名誉毀損とプライバシー
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他人を傷つける表現の調整
結論他人を傷つける表現も、入口では21条1項の「表現」に含めます。
そのうえで、傷つけられた側の権利との調整を、出口で行います。
注意出口の道具は、傷つける相手が誰かで変わります。
- 特定の個人:名誉毀損とプライバシーです(第2〜10節)。
- 集団:ヘイトスピーチです(第11節)。
- 社会全体:せん動です(第12節)。
- 主体が国家:政府言論です(第13節)。
21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
名誉毀損と表現の自由(無価値表現論の否定)
他人を傷つける表現も、入口では「表現」に含めるのが出発点です。
刑法で処罰される名誉毀損も、21条の「表現」に含まれるのでしょうか。
無価値表現論
定義無価値表現論とは、名誉を傷つける表現は無価値な表現なので、そもそも21条の保障範囲の外にある、という考え方です。
結論この考え方は否定され、名誉毀損にあたる表現も、入口では21条の「表現」に含まれます。
条文名誉毀損は、刑法230条で処罰されています。
理由否定された理由は3つです。
- 転倒:法律が処罰しているというだけで保障の外に置くと、法律の規定や解釈が、憲法の範囲を勝手に決めてしまいます。
- 萎縮効果:本来なら守られるべき正当な批判まで、発表をためらってしまいます。
- 政治的言論の封じ込め:政治家個人への名誉毀損という名目で、実は政府や政策への批判が規制されえます(名誉毀損に特有の理由)。
注意入口に入ることと、何をしても自由なことは別です。
出口での調整が必要です。
230条(名誉毀損)|刑法 第二編 罪 第三十四章 名誉に対する罪(230〜232条)1項:公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。2項:死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
民事の名誉毀損
結論名誉毀損は、刑事責任だけでなく、民事でも民法709条の不法行為として損害賠償が問題になります。
理由私人どうしの争いには、憲法は直接には当たりません。
民法709条のような一般条項を通して、憲法上の価値が読み込まれます。
調整のしかた
定義利益衡量とは、対立する利益を天秤にかけて調整する発想です(比較衡量と同じ発想)。
結論名誉毀損では、この天秤が条文の形になっています。
それが、刑法230条の2です。
刑法230条の2(名誉毀損の調整の条文)
名誉毀損との調整は、利益衡量で行います。
21条には書かれていないその調整を、どの条文が具体的に定めているのでしょうか。
1項の3要件
結論次の3つがそろえば、名誉毀損の罪になりません。
- 公共性:公共の利害に関する事実であることです。
- 公益目的:目的が、専ら公益を図ることにあったことです。
- 真実性:真実であることの証明があったことです。
具体例公共の利害に関する事実かどうかは、次のように分かれます。
- あたる:政治家の汚職や企業の不正のように、社会が知るべき事柄です。
- あたらない:ある人の恋愛関係のような、純粋に私的な事柄です。
2項・3項の特則
結論2項と3項は、1項の特則です。
- 2項:まだ起訴されていない犯罪行為についての事実は、公共の利害に関する事実とみなします。
- 3項:公務員や公選による公務員の候補者についての事実なら、公益目的を問わず、真実の証明だけで足ります。
230条の2(公共の利害に関する場合の特例)|刑法 第二編 罪 第三十四章 名誉に対する罪(230〜232条)1項:前条第一項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。2項:前項の規定の適用については、公訴が提起されるに至っていない人の犯罪行為に関する事実は、公共の利害に関する事実とみなす。3項:前条第一項の行為が公務員又は公選による公務員の候補者に関する事実に係る場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
憲法と230条の2の関係
結論憲法が求める調整の中身を、下位の法律である刑法230条の2が組み立てています。
注意憲法が関係ない、という意味ではありません。
入口を狭めるのではなく、出口の網の目を条文そのものが細かく書いている、という関係です。
「夕刊和歌山時事」事件(真実性の証明が無い場合)
230条の2では、3つの要件がそろえば罰せられません。
では、書いた内容が真実だと証明できなかったときは、必ず処罰されるのでしょうか。
「夕刊和歌山時事」事件
定義用語の意味は、次のとおりです。
- 誤信:本当は違ったのに、行為者が真実だと思い込んでいたことです。
- 故意:名誉を傷つけるという認識のことです。
事案新聞記事が、ある人の名誉を傷つけたとして、刑事事件になりました。
真実性の証明が問題になりました。
結論行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しません。
理由真実性の証明を厳しく求めるほど、本来は世に出るべき批判まで、出てこなくなるからです(萎縮効果)。
証明に失敗したら有罪という扱いだと、確かな取材をした記事でも、出すのをやめてしまいます。
具体例裏付け取材をきちんとしたうえで、それでも間違えた場合です。
ただ思い込んでいただけでは足りません。
注意この判例は、3つ目の要件(真実性の証明)を緩めたのではありません。
- 要件:真実性の証明という要件はそのままで、証明できなければ条文の上では成立してしまいます。
- 救った場所:犯罪の別の成立要素である故意の側で、救いを作りました。
「夕刊和歌山時事」事件最高裁判所大法廷判決証明がなくても救われる道行為者がその事実を真実であると誤信し、その誤信したことについて、確実な資料、根拠に照らし相当の理由があるときは、犯罪の故意がなく、名誉毀損の罪は成立しない。
「月刊ペン」事件(公共の利害の広がり)
230条の2の1つ目の要件は、公共の利害に関する事実です。
私生活上の出来事は、この要件にあたることがあるのでしょうか。
「月刊ペン」事件
事案雑誌の記事が、宗教団体で指導者的な立場にある人物の私生活を書きました。
問題になったのは、恋愛関係のような私生活上の出来事でした。
結論私人の私生活上の行状であっても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、公共の利害に関する事実にあたる場合があります。
理由社会的な影響力の大きい立場の人物ほど、私生活上の行いも、批判や評価の材料になりうるからです。
注意条件つきの判断です。
- 原則:私生活上の出来事は、公共の利害に関する事実にあたりません。
- 対象外:社会的な影響力を持たない普通の私人の私生活は、この判断の対象になりません。
- 背後の論点:国民の知る権利や、報道機関の取材の自由という論点も関わります。
「月刊ペン」事件最高裁判所第一小法廷判決「公共の利害」の入口を広げる私人の私生活上の行状であっても、そのたずさわる社会的活動の性質及びこれを通じて社会に及ぼす影響力の程度などのいかんによっては、その社会的活動に対する批判ないし評価の一資料として、刑法二三〇条ノ二第一項にいう「公共ノ利害ニ関スル事実」にあたる場合がある。
プライバシーと真実性(ベクトルの逆転)
名誉毀損では、真実であることの証明があれば罰せられません。
プライバシーを侵す表現では、「真実」はどう働くのでしょうか。
調整の構造
結論プライバシーにかかわる表現も、名誉毀損と同じ構造で扱われます。
21条1項の「表現」に含めたうえで、利益衡量で調整します。
真実性のベクトルの逆転

結論同じ「真実」が、名誉毀損とプライバシーで逆向きに働きます。
- 名誉毀損:真実であれば、表現の自由が勝ちやすくなります。
- プライバシー:真実であるからこそ、保護の必要が高まります。
理由それぞれ次の理由によります。
- 名誉毀損:本当のことなら、社会にとって必要な情報だと考えるからです。
- プライバシー:本当のことだからこそ、その人の生活の実態がそのまま世間にさらされるからです。
注意「本当のことを言っただけ」という反論は、名誉毀損では盾になり、プライバシーでは盾になりません。
取り違えると、答案でも間違えます。
ノンフィクション「逆転」事件(公表する利益と公表されない利益)
プライバシーでも、表現の自由との調整は利益衡量で行います。
実際の判例では、何と何を比べたのでしょうか。
ノンフィクション「逆転」事件
事案ノンフィクション作品が、過去の刑事事件で有罪判決を受けた人物の実名を出しました。
この人物が、プライバシー侵害を理由に、著者に損害賠償を求めました(民事の事件)。
結論前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあります。
実名を使用して著作物で公表したことが不法行為になるかは、次の事情を併せて判断します。
- 生活状況:その者のその後の生活状況です。
- 事件の意義:事件それ自体の歴史的又は社会的な意義です。
- 当事者:その当事者の重要性です。
- 社会的活動:その者の社会的活動及びその影響力です。
- 実名使用:その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性です。
- 効果:前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるとされました。
- この事件:公表されない利益が優越するとされ、著者の不法行為責任が認められました。
理由その人は、有罪判決のあと社会に戻り、新しい生活を積み上げていました。
実名を出されれば、その生活の平穏が壊れてしまいます。
前科は、時間がたつほど、公表されない側の利益が重くなります。
注意次の2点に気をつけます。
- 要件ではなく天秤:プライバシーには、230条の2にあたる条文がありません。要件をそろえる形ではなく、天秤そのもので量ります。
- 前科照会事件との違い:弁護士会の照会に区長が前科を回答した事件は、行政の場面です。この事件は、著作物で実名を公表した私人間の場面です。
ノンフィクション「逆転」事件最高裁判所第三小法廷判決公表する利益と、公表されない利益要するに、前科等にかかわる事実については、これを公表されない利益が法的保護に値する場合があると同時に、その公表が許されるべき場合もあるのであって、ある者の前科等にかかわる事実を実名を使用して著作物で公表したことが不法行為を構成するか否かは、その者のその後の生活状況のみならず、事件それ自体の歴史的又は社会的な意義、その当事者の重要性、その者の社会的活動及びその影響力について、その著作物の目的、性格等に照らした実名使用の意義及び必要性をも併せて判断すべきもので、その結果、前科等にかかわる事実を公表されない法的利益が優越するとされる場合には、その公表によって被った精神的苦痛の賠償を求めることができるものといわなければならない。
小説「石に泳ぐ魚」事件(非公人と差止め)
逆転事件は、公表する利益と公表されない利益を比べる枠組みを作りました。
対象が公的立場にない人の場合、その保護はどこまで及ぶのでしょうか。
小説「石に泳ぐ魚」事件
事案実在の人物をモデルにした小説の出版が問題になりました。
結論公共の利益に係わらないプライバシーにわたる事項を表現内容に含む小説の公表により、公的立場にない人物の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害され、出版等により重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるとされました。
- 差止め:単なる損害賠償ではなく、出版そのものの差止めまで認められました。
- 裁判所:差止めを命じたのは高等裁判所で、最高裁はそれを是認しました。
理由いったん世に出てしまえば、あとからお金で埋め合わせても、取り返しがつかないからです。
だからこそ、出す前に止めるという強い手段まで届きました。
注意対象が公的立場にない人だったからこそ、差止めまで認められました。
- 事項の限定:「公共の利益に係わらない」事項であることです。
- 人物の限定:「公的立場にない」人物であることです。
- 差止めの論点:差止めが許されるかは、事前に表現を止めてよいかという、表現の自由の大きな論点にかかわります。
小説「石に泳ぐ魚」事件最高裁判所第三小法廷判決公人と非公人の軸、その一原審の確定した事実関係によれば、公共の利益に係わらない被上告人のプライバシーにわたる事項を表現内容に含む本件小説の公表により公的立場にない被上告人の名誉、プライバシー、名誉感情が侵害されたものであって、本件小説の出版等により被上告人に重大で回復困難な損害を被らせるおそれがあるというべきである。
長良川事件(比較衡量の考慮要素)
石に泳ぐ魚事件は、対象が公的立場にない人かどうかという軸を示しました。
公表されない利益と公表する理由は、具体的にどのような要素で量るのでしょうか。
長良川事件

事案殺人などの罪で起訴された、事件当時18歳の少年について、週刊誌が記事を書きました。
記事は仮名でしたが、生まれた年や月、生まれた場所、経歴などが詳しく書かれ、周囲の人が読めば本人だと推測できる内容でした。
少年は、プライバシー侵害を理由に、損害賠償を求めました。
結論次の諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要である、とされました。
- 本人:掲載当時の被上告人の年齢や社会的地位です。
- 犯罪行為:当該犯罪行為の内容です。
- 被害:プライバシーに属する情報が伝達される範囲と、被る具体的被害の程度です。
- 記事:本件記事の目的や意義です。
- 社会:公表時の社会的状況です。
- 必要性:当該情報を公表する必要性です。
- 判断:最高裁は結論そのものは出さず、これらの要素で審理し直すよう、高等裁判所に差し戻しました。
理由少年だからという一点で、公表してよいか悪いかが決まるわけではないからです。
年齢も、被害の広がりも、記事の目的も、事件ごとに違うので、一律の線を引かずに事案ごとに量らせました。
注意この判決が示したのは、量り方であって、答えではありません。
検索結果の削除をめぐる決定にも、ほとんど同じ要素が並んでいます。
長良川事件最高裁判所第二小法廷判決比較衡量の考慮要素を並べる本件記事が週刊誌に掲載された当時の被上告人の年齢や社会的地位、当該犯罪行為の内容、これらが公表されることによって被上告人のプライバシーに属する情報が伝達される範囲と被上告人が被る具体的被害の程度、本件記事の目的や意義、公表時の社会的状況、本件記事において当該情報を公表する必要性など、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由に関する諸事情を個別具体的に審理し、これらを比較衡量して判断することが必要である。
3つの判例の関係
結論プライバシーの3つの判例は、衡量の中身が具体化していく一本の線の上に並びます。
- 逆転事件:公表する利益と公表されない利益を比べる枠組みを作りました。挙げた事情は、生活状況や実名使用の必要性など、公表する側の理屈に重心がありました。
- 石に泳ぐ魚事件:対象が公人か非公人かという軸を加えました。
- 長良川事件:枠組みを「比較衡量」という言葉で受け止め、情報が伝わる範囲や具体的被害の程度など、書かれた本人の被害の大きさまで並べました。
注意月刊ペン事件も長良川事件も、報道機関の記事が問題になった事件です。
知る権利や取材の自由との関係も、論点になります。
公人と非公人の軸
月刊ペン事件と石に泳ぐ魚事件は、対象になった人物が大きく違います。
対象が誰かによって、結論はどう変わるのでしょうか。

結論対象が公人に近いほど批判にさらされやすく、非公人に近いほど守られやすくなります。
注意この軸は、名誉毀損にも、プライバシーにも、共通して働きます。
ヘイトスピーチ(傷つける相手が集団)
ここまでは、傷つける相手が特定の個人の場面でした。
傷つける相手が集団になると、何が変わるのでしょうか。
ヘイトスピーチの定義と保障
定義ヘイトスピーチとは、人種・民族・性別・性的指向など、特定の属性を持つ少数者の集団に向けられた、敵意や憎悪、嫌悪を表す表現です。
結論無価値な表現だから21条の外にある、という見解は、ここでも否定されます。
理由否定する理由は、名誉毀損のときと同じです。
- 転倒:法律や規制の解釈が、憲法の範囲を勝手に決めてしまいます。
- 萎縮効果:正当な表現まで、ためらわれてしまいます。
3つの特徴
結論ヘイトスピーチには、名誉毀損やプライバシーとは違う、特有の性質が3つあります。
- 尊厳:対象となる人の尊厳を傷つけます。
- 差別意識:差別意識を社会に広め、助長します。
- 反論の封じ込め:マイノリティの側からの反論を封じ込めます(いちばん重要)。
理由3つ目が重要なのは、思想の自由市場が効かなくなるからです。
- 思想の自由市場の前提:意見をぶつけ合う競争で正しい考えが生き残るには、反論する側が対等な立場で声を上げられることが前提です。
- 前提が壊れる:ヘイトスピーチは、しばしば「この社会にいるべきではない」というメッセージそのもので、討論の土俵に立つ資格自体を奪います。声を上げれば、かえって憎悪の対象にされる場合すらあります。
注意だからこそ、他の表現とは少し違った扱いが必要だと考えられています。
規制と審査基準
結論審査は、厳格審査基準をやや緩和した基準で行う、という考え方が有力です。
- 厳格審査基準:目的がやむにやまれぬほど重い利益であり、手段が必要最小限度であることまで求めます。
- やや緩和:通常の表現規制よりは厳しく見ますが、いちばん厳しい基準ほどではありません。
注意日本の法律と、規制の論点は次のとおりです。
- ヘイトスピーチ解消法:平成28年に成立しました。差別的な言動の解消に向けた取組を推進する、罰則のない理念法です。
- 直接処罰する場合:内容に着目した規制か中立的な規制か、検閲にあたらないか、という規制のやり方そのものが問題になります。
せん動(判例と学説の対立)
傷つける相手が集団の場面では、思想の自由市場が効かなくなります。
傷つける相手が社会全体になる、せん動は21条の保障に入るのでしょうか。
せん動とは
定義せん動とは、犯罪や違法な行為をするように、あおったり、そそのかしたりする表現です。
条文破壊活動防止法や国家公務員法など、いくつかの法律で処罰の対象です。
具体例「今すぐ、あの建物に火をつけろ」と大声で呼びかける表現です。
注意刑法の教唆犯とは、成立の仕方が違います。
- 教唆犯:人をそそのかして犯罪を実行させた責任で、相手が実際に犯罪を実行しないと成立しません。
- せん動:聞き手が実際に行動しなくても、あおること自体を処罰できます。
- 曖昧な規制:処罰する法律が曖昧だと、ここでも萎縮効果が生じます(規制の言葉の明確性の問題)。
判例の扱い
結論判例は、せん動について、言論の自由の限界を超えている、表現の自由としての保護に値しない、という言い方をしています。
保障の範囲外にあると解しているようである、と読めます。
注意判例は、はっきり「範囲外だ」と言い切っているわけではありません。
断定せず、「そう扱っているようだ」という温度で押さえます。
学説の扱い(明白かつ現在の危険)
結論せん動も21条1項で保障したうえで、規制を「明白かつ現在の危険」の基準で厳格に審査すべきだ、とする有力な見解があります。
- 明白性:重大な害悪が発生する蓋然性が、明白であることです。
- 切迫性:時間的に切迫していることです。
- 必要不可欠性:その害悪を防ぐ手段として、規制が必要不可欠であることです。
理由入口で外すことには、次の問題があるからです。
- 転倒:法律のほうが、憲法の守る範囲を決めてしまいます。
- 政治的主張との近さ:あおる表現の処罰は政治的な主張と紙一重で、外せば政府に批判的な言論までまとめて外に置かれかねません。
注意同じせん動について、判例と学説の立場が食い違っています。
政府言論(主体が国家)
せん動では、判例と学説で扱いが割れています。
では、表現する主体そのものが国家である場合は、どう扱われるのでしょうか。
政府言論
定義政府言論とは、政府が、自分の政策を国民に説明し、推し進める行為です。
具体例政府の広報活動です。
民主主義のもとでは、政府が政策をきちんと説明することは、積極的に評価されるべきです。
保障範囲に入らない理由
結論政府言論は、21条の保障の範囲に入りません。
理由「価値が低いから」ではなく、主体が国家だからです。
国家は、人権を持つ側ではなく、人権を保障する側です。
注意政府が、自分の政策に賛同する私人の表現活動を、秘密裏に援助する場合には、人権問題が生じることがあります。
その場面で表現しているのは私人なので、政府が自分で語る場面とは別の問題になります。
保障範囲外の2つを比べる
21条の入口に入らないものとして、せん動と政府言論が出てきました。
同じ「範囲外」でも、外れ方は同じなのでしょうか。

結論同じ「範囲外」でも、外れ方の重みがまったく違います。
理由人権を主張する側がいるかどうかが違うからです。
- せん動:火をつけろという呼びかけも人がした表現なので、入れるべきだという主張が成り立ちます。
- 政府言論:国家が人権の主体になれないという前提自体は、争いようがありません。
注意答案で「保障範囲外」と書くときは、この違いを意識します。