憲法ゼロから憲法#16

幸福追求権と新しい人権

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13条の構造(前段と後段)

前段(個人の尊重)

定義前段は、「すべて国民は、個人として尊重される」という一文です。

一人ひとりを、集団の一部としてでなく扱うという宣言です。

具体例多数派と違う考えを持つ人でも、その人自身の価値を切り捨ててはいけません。

後段(幸福追求権)

定義後段の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」を、まとめて幸福追求権と呼びます。

結論この言葉の広さに、条文が名前を挙げていない権利を読み込みます。

注意「公共の福祉に反しない限り」は、後段の権利にかかる条件です。

13条第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)すべて国民は、個人として尊重される生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

13条は具体的権利か

結論今は、13条それ自体から具体的な権利を導けると理解されています。

それ自体を根拠に、裁判で救済を求められます。

注意考え方は、社会の変化に応じて動きました。

  • かつて:13条は、個別の人権をまとめて呼ぶ言葉(総称)にすぎず、それ自体では具体的な権利を生まないと理解されていました。
  • 現在:単なる総称ではなく、具体的権利です。
  • 権利の段階:具体的権利・抽象的権利・プログラム規定のうち、裁判で直接使えるいちばん強い段階に当たります。

もう一つの総則的な条文(14条)

結論個別の人権規定の土台になる条文は、13条のほかに14条(法の下の平等)があります。

13条と14条が並んで、個別の人権規定を支える総則的な条文です。

14条第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない

新しい人権の必要性

13条後段の広い言葉には、条文に名前の無い権利を読み込めます。
では、なぜ13条から新しい権利を読み込む必要があるのでしょうか。

想定されていなかった生活場面

結論憲法が作られた当時には想定できなかった生活の場面が、次々に生まれるからです。

名前の無い権利も、13条を手がかりに、憲法上の権利として認められています。

具体例自分の情報が、知らないうちに集められ、残っていく場面です。

  • 防犯カメラ:街を歩けば、姿が映ります。
  • 買い物の記録:買い物をすれば、記録がどこかに残ります。

こうした場面に対応する権利の一つが、プライバシー権です。

何でも認めてよいか

結論「新しい人権」だと言えば何でも認めてよいわけではなく、どこで線を引くかが問題になります。

新しい人権の範囲(一般的行為自由説と人格的利益説)

新しい人権を、無限定に認めるわけにはいきません。
では、13条から、どこまでの範囲を読み込むべきでしょうか。

一般的行為自由説(あらゆる生活領域の行為の自由・散歩や海水浴も含む)と人格的利益説〈通説〉(人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利の総体・プライバシー)の対比表

一般的行為自由説

定義あらゆる生活領域の行為の自由が、13条後段によって保障されるという立場です。

理由人に迷惑をかけない行為は広く自由だという発想で、個人の自由をできる限り広く保護しようとします。

人格的利益説(通説)

定義幸福追求権を、人格的生存に不可欠な利益を内容とする権利の総体と解する立場です。

「人格的生存に不可欠」が、範囲を絞る言葉です。

具体例誰にどこまで知られるかを、自分の側に残しておくことは含まれます。

その人がその人として生きていくことに、直接かかわるからです。

散歩や海水浴のような行為は、含まれません。

なぜ人格的利益説が通説か

結論通説は、次の2つの理由から、範囲を絞る道を選びました。

理由広く認めるほど、人権がかえって弱くなるからです。

  • 人権のインフレ化:あらゆる行為に「人権」という名前を付けると、人権という言葉自体の重みが薄れます。表現の自由のような重い権利と、散歩の自由が同じ重さで並んでしまいます。
  • 制限場面の増加:広く人権を認めるほど、人権どうしがぶつかる場面が増えます。そのたびに公共の福祉による調整が必要になり、広く認めた権利ほど簡単に制限されてしまいます。

注意人権として認めることは、守ることであると同時に、弱くすることにもなりかねません。

広ければ広いほど良い、というわけではありません。

答案戦略(両説を使い分ける)

通説は、人格的利益説で範囲を絞ります。
では、答案では、どちらの説で書くべきでしょうか。

通常は人格的利益説

結論通常は、人格的利益説で書きます。

注意人格的利益説には、絞りすぎて困る場面があります。

  • 具体例:仕事終わりに煙草を吸う自由や、晩酌でお酒を飲む自由です。
  • 困る点:人格的生存に不可欠とは言い切れず、定義にうまく当てはまりません。

言いにくい場面では一般的行為自由説

結論人格的生存に不可欠と言いにくい場面では、一般的行為自由説で書きます。

あらゆる生活領域の行為の自由という立場なら、喫煙や飲酒の自由も素直に含まれます。

注意一般的行為自由説は、負けた説ではなく、もう一つの道具です。

  • 代償:広い説に乗り換えるとインフレ化が起き、広く拾った自由は、そのぶん制限も通りやすくなります。
  • 書き方:そこまで引き受けたうえで、この場面はこの説で書く、と決めます。
  • 到達点:どちらか一方でなく、両方を持っておくことです。

京都府学連事件(13条から自由が認められた例)

13条からは、条文に名前の無い権利を読み込めます。
では、13条から実際に自由が認められた事件で、最高裁は何を判断したのでしょうか。

京都府学連事件の関係図(A=警察官が許可条件違反の確認のためB=デモ先頭の被告人を写真撮影、Bが旗竿でAを突き公務執行妨害・傷害で起訴)

事件と争点

事案デモ行進には、許可の条件が付いていました。

  • A(警察官):条件に違反していると判断し、承諾なしに行進の様子を撮影しました。
  • B(先頭で行進していた人):抗議して旗ざおでAの顎のあたりを突き、治療に1週間ほどかかる怪我を負わせました。

Bは、公務執行妨害傷害の罪で起訴されました。

結論撮影が適法だったかが、争点になりました。

Bの側は、承諾なしに写真を撮られたこと自体が憲法違反だと主張しました。

理由公務執行妨害が成立するのは、その職務が適法だった場合です。

撮影が許されないものなら、適法な職務ではなくなります。

撮影されない自由

結論最高裁は、何人も、その承諾なしに、みだりに容ぼう・姿態を撮影されない自由を有するとしました。

警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されないとしました。

理由13条が守っているのは、国からの干渉に対する私生活上の自由だからです。

相手が警察であっても、そこは変わりません。

注意判旨には「これを肖像権と称するかどうかは別として」という留保が付いています。

最高裁は、肖像権という名前を正面から認めたわけではなく、13条から導かれる自由の中身として述べたにとどまります。

「最高裁が肖像権を認めた」と覚えるのは、正確ではありません。

京都府学連事件最高裁判所大法廷判決13条が生んだ最初の自由個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態……を撮影されない自由を有するものというべきである。これを肖像権と称するかどうかは別として、少なくとも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容ぼう等を撮影することは、憲法一三条の趣旨に反し、許されないものといわなければならない。

撮影が許される3要件

結論次の3つがそろえば、承諾も令状も無くても、撮影が許されます。

  • 現行性:現に犯罪が行われている、または行われた直後であることです。
  • 必要性・緊急性:証拠を残す必要性と、急ぎの事情があることです。
  • 相当性:撮影の方法が、一般に許される範囲を超えていないことです。

理由この自由も、無制限ではありません。

犯罪の捜査は、社会全体のために警察に任された仕事だからです。

注意3つとも、そろっていなければなりません。

一つでも欠けると、結論が変わります。

この事件の結論

結論3つの要件がそろっているとして、撮影は適法とされ、Bの上告は退けられました。

  • 現行性:許可条件の違反が、まさに進行中でした。
  • 必要性・緊急性:証拠を残す必要も、急ぎの事情もありました。
  • 相当性:行進の様子を撮るだけの、相当な方法でした。

注意撮影されない自由を認めた判決ですが、違憲判決ではありません

自由を認めたうえで、今回はその自由を制限してよい場面だった、と判断しました。

補充的保障(13条の位置づけ)

13条からは、具体的な権利が実際に導かれています。
では、個別の人権規定がある場面でも、13条を使ってよいのでしょうか。

補充的保障

定義個別の人権規定でカバーされる場面では13条は出てこず、13条は最後に残る受け皿になることを、補充的保障と呼びます。

結論表現の自由や職業選択の自由のような個別の規定を、先に検討します。

理由次の2つの理由によります。

  • 線引きの尊重:個別の規定は、憲法が「ここは守る」と線を引いた条文です。先に13条で拾うと、その線を素通りできてしまいます。
  • 13条の弱体化:何でも13条で拾えば、広げるほど弱くなるという問題が、13条自身に起きます。

注意混同しやすい点が2つあります。

  • 土台との関係:13条が個別の規定を支える土台であるのは体系の話で、出てこないのは検討する順番の話です。矛盾しません。
  • 制度的保障との違い:制度的保障は制度そのものを守る話で、補充的保障は条文を使う順番の話です。

13条から導かれる権利

具体例13条から導かれる権利には、次のものがあります。

  • 撮影されない自由:京都府学連事件で認められました(第5節)。
  • 外国人の指紋押捺:外国人に指紋の押捺を求める制度が争われた事件でも、13条から具体的な権利が導かれています。
  • プライバシー権:自分の情報が知らないうちに集められ、残っていく場面に対応する権利です。
  • 自己決定権:自分の生き方を、自分で決める権利です。
  • 人格権:名誉のように、人格そのものに関わる権利です。

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