憲法ゼロから憲法#8

法人の人権と八幡製鉄事件

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団体の人権享有主体性(法人にも人権はあるか)

団体の範囲

定義ここでいう団体には、法人のほか、権利能力なき社団も含みます。

権利能力なき社団とは、法律上は人ではないけれど、実質は法人と変わらない団体です。

具体例会社が法人の典型で、サークルのような団体が権利能力なき社団の典型です。

法人に人権を認める理由

結論法人などの団体にも、権利の性質上可能な限り、人権の保障が及びます。

これが学界の一致した理解です。

理由人権は本来、生身の人間である自然人の権利ですが、次の2つの理由から団体にも及ぼします。

  • 社会的実在:法人などの団体は、社会の中で自然人と同じように活動する実体で、現代社会に欠かせない存在です。
  • 構成員への帰属:法人の権利の効果は、最終的に、そこに集まる自然人の活動を守ることにもなります。

具体例法人に人権がまったく無いと、契約を結ぶ自由も財産を持つ自由も、法人の名で主張できません。

法人が社会で担う役割そのものが、成り立たなくなります。

八幡製鉄事件(性質上可能な限り)

事案ある製鉄会社が、特定の政党に政治資金を寄付しました。

この寄付が、会社の目的の範囲内かどうかが争われました。

結論最高裁は、「憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用される」としました。

この判示が、法人の人権享有主体性を認めた根拠として引用され続けています。

寄付は、会社の目的の範囲内だと認められました。

理由会社も社会の中で活動する存在である以上、政治にかかわることもその活動の一つだからです。

注意外国人の人権では「日本国民のみを対象とするものを除き」、団体では「性質上可能な限り」と表現が違います。

しかし、その権利の性質が対象を限定しているかで判定する点は同じ発想です。

八幡製鉄事件最高裁判所大法廷判決性質上可能な限り憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用される。

団体に保障される人権と保障の程度

団体にも、権利の性質上可能な限り、人権が及びます。
では、具体的にどの人権が、どこまで保障されるのでしょうか。

団体に保障される/されない人権の比較表(精神的自由の内面=×・外面=○、経済的自由=○だが自然人より広く規制可能、政治活動の自由=○で自然人と同程度、社会権・選挙権・人身の自由=×)

精神的自由(内面と外面)

結論精神的自由は、内面と外面で分かれます。

  • 内面的な精神活動の自由:信仰そのもの(心の中で何を信じるか)は、法人には保障されません。
  • 外面的な精神活動の自由:宗教的な行為をする自由・宗教団体を作る自由・表現の自由は、法人にも保障されます。

具体例政党の政治活動や、報道機関の報道の自由が典型です。

経済的自由(保障の程度)

結論経済的自由は法人にも保障されますが、保障の程度に差があります。

社会国家の理念から、自然人よりも広い範囲の規制が許されると解されています。

理由自然人と法人では、経済的自由の意味が違います。

  • 自然人:職業を選ぶことも財産を持つことも、その人の生活や人格の発展に直結しています。
  • 法人:経済活動は多くの場合、大きな経済力を背景にしていて、社会の公正さを保つために調整する必要が大きいのです。

具体例一つの会社が値段や仕入れ先を決めるだけで、その街の小さな店が立ち行かなくなることがあります。

保障されない人権

結論生身の個人であることを前提とする権利は、法人には保障されません。

具体例社会権、選挙権・被選挙権、一定の人身の自由(住居の不可侵、逮捕・抑留に関する権利など)です。

政治活動の自由の保障の程度

政治活動の自由そのものは、外面的な精神活動として法人にも保障されます。
では、その保障の程度は、自然人と同じなのでしょうか。

八幡製鉄事件(自然人と同程度)

結論判例は、会社の政治活動の自由を自然人と同程度に認めました。

  • 政治的行為の自由:「会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有する」としました。
  • 政治資金の寄附:寄附も「まさにその自由の一環」であり、政治の動向に影響を与えることがあっても、自然人による寄附と「別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない」としました。

八幡製鉄事件最高裁判所大法廷判決自然人と同程度会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有する。政治資金の寄附もまさにその自由の一環であり、会社によってそれがなされた場合、政治の動向に影響を与えることがあったとしても、これを自然人たる国民による寄附と別異に扱うべき憲法上の要請があるものではない

判例への批判

注意この判例には、強い批判があります。

強大な経済力を持つ法人の政治献金を全面的に認めると、自然人の政治的な影響力が埋もれてしまうという指摘です。

団体の両面性(守られる主体であり、脅かす主体でもある)

団体は、それ自体が人権の主体として守られる存在です。
では、団体の中にいる構成員から見ると、団体はどのような存在なのでしょうか。

守られる主体と脅かす主体

結論団体は「守られる主体」であると同時に、構成員に対しては「人権を侵害しうる主体」にもなります(団体の両面性)。

理由団体の政治的な自由が強く認められるほど、構成員が誰を支持するかを自分で決める自由が押しつぶされる危険も大きくなるからです。

具体例業界団体が特定の候補者を全面的に支援する方針を打ち出し、会員にもその候補者への支持を暗に求める場合です。

自由加入団体と強制加入団体

結論加入を選べる団体か、選べない強制加入団体かで、構成員との緊張の強さが変わります。

  • 自由加入団体:八幡製鉄事件の結論は、自分の意思で自由に加入した株主を前提にしています。嫌なら株を売って辞められるので、会社の政治活動が自由でも、株主の思想の自由と正面から衝突しません。
  • 強制加入団体:加入するかどうかをそもそも選べないので、団体が政治的な活動をすると、構成員の思想の自由との緊張がずっと強く出ます。

具体例税理士として働くには税理士会に、司法書士として働くには司法書士会に、必ず加入しなければなりません。

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