憲法ゼロから憲法#8

法人の人権と八幡製鉄事件

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問い:会社は人ではない。それでも、政党に政治資金を寄附する自由を、自然人と同じように憲法から主張できるのか。

骨組み

  1. 1団体の人権享有主体性(学説・判例):団体=法人+権利能力なき社団。享有主体性には争いがあるが、権利の性質上可能な限り及ぶ(通説)。理由=団体は社会で自然人と同様に活動する実体(現代社会の重要な構成要素)。判例も「性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用」(八幡製鉄事件・最大判昭45・6・24)
  2. 2八幡製鉄事件の2つの答え(判例):①目的の範囲=目的遂行に直接または間接に必要な行為すべて・必要かは行為の客観的な性質に即し抽象的に判断 → 政治資金の寄附も範囲内(構成員が政治的信条を同じくしなくても)/②憲法(参政権・民法90条の主張への答え)=「性質上可能なかぎり」→ 寄附は憲法に反しない
  3. 3精神的自由:内面的な精神活動の自由(信仰の自由など)=保障されない/外面的な精神活動の自由=保障される(表現の自由=・宗教的行為の自由と宗教的結社の自由=)
  4. 4経済的自由:法人にも保障される。ただし社会国家の理念から、自然人より広い規制が許されうるとする説明がある(保障の程度の差)
  5. 5保障されない人権:社会権(〜)・選挙権その他の参政権(判決も「自然人たる国民にのみ」と認める)・一定の人身の自由(・・・)
  6. 6政治活動の自由の程度(判例):会社は自然人たる国民と同様に政治的行為をなす自由を有する。寄附もその一環で、自然人の寄附と「別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない」。弊害への対処は立法政策・公共の福祉に反しないかぎり。学説の批判=自然人の政治的影響力を弱める
  7. 7団体の両面性:守られる主体であり、構成員の人権を侵害しうる主体。抜けられる団体(会社)か、抜けられない強制加入団体かで緊張が変わる。強制加入の税理士会の政治団体への寄付=目的の範囲外(南九州税理士会事件・最判平8・3・19)

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます。短答は「判例の立場」と「通説」を分けて問うので、出どころを混ぜない。

1団体の人権享有主体性——性質上可能な限り判例学説

  • ここでいう団体=法人(典型は会社)+権利能力なき社団(形式上は法人ではないが、実質は法人と変わらない団体。典型は大学のサークル)。
  • 人権は本来、生身の人間(自然人)の権利。だから団体に人権享有主体性(人権を持つ主体として扱われるか)が認められるかには争いがある。
  • 結論=団体にも、権利の性質上可能な限り、人権の保障が及ぶ(通説)。理由=団体は社会の中で自然人と同様に活動する実体であり、現代社会の重要な構成要素だから。法人の活動の効果は究極的に自然人に帰属する、という理由も併せて挙げられる。
  • 判例(八幡製鉄事件・最大判昭45・6・24):
  • 憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、…
団体(法人・権利能力なき社団)が主張する人権生身の個人であることを前提とする権利か社会権・参政権・身体を拘束されない自由など保障されない項目5はいいいえ心の中の活動そのものか何を信じるか(信仰)など内面保障されない項目3はいいいえ保障される表現・宗教的行為・宗教的結社・経済的自由・政治活動など
基準は「権利の性質上可能な限り」の1つだけ。上の2つの問いは、保障されない人権の型を整理したもので、判例が要件の形で並べたものではない。経済的自由は、保障されても自然人より広く規制されうるとする説明がある。

法人格を持たない大学のサークル → 形式は法人でなくても実質が法人と変わらない団体(権利能力なき社団)として、人権享有主体性の議論の対象になる。

出題法人は全ての人権について自然人と同程度の保障を受ける(×)法人にも適用する見解は、法人の活動を自然人に還元するのが非現実的なことを根拠にできない(×)

×にされやすい形
  • 「法人に人権享有主体性が認められるかについては争いがなく、学説は一致している」(争いがある。性質上可能な限り及ぶとするのが通説)
  • 「人権の保障が及ぶ団体は、法人格を有する団体に限られる」(権利能力なき社団も含む)
  • 「判例は、憲法第三章の各条項は、法人には一切適用されないとした」(性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用される)

2八幡製鉄事件——2つの争点への別々の答え判例

  1. 定款の目的=「鉄鋼の製造および販売ならびにこれに附帯する事業」の製鉄会社
  2. 昭和35年、代表取締役が会社を代表して、政党に政治資金350万円を寄附
  3. 株主が、取締役の責任を追及して訴える → 最高裁は上告棄却(寄附は有効・取締役に責任なし)
  • 前提:会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有する=範囲外の行為をする権利能力は無い。
  • 上告理由は3つ。見出しの「2つの争点」は表の上の2つ(目的の範囲と憲法)。3つ目(忠実義務)は当時の商法上の争点。
上告理由(株主の主張)最高裁の答え
寄附は定款の目的の範囲外=会社に寄附する権利能力が無い目的の範囲内。目的遂行に直接・間接に必要な行為を含み、客観的・抽象的に判断
参政権を自然人にだけ認めた憲法に反し、民法90条(公序良俗に反する法律行為は無効)違反=憲法違反の寄附なら公序良俗違反で無効憲法に反しない。「性質上可能なかぎり」→ 会社にも政治的行為の自由(項目6)
取締役の忠実義務(当時の商法254条ノ2)違反違反しない。ただし合理的な範囲を越える不相応な寄附なら違反
  • 「性質上可能なかぎり」の判示は、2つ目(憲法・民法90条)の主張への答えの中にある。目的の範囲の結論を導いた理由ではない。
  • 目的の範囲の規範:
  • 会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有するわけであるが、目的の範囲内の行為とは、定款に明示された目的自体に限局されるものではなく、その目的を遂行するうえに直接または間接に必要な行為であれば、すべてこれに包含されるものと解するのを相当とする。
  • そして必要なりや否やは、当該行為が目的遂行上現実に必要であつたかどうかをもつてこれを決すべきではなく、行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断されなければならないのである…
  • 会社は自然人とひとしく社会の構成単位たる社会的実在で、社会通念上期待・要請される行為はなしうる(例:災害救援資金の寄附)。政党は議会制民主主義を支える不可欠の要素なので、その健全な発展への協力として政治資金の寄附も同じ。
  • 構成員(株主)の考えとの関係:
  • 論旨のいうごとく、会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄附が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためでなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄附をする能力がないとはいえないのである。
  • 要するに、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである。

会社の規模・経営実績に見合わない巨額の献金をした → 目的の範囲の問題とは別に、取締役が忠実義務違反を問われうる。本件の350万円は合理的な範囲を越えないとされた。

出題最高裁は、会社の政治献金は選挙権の自由な行使を直接侵害するが許容限度内とした(×)

×にされやすい形
  • 「判例は、寄附が目的の範囲内かを、その寄附が会社の目的遂行上現実に必要であったかによって判断した」(行為の客観的な性質に即し、抽象的に判断)
  • 「判例は、株主が自由に株式を譲渡して会社から離れられることを理由に、寄附を目的の範囲内とした」(判決はそう言っていない。構成員が政治的信条を同じくしなくても寄附の能力は否定されない、と述べた)
  • 「『性質上可能なかぎり』の判示は、寄附が定款の目的の範囲内かという争点に答えたものである」(参政権・民法90条の主張への答えの中)
  • 「判例によれば、会社による政治資金の寄附は、金額にかかわらず取締役の忠実義務に違反しない」(合理的な範囲を越える不相応な寄附は違反)

3精神的自由——内面と外面条文学説

法人に例
内面的な精神活動の自由(信仰の自由)保障されない法人そのものが何を信じるか
表現の自由()保障される政党の政治活動・報道機関の報道
宗教的行為の自由・宗教的結社の自由()保障される宗教団体の儀式・宗教団体の結成
  • 同じ信教の自由でも、信仰(心の中)は×、宗教的行為・宗教的結社(外に表れる活動)は○。信教の自由を丸ごと○×にしない。

宗教法人が礼拝の場所を開いて儀式を行う → 外面の活動なので保障される。新聞社が政府を批判する記事を出す → 会社にも表現の自由(報道の自由)が保障される。

出題精神的自由権は自然人とだけ結び付く人権なので、法人には保障されない(×)信教の自由は個人の内面の自由なので、法人には適用されない(×)宗教的行為の自由は20条1項前段でなく、同条2項により保障される(×)宗教団体を結成する自由は信教の自由でなく、21条1項の結社の自由として保障(×)

×にされやすい形
  • 「宗教法人には、信仰の自由そのものが保障される」(信仰は内面=保障されない。宗教的行為・宗教的結社の自由が保障される)
  • 「表現の自由は自然人の人格に結びつく権利なので、法人には保障されない」(外面的な精神活動として保障される)

4経済的自由——保障されるが、程度に差学説

  • 経済的自由(職業選択・営業の自由=、財産権=)は、法人にも保障される。
  • ただし保障の程度には差があり、社会国家の理念から、自然人よりも広い範囲の規制が許されうる、とする説明がある。
×にされやすい形
  • 「経済的自由は自然人の生活の基盤だから、法人には保障されない」(保障される。程度に差があるだけ)
  • 「法人の経済的自由には、自然人と同じ程度の規制しか許されない」(社会国家の理念から、より広い規制が許されうるとする説明がある)

5保障されない人権条文判例学説

保障されない条文理由
社会権〜生身の人の生活を前提にする
選挙権その他の参政権—自然人たる国民であることを前提にする(判決も「自然人たる国民にのみ」と認める)
一定の人身の自由(奴隷的拘束・苦役)・(逮捕)・(抑留・拘禁)・(拷問・残虐な刑罰)拘束される身体を前提にする
  • 八幡製鉄事件の判決(憲法の争点の冒頭):
  • 憲法上の選挙権その他のいわゆる参政権が自然人たる国民にのみ認められたものであることは、所論のとおりである。
  • そのうえで判決は、政党への寄附は参政権の行使そのものに「直接影響を及ぼすものではない」、選挙権の自由なる行使を「直接に侵害するものとはなしがたい」として寄附を認めた(参政権が無いことと、寄附の自由があることは両立する)。

会社が「奴隷的に拘束される」ことも「拷問を受ける」こともありえない → ・は及ばない。赤字の会社が生存権()を理由に生活保護を求めることもできない。

×にされやすい形
  • 「八幡製鉄事件の判決は、会社にも参政権が認められることを前提に、政治資金の寄附を認めた」(参政権は自然人たる国民にのみ認められると認めたうえで、寄附は選挙権の自由なる行使を直接に侵害するものとはなしがたいとした)
  • 「人身の自由は、すべて法人にも保障される」(・・・は保障されない)
  • 「法人にも、生存権など社会権が保障される」(社会権=〜は保障されない)

6政治活動の自由の保障の程度判例学説

  • 政治活動の自由そのものは、外面的な精神活動として法人にも保障される。問題は程度(自然人と同程度か、特別の制約が許されるか)。
  • 判例(八幡製鉄事件):
  • 憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。
  • 政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によつてそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあつたとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない。
  • …その指摘するような弊害に対処する方途は、さしあたり、立法政策にまつべきことであつて、憲法上は、公共の福祉に反しないかぎり、会社といえども政治資金の寄附の自由を有するといわざるを得ず、…
  • 判決が言ったこと=会社にも自然人たる国民と同様の政治的行為の自由があり、寄附と自然人の寄附を区別すべき憲法上の要請は無い。言っていないこと=法律で会社の寄附を区別して規制することを禁じたわけではない。判決は金権政治・政治腐敗などの弊害への対処を「さしあたり、立法政策にまつべき」とし、「公共の福祉に反しないかぎり」と留保した=法律による規制の余地は残っていると読める。
  • この判決は、保障の程度について自然人と差異を認めなかったものと読まれている。
  • 学説の批判:強大な経済力を持つ法人の政治献金を全面的に認めると、自然人の政治的影響力を弱める。

出題会社の政治資金の寄附は、国民による寄附と別異に扱わなければならない(×)

×にされやすい形
  • 「判例は、会社による政治資金の寄附を法律で自然人の寄附と区別して規制することは、憲法上許されないとした」(別異に扱うべき憲法上の要請は無いとしたもので、立法による規制を禁じたものではない。弊害への対処は立法政策にまつべきこと)
  • 「判例は、会社の政治活動の自由は自然人よりも狭い範囲でのみ保障されるとした」(自然人たる国民と同様)
  • 「判例は、会社の政治資金の寄附は選挙権の自由なる行使を直接に侵害するとした」(直接に侵害するものとはなしがたいとした)

7団体の両面性と強制加入団体判例学説

  • 団体の両面性:団体は、それ自体が人権の主体として守られる主体であると同時に、構成員に対しては、その人権を侵害しうる主体にもなる。団体の政治的な自由が強く認められるほど、構成員が誰を支持するかを自分で決める自由が押しつぶされる危険も大きくなる。
  • 緊張の強さは、構成員が抜けられる団体か(会社なら、株主は株を売って離れられる)、抜けられない強制加入団体か(税理士として働くには税理士会、司法書士として働くには司法書士会に入る)で変わる。この対比は学説の整理で、八幡製鉄事件の判決が理由にしたものではない。
  • 判例も、会社と強制加入団体を区別した=南九州税理士会事件(最判平8・3・19)。税理士会は会社とは法的性格を異にする法人(目的が法律で定められ、国の監督に服し、強制加入で実質的には脱退の自由が無い)だとして、政党など政治団体への寄付は税理士会の目的の範囲外とした。

ある業界団体が特定の候補者を全面的に支援する方針を打ち出し、会員にもその候補者への支持を暗に求める → 会員は本音では嫌でも従わざるを得ない空気になる(侵害しうる主体)。

×にされやすい形
  • 「八幡製鉄事件の判決は、株主が嫌なら株を売って会社を辞められることを前提に、会社の政治献金を認めた」(判決にその理由は無い。株を売って抜けられるという対比は学説の整理。会社と強制加入団体を区別したのは南九州税理士会事件)
  • 「判例は、強制加入団体である税理士会が政治団体へ寄付することも、会社の場合と同様に目的の範囲内であるとした」(会社とは法的性格を異にし、目的の範囲外)

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