憲法ゼロから憲法#13

私人間効力

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問い:会社が思想を理由に人を切り捨てたとき、相手が国でなくても、憲法で争えるのか。

骨組み

  1. 1問題の所在:人権規定の本来の名宛人=公権力(国と個人の関係)。社会的権力(大企業・マスメディアなど)による人権侵害が生じた → 人権規定を私人間にも使えるか=私人間効力の問題。三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12):・など自由権的基本権の規定は私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない(根拠=歴史的沿革と基本権規定の形式、内容)
  2. 2直接適用説(学説):論拠=人権規定は実体法秩序の最高の価値で、全法領域に妥当 → 私人間にも直接適用。難点=私的自治の原則を広く害する(常に憲法問題になるのは行き過ぎ)
  3. 3無適用説(学説):憲法は国家と国民の関係を規律する法 → 憲法に特段の定めがある場合を除いて、私人間には適用しない。ほぼ支持を失っていたが、近時、再評価する見解が有力
  4. 4間接適用説(従来の通説):直接適用は否定。民法90条のような私法の一般条項を、憲法の趣旨を取り込んで解釈・適用し、間接的に私人間を規律。公法と私法の分類を維持できる。判例(三菱樹脂事件)も採用したと一般に解されている。判決の言い方:対立の調整は原則として私的自治、社会的に許容しうる限界を超える場合にのみ法が介入
  5. 5三菱樹脂事件が退けた見解(最大判昭48・12・12):社会的力関係の相違で事実上服従せざるをえない場合に限り基本権規定を適用ないし類推適用する見解=採用できない。理由=国の支配と同視すべき場合の判定が困難/国=権力の法的独占、私人=単なる社会的事実としての力の優劣で性質上区別。行き過ぎは立法措置で是正でき、場合によっては民法1条・90条・不法行為の規定の運用で調整
  6. 6注意点①直接適用される規定(学説):直接的な私法的効力をもつと解される規定は私人間にも直接適用。例=後段(選挙の無答責)・前段(奴隷的拘束)・(児童酷使)・(労働基本権)=例示
  7. 7注意点②相対化(学説):憲法の趣旨は一般条項の解釈の考慮事由の一つ=私的自治の要請と総合考慮。取り込む程度は関係の性質で変わる(強大なマスメディア対個人=実質的に直接適用説と異ならない/対等な私人=実質的に無適用説と異ならない)。沈黙の自由:国の思想調査=およそ許されないと解される/企業の思想調査=許されることがある
  8. 8新無適用説(近時の有力説):人権=超実定法的権利。①憲法上の権利は公権力を名宛人とする特質に拘束され、私人間にはおよそ適用され得ない ②私人間で使えるのは民法に取り込まれた人権だけ。論者は三菱樹脂事件を無適用説と読む。具体的な結論は間接適用説とほとんど変わらないと評する解説がある
  9. 9純然たる事実行為とステイト・アクション(学説):民法90条は法律行為の無効の規定 → 純然たる事実行為には届かない → 答案では民法709条の違法性の解釈・適用で憲法問題にすれば足りる、と解説される。参考=アメリカのステイト・アクションの理論(無適用説が前提・国家同視説・2つの型)

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます(押せるのは日本国憲法の条文だけ。民法などの条文番号は文字のまま)。最大判=最高裁大法廷の判決。判決文の「雇傭」は当時の表記(今の「雇用」)。

私人どうしの争いで、人権が問題になった直接的な私法的効力をもつ規定か例:15条4項後段・18条前段・27条3項・28条など憲法を直接適用はいいいえ争う相手の行為は法律行為か意思表示を要素とする行為(雇用契約・解雇・賃貸借とその解除など)民法90条で判断公序良俗に憲法の趣旨を取り込む(損害賠償なら709条も)はいいいえ(事実行為)民法709条で判断侵害が違法といえるかに憲法の趣旨を取り込む
間接適用説(従来の通説)に立ったときの受け皿の選び方。90条・709条のどちらでも、憲法の趣旨をどこまで取り込むかは当事者の関係の性質で変わる(項目7)。90条を使えるのは無効にする法律行為がある場合。法律行為でも損害賠償を求めるなら709条が受け皿になり、雇入れの拒否のように無効にする行為が無い場面もある(判決は、思想・信条を理由とする雇入れの拒否を、不法行為とも公序良俗違反ともいえないとした=項目7)。

1問題の所在——人権規定の名宛人と社会的権力学説判例

  • 名宛人=法が誰に向けて書かれているか、その向け先。人権規定の本来の名宛人は公権力=国と個人の間で使う法として作られている。
  • 資本主義の高度化で、私人でありながら国に匹敵する力をもつ社会的権力(大企業・全国に情報を流すメディアなど)が現れ、私人による人権侵害が生じた。典型=マスコミによるプライバシー侵害。
  • そこで、人権規定を私人どうしの間でも使えないかが問われる=私人間効力の問題。
  • 三菱樹脂事件(試用期間の満了直前に本採用を拒否された人が、会社を相手にその効力を争った事件・事案は項目4)の判決は、・などの規定についてこう述べる:
  • しかしながら、憲法の右各規定は、同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。
  • このことは、基本的人権なる観念の成立および発展の歴史的沿革に徴し、かつ、憲法における基本権規定の形式、内容にかんがみても明らかである。
  • 判決が挙げる根拠は歴史的沿革と基本権規定の形式、内容(人権規定そのものの書きぶり)。(補足・判決は挙げていない)で憲法尊重擁護義務を負うのも天皇又は摂政・国務大臣・国会議員・裁判官その他の公務員で、私人は挙がっていない。

何万人もの働く場所を左右する大企業が、思想を理由に人を切る → 形は私人どうしの争いだが、一方が他方を事実上押さえ込める力の差は、国と個人の関係に似ている。ここで「相手は国ではないから憲法は関係ない」で済ませてよいか、が問題の出発点。

×にされやすい形
  • 「三菱樹脂事件の判決は、人権規定が私人相互の関係を直接規律しない根拠として、を挙げた」(判決が挙げるのは歴史的沿革と基本権規定の形式、内容)
  • 「判例は、・は私人相互の関係も直接規律するとした」(直接規律することを予定するものではない)

2直接適用説学説

  • 主張:人権規定を、私人どうしの間にもそのまま適用する。
  • 論拠:人権規定は実体法秩序の最高の価値を定めたもの → その価値は法のあらゆる領域に妥当する。強い私人に限って当てる説ではない。
  • 私的自治の原則=私人間の法律関係は、私人が自由に契約(合意)で決められる、という原則。
  • 難点:私的自治の原則を広く害するおそれ。場面によっては憲法違反とされることもありうるが、常にそうなるのは行き過ぎ → 通説にならなかった。

会社が思想を理由に人を切る → 直接適用説なら、その扱いが・に反するかを直接問える。しかし同じ理屈は、個人が使わなくなった自転車を3人の申込者のうち誰に売るかにも及ぶ。断られた人が「信条を理由に外された」と言えば、なぜその人を選ばなかったのかを憲法の物差しで説明しなければならなくなりかねない。

出題直接適用説には、私的自治の否定や国家の私的領域への過度な介入を招くおそれ(○)人権規定は国家と国民の関係だけでなく私人間の関係にも直接適用される

×にされやすい形
  • 「直接適用説は、社会的権力を持つ私人に限って、人権規定を直接適用する説である」(論拠は人権規定が全法領域に妥当すること=私人一般に及ぶ)
  • 「直接適用説への批判は、私人間に憲法を持ち込むこと自体が許されない、というものである」(問題は常に持ち込まれること=私的自治を広く害する)

3無適用説学説

  • 主張:憲法は国家と国民の関係を規律する法 → 人権規定は、憲法に特段の定めがある場合を除いて、私人間には適用されない。
  • 留保の「特段の定め」=たとえば後段(選挙人は私的にも責任を問われない)のように、条文自体が私人の領域に及ぶ規定。
  • 評価:ほぼ支持を失っていた。難点として、力の差がある場面で弱い側が救われない(会社が思想を理由に人を切っても、憲法の側からは何も言えない)。
  • ただし近時、これを再評価する見解が有力(新無適用説=項目8)。

出題無適用説は、人権は全ての法秩序に妥当すべき価値との考え方を背景とする(×)人権規定は私人間には適用されず、国家と国民の関係にのみ適用される

×にされやすい形
  • 「無適用説は、憲法に特段の定めがある場合も含め、人権規定は私人間に一切適用されないとする」(特段の定めがある場合を除く)
  • 「無適用説は、現在の通説である」(ほぼ支持を失った。従来の通説は間接適用説)

4間接適用説(従来の通説)と三菱樹脂事件学説判例

  • 定義:直接適用は否定し、民法90条のような私法の一般条項を、憲法の趣旨を取り込んで解釈・適用することによって、間接的に私人間の行為を規律する。従来の通説。
  • 一般条項=何が当たるかの中身を書かず、時代や場面に合わせて中身を入れられる幅の広い条文。民法90条(公序良俗):公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。90条のほか、民法709条(不法行為)なども受け皿になる。
  • 二段構え:私人の行為に直接適用されるのは憲法ではなく私法の一般条項。憲法は、その条項の中身を決めるときに背後から流れ込む=憲法を使わない説ではない。
  • (説明)直接適用説の難点(私的自治を広く害する)と、無適用説の難点(弱い側が救われない)を避けられる。そのうえで、公法と私法の分類を維持できる(国と個人の関係=公法、私人どうしの関係=私法、という整理を保ったまま憲法の価値を届けられる)利点がある、とされる。
  • 判例:一般的な判例解釈によれば、三菱樹脂事件(最大判昭48・12・12)は間接適用説を採ったと解されている(判決が自ら「間接適用説」と名乗ったのではない)。
  • 事案:大学卒業と同時に3か月の試用期間付きで採用された者が、採用試験の身上書・面接で学生運動歴などを秘匿し虚偽の回答をしたとして、試用期間の満了直前に本採用を拒否され、その効力を争った。結論=原判決破棄・差戻し。判決は、雇入れの段階では企業者の自由を広く認める一方、本採用の拒否は留保解約権の行使=雇入れ後における解雇にあたり、通常の雇入れの拒否と同視できない(雇入れの場合のような広い範囲の自由はない)とした。
  • のみならず、これらの規定の定める個人の自由や平等は、国や公共団体の統治行動に対する関係においてこそ、侵されることのない権利として保障されるべき性質のものであるけれども、私人間の関係においては、各人の有する自由と平等の権利自体が具体的場合に相互に矛盾、対立する可能性があり、このような場合におけるその対立の調整は、近代自由社会においては、原則として私的自治に委ねられ、ただ、一方の他方に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ、法がこれに介入しその間の調整をはかるという建前がとられているのであつて、この点において国または公共団体と個人との関係の場合とはおのずから別個の観点からの考慮を必要とし、後者についての憲法上の基本権保障規定をそのまま私人相互間の関係についても適用ないしは類推適用すべきものとすることは、決して当をえた解釈ということはできないのである。
  • 私的自治に委ねるのは原則にとどまる。限界を超える侵害には法が介入する。判決は、その手段として民法1条・90条や不法行為に関する諸規定を挙げる(項目5の引用)。
  • (まとめ)冒頭の問いへの答え:会社の行為に憲法を直接当てて争うのではなく、民法90条・709条などの一般条項を通して、憲法の趣旨を取り込んで争う(直接適用される規定は別=項目6)。

会社が「特定の宗教に入信したら退職する」と誓約させる契約を結んだ → を契約に直接当てるのではなく、その契約が民法90条の公序良俗に反して無効かを、信教の自由の趣旨を取り込んで判断する。自転車の売り先を選んだだけなら、公序良俗に反するとは言えない=私的自治は残る。

出題私人間を直接規律しないとする説に立つと、私法規定の解釈による調整は採り得ない(×)

×にされやすい形
  • 「間接適用説では、私人の行為に直接適用されるのは憲法の人権規定である」(直接適用されるのは私法の一般条項)
  • 「間接適用説は、私人間の紛争の解決に憲法を用いない説である」(憲法の趣旨を一般条項の解釈に取り込む)
  • 「三菱樹脂事件の判決は、判決文の中で間接適用説を採ることを明言した」(一般的な判例解釈でそう解されているだけ)
  • 「判例は、私人間の対立の調整は常に私的自治に委ねられ、法が介入する余地は無いとした」(原則として私的自治。社会的に許容しうる限界を超える場合には法が介入する)

5三菱樹脂事件が退けた見解判例

  • 判決は、私人間でも社会的な力関係の違いから一方が事実上服従せざるをえない場合があることは認めたうえで、次の見解を退けた。
  • もつとも、私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、このような場合に私的自治の名の下に優位者の支配力を無制限に認めるときは、劣位者の自由や平等を著しく侵害または制限することとなるおそれがあることは否み難いが、そのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない。
  • 何となれば、右のような事実上の支配関係なるものは、その支配力の態様、程度、規模等においてさまざまであり、どのような場合にこれを国または公共団体の支配と同視すべきかの判定が困難であるばかりでなく、一方が権力の法的独占の上に立つて行なわれるものであるのに対し、他方はこのような裏付けないしは基礎を欠く単なる社会的事実としての力の優劣の関係にすぎず、その間に画然たる性質上の区別が存するからである。
  • すなわち、私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。
  • 退けられたのは、私人の力が強いこと(事実上の力の優劣)だけを理由に、憲法を適用ないし類推適用する見解。判決は、アメリカのステイト・アクションの理論(項目9)には触れていない(国の財政援助のような国家関与型や、公的な機能を行使する型について何も述べていない)。
  • (説明)力の差は「問題の所在」(項目1)では私人間効力を問う理由になるが、判決は、私人の力は国の支配と性質上区別されるとして、力の差を理由に国と同じ扱いをする道を採らなかった。力の差は、一般条項の中でどこまで憲法の趣旨を取り込むか(項目7)で考える。
判決が挙げた理由中身
判定が困難事実上の支配関係は態様・程度・規模がさまざまで、どの場合に国の支配と同視すべきか決められない
性質上の区別国の支配=権力の法的独占の上に立つ/私人の力=単なる社会的事実としての力の優劣
他の調整手段がある立法措置による是正/民法1条・90条や不法行為に関する諸規定の適切な運用

出題事実上の支配関係で直接適用する説につき、判例は国の支配と同視すべき場合の判定が困難とした(○)事実上の力の優越は、権力の法的独占に基づく国家の支配とは性質が違うと批判される(○)

×にされやすい形
  • 「三菱樹脂事件の判決は、ステイト・アクションの理論を明示的に排斥した」(退けたのは、事実上の力の優劣がある場合に限り基本権規定を適用・類推適用する見解)
  • 「判例は、一方が他方に事実上服従せざるをえない私人間の関係では、憲法の基本権保障規定を類推適用できるとした」(その見解は採用できないとした)
  • 「判例は、私人の支配力は国の支配と程度が違うにすぎないとした」(権力の法的独占の有無で、画然たる性質上の区別があるとした)

6注意点①——私人間にも直接適用される規定条文学説

  • 間接適用説に立っても、直接的な私法的効力をもつと解される人権規定は、私人間にも直接適用されると解されている。例として挙がるのは次の4つ(「たとえば…など」=例示)。
  • (説明)いずれも、私人による侵害を正面から想定した規定と読める。通説の整理では、個々の人権規定の趣旨、目的ないし法文から直接適用される規定がある、とされる。
規定条文私人による侵害を想定していると読める点(説明)
選挙における無答責後段:選挙人は、その選択に関し公的にも私的にも責任を問はれない。条文が「私的にも」と書く
奴隷的拘束の禁止前段:何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない。国だけでなく私人による拘束も禁じる
児童酷使の禁止:児童は、これを酷使してはならない。酷使するのは私的な使用者
労働基本権:勤労者の団結する権利及び団体交渉その他の団体行動をする権利は、これを保障する。雇う側は私人
  • の前段は「すべて選挙における投票の秘密は、これを侵してはならない」。直接適用の例として挙がるのは後段(無答責)。
  • は三権=団結権・団体交渉権・団体行動権。

会社が社員に「選挙で誰に入れたか」を報告させ、入れた候補で人事を変えた → 選挙人は私的にも責任を問われない(後段)。一般条項を通すまでもなく、憲法が直接働く場面。

出題28条の労働基本権は私人相互の関係でも意味を持ち、契約自由の原則が制限される(○)28条は私法の一般規定を通じて使用者・労働者の関係に間接適用される(×)28条は性質上、私人間の関係に適用される余地がない(×)立法措置がない限り、正当な争議行為による損害の賠償責任は免れさせられない(×)

×にされやすい形
  • 「間接適用説に立つ以上、憲法の人権規定が私人間に直接適用されることはない」(直接的な私法的効力をもつ規定は直接適用される)
  • 「私人間に直接適用される例として挙げられるの規定は、前段の投票の秘密である」(後段の無答責)
  • 「の奴隷的拘束の禁止は、国家による拘束だけを禁じる」(私人による拘束にも直接適用されると解されている)

7注意点②——私人間の人権保障の相対化学説判例

  • 間接適用説を採っても、答えは決まらない:憲法の趣旨は一般条項の解釈・適用の一つの考慮事由にとどまり、私的自治の要請なども総合考慮される。
  • 相対化=私人間の人権保障の強さが、問題となっている関係の性質で変わること。一般条項に憲法の趣旨をどの程度まで取り込むかの問題。
関係憲法の趣旨の取り込み実質的に近い説
強大なマスメディア対個人より強く取り込む(個人の保護の要請が強い)直接適用説と異ならない
対等な私人どうしあまり取り込まない(私的自治の要請が勝つ)無適用説と異ならない
  • 答案では、説の名前ではなく、当該関係がどういう関係かを具体的に検討する。
  • 例=沈黙の自由(の思想及び良心の自由に含まれる、考えを言わずにいられる自由)。国との関係では絶対的に保障され、強制的な思想調査はおよそ許されないと解されている。企業が就職希望者に思想調査をすることは許されることがある。
  • 三菱樹脂事件の判決は、企業者にも・等で経済活動の自由が保障されていることを挙げ、次のように述べた。
  • …企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。
  • また、思想、信条を理由とする雇入れの拒否を直ちに民法上の不法行為とすることができないことは明らかであり、その他これを公序良俗違反と解すべき根拠も見出すことはできない。
  • 右のように、企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。
  • (説明)企業と就職希望者の間には力の差があるが、企業の側にも・の経済活動の自由(契約締結の自由)があり、判決は雇入れの段階ではこちらを重く見た。雇入れ後の解雇では企業者の自由は狭くなる(項目4の結論)。

全国ネットのテレビ局が一般人の前科を実名で報じた場合と、隣どうしの二人が同じ話を立ち話でした場合 → 中身は同じでも、前者は書かれた人が対抗できず、憲法の趣旨を強く取り込む方向に動く。後者は言い返せる関係で、私的自治の要請が勝つ方向に動く。

出題間接効力説は、一般条項への人権価値の充塡の程度により結論が大きく異なり得る(○)党員か否かの調査は、必要性があり不利益の示唆や強要にわたらない限り許容される(○)強要にわたらなくても、所属政党に関する書面の提出を求めるのは違法行為である(×)

×にされやすい形
  • 「間接適用説を採れば、私人間の紛争の結論は一つに決まる」(憲法の趣旨は考慮事由の一つ。関係の性質で取り込む程度が変わる)
  • 「強大なマスメディアと個人の関係では、私的自治を重視し、憲法の趣旨はあまり取り込まない」(逆=より強く取り込み、実質的に直接適用説に近い)
  • 「判例は、企業が採否の決定にあたり応募者に思想・信条に関連する事項の申告を求めることは、に反し違法であるとした」(法律上禁止された違法行為とすべき理由はないとした)
  • 「沈黙の自由は、国との関係でも私人との関係でも、同じ強さで保障される」(国との関係では絶対的。企業の思想調査は許されることがある)

8新無適用説(近時の有力説)学説

  • 出発点:人権=人が生まれながらに持つ自然権で、憲法ができる前からある超実定法的な権利。それが憲法・民法などの実定法に取り込まれた。
  • 柱①:憲法に取り込まれた人権(憲法上の権利)は、公権力を名宛人とする憲法の特質に拘束され、私人間にはおよそ適用され得ない。
  • 柱②:私人間で適用できるのは、民法に取り込まれた人権(私人間で適用されるべき権利)だけ。
  • 判例の読み方:論者は、三菱樹脂事件の判決を無適用説の立場と読むのが正しいと主張する(従来の通説は間接適用説と読む)。
  • 評価:近時の有力説で、通説ではない。具体的な結論は間接適用説とほとんど変わらない(間接適用説も、私人の行為に直接使うのは民法)ので、答案は間接適用説で書けば足りる、と評する解説がある。
  • (説明)間接適用説との違いは、民法の解釈に入れる価値の出どころ:間接適用説=憲法の趣旨/新無適用説=憲法より前からある人権が民法に取り込まれたもの。旧来の無適用説と違い、民法の中の人権で弱い側を救える。
説人権規定は私人間に私人の行為に直接当てるもの位置づけ
直接適用説そのまま適用憲法通説にならなかった
無適用説特段の定めがある場合を除き適用しない(私法だけで判断)ほぼ支持を失った
間接適用説直接は適用しない(一般条項に趣旨を取り込む)私法の一般条項従来の通説・一般的な判例解釈
新無適用説およそ適用され得ない民法に取り込まれた人権近時の有力説

会社が「特定の宗教に入信したら退職する」と誓約させる契約 → 新無適用説で見ても、使うのは民法90条(民法に取り込まれた人権)で、結論の出し方はほぼ同じ。違いが出るのは、同じ判決をどの説と読むか。

×にされやすい形
  • 「新無適用説は、現在の通説である」(近時の有力説。従来の通説は間接適用説)
  • 「新無適用説の論者は、三菱樹脂事件の判決を間接適用説の立場と読む」(無適用説の立場と読む)
  • 「新無適用説に立つと、具体的な結論は間接適用説と大きく異なる」(ほとんど変わらない)
  • 「新無適用説は、憲法上の権利は私人間にも直接適用されるとする」(およそ適用され得ない。使えるのは民法に取り込まれた人権)

9純然たる事実行為とステイト・アクションの理論学説

  • 法律行為=私法上の権利・義務を発生させる私人の行為のうち、意思表示を要素とするもの(例:雇用契約・解雇・賃貸借とその解除)。
  • 民法90条は法律行為を無効にする規定 → 侮辱のような純然たる事実行為には無効にする対象が無く、90条では争えないのではないか、という問題点がある。
  • 答案では:事実行為は民法709条(不法行為)の違法性の解釈・適用を通じて憲法問題とすれば足りる、と解説される。民法709条:故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。(「違法性」は条文の文言ではない。侵害が違法といえるかの判断に憲法の趣旨を取り込む)
  • 参考:この問題点を考える際に参考になるとされるのが、アメリカのステイト・アクションの理論。無適用説を前提に、私人の行為を国家の行為と同視できる場合に憲法を直接適用する(国家同視説)。(説明)同視できれば私人の行為ではなく国家の行為として扱うので、無適用説の前提とぶつからない。
  • ただし、答案では事実行為を709条で受ければ足りるので、この理論を展開することはほぼない、と解説される。
ステイト・アクションの型例
① 公権力が私的行為にきわめて重要な程度にかかわった場合国から特別の財政的援助を受けて営まれている事業
② 私人が国に準ずる高度に公的な機能を行使している場合会社が町ごと所有し、運営している場合
  • (説明)型①②は、公権力の関与や公的な機能の行使という国との結びつきを理由に国家の行為と同視する。三菱樹脂事件が退けたのは、事実上の力の優劣だけを理由に基本権規定を適用ないし類推適用する見解(項目5)。

SNS で同僚を中傷する投稿 → 意思表示で権利義務を生じさせる行為ではないので、無効にすべき法律行為が無い(90条は空振り)。受け皿は709条で、その投稿が違法といえるかの判断に憲法の趣旨が入る。会社がその投稿者を投稿を理由に解雇したなら、解雇は法律行為=90条の問題。

×にされやすい形
  • 「純然たる事実行為も、民法90条によって無効とすることができる」(90条は法律行為の無効の規定。事実行為は709条で受ける)
  • 「ステイト・アクションの理論は、直接適用説を前提とする理論である」(無適用説を前提に、国家の行為と同視できる場合に直接適用する)
  • 「ステイト・アクションの理論は、私人の社会的な力が強ければ、それだけで国家の行為と同視する」(型は公権力の関与と公的機能の行使の2つ)

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