非嫡出子相続分・再婚禁止期間
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立法事実(条文が同じでも判断が変わる)
結論を分ける4つの変数
定義14条の事件で結論を分ける変数は、次の4つです。
- 目的:区別する目的に、合理的な根拠があるか。
- 手段:区別の中身が、目的との関連で合理性を持つか。
- 裁量の広さ:立法府に、どこまで判断を任せるか。
- 立法事実:区別を支えている事実です。
制度を作ったときの社会の状況や、国民の意識を指します。
立法事実が動くと結論が動く
結論条文も判断の枠組みも変えないまま、最高裁の判断が変わることがあります。
理由動くのは条文ではなく、それを支えていた立法事実だからです。
具体例次の2つの規定です。
- 嫡出でない子の相続分:同じ規定を、一度は合憲とし、のちに違憲としました。
- 女性の再婚禁止期間:作られた当時は問題なかったが、今日では正当化できないとされました。
嫡出でない子の相続分の規定
立法事実の変化で判断が変わった1つ目は、相続の場面です。
当時の民法は、嫡出でない子の相続分をどう定めていたのでしょうか。
嫡出子と嫡出でない子
定義父母が法律上結婚しているかで、子は次の2つに分かれます。
- 嫡出子:法律上結婚している父母から生まれた子です。
- 嫡出でない子:そうでない子です。
900条4号ただし書(当時)

条文当時の900条4号ただし書は、嫡出でない子の相続分を嫡出子の2分の1としていました。
注意この規定は改正され、今はこの区別がありません。
この規定が、14条に反しないかが争われました。
900条4号ただし書(改正前)|民法 第五編 相続 第三章 相続の効力 第二節 相続分(900〜905条)子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の二分の一とし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。
14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
最初の決定(合憲)
この規定については、最高裁の判断が2回出ていて、結論が違います。
1回目の決定は、どのような理由で合憲としたのでしょうか。
合憲とした決定
定義法律婚とは、届出をした結婚のことです。
事案嫡出でない子の相続分を2分の1とする規定が、14条に反するかが争われました。
結論最高裁は、合憲と判断しました。
立法府に与えられた合理的な裁量の限界を超えたとまではいえない、としました。
理由考慮された事情は、次の2つです。
- 保護の調整:民法は法律婚を基本とします。法定相続分は配偶者とその子を優遇しますが、嫡出でない子にも一定の相続分を認めて保護を図ったものだ、としました。
- 補充的な規定:法定相続分は、遺言が無いときにはじめて働く規定にすぎません。遺言で相続分を自由に指定できる以上、この規定だけを絶対視する必要はない、としました。
非嫡出子相続分規定訴訟最高裁判所大法廷決定合憲民法が法律婚主義を採用している以上,法定相続分は婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが,他方,非嫡出子にも一定の法定相続分を認めてその保護を図ったものである。
2回目の決定(違憲)
1回目の決定は、法律婚の尊重と補充性を理由に合憲としました。
同じ規定について、2回目の決定はなぜ違憲としたのでしょうか。
考え方の土台
結論相続制度をどう作るかは、いろいろな事情を総合的に考えて決めるべきものです。
その事情は、時代とともに移り変わります。
だから規定の合理性は、個人の尊厳と法の下の平等に照らして、絶えず検討・吟味されなければなりません。
注意目的も判断の枠組みも、1回目の決定と同じままです。
変わったのは、枠組みに当てはめる先の事実(立法事実)です。
立法事実の変化
具体例変わった事実は、次の2つです。
- 婚姻・家族の多様化:婚姻や家族のかたちが著しく多様化し、国民の意識も大きく多様化しました。
- 諸外国の状況:相続分に差を設けている国は、欧米にはなく、世界的にも限られた状況です。
補充性の評価の逆転
結論規定が補充的に働くことは、合理性の判断で、もう重要性を持たないとされました。
理由遺留分(遺言でも奪えない最低限の取り分)には、この区別がそのまま残るからです。
決定は、この部分について、規定は明確な差別そのものだとしました。
規定が存在すること自体が、出生のときから差別意識を生じさせかねない、としました。
注意1回目の決定では、補充性は合憲の理由の1つでした。
同じ事実の重みづけが、ひっくり返っています。
違憲の結論
事案同じ規定について、ある相続をめぐって再び14条違反が争われました。
結論その相続が始まった時点で、区別する合理的な根拠は失われていたとされ、違憲と判断されました。
理由法律婚という制度自体は、定着しているとしても、次の考えが確立されてきたからです。
- 子に選べない事柄:父母が婚姻関係になかったことは、子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄です。
- 不利益の禁止:それを理由に、その子に不利益を及ぼすことは許されず、子を個人として尊重すべきです。
注意自分の意思や努力ではどうにもならない事柄を理由にした不利益は、慎重に見ます。
国籍法の違憲判決で使われた軸が、相続でもそのまま効いています。
非嫡出子相続分規定違憲決定最高裁判所大法廷決定合理性の消失法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。
違憲決定の効力(遡るが、覆さない)
2回目の決定は、相続が始まった時点で、すでに合理的な根拠は失われていたとしました。
では、この決定はどの相続に効くのでしょうか。
二段構え
結論決定の効力は、二段構えです。
- 遡る:相続が始まった時点まで遡って、違憲だったと認めます。
- 覆さない:その後に開始された他の相続のうち、審判や合意などで確定的なものとなった法律関係には影響を及ぼさない、としました。
理由法的な安定性にも配慮したためです。
注意「決定が出た日から、これから先の相続にだけ効く」という理解は誤りです。
遡って違憲と認めたうえで、確定したものだけは覆さない、という構造です。
非嫡出子相続分規定違憲決定最高裁判所大法廷決定決定の効力本決定の違憲判断は,Aの相続の開始時から本決定までの間に開始された他の相続につき,本件規定を前提としてされた遺産の分割の審判その他の裁判,遺産の分割の協議その他の合意等により確定的なものとなった法律関係に影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
再婚禁止期間の規定(事案)
立法事実の変化で判断が変わった2つ目は、結婚の場面です。
当時の民法は、再婚についてどのような規定を置いていたのでしょうか。
733条1項(当時)
条文当時の733条1項は、女性にだけ、前婚の解消・取消しの日から6か月の再婚禁止期間を課していました。
男性には、この規定はありませんでした。
733条(改正前)|民法 第四編 親族 第二章 婚姻 第一節 婚姻の成立 第一款 婚姻の要件(731〜741条)1項:女は、前婚の解消又は取消しの日から六箇月を経過した後でなければ、再婚をすることができない。
事件の形(国家賠償請求)
事案離婚した女性が、この規定のせいで、望んだ時期に再婚できませんでした。
女性は、国会が規定を直さずに放置したのは違法だとして、国に賠償を求めました。
結論賠償は認められませんでした。
理由国会が法律を直さなかったことの責任は、別の要件で判断されるからです。
注意規定を消してほしいという訴えではありません。
日本の裁判所は、法律そのものを取り消す仕組みを持たないからです。
具体的な事件の中で、規定が憲法に反すると主張していく形になります。
100日で足りる理由(772条の父性推定)
再婚禁止期間が必要とされたのは、生まれた子の父親を誰と考えるかに関わります。
では、なぜ100日待てば足りるのでしょうか。
772条の推定(当時)
条文当時の772条は、2段で推定します。
- 1項:婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定します。
- 2項:婚姻の成立から200日を経過した後、または婚姻の解消から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定します。
理由いつ妊娠したかは、外からは分かりません。
だから、生まれた日から逆算します。
772条(改正前)|民法 第四編 親族 第三章 親子 第一節 実子(772〜791条)1項:妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。2項:婚姻の成立の日から二百日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から三百日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。
父性の推定の重複

定義同じ子について、父と推定される人が2人になることを、父性の推定の重複といいます。
結論再婚禁止期間の目的は、この重複を避けることでした。
理由誰が父親かが決まらないまま、争いになりかねないからです。
100日の計算
結論離婚から100日待てば、重なりは起きません。
理由今の夫の推定が始まるのは、離婚から数えて300日を過ぎた後になるからです。
前の夫の推定が終わる日と、ちょうど入れ替わります。
具体例90日だと、今の夫の推定は離婚から290日を過ぎた後に始まります。
前の夫の推定は300日目まで届くので、10日ぶん重なります。
注意逆に言うと、100日を超えて待たせる理由は無いことになります。
審査の枠組みと100日部分(合憲)
100日待てば、父性の推定の重複は起きません。
最高裁は、どのような枠組みで、規定のどこまでを合憲としたのでしょうか。
婚姻をするについての自由
結論結婚するかどうかを自分で決める自由は、24条1項の趣旨に照らし、十分に尊重に値するとされました。
注意この規定では、次の2点の両方が問題になります。
- 男女の区別:男女で違う扱いをしている点(14条1項)です。
- 結婚の制限:結婚の自由を直接制限している点です。
審査の枠組み
定義最高裁は、次の2つの問いを立てました。
- 目的:区別する立法目的に、合理的な根拠があるか。
- 手段:区別の具体的な内容が、立法目的との関連で合理性を持つか。
女性再婚禁止期間違憲判決(100日部分)
結論目的と100日部分は、次のように判断されました。
- 立法目的:父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争を未然に防ぐことです。父子関係が早期に明確になることは重要なので、立法目的には合理性を認めることができる、としました。
- 100日部分:計算上、100日の期間を置けば、推定の重複は回避されます。よって、100日の再婚禁止期間を設ける部分は、14条1項にも、24条2項にも違反しない、としました。
注意「再婚禁止期間そのものが違憲になった」というのは誤りです。
違憲とされたのは、100日を超える部分だけです(規定の一部だけを違憲とする形)。
女性再婚禁止期間違憲判決最高裁判所大法廷判決立法目的・100日部分は合憲本件規定の立法目的は,女性の再婚後に生まれた子につき父性の推定の重複を回避し,もって父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあると解するのが相当であり,父子関係が早期に明確となることの重要性に鑑みると,このような立法目的には合理性を認めることができる。女性の再婚後に生まれる子については,計算上100日の再婚禁止期間を設けることによって,父性の推定の重複が回避されることになる。よって,本件規定のうち100日の再婚禁止期間を設ける部分は,憲法14条1項にも,憲法24条2項にも違反するものではない。立法当時は合理的だった上記のような旧民法起草時における諸事情に鑑みると,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず,一定の期間の幅を設けることが父子関係をめぐる紛争を未然に防止することにつながるという考え方にも理解し得る面があり,このような考え方に基づき再婚禁止期間を6箇月と定めたことが不合理であったとはいい難い。このことは,再婚禁止期間の規定が旧民法から現行の民法に引き継がれた後においても同様であり,その当時においては,国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものであったとまでいうことはできない。今日では正当化困難しかし,その後,医療や科学技術が発達した今日においては,上記のような各観点から,再婚禁止期間を厳密に父性の推定が重複することを回避するための期間に限定せず,一定の期間の幅を設けることを正当化することは困難になったといわざるを得ない。以上を総合すると,本件規定のうち100日超過部分は,遅くとも上告人が前婚を解消した日から100日を経過した時点までには,婚姻及び家族に関する事項について国会に認められる合理的な立法裁量の範囲を超えるものとして,その立法目的との関連において合理性を欠くものになっていたと解される。結論本件規定のうち100日超過部分が憲法24条2項にいう両性の本質的平等に立脚したものでなくなっていたことも明らかであり,上記当時において,同部分は,憲法14条1項に違反するとともに,憲法24条2項にも違反するに至っていたというべきである。
24条2項
条文24条2項は、家族に関する法律を作るときの土台を定めています。
14条1項が扱いの平等を問うのに対し、24条2項は、法律が個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚しているかを問います。
24条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。2項:配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。
100日超過部分(立法当時と今日)
100日部分は合憲とされ、違憲とされたのは100日を超える部分だけです。
最高裁は、100日を超える部分をどのような順番で判断したのでしょうか。

立法当時の評価
結論6か月と定めたことが不合理であったとはいい難い、とされました。
現行の民法に引き継がれた後も、その当時は、立法裁量の範囲を超えるものであったとまでいうことはできない、としました。
理由昔は、父子関係を確かめる手段が今ほどありませんでした。
推定が重なる期間ぴったりに区切らず、一定の幅を持たせる考え方にも理解し得る面がある、としました。
注意当時の規定が素晴らしかった、とは言っていません。
行き過ぎではなく、裁量の範囲内に収まっていた、という評価です。
昔の国会が間違っていた、とも言っていません。
今日の評価
結論医療や科学技術が発達した今日では、期間に幅を設けることを正当化することは困難になった、とされました。
100日超過部分は、立法目的との関連において合理性を欠くものになっていた、としました。
理由昔は、生まれた時期から逆算して推定するしかありませんでした。
今は、DNA型の鑑定で、父子関係そのものを直接調べられます。
注意違憲になった時点は、判決の日ではありません。
遅くとも、原告が前婚を解消した日から100日を経過した時点までには、合理性を欠いていたとしています。
嫡出でない子の相続分の決定と同じく、判決より前の時点に遡っています。
結論(14条1項と24条2項の両方に違反)
結論100日超過部分は、14条1項に違反するとともに、24条2項にも違反するに至っていた、とされました。
理由両方に違反する理由は、次のとおりです。
- 14条1項:男女で違う扱いをした点です。
- 24条2項:両性の本質的平等に立脚したものでなくなっていた点です。
733条のその後
100日超過部分は、14条1項と24条2項の両方に違反するとされました。
その後、733条はどうなったのでしょうか。

結論733条は、次のように変わりました。
- 判決の後:国会が、期間を100日に短縮しました。
- さらにその後の改正:条文そのものが削除されました。
注意今の民法には、再婚禁止期間という制度自体がありません。
条文の番号だけが残り、中身は「削除」とだけ書かれています。
「今も女性だけ再婚できない期間がある」と答えると誤りです。
2つの規定の比較(動いたのは事実)
2つの規定は、どちらも時間の経過とともに判断が変わりました。
並べてみると、何が変わり、何が変わっていないのでしょうか。
変わっていないもの
結論次の3つは、2つの規定のどちらでも変わっていません。
- 目的:相続分は、法律婚の尊重と嫡出でない子の保護の調整です。再婚禁止期間は、父性の推定の重複の回避です。
- 判断の枠組み:目的に合理的な根拠があるか、区別の中身が目的との関連で合理性を持つか、です。
- 条文の文言:一文字も変わっていません。
注意最高裁が途中で審査を厳しくしたわけではありません。
裁量の広さという変数も、動いていません。
動いたもの(立法事実)
結論動いたのは、区別を支えていた立法事実です。
- 相続分:婚姻・家族のかたちの多様化と、諸外国の状況です。
- 再婚禁止期間:医療・科学技術の発達です。
具体例結論は、次のように変わりました。
- 相続分:1回目の決定は合憲、2回目の決定は違憲です。
- 再婚禁止期間:100日部分は合憲、100日超過部分は違憲です。
注意違憲の結論だけを書くのではなく、次の順で書くと説得力が出ます。
- 制定当時:合理性があった。
- その後:こういう事実が変わった。
- 今:だから合理性を失っている。