憲法ゼロから憲法#39

取材源の秘匿と放送の自由

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証言する義務が原則(拒む権利の根拠はどこにあるか)

証言義務が原則という土俵(交通事故を目撃→民事訴訟で証人として呼ばれる→「関わりたくない」だけでは拒めず、拒めるのは法律が個別に認めた場合だけ)

証言義務の原則

結論裁判で証人として呼ばれたら、証言する義務があるのが原則です。

証言を拒めるのは、法律が拒んでよいと個別に定めた場合だけです。

条文民事訴訟法190条と刑事訴訟法143条は、同じ形の条文です。

  • 民事:「特別の定めがある場合を除き」、何人でも証人として尋問できます。
  • 刑事:「特別の定のある場合を除いては」、何人でも証人として尋問できます。

具体例交通事故をたまたま目撃した人が、損害賠償請求訴訟の証人に呼ばれました。

「関わりたくないから」という理由だけでは、証言を拒めません。

190条|民事訴訟法 第二編 第一審の訴訟手続 第四章 証拠 第二節 証人尋問(190〜206条)裁判所は、特別の定めがある場合を除き、何人でも証人として尋問することができる。

143条|刑事訴訟法 第一編 総則 第十一章 証人尋問(143〜164条)裁判所は、この法律に特別の定のある場合を除いては、何人でも証人としてこれを尋問することができる。

記者の証言拒絶の位置づけ

結論記者が取材源について証言を拒むのは、原則に対する例外の主張です。

なぜ自分に例外が認められるのかを、記者の側が示さなければなりません。

注意判例で争われているのは、いつも「証言拒絶権の根拠をどこに求めるか」です。

「記者が勝った・負けた」という結果だけで覚えないようにします。

石井記者事件(比較衡量の前に退けた)

証言を拒めるのは、法律が個別に定めた場合だけです。
刑事手続で、条文に名前の無い新聞記者は、取材源の証言を拒めるのでしょうか。

石井記者事件の事案の流れ(収賄の捜査→逮捕状発付の事実が新聞へ漏洩→検察官が刑訴226条で証人尋問を請求→記者が取材源の証言を拒否し刑訴161条で起訴)

事案と記者の主張

事案税務署員の収賄などの捜査中に、逮捕状が出ていることが執行前に新聞に漏れました。

国家公務員が職務上知った秘密を漏らした罪に当たる疑いがかけられました。

  • 証人尋問:検察官が、記事を書いた記者の証人尋問を裁判官に請求しました。
  • 証言拒絶:記者は取材源の証言を拒否し、正当な理由のない証言拒絶として起訴されました。
  • 記者の主張:憲法21条から直接、証言を拒む権利が導けると主張しました。

条文刑事訴訟法の証言拒絶の条文(144〜149条)に、新聞記者は入っていません。

そのため記者には、21条から直接権利を導く道しか残っていませんでした。

149条|刑事訴訟法 第一編 総則 第十一章 証人尋問(143〜164条)医師、歯科医師、助産師、看護師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、公証人、宗教の職に在る者又はこれらの職に在つた者は、業務上委託を受けたため知り得た事実で他人の秘密に関するものについては、証言を拒むことができる。但し、本人が承諾した場合、証言の拒絶が被告人のためのみにする権利の濫用と認められる場合(被告人が本人である場合を除く。)その他裁判所の規則で定める事由がある場合は、この限りでない。

21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

判断1:条文の類推適用の否定

結論刑訴144〜149条の例外規定は限定的列挙で、他の場合に類推適用すべきものでないとされました。

医師などと比べて、新聞記者に149条を類推適用することもできません。

理由記者に証言拒絶権を認めるかは立法政策の問題で、裁判所が条文を広げる話ではないからです。

注意判決の「限定的列挙」は、「限定列挙」と同じ意味です。

判決は、刑訴143条を引いて、証言義務が原則であることも確認しています。

石井記者事件最高裁判所大法廷判決限定列挙・類推適用の否定「刑訴一四四条乃至一四九条の規定がその場合を列挙している……前示例外規定は限定的列挙であつて、これを他の場合に類推適用すべきものでないことは勿論である。新聞記者に取材源につき証言拒絶権を認めるか否かは立法政策上考慮の余地のある問題であり……わが現行刑訴法は新聞記者を証言拒絶権あるものとして列挙していないのであるから、刑訴一四九条に列挙する医師等と比較して新聞記者に右規定を類推適用することのできないことはいうまでもないところである。」

判断2:21条は一般的な保障

結論21条は一般人に平等に表現の自由を保障したもので、新聞記者に特種の保障を与えたものではないとされました。

取材源について、証言拒絶の権利までも保障したものとは到底解することができないとされました。

理由判決は、次の2つを重ねています。

  • 取材の段階:まだ言いたいことの内容も定まらない、その前の段階の行為です。
  • 証言の義務:司法権の公正な発動に、必要欠くべからざるものです。

石井記者事件最高裁判所大法廷判決21条は一般的保障「憲法の右規定は一般人に対し平等に表現の自由を保障したものであつて、新聞記者に特種の保障を与えたものではない。……未だいいたいことの内容も定まらず、これからその内容を作り出すための取材に関しその取材源について、公の福祉のため最も重大な司法権の公正な発動につき必要欠くべからざる証言の義務をも犠牲にして、証言拒絶の権利までも保障したものとは到底解することができない。」

比較衡量に入っていない

結論記者の主張は、条文の受け皿が無い・憲法も特別扱いしていない、という二段の門前払いで退けられました。

理由「一般に証言義務のほうが重い」と言い切っただけです。

この事件の報道の意義や、証言の必要性を、その場で量ってはいません。

注意「刑事裁判の必要性のほうが重いから認めない」という比較衡量の判断ではありません。

比較衡量すら行われなかった点が、この事件の核心です。

嘱託証人尋問証言拒否事件(民事は「職業の秘密」に入る)

刑事では、記者は比較衡量の土俵にも乗れませんでした。
民事の場面で同じ問いが争われたとき、結論はどうなったのでしょうか。

国際司法共助の経路(米連邦地裁が新潟地裁に証人尋問を嘱託→NHK記者を尋問→記者は職業の秘密を理由に証言拒絶・アメリカで訴えを起こした側の抗告は最高裁まで認められず)

事案

定義嘱託とは、頼んで任せることです。

国と国のあいだで、証人尋問を頼み合う場面で使われます。

事案アメリカで起こされた損害賠償請求訴訟が、発端です。

  • 嘱託:ディスカバリー(裁判前に証拠を幅広く集める手続)の一環で、アメリカの連邦地方裁判所が、国際的な取り決めに基づき日本の裁判所に証人尋問を頼みました。
  • 尋問:新潟地方裁判所が、NHKの記者を尋問しました。企業グループの所得隠しの報道の取材源を聞かれました。
  • 証言拒絶:記者は、職業の秘密に当たることを理由に証言を拒みました。
  • 抗告:アメリカで訴えを起こした側が、証言拒絶に理由がないとして抗告しました。

結論最高裁まで争われ、証言拒絶は認められました。

出発点と争点の条文

結論出発点は、刑事と同じく証言義務の原則です。

決定も、何人も証言をすべき義務を負い、一定の事由がある場合に限って例外的に証言を拒絶することができると述べています。

条文争点になったのは、民事訴訟法197条1項3号の「技術又は職業の秘密」です。

  • 1号:公務員が、職務上知った秘密についての規定です。
  • 2号:医師や弁護士などを名指しする規定で、刑訴149条とよく似た作りです。2号にも、新聞記者は入っていません。
  • 3号:職業を名指しせず、どんな職業の秘密でも受け止められる一般条項です。記者を救ったのは3号です。

嘱託証人尋問証言拒否事件最高裁判所第三小法廷決定証言義務の原則「民訴法は、公正な民事裁判の実現を目的として、何人も、証人として証言をすべき義務を負い(同法190条)、一定の事由がある場合に限って例外的に証言を拒絶することができる……」

197条|民事訴訟法 第二編 第一審の訴訟手続 第四章 証拠 第二節 証人尋問(190〜206条)1項:次に掲げる場合には、証人は、証言を拒むことができる。……三 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

取材源の秘密は職業の秘密に当たる

結論取材源の秘密は職業の秘密に当たるとされました。

理由取材源がみだりに開示されると、取材源となる者との信頼関係が損なわれます。

将来の自由で円滑な取材活動が妨げられ、報道機関の業務の遂行が困難になるからです。

注意職業の秘密に当たっても、自動的に証言拒絶が認められるわけではありません。

嘱託証人尋問証言拒否事件最高裁判所第三小法廷決定職業の秘密への該当性「報道関係者の取材源は、一般に、それがみだりに開示されると、報道関係者と取材源となる者との間の信頼関係が損なわれ、将来にわたる自由で円滑な取材活動が妨げられることとなり、報道機関の業務に深刻な影響を与え以後その遂行が困難になると解されるので、取材源の秘密は職業の秘密に当たるというべきである。」

保護に値する秘密か(比較衡量)

結論保護に値する秘密かどうかは、次の諸事情を比較衡量して決めるとされました。

  • 報道の側:報道の内容・性質・社会的な意義や価値、取材の態様、将来の同種の取材が妨げられる不利益の内容・程度です。
  • 民事事件の側:事件の内容・性質・社会的な意義や価値、証言を必要とする程度、代替証拠の有無です。

理由比較衡量の材料には、21条の趣旨が取り込まれています。

  • 報道の自由:報道は国民の知る権利に奉仕するもので、21条の保障の下にあります。
  • 取材の自由:21条の精神に照らし、十分尊重に値するものです。
  • 取材源の秘密:取材の自由を確保するために必要なもので、重要な社会的価値を有するとされました。

注意報道の自由は「保障の下にある」、取材の自由は「十分尊重に値する」という言葉の選び分けは、博多駅事件の言い回しをそのまま引き継いでいます。

嘱託証人尋問証言拒否事件最高裁判所第三小法廷決定保護に値する秘密かどうかの考慮要素「当該取材源の秘密が保護に値する秘密であるかどうかは、当該報道の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該取材の態様、将来における同種の取材活動が妨げられることによって生ずる不利益の内容、程度等と、当該民事事件の内容、性質、その持つ社会的な意義・価値、当該民事事件において当該証言を必要とする程度、代替証拠の有無等の諸事情を比較衡量して決すべきことになる。」21条の趣旨との接続「報道機関の報道は……国民の知る権利に奉仕するものである。したがって……事実報道の自由は、表現の自由を規定した憲法21条の保障の下にあることはいうまでもない。……取材の自由も、憲法21条の精神に照らし、十分尊重に値するもの」であり、「取材源の秘密は、取材の自由を確保するために必要なものとして、重要な社会的価値を有する」。

あてはめ

結論取材源の秘密は保護に値し、証言拒絶には正当な理由があるとされました。

理由報道の側と事件の側の事情は、次のとおりでした。

  • 報道の側:公共の利害に関わる報道で、取材の手段にも違法な点はありませんでした。
  • 事件の側:アメリカの裁判はまだディスカバリーの段階で、証言が必要不可欠とまではいえませんでした。

なぜ結論が分かれたのか(条文の受け皿の違い)

石井記者事件は比較衡量に入らず、嘱託証人尋問証言拒否事件は比較衡量で証言拒絶を認めました。
同じ取材源の証言拒絶なのに、この違いはどこから来るのでしょうか。

石井記者事件(刑事)と嘱託証人尋問証言拒否事件(民事)の対比表(手続と争点/21条の使われ方/条文の受け皿/結論)

条文の作りの層

結論分かれ目は、受け皿となる条文があるかどうかです。

  • 刑事:刑訴144〜149条は限定列挙で、記者は入っていません。受け皿が無いので、21条から直接権利を引き出すしかありませんでした。
  • 民事:民訴197条1項3号の一般条項が受け皿になりました。「職業の秘密に当たるか」という条文の解釈問題として争えました。

理由解釈問題として争えたので、その解釈の中に21条の趣旨(知る権利への奉仕・取材の自由の意義)を考慮要素として取り込めました。

理由づけの層

結論もう一つの理由は、真実発見の要請の強さの違いです。

  • 刑事:真実発見の要請が強いです。
  • 民事:そこまで強くありません。

理由石井記者事件の判決も、証人に犠牲を強いる根拠を、実体的真実の発見によって法の適正な実現を期する司法裁判の使命に求めています。

注意2つの層は区別しますが、無関係ではありません。

民事訴訟法が「職業の秘密」という一般条項を用意したこと自体、真実発見の要請がそこまで強くないという価値判断の表れともいえます。

目盛りを立てる場面と、その場で天秤にかける場面

判例は、違憲審査基準ではなく、比較衡量で判断することがあります。
あらかじめ目盛りを立てる違憲審査基準と、比較衡量は、どう使い分けるのでしょうか。

見分け方

結論何を測るかで、使う道具が変わります。

  • 目盛り(違憲審査基準):主に法律そのものが憲法に反するかを、あらかじめ立てた物差しで測ります。
  • 天秤(比較衡量):目の前の一つの処分・証言拒絶が許されるか、または法律の要件をどう解釈してあてはめるかを決めます。

理由比較衡量には、国家の利益に偏りやすい欠陥があります。

そのため、法律そのものを測る場面では、目盛りを先に固定しておきます。

具体例この回の判例は、次のように位置づけられます。

  • 石井記者事件:天秤に乗りませんでした。
  • 嘱託証人尋問証言拒否事件:「職業の秘密」の解釈とあてはめで、天秤に乗せてもらえました。

注意ここで作るのは見分け方だけで、3層の物差し(厳格・中間・合理性)の中身は変わりません。

放送の自由(保障はされても特別な制約がある)

ここからは、取材源から放送に話題が移ります。
放送も表現の自由として保障されるのに、なぜ新聞には無い制約があるのでしょうか。

新聞と放送の落差(新聞の社説は政策への賛成を打ち出せ、同じ義務を課せば違憲のはず/放送法4条1項は放送局にだけ政治的公平と多角的な論点提示を課す内容規制)

放送の自由

結論放送も、21条1項の表現の自由として保障されます。

注意ただし放送局には、新聞には無い特別な制約がかかっています。

放送法4条1項

条文放送法4条1項は、番組の編集について放送事業者に次の義務を課しています。

  • 2号:政治的に公平であること。
  • 4号:意見が対立している問題は、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

具体例同じ義務を新聞に課すと、社説で政策への賛成を打ち出すこと自体が封じられます。

この義務づけは、違憲と判断される可能性が高いはずです。

注意4条1項は、番組の主題や見解に踏み込むので、内容規制の側に入ります。

内容規制は本来いちばん警戒される規制なので、放送だけに許される理由が問われます。

4条|放送法 第二章 放送番組の編集等に関する通則(3〜14条)1項:放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。一 公安及び善良な風俗を害しないこと。二 政治的に公平であること。三 報道は事実をまげないですること。四 意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

目盛りと天秤のどちらの場面か

結論問われているのは、4条1項という法律そのものが憲法に反しないかです。

つまり、目盛りの側の場面です。

注意一つの番組が公平だったかを量る話ではありません。

放送だけを縛ることを、どう正当化するかが問題になります。

制約を支えてきた根拠(今も生きているか)

放送法4条1項は、放送だけに課される内容規制です。
この規制を正当化してきた根拠は、今も説得力を持つのでしょうか。

正当化根拠の対比表(電波の有限性=周波数と放送局の数に限り→多チャンネル化・デジタル化で揺らぐ/強烈な影響力=テレビは人を動かしやすい→科学的根拠に乏しく政治的公平の規制の正当化には足りない)

結論従来の根拠は、電波の有限性と放送の強烈な影響力の2つですが、どちらも揺らいでいます。

注意政治的公平のように、言論の中身に踏み込む規制を正当化するには、この程度の根拠では足りないはずです。

今どう説明するか(倫理規定説と部分規制論)

放送法4条1項を支えてきた根拠は、揺らいでいます。
では、この規制は今どのように説明されているのでしょうか。

倫理規定説と部分規制論の対比表(倫理規定説=法的な強制力を持たない倫理的な規定として読み、規定の効力を弱めて合憲とする/部分規制論=放送だけを規制してメディア全体で欠点を補い合い、規制の存在に理由を与えて正当化する・いずれも有力で決着なし)

倫理規定説

具体例倫理規定説に立つと、放送局が新聞の社説のように一方に肩入れしても、それを理由に国が法的な制裁を科すことはできません。

政治的公平や多角的な論点提示は、放送局が自主的に守るべき心構えにとどまります。

部分規制論

具体例新聞は社説ではっきり賛成と言ってよく、その代わり放送は両論を出します。

この組み合わせなら、受け手はどちらの形の情報にもたどり着けます。

2つの説の違い

結論2つの説は、どちらも有力ですが、判例・通説としての決着はついていません。

注意2つの説は、救い方の向きが逆なだけでなく、答えている問いも違います。

  • 倫理規定説:4条1項は法的な義務ではないので、反しても「法的な義務に違反した」とはいえなくなります。
  • 部分規制論:放送だけを規制することに意味がある、と説明する議論です。条文が法的な義務かどうかまでは決めていません。

NHK受信料訴訟(知る権利が制度を支える側に回る)

放送には、公共放送と民間放送があります。
受信契約を義務づける仕組みは、契約の自由や知る権利、財産権を侵害しないのでしょうか。

二本立て体制の図(NHK=公共放送・受信料/民間放送=広告収入が放送法のもとで並び立ち、互いに啓発し欠点を補い合う)

事案

事案NHKの放送を受信できる設備を設置しながら、受信契約を結ばない人がいました。

NHKがその人に対して、契約締結の承諾を求めて提訴しました。

受信契約の強制が、契約の自由・知る権利・財産権を侵害しないかが争われました。

条文根拠は、放送法64条1項の「受信契約を締結しなければならない」です。

注意64条1項は、その後の法改正で今の形(1号・2号)になりました。

最高裁が判断したのは、受信設備を設置した者は協会と契約をしなければならない、という改正前の一本の規定です。

2号(特定必要的配信の受信を開始した者)は、判決の射程の外です。

64条|放送法 第三章 日本放送協会 第六節 受信料等(64〜67条)1項:次の各号のいずれかに該当する者は、認可契約条項で定めるところにより、協会と受信契約を締結しなければならない。一 特定受信設備を設置した者二 特定必要的配信の受信を開始した者

二本立て体制

定義二本立て体制とは、公共放送と民間放送の2つの系統が並び立つ体制です。

  • 公共放送:NHKです(受信料)。
  • 民間放送:広告収入で番組を作るテレビ局です。

結論判決は、放送法がこの体制を採ったとしました。

理由それぞれが長所を発揮し、互いに他を啓もうし、欠点を補い、国民が放送により十分福祉を享受できるようにするためです。

NHK受信料訴訟最高裁判所大法廷判決公共放送と民間放送の並び立つ体制「放送法は……公共放送事業者と民間放送事業者とが、各々その長所を発揮するとともに、互いに他を啓もうし、各々その欠点を補い、放送により国民が十分福祉を享受することができるように図るべく、二本立て体制を採ることとしたものである。」

合理性と立法裁量

結論二本立て体制の下でNHKを存立させ、財政的基盤を受信料で確保する仕組みは、次のように評価されました。

  • 目的:21条の表現の自由の下で、国民の知る権利を実質的に充足すべく採用されたものです。
  • 評価:その目的にかなう合理的なもので、立法裁量の範囲内にあることは明らかとされました。

注意次の2点を正確に押さえます。

  • 主語:評価されたのは受信料そのものではなく、制度全体(仕組み)です。「受信料が合理的」と縮めると不正確です。
  • 審査の厳しさ:厳しい物差しではなく、「立法裁量の範囲内」という緩やかな枠組みで処理しています。「合憲と言い切る」のとは審査の厳しさが違います。

NHK受信料訴訟最高裁判所大法廷判決合理性と立法裁量「公共放送事業者と民間放送事業者との二本立て体制の下において、前者を担うものとして原告を存立させ……その財政的基盤を受信設備設置者に受信料を負担させることにより確保するものとした仕組みは……憲法21条の保障する表現の自由の下で国民の知る権利を実質的に充足すべく採用され、その目的にかなう合理的なものであると解される……これが憲法上許容される立法裁量の範囲内にあることは、明らかというべきである。」

知る権利の向きの転回

結論この判決では、知る権利が制度を正当化する側に回っています。

注意知る権利は、「妨げるな」の側面も「公開しろ」の側面も、国民の側に立つ権利でした。

ここでは、その国民に契約を義務づける制度を支える理由になっています。

契約成立の時期

結論NHKが承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立するとされました。

理由設備を置いた瞬間に契約が自動で成立する作り方は採らず、契約という形自体は崩していないからです。

注意判決が確定するまでは、契約はまだありません。

NHK受信料訴訟最高裁判所大法廷判決契約成立の時期「原告がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め、その判決の確定によって受信契約が成立すると解するのが相当である。」

制度の枠外の視聴の自由

結論制度の枠を離れて受信設備で放送を視聴する自由は、憲法上保障されていると解することはできないとされました。

その結果、契約の自由・知る権利・財産権のいずれも侵害しないとされました。

理由受信設備を持つ以上、契約するのが制度の前提だからです。

注意知る権利は、制度を正当化するときには効きますが、個人が制度から抜けるときには効きません。

同じ言葉がどちらの向きにどこまで働くかに、線が引かれています。

NHK受信料訴訟最高裁判所大法廷判決制度の枠外の視聴の自由「このような制度の枠を離れて被告が受信設備を用いて放送を視聴する自由が憲法上保障されていると解することはできない。」

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