憲法ゼロから憲法#40

通信の秘密とインターネット

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21条の守備範囲(同居する3つのもの)

1項・2項前段・2項後段

定義21条には、次の3つが同居しています。

  • 1項:公に向けて発表する自由(と、受け手の自由)です。
  • 2項前段:検閲の禁止です。行政が、表現が世に出る前に止めることを禁じます。
  • 2項後段:そもそも公に向けて発表しないやりとりの保護(通信の秘密)です。

注意1項と2項後段は、一見すると正反対に見えます。

21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。2項:検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

なぜ同じ条文に同居するのか

結論21条が守っているのは、表現が生まれて、世に出るまでの全工程です。

3つは矛盾ではなく、範囲の違う保護が重なっています。

理由人は、相談や下書きなどのやりとりを重ねてから、発表にたどり着きます。

そのやりとりが筒抜けになるなら、安心して話せず、考えもまとまりません。

  • 1項:世に出す段階そのものを守ります。
  • 2項前段:世に出る前に行政が止めることを禁じます。
  • 2項後段:世に出すかどうかも決まっていない、その手前の段階を守ります。

通信の秘密の趣旨(二層)

21条2項後段は、発表の手前のやりとりを守っています。
では、なぜ通信の秘密を、わざわざ条文で守るのでしょうか。

通信の経路の関係図(送る側→①預ける→通信事業者→②届ける→受け取る側/通信事業者にも中身を見せない約束を国家が担保)

1層目:プライバシー権の一局面

定義プライバシー権とは、自己に関する情報をコントロールする権利です。

結論通信の秘密は、13条のプライバシー権の一つの側面を、明文で保障したものです。

13条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

2層目:通信を運ぶ者への特別な位置づけ

結論通信を運ぶ者を特別な立場に置き、人が安心して他人とやりとりできる状態を支えます。

理由通信は、郵便を運ぶ人や回線の事業者など、必ず第三者の手を経由します。

そこで、間に立つ者にも守秘の義務を及ぼしています。

  • 約束の中身:人に預けないと届かないのに、預けた相手にも中身を見せない、という約束を国家が担保しています。

注意プライバシー権だけでは、「自分の情報を自分でコントロールする」で説明が終わります。

通信を別に置く理由は、この制度的な保障(2層目)まで挙げて初めて説明できます。

「通信」の定義と保護の範囲

通信の秘密は、プライバシーと通信事業者への信頼の二層で支えられています。
では、保護される「通信」とは何で、どこまで守られるのでしょうか。

「通信」の定義

「通信」の定義を境界で歩く表(誰でも見られる掲示板への投稿=通信ではない・21条1項の問題/鍵をかけた特定の相手とのやりとり=通信に当たる/大勢だが個々に宛先のある一斉送信=要検討)

定義通信は、非公開で、特定の相手との間で行われるやりとりです。

手段は問いません(手紙・電話・電子的なやりとり)。

注意大勢だが個々に宛先のある一斉送信は、はっきり決着した線引きがありません。

送る側が、大勢でも相手を特定できているかが軸になりそうです。

試験でも線引きが効いてくる、要注意のところです。

外形情報

結論保護は中身だけでなく、外形情報にも及びます。

  • 範囲:送る側・受け取る側の名前や住んでいる場所、やりとりをした日時や回数です。

理由誰と、いつ、何回やりとりしたかの記録だけで、交友関係や行動パターン、時には信条まで復元できます。

外形の記録が自由に取れると、通信事業者への信頼という趣旨の半分が空洞化します。

具体例深夜0時過ぎに同じ番号へ7日連続でかけた通話記録だけがあるとします。

番号が法律事務所の夜間相談窓口なら、中身を読まずに深刻な相談があると分かります。

注意プライバシー権で扱う外延情報(束ねると重い情報に届く鍵になる情報)とは、別の話です。

外形情報は、通信の秘密がやりとりの外側まで及ぶ、という話です。

通信の秘密の制約(3つの類型)

通信の秘密は、中身だけでなく外形情報まで守ります。
では、通信の秘密が破られるのは、どのような場面でしょうか。

通信の秘密が破られる3類型の表(犯罪捜査=刑訴法100条・222条・司法を正しく働かせること/財産の管理・清算=破産法82条・債権者全体の利益/施設の規律と矯正=刑事収容施設法127条・222条・施設の中の規律と秩序)

結論通信の秘密も、公共の福祉による制約に服します。

注意3つとも「破ってよい」点は同じに見えますが、守ろうとしている利益がそれぞれ別です。

犯罪捜査(刑訴法100条)

条文100条は、裁判所が郵便物(信書を含む)などを差し押さえる権限です。

  • 2項:被告人以外の人が出した郵便物も、事件に関係があると認められれば差し押さえられます。
  • 3項:差し押さえたことを、原則として発信人か受信人に知らせなければなりません。
  • 222条:100条を、検察官・検察事務官・司法警察職員による捜査の場面に準用しています。

100条|刑事訴訟法 第一編 総則 第九章 押収及び捜索(99〜127条)1項:裁判所は、被告人から発し、又は被告人に対して発した郵便物、信書便物又は電信に関する書類で法令の規定に基づき通信事務を取り扱う者が保管し、又は所持するものを差し押え、又は提出させることができる。

財産の管理・清算(破産法82条)

定義破産管財人とは、破産した人の財産を管理して債権者に分配する役割を、裁判所から選ばれて務める人です。

条文82条は、破産管財人が、破産者あての郵便物を開いて見ることを認めています。

理由破産した人の財産を正しく把握して、債権者に公平に分配するためです。

注意郵便物を破産管財人あてに転送するよう裁判所が嘱託できるのは、81条です。

  • 81条:転送の話です。
  • 82条:開いて見る話です。

82条|破産法1項:破産管財人は、破産者にあてた郵便物等を受け取ったときは、これを開いて見ることができる。2項:破産者は、破産管財人に対し、破産管財人が受け取った前項の郵便物等の閲覧又は当該郵便物等で破産財団に関しないものの交付を求めることができる。

施設の規律と矯正(刑事収容施設法127条・222条)

条文信書の検査を認める条文は、対象ごとに分かれています。

  • 127条:刑事施設にいる受刑者の信書です。
  • 222条:留置施設にいる未決拘禁者の信書です。

127条|刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律1項:刑事施設の長は、刑事施設の規律及び秩序の維持、受刑者の矯正処遇の適切な実施その他の理由により必要があると認める場合には、その指名する職員に、受刑者が発受する信書について、検査を行わせることができる。

222条|刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律1項:留置業務管理者は、その指名する職員に、未決拘禁者が発受する信書について、検査を行わせるものとする。

通信傍受法

通信の秘密は、目的の違う3つの類型で制約されています。
では、捜査のために国家が通信を聞くことは、どう扱われているのでしょうか。

通信傍受法の中身

定義傍受とは、通信をこっそり聞くことです。

  • 正式名称:犯罪捜査のための通信傍受に関する法律です。
  • 内容:一定の犯罪の捜査のために、国家が通信を傍受することを認めています。

結論平成28年の法改正で、対象になる犯罪が大きく広がりました。

具体例殺人・放火・逮捕監禁・略取誘拐・窃盗・強盗・詐欺・恐喝・児童ポルノに関わる罪なども、対象に含まれます。

注意「重大な犯罪だけに限られている」という理解は、もう古いです。

ただし、広がった側の犯罪は、役割を決めて動く集団によるものに限られます。

一人でやった窃盗は、対象になりません。

合憲性への疑い

結論合憲性に疑いを示す見解があり、指摘は2つです。

  • 構造の問題:令状で対象を絞っても、無関係かどうかは聞くまで分からず、無関係な通信の傍受を完全には排除できません。
  • 事後の救済:傍受された人への、事後的な救済が十分ではありません。

具体例捜査対象者の電話に、家族から夕飯の相談がかかってきた場合です。

事件と無関係だと分かるのは、聞いてしまった後です。

注意通信傍受法という法律そのものの合憲性を問う場面なので、違憲審査基準(目盛り)を立てる側の話です。

目の前の一つの判断を測る比較衡量(天秤)ではありません。

インターネットと送り手・受け手の固定化

ここまでは、発表しないやりとりの保護と、その制約でした。
では、インターネットは、送り手と受け手の関係をどう変えたのでしょうか。

固定化を解く

定義マスメディアの発達で、情報を発信する人と受け取る人が分離し、固定化しました。

受け手の側から21条を読み直して、知る権利という考え方が出てきました。

結論インターネットは、情報の発信が安価で双方向にできるので、その固定化を解きます。

新聞社や放送局を通さずに、一般の国民が発信者としての地位を回復する可能性が開かれました。

具体例新聞への投書は、載せるかどうかを決めるのは他人でした。

今は、同じ内容を自分の判断でそのまま出せます。

規制を強めてよいという向き(匿名性と違法な表現)

インターネットは、安価で双方向に発信できる場です。
では、この性質は、規制を強める理由になるのでしょうか。

匿名性を利用した違法な表現

定義匿名性とは、誰が発信したか分からない状態で発信できることです。

結論匿名性を利用した違法な表現が氾濫しているため、従来の表現とは違う特別な制約が許されるべきだ、という見解が有力に主張されています。

具体例わいせつな表現、名誉を傷つける表現、他人のプライバシーを侵す表現、薬物の売買につながる情報などです。

注意通説とまでは言い切れず、有力な見解という段階です。

匿名性の土台

結論発信者を簡単には突き止められない、という匿名性の土台には、通信の秘密の保障があります。

規制を緩めてよいという向き(対抗言論の法理)

同じ性質から、規制を強めるべきだという見解が出てきます。
では、逆に規制を緩める方向の議論は、何を根拠にするのでしょうか。

同じ性質から出る逆向きの2つの議論の表(強める向き=匿名性を利用した違法な表現の氾濫・特別な制約を許してよい〈有力説〉/弱める向き=対抗言論の法理・名誉毀損の成立範囲を狭く解する余地)

対抗言論の法理

定義対抗言論の法理とは、言論には言論で対抗するべきだ、という考え方です。

結論インターネットでは反論が比較的容易なので、名誉毀損の成立範囲を通常の表現より狭く解釈してよいのではないか、という余地が出てきます。

理由反論できれば、間違った情報がその場で正されうるからです。

意見の競争の中で正しい考えが生き残る、という思想の自由市場の発想が働きます。

なぜ逆向きの議論が両方出てくるのか

結論同じ「誰でも書き込める場」という事実が、片方では被害が拡散する理由に、もう片方では救済が容易になる理由になっています。

どちらが正しいかではなく、事実の評価の向きが場面で変わるだけです。

最高裁の判断(相当性の法理は緩和しない)

学説には、インターネットでは名誉毀損を緩めてよいという議論があります。
では、最高裁は、この対立にどう答えたのでしょうか。

相当性の法理

定義相当性の法理とは、摘示した事実を真実と誤信しても、確実な資料・根拠に照らし相当の理由があれば、犯罪の故意が無く、名誉毀損罪が成立しないとする仕組みです。

インターネット上の名誉毀損事件(小法廷の決定)

事案被告人は、自ら運営するホームページに、フランチャイズ方式で加盟店を募集していた会社について掲載しました。

  • 内容:同社がカルト集団であるという虚偽の内容と、同社が虚偽の広告をしているかのような内容です。
  • 状態:不特定多数が閲覧できる状態にしました。

名誉毀損罪の成否が争われました。

結論確実な資料・根拠に照らし相当の理由があったとはいえず、相当性の法理を緩和する必要はないとしました。

理由理由は2つです。

  • 信頼性:インターネットの個人利用者が発信した情報だからといって、閲覧者が一律に信頼性の低い情報として受け取るとは限りません。
  • 被害の深刻さ:瞬時に不特定多数が閲覧でき、被害は深刻になり得ます。一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく、インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないのです。

注意混同しやすい点は、次の2つです。

  • 学説との向き:学説(緩める方向)と判例(緩めない方向)は逆です。反論が容易という点に、反論できても名誉は回復しきれない、と答えています。
  • 射程:インターネットだから緩めなくてよい、というところまでです。通常より厳しく見てよい、とまでは言っていません。

インターネット上の名誉毀損事件最高裁判所第一小法廷決定インターネット上の名誉毀損・事案被告人は、自ら運営するホームページに、フランチャイズ方式で加盟店を募集していた会社について、同社がカルト集団であるという虚偽の内容と、同社が虚偽の広告をしているかのような内容を掲載し、不特定多数が閲覧できる状態にした。名誉毀損罪の成否が争われた。インターネット上の名誉毀損・相当性の法理を緩和しない摘示事実を真実であると誤信したことについて、確実な資料・根拠に照らし相当の理由があったとはいえない——相当性の法理を緩和する必要はないとした。理由は、二つある。インターネットの個人利用者が発信した情報だからといって、閲覧者が一律に信頼性の低い情報として受け取るとは限らないこと。そして、インターネット上の表現は瞬時に不特定多数が閲覧できる状態になり、名誉毀損の被害は深刻なものとなり得るうえ、一度損なわれた名誉の回復は容易ではなく、インターネット上での反論によって十分にその回復が図られる保証があるわけでもないこと。

表現活動への公権力の支援

ここまでは、表現を規制する側から21条を見てきました。
では、規制していないのに、21条の問題が起きるのはどのような場面でしょうか。

政府による支援の危険

結論政府が優れた表現作品を選んで支援すること自体は、従来から広く認められてきました。

注意近年危険視されているのは、政府が自分が言論の主体であることを明かさないまま、ある方向の意見を後押しする場面です。

支援されるかどうかで世に出やすさが変わり、禁止していないのに思想の自由市場が歪みます。

  • 具体例:政策を応援する映画には制作の助成金を出し、批判する映画には出さない選別を、政府が発信者だと明かさずに行う場合です。

答案での処理(14条1項)

結論援助を受ける人と受けない人との差別として捉え、14条1項の審査の型に載せます。

区別に合理的な理由があるかを測る型です。

理由支援しないこと自体は表現の禁止ではないので、21条だけでは構成しづらいからです。

「禁止はしていないが、扱いに差がある」という構造は、14条1項の方が扱いやすいのです。

注意これは通説というより、答案戦略上の選び方です。

14条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

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