憲法ゼロから憲法#15

抜けられない団体と、相手が国のとき——私人間効力を判例で読む

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第2章 人権総論 ⑮/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

抜けられない団体——集めたお金を政治団体に寄付できるか

南九州税理士会政治献金事件(①強制加入団体=税理士として仕事をする限り脱退できない/②様々な思想・信条をもつ会員が存在することが当然に予定されている/③政治団体への寄付は選挙における投票の自由と表裏=会員各人が市民として自主的に決定すべき事柄/結論=目的の範囲外・特別会費を集める決議は無効/※判決自身が「会社とは法的性格を異にする」と述べ、目的の範囲を会社のように広く解すると法の趣旨を没却するとする)

一つ目の問いに入る前に、以前に見た会社の話を置いておきます。ある製鉄会社が政党に政治資金を寄付した事件で、政治資金を寄付する自由も、個人と同じ程度に認められました。ただし、あの結論には前提がありました——自分の意思で加入した株主が前提だ、という点です。そこを覚えていれば、今日の判決は理屈で読めます。

まず、「目的の範囲」という言葉の出どころを確かめます。

条文民法 34条(この判例の当時は民法43条)

民法 第三十四条(法人の能力) 法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う。

法人にできることは、目的の中に限られる、という条文です。範囲の外に出た行為は、法人の行為としての効力が認められません(決議なら無効になります)。

事件

ある県の税理士会での出来事です。税理士に関する法律を改正させる運動のために資金が必要になり、税理士の政治団体に寄付をすることを決めました。その原資として、会員から特別の会費を集める決議をします。これに対し、納める義務は無いと主張して会員が争いました。争いの中身は、自分の思想・良心の自由を侵されたという点です。

最高裁は、まず団体の性質を見た

第一に、強制加入団体であること。税理士として仕事をするには税理士会に入らなければならず、税理士として仕事をする限り、抜けることもできません。形のうえで退会できても、仕事を続けるなら選べない。会社の株主とは、そこが決定的に違います。

第二に、様々な思想・信条をもつ会員がいることが当然に予定されていること。入る側が選べない以上、考えがそろっているはずがないからです。

そして、行為の性質を見た

判例最判平8・3・19(原判決破棄・一部差戻し)

南九州税理士会政治献金事件——投票の自由と表裏 税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない。政党など政治資金規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄というべきである。

「表裏を成す」とは、どの政治的な立場を後押しするかを決める点で同じだという意味です。誰に投票するかを他人に決められないのと、同じ問題になります。だから、団体の多数決で決めていい話ではなく、一人ひとりが市民として自分で決めるべきことだとしました。

結論——政治団体への寄付は「目的の範囲」外とされ、特別の会費を集める決議も無効になりました。

さきほどの製鉄会社とは正反対です。その点は、判決自身が正面から書いています。税理士会は、会社とは法的な性格を異にする法人である。「目的の範囲」を会社のように広く解すると、法の趣旨を没却してしまう——法律が入会を義務づけ、公的な役割を担わせている団体だからです。

同じ強制加入なのに、結論が逆になる

2軸の対比表(縦=団体の性質:任意加入か強制加入か/横=行為の性質:会員一人ひとりが自分で決めるべき事柄か否か。①製鉄会社の政治献金=任意加入×政治的な選択→目的の範囲内/②南九州税理士会の政治献金=強制加入×政治的な選択→範囲外・決議は無効/③群馬司法書士会の復興支援拠出金=強制加入×政治的な選択でない→権利能力の範囲内・協力義務を否定すべき特段の事情なし。※最高裁の枠組みは2段階=①権利能力の範囲内か→②特段の事情があるか)

一つ目の問いには後半がありました——お金の使いみちが変われば、答えは変わるのか

同じく強制加入団体で、別の事件があります。大きな地震で被災した別の県の司法書士会に対し、その会の復興を支援するため、三千万円の拠出金を寄付する決議をしました。原資の一部が、会員から集める負担金です(登記の申請1件につき50円を3年間)。ここでも会員は思想・良心の自由を侵されたと主張して争いました。

抜けられない団体が、多数決でお金を集める——同じ形です。同じ結論になりそうに見えますが、最高裁の結論は逆でした。決議の効力は会員に及びます。

なぜ逆になるのか——判断は2段階

一段階目。その行為が、団体の権利能力の範囲内かどうか。「権利能力の範囲」とは、さきほどの民法34条の「目的の範囲」のことです。 二段階目。会員の協力義務を否定すべき、特段の事情があるかどうか。

税理士会は一段階目で外れました(目的の範囲外)。司法書士会は一段階目を通ります。

会の目的は「会員の指導と連絡に関する事務」であり、目的を果たすうえで直接または間接に必要な範囲かどうかで見ます。他の会との提携や協力、援助も、その範囲なら含まれる。被災した会の司法書士が仕事に戻れることは間接に必要であり、公的な機能を回復させるための支援だと認定されました。

🔴 三千万円という額も、それだけで範囲を外れるとはしませんでした(震災の被害が大きく、早急な支援が必要だったからです)。

次が二段階目——お金の集め方のほうです。調達の方法は、原則として多数決で決めてよいとしました。反対している会員がいても、協力義務を否定すべき特段の事情がない限りはそうなります。この事件では、その特段の事情は無いとされました。理由は二つ。①この負担金は会員の政治的・宗教的な立場も、思想信条の自由も害しない。②額も社会通念上、過大とはいえない(1件50円で、平均的な報酬に対する割合でみてもごくわずか)。

判例最判平14・4・25(上告棄却)

群馬司法書士会震災支援寄付事件——協力義務を否定すべき特段の事情 被災した司法書士会への復興支援拠出金の寄付は、権利能力の範囲内にある。その調達方法についても、公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き、多数決原理に基づいて決定することができる。本件負担金は、会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく、その額も社会通念上過大であるとはいえない。

反対意見が二つ付いています。二人とも「三千万円という額が大きすぎる」と見ており、一人は「会員に課す負担のほうも重すぎる」としています。それだけ微妙な事案だった、ということです。

二つの軸で並べる

  • 縦の軸=団体の性質(抜けられるか、抜けられないか)
  • 横の軸=行為の性質(会員一人ひとりが自分で決めるべき事柄か、そうでないか)
事案団体の性質行為の性質結論
製鉄会社の政治献金任意加入(株主はいつでも株を手放せる)政治的な選択目的の範囲
税理士会の政治献金強制加入政治的な選択目的の範囲(決議は無効)
司法書士会の復興支援強制加入政治的な選択ではない権利能力の範囲

司法書士会は縦は税理士会と同じで、横だけが違う。そこが決め手です。🔴 抜けられないことだけでは、結論は決まりません。「強制加入団体だから何もできない」と一般化すると、必ず外します。

なぜ二つの軸が要るのか。抜けられる団体なら、嫌なら出ていけば済みます。抜けられない団体では、多数決に従うほかありません。だから、決める中身のほうが問われる。自分で決めるべき事柄まで多数決にすると、支持していない政治的な立場に、お金の形で加担させられるからです。逆に、思想や信条と結びつかない事柄なら、多数決で決めてよい。

団体は守る主体であり、脅かす主体でもある——以前に置いた両面性が、抜けられない団体でいちばん強く出ます。

鏡像の問い——国の行為なのに、憲法が及ばないことがある

百里基地訴訟の事実関係(A=土地の所有者/B=基地の建設に反対する側/C=国。①A→B 土地を売る契約/②代金の一部が未払いで A が契約を解除/③A→C 同じ土地を国に売る。争点=国との売買契約は憲法9条に反して無効か)

最後は二つ目の問い——契約の相手が国だったら、憲法は当然に及ぶのか

国が土地を取り上げる収用なら、公権力の行使です。しかしここでは、国は私人と対等の立場で買っています

事実関係を三人で見ます。土地の所有者を A、基地の建設に反対する側を B、国を C とします。まず A が B に土地を売る契約をしました(自衛隊の基地の用地になる予定の土地です)。ところが売買代金の一部が支払われず、A は B との契約を解除します。そのうえで、同じ土地を国である C に売りました。反対する側は、国との売買契約は憲法9条に反して無効だと主張します。土地が誰のものかが、この訴訟の争いです。

相手が国なら憲法の出番だと思えます。判決は、そこを崩します。

百里基地訴訟の三段の判断(①98条1項の「国務に関するその他の行為」=条文に並ぶ法律・命令・詔勅と同一の性質をもつ国の行為=公権力を行使して法規範を定立する国の行為。行政処分・裁判は該当するが、私人と対等の立場で行う国の行為は該当しない/②憲法9条は人権規定と同様、私法上の行為には直接適用されない。ただし成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り/③9条の趣旨は私的自治の原則・契約における信義則・取引の安全等によって相対化され、民法90条の「公ノ秩序」の内容の一部を形成するにとどまる)

一段目——98条1項の「国務に関するその他の行為」

憲法に反する国の行為は効力をもたない、という条文です。そこに「国務に関するその他の行為」という言葉があり、国が土地を買う契約もそこに入るのではないかが争点になりました。

最高裁は、この言葉の意味を絞ります。98条1項は憲法が最高法規であることを定めた規定であり、そこで効力を否定される対象は、条文に並ぶ法律・命令・詔勅と同じ性質のもの——つまり公権力を行使して法規範を定立する国の行為です。行政処分や裁判は、個別具体的でも公権力で法規範を立てる行為なので含まれます。しかし、私人と対等の立場で行う国の行為は含まれません。土地の売り買いは法規範を作る行為ではなく、国が売主や買主の顔で出てきているだけだからです。

二段目——憲法9条そのものはどうか

9条は人権規定ではないので、話が別になりそうです。ここで、前に確かめた例外を思い出してください。憲法の中には、私人にも直接効く規定が置かれていました(選挙人の無答責、奴隷的な拘束の禁止など)。9条もその例外ではないか、と主張されたわけです。

最高裁はこれを否定しました。9条はその性格上、私法上の行為の効力を直接に決める規定ではなく、人権の規定と同じく私法上の行為には直接適用されない。国が当事者でも、私人と対等の立場で行う行為である以上、変わりません(公共の利益の実現を目的としていても同じです)。

🔴 そして最高裁は、この判断の根拠として三菱樹脂を引いています。私人どうしで立てた枠組みが、そのまま使われている——この二つは別の論点ではなく、同じ枠組みの表と裏です。

⚠ ただし、落としてはいけない留保が付いています。契約の成立の経緯と内容が、実質的にみて公権力の発動と変わらない、といえる特段の事情がない限り、という条件です。つまり「絶対に及ばない」ではありません。短答で狙われます。この留保を落とすと、そのまま誤りになります。

三段目——残った問題は民法90条

9条の趣旨を取り込んで、公序良俗に反するといえるか。ここであの相対化がそのまま出てきます。9条の趣旨は、そのままの強さでは私法の世界に入りません。私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全——こうした私法上の規範によって相対化され、民法90条の「公ノ秩序」の内容の一部を形成するにとどまります

判断の基準も、そこから導かれます。社会的に許容されない反社会的な行為だという認識が、社会の一般的な観念として確立しているか。契約が結ばれた当時、自衛隊のために国と私人が売買契約を結ぶことについて、そうした認識は確立していませんでした。だから公序良俗に反しない——国の側が土地を取得しました。

私人間の話とは、問いの向きが逆でした。私人間では「憲法が本来届かない行為に憲法が及ぶか」。こちらは「国の行為なのに憲法が及ばない場合があるか」です。

今日の地図(保存版)

今日の全体像(二本の柱=①私人の行為に直接あてはめるのは私法の一般条項 ②取り込む度合いは関係の性質で変わる/これまでに見た四つの割れ目=雇い入れの段階と雇い入れた後・任意加入と強制加入・政治的な選択とそうでない選択・公権力の行使と私人と対等の立場の行為/物差しの振り分け=三段階審査や違憲審査基準は相手が国のときの道具/これから開く扉=団体の内部処分と司法審査・労働組合の統制権・思想良心の自由・法の下の平等の審査・プライバシーとマスメディア)

二本の柱

  1. 私人の行為に直接あてはめるのは、憲法ではなく私法の一般条項。
  2. 憲法の趣旨をどこまで取り込むかは、関係の性質で変わる。

これまでに見た四つの割れ目

  • 雇い入れの段階と、雇い入れた後(三菱樹脂)
  • 任意加入と、強制加入(製鉄会社 ↔ 税理士会)
  • 政治的な選択と、そうでない選択(税理士会 ↔ 司法書士会)
  • 公権力の行使と、私人と対等の立場の行為(百里基地)

説の名前ではなく、その関係の中身が効いている——答案でも、そこを具体的に書きます。

物差しの振り分けはどこへ行ったか

三段階審査や違憲審査基準は、相手が国のときの道具です。私人が相手のときは、この二本の柱で動きます。

これから開く扉

団体の内部処分と司法審査/労働組合の統制権/思想・良心の自由/法の下の平等の審査/プライバシーとマスメディア——人権各論は、すべてこの土台の上で回ります。

参照条文

  • 民法 34条(この判例の当時は民法43条)

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