憲法ゼロから憲法#15

強制加入団体の政治献金

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問い:抜けられない団体が会員から集めたお金を寄付したとき、会員はその決議に従わなければならないのか。契約の相手が国なら、憲法は当然に及ぶのか。

骨組み

  1. 1会社の政治献金(八幡製鉄事件・最大判昭45・6・24):客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためと認められる限り定款所定の目的の範囲内。構成員が政治的信条を同じくしなくても寄附する能力はある。会社も自然人たる国民と同様に政治的行為の自由をもつ
  2. 2税理士会は会社と違う(南九州税理士会事件・最判平8・3・19):税理士会は会社とはその法的性格を異にする法人。理由=法が設立を義務付け・目的を法が直接定める・大蔵大臣の監督・強制加入団体で実質的には脱退の自由が保障されていない。目的の範囲を会社のように広く解すると法の趣旨を没却
  3. 3南九州の結論(判例):目的の範囲を判断するに当たり会員の思想・信条の自由との関係で考慮。政治資金規正法上の政治団体への寄付=選挙における投票の自由と表裏・会員各人が自主的に決定すべき事柄→税理士に係る法令の制定改廃のためでも目的の範囲外・特別会費の決議は無効。違反と判断したのではない
  4. 4群馬司法書士会事件(最判平14・4・25):被災した他会への3000万円の復興支援拠出金の寄付=権利能力の範囲内(目的遂行に直接又は間接に必要な範囲で他会への援助も含む・公的機能の回復)。調達方法は協力義務を否定すべき特段の事情がない限り多数決→思想信条を害さず負担も過大でない→決議の効力は会員に及ぶ。反対意見2
  5. 52つの判決の並べ方(学説の整理):団体の性質(抜けられるか)×行為の性質(各人が自分で決めるべき事柄か)。群馬の法廷意見は南九州に触れていない=比べて決め手を言ったのは整理の側。思想・信条が検討された段も違う(南九州=目的の範囲/群馬=特段の事情)。強制加入だけでは結論は決まらない
  6. 6百里基地訴訟①(最判平元・6・20):の「国務に関するその他の行為」=公権力を行使して法規範を定立する国の行為(行政処分・裁判は該当)。私人と対等の立場で行う国の行為は該当しない
  7. 7百里基地訴訟②(判例):は人権規定と同様、私法上の行為に直接適用されない。国が私人と対等の立場で結ぶ私法上の契約は、実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがない特段の事情のない限り直接適用を受けない(三菱樹脂事件の趣旨)。平和的生存権は判断基準にならない
  8. 8百里基地訴訟③(判例):の規範は私的自治の原則・契約における信義則・取引の安全等で相対化され、民法90条の「公ノ秩序」の内容の一部を形成。基準=反社会的行為との認識が社会の一般的な観念として確立しているか→昭和33年当時は確立していない=公序良俗違反でない

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます(押せるのは日本国憲法の条文だけ。民法・税理士法・司法書士法などの条文番号は文字のまま)。短答は「判例の立場」と「学説の整理」を分けて問うので、出どころを混ぜない。最大判=最高裁大法廷の判決、最判=最高裁小法廷の判決。項目1〜5は団体と構成員、6〜8は国の私法上の行為。(このページの整理)南九州・群馬・百里では、結論を直接決めたのは民法の枠組み(南九州・群馬=法人の目的・権利能力の範囲/百里=民法90条の公序良俗)で、憲法の価値はその中身を決めるところで考慮された。「法廷意見」は判決の結論を決めた多数の意見のこと。

1会社の政治献金——八幡製鉄事件判例

  • 訴訟の形:株主が取締役の責任を追及した(政治献金は定款の目的の範囲外などと主張)。上告棄却。
  • 前提の条文:法人は、法令の規定に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲内において、権利を有し、義務を負う(民法34条。判決の当時は民法43条で、会社には類推適用=八幡製鉄の多数意見は条文を挙げず「会社は定款に定められた目的の範囲内において権利能力を有する」とだけ言う)。判決によって「目的の範囲」「権利能力の範囲」「〜する能力」と言い方が違うが、どれも同じ問い。範囲の外の寄付を目的とする決議は無効になる(南九州税理士会事件の帰結)。
  • 目的の範囲についての判旨(八幡製鉄事件・最大判昭45・6・24):
  • 要するに、会社による政治資金の寄附は、客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすためになされたものと認められるかぎりにおいては、会社の定款所定の目的の範囲内の行為であるとするに妨げないのである。
  • 構成員の考えとの関係について、判決が述べたのは次のこと:
  • 論旨のいうごとく、会社の構成員が政治的信条を同じくするものでないとしても、会社による政治資金の寄附が、特定の構成員の利益を図りまたその政治的志向を満足させるためでなく、社会の一構成単位たる立場にある会社に対し期待ないし要請されるかぎりにおいてなされるものである以上、会社にそのような政治資金の寄附をする能力がないとはいえないのである。
  • 憲法上の位置づけ:
  • 憲法第三章に定める国民の権利および義務の各条項は、性質上可能なかぎり、内国の法人にも適用されるものと解すべきであるから、会社は、自然人たる国民と同様、国や政党の特定の政策を支持、推進しまたは反対するなどの政治的行為をなす自由を有するのである。
  • 判決には「株主が自分の意思で加入したから」「株式をいつでも手放せるから」という理由づけは無い。会社と税理士会を区別したのは、後の南九州税理士会事件(項目2)。

ある会社の株主の中に、寄付先の政党を支持しない人がいた。八幡製鉄事件の立場では、それだけで寄付が目的の範囲外になるわけではない(構成員の政治的信条が同じでなくても、社会的役割を果たすための寄附なら目的の範囲内)。

出題会社の政党への政治資金寄付も、社会的役割を果たすためなら定款の目的の範囲内(○)

×にされやすい形
  • 「八幡製鉄事件判決は、株主が自らの意思で会社に加入し、いつでも株式を譲渡して離脱できることを理由に、政治献金を目的の範囲内とした」(判決にその理由づけは無い。基準は「客観的、抽象的に観察して、会社の社会的役割を果たすため」)
  • 「八幡製鉄事件判決によれば、会社の政治献金は、構成員の政治的信条が一致している場合に限り、目的の範囲内となる」(逆。構成員が政治的信条を同じくしなくても、寄附する能力がないとはいえない)

2税理士会は会社と法的性格を異にする——南九州税理士会事件(1)判例

  • 事案:ある税理士会が、税理士法改正運動の特別資金として、会員から特別会費5000円を徴収し、その全額を政治資金規正法上の政治団体(税理士の政治連盟)に寄付する決議をした。会員が納めず、特別会費の納入義務を負わないことの確認と、滞納を理由に役員選挙の選挙権・被選挙権を停止された点の損害賠償を求めた。
  • 会員の主張の骨格:寄付は税理士会の目的の範囲外で、そのための特別会費の決議は無効。原審(高裁)は目的の範囲内として請求を退けたが、最高裁はこれを破棄した(確認請求は認容・損害賠償は差戻し)。
  • まず会社の目的の範囲は広い(目的を遂行する上に直接又は間接に必要な行為はすべて含む/政治献金も八幡製鉄事件の基準で範囲内とされる)ことを確かめたうえで、南九州税理士会事件(最判平8・3・19):
  • しかしながら、税理士会は、会社とはその法的性格を異にする法人であって、その目的の範囲については会社と同一に論ずることはできない。
  • 判決が挙げた税理士会の側の事情:①税理士に設立が義務付けられている ②目的は会則を待たず法で直接具体的に定められている ③総会決議・役員の行為について大蔵大臣の監督に服する ④入会しないと税理士業務ができない(入会が間接的に強制される)強制加入団体。
  • 税理士会の法定の目的(税理士法49条2項)=税理士の使命及び職責にかんがみ、税理士の義務の遵守及び税理士業務の改善進歩に資するため、会員の指導、連絡及び監督に関する事務を行うこと。
  • また、税理士会は、強制加入団体であって、その会員には、実質的には脱退の自由が保障されていない
    …
  • 税理士会は、以上のように、会社とはその法的性格を異にする法人であり、その目的の範囲についても、これを会社のように広範なものと解するならば、法の要請する公的な目的の達成を阻害して法の趣旨を没却する結果となることが明らかである。
会社(八幡製鉄事件)税理士会(南九州税理士会事件)
目的の範囲広い(直接又は間接に必要な行為はすべて)会社と同一に論ずることはできない
政治献金社会的役割を果たすためと認められる限り範囲内政治資金規正法上の政治団体への寄付は範囲外(項目3)
区別の理由(南九州が述べたこと)—法が設立を義務付け・目的は法定・大蔵大臣の監督・強制加入で実質的に脱退の自由なし
×にされやすい形
  • 「南九州税理士会事件判決は、株主は株式を譲渡して会社から離脱できるのに対し、税理士は税理士会から脱退できない点だけを理由に、税理士会を会社と区別した」(判決が挙げたのは税理士会の側の事情=設立の義務付け・目的の法定・大蔵大臣の監督・強制加入で実質的に脱退の自由がないこと。株主の側には触れていない)
  • 「南九州税理士会事件判決は、税理士会の目的の範囲も、会社と同様に広く解すべきであるとした」(会社と同一に論ずることはできない。会社のように広く解すると法の趣旨を没却する)

3政治団体への寄付は目的の範囲外——南九州税理士会事件(2)判例

  • そして、税理士会が前記のとおり強制加入の団体であり、その会員である税理士に実質的には脱退の自由が保障されていないことからすると、その目的の範囲を判断するに当たっては、会員の思想・信条の自由との関係で、次のような考慮が必要である。
  • しかし、法が税理士会を強制加入の法人としている以上、その構成員である会員には、様々の思想・信条及び主義・主張を有する者が存在することが当然に予定されている。
  • だから、多数決で決めた活動にも、会員に求める協力義務にも、おのずから限界がある。そのうえで:
  • 特に、政党など規正法上の政治団体に対して金員の寄付をするかどうかは、選挙における投票の自由と表裏を成すものとして、会員各人が市民としての個人的な政治的思想、見解、判断等に基づいて自主的に決定すべき事柄であるというべきである。
  • 理由:規正法上の政治団体は、金員の寄付を含む広範囲な政治活動をすることが当然に予定された団体で、寄付は選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかに密接につながる問題だから。
  • 結論:
  • 税理士会が政党など規正法上の政治団体に金員の寄付をすることは、たとい税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためのものであっても、法四九条二項で定められた税理士会の目的の範囲外の行為であり、右寄付をするために会員から特別会費を徴収する旨の決議は無効であると解すべきである。
  • 官公署への建議・答申との区別:税理士会は税務行政や税理士制度について官公署に建議・答申ができる(税理士法49条の12)。しかし:
  • 政党など規正法上の政治団体への金員の寄付を権限のある官公署に対する建議や答申と同視することはできない。
  • 原審は「寄付先の政治団体の活動は税理士会の目的に沿う範囲に限られている」として範囲内としたが、最高裁は、規正法上の政治団体である以上広範囲な政治活動が当然に予定されている、として退けた。
  • 法律構成:最高裁はに違反するかを判断したのではない。法人の目的の範囲(当時の民法43条)の解釈の中で、会員の思想・信条の自由を考慮した。
  • :思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。

同じ税理士会が、税理士制度の改正について所管の役所に意見書を出す(建議)のは、法が認めた目的の範囲内の活動。これに対し、同じ改正を実現してもらうために政治資金規正法上の政治団体へ寄付するのは、業界の利益に直結していても目的の範囲外。分かれ目は、どの政党・候補者を支持するかにつながる寄付かどうか。

出題強制加入団体も政党などへ政治資金を寄附する権利能力を有する(×)税理士会が法令改廃要求のため政党に寄付するのは目的の範囲内で、特別会費決議も有効(×)税理士会の寄付の目的該当性は、会員の思想信条の多様性と投票の自由との表裏を考慮して判断(○)税理士会の政治団体への寄付は、法令改廃要求のためである場合を除き目的の範囲外(×)脱退の自由のない税理士会が政治団体への寄附のため特別会費を強制するのは許されない(○)税理士会の政治献金は、税理士法改正に関わるものでも目的の範囲外(○)

×にされやすい形
  • 「税理士に係る法令の制定改廃に関する政治的要求を実現するためであれば、税理士会が政治団体に寄付することも目的の範囲内である」(たといそのためであっても目的の範囲外)
  • 「南九州税理士会事件で最高裁は、特別会費を徴収する決議は会員の思想・良心の自由を侵害し憲法に違反するから無効であるとした」(無効の理由は目的の範囲外の行為を目的とする決議であること。思想・信条の自由は目的の範囲を判断するときの考慮)
  • 「税理士会は官公署に建議・答申ができるから、同じ目的のための政治団体への寄付も、これと同視して目的の範囲内となる」(同視することはできない)

4群馬司法書士会事件——2段の判断と反対意見判例

  • 事案:司法書士会が、阪神・淡路大震災で被災した兵庫県司法書士会に3000万円の復興支援拠出金を寄付する決議をした。資金は役員手当の減額等による一般会計からの繰入金と、会員から登記申請事件1件当たり50円(3年間)の特別負担金。
  • 会員の主張(判決の摘示):拠出金の寄付は目的の範囲外であること、強制加入団体は拠出金を調達するため会員に負担を強制できないこと等を理由に、決議は無効で負担金の支払義務がないとして、債務の不存在の確認を求めた。
  • 寄付の性格(原審の認定):被災した会や司法書士個人への見舞金という趣旨ではなく、司法書士の業務の円滑な遂行による公的機能の回復に資することを目的とするもの。
  • 1段目——権利能力(目的)の範囲内か。群馬司法書士会事件(最判平14・4・25):
  • 司法書士会は,司法書士の品位を保持し,その業務の改善進歩を図るため,会員の指導及び連絡に関する事務を行うことを目的とするものであるが(司法書士法14条2項),その目的を遂行する上で直接又は間接に必要な範囲で,他の司法書士会との間で業務その他について提携,協力,援助等をすることもその活動範囲に含まれるというべきである。
  • 額:3000万円は「やや多額にすぎるのではないかという見方があり得るとしても」、大震災の被害の甚大さと早急な支援の必要などから、額の大きさだけで直ちに目的の範囲を逸脱するとまではいえない。
  • したがって,兵庫県司法書士会に本件拠出金を寄付することは,被上告人の権利能力の範囲内にあるというべきである。
  • 2段目——調達方法:
  • そうすると,被上告人は,本件拠出金の調達方法についても,それが公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情がある場合を除き,多数決原理に基づき自ら決定することができるものというべきである。
  • これを本件についてみると,被上告人がいわゆる強制加入団体であること(同法19条)を考慮しても,本件負担金の徴収は,会員の政治的又は宗教的立場や思想信条の自由を害するものではなく,また,本件負担金の額も,登記申請事件1件につき,その平均報酬約2万1000円の0.2%強に当たる50円であり,これを3年間の範囲で徴収するというものであって,会員に社会通念上過大な負担を課するものではないのであるから,本件負担金の徴収について,公序良俗に反するなど会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとは認められない。
  • したがって,本件決議の効力は被上告人の会員である上告人らに対して及ぶものというべきである。
  • 判決中の「(同法19条)」は司法書士法(当時)の条文で、強制加入の根拠。憲法ではない。
  • 法廷意見は会員の上告を棄却(会員の負け)。反対意見が2つ(どちらも原判決を破棄して会員側を勝たせる意見)。深澤裁判官=額が会の規模・財政に比べ過大で目的の範囲を超える/本来の目的でない間接的な援助のために、不納会員への共済の停止など厳しい不利益を伴う協力義務を課すのは限界を超える。横尾裁判官=社会的に相当な応分の寄付の範囲を大きく超え、被災司法書士個人への見舞金の性格が色濃く残る→権利能力の範囲外。
強制加入団体の寄付の決議寄付は権利能力(目的)の範囲内か目的遂行に直接又は間接に必要な範囲なら他会への援助も含む目的の範囲外そのための決議は無効いいえはい協力義務を否定すべき特段の事情があるか公序良俗に反するなど(思想信条を害するか・負担が過大か)多数決で決められないはいいいえ決議の効力は会員に及ぶ調達方法も多数決で決められる
群馬司法書士会事件の法廷意見の順。1段目で見たのは会が出す3000万円の額、2段目で見たのは会員が払う1件50円の負担。南九州税理士会事件はこの2段に分けた形ではなく、会員の思想・信条の自由を目的の範囲の判断そのものの中で考慮して範囲外とした(項目5)。

見舞金の性格が色濃く、しかも額が会の規模に比べ応分の寄付を大きく超えると見れば、横尾反対意見のように権利能力の範囲外とされる方向に動く(見舞金でも応分の額なら範囲内とみる余地がある、と横尾意見自身が言う)。法廷意見は、原審の認定どおり会の公的な機能を回復させる支援と見た。

出題被災した他県の司法書士会への寄付と負担金徴収は目的の範囲内で、会員の思想信条を害さない(○)

×にされやすい形
  • 「群馬司法書士会事件判決は、司法書士会が強制加入団体である以上、会員に負担を課して他会に寄付することは目的の範囲外であるとした」(権利能力の範囲内とし、決議の効力は会員に及ぶとした)
  • 「群馬司法書士会事件判決は、3000万円という額は多額にすぎるから、寄付は目的の範囲を逸脱するとした」(法廷意見は、額の大きさだけで直ちに逸脱とまではいえないとした。過大と見たのは反対意見)
  • 「群馬司法書士会事件判決は、強制加入団体であること(憲法)を考慮しても、負担金の徴収は思想信条の自由を害しないとした」(判決の「同法19条」は司法書士法の条文)

52つの判決をどう並べるか——団体の性質と行為の性質判例学説

  • (学説の整理)南九州の理由のうち、強制加入・様々な思想信条の会員が予定されている点は団体の性質、政治団体への寄付は投票の自由と表裏という点は行為の性質に着目したもの。群馬は、強制加入は同じだが、行為が政治献金ではなく会員の思想信条と結びつかない復興支援だったから逆の結論になった、と考えることができる。団体の性質は会社と税理士会を分け(項目1→2)、行為の性質は同じ強制加入の税理士会と司法書士会を分ける(項目3→4)。
  • これは2つの判決を並べたときの読み方で、判決自身の比較ではない。群馬の法廷意見は南九州に触れていない。群馬の判決の中で効いた事情は、1段目=公的機能の回復のための同業の会への援助(額も震災の規模から逸脱とまではいえない)、2段目=思想信条を害さない・負担が過大でない、の複数。
  • 「2段階の枠組み」(権利能力の範囲→特段の事情)は群馬の定式。南九州は、会員の思想・信条の自由との関係を目的の範囲の判断そのものの中で考慮して範囲外とした。
南九州税理士会事件群馬司法書士会事件
団体強制加入(実質的に脱退の自由なし)強制加入
お金の行き先政治資金規正法上の政治団体被災した他の司法書士会(公的機能の回復)
思想・信条を検討した段目的の範囲そのもの2段目(協力義務を否定すべき特段の事情)
結論目的の範囲外・決議は無効権利能力の範囲内・決議の効力は会員に及ぶ
  • 「抜けられる団体なら原則として多数決に従う」の判例上の出どころは、労働組合の判決(国労広島地本事件・最判昭50・11・28)。南九州は、政治団体への寄付への協力を義務付けられないという箇所でこの判決を参照している:
  • 組合からの脱退の自由が確保されている限り、たとえ個々の場合に組合の決定した活動に反対の組合員であつても、原則的にはこれに対する協力義務を免れないというべきであるが、
  • 同判決は、組合脱退の自由も事実上大きな制約を受けているとして協力義務を無条件には肯定せず、選挙においてどの政党又はどの候補者を支持するかは「投票の自由と表裏をなす」として、総選挙で特定の候補者を応援するため政党に寄付する資金への協力の強制を否定した(南九州の「投票の自由と表裏を成す」はこれとほぼ同じ言い回し)。八幡製鉄事件の理由ではない。
×にされやすい形
  • 「強制加入団体は、会員の思想・信条の自由を侵害するおそれがあるから、会員に負担を課して寄付をする決議をすることはできない」(群馬では決議の効力が会員に及んだ。強制加入だけでは結論は決まらない)
  • 「群馬司法書士会事件判決は、南九州税理士会事件と比べ、寄付が政治的な選択でない点が異なるから結論が逆になると判示した」(法廷意見は南九州に触れていない。行為の性質で説明するのは学説の整理)
  • 「南九州税理士会事件判決は、寄付が目的の範囲内であることを前提に、会員の協力義務を否定すべき特段の事情があるとした」(目的の範囲外とした。特段の事情の段に分けたのは群馬)

6百里基地訴訟(1)——の「国務に関するその他の行為」条文判例

  • (解説の整理)問いの向き:私人間では「憲法が本来届かない行為に憲法が及ぶか」だった。ここは裏返しで、国の行為なのに憲法が及ばない場合があるか。国が土地を手に入れるのが収用なら公権力の行使、売買なら私人と対等の立場。百里で問題になったのは売買。
  1. 自衛隊の基地予定地の所有者が、基地に反対する側に土地を売る契約をした
  2. 売買残代金が支払われず、所有者が契約を解除
  3. 所有者が、同じ土地を国に売った(昭和33年)
  4. 反対する側が、国との売買契約はに反して無効と主張。土地が誰のものかを争った
  • :この憲法は、国の最高法規であつて、その条規に反する法律、命令、詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない。
  • 上告理由:「国務に関するその他の行為」は国の行うすべての行為で、私法上の行為も含む。百里基地訴訟(最判平元・6・20):
  • 憲法九八条一項は、憲法が国の最高法規であること、すなわち、憲法が成文法の国法形式として最も強い形式的効力を有し、憲法に違反するその余の法形式の全部又は一部はその違反する限度において法規範としての本来の効力を有しないことを定めた規定であるから、同条項にいう「国務に関するその他の行為」とは、同条項に列挙された法律、命令、詔勅と同一の性質を有する国の行為、言い換えれば、公権力を行使して法規範を定立する国の行為を意味し、
    …国の行為であつても、私人と対等の立場で行う国の行為は、右のような法規範の定立を伴わないから憲法九八条一項にいう「国務に関するその他の行為」に該当しないものと解すべきである。
  • 行政処分・裁判は、個別的・具体的ながらも公権力を行使して法規範を定立する国の行為なので、法規範を定立する限りにおいて該当する。法律・命令・詔勅と同じく国が公権力で法的な決まりを定めるもので、相手と対等の立場で合意して結ぶ売買はこれを伴わない。
  • 関連して判決は、国の私法上の契約の効力は一般の私法上の要件だけで決まるので、その準拠法規(防衛庁設置法等)の違憲審査をする必要はない、ともした。
×にされやすい形
  • 「にいう『国務に関するその他の行為』は国の行うすべての行為を意味し、国が私人と対等の立場で行う売買契約もこれに含まれる」(公権力を行使して法規範を定立する国の行為に限る。私人と対等の立場の行為は該当しない)
  • 「行政処分や裁判は、個別的・具体的な行為であるから、にいう『国務に関するその他の行為』に該当しない」(公権力を行使して法規範を定立する行為なので該当する)

7百里基地訴訟(2)——は私法上の行為に直接適用されるか条文判例学説

  • 前提(私人間効力):私人の行為に直接あてはめるのは憲法ではなく私法の一般条項(民法90条など)で、憲法の趣旨はその中身を決めるときに考慮される。人権規定が私人間の行為に直接適用されないのはこの意味(三菱樹脂事件)。
  • 上告理由:国が当事者の行為は私人間の行為と同視できない/仮に同視できても、平和主義・平和的生存権に違反し、が直接適用されてこれに違反する。
  • 上告人らが平和主義ないし平和的生存権として主張する平和とは、理念ないし目的としての抽象的概念であつて、それ自体が独立して、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準になるものとはいえず、
  • 憲法九条は、その憲法規範として有する性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではなく、人権規定と同様、私法上の行為に対しては直接適用されるものではないと解するのが相当であり、
    …国が行政の主体としてでなく私人と対等の立場に立つて、私人との間で個々的に締結する私法上の契約は、当該契約がその成立の経緯及び内容において実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえるような特段の事情のない限り、憲法九条の直接適用を受けず、私人間の利害関係の公平な調整を目的とする私法の適用を受けるにすぎないものと解するのが相当である。
  • 判決が挙げた私法上の契約の例:行政活動上必要となる物品を調達する契約、公共施設に必要な土地の取得、国有財産の売払いのためにする契約など。国が買う側だけでなく売る側も挙がっている。
  • 根拠として、私人間効力の大法廷判決(三菱樹脂事件・最大判昭48・12・12)の「趣旨に徴して明らか」とした。
  • あてはめ:所有者がした解除は、国が関与しない純粋な私人間の行為で、が直接適用される余地はない。国との売買も、公権力を行使せず、交渉を重ねて結んだ一連の売買契約の一つで、特段の事情は認められない。
  • (学説の整理)間接適用説でも例外的に私人間に直接適用される規定がある(選挙人の無答責=後段、奴隷的拘束の禁止=前段など)。もその例外か、という問いにあたる部分。判決の答え方は「その例外の一覧に入らない」ではなく、「は性格上、私法上の行為の効力を直接規律することを目的とした規定ではない」というもの。

国が、売らない地主に収用をちらつかせて実質的に売買を強いた、といった事情があれば、「実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがない」特段の事情として、直接適用の余地が出る方向に動く。百里の売買は交渉を重ねた普通の売買だった。

出題9条は法規の解釈適用の指導原理となり得るが、私法上の行為の効力を直接規律しない(○)国の私法上の行為には、特段の事情があっても9条が直接適用されることはない(×)9条は公法的規範で、これに反する私法上の行為の効力を一律に否定する作用はない(○)国が私人と結ぶ私法上の契約は、特段の事情のない限り9条の直接適用を受けない(○)平和的生存権は、それ自体で独立して私法上の行為の効力を判断する基準になる(×)

×にされやすい形
  • 「は国家の統治活動を規律する規定であるから、国が当事者となる私法上の契約には常に直接適用される」(人権規定と同様、私法上の行為には直接適用されない)
  • 「百里基地訴訟判決によれば、国が私人と対等の立場で締結する私法上の契約には、いかなる場合にもは直接適用されない」(実質的にみて公権力の発動たる行為となんら変わりがないといえる特段の事情のない限り、という留保がある)
  • 「平和的生存権は、具体的訴訟において私法上の行為の効力の判断基準となる」(理念ないし目的としての抽象的概念で、それ自体は判断基準にならない)

8百里基地訴訟(3)——民法90条の公序良俗判例

  • 上告理由:が直接適用されないとしても、民法90条の公序の内容を形成し、それに反する売買は公序良俗違反で無効。
  • 民法90条:公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
  • 基地建設という目的・動機は、国が売主に表示していたので、公序良俗違反かを決めるときに考慮されるべき事項とされた(直接適用の段では効かないが、90条の段では考慮される):
  • 右の目的ないし動機は本件売買契約等が公序良俗違反となるか否かを決するについて考慮されるべき事項であるということができる
  • ただしは国の基本的な法秩序を宣示した規定として下位の法規の解釈適用の指導原理となりうるが、目的・動機が直接の趣旨に適合するかで決めるのではなく、契約を全体的に観察して私法的な価値秩序のもとで効力を否定すべきほどの反社会性があるかで決める。
  • 右の規範は、私法的な価値秩序のもとで確立された私的自治の原則、契約における信義則、取引の安全等の私法上の規範によつて相対化され、民法九〇条にいう「公ノ秩序」の内容の一部を形成するのであり、したがつて私法的な価値秩序のもとにおいて、社会的に許容されない反社会的な行為であるとの認識が、社会の一般的な観念として確立しているか否かが、私法上の行為の効力の有無を判断する基準になるものというべきである。
  • あてはめ:自衛隊法・防衛庁設置法は、自衛のための措置や実力組織の保持は禁止されないとの解釈のもとで制定された。売買が結ばれた昭和33年当時、自衛隊のために国と私人が売買契約等を結ぶことが反社会的だとの認識が社会の一般的な観念として確立していたとはいえない→公序良俗違反でない。
  • 平和的生存権も、を離れて別に「公ノ秩序」の内容を形成することはない。
国の売買契約の効力を憲法で争う公権力を行使して法規範を定立する行為か行政処分・裁判は該当98条1項の対象国務に関するその他の行為はいいいえ実質的に公権力の発動と変わらない特段の事情があるか成立の経緯及び内容においてみる直接適用の留保この場合の帰結は判決は述べていないはいいいえ(私法の適用)反社会的との認識が確立しているか社会の一般的な観念として(民法90条の公ノ秩序)公序良俗違反で無効はいいいえ契約は有効百里=昭和33年当時は確立していない
判決は、上告理由の主な3つの論旨(98条1項/9条の直接適用/民法90条)に順に答えたもので、この3つを1本の要件として並べたわけではない。図は答えの順に読んだもの。特段の事情があるときどうなるかまでは判決は述べていない。

出題国が私人と対等の立場で結ぶ私法上の契約は、私法の適用を受けるだけである(×)

×にされやすい形
  • 「の規範は、そのままの内容で民法90条の『公ノ秩序』の内容を形成し、これに反する私法上の行為の効力を一律に否定する」(私的自治の原則・契約における信義則・取引の安全等で相対化され、公ノ秩序の内容の一部を形成する)
  • 「百里基地訴訟判決によれば、自衛隊基地の建設という目的・動機は、売買契約が公序良俗違反となるかの判断では考慮されない」(考慮されるべき事項とされた。直接の趣旨に適合するかで決めないだけ)

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