憲法ゼロから憲法#19

「忘れられる権利」

憲法の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→

問い:昔の逮捕の記事に、名前で検索すると今もたどり着ける。本人は検索事業者に、その検索結果を消させることができるか。

骨組み

  1. 1検索結果削除仮処分事件の事案と手続(最決平29・1・31):児童買春で逮捕・罰金 → 県名+氏名で検索すると記事のURL等情報が出る → 人格権ないし人格的利益に基づき削除の仮処分を申立て。最高裁は抗告棄却=削除を認めなかった。裁判の形式は決定
  2. 2決定の出発点:「プライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は、法的保護の対象」=前科照会事件など最高裁の判例を参照して入る。憲法の条文(・)は引いていない
  3. 3ア 検索結果の提供の性質:プログラムで自動的に行われるものの、プログラムは事業者の方針に沿った結果を得るよう作られている → 検索事業者自身による表現行為という側面
  4. 4イ 削除が何を制約するか:検索はインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割 → 削除は①表現行為の制約であるうえ ②その役割に対する制約でもある(二重の制約)
  5. 5ウ 削除を求める要件:ア・イの「性質等を踏まえると」→ ①事実の性質・内容 ②伝達範囲と具体的被害の程度 ③社会的地位や影響力 ④記事等の目的や意義 ⑤掲載時の社会的状況とその後の変化 ⑥記載する必要性「など」(例示)を比較衡量 → 公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に削除を求めることができる。各要素の向きは決めていない
  6. 6エ あてはめ:プライバシーに属する事実ではあるが、児童買春の性質(性的搾取・虐待・強い非難・罰則)に照らし今なお公共の利害に関する事項/県名+氏名の検索結果の一部 → 伝達範囲はある程度限られた/妻子との生活・就労を考慮しても → 優越が明らかとはいえない
  7. 7「忘れられる権利」という言葉:さいたま地裁(保全異議審)が言及して仮処分を認可 → 東京高裁は認可決定と仮処分命令を取り消し、この語の実体は名誉権ないしプライバシー権に基づく差止請求権と異ならないとして、独立して判断しなかった → 最高裁はこの語を使わず、既にある「プライバシーに属する事実を公表されない法的利益」の比較衡量で処理
  8. 8ツイッター投稿削除請求事件(最判令4・6・24):原審の「明らかな場合に限る」を否定 → 公表されない法的利益が一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合に削除を求められる → 削除認容が確定。裁判の形式は判決。限定を外した理由は判決に書かれていない

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます(押せるのは日本国憲法の条文だけ。刑法などの条文番号は文字のまま)。最決=最高裁の決定、最判=最高裁の判決。平29決定の引用の読点「,」は原文の表記。この回の2つの判断は、どちらも私人(事業者)を相手にした人格権に基づく削除請求で、法律の違憲審査ではない。短答は「判例が何と言ったか」と「その読み方」を分けて問うので、決定文に書かれたことと書かれていないことを混ぜない。本文の「(説明)」は背景や用語の説明、「(読み)」は判決文に書かれていない解釈。

1事案と手続(最決平29・1・31)判例

  • 抗告人は、児童買春をしたとの被疑事実で逮捕され、罰金刑に処せられた。逮捕の事実は逮捕当日に報道され、その内容の全部または一部が電子掲示板に多数回書き込まれた。
  • 相手方は検索事業者。利用者が抗告人の居住する県の名称と氏名を条件に検索すると、書き込みのあるウェブサイトのURL・表題・抜粋(URL等情報)が検索結果として表示される。
  • 抗告人は、人格権ないし人格的利益に基づき、検索結果の削除を求める仮処分命令を申し立てた。人格権=名誉やプライバシーのように、その人の人格に結びついた利益を守る権利。
  • (説明)仮処分=本来の裁判(本案の訴訟)の結論を待たずに、裁判所が出す仮の命令。その手続での裁判所の判断は決定の形で出る。本案の訴訟で最高裁が出すのは判決。
  • (説明)なぜ発信元ではなく検索事業者を相手にするか:元の書き込みをした人は特定が難しいことが多い。書き込みが残っていても、検索で出てこなければ実際には見つかりにくくなる。
  1. さいたま地裁:削除の仮処分命令を出す
  2. さいたま地裁(保全異議審=検索事業者の異議の審理):仮処分命令を認可。「忘れられる権利」に言及
  3. 東京高裁(保全抗告審=原審):認可決定と仮処分命令を取り消し、申立てを却下
  4. 最高裁(最決平29・1・31):申立てを却下した原審の判断を是認 → 抗告棄却=削除は認められなかった
  • 抗告人の申立てを却下した原審の判断は,是認することができる。
  • 平29は仮処分の申立てについての許可抗告に対する決定、令4(項目8)は本案の訴訟の上告受理申立て(受理後の上告)に対する判決。手続の違いで、先例としての重みの差ではない。
×にされやすい形
  • 「最高裁は、検索結果削除仮処分事件において、検索結果の削除を認めた」(抗告棄却=削除は認められなかった)
  • 「最高裁は、保全異議審(さいたま地裁)の判断を是認した」(是認したのは、申立てを却下した原審=東京高裁の判断)
  • 「検索結果削除仮処分事件は、最高裁の判決である」(決定。判決はツイッター投稿削除請求事件のほう)

2決定の出発点——公表されない利益は法的保護の対象判例

  • 個人のプライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は,法的保護の対象となるというべきである
  • この文の直後の括弧の中で参照されているのは最高裁の5つの判例:前科照会事件(最判昭56・4・14)・ノンフィクション「逆転」事件(最判平6・2・8)・「石に泳ぐ魚」事件(最判平14・9・24)・長良川推知報道事件(最判平15・3・14)・早稲田大学講演会名簿事件(最判平15・9・12)。
  • 決定は憲法の条文を一つも引かない(もも出てこない)。私人である検索事業者に対し、人格権に基づいて削除を求める請求として組み立てている。
  • から読み込まれてきた「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」(住基ネット判決など)と、この決定の「公表されない利益」が同じものかどうかは、決定文からは言えない。
  • (説明)この回の難しさ:プライバシーの保護には、まだ広まっていないこと(非公然性)という要素がある。一度報道され世の中に出た情報は、この要素から外れて守りにくい。ただし平29決定は、報道された逮捕の事実もプライバシーに属する事実と認めている(項目6)。しかも検索エンジンのおかげで、昔の記事に名前を入れるだけでたどり着ける。

出題過去の逮捕歴は、みだりに公表されない利益が保護される個人のプライバシーに属する事実(○)

×にされやすい形
  • 「最高裁は、で保障された権利に基づき、検索結果の削除の可否を判断した」(憲法の条文は引いていない。プライバシーに属する事実を公表されない法的利益・人格権から入る)
  • 「決定は、先例を引かずに新しい権利として公表されない利益を認めた」(前科照会事件などの最高裁判例を参照している)

3ア 検索結果の提供の性質——事業者自身の表現行為判例

  • 決定はまず検索事業者の仕組み(ウェブサイトの情報を網羅的に集めて複製を保存し、索引を作って整理し、条件に合う情報を検索結果として出す)を述べ、そのうえで:
  • この情報の収集,整理及び提供はプログラムにより自動的に行われるものの,同プログラムは検索結果の提供に関する検索事業者の方針に沿った結果を得ることができるように作成されたものであるから,検索結果の提供は検索事業者自身による表現行為という側面を有する。
  • 「自動的に行われるものの」は譲歩(逆接)。機械が勝手にやっているから事業者は関係ない、とはならない。プログラムを作った事業者の方針が結果に出る。

料理サイトが「人気順」の並びをプログラムで自動表示していても、何を「人気」と数えるかはサイトが決めている。並びはサイト自身の選択=表現の一面を持つ。アはこの形の理屈。

出題検索結果の表示は情報の媒介にすぎず、検索事業者自身の表現行為とはいえない(×)

×にされやすい形
  • 「検索結果の提供はプログラムにより自動的に行われるから、検索事業者自身の表現行為とはいえない」(プログラムは事業者の方針に沿うよう作られている=表現行為という側面を有する)
  • 「決定は、検索結果の提供を検索事業者の表現行為そのものであると断定した」(「表現行為という側面を有する」)

4イ 削除が何を制約するか——二重の制約判例

  • また,検索事業者による検索結果の提供は,公衆が,インターネット上に情報を発信したり,インターネット上の膨大な量の情報の中から必要なものを入手したりすることを支援するものであり,現代社会においてインターネット上の情報流通の基盤として大きな役割を果たしている。
  • そして,検索事業者による特定の検索結果の提供行為が違法とされ,その削除を余儀なくされるということは,上記方針に沿った一貫性を有する表現行為の制約であることはもとより,検索結果の提供を通じて果たされている上記役割に対する制約でもあるといえる。
  • イの中心は後半:削除させることは、①アの表現行為の制約であり、②情報流通の基盤という役割の制約でもある。この2つが、次のウの「性質等を踏まえると」で受けられる。
  • (読み)「削除が簡単に認められると、事業者が争いを避けてまず削除するようになる(萎縮)」という説明はよく使われるが、決定文には萎縮の語もその趣旨の説明も無い。決定が挙げた理由は上の2つの制約だけ。

特定の検索結果を消させると、①事業者の「この方針で並べる」という表現が削られ、②みんなが使う情報の通り道も細る。決定は削除を、この2つの制約として数えた。

×にされやすい形
  • 「検索結果の削除は、検索事業者の表現行為の制約にとどまる」(情報流通の基盤としての役割に対する制約でもある)
  • 「決定は、削除を広く認めると検索事業者が萎縮し情報流通が損なわれることを理由に、要件を厳しくした」(萎縮は決定の理由づけに無い。決定が挙げたのは表現行為の制約と役割の制約)

5ウ 削除を求める要件——「明らかな場合」判例

  • 以上のような検索事業者による検索結果の提供行為の性質等を踏まえると,検索事業者が,ある者に関する条件による検索の求めに応じ,その者のプライバシーに属する事実を含む記事等が掲載されたウェブサイトのURL等情報を検索結果の一部として提供する行為が違法となるか否かは,当該事実の性質及び内容,当該URL等情報が提供されることによってその者のプライバシーに属する事実が伝達される範囲とその者が被る具体的被害の程度,その者の社会的地位や影響力,上記記事等の目的や意義,上記記事等が掲載された時の社会的状況とその後の変化,上記記事等において当該事実を記載する必要性など,当該事実を公表されない法的利益と当該URL等情報を検索結果として提供する理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので,その結果,当該事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合には,検索事業者に対し,当該URL等情報を検索結果から削除することを求めることができるものと解するのが相当である。
  • 天秤の両側:一方は公表されない法的利益、他方は検索結果として提供する理由。比べた結果、前者が優越することが明らかでなければ削除は求められない=優越するだけでは足りない。
  • 列挙は「など」で終わる=6つは例示で、これに限られない(たとえば元の記事が既に削除されているか、も比べる事情になりうる。令4判決はこれを考慮した)。
  • 「性質等を踏まえると」はアとイを受け、比較衡量の部分と「明らかな場合には削除を求めることができる」の部分を含む1文全体にかかる。ア・イが比較の材料として効くのか、「明らか」の限定の根拠なのかを、決定は書き分けていない。
  • (読み)検索事業者の側には、表現行為の制約と役割の制約が最初から乗っている、と天秤にたとえて読むことが多い。
検索結果の削除を求める(平29・検索事業者)公表されない法的利益が優越するか6要素など諸事情を比較衡量削除を求められないいいえはい優越することが明らかか平29の限定。令4(ツイッター)はこの問いを置かない削除を求められないいいえはい削除を求めることができる
平29の本件は「優越することが明らかであるとはいえない」とされた(優越するかどうか自体は判断していない)。決定は2つの要件を順に並べてはいない。諸事情を比較衡量した結果、公表されない法的利益の優越が「明らか」なら削除できる、という1文で、図は読む順を2段に分けただけ。令4判決は2段目を置かず、優越すれば削除できるとした。
要素(決定文の語)残す側に効く例消す側に効く例
①当該事実の性質及び内容重く非難され処罰される犯罪=公共の利害(平29)他人にみだりに知られたくない事実(平29もまずそう認める)
②伝達される範囲と具体的被害の程度県名+氏名の検索結果の一部=範囲がある程度限られる(平29)氏名の検索で面識のある者に伝わる可能性(令4)・被害が重い
③社会的地位や影響力現職の議員など公的立場・影響力が大きい公的立場にある者ではない(令4)
④記事等の目的や意義社会に必要な情報を伝える目的単なる興味本位/速報が目的で長く読ませる想定でない(令4)
⑤掲載時の社会的状況とその後の変化今も同じように問題視されている約8年の経過・刑の言渡しの効力消滅・転載元の記事の削除(令4)
⑥記載する必要性その事実を書く必要性が高い書く必要性が低い
  • 決定は、どの要素がどちらの側に効くかを決めていない。同じ要素でも中身しだいで向きが変わる(表は例)。要素の名前で向きを覚えない。

「優越する」と「優越が明らか」の差:天秤が請求者側にわずかに傾いている程度なら、令4の基準では削除できるが、平29の基準では削除できない。差が出るのは「どちらとも言いにくい」事案。

出題公表されない利益と検索結果提供の理由を比較衡量し、前者の優越が明らかなら削除請求できる(○)

×にされやすい形
  • 「検索結果の削除は、公表されない法的利益が提供する理由に優越する場合に認められる」(平29は優越することが明らかな場合)
  • 「比較衡量の要素は、決定が挙げる6つに限られる」(「など」で終わる例示)
  • 「社会的地位や影響力は、削除を求める側に有利な事情として考慮される」(向きは決まっていない。公的立場・影響力が大きければ残す側に効く)
  • 「決定は、表現の自由と情報流通の基盤を理由に、検索結果の削除を一切認めない立場をとった」(明らかな場合には削除を求めることができる)

6エ あてはめ——プライバシーではあるが「明らか」とはいえない判例

  • 児童買春をしたとの被疑事実に基づき逮捕されたという本件事実は,他人にみだりに知られたくない抗告人のプライバシーに属する事実であるものではあるが,児童買春が児童に対する性的搾取及び性的虐待と位置付けられており,社会的に強い非難の対象とされ,罰則をもって禁止されていることに照らし,今なお公共の利害に関する事項であるといえる。
  • また,本件検索結果は抗告人の居住する県の名称及び抗告人の氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると,本件事実が伝達される範囲はある程度限られたものであるといえる。
  • 以上の諸事情に照らすと,抗告人が妻子と共に生活し,前記1(1)の罰金刑に処せられた後は一定期間犯罪を犯すことなく民間企業で稼働していることがうかがわれることなどの事情を考慮しても,本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかであるとはいえない。
  • 「今なお公共の利害」の理由づけは、児童買春という犯罪の性質(性的搾取・性的虐待・強い非難・罰則)が中心。時の経過の長さを理由にしたのではない。決定文は、6要素のどれの話かを書いていない(上の表で①に置いたのは整理のため)。
  • (読み)「今なお」の一語で、時が経っても公共の利害が消えていない、と時の経過にも答えた形。
  • 伝達範囲について決定が言うのは「県名+氏名を条件とした場合の検索結果の一部であることなどからすると」まで。それ以外の検索で出るかは判断していない。
  • 削除が認められなかったのは、プライバシーに属する事実でなかったからではない。決定自身がプライバシーに属する事実と認めたうえで、比較衡量の結果、優越が明らかとまでは言えなかった。権利・利益の存否と、請求の成否を分けて読む。

妻子との生活・就労という更生の事情は、決定も考慮した。それでも「明らか」の壁は越えなかった=この事情だけで削除が決まるわけではない。

×にされやすい形
  • 「逮捕された事実は既に報道されて公知であるから、プライバシーに属する事実とはいえないとして、削除を認めなかった」(プライバシーに属する事実だと認めたうえで、優越が明らかとはいえないとした)
  • 「決定は、逮捕から時間があまり経っていないことを理由に、今なお公共の利害に関する事項であるとした」(理由は児童買春という犯罪の性質)
  • 「決定は、抗告人が妻子と共に生活し就労していることを考慮しなかった」(考慮しても、優越が明らかとはいえないとした)

7「忘れられる権利」という言葉判例

審級「忘れられる権利」の扱い結論
さいたま地裁(保全異議審)この語に言及し、犯罪の性質等にもよるが、ある程度の期間が経った後は過去の犯罪を社会から「忘れられる権利」を有する、とした仮処分命令を認可
東京高裁(保全抗告審=原審)この語を取り上げ、法律上の明文の根拠がなく要件・効果も明らかでないとし、実体は名誉権ないしプライバシー権に基づく差止請求権と異ならない=独立して判断する必要はないとした認可決定と仮処分命令を取消し・申立てを却下
最高裁(最決平29・1・31)この語を使っていない(決定の全文に一度も出てこない)。「プライバシーに属する事実を公表されない法的利益」の比較衡量で処理原審を是認・抗告棄却
  • 最高裁は新しい名前を立てず、既にある枠組み(プライバシーに属する事実をみだりに公表されない法的利益・人格権に基づく削除請求)で処理した。なぜこの語を採らなかったかは、決定文に書かれていない。
  • (読み)公表されない利益という既にある枠組みで処理できたので、新しい名前を立てる必要が無かった。
  • 自分の情報を読ませて・直させて・消させることを憲法上の権利として求める積極的な側面(いわゆる自己情報コントロール権の考え方)を認めるかには、この決定も令4判決も答えていない。2つの削除請求は、人格権に基づき公表されない法的利益を比べる枠組みで判断したもの。
×にされやすい形
  • 「最高裁は、検索結果削除仮処分事件において、いわゆる『忘れられる権利』を認めた」(この語を使わず、公表されない法的利益の比較衡量で処理した)
  • 「『忘れられる権利』に言及したのは最高裁である」(言及したのはさいたま地裁の保全異議審)
  • 「最高裁は、『忘れられる権利』をの幸福追求権の一内容として位置づけた」(語を使っておらず、憲法の条文も引いていない)

8ツイッター投稿削除請求事件(最判令4・6・24)判例

  • 事案:上告人は、旅館の女性用浴場の脱衣所に侵入したとの被疑事実で逮捕され、建造物侵入罪で罰金刑に処せられ納付した。逮捕当日に報道され、同日、報道記事の一部を転載して逮捕の事実を示すツイートがされた(転載元の報道記事は既に削除)。氏名で検索するとツイートが表示される。上告人は、ツイッターを運営する事業者(被上告人)に、人格権ないし人格的利益に基づきツイートの削除を求めた(本案の訴訟)。
  1. 第1審:削除請求を認容 → 運営事業者が控訴
  2. 原審:優越することが「明らかな場合に限られる」として請求を棄却
  3. 最高裁(最判令4・6・24):原判決を破棄し、控訴を棄却=第1審の削除認容が確定
  • 原審は、削除を求められるのは優越することが明らかな場合に限られるとして請求を棄却した。最高裁:
  • そして、ツイッターが、その利用者に対し、情報発信の場やツイートの中から必要な情報を入手する手段を提供するなどしていることを踏まえると、
  • (中略:上告人が人格権に基づきツイートの削除を求めることができるかについて)
  • 本件各ツイートの削除を求めることができるか否かは、本件事実の性質及び内容、本件各ツイートによって本件事実が伝達される範囲と上告人が被る具体的被害の程度、上告人の社会的地位や影響力、本件各ツイートの目的や意義、本件各ツイートがされた時の社会的状況とその後の変化など、上告人の本件事実を公表されない法的利益と本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に関する諸事情を比較衡量して判断すべきもので、その結果、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越する場合には、本件各ツイートの削除を求めることができるものと解するのが相当である。
  • 原審は、上告人が被上告人に対して本件各ツイートの削除を求めることができるのは、上告人の本件事実を公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限られるとするが、被上告人がツイッターの利用者に提供しているサービスの内容やツイッターの利用の実態等を考慮しても、そのように解することはできない。
  • 他方で、本件事実は、不特定多数の者が利用する場所において行われた軽微とはいえない犯罪事実に関するものとして、本件各ツイートがされた時点においては、公共の利害に関する事実であったといえる。
  • しかし、上告人の逮捕から原審の口頭弁論終結時まで約8年が経過し、上告人が受けた刑の言渡しはその効力を失っており(刑法34条の2第1項後段)、本件各ツイートに転載された報道記事も既に削除されていることなどからすれば、本件事実の公共の利害との関わりの程度は小さくなってきている。
  • ほかに、ツイートは逮捕当日に速報することを目的としてされたものとうかがわれ、長く閲覧され続けることを想定したものとは認め難い/特に注目を集めているといった事情はうかがわれないものの、氏名で検索すると表示されるので、面識のある者に伝わる可能性は小さいとはいえない/上告人は公的立場にある者ではない、を挙げて:
  • 以上の諸事情に照らすと、上告人の本件事実を公表されない法的利益が本件各ツイートを一般の閲覧に供し続ける理由に優越するものと認めるのが相当である。
  • 主文:原判決を破棄し、被上告人の控訴を棄却=第1審の削除認容が確定。
  • 限定を外した理由は判決に書かれていない。判決は、ツイッターが情報発信の場・情報を入手する手段を提供していることを踏まえたうえで、サービスの内容や利用の実態等を考慮しても「明らか」の限定は採れないとした=「SNSにはそうした働きが無いから限定が外れた」とは読めない。
  • 令4判決は平29決定を、公表されない利益が法的保護の対象となり人格権に基づき差止めを求められる、という出発点の参照判例として引くが、平29の「明らか」の限定には触れていない(変更したとも書いていない)。検索結果の削除について平29の基準が変わったかどうかは、令4判決からは言えない=相手が検索事業者なら平29、ツイッターなら令4と、事案ごとの判断として覚える。
検索結果削除仮処分事件ツイッター投稿削除請求事件
裁判最決平29・1・31(第三小法廷・決定)最判令4・6・24(第二小法廷・判決)
相手方検索事業者(検索結果の削除)SNSの運営者(ツイートの削除)
出発点プライバシーに属する事実をみだりに公表されない利益は法的保護の対象(人格権に基づく削除請求)
比較の要素①〜⑥「など」(⑥記載する必要性あり)①〜⑤「など」(記載する必要性の項目は無い)
削除できる場合優越することが明らかな場合優越する場合(明らかの限定なし)
時の経過今なお公共の利害に関する事項ツイート時点では公共の利害に関する事実 → 約8年などで関わりが小さくなった
結論抗告棄却(削除できない)原判決破棄・控訴棄却(削除認容が確定)
  • (説明)「明らか」の限定は、請求者に有利な言葉に見えて、実際は請求者に厳しい(優越するだけでは削除できない)。2つの判断の違いの中心は、比較衡量を使うことではなく、この限定の有無(ほかに⑥の有無と、比べる相手方の理由の言い方も違う)。「SNSなら基準が緩い」と一般化せず、2つの判断の書きぶりの違いとして覚える。
  • (説明)相手は国ではなく一つの事業者。「明らか」は、国の行為をどれくらい厳しく審査するかという違憲審査の目盛りとは別物。

出題逮捕報道を引用したSNS投稿は誰でも許され、時が経っても削除請求はできない(×)

×にされやすい形
  • 「最高裁は、ツイッター投稿削除請求事件でも、公表されない法的利益が優越することが明らかな場合に限り削除を求めることができるとした」(明らかの限定を否定し、優越する場合に削除を求められるとした)
  • 「ツイッター投稿削除請求事件で、最高裁は削除請求を退けた」(原判決を破棄し、控訴を棄却=削除認容が確定)
  • 「判決は、ツイッターは情報流通の基盤としての役割を持たないから、明らかの限定は不要であると述べた」(情報発信の場・情報を入手する手段を提供していることは踏まえたうえで限定を否定した。外した理由は述べていない)
  • 「ツイッター投稿削除請求事件は、最高裁の決定である」(判決)

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