憲法ゼロから憲法#53

受益権と国家賠償

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受益権とは何か

受益権(国務請求権)

定義受益権(国務請求権)とは、国家に「動いてくれ」と求める権利です。

国家に対する作為請求権にあたります。

結論受益権は、他の人権が侵されたときに、国家を動かしてその人権を守ってもらう権利です。

つまり、権利を守るための権利です。

自由権・社会権との違い

定義3つの権利は、次のように違います。

  • 自由権:国家に「余計な口出しをするな」と求める権利です。
  • 社会権:生活そのものを、国家に支えさせる権利です。
  • 受益権:他の人権を守るために、国家を動かす権利です。

注意社会権も、国家に動いてもらう点では受益権と共通します。

違うのは、何のために国家を動かすかです。

受益権の古さ

結論受益権は、社会権より古い権利です。

社会権は、20世紀に入ってから保障されるようになりました。

理由人権が生まれたときから、それを守ってもらう権利が必要とされてきたからです。

4つの受益権(国に求めることの強さ)

結論国に何を義務づけるかの強さで並べると、次の順になります。

  • 16条 請願権:聞いてもらう権利です。国の義務は、受理して誠実に処理するところまでです。
  • 32条 裁判を受ける権利:判断してもらう権利です。裁判所は、裁判を拒めません。
  • 17条 国家賠償請求権:違法な損害を償わせる権利です。故意・過失と違法という要件が要ります。
  • 40条 刑事補償請求権:適法でも償わせる権利です。公務員に落ち度が無くても成り立ちます。

注意「法律の定めるところにより」という一句は、17条と40条にあり、16条と32条にはありません。

この一句がある権利は、法律が中身をほとんど無いに等しく絞ったとき、どうなるのかが問題になります。

請願権(16条)

受益権の一段目は、国に聞いてもらう権利です。
請願権は、誰に、どこまでの権利を保障しているのでしょうか。

入口の広さと出口の軽さ

請願権の入口と出口の表(入口=何人も・広い事項・要件は平穏にのみ/出口=受理し誠実に処理する義務にとどまり、調査・審判・処理報告の法的義務は無い)

結論入口の広さと出口の軽さは、セットになっています。

理由入口を誰にでも開けたまま出口まで重くすると、機関はその処理だけで埋まってしまうからです。

注意「誠実に処理する義務」の根拠は、憲法ではなく請願法5条です。

16条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、損害の救済、公務員の罷免、法律、命令又は規則の制定、廃止又は改正その他の事項に関し、平穏に請願する権利を有し、何人も、かかる請願をしたためにいかなる差別待遇も受けない。

5条|請願法この法律に適合する請願は、官公署において、これを受理し誠実に処理しなければならない。

もう一つの顔(参政権的な役割)

結論請願権は受益権に分類されますが、参政権的な役割もあわせ持ちます。

国民が政治的な意思を表明する手段になるからです。

具体例選挙権を持たない外国人や18歳未満の人は、投票はできません。

しかし、「この交差点に信号を付けてほしい」と市に請願することはできます。

注意一つの権利が二つの側面を持つので、分類には限界があります。

明治憲法の請願権

明治憲法30条の条文(日本臣民ハ相当ノ敬礼ヲ守リ別ニ定ムル所ノ規程ニ従ヒ請願ヲ為スコトヲ得)

定義法律の留保とは、法律さえあれば権利を削れる仕組みです。

結論明治憲法にも請願権は一応ありましたが、権利というよりお目こぼしに近い建前でした。

理由条文に、次の2つの縛りがあったからです。

  • 相当ノ敬礼ヲ守リ:敬意を払って願い出よ、という条件が付いていました。
  • 別ニ定ムル所ノ規程ニ従ヒ:請願のやり方そのものが、憲法の外の規程に預けられていました(法律の留保の形)。

裁判を受ける権利(32条):意義と「奪はれない」

請願権は、入口が広い代わりに出口が軽い権利でした。
二段目の裁判を受ける権利は、何を保障しているのでしょうか。

意義と明治憲法との比較

裁判を受ける権利の意義と明治憲法下の状況の表(意義=人権が絵に描いた餅で終わらないための最後の砦/明治憲法下=行政事件は行政裁判所という別系列・出訴事項も限定で国を訴えられなかった)

結論裁判を受ける権利は、人権が絵に描いた餅で終わらないための、最後の砦です。

理由他のすべての人権は、争いになったとき、裁判所が判断しなければ紙の上の言葉で終わってしまうからです。

注意明治憲法にも一応ありましたが、実質的な保障はきわめて不十分でした。

明治憲法24条の条文(日本臣民ハ法律ニ定メタル裁判官ノ裁判ヲ受クルノ権ヲ奪ハルヽコトナシ)

「奪はれない」の意味

結論32条は「有する」ではなく「奪はれない」という禁止の形です。

裁判所は、裁判を拒めません。

注意ただし、却下はできます。

訴えの要件を満たしていない、という判断も、判断のうちだからです。

  • 保障しないもの:必ず勝てることや、必ず本案の判断が出ることは保障しません。
  • 禁じるもの:一度も判断されないこと自体を禁じる権利です。

32条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。

37条1項との関係

定義37条1項は、刑事被告人に、公平な裁判所・迅速な裁判・公開の裁判を受ける権利を保障します。

結論32条は、民事も刑事も含めた土台です。

37条1項は、そのうち刑事の場面だけに足された特則です。

37条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。

32条の「裁判」の範囲(訴訟事件と非訟事件)

32条は、一度も判断されないことを禁じる権利です。
では、32条にいう「裁判」は、どこまでの裁判を指すのでしょうか。

訴訟事件と非訟事件

訴訟事件と非訟事件の対比表(訴訟事件=公開の法廷・対審・判決/非訟事件=非公開・対審によらない・決定)

定義対審とは、両当事者が向き合って主張を戦わせる形式です。

具体例遺産の分け方について相続人の話し合いがまとまらないとき、家庭裁判所に決めてもらう手続は、非訟事件の典型です。

純然たる訴訟事件に限る(大法廷の決定)

事案調停に代わる裁判(強制調停)のような非訟事件の裁判が、32条の「裁判」にあたるかが争われました。

結論32条の「裁判」は、82条の「裁判」と同じ意味です。

  • 範囲:性質上純然たる訴訟事件について、当事者の権利義務の存否を確定するような裁判をいいます。
  • 非訟事件:その裁判を受ける権利は、法律上の権利にとどまり、32条が保障した人権ではありません。

条文82条は、裁判の対審と判決を、公開の法廷で行うことを求めています。

理由公開の法廷で対審を経るという重い手続は、権利義務を終局的に確定する場面のために用意されたものだからです。

決定は、純然たる訴訟事件の裁判は、公開の原則の下での対審と判決によるべきだと述べています。

注意学説は、非訟事件の裁判も32条の「裁判」にあたるとして、有力に反対しています。

三十二条の「裁判」の範囲非訟事件の裁判が三十二条の裁判にあたるかが争われた大法廷決定憲法は三二条において、何人も裁判所において裁判を受ける権利を奪われないと規定し、八二条において、裁判の対審及び判決は、対審についての同条二項の例外の場合を除き、公開の法廷でこれを行う旨を定めている。即ち、憲法は一方において、基本的人権として裁判請求権を認め、何人も裁判所に対し裁判を請求して司法権による権利、利益の救済を求めることができることとすると共に、他方において、純然たる訴訟事件の裁判については、前記のごとき公開の原則の下における対審及び判決によるべき旨を定めたのであつて、これにより、近代民主社会における人権の保障が全うされるのである。

82条|第六章 司法(76〜82条)1項:裁判の対審及び判決は、公開法廷でこれを行ふ。2項:裁判所が、裁判官の全員一致で、公の秩序又は善良の風俗を害する虞があると決した場合には、対審は、公開しないでこれを行ふことができる。但し、政治犯罪、出版に関する犯罪又はこの憲法第三章で保障する国民の権利が問題となつてゐる事件の対審は、常にこれを公開しなければならない。

訴訟の非訟化

定義訴訟の非訟化とは、従来は訴訟事件だった事件を、法律の改正で非訟事件として扱い直す動きです。

事件の性質は変わらず、扱い方だけが変わります。

具体例貸した土地の地代の金額をめぐる争いは、法律の定め方によって、非訟の手続で扱われることがあります。

注意判例の立場を突き詰めると、立法者は非訟化するだけで、事件を32条の保障の外に出せることになります。

条文に「法律の定めるところにより」が無くても、法律が保障の範囲を動かせてしまうのです。

学説が有力に反対するのは、この危うさがあるからです。

三審制(32条の射程)

32条の「裁判」は、純然たる訴訟事件に絞られています。
では、何回裁判を受けられるかまで、32条は保障しているのでしょうか。

三審制と32条の射程の表(保障するもの=裁判所で裁判を受けられること・一度も判断されないことを禁じる/保障しないもの=何回受けられるか・審級の数は立法政策)

三審制は立法政策

結論判例は、三審制を立法政策の問題とし、32条による保障を否定していると解されています。

具体例民事訴訟法が、最高裁判所に上告できる理由を制限していることも、32条に違反しないとされています。

注意一度も判断されないことは32条が禁じます。

二度目・三度目があるかは、法律の設計に委ねられています。

請願権との対比(入口と出口)

結論32条は、請願権と逆向きの作りです。

  • 請願権:入口が広く(何人も・広い事項)、出口が軽い(受理し誠実に処理する義務まで)。
  • 32条:出口が重く(裁判を拒めない)、入口が狭い(純然たる訴訟事件)。

注意32条が保障するのは、入口(裁判所で裁判を受けられること)です。

入口をくぐった後の回数までは、保障していません。

国家賠償請求権(17条):新しい権利

三段目は、違法な損害を国に償わせる権利です。
17条は、どのような性格の権利とされているのでしょうか。

明治憲法から17条への転換の表(明治憲法下=国家賠償の規定なし・限られた民法709条以下のみで国家無答責の建前/17条=新しい権利・具体化する法律があって初めて裁判所を動かせる抽象的権利)

明治憲法と国家無答責

定義国家無答責とは、国は間違えても責任を負わない、という建前です。

結論明治憲法には国家賠償請求権の規定が無く、これを認める独立した法律もありませんでした。

ごく限られた場合に、民法の不法行為の規定で損害賠償を求められるにとどまりました。

注意だから、17条は新しい権利です。

17条の法的性格(抽象的権利)

定義権利の強さは、3段階で整理されます。

  • 具体的権利:それだけで裁判所を動かせる権利です。
  • 抽象的権利:具体化する法律があって初めて、裁判所を動かせる権利です。
  • プログラム規定:国の目標を示すだけの規定です。

結論有力な見解は、17条を抽象的権利と位置づけます。

17条だけでは、まだ裁判規範性が認められません。

具体化する法律が、国家賠償法です。

注意この3段階と、第1節の「強さ」の並びは、別の物差しです。

  • 3段階:一つの権利が、それだけで裁判所を動かせるかの強さです。
  • 第1節の並び:4つの条文が、国に何を義務づけるかの重さです。

郵便法違憲判決白紙委任ではない憲法17条は、「何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。」と規定し、その保障する国又は公共団体に対し損害賠償を求める権利については、法律による具体化を予定している。

17条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、公務員の不法行為により、損害を受けたときは、法律の定めるところにより、国又は公共団体に、その賠償を求めることができる。

国家賠償法1条(要件と公務員個人の責任)

17条は、国家賠償法によって具体化される抽象的権利です。
国家賠償法は、どのような要件で、誰に賠償責任を負わせているのでしょうか。

国家賠償法1条の表(要件=故意又は過失によって違法に損害を加えたとき/公務員個人は被害者に対し直接の賠償責任を負わないが国からの求償はありうる/理由=職務の萎縮を防ぐ・資力のある国から取れるほうが救済が厚い)

要件(故意又は過失・違法)

結論1条1項の要件の中心は、「故意又は過失」と「違法」です。

注意予防接種の被害のように、実施した公務員に故意や過失があったと言いにくい場面があります。

そこで救済の谷間を作るのが、この2つの要件です。

1条|国家賠償法1項:国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。2項:前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。

公務員個人の責任

事案公務員の職務行為を理由に、公務員個人の賠償責任が争われました。

結論職務行為を理由とする国家賠償の請求では、国または公共団体が賠償の責任を負います。

  • 行政機関としての地位:公務員は、この地位において賠償の責任を負いません。
  • 個人:公務員個人も、その責任を負いません。

理由2つの理由があります。

  • 職務の萎縮を防ぐ:違法かどうか際どい判断を迫られる仕事ほど、動けなくなってしまいます。
  • 救済が厚い:被害者にとっても、資力のある国から確実に取れるほうが有利です。

注意国や公共団体から公務員への求償は、2項により残ります(故意又は重大な過失のとき)。

公務員をかばう規定ではなく、被害者の救済と公務の遂行を両立させる設計です。

公務員個人の責任最高裁判所第三小法廷判決公務員個人の責任が争われた判例右請求は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すべきであるから、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また公務員個人もその責任を負うものではない。

郵便法違憲判決(白紙委任ではない)

17条の具体化は、法律に委ねられています。
では、法律が国の責任をほとんど負わない仕組みにしたとき、17条は何ができるのでしょうか。

事案

事案郵政民営化より前の郵便法は、郵便物の事故について、国の損害賠償責任を免除・制限していました。

  • 差押命令:お金を貸していた人が、相手の財産を差し押さえるため、裁判所から差押命令を出してもらいました。
  • 送達の失敗:命令書は、特別送達で相手のお金を預かっている側に届けるはずでした。しかし郵便局の職員が、郵便局内の私書箱に入れたため、送達が遅れました。
  • 請求:差押えの目的を達せられず、国に損害賠償を求めました(民事の事件)。
  • 争点:賠償責任を免除・制限する郵便法の規定が、17条に違反しないかです。

17条が立法府に委ねたもの

結論17条は、損害賠償を求める権利について、法律による具体化を予定しています。

  • 原則:国又は公共団体が、公務員の行為による不法行為責任を負うことを原則とします。
  • 委任:どのような行為に、いかなる要件で責任を負わせるかは、立法府の政策判断にゆだねています。
  • 限界:立法府に無制限の裁量権を与える、白紙委任を認めているものではありません。

理由公務員の行為は、権力的な作用から非権力的な作用にまで及び、国民へのかかわり方が多様だからです。

具体例窓口での誤った説明、許可を出すかどうかの判断、警察官の現場の対応などです。

注意「委任」と「白紙委任」は違います。

制度設計の中身は法律に任せられますが、責任をほとんどゼロにしてよいという判断までは任されていません。

判断枠組み

郵便法違憲判決の判断枠組みの表(考慮要素=①当該行為の態様②侵害される法的利益の種類及び侵害の程度③免責又は責任制限の範囲及び程度等/これらに応じ目的の正当性と手段の合理性及び必要性を総合的に考慮)

結論判断は、「目的は正しいか」「手段は目的に見合っているか」の二段構えです。

あてはめ(書留と特別送達)

書留郵便物と特別送達郵便物のあてはめの表(書留=故意・重大な過失の場合の免責が違憲、理由は例外的にしか起きないから/特別送達=軽過失の場合まで違憲、理由は裁判の手続そのものを担う郵便だから)

定義特別送達郵便物とは、書留郵便物の一種で、民事訴訟法上の送達の方法として使われる郵便です。

結論目的の正当性は認め、手段の点で違憲としました。

  • 目的:安い料金であまねく公平に郵便の役務を提供するため、賠償責任が過大になって料金の値上げにつながるのを防ぐことです。
  • 書留:故意又は重大な過失による損害について、国の責任を免除・制限している部分は、違憲・無効です。
  • 特別送達:軽過失による損害について、国の責任を免除・制限している部分も、違憲・無効です。

理由それぞれ、次のとおりです。

  • 書留:故意や重大な過失による損害は例外的にしか起きないので、そこまで責任を制限しなければ目的を達成できないとは言えません。
  • 特別送達:軽い過失による賠償責任まで認めても、目的の達成は害されません。

注意どちらも違憲ですが、免責が許される幅が違います。

  • 書留:軽い過失までなら、なお免責してよい(その部分は合憲)。
  • 特別送達:軽い過失すら免責できません。
  • ふつうの郵便:責任を制限すること自体を違憲としたわけではありません。

郵便法違憲判決あてはめ(書留・特別送達)【要旨1】法68条、73条の規定のうち、書留郵便物について、郵便業務従事者の故意又は重大な過失によって損害が生じた場合に、不法行為に基づく国の損害賠償責任を免除し、又は制限している部分は、憲法17条が立法府に付与した裁量の範囲を逸脱したものであるといわざるを得ず、同条に違反し、無効であるというべきである。

特別送達と32条のつながり

特別送達と32条のつながりのフロー図(特別送達=裁判の手続そのものを担う郵便→届かないと当事者は訴訟が起きていることすら知らないまま権利を失いうる→裁判を受ける権利が事実上奪われることに直結)

結論判断枠組みの「侵害される法的利益の種類及び程度」が、実際に働いた場面です。

失われる利益が重い順に、免責してよい幅が狭くなります。

これが、この判決の射程です。

具体例特別送達は、訴状や判決の正本を当事者に確実に届けるための郵便です。

注意法律に委ねられた領域でも、その法律が憲法の下限を割れば、法律のほうが倒れます。

これが、「法律の定めるところにより」という一句の限界です。

刑事補償請求権(40条)

17条の国家賠償には、故意・過失と違法という要件が要りました。
四段目の刑事補償請求権は、落ち度が無い場合にも、なぜ償いを認めるのでしょうか。

17条との対比

17条と40条の対比表(要件=17条は故意又は過失と違法が要る・40条は要らず適法でもよい/理由=17条は違法な公権力の行使による損害を償わせる・40条は適法な手続でも拘束の事実は消えないので社会全体で負担を分かち合う)

結論40条には、公務員の故意・過失や違法という要件が要りません。

40条を具体化する法律は、刑事補償法です。

理由適法に逮捕・勾留し、適法に起訴しても、無罪なら身柄を拘束された事実は消えません。

その負担を、社会全体で引き受けるのが40条です。

注意29条3項の正当な補償と同じ発想です(「特別の犠牲」を社会で分かち合う)。

40条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。

29条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)3項:私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

「無罪の裁判」の意味

「無罪の裁判」にあたらない例の表(少年審判の保護処分に付さない旨の決定・免訴の判決・公訴棄却の判決と決定/それでも法律上は補償が及びうる〈刑事補償法25条等〉/憲法は下限であって上限ではない)

定義「無罪の裁判」とは、刑事訴訟の手続のなかで、無罪が確定した裁判です。

少年審判の不処分決定(小法廷の決定)

事案7日間身柄を拘束された人が、非行事実が認められないとして、少年審判で保護処分に付さない決定を受けました。

この決定が、刑事補償法1条1項の「無罪の裁判」にあたるかが争われました。

結論非行事実が認められないことを理由とする不処分決定でも、刑事補償法1条1項の「無罪の裁判」には当たりません。

このように解しても、憲法40条及び14条に違反しません。

理由次の2点からです。

  • 手続の性質:不処分決定は、刑訴法上の手続とは性質を異にする、少年審判の手続における決定です。
  • 効力:その事件について、刑事訴追をし、又は家庭裁判所の審判に付することを妨げる効力を持ちません。

注意判断したのは、40条そのものではなく、40条を具体化した刑事補償法1条1項の文言です。

少年審判の決定非行事実が認められないことを理由とする不処分決定と刑事補償刑事補償法一条一項にいう「無罪の裁判」とは、同項及び関係の諸規定から明らかなとおり、刑訴法上の手続における無罪の確定裁判をいうところ、不処分決定は、刑訴法上の手続とは性質を異にする少年審判の手続における決定である上、右決定を経た事件について、刑事訴追をし、又は家庭裁判所の審判に付することを妨げる効力を有しないから、非行事実が認められないことを理由とするものであっても、刑事補償法一条一項にいう「無罪の裁判」には当たらないと解すべきであり、

14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

免訴・公訴棄却

定義2つの裁判は、次のとおりです。

  • 免訴:時効が完成したときなどに、有罪か無罪かに立ち入らないまま手続を打ち切るものです。
  • 公訴棄却:起訴の手続そのものに不備があったときなど、中身に入らずに打ち切るものです。

結論免訴の判決も、公訴棄却の判決・決定も、「無罪の裁判」にはあたりません。

注意罪に問われずに終わる点では似ていますが、無罪の裁判ではありません。

  • 補償の可能性:これらの場合でも、刑事補償法の規定により、補償が及ぶことがあります。
  • 取り違え:「40条の権利ではない」と「補償されない」は、同じではありません(短答で注意)。

憲法は下限であって上限ではない

結論憲法は下限であって、上限ではありません。

法律が、憲法の保障の外側にまで救済を広げることは許されます。

注意非訟化・三審制・郵便法は、法律が憲法の保障を削る方向の場面でした。

刑事補償では逆に、法律が救済を広げています。

「抑留又は拘禁」の実質判断

40条の補償には、「抑留又は拘禁」と「無罪の裁判」の両方が要ります。
では、拘束の理由になった事実と、無罪になった事実が別のとき、補償は受けられるのでしょうか。

抑留又は拘禁

定義「抑留又は拘禁」とは、逮捕に引き続く身柄拘束です。

別の被疑事実の取調べに利用された拘束(大法廷の決定)

事案ある被疑事実で逮捕・勾留中に、令状に記載されていない他の被疑事実が取り調べられました。

前者の事実は不起訴になり、後者の事実は起訴された後、無罪の裁判を受けました。

結論無罪となった事実の取調べが、不起訴事実の逮捕・勾留を利用してなされたと認められる場合があります。

そのときは、実質上無罪事実についての拘束と認められるその部分も、40条の「抑留又は拘禁」に含まれます。

理由実質的に考察すれば、各事実につき別々に逮捕・勾留して取り調べた場合と、区別すべき理由がないからです。

抑留又は拘禁の実質判断の表(窃盗の方=逮捕・勾留の理由で抑留拘禁あり・不起訴で無罪の裁判なし/殺人の方=逮捕・勾留の理由ではなく抑留拘禁なし・無罪確定/殺人の方の取調べが窃盗の方の拘束を利用してなされたと認められるとき、その拘束も抑留又は拘禁に含まれる)

具体例窃盗の方で逮捕・勾留され、その最中に殺人の方も取り調べられた場合です。

窃盗の方は不起訴、殺人の方は起訴されて無罪が確定したとします。

注意形式どおりに切り分けると、どちらの事実も単独では40条の要件を満たしません。

  • 窃盗の方:抑留・拘禁はありますが、無罪の裁判がありません。
  • 殺人の方:無罪の裁判はありますが、抑留・拘禁がありません。

判例は、形式ではなく実質で読み直し、救済されるべき人を落とさないようにしています。

憲法四十条の「抑留又は拘禁」不起訴事実による拘束が、無罪事実の取調べに利用された場合或る被疑事実により逮捕または勾留中、その逮捕状または勾留状に記載されていない他の被疑事実につき取り調べ、前者の事実は不起訴となつたが、後者の事実につき公訴が提起され後無罪の裁判を受けた場合において、その無罪となつた事実についての取調が、右不起訴となつた事実に対する逮捕勾留を利用してなされたものと認められる場合においては、これを実質的に考察するときは、各事実につき各別に逮捕勾留して取り調べた場合と何ら区別すべき理由がないものといわなければならない。

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