憲法ゼロから憲法#14

三菱樹脂事件

憲法の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→

問い:人権の規定は私人どうしを直接は縛らない。では、会社が「雇わない」と決めるのと「やめてもらう」と決めるのとで、答えは同じなのか。学校と学生、定年の男女差ではどうか。

骨組み

  1. 1人権規定と私人どうし(三菱樹脂事件・最大判昭48・12・12):・は、他の自由権的基本権の規定と同じく、国または公共団体と個人との関係を規律し、私人相互の関係を直接規律することを予定しない。社会的力関係の差がある場合に限って適用・類推適用する見解も採らない。調整=原則私的自治。限界を超える侵害には立法措置、場合によっては民法1条・90条・不法行為の規定の運用
  2. 2判決の読み方(学説):従来の通説=間接適用説を採ったと読む(一般的な判例の読み方)/近時の有力説=無適用説を採ったと読む。判決文に説の名前は出てこない
  3. 3雇入れの自由(判例):・等の経済活動の自由 → 契約締結の自由。法律その他による特別の制限がない限り誰をどんな条件で雇うかは原則自由 → 思想・信条を理由に雇入れを拒んでも当然に違法とはいえない(不法行為・公序良俗違反でもない)。思想・信条を調査し、関連事項の申告を求めることも違法でない
  4. 4労働基準法3条の射程(判例):雇入れ後の労働条件についての制限で、雇入れそのものを制約しない。ただし雇入れ後に特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも3条違反 → 法は雇入れの段階と雇入れ後の段階を区別している
  5. 5本採用拒否=留保解約権の行使(判例):試用期間つきの採用=解約権留保付の雇用契約 → 本採用拒否は雇入れ後の解雇で、雇入れの拒否と同視できない。通常の解雇より広い自由。ただし3つの理由から、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ。自由の広さ=雇入れ>留保解約権の行使>通常の解雇
  6. 6結論は破棄差戻し(判例):破棄差戻し=原判決を取り消し、審理をやり直させるため高裁に差し戻すこと。原審(最高裁の一つ前の東京高裁の判決。申告を求めることは許されない → 本採用拒否は無効)を破棄。本採用拒否が許されるかに最高裁は答えを出していない。差戻審が秘匿の有無・学生運動の内容(とくに違法行為の有無)・秘匿の動機などを明らかにして判断する
  7. 7昭和女子大事件の出発点と包括的権能(最判昭49・7・19):三菱樹脂事件を引き、私立大学の規則が直接憲法に違反するかを論ずる余地はない。そのうえで、大学は国公立・私立を問わず学生を規律する包括的権能を持つ(無制限ではない)。私立大学は校風を学則で具体化できる → 政治活動の届出制・許可制は不合理と断定できない
  8. 8退学処分と学長の裁量(判例):懲戒は学長の合理的な裁量。退学は改善の見込がなく、学外に排除することが教育上やむをえない場合に限る趣旨。事前の補導は、学則等に格別の定めがない限り、常に経るべき法的義務とまではいえない。本件の退学は裁量の範囲内(違反行為のみが理由ではない)
  9. 9日産自動車事件(最判昭56・3・24):就業規則のうち女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、性別のみによる不合理な差別として民法90条により無効。憲法は括弧の中の「参照」。不合理とする理由は原審の認定判断を最高裁が是認したもの

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます(押せるのは日本国憲法の条文だけ。民法・労働基準法などの条文番号は文字のまま)。短答は「判例の立場」と「判例をどう読むかの学説」を分けて問うので、出どころを混ぜない。最判=最高裁小法廷の判決、最大判=大法廷の判決。

1人権規定は私人相互の関係を直接規律しない判例

  1. 大学在学中に会社の採用試験に合格し、卒業と同時に3か月の試用期間を設けて採用された
  2. 試用期間の満了直前に、会社から満了とともに本採用を拒否すると告知された
  3. 会社が主張した理由=身上書・面接で、在学中の学生運動や学外の生活協同組合の役職などを秘匿し、虚偽の申告をした(詐欺に当たり、管理職要員として不適格)。秘匿が本当にあったかは確定していない
  4. 本採用拒否の効力を争う。原審は、思想・信条に関係する事項の申告を求めることは・・労働基準法3条に照らして公序良俗に反し許されないとし、本採用拒否を無効とした(労働者の勝訴)
  • 争われた人権=思想・良心の自由()と法の下の平等()。相手は国ではなく会社。
  • 最高裁は、人権規定の名宛人から答えた:
  • しかしながら、憲法の右各規定は、同法第三章のその他の自由権的基本権の保障規定と同じく、国または公共団体の統治行動に対して個人の基本的な自由と平等を保障する目的に出たもので、もつぱら国または公共団体と個人との関係を規律するものであり、私人相互の関係を直接規律することを予定するものではない。
  • …このような場合におけるその対立の調整は、近代自由社会においては、原則として私的自治に委ねられ、ただ、一方の他方に対する侵害の態様、程度が社会的に許容しうる一定の限界を超える場合にのみ、法がこれに介入しその間の調整をはかるという建前がとられているのであつて、…
  • 私的自治=私人どうしの関係は、当事者どうしの自由な取り決めに委ねる、という考え方。
  • 力の差が大きい私人どうし(会社と応募者など)なら国と同じに扱うべきだ、という考え方も、はっきり退けた:
  • もつとも、私人間の関係においても、相互の社会的力関係の相違から、一方が他方に優越し、事実上後者が前者の意思に服従せざるをえない場合があり、…
    …そのためにこのような場合に限り憲法の基本権保障規定の適用ないしは類推適用を認めるべきであるとする見解もまた、採用することはできない。
  • 理由=事実上の支配関係はさまざまで、どこから国の支配と同視するかの判定が難しい。国は権力の法的独占の上に立つが、私的な支配は単なる社会的事実としての力の優劣にすぎず、性質が違う。
  • では、行き過ぎた侵害はどう手当てするか。判決は立法措置を先に挙げ、一般条項の運用は「場合によつては」:
  • すなわち、私的支配関係においては、個人の基本的な自由や平等に対する具体的な侵害またはそのおそれがあり、その態様、程度が社会的に許容しうる限度を超えるときは、これに対する立法措置によつてその是正を図ることが可能であるし、また、場合によつては、私的自治に対する一般的制限規定である民法一条、九〇条や不法行為に関する諸規定等の適切な運用によつて、一面で私的自治の原則を尊重しながら、他面で社会的許容性の限度を超える侵害に対し基本的な自由や平等の利益を保護し、その間の適切な調整を図る方途も存するのである。
  • ここに出てくる民法の条文(現行の文言):民法1条=私権は公共の福祉に適合しなければならない(1項)、権利の行使及び義務の履行は信義に従い誠実に行わなければならない(2項・信義則)、権利の濫用は許さない(3項)。民法90条=公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は無効(公序良俗)。
自由・平等の侵害が争われている相手は国または公共団体か統治行動に対する関係人権規定が規律するはいいいえ(私人どうし)侵害が社会的に許容しうる限界を超えるか力関係に差があっても人権規定は適用・類推適用しない立法・一般条項で調整立法措置/場合により民法1条・90条・不法行為はいいいえ私的自治に委ねる原則
三菱樹脂事件の判決の筋を並べたもの。判決が要件の形で並べたものではない。力関係の差は「どちらの箱に入るか」を変えない(社会的力関係の差による適用・類推適用説は採らない)。

出題社会的に許容し得る範囲にとどまる場合に民法1条・90条等で調整するとした(×)

×にされやすい形
  • 「判例は、私人間でも、社会的力関係の相違から一方が他方に事実上服従せざるをえない場合には、憲法の人権規定が適用ないし類推適用されるとした」(その見解も採用できないとした)
  • 「判例は、私人間の侵害の調整は、民法の一般条項や不法行為の規定の運用によってのみ行うとした」(立法措置による是正を先に挙げ、一般条項の運用は「場合によつては」)
  • 「三菱樹脂事件で争われたのは、表現の自由である」(思想・良心の自由=と法の下の平等=)
  • 「会社は、採用試験で学生運動の経歴を秘匿したことを理由に本採用を拒否した、と最高裁が認定した」(秘匿等は会社の主張。秘匿があったかは差戻審で明らかにする事項)

2判決の読み方——間接適用説か、無適用説か学説

この判決をどう読むか憲法は私人間に届くかその説の中身
従来の通説間接適用説を採ったと読む(一般的な判例の読み方)届く(民法の一般条項の解釈を通して、憲法の趣旨が届く)民法などの私法の規定を通して、憲法の趣旨を私人どうしの関係に効かせる
近時の有力説無適用説を採ったと読むべきだと主張届かない(私人間で働くのは民法上の権利)人権を、憲法上の権利と民法に取り込まれた権利に分け、私人間で働くのは後者
  • 私人間にも人権規定をそのまま適用する考え(直接適用説)は、この判決の読み方の候補にならない。判決自身が、人権規定を私人相互間に「適用ないしは類推適用すべきものとすることは、決して当をえた解釈ということはできない」と退けている。
  • 判決文には「間接適用説」「無適用説」という言葉は出てこない。項目1の判示をどう読むかが学説で分かれている。
  • どちらの説に立っても具体的な結論はほとんど変わらない、という見方もある。短答では「通説はどう読むか」「有力説はどう読むか」の帰属を取り違えない。
×にされやすい形
  • 「三菱樹脂事件の判決は、間接適用説を採ることを明示した」(説の名前は出てこない。間接適用説と読むのが従来の通説)
  • 「近時の有力説も、三菱樹脂事件を間接適用説の判例と読む」(無適用説を採ったと読むべきだとする)

3雇入れの自由——拒否も調査も当然には違法でない判例条文

  • 項目1の枠組みを雇入れの場面に当てはめた判断。判決は、が私人のこのような行為を直接禁止するものでないことは「前記のとおり」と項目1を引き、そのうえで不法行為・公序良俗違反にも当たらないとした(下記)。
  • 根拠(判決の言葉):憲法は、・等において、財産権の行使、営業その他広く経済活動の自由をも基本的人権として保障している。企業者はその一環として契約締結の自由を持つ。
  • (補足)判決は項までは示していない。条文の文言では、が職業選択の自由を、が財産権を定めている。
  • それゆえ、企業者は、かような経済活動の一環としてする契約締結の自由を有し、自己の営業のために労働者を雇傭するにあたり、いかなる者を雇い入れるか、いかなる条件でこれを雇うかについて、法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由にこれを決定することができるのであつて、企業者が特定の思想、信条を有する者をそのゆえをもつて雇い入れることを拒んでも、それを当然に違法とすることはできないのである。
  • 思想・信条を理由とする雇入れの拒否は、直ちに民法上の不法行為にもならず、公序良俗違反と解すべき根拠も無い、とも述べた。
  • 調査・申告も同じ:
  • 右のように、企業者が雇傭の自由を有し、思想、信条を理由として雇入れを拒んでもこれを目して違法とすることができない以上、企業者が、労働者の採否決定にあたり、労働者の思想、信条を調査し、そのためその者からこれに関連する事項についての申告を求めることも、これを法律上禁止された違法行為とすべき理由はない。
  • 理由の一つ:企業の雇用関係は、単なる労働力の提供を超えた継続的な人間関係として相互信頼を要し、終身雇用制の社会ではなおさら。だから採否の前に性向・思想等を調べることも、企業活動としての合理性を欠くとはいえない。
  • 原審は「申告を求めることは公序良俗に反し許されない」としたが、最高裁はこれを法令の解釈・適用の誤りとした。

会社が「女性は採らない」と決めて応募を断った → 今は男女雇用機会均等法5条が募集・採用での性別による差別を禁じている=「法律その他による特別の制限」に当たり、雇入れの自由の枠の外になる。

出題採否決定で思想信条を調査し関連事項の申告を求めることは許されない(×)在学中の団体加入・学生運動参加の有無の申告を求めるのは違法(×)思想信条を調査し、思想信条自体の申告を求めても公序良俗に反しない(×)採用時の思想調査・関連事項の申告要求は違法でないが、雇入れ後の信条理由の解雇は違法(○)

×にされやすい形
  • 「判例によれば、企業者が特定の思想・信条を理由に雇入れを拒むことは、民法90条の公序良俗に反し違法である」(当然に違法とはいえない。公序良俗違反と解すべき根拠も無い)
  • 「判例によれば、採否決定にあたり応募者に思想・信条に関連する事項の申告を求めることは、の趣旨に反し違法である」(法律上禁止された違法行為とすべき理由はない)
  • 「判例は、企業者の雇入れの自由は、法律による制限を受けることのない絶対的な自由であるとした」(法律その他による特別の制限がない限り、原則として自由)

4労働基準法3条——雇入れには効かず、雇入れ後の解雇には効く判例

  • 労働基準法3条=信条などを理由に、賃金その他の労働条件について差別的取扱をすることを禁じる規定。
  • …また、労働基準法三条は労働者の信条によつて賃金その他の労働条件につき差別することを禁じているが、これは、雇入れ後における労働条件についての制限であつて、雇入れそのものを制約する規定ではない。
  • 他方、雇い入れた後は:
  • 右に述べたように、企業者は、労働者の雇入れそのものについては、広い範囲の自由を有するけれども、いつたん労働者を雇い入れ、その者に雇傭関係上の一定の地位を与えた後においては、その地位を一方的に奪うことにつき、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない。
  • 労働基準法三条は、前記のように、労働者の労働条件について信条による差別取扱を禁じているが、特定の信条を有することを解雇の理由として定めることも、右にいう労働条件に関する差別取扱として、右規定に違反するものと解される。
  • これは、法が雇入れの段階と雇入れ後の段階に区別を設け、前者は企業者の自由を広く認め、後者は労働者の既得の地位と利益を重視して解雇の自由に一定の制約を課している、ということを示す(判決)。
労働基準法3条
信条を理由に雇い入れない効かない(雇入れそのものを制約しない)
雇い入れた後、信条を理由に労働条件で差別する違反
雇い入れた後、特定の信条を解雇の理由とする違反(労働条件に関する差別取扱)

入社して2年たった社員が特定の政党の支持者だと分かり、会社がそれを理由に解雇した → 雇入れ後なので、信条を解雇理由にすること自体が労働基準法3条に反する。同じ理由で応募者を採らないだけなら、3条は効かない。

×にされやすい形
  • 「労働基準法3条は、信条を理由とする採用の拒否を禁じている、と判例は解した」(雇入れ後の労働条件の制限で、雇入れそのものを制約しない)
  • 「労働基準法3条は雇入れの段階に及ばない以上、雇入れ後に特定の信条を理由として解雇することにも及ばない」(解雇の理由とすることも3条違反)

5本採用拒否は留保解約権の行使——通常の解雇より広いが、限定される判例

  • 本件の試用契約=解約権留保付の雇用契約(試用期間中に管理職要員として不適格と認めたら解約できる特約つき)。原審のこの判断を、最高裁は「是認しえないものではない」とした(新卒者を本採用しなかった例がかつて無い、別段の契約書を作らない、などの実態から)。
  • したがつて、被上告人に対する本件本採用の拒否は、留保解約権の行使、すなわち雇入れ後における解雇にあたり、これを通常の雇入れの拒否の場合と同視することはできない。
  • 解約権を留保する趣旨=採否を決める当初は、資質・性格・能力など適格性を判断する資料を十分に集められないので、後日の調査や観察に基づく最終決定を留保する。合理的期間の限定の下で、こうした留保約款にも合理性がある。
  • だから、まず広い側を認める。ここが通常の解雇との違い(留保解約権の行使には、通常の解雇より広い範囲の解雇の自由がある):
  • それゆえ、右の留保解約権に基づく解雇は、これを通常の解雇と全く同一に論ずることはできず、前者については、後者の場合よりも広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべきものといわなければならない。
  • そのうえで、3つの理由から限定する:①法が雇用の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨 ②雇用契約の締結に際し、企業者は一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にある ③試用期間を付した雇用関係に入った者は、本採用への期待の下に他企業への就職の機会と可能性を放棄した
  • しかしながら、前記のように法が企業者の雇傭の自由について雇入れの段階と雇入れ後の段階とで区別を設けている趣旨にかんがみ、また、雇傭契約の締結に際しては企業者が一般的には個々の労働者に対して社会的に優越した地位にあることを考え、かつまた、本採用後の雇傭関係におけるよりも弱い地位であるにせよ、いつたん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入つた者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、
    前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。
  • 言い換え(判決)=採用決定後の調査や試用中の勤務状態などにより、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知り、引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが客観的に相当な場合には行使できる。その程度に至らなければ行使できない。
  • 取り違えやすい2つ:(ア)「雇入れ後は、雇入れの場合のような広い範囲の自由を有するものではない」こと自体は、判決がまずそう述べ、その裏づけとして労働基準法3条の解釈(信条を解雇の理由と定めることも違反)と、そこに表れた法の段階の区別を挙げている(項目4)。(イ)①〜③は、その中で留保解約権の行使をどこまで限定するかの理由。①で法の区別の趣旨がもう一度使われているが、(ア)の裏づけと(イ)の理由は別の段に置かれている。
会社の判断自由の広さ判決の言葉
まだ雇っていない人を採らない(雇入れの拒否)最も広い特別の制限がない限り原則として自由(項目3)
試用期間中の人を本採用しない(留保解約権の行使)中間通常の解雇より広い。ただし客観的に合理的な理由・社会通念上の相当性が要る
本採用後の社員を解雇する(通常の解雇)最も狭い留保解約権に基づく解雇より狭い
会社が「この人は要らない」と判断したまだ雇い入れていない人か採用の段階雇入れの拒否特別の制限がない限り原則自由はいいいえ(雇い入れた後)解約権留保付の試用期間中か(満了時を含む)本採用の拒否留保解約権の行使合理的な理由と社会通念上の相当性はいいいえ通常の解雇留保解約権の行使より自由は狭い
どの段階かで、会社の自由の広さが変わる。本採用の拒否は「雇入れ後の解雇」であって、雇入れの拒否と同視しない。

試用中の勤務ぶりから、採用時には分からなかった重大な適性の欠如が判明した → 「当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実」として、留保解約権を使える方向に働く。採用時に分かっていたこと・分かるはずだったことを理由にするのは難しい方向。

出題雇入れ拒否が違法でない以上、学生運動歴の秘匿を理由に本採用も拒否できる(×)

×にされやすい形
  • 「試用期間満了時の本採用拒否は、まだ正式に雇っていない者を雇い入れないことであり、雇入れの拒否と同視される」(留保解約権の行使=雇入れ後の解雇にあたり、同視できない)
  • 「留保解約権に基づく解雇は、通常の解雇よりも厳しく制限される」(通常の解雇より広い範囲の解雇の自由が認められる。そのうえで合理性・相当性で限定)
  • 「判例は、留保解約権の行使は、企業者が試用期間中に不適格と判断すれば理由を問わず許されるとした」(客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ)

6結論は破棄差戻し——本採用拒否の可否は未判断判例

  • 主文=原判決を破棄し、東京高等裁判所に差し戻す。原審の判断には法令の解釈・適用の誤りと審理不尽(必要な審理を尽くしていないこと)がある、とした。
  • 最高裁が否定したのは、原審の「申告を求めること自体が許されない → 秘匿があっても不利益を課せない → 無効」という筋。本採用拒否が有効か無効かは決めていない。
  • 秘匿が合理的な理由になるかは、秘匿した事実の内容・秘匿の程度・動機や理由によって区々で、一概に言えない。秘匿の有無にかかわらず、事実それ自体で適格性を否定できる場合もある。
  • 差戻審で明らかにすべきこと:
  • …まず被上告人に秘匿等の事実があつたかどうか、秘匿等にかかる団体加入や学生運動参加の内容、態様および程度、とくに違法にわたる行為があつたかどうか、ならびに秘匿等の動機、理由等に関する事実関係を明らかにし、…
×にされやすい形
  • 「三菱樹脂事件で最高裁は、経歴の秘匿を理由とする本採用拒否を有効と認めた」(答えを出していない。破棄差戻し)
  • 「三菱樹脂事件で最高裁は、本採用拒否を無効とした原判決を維持した」(原判決を破棄した)

7昭和女子大事件——直接は論じない、そのうえで学則の合理性判例

  1. 私立大学の生活要録(学則の細則)=学生の署名運動は事前に学校当局に届け出てその指示を受ける、学外の団体への加入は許可が要る(全面禁止ではない)
  2. 上告人の学生2名:1名は無許可で左翼的政治団体に加入、もう1名は加入を申し込み、無届で学内の署名運動をした
  3. 大学は団体との関係を絶つよう求め、事実上の登校禁止などの措置。学生らは説諭に反発
  4. 学生らが週刊誌・学外の集会・ラジオで大学の措置を公然と述べる → 大学は退学処分
  5. 学生らが処分の効力を争う → 上告棄却(退学処分は有効)
  • 学生側は、生活要録が・・・・・に違反すると主張。・・の主張は、規定がそれらと直接かかわらないので前提を欠くとされた。
  • 項目1の枠組みでいうと:三菱樹脂事件を引いて人権規定の直接の適用を否定し(出発点)、そのうえで学則(生活要録)の合理性と退学処分の裁量を審査した判決。
  • 出発点=三菱樹脂事件の大法廷判例を引き、自由権的基本権の規定は私人相互間に当然には適用・類推適用されないとして:
  • したがつて、その趣旨に徴すれば、私立学校である被上告人大学の学則の細則としての性質をもつ前記生活要録の規定について直接憲法の右基本権保障規定に違反するかどうかを論ずる余地はないものというべきである。
  • そのうえで、規則の合理性を審査した。まず大学一般の包括的権能:
  • ところで、大学は、国公立であると私立であるとを問わず、学生の教育と学術の研究を目的とする公共的な施設であり、法律に格別の規定がない場合でも、その設置目的を達成するために必要な事項を学則等により一方的に制定し、これによつて在学する学生を規律する包括的権能を有するものと解すべきである。
  • 次に私立大学の上乗せ:
  • 特に私立学校においては、建学の精神に基づく独自の伝統ないし校風と教育方針とによつて社会的存在意義が認められ、学生もそのような伝統ないし校風と教育方針のもとで教育を受けることを希望して当該大学に入学するものと考えられるのであるから、右の伝統ないし校風と教育方針を学則等において具体化し、これを実践することが当然認められるべきであり、学生としてもまた、当該大学において教育を受けるかぎり、かかる規律に服することを義務づけられるものといわなければならない。
  • 限界:
  • もとより、学校当局の有する右の包括的権能は無制限なものではありえず、在学関係設定の目的と関連し、かつ、その内容が社会通念に照らして合理的と認められる範囲においてのみ是認されるものであるが、…
  • 政治活動について:学生の政治的活動の自由は重要な法益。しかし全く放任すれば学業や教育研究の環境を害するおそれがあるので、規制自体に合理性がある。
  • そのうえで、学生の勉学専念を特に重視し、または比較的保守的な校風を有する私立大学が、その教育方針に照らして:
  • …学内及び学外における学生の政治的活動につきかなり広範な規律を及ぼすこととしても、これをもつて直ちに社会通念上学生の自由に対する不合理な制限であるということはできない。
  • 当てはめ:思想の穏健中正を標榜する保守的傾向の私立学校であることも勘案すれば、届出制・許可制による規制を不合理と断定できない → 生活要録の規定は無効とはいえない。

出題私立大学が学生の政治的活動にかなり広範な規律を及ぼしても直ちに不合理でない(○)自由権規定は私人間に当然には適用されず、私大の規律権能は合理的な範囲でのみ是認(○)私立大学が政治団体への学外加入を届出制・許可制で規制しても不合理でない(○)

×にされやすい形
  • 「昭和女子大事件で最高裁は、私立大学の学則が・に直接違反するかを審査し、違反しないとした」(直接憲法違反を論ずる余地はないとしたうえで、規則の合理性を審査した)
  • 「昭和女子大事件は、私人間に憲法を適用しないと述べただけで、学則の合理性は審査していない」(直接適用しないことを出発点に、包括的権能の範囲と規則の合理性を審査した)
  • 「学生を規律する包括的権能は、私立大学にのみ認められる」(国公立・私立を問わない。私立大学では校風の具体化が加わる)
  • 「大学の包括的権能は、学則等で定めさえすれば無制限に及ぶ」(在学関係設定の目的と関連し、社会通念に照らして合理的な範囲でのみ)
  • 「この大学の生活要録は、学生の政治活動を全面的に禁止していた」(署名運動は届出制、学外団体への加入は許可制)

8退学処分と学長の裁量判例

  • 懲戒処分を発動するか、どの処分を選ぶかは、行為の軽重・本人の性格や平素の行状・他の学生への影響などを考える必要があり、学内の事情に通じ直接教育にあたる者(懲戒権者たる学長)の合理的な裁量に任せるほかない。
  • ただし退学は別扱い。学校教育法施行規則(当時13条3項、現26条3項)が退学についてだけ処分事由を4つに限定列挙しているのは:
  • これは、退学処分が、他の懲戒処分と異なり、学生の身分を剥奪する重大な措置であることにかんがみ、当該学生に改善の見込がなく、これを学外に排除することが教育上やむをえないと認められる場合にかぎつて退学処分を選択すべきであるとの趣旨において、その処分事由を限定的に列挙したものと解される。
  • 事前の補導(反省を促す指導)は:
  • …学則等に格別の定めのないかぎり、右補導の過程を経由することが特別の場合を除いては常に退学処分を行うについての学校当局の法的義務であるとまで解するのは、相当でない。
  • 補導に欠ける点があってもそれだけで違法にはならず、その点も含めて事案の諸事情を総合し、社会通念上合理性を認めることができないようなものでないかぎり、裁量権の範囲内。
  • 本件の決め手:
  • 以上の事実関係からすれば、上告人らの前記生活要録違反の行為自体はその情状が比較的軽微なものであつたとしても、本件退学処分が右違反行為のみを理由として決定されたものでないことは、明らかである。
  • 反省の実が認められず、説諭の間に週刊誌や学外の集会などで公然と大学の措置を非難した=大学の教育方針に服する意思がないと表明したと解されてもやむをえない。大学側の説諭には冷静・寛容・忍耐を欠いたうらみがあるが、学生らの態度が主として大学の責めに帰すべき事由によるとはいえず、改善の見込みなしとの判断も著しく軽率とはいえない → 裁量権の範囲内。
  • 退学処分が学問の自由()・教育を受ける権利()との関係で問題になるかは、公序良俗の枠でも判断された:
  • …このような実社会の政治的社会的活動にあたる行為を理由として退学処分を行うことが、直ちに学生の学問の自由及び教育を受ける権利を侵害し公序良俗に違反するものでないことは、…
  • 思想・信条を理由とする差別的取扱いでもない(団体からの脱退を求めても、それが直ちに思想・信条への干渉になるものではない)。
大学の権能判決が認めた広さ
学則で規律する(包括的権能)広い。目的と関連し社会通念上合理的な範囲で。保守的校風ならかなり広範な規律も直ちに不合理ではない
懲戒処分を選ぶ学長の合理的な裁量
退学させる改善の見込がなく、学外に排除することが教育上やむをえない場合に限る趣旨。事前の補導は、学則等に格別の定めがない限り、常に経るべき法的義務とまではいえない

出題退学処分に際しては、反省を促す過程を経る法的義務があるとした(×)

×にされやすい形
  • 「判例によれば、大学が退学処分をするには、あらかじめ本人に反省を促す補導の過程を経ることが法的義務である」(学則等に格別の定めのない限り、法的義務とまではいえない)
  • 「昭和女子大事件の退学処分は、無許可の団体加入と無届の署名運動という規則違反だけを理由に有効とされた」(違反行為自体は比較的軽微。違反行為のみを理由とするものではなく、反省がなく公然と大学を非難したことが重視された)
  • 「判例は、退学処分は懲戒権者の自由な裁量に委ねられ、限度は無いとした」(改善の見込がなく、学外に排除することが教育上やむをえない場合に限る趣旨)

9日産自動車事件——無効の根拠は民法90条判例条文

  • 項目1の枠組みでいうと:私人どうし(会社と従業員)の争いを、私的自治に対する一般的制限規定である民法90条で処理し、は括弧の中で「参照」として引いた判決。一般条項を通して憲法の考え方が実際に効いた例、と位置づけられる。
  • 事案:会社の就業規則が定年を男子60歳・女子55歳と定めていた。この男女別定年制の効力が争われた。
  • 不合理とする理由は、原審(高裁)の認定判断で、最高裁はこれを正当として是認した:女子従業員の担当職務は広く、貢献度を上げうる職種も多い → 女子全体を貢献度の上がらない従業員と断定する根拠はない。労働の質量が向上しないのに実質賃金が上がる不均衡があると認める根拠もない。そして:
  • …少なくとも六〇歳前後までは、男女とも通常の職務であれば企業経営上要求される職務遂行能力に欠けるところはなく、各個人の労働能力の差異に応じた取扱がされるのは格別、一律に従業員として不適格とみて企業外へ排除するまでの理由はないことなど、…
  • 最高裁の結論:
  • そうすると、原審の確定した事実関係のもとにおいて、上告会社の就業規則中女子の定年年齢を男子より低く定めた部分は、専ら女子であることのみを理由として差別したことに帰着するものであり、性別のみによる不合理な差別を定めたものとして民法九〇条の規定により無効であると解するのが相当である(憲法一四条一項、民法一条ノ二参照)。
  • 無効になったのは男女で差を設けた部分。定年を定めること自体が公序良俗に反する、という判断ではない。
  • 直接の根拠は民法90条(現行の文言=公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする)。は括弧の中で「参照」として引かれるだけ。
  • 一緒に参照された「民法1条ノ2」=現行の民法2条(この法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等を旨として、解釈しなければならない)。

就業規則が男女とも60歳定年 → 男女で差を設けていないので、この判決の問題は生じない(定年制そのものは無効とされていない)。

出題女子の若年定年は経営上合理的だが必要不可欠でないから就業規則は民法上無効(×)女子若年定年を公序良俗違反で無効とする際、民法の規定とともに憲法14条1項を参照(○)男女別定年の就業規則は合理的理由がなく、性別のみによる不合理な差別で無効(○)

×にされやすい形
  • 「日産自動車事件で最高裁は、を直接適用して、男女別定年制を定めた就業規則を無効とした」(民法90条により無効。は「参照」)
  • 「日産自動車事件で最高裁は、定年制を定めた就業規則の規定全体を無効とした」(女子の定年年齢を男子より低く定めた部分が無効)
  • 「女子全体を貢献度の上がらない従業員とみる根拠はない、という判断は最高裁が自ら事実を認定して示したものである」(原審の認定判断を最高裁が正当として是認した)

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