憲法ゼロから憲法#44

規制目的二分論

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22条の構造(職業選択の自由)

22条に書かれている5つの自由

結論22条には、5つの自由が書かれています。

  • 1項:居住の自由・移転の自由・職業選択の自由の3つです。
  • 2項:外国に移住する自由・国籍を離脱する自由の2つです。

注意このノートで扱うのは、1項の職業選択の自由だけです。

22条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:何人も、公共の福祉に反しない限り、居住、移転及び職業選択の自由を有する。2項:何人も、外国に移住し、又は国籍を離脱する自由を侵されない。

「公共の福祉」が重ねて置かれている

結論「公共の福祉」は、12条・13条に加えて、22条1項と29条2項にも重ねて置かれています。

理由この重なりを、経済的自由にはより強い規制が及ぶ趣旨だと読む見解があります。

注意書き方は同じではありません。

  • 「反しない限り」:13条と22条1項です。
  • 「適合するやうに」:29条2項です。

12条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。又、国民は、これを濫用してはならないのであつて、常に公共の福祉のためにこれを利用する責任を負ふ。

13条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

29条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。

職業の意義(職業選択の自由の性質)

職業選択の自由は、自分がしたい仕事を、国に決められずに自由に選べる権利です。
では、判例は「職業」そのものをどう捉えているのでしょうか。

職業の3つの顔(薬局距離制限事件)

定義判例は、職業に次の3つの性質があるとしています。

  • 継続的活動:人が自己の生計を維持するためにする継続的活動です。
  • 社会的機能分担:分業社会で、社会の存続と発展に寄与する活動です。役割を分担して社会を支える、一つの持ち場です。
  • 人格的価値との関連:各人が個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を持ちます。

具体例何を焼くかを選ぶパン屋は、稼ぎ方だけでなく、自分がどう生きるかも選んでいます。

薬局距離制限事件最高裁判所大法廷判決厳格な合理性の基準「その合憲性を肯定しうるためには、原則として、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、また、それが社会政策ないしは経済政策上の積極的な目的のための措置ではなく、自由な職業活動が社会公共に対してもたらす弊害を防止するための消極的、警察的措置である場合には、許可制に比べて職業の自由に対するよりゆるやかな制限である職業活動の内容及び態様に対する規制によつては右の目的を十分に達成することができないと認められることを要するもの、というべきである。」結論:「薬局の開設等の許可基準の一つとして地域的制限を定めた薬事法六条二項、四項(これらを準用する同法二六条二項)は、不良医薬品の供給の防止等の目的のために必要かつ合理的な規制を定めたものということができないから、憲法二二条一項に違反し、無効である。」職業の意義「職業は、人が自己の生計を維持するためにする継続的活動であるとともに、分業社会においては、これを通じて社会の存続と発展に寄与する社会的機能分担の活動たる性質を有し、各人が自己のもつ個性を全うすべき場として、個人の人格的価値とも不可分の関連を有するものである。」

経済的自由と精神的自由の側面

結論職業選択の自由は経済的自由ですが、精神的自由の側面もあわせ持ちます。

理由職業は単なる収入源ではなく、人格そのものと結び付いているからです。

注意この「人格」は、人格的利益説(人格的生存に不可欠な利益)と同じ言葉でつながります。

この複合的な性質は、答案でもよく書かれる理解です。

営業の自由(条文に無い自由)

職業選択の自由は、人格にも結び付く自由です。
では、22条1項の文言にない「選んだ職業を続ける自由」も、保障されるのでしょうか。

営業の自由

定義営業の自由とは、選んだ職業を続ける自由(職業活動の自由)です。

結論営業の自由も、22条1項に含まれます(判例も同じ立場です)。

判例は、22条1項が「狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含している」と述べています。

理由選ぶ自由だけを保障しても、その後を縛られたら、選べた意味が無くなるからです。

具体例パン屋が開業の許可を得ても、パンの種類・仕入れ先・営業時間を全部行政に指定されたら、ほとんど裁量が残りません。

注意22条1項の文言は「職業選択の自由」だけです。

文字どおりに読むと、保障されるのは、どの職業に就くかを選ぶ瞬間だけになります。

薬局距離制限事件最高裁判所大法廷判決職業活動の自由の保障「右規定は、狭義における職業選択の自由のみならず、職業活動の自由の保障をも包含しているものと解すべきである。」

規制目的二分論(消極目的と積極目的)

職業選択の自由は、人格にも届き、営業の自由まで含みます。
では、経済的自由への規制には、どの物差しを当てるのでしょうか。

目的二分論

定義目的二分論とは、規制の目的に着目して、違憲審査の物差しを選び分ける考え方です。

結論最高裁は、規制の目的で、物差しを選び分けています。

経済的自由には中間審査基準か合理性の基準が当たり、そのどちらを使うかを目的で決めます。

注意職業選択の自由が経済的自由の箱からはみ出すことは、「一律に緩く測る」わけにいかない、というところまでしか言えません。

どこで線を引くかは、別の理由(次の「なぜ目的で分けるのか」)から出てきます。

消極目的規制と積極目的規制の対比(定義・典型例・裁判所の姿勢)

消極目的規制と積極目的規制

定義2つの規制は、次のとおりです。

  • 消極目的規制:国民の生命や健康への危険を防止するための規制です。
  • 積極目的規制:社会経済政策の一環として行われる規制です。

なぜ目的で分けるのか

結論消極目的規制には裁判所が踏み込み、積極目的規制には立法府の判断を尊重します。

理由裁判所に判断する能力があるかどうかが違うからです。

  • 消極目的規制:危険を防ぐ規制で、専門知識がなくても、裁判所が踏み込んで判断できます。
  • 積極目的規制:社会経済政策の当否で、専門的な経済分析が必要となり、裁判所には手に負えません。

注意これは、二重の基準論の理由づけと同じ根っこです。

二重の基準論の理由は、民主政の過程で直せるかと、裁判所に判断能力があるかの2つでした。

その2つ目が、経済的自由の内部で、もう一段働いています。

小売市場距離制限事件(積極目的・明白の原則)

目的二分論では、積極目的規制に緩やかな物差しを当てます。
積極目的規制の実例では、距離制限つきの許可制はどう判断されたのでしょうか。

小売市場距離制限事件の事案の構造(開設者Aが許可を受けずに小売市場を開設し、検察官Cが起訴した刑事事件)

事案と規制の目的

事案国の法律(小売商業調整特別措置法)は、政令で指定された市の区域で、小売市場を新しく開くのに都道府県知事の許可を必要としていました。

  • 内規:既存の市場の近くには、新しい市場を許可しないという内規がありました。
  • 起訴:ある人が、許可を受けずに市場を開き、起訴されました(刑事事件)。
  • 争点:この許可制そのものが、22条1項に違反しないかです。

結論規制の目的は、既存の店どうしの共倒れを防ぐことで、典型的な積極目的規制です。

注意「七百メートル」という数字は、判決文そのものには出てきません。

大阪府が定めていた、許可基準の内規上の数字です。

積極目的規制が許される範囲

結論経済活動の自由については、社会経済政策の実施の一手段として、一定の合理的規制措置を講ずることを、憲法が予定し許容しています。

判決文は、これを「個人の精神的自由等に関する場合と異なつて」と述べています。

注意積極目的規制が許されるのは、経済的自由についてだけです。

精神的自由に、社会経済政策を理由にした規制をかけることは、この理屈ではおよそ許されません。

小売市場距離制限事件最高裁判所大法廷判決積極目的規制の許容「個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合と異なつて、右社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的規制措置を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容するところと解するのが相当であ〔る〕。」

明白の原則

定義学説は、この判例の基準を「明白の原則」(明白性の原則)と呼んでいます。

結論積極目的規制は、立法府の政策的技術的な裁量に委ねられます。

裁判所は立法府の判断を尊重するのが建前です。

違憲にできるのは、裁量権を逸脱し、規制が著しく不合理であることの明白である場合に限られます。

注意「明白の原則」「厳格な合理性の基準」という名前は、判決文には出てきません(学説の呼び方です)。

小売市場距離制限事件最高裁判所大法廷判決明白の原則「立法府の政策的技術的な裁量に委ねるほかはなく、裁判所は、立法府の右裁量的判断を尊重するのを建前とし、ただ、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることの明白である場合に限つて、これを違憲として、その効力を否定することができるものと解するのが相当である。」あてはめ:「小売市場の乱設に伴う小売商相互間の過当競争によつて招来されるであろう小売商の共倒れから小売商を保護するためにとられた措置」

あてはめと結論

事案判決は、この措置を、小売市場の乱設による過当競争で起きる小売商の共倒れから、小売商を保護するための措置だとしました。

結論著しく不合理であることが明白とは言えず、合憲です。

薬局距離制限事件(消極目的・厳格な合理性の基準)

積極目的の距離制限つき許可制は、明白の原則で合憲とされました。
では、消極目的の距離制限は、どう判断されたのでしょうか。

薬局距離制限事件の事案の構造(開業希望者Aが広島県Bに開設許可を申請し不許可となり、その取消しを求めた行政事件)

事案と規制の目的

事案当時の薬事法と広島県の条例は、既存の薬局から一定の距離を置くことを、開設許可の条件にしていました。

  • 不許可:ある人が、この距離制限を満たさないとして、不許可にされました。
  • 訴訟:その処分の取消しを求めて争いました(行政事件)。
  • 争点:この距離制限が、22条1項に違反しないかです。

結論規制の目的は、不良な医薬品の供給や医薬品の乱用を防ぐことで、消極目的規制です。

注意申請していたのは、正確には医薬品の一般販売業の許可です。

距離の基準は、薬局の規定を準用したものでした。

厳格な合理性の基準

定義学説は、この判例の基準を「厳格な合理性の基準」と呼んでいます。

結論消極的・警察的措置の合憲性を認めるには、次の2つが必要です。

  • 目的の要求:重要な公共の利益のために、必要かつ合理的な措置であることです。
  • 手段の要求:許可制より緩やかな、職業活動の内容及び態様に対する規制では、目的を十分に達成することができないと認められることです。

注意手段の要求は、LRA(より制限的でない他の選びうる手段があるなら、それを使うべきだという考え方)と同じ発想です。

あてはめと結論

薬局距離制限事件の負け方の構造(目的=正当/手段=必要性・合理性を欠く/範囲=距離制限だけが無効)

結論距離制限は必要かつ合理的な規制とは言えず、22条1項に違反し無効です(違憲)。

  • 目的:不良医薬品の供給や乱用の弊害を防ぐこと自体は、正当と認められました。
  • 手段:行政による監督や取締りの強化など、より緩やかな方法でも同じ目的を達成できるので、必要性と合理性が認められません。
  • 別名:この判決は、薬事法違憲判決とも呼ばれます。

注意無効になったのは、距離を置けという条件の部分だけです。

薬局を開くのに許可が要ること(許可制)自体は、否定されていません。

2判例の対比(物差しを選んだ時点で結論が決まる)

小売市場の距離制限は合憲、薬局の距離制限は違憲とされました。
どちらも「既存の店から距離を置け」という規制なのに、何が結論を分けたのでしょうか。

小売市場距離制限事件と薬局距離制限事件の対比(事案・目的・使った基準・結論・キーフレーズ)

目的が物差しを決める

結論手段は同じ距離制限でも、目的が違うだけで結論が正反対になりました。

物差しを選んだ時点で、結論はほぼ決まっていました。

理由裁判所が、自分に何が判断できるかを、自分で認めたからです。

  • 社会経済政策の当否:裁判所には荷が重いので、立法府に委ね、明白の原則で緩く測ります。
  • 命や健康への危険:裁判所にも判断しやすいので、踏み込んで、厳格な合理性の基準で測ります。

具体例薬局の距離制限が、薬局の共倒れを防ぐための規制と位置づけられたなら、目的は積極目的に変わります。

使う基準は明白の原則になり、結論も合憲に変わりえます。

答案での使い方

結論経済的自由の問題では、まず規制の目的を読みます。

目的が読めれば、当てる物差しが決まります。

注意これは伝統的な読み方で、近時、有力な批判があります。

最高裁自身が、この物差しどおりには動かなかった事件もあります。

基準の名前と中身(「厳格な合理性」は緩い基準ではない)

2判例では、「厳格な合理性の基準」と「明白の原則」が使われました。
この2つは、違憲審査基準の3つの層(厳格審査基準・中間審査基準・合理性の基準)のどこに位置づけられるのでしょうか。

3層の違憲審査基準への位置づけ(厳格な合理性の基準=中間審査基準の側・明白の原則=合理性の基準の側)

厳格な合理性の基準の位置

結論「厳格な合理性の基準」は、中間審査基準の側に位置づけられます。

理由手段の要求(より緩やかな制限では目的を十分に達成できないこと)は、LRAそのものだからです。

実際に、薬局の距離制限はこの基準で違憲になりました。

注意名前の一部だけを見ると、両方向に間違えます。

  • 「合理性」に引かれる:合理性の基準の仲間ではありません。
  • 「厳格」に引かれる:いちばん厳しい厳格審査基準の仲間でもありません。

明白の原則の位置

結論「明白の原則」は、合理性の基準の側に位置づけられます。

理由著しく不合理であることが明白でない限り違憲にできず、より緩やかな手段を探すことも求めないからです。

注意2つの分かれ目は、手段の代わりを探させるかどうかです。

名前に「合理性」が入っているのは厳格な合理性の基準の方なのに、緩いのは明白の原則の方です(名前と中身がねじれています)。

この弁別は、短答でよく狙われます。

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