憲法ゼロから憲法#22

尊属殺・国籍法違憲判決

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結論を分ける4つの変数

14条1項と3つの判決

結論同じ14条1項を使っても、判決ごとに違憲・合憲の結論が分かれます。

  • 違憲:尊属殺重罰規定違憲判決、国籍法違憲判決です。
  • 合憲:サラリーマン税金訴訟です。

注意違憲とされた規定の中にも、区別の目的そのものは正当と認められたものがあります。

14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

4つの変数

定義結論を分けているのは、次の4つの変数です。

  • 目的:違う扱いをする理由が、正当かどうかです。
  • 手段:目的のためだとしても、そのやり方が行き過ぎていないかです。
  • 裁量の広さ:その領域で、裁判所がどこまで踏み込んでよいかです。専門的で技術的な判断が必要な分野ほど、裁判所は立法府の判断を尊重します。事情を総合考慮して審査の密度を決める作業は、この変数を決めるためのものです。
  • 立法事実:区別を支えている事実が、今も成り立っているかです。制度を作った当時の社会状況や、国民の意識のようなものです。条文の文言が変わらなくても、支える事実が変われば、同じ枠組みで測っても答えが変わることがあります。

結論3つの判決すべてに、この4つを毎回同じ順番で当てます。

尊属殺重罰規定違憲判決(事案と目的)

1つ目は、目的は正当と認められながら、違憲とされた判決です。
刑法200条はどんな規定で、その目的はどう評価されたのでしょうか。

尊属殺の事案と当時の法定刑の比較(199条〈普通殺人〉=死刑・無期懲役・3年以上の有期懲役/200条〈尊属殺〉=死刑・無期懲役のみ)

事案

定義直系尊属とは、父母や祖父母のことです。

事案実の父親から長い間、無理やり夫婦のような関係を強いられ、何人もの子を産まされた女性が、その父親を殺害しました。

刑法200条という規定自体が、憲法14条に違反しないかが争われました。

注意200条は、削除されるまで現代の言葉に直されず、カタカナの文語体のままでした。

現行199条の「五年以上の拘禁刑」は今の言い方で、当時の199条は「3年以上の有期懲役」を含む三段構えでした。

200条(削除前)|刑法 第二編 罪 第二十六章 殺人の罪(199〜203条)自己又ハ配偶者ノ直系尊属ヲ殺シタル者ハ死刑又ハ無期懲役ニ処ス

199条|刑法 第二編 罪 第二十六章 殺人の罪(199〜203条)人を殺した者は、死刑又は無期若しくは五年以上の拘禁刑に処する。

目的の評価

結論最高裁は、まず目的を検討し、目的は正当と認めました。

理由尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義です。

このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するとされました。

尊属殺重罰規定違憲判決最高裁判所大法廷判決尊属に対する尊重報恩は、社会生活上の基本的道義というべく、このような自然的情愛ないし普遍的倫理の維持は、刑法上の保護に値するものといわなければならない。刑法二〇〇条は、尊属殺の法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点において、その立法目的達成のため必要な限度を遥かに超え、普通殺に関する刑法一九九条の法定刑に比し著しく不合理な差別的取扱いをするものと認められ、憲法一四条一項に違反して無効であるとしなければならない。

尊属殺重罰規定違憲判決(手段だけが違憲)

尊属殺重罰規定は、目的は正当と認められました。
では、何が理由で違憲とされたのでしょうか。

尊属殺重罰規定の判断(目的=正当・尊属を大切にする目的は保護に値する/手段=著しく不合理・死刑と無期懲役のみに限定し必要な限度を遥かに超えている)

手段の評価

結論法定刑を死刑または無期懲役刑のみに限つている点が、違憲とされました。

  • 必要な限度:立法目的達成のため必要な限度を遥かに超えています。
  • 比較:普通殺の199条の法定刑に比べ、著しく不合理な差別的取扱いです。
  • 効果:200条は、憲法14条1項に違反して無効です。

理由尊属を大切にするという理由は、罰則を重くすること全般を正当化しません。

どれだけ重くしてよいかには、別の歯止めが要ります。

注意目的は正当で手段は違憲、というのは矛盾ではありません。

「必要な限度を遥かに超え」の中身

定義執行猶予とは、すぐには服役させず、期間を無事に過ごせば刑を受けずに済む扱いです。

結論200条のもとでは、どんな事情があっても、法律上、執行猶予を付けられません。

理由判決は、言い渡せる刑の下限を計算しています。

  • 刑の下限:刑を軽くする仕組みを2回重ねても、懲役3年6月より軽くできません。
  • 猶予の条件:執行猶予は、3年以下の刑でなければ付けられません。

注意普通の殺人なら猶予の余地がありますが、尊属殺は最初から閉じています。

この事件の結末

結論200条が無効になったので、女性は普通の殺人罪の199条で裁き直されました。

事情が酌まれて、刑には執行猶予が付いています。

判決の位置づけ

結論最高裁が、法律の規定そのものを違憲とした初めての例です。

注意判決が出ることと、条文の削除は別の話です。

  • 国会:判決の後も長く、この規定を残したままにしました。
  • 削除:刑法全体を現代の言葉に書き直したときに、条文全体の見直しの中で消えました。この規定だけを狙った削除ではありません。

多数意見と少数意見

結論多数意見は、目的は認めたうえで、手段だけを切り落とす組み立てです。

注意少数意見には、重罰規定を作ること自体が違憲だ、という考え方もありました。

サラリーマン税金訴訟(裁量が広い領域)

尊属殺重罰規定は、手段が行き過ぎていたために違憲とされました。
では、専門的な判断が必要な税制の区別は、どう審査されたのでしょうか。

事案

旧所得税法の事案(必要経費の控除=事業所得者等は実額控除が使えるが給与所得者は"みなし"の控除額だけ/所得の捕捉=給与所得者は源泉徴収で捕捉率が高い)

定義2つの言葉の意味は、次のとおりです。

  • 源泉徴収:会社が、給料からあらかじめ税金を天引きする仕組みです。
  • 捕捉率:税務署に、どれだけ正確に所得を把握されるかです。

事案給与所得者の側は、この2点を理由に、旧所得税法が給与所得者を不利に扱っていると争いました。

判断の枠組み

租税立法で裁判所が踏み込まない理由(租税立法の性質=政策的・技術的な判断/合憲の物差し=目的が正当であることを前提に、著しく不合理であることが明らかでない限り合憲)

結論租税法の区別は、立法目的が正当で、区別の態様が目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、14条1項に違反しません。

理由租税法の定立は、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする、立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかないからです。

そのため裁判所は、基本的にその裁量的判断を尊重します。

二重の基準論の、裁判所の審査能力という論拠と同じ形です。

注意尊属殺重罰規定違憲判決の「著しく不合理」と言い回しは似ていますが、越えるべきハードルの高さがまったく違います。

サラリーマン税金訴訟最高裁判所大法廷判決租税法の定立については、国家財政、社会経済、国民所得、国民生活等の実態についての正確な資料を基礎とする立法府の政策的、技術的な判断にゆだねるほかはなく、裁判所は、基本的にはその裁量的判断を尊重せざるを得ないものというべきである。租税法の分野における所得の性質の違い等を理由とする取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、これを憲法一四条一項の規定に違反するものということはできない。

捕捉率の差

結論捕捉率の差についても、制度そのものを違憲にはしないとしました。

ただし、正義や公平の感覚に反するほど著しく、しかも長年にわたって恒常的な場合は別です。

結論と決め手

結論区別は合理的なものとされ、合憲です(14条1項に違反しません)。

  • 目的:正当なものとされました。
  • 手段:著しく不合理であることが明らかとまでは言えない、とされました。
  • 決め手:3つ目の変数、裁量の広さです。

注意区別があること自体は、違憲の理由になりません。

この判決は違憲判例の仲間ではなく、裁量が広いとどうなるかを示す対比の判決です。

国籍法違憲判決(事案と準正の要件)

サラリーマン税金訴訟では、裁量が広い領域として、区別は合憲とされました。
では、日本国籍の取得の要件で生じた区別は、どう扱われたのでしょうか。

事案

国籍法違憲判決の事案(父A〈日本国籍〉と母B〈外国籍〉は法律上結婚していない/子Cは出生後にAから認知されたが、日本国籍の取得は認められなかった)

定義2つの言葉の意味は、次のとおりです。

  • 嫡出でない子:法律上結婚していない父母から生まれた子の身分です。
  • 認知:生まれた後に、その子を自分の子だと認めることです。

事案日本国籍の父Aと外国籍の母Bの間に、子Cが生まれました。

  • 婚姻:AとBは、結婚していませんでした。
  • 認知:Aは、Cが生まれた後に、Cを認知しました。
  • 国籍:認知はされましたが、日本国籍を取得するには、それだけでは足りませんでした。

準正の要件

準正という仕組み(嫡出でない子→父母が婚姻→認知とあわせて嫡出子の身分を取得=準正・民法789条)

定義準正とは、嫡出でない子が、その後の父母の婚姻によって、認知とあわせて嫡出子の身分を得ることです。

結論当時の国籍法3条1項は、認知に加えて、準正まで求めていました。

Cは、AとBが結婚しなかったので、この要件を満たせません。

そこで、この区別が憲法14条に違反しないかが争われました。

条文効いてくるのは、冒頭の「父母の婚姻及びその認知」という一句です。

3条(改正前)|国籍法(1〜20条)1項:父母の婚姻及びその認知により嫡出子たる身分を取得した子で二十歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。

国籍法違憲判決(慎重な検討)

国籍法3条1項は、認知に加えて準正を、国籍取得の要件にしていました。
最高裁は、この区別をどれほど慎重に検討したのでしょうか。

裁量の広さの対比(租税立法=政策的・技術的な判断で裁量が広く緩やか/国籍法=重要な法的地位と変えられない事柄が重なり裁量が狭く慎重に検討)

慎重に検討する理由

結論区別に合理的な理由があるかは、慎重に検討することが必要だとしました。

理由判旨は、次の2つを挙げています。

  • 法的地位の重さ:日本国籍は、我が国の構成員としての資格です。基本的人権の保障、公的資格の付与、公的給付等を受ける上で意味を持つ、重要な法的地位でもあります。
  • 変えられない事柄:父母の婚姻により嫡出子の身分を取得するかは、子にとって自らの意思や努力によっては変えることのできない事柄です。

具体例奨学金の対象を分ける規則で比べます。

  • 親が結婚していたか:本人には、どうしようもありません。
  • 資格試験に合格したか:本人の努力で、結果を変えられます。

変えられない事柄で不利益を受けるときほど、審査は慎重になります。

注意判例は、ここで新しい審査基準を選んだわけではありません。

どんな理由による区別か、どんな権利利益に関わるか、の2つを当てただけです。

どちらも強く出たので、その分だけ審査の密度が上がりました。

国籍法違憲判決最高裁判所大法廷判決日本国籍は,我が国の構成員としての資格であるとともに,我が国において基本的人権の保障,公的資格の付与,公的給付等を受ける上で意味を持つ重要な法的地位でもある。一方,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得するか否かということは,子にとっては自らの意思や努力によっては変えることのできない父母の身分行為に係る事柄である。したがって,このような事柄をもって日本国籍取得の要件に関して区別を生じさせることに合理的な理由があるか否かについては,慎重に検討することが必要である。日本国民である父と日本国民でない母との間に出生し,父から出生後に認知された子は,父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた国籍法3条1項所定の要件が満たされるときは,同項に基づいて日本国籍を取得することが認められる。

国籍法違憲判決(過剰な要件と部分違憲)

国籍法の区別は、慎重に検討されることになりました。
では、準正の要件はなぜ違憲とされ、どう救済されたのでしょうか。

過剰になった要件

結論準正の要件は、今日では合理性を欠いた過剰な要件になっているとして、国籍法3条1項は違憲と判断されました。

理由判決は、規定ができた当時にさかのぼって検討しています。

  • 制定当時:準正の要件には、我が国との結びつきを確かめるという目的との間に、一定の合理的な関連性がありました。
  • 環境の変化:その後の社会的、経済的な環境の変化で、家族のかたちについての意識が一様でなくなりました。国際化が進んで、日本人の父と外国人の母の間に生まれる子も増えました。
  • 今日:結婚しているかどうかで、日本との結びつきの強さは、もう測れません。

注意これが、4つ目の変数の立法事実です。

条文は変わっていなくても、制定当時は正しかった前提が、今日は成り立たないという理由づけです。

部分違憲

定義部分違憲とは、規定全体を無効にせず、不合理な部分だけを取り除いて、残りを生かす手法です。

結論条文をまるごと無効にせず、「父母の婚姻により嫡出子たる身分を取得したという部分を除いた」国籍法3条1項の要件が満たされれば、日本国籍の取得を認めました。

つまり、認知などの残りの要件が満たされていれば、国籍を取得できます。

その後の改正

結論判決のあと、国籍法3条1項は、判決の考え方に合わせて、認知さえあれば足りる条文に改正されました。

注意年齢が「二十歳未満」から「十八歳未満」に変わったのは、この判決とは別の改正です。

成年となる年齢が引き下げられたのに合わせたものです。

3条|国籍法(1〜20条)1項:父又は母が認知した子で十八歳未満のもの(日本国民であつた者を除く。)は、認知をした父又は母が子の出生の時に日本国民であつた場合において、その父又は母が現に日本国民であるとき、又はその死亡の時に日本国民であつたときは、法務大臣に届け出ることによつて、日本の国籍を取得することができる。

3つの判決を4つの変数で並べる

3つの判決は、同じ14条1項を使いながら、結論が分かれました。
4つの変数で並べると、結論の違いはどう説明できるのでしょうか。

3つの判決を4つの変数で並べた表(尊属殺=目的○・手段×・違憲/サラリーマン税金=目的○・手段○・裁量が広い・合憲/国籍法=目的○・当初は手段○・裁量が狭い・立法事実の変化で過剰に・違憲)

結論4つの変数への答えの組み合わせが違うから、結論が違って見えます。

国籍法の判決では、1つの事件の中で3つの変数が同時に動いています。

注意4つの変数は、判決文の見出しではなく、こちらが当てにいく道具です。

そのため、判決が正面から論じていない欄も出てきます。

当ててみて「ここは動いていない」と確認することも、手順のうちです。

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