98条|第十章 最高法規(97〜99条)2項:日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする。
文言説が採られない理由
結論多数説は、文言説を採りません。
理由文言だけを基準にすると、矛盾が起きるからです。
22条2項は「何人も」と書くので、国籍離脱の自由まで外国人に保障されることになります。
しかし外国人は、そもそも日本国籍を持っていません。
22条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。
性質説(判例・通説)
結論文言ではなく、権利の性質で決めるのが判例・通説です。
注意性質説は、考え方の枠組みにすぎません。
中身を埋めるのは、人権ごとの理由づけです(第3〜7節)。
マクリーン事件(保障されているのに、不利益に扱われることがある)
判例・通説は、権利の性質で保障の有無を決める性質説を採ります。
最高裁は性質説をどう定式化し、在留の場面にどう当てはめたのでしょうか。
事案

事案更新を拒否した理由は、在留中の政治活動でした。
この人物は、それを不服として裁判を起こし、最高裁まで争われました。
3つの判示
結論最高裁は、次の3つを述べました。
- ①性質説の定式:基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ。
- ②在留の許否:外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではない。
- ③在留制度のわく内:外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当である。在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を、在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。
理由②により、在留を続けさせるかどうかは、そもそも国の裁量です。
更新するかどうかも、法務大臣の裁量に委ねられます。
そのため、政治活動をした事実を裁量の一事情として考慮しても、違法ではありません。
注意政治活動の自由は、外国人にも保障されます(第7節)。
- できないこと:政治活動そのものを禁止したり、処罰したりすることです。
- できること:政治活動をした事実を、在留の判断材料にすることです。
「保障される」と「不利益抜きで自由にできる」は、同じではありません。
マクリーン事件最高裁判所大法廷判決性質説の定式と、在留の許否基本的人権の保障は、権利の性質上日本国民のみをその対象としていると解されるものを除き、わが国に在留する外国人に対しても等しく及ぶ。外国人の在留の許否は国の裁量にゆだねられ、わが国に在留する外国人は、憲法上わが国に在留する権利ないし引き続き在留することを要求することができる権利を保障されているものではない。保障されているのに、考慮されうる外国人に対する憲法の基本的人権の保障は、外国人在留制度のわく内で与えられているにすぎないものと解するのが相当である。在留期間中の憲法の基本的人権の保障を受ける行為を、在留期間の更新の際に消極的な事情としてしんしゃくされないことまでの保障が与えられているものと解することはできない。
保障されない人権①:選挙権(国政と地方で結論が変わる)
外国人の人権は、在留制度という枠の中で保障されます。
では、性質説を個々の人権に当てはめると、選挙権はどうなるのでしょうか。

国政レベルの選挙権
結論国政選挙権は、性質上、日本国民のみを対象とします(判例も同旨)。
憲法上保障されないだけでなく、法律で与えることも許されません。
理由憲法は、国民主権の原理を採っています(前文・1条)。
国政選挙は、この国民主権を具体化する場面です。
外国人に与えると、国民主権原理そのものに反します。
1条|第一章 天皇(1〜8条)天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く。
地方レベルの選挙権(憲法上の保障)
結論地方選挙権も、憲法上は保障されません(通説・判例)。
93条2項の「住民」は、日本国民である住民を指します。
理由地方公共団体も、日本の統治機構の一部だからです。
注意外国人も、その地域に住んでいれば「住民」ではないか、とする見解もあります。
93条|第八章 地方自治(92〜95条)2項:地方公共団体の長、その議会の議員及び法律の定めるその他の吏員は、その地方公共団体の住民が、直接これを選挙する。
地方レベルの選挙権(法律による付与)
定義法律で与えてよいかについて、2つの見解があります。
- 禁止説:国政と同じに考え、法律による付与も許されないとします。
- 許容説:法律による付与は許されるとします。
結論法律で永住者などに地方選挙権を与えることは、憲法上禁止されていません(許容説が通説)。
判例も、傍論で同じ趣旨を述べています。
理由国民主権との関わりの深さが、国政と地方で違うからです。
外交や国防は、国政の仕事です。
住民の暮らしに関わる公共的な事務は、その地域の住民自身が担うべきだという考え方が、地方自治の規定にあります。
注意傍論は、判決の直接の結論ではありません。
- 国政:憲法上の保障なし、法律による付与も不可です。
- 地方:憲法上の保障なし、ただし法律で与える余地があります。
保障されない人権②:公務就任権(公務員になる資格)
選挙権は、国民主権原理から外国人には保障されません。
では、公務員になる資格も、同じように否定されるのでしょうか。
公務就任権と通説の3分類

定義公務就任権は、公務員になる資格です。
14条1項の平等権、または22条1項の職業選択の自由から導かれると解されています。
結論通説は公務を3つに分け、①だけを日本国民のみの対象とします。
②と③は、外国人にも保障されます。
理由①は、公権力の行使や公の意思の形成に直接関わるので、国民主権原理が及ぶからです。
14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
東京都管理職選考事件
事案地方公共団体の職員だった特別永住者が、管理職への昇任試験を受けようとしました。
日本国籍が無いことを理由に受験を認められず、受験資格の確認を求めて訴えました。
結論管理職試験全体を外国籍の職員に受けさせなくても、違憲ではありません。
- 公権力行使等地方公務員:住民の権利義務を直接形成したり、重要な施策を決定したりする職です。国民主権原理に照らし、原則として日本国籍を持つ人が就くことが想定されています。
- 一体的な任用制度:この職と、昇任のために経るべき職とを一体のものとして扱う人事制度を作ることも認められます。
理由判決は、2つの段階を分けて判断しています。
- 制度を作ること:一体の任用制度を作ること自体は、地方公共団体の判断でできるとされました。
- 区別の合理性:制度を適正に運営する必要がある以上、日本国民に限る区別には合理的な理由があります。管理職に必要な職務経験を積ませる仕組みなので、国籍で分けても14条1項に反しません。
注意通説からすれば、昇任の手前の②③の職には、本来、保障が及びます。
それでも違憲でないのは、「日本国籍が無いから一律に不可」だからではありません。
「一体的な人事制度を組むことが許される」からです。
合理的な理由が問われるのは、一体化ではなく、日本国民に限る区別の側です。
保障されない人権③:社会権(法律で及ぼせる)
公務就任権は、統治作用への関わりの強さで結論が分かれます。
では、国に積極的な給付を求める社会権は、外国人に保障されるのでしょうか。
社会権の性質
定義社会権は、国に積極的に手を貸すよう求める権利です。
結論社会権は、性質上、日本国民のみを対象とします(通説)。
憲法上は、外国人に保障されません。
理由社会権は、各人が所属する国によって保障されるべき権利だからです。
注意財政上の支障が無い限り、法律で外国人にも及ぼすことは許されます。
憲法だけでは動かず、法律によって初めて機能する点は、生存権の構造と同じです。
塩見訴訟
事案障害を負った人が、障害福祉年金を請求しました。
しかし国民年金法は、その受給資格を日本国民に限っていました。
結論社会保障で在留外国人をどう扱うかは、国の政治的な判断に委ねられます。
限られた財源の中で、自国民を在留外国人より優先的に扱うことも、許されます。
注意生活保護法が不法に滞在する人を対象外としていた事件でも、同じ理屈が確認されています。
どちらも、外国人の処遇は立法府の判断に委ねられる、という原理です。
入国・在留・出国・再入国(同じ「行き来」でも結論が逆になる)
社会権は、性質上外国人に及ばず、法律で及ぼせる権利です。
では、日本への出入りに関わる4つの自由は、外国人に保障されるのでしょうか。

入国の自由
結論外国人が日本に入る自由は、憲法上保障されません(判例・通説)。
理由誰の入国を認めるかは国家の自由な裁量に委ねられる、というのが今日の国際慣習だからです。
在留の自由
結論在留を続ける自由も、保障されません。
理由入る自由が無い以上、居続ける自由も無いからです(マクリーン事件の理屈)。
出国の自由
結論日本から出て行く自由は、外国人にも保障されます(判例・通説)。
条文根拠は22条2項前段の「外国に移住」する自由です。
同じ22条2項後段が、国籍離脱の自由の根拠です。
理由入国は国家の管理下にありますが、出国はその管理と関わりません。
出て行く人を、国が引き止める理由が無いからです。
注意入国は国の裁量、出国は自由で、結論が逆になります。
「出入国」とひとまとめにすると、この違いが見えなくなります。
再入国の自由
定義再入国とは、一度日本を出た外国人が、もう一度日本に戻ることです。
結論判例は、再入国の自由も保障されないとしています。
判例は、「外国人は、憲法上、外国へ一時旅行する自由を保障されているものでない」と述べます。
理由入国や在留の自由が保障されない以上、再入国も同じだからです。
注意学説からは強い批判があります。
生活の本拠に戻る権利なので、一時的な入国とは違い、人権として保障されるべきだという指摘です。
判例と通説が一致しない、数少ない場面の一つです。
保障される人権(政治活動の自由は在留制度の枠内)
外国人に保障されない人権は、国民主権や所属する国、国の裁量に関わるものでした。
では、外国人にも保障される人権は、どこまで保障されるのでしょうか。

自由権一般
結論自由権は、原則として外国人にも保障されます。
理由自由権は、社会権と違い、前国家的・自然権的な権利だからです。
注意お金に関わる自由(経済的自由)には、外国籍を理由にした制限が認められています。
- 具体例:公証人になれない、無線局を開設できない、という法律上の制限です。
政治活動の自由
定義政治活動の自由は、表現の自由の一部です。
結論性質上、外国人にも保障されます(通説)。
ただし、日本の政治のゆくえに行き過ぎて口を出す形にならない範囲で認められます。
理由保障される理由は、次の2つです。
- 前国家的な権利:精神的自由権は、前国家的な権利です。
- 民主主義に有益:外国人の政治的な意見も、日本の民主主義にとって有益です。
範囲が限られるのは、選挙権のような参政権が、国民主権原理から国民だけのものだからです。
注意保障されても、在留期間の更新の際に、不利益な事情として考慮されることはありえます(マクリーン事件)。
- 入り口の問題:保障されるかどうかです。
- もう一段の問題:保障されても、在留制度の枠の中にあることです。
その他の権利
結論平等権・請願権・裁判を受ける権利・刑事補償請求権は、外国人にも保障されます。
ただし、保障の程度が弱まる場合はあります。
注意国家賠償請求権だけは特殊で、性質上は及びますが、相互主義が採られています。
- 相互主義:相手の国が日本人に賠償請求権を認めているなら、日本もその国の人に認める、という考え方です。
- 国家賠償法6条:この考え方が定められています。
6条|国家賠償法この法律は、外国人が被害者である場合には、相互の保証があるときに限り、これを適用する。