憲法ゼロから憲法#15

強制加入団体の政治献金

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私人間効力の二本の柱

二本の柱

結論私人間効力は、次の二本の柱で考えます。

  • 直接あてはめる法:私人の行為に直接あてはめるのは、憲法ではなく私法の一般条項です。
  • 憲法の働き:一般条項の中身を決めるときに、憲法の趣旨が背後から流れ込みます
  • 取り込む度合い:どこまで流れ込ませるかは、関係の性質で変わります。

理由私人どうしの関係を決めているのは、私法だからです。

具体例公の秩序や善良の風俗に反する法律行為は、無効になります(民法90条)。

この幅の広い言葉を、私人の行為に直接あてはめます。

注意同じ考え方から、逆の結論が出ることもあります。

90条(公序良俗)民法 第一編 総則 第五章 法律行為 第一節 総則(90〜92条)公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

雇い入れの前と後

結論会社が人を雇う場面では、段階によって答えが違います(三菱樹脂事件)。

  • 雇い入れを拒むこと:当然には違法になりません。
  • 雇い入れた後:雇い入れる前と同じ広さの自由はありません。

注意同じ会社の同じ判断でも、関係の性質で答えが変わります。

強制加入団体の政治献金(南九州税理士会政治献金事件)

私人間効力の枠組みは、個人と企業の関係で答えが出ています。
では、抜けられない団体が会員のお金を政治団体に寄付したら、会員は従わなければならないのでしょうか。

会社の政治献金(前提)

事案ある製鉄会社が、政党に政治資金を寄付しました。

結論寄付は会社の目的の範囲内とされました。

政治資金を寄付する自由も、個人と同じ程度に認められました。

注意この結論は、自分の意思で加入した株主が前提です。

目的の範囲(民法34条)

定義法人にできることは、定款などで定めた目的の範囲内に限られます。

結論範囲の外に出た行為は、法人の行為としての効力が認められません。

決議なら、無効になります。

注意判例の当時は、民法43条でした。

34条(法人の能力)民法 第一編 総則 第三章 法人(33〜84条)法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

南九州税理士会政治献金事件

事案ある県の税理士会が、税理士に関する法律を改正させる運動の資金を必要としました。

  • 決議:税理士の政治団体に寄付するため、会員から特別会費を集める決議をしました。
  • 会員の主張:納める義務は無いとして争い、自分の思想・良心の自由を侵されたと主張しました。

結論政治団体への寄付は目的の範囲外で、特別会費を集める決議は無効です。

理由最高裁は、団体の性質と行為の性質を確かめました。

  • 団体の性質①:税理士会は強制加入団体です。税理士として仕事をするには入らなければならず、仕事をする限り実質的に脱退できません
  • 団体の性質②:入る側が選べないので、様々な思想・信条をもつ会員がいることが当然に予定されています。
  • 行為の性質:政党など政治資金規正法上の政治団体への寄付は、選挙における投票の自由と表裏を成すので、会員各人が市民として自主的に決定すべき事柄です。

南九州税理士会政治献金事件最高裁判所判決投票の自由と表裏税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない。政党など政治資金規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄というべきである。

「投票の自由と表裏」の意味

定義どの政治的な立場を後押しするかを決める点で、投票と同じだという意味です。

結論団体の多数決で決めてよい話ではなく、一人ひとりが市民として自分で決めるべきことです。

理由誰に投票するかを他人に決められないのと、同じ問題になるからです。

会社との違い

結論判決自身が、税理士会は会社とは法的な性格を異にする法人だと述べています。

目的の範囲を会社のように広く解すると、法の趣旨を没却してしまいます。

理由法律が入会を義務づけ、公的な役割を担わせている団体だからです。

注意税理士会の判決は、労働組合が組合員にどこまで協力を求められるかという系統の判例も引いています。

使いみちが変わると結論は変わるか(群馬司法書士会震災支援寄付事件)

強制加入団体の政治団体への寄付は、目的の範囲外とされました。
では、同じ強制加入団体でも、お金の使いみちが変われば答えは変わるのでしょうか。

最高裁の二段階の枠組み

定義強制加入団体の寄付と会員の負担は、2段階で判断します。

  • 一段階目:その行為が、団体の権利能力の範囲内(民法34条の目的の範囲内)か。
  • 二段階目:会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるか。

注意税理士会は、一段階目で外れました(目的の範囲外)。

群馬司法書士会震災支援寄付事件

事案大きな地震で被災した別の県の司法書士会の復興を支援するため、司法書士会が三千万円の拠出金を寄付する決議をしました。

  • 原資:原資の一部が、会員から集める負担金です(登記の申請1件につき50円を3年間)。
  • 会員の主張:思想・良心の自由を侵されたと主張して争いました。

結論決議の効力は会員に及びます(税理士会と逆の結論です)。

  • 一段階目:寄付は権利能力の範囲内です。
  • 二段階目:協力義務を否定すべき特段の事情は無いとされました。

理由それぞれ、次のように判断されました。

  • 目的の範囲:会の目的(会員の指導と連絡に関する事務)を果たすうえで、直接または間接に必要な範囲なら、他の会との提携・協力・援助も含まれます。被災した会の司法書士が仕事に戻れるようにする、公的な機能を回復させるための支援だと認定されました。
  • 三千万円の額:それだけで範囲を外れるとはしませんでした。震災の被害が大きく、早急な支援が必要だったからです。
  • 集め方:調達の方法は、特段の事情がない限り、多数決で決めてよいとしました。
  • 特段の事情が無い理由:負担金は、会員の政治的・宗教的立場や思想信条の自由を害しません。額も、社会通念上過大とはいえません(平均的な報酬に対する割合でみても、ごくわずかです)。

注意判決には反対意見が2つ付いています。

  • 共通点:二人とも、三千万円という額が大きすぎると見ました。
  • 一人:会員に課す負担のほうも重すぎる、としています。
  • 額の区別:一段階目の額は会が出す三千万円、二段階目の額は会員が払う1件50円です。

群馬司法書士会震災支援寄付事件最高裁判所判決協力義務を否定すべき特段の事情・反対意見被災した司法書士会への復興支援拠出金の寄付は、権利能力の範囲内にある。その調達方法についても、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づいて決定することができる。本件負担金は、会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、その額も社会通念上過大であるとはいえない。

二つの軸で並べる

団体の性質(任意加入か強制加入か)と行為の性質(政治的な選択か否か)で製鉄会社・南九州税理士会・群馬司法書士会の結論を対比した表

定義2つの軸は、次のとおりです。

  • 縦の軸:団体の性質(抜けられるか、抜けられないか)です。
  • 横の軸:行為の性質(会員一人ひとりが自分で決めるべき事柄か、そうでないか)です。

結論司法書士会は、縦は税理士会と同じで、横だけが違います

注意抜けられないことだけでは、結論は決まりません

「強制加入団体だから何もできない」と一般化すると、誤りになります。

なぜ二つの軸が要るのか

結論団体の性質と行為の性質の、二つがそろってはじめて結論が決まります。

理由抜けられるかどうかで、決める中身が問われるかが変わるからです。

  • 抜けられる団体:嫌なら出ていけば済みます。
  • 抜けられない団体:多数決に従うほかないので、決める中身が問われます。
  • 自分で決めるべき事柄:多数決にすると、支持していない政治的な立場に、お金の形で加担させられます
  • 思想や信条と結びつかない事柄:多数決で決めてよいことになります。

注意団体は、人権を守る主体であり、脅かす主体でもあります

この両面性の緊張は、抜けられない団体でいちばん強く出ます。

国の私法上の行為(百里基地訴訟)

私人間では、憲法が本来届かない行為に憲法が及ぶかが問われました。
では、契約の相手が国なら、憲法は当然に及ぶのでしょうか。

収用と売買

結論国が土地を手に入れる方法には、2つの顔があります。

  • 収用:土地を強制的に取り上げるもので、公権力の行使です。
  • 売買:国が私人と対等の立場で買うものです。

注意百里基地訴訟で問題になったのは、売買のほうです。

百里基地訴訟の事案

百里基地訴訟の関係図(A=土地の所有者がB=反対する側に売り、代金の一部未払いで解除し、C=国に売った。争点は国との売買契約が9条に反して無効か)

事案土地の所有者A、基地の建設に反対する側B、国Cの争いです。

  • ①:AがBに、自衛隊の基地の用地になる予定の土地を売る契約をしました。
  • ②:売買代金の一部が支払われず、AはBとの契約を解除しました。
  • ③:Aは、同じ土地を国Cに売りました。
  • Bの主張:国との売買契約は、憲法9条に反して無効だと主張しました。

結論最高裁は、三段に分けて判断し、国の側が土地を取得しました。

9条第二章 戦争の放棄(9条)1項:日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。2項:前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。

一段目:98条1項の「国務に関するその他の行為」

定義国務に関するその他の行為」とは、公権力を行使して法規範を定立する国の行為です。

結論私人と対等の立場で行う国の行為は、これに当たりません

理由98条1項は、憲法が最高法規であることを定めた規定です。

効力を否定される対象は、列挙された法律・命令・詔勅と同じ性質のものに限られます。

具体例当たるかどうかは、次のとおりです。

  • 行政処分・裁判:個別具体的でも、公権力で法規範を立てる行為なので、当たります。
  • 土地の売買:法規範を作る行為ではなく、国が買主の顔で出てきているだけなので、当たりません。

百里基地訴訟最高裁判所判決私人と対等の立場で行う国の行為98条1項にいう「国務に関するその他の行為」とは、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、私人と対等の立場で行う国の行為はこれに該当しない。国が私人と対等の立場で締結する私法上の契約は、その成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法9条の直接適用を受けない。

98条第十章 最高法規(97〜99条)1項:この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない

二段目:9条は私法上の行為に直接適用されるか

結論9条は、人権の規定と同じく、私法上の行為には直接適用されません

理由9条は、その性格上、私法上の行為の効力を直接に決める規定ではないからです。

注意次の点に気をつけます。

  • 国が当事者:私人と対等の立場で行う行為である以上、変わりません。公共の利益の実現を目的としていても、同じです。
  • 私人に直接効く規定:憲法には選挙人の無答責・奴隷的拘束の禁止などがありますが、9条はこの例外に当たらないとされました。
  • 留保:契約の成立の経緯と内容が、実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえる特段の事情があれば、別です。「絶対に及ばない」と覚えると誤りになり、短答で狙われます。
  • 判決の根拠:最高裁は、この判断の根拠として三菱樹脂事件を引いています。

三段目:民法90条の公序良俗

結論9条の趣旨は、民法90条の「公の秩序」の内容の一部を形成するにとどまります

この売買契約は、公序良俗に反しないとされました。

理由9条の趣旨は、そのままの強さでは私法の世界に入らないからです。

私的自治の原則・契約における信義則・取引の安全などの私法上の規範によって、相対化されます。

具体例判断の基準は、次のとおりです。

  • 基準:社会的に許容されない反社会的な行為だという認識が、社会の一般的な観念として確立しているかで判断します。
  • あてはめ:契約当時、自衛隊のために国と私人が売買契約を結ぶことについて、そうした認識は確立していませんでした。

私人間効力との関係

結論私人間効力と百里基地訴訟は、別の論点ではなく、同じ枠組みの表と裏です(問いの向きが逆です)。

  • 私人間:憲法が本来届かない行為に、憲法が及ぶかが問われます。
  • 百里基地:国の行為なのに、憲法が及ばない場合があるかが問われます。

理由どちらも、直接あてはめるのは民法で、憲法はその中身に流れ込むからです。

どこまで流れ込ませるかは、関係の性質で変わります。

割れ目の一覧と物差しの振り分け

私人間効力では、関係の性質で憲法の取り込み方が変わります。
では、結論が割れる場所はどこで、違憲審査の物差しはいつ使うのでしょうか。

四つの割れ目

結論結論が割れる場所は、次の4つです。

  • 雇い入れの段階と、雇い入れた後(三菱樹脂事件)
  • 任意加入と、強制加入(製鉄会社と税理士会)
  • 政治的な選択と、そうでない選択(税理士会と司法書士会)
  • 公権力の行使と、私人と対等の立場の行為(百里基地訴訟)

具体例税理士会と百里基地訴訟でも、結論を決めたのは民法の枠組みです。

  • 税理士会:決議を退けたのは、目的の範囲という民法の枠組みです。
  • 百里基地:最後に効いたのは、民法90条の公序良俗です。

物差しの振り分け

結論三段階の審査や違憲審査の基準は、相手が国のときの道具です。

理由相手が私人なら、まず私法の一般条項に降り、その中身を決めるところで憲法の趣旨を使うからです。

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