憲法ゼロから憲法#17

プライバシー権と自己情報コントロール権

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プライバシー権の根拠(13条後段)

新しい人権の読み込み

結論13条後段の「生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利」から、条文に名前の無い権利も読み込めます。

ただし無限定ではなく、人格的生存に不可欠な利益に絞ります。

具体例13条から取り出された権利には、撮影されない自由があります。

同じ13条から読み込まれた、もっと大きな権利がプライバシー権です。

13条第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

「宴のあと」事件(プライバシー権の出発点)

プライバシー権は、13条後段から読み込まれる権利です。
では、その出発点となる定義は、どの事件で示されたのでしょうか。

事案と結論

事案都知事選挙に立候補して落選した経験を持つ人物(A)が、自分をモデルにした小説を発表されました。

Aは、私生活の細部まで公開されたとして、小説を書いた作家と出版社(B)を訴えました。

結論東京地方裁判所は、プライバシー侵害を認め、損害賠償の支払いを命じました。

注意第一審(下級審)の判決で、上級審の確定判決はありません。

  • 最高裁ではない:「初めてプライバシー権を認めた判例」と紹介されますが、東京地裁の判決です。
  • 和解で終了:Bの側が控訴しましたが、途中でAが亡くなり、双方の間で和解が成立しました。
  • 今も出発点:定義を上書きする上級審の判断が無いまま、第一審の定義が今も参照されています。

最初の定義

定義プライバシー権とは、私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利です。

「公開されない」ことが中心です。

侵害の3要件

結論侵害が認められるには、公開された内容が、次の3つをすべて満たすことが必要です。

  • 私事性:私生活上の事実または事実らしく受けとられるおそれのあることがらであること。
  • 秘匿性:一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められることがらであること。
  • 非公然性:一般の人々に未だ知られていないことがらであること。

理由公開された「内容」そのものの性質から、法が乗り出す場面を切り出すためです。

3つがそろって初めて、公開による不利益が、裁判で救うに値する重さになります。

注意次の2点に気をつけます。

  • 秘匿性の基準:本人だけの感じ方ではなく、一般人を基準にします。
  • 非公然性の限界:一度世の中に知られてしまった情報は、この物差しでは守りにくくなります。

「宴のあと」事件第一審東京地方裁判所判決プライバシー権、最初の定義私生活をみだりに公開されないという法的保障ないし権利。侵害が認められるには、公開された内容が、私生活上の事実または事実らしく受けとられるおそれのあることがら(私事性)、一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められることがら(秘匿性)、一般の人々に未だ知られていないことがら(非公然性)であることを要する。

足りなくなった理由①(公開だけが問題ではない)

出発点の定義は、私生活をみだりに公開されない権利でした。
では、公開さえされなければ、それで十分なのでしょうか。

足りなくなった理由①の流れ(公開さえ止めれば足りた→集められるだけでは守られない場面→公開だけでなく取得・利用も本人の意思に反してはならない)

結論公開だけでなく、取得・利用の段階から、本人の意思に反してはならないと考えます。

守るべき行為の種類が、公開から取得・利用にまで広がりました。

理由社会が変わり、大量の個人情報が集められ、利用される時代になったからです。

「宴のあと」事件の時代は、公開さえ止められれば十分だと考えられていました。

具体例買い物の履歴や通院の記録が、知らないところで集められている場合です。

まだ公開されていない以上、最初の定義では守られません。

足りなくなった理由②と自己情報コントロール権

理由①は、守るべき行為が取得・利用にまで広がったことでした。
では、公開をやめさせるだけでは足りない場面とは、どのような場面でしょうか。

足りなくなった理由②の流れ(やめさせるだけの自由権的・消極的な権利→閲読・訂正・抹消も求める社会権的・積極的な側面→統合して自己情報コントロール権)

理由②(消極的な働きから積極的な働きへ)

結論公開をやめさせるだけでなく、自分の情報の閲読・訂正・抹消を求める働きも必要です。

  • 自由権的・消極的:公開をやめさせる働きです。
  • 社会権的・積極的:自分の情報を読ませてもらい、間違っていれば訂正させ、必要なら消させる働きです。

理由行政機関などに、個人情報が集中管理される時代になったからです。

「公開されない権利」は、公開をやめさせる権利にすぎません。

具体例自分についての間違った情報が、すでに広まっている場合です。

やめさせるだけでは、広まった情報を直させることができません。

自己情報コントロール権

定義プライバシー権は、自己に関する情報をコントロールする権利と定義し直されます(自己情報コントロール権)。

理由①と理由②を統合した定義です。

結論これが、今の通説の到達点です。

取得・利用も含め、消極的にも積極的にも、自分の情報を自分でコントロールします。

具体例第3節と本節の場面は、どちらも保障の入口に入ります。

  • 収集の場面:買い物の履歴や通院の記録は、まだ公開されていなくても入ります。
  • 誤情報の場面:すでに広まった間違った情報も、訂正・抹消を求める側面で入ります。

注意次の2点に気をつけます。

  • 入口と保障:入口に入ることと、実際に守られることは別です。どこまで制限してよいかは、第8節の審査の問題です。
  • 学説と判例:これは学説の到達点です。最高裁がこの言葉を正面から使ったとまでは、言い切れません。

具体化のかたち(個人情報保護法とレセプト訴訟)

自己情報コントロール権は、学説がたどり着いた考え方です。
では、この考え方は、法律や裁判ではどのような形になっているのでしょうか。

個人情報保護法

結論個人情報保護法は、自分の情報について、訂正などを求める権利を定めています。

理由憲法上の権利は、それだけでは手続が決まっていません。

個人情報保護法が手続を整え、憲法上のプライバシー権を実際に使える形にしています。

注意以前は、行政機関向けの法律と民間向けの法律が別々にありました。

今は、一本の法律にまとめられています。

レセプト訴訟

定義情報公開制度とは、国や自治体に、持っている文書を出させる開示請求の仕組みです。

事案レセプト(医療費の明細)について、本人が自分に関する情報の開示を求めました。

結論最高裁は、情報公開制度を使って、自分についての情報の開示を求めることを認めました。

理由自分に関する情報も、行政が持つ文書の中にあるからです。

個人情報のための制度が無くても、文書を開かせる一般の仕組みに乗せれば取り出せます。

注意個人情報保護の制度がまだ整っていなかった時期の判断です。

今は制度が整っているので、位置づけが違います。

保障範囲(固有情報と外延情報)

プライバシー権が何を目指す権利かは、定まりました。
では、自分に関する情報のうち、どこまでが保障の対象になるのでしょうか。

プライバシー固有情報(政治的・宗教的信条、心身の基本情報・犯罪歴など=道徳的自律に直接かかわる)とプライバシー外延情報(氏名・生年月日、住所・税情報など=直接はかかわらない個別的情報)の対比表

固有情報

定義プライバシー固有情報とは、個人の道徳的自律に直接かかわる情報です。

結論固有情報は、当然に保障の対象に含まれます。

理由人格の核心に、直接かかわる情報だからです。

注意13条の「人格的生存に不可欠」と同じ発想を、2つの段で使っています。

  • 入口:そもそも権利として認めるかどうかを分けます。
  • 権利の中:認めた権利の中で、どの情報が中心かを分けます。

外延情報

定義プライバシー外延情報とは、道徳的自律には直接かかわらない個別的な情報です。

外延情報も含めるかは、第7節で見ます。

外延情報も含める理由(マスターキー・索引情報論)

固有情報は、当然に保障の対象に含まれます。
では、氏名や生年月日のような外延情報も、保障の対象になるのでしょうか。

マスターキー・索引情報論の流れ(忘年会名簿の氏名と生年月日→外部データベースと組み合わせる→通院記録・借入状況など重い情報の束に到達できる)

結論通説は、外延情報も保障の対象に含めます。

理由外延情報は、単体では要保護性が低く見えても、固有情報の束にたどり着くとして機能するからです。

この働きを、マスターキーあるいは索引情報と呼びます。

具体例会社の忘年会の参加者名簿に、名前と生年月日だけが書かれている場合です。

  • 名前と生年月日:他のデータベースで本人を特定する鍵として使われ、通院の記録や借り入れの状況にたどり着けます。
  • 会場の名前・参加人数:誰か一人に結びつかないので、「自分に関する情報」ではなく、プライバシー権の外側です。

注意単体の要保護性の低さは、保障の対象外になる理由にはなりません。

内と外の線は、個人に結びつくかどうかです。

審査基準のセレクト

保障の範囲は、固有情報と外延情報の両方に及びます。
では、プライバシー権が制限されたとき、審査の強さはどう選ぶのでしょうか。

審査基準のセレクト(厳格・中間・合理性のどの目盛りを当てるかを、人格的関連性の程度と情報システムが構築される可能性の2要素で選ぶ)

結論厳格・中間・合理性のどれを当てるかを、次の2要素で選びます。

  • 人格的関連性の程度:その情報が、個人の道徳的自律にどれだけ強くかかわるか。
  • 情報システムが構築される可能性:その情報をもとに、情報システムが作られる可能性がどれだけあるか。

理由どの人権でも、制限する側にどれだけ重い説明を求めるかを決める場面だからです。

具体例同じ「自分の情報」でも、2つの要素は別々に動きます。

  • 氏名と生年月日:人格的関連性は低いですが、鍵として使われるので、情報システムが作られる可能性は高いです。
  • 通院の記録:人格的関連性そのものが高いです。

注意精神的自由と経済的自由という大きな束で振り分けるのとは、段階が違います。

この権利では、もう一段細かく、情報そのものの性質で選びます。

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