憲法ゼロから憲法#41

公務員の政治活動

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政治的行為の禁止(国家公務員法102条1項)

同じ行為でも、公務員だと処罰される

隣人が自宅前に選挙ポスターを貼っても何も起きないが、郵便局員が勤務時間外に私人として貼ると起訴されることがある、という対比表

結論行為がまったく同じでも、公務員だと刑罰の対象になることがあります。

違うのは、身分だけです。

注意制約の問題は、2つの筋に分けて整理します。

  • 制約の根拠:なぜ公務員だと制限できるのか(第2〜4節)。
  • 審査の道具:根拠が立ったあと、どこまで制限してよいかを測る方法(第5〜11節)。

102条1項の作り(人事院規則への委任)

結論102条1項は、政治的行為を禁止する骨組みだけを定めています。

何が「政治的行為」に当たるかの中身は、人事院規則に委ねられています。

注意国会ではなく規則を作る行政機関が、実質的に何が犯罪になるかを決めていることになります。

犯罪と刑罰の中身は、法律自身が定めておくべきだという要請があります。

この構造は、その要請と緊張関係にあります(詳しくは行政法の分野で問われます)。

102条|国家公務員法 第三章 職員に適用される基準 第七節 服務(96〜106条)1項:職員は、政党又は政治的目的のために、寄附金その他の利益を求め、若しくは受領し、又は何らの方法を以てするを問わず、これらの行為に関与し、あるいは選挙権の行使を除く外、人事院規則で定める政治的行為をしてはならない。

選挙権の行使は除かれる

結論102条1項は「選挙権の行使を除く外」と定めており、投票は禁止の対象外です。

注意そのため、「一律・全面禁止」と言い切ると、少し正確さを欠きます。

ただし、投票以外の政治的な行為は、非常に広く規則の対象に入ります。

人事院規則14-7が定める類型

定義規則が挙げる政治的行為には、たとえば次のものがあります。

  • 団体:政党などの政治団体を作ることや、その運営に関わること。
  • 人と資金:特定の政党や候補者のために、人を動かしたりお金を集めたりすること。
  • 文書図画:政治的な目的を持つ文書や図画を、掲示・配布すること。
  • 署名運動:署名運動を企画したり、中心になって進めたりすること。
  • 演説:政治的な目的を持つ集会で、演説をすること。

具体例休日に駅前で、特定の政党のためにビラを配ることも、対象に入り得ます。

注意勤務時間の内外を問わず、私人としての行為も含まれます。

だから、勤務時間外に私人として貼ったポスターでも、対象になり得ます。

違反には刑罰がある(110条1項18号)

結論違反は、行政上の処分ではなく刑事罰の対象です。

法定刑は、3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金です。

注意勤務時間外・職場の外・私人としての活動にまで及び、しかも刑罰が付きます。

これは、他の人権が制限される場面とは水準が違います。

一般の人の同じ行為なら、表現の自由(21条)として強く守られるはずです。

110条|国家公務員法 第四章 罰則(109〜113条)1項:次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金に処する。十八 第百二条第一項に規定する政治的行為の制限に違反した者

21条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。

国家公務員と地方公務員

国家公務員(国公法102条1項)と地方公務員(地公法36条)の対比表:禁止の広さはほぼ同水準だが、違反の効果は国が刑罰あり・地方は懲戒処分のみ

結論地方公務員法36条も政治的行為を制限しており、中身は国家公務員とかなり近いものです。

しかし地方公務員の違反には刑罰の規定がなく、効果は懲戒処分にとどまります。

理由国と地方で扱いが違う理由に、はっきりした答えは出ていません。

確かめられるのは、国には罰則があり、地方には無いという条文の作りです。

注意「公務員だから刑罰」という説明では、この違いを説明できません。

制約の根拠①:全体の奉仕者説

公務員の政治的行為は、勤務時間外の私人としての活動まで、刑罰付きで禁止されています。
では、この強い制約は何を根拠にしているのでしょうか。

全体の奉仕者説

定義全体の奉仕者説とは、15条2項を根拠に、公務員を一つの身分として括り、一律の制約を認める考え方です。

理由公務員である以上、特定の政党や候補者を応援する活動は、その中立性にそぐわないからです。

具体例勤務時間外に私人としてポスターを貼った郵便局員も、「公務員だから」の一言で制約してよいことになります。

仕事の中身も、貼った時間も関係ありません。

15条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)2項:すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。

全体の奉仕者説の難点

結論この説には、2つの難点があります。

  • 抽象的すぎる:「全体の奉仕者」という言葉からは、全体のために働く以上の中身が見えません。
  • 特別権力関係論と同じ構造:公務員を一つの身分として一括りにする発想は、否定されたはずのこの理論と同じです。

注意特別権力関係論の3つの柱を、全部引き継いでいるわけではありません。

  • 3つの柱:法律の根拠が無くても制限できる/広い範囲で制限できる/裁判所の審査が及ばない。
  • 共通する点:「公務員だから」という一括りの理由づけだけで、広い制約を正当化する発想です。

制約の根拠②:職務の性質説

全体の奉仕者説は、公務員を一括りにする点に弱点がありました。
では、一括りをやめると、どう考えることになるのでしょうか。

同じ役所の窓口業務の職員と政策の意思決定に関わる職員を、仕事の中身と政治活動の影響で対比した表

職務の性質説

定義職務の性質説とは、公務員を一括りにせず、担当する職務の性質ごとに個別に考える見解です。

注意窓口業務の職員なら何をしても問題にならない、とまでは言えません。

あくまで職務の性質に応じて、程度の差が出るという話です。

窓口業務の職員でも、公務員という立場を強く利用すれば、話は変わります(行為の仕方も関係します)。

職務の性質説の難点

結論「職務の性質」という物差しは、憲法上の根拠を持ちません。

理由憲法上の根拠の無い物差しで、人権を制約することになってしまうからです。

注意一括りをやめた点は前進です。

しかし、個別に考える良さと憲法上の根拠を、まだ両立できていません。

制約の根拠③:憲法秩序の構成要素説(通説)

職務の性質説は、個別に考えられる一方で、憲法上の根拠を欠いていました。
では、両方を満たす根拠はどこに求められるのでしょうか。

憲法秩序の構成要素説

定義憲法秩序の構成要素説とは、憲法自身が公務員関係の存在と自律性を予定していることに、制約の根拠を求める見解です(現在の通説)。

結論その関係が成り立つために必要な限度で、制約が正当化されます。

逆に、正当化されるのはその限度までです。

条文根拠になるのは、15条1項と73条4号です。

  • 15条1項:公務員を選び、やめさせるのは国民の権利です。選び、やめさせる相手=公務員という仕組みがあることが前提です。
  • 73条4号:内閣の仕事として、官吏に関する事務(公務員の任免や身分の取り扱いなど)を定めています。

具体例政策の意思決定に深く関わる職員が特定の政党のために動けば、行政の中立性は直接ゆらぎます。

窓口業務の職員が休日に同じことをしても、ゆらぎ方は小さいので、制約してよい範囲も違ってきます。

注意職務の性質説の「個別具体的に考える」という発想を、そのまま引き継いでいます。

15条|第三章 国民の権利及び義務(10〜40条)1項:公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。

73条|第五章 内閣(65〜75条)内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。(略)四 法律の定める基準に従ひ、官吏に関する事務を掌理すること。

同じ15条でも見ている項が違う

全体の奉仕者説は15条2項(公務員はどういう存在か)、憲法秩序の構成要素説は15条1項・73条4号(公務員という仕組みの存在を憲法が前提にしている)を使うことを示す対比表

注意どちらも15条ですが、見ている項が違います。

  • 全体の奉仕者説:2項(公務員はどういう存在か)。
  • 憲法秩序の構成要素説:1項(公務員という関係を憲法が予定している)。

3説の関係

3説の乗り越え表(全体の奉仕者説=15条2項・一律の制約・抽象的すぎる/職務の性質説=憲法上の根拠なし/憲法秩序の構成要素説=15条1項・73条4号・両説の長所を両取り)

結論3説は、前の説の難点を次の説が一つずつ埋めていく連鎖になっています。

憲法秩序の構成要素説は、2つの長所を両方引き継いでいます。

  • 全体の奉仕者説から:憲法上の根拠があること。
  • 職務の性質説から:個別具体的に判断できること。

注意一括りの身分として扱うのをやめ、関係ごとに根拠と限度を個別に問い直すという現代的な処理を、公務員の政治活動の場面で組み立てたものです。

猿払事件(大法廷):まず「保障は及ぶ」と認めた

制約の根拠は、憲法秩序の構成要素説で説明されます。
では、最高裁は実際の事件で、どのように制約の合憲性を審査したのでしょうか。

猿払事件の関係図(労組協議会の決定に従い、非管理職の郵政事務官が勤務時間外に選挙ポスターを掲示・配布依頼し、起訴された)

猿払事件

事案北海道の郵便局に勤める非管理職の郵政事務官が、労働組合協議会の事務局長も務めていました。

  • 行為:衆議院議員選挙の際、協議会の決定に従い、支持する候補者の選挙用ポスターを自ら公営掲示場に6枚掲示しました。
  • 依頼:そのころ4回にわたり、合計およそ184枚の掲示を他の人に依頼しました。
  • 時間:勤務時間外の行為でした。
  • 起訴:102条1項と人事院規則14-7に違反するとして、起訴されました。

結論下級審と最高裁で、結論が分かれました。

  • 第一審:無罪(労働組合活動の一環で、機械的な労務にとどまる職務だから)。
  • 控訴審:無罪を維持しました。
  • 最高裁:第一審・控訴審の判決を破棄して自ら判決し、罰金5000円の有罪としました。

注意この判決には、複数の裁判官の反対意見が付いています(全員一致ではありません)。

政治的行為への21条の保障

結論最高裁は、政治的行為も21条による保障を受けると認めました。

理由政治的行為は、行動としての面のほかに、政治的意見の表明としての面も持つからです。

注意「公務員の行為だから保障の対象外」という切り方はしていません。

まず保障が及ぶと認めたうえで、制約が許されるかを審査しています。

猿払事件最高裁判所大法廷判決政治的行為への21条の保障政治的行為は、行動としての面をもつほかに、政治的意見の表明としての面をも有するものであるから、その限りにおいて、憲法二一条による保障を受ける。

猿払基準:いちばん緩い審査

猿払事件で、最高裁は政治的行為にも21条の保障が及ぶと認めました。
では、制約が許されるかを、どのような基準で審査したのでしょうか。

猿払基準の三要素(目的=正当と言えれば足りる/関連性=一応のつながりがあれば足りる/均衡=得られる利益は失われる利益に比してさらに重要)

目的・関連性・均衡の3要素

定義合憲性は、3つの要素で判断されました。

  • 目的:禁止の目的が正当か。
  • 関連性:目的と、禁止される行為との関連性。
  • 均衡:禁止により得られる利益と、失われる利益との均衡。

結論3要素とも満たされ、一律・全面禁止でも合憲とされました。

  • 目的:「行政の中立的運営とこれに対する国民の信頼を確保する」ことにあるとし、正当と認めました。
  • 関連性:一律・全面禁止という強い手段でも、目的との間に一応のつながりがあると評価されました。
  • 均衡:「得られる利益は、失われる利益に比してさらに重要なものというべき」としました。

猿払事件最高裁判所大法廷判決目的・関連性・均衡の三要素合憲性は、三つの要素によって判断される。一つは、禁止の目的。二つは、目的と禁止される行為との関連性。三つは、禁止により得られる利益と失われる利益との均衡である。

合理性の基準を当てた

結論これは、「目的と手段の合理的関連性」を見る、三段階の審査基準のうちいちばん緩い基準(合理性の基準)です。

  • 目的:正当と言えれば足ります。
  • 手段:一応のつながりがあれば足ります。

理由基準が緩いため、一律・全面禁止という強い規制でも合憲にたどり着いてしまいます。

基準の緩さそのものが、結論を決めています。

注意次の2点に気をつけます。

  • 呼び方:「猿払基準」「合理的関連性の基準」は、判決文が名乗ったものではなく、後から学界が付けた名前です。
  • 何でも通るわけではない:目的が正当と言えない場合や、手段が目的と全く無関係な場合は、合理性の基準でも違憲になります。

「間接的・付随的な制約」の意味(判例と学説)

猿払事件では、一律・全面禁止にいちばん緩い基準が当てられました。
では、なぜそれほど緩い基準で済んだのでしょうか。

判例の用法:ねらいで線を引く

結論最高裁は、この禁止を「間接的、付随的な制約」にすぎないとしました。

理由意見表明そのものの制約をねらいとせず、行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止しているからです。

最高裁は、規制のねらい(目的)で線を引いています。

具体例夜10時以降の騒音を禁止する条例は、政治的な演説を狙って作られたものではありません。

しかし、深夜に街頭演説をする人にも、結果として及びます。

ねらいで見れば間接的、対象で見れば表現行為への規制、と評価が変わります。

猿払事件最高裁判所大法廷判決間接的、付随的な制約意見表明そのものの制約をねらいとしてではなく、その行動のもたらす弊害の防止をねらいとして禁止するときは……単に行動の禁止に伴う限度での間接的、付随的な制約に過ぎず……。

学説の用法:実質で上書きする

「間接的・付随的」の同音異義(最高裁=ねらいだけで線を引く・上書きなし/学説=ねらいが主軸だが、規制される行為の大半が表現行為なら直接的規制に格上げ)

定義学説の分け方も、主軸は規制の目的(何を狙っているか)です。

  • 直接的規制:人権行使の規制それ自体を、直接の目的とする規制。
  • 間接的・付随的規制:別の目的の規制が、たまたま表現に及んだだけの規制。

注意学説には、実質で見る上書きがあります。

形の上では間接的でも、規制される行為の大半が表現行為なら、直接的規制として扱います。

同じ言葉でも、ねらいだけで言い切る判例とは、届く範囲が違います(同音異義)。

緩い審査とのつながり

結論「間接的・付随的な制約」と言えれば、審査は緩くてよいという発想につながります。

「表現そのものを狙っていない」という一段があるから、第6節の緩い3要素が使われました。

猿払事件への学説の批判

猿払事件は、「間接的・付随的な制約」だとして、いちばん緩い基準を当てました。
学説は、この判断のどこを批判しているのでしょうか。

2つの批判

結論学説からは、2つの強い批判があります。

  • 直接的規制ではないか:学説の物差しで見ると、政治的な表現行為そのものを広く対象にしているので、直接的規制に当たるのではないか。
  • 基準が緩すぎる:表現の自由の規制である以上、合理性の基準ではなく、中間審査基準を使うべきではないか。

具体例中間審査基準を使えば、もっと制限的でない手段がある(LRAの基準)と判断されると考えられます。

  • より制限的でない手段:職務との関連性が強い行為だけに絞る、といった方法です。
  • 結論への影響:全面禁止のままでは、通らない可能性があります。

注意基準を変えるだけで、同じ規制でも結論が変わりうる、という具体的な議論です。

堀越事件(第二小法廷):条文の意味を絞って無罪

猿払事件は、緩い基準で一律・全面禁止を合憲としました。
では、その後の堀越事件で、最高裁は何を変えたのでしょうか。

堀越事件の関係図(非管理職の年金審査官が、休日に職務と無関係に他人の住居の郵便受けへ政党機関紙等を投函し、起訴された)

堀越事件

事案社会保険事務所に年金審査官として勤める厚生労働事務官が被告人でした。

  • 立場:非管理職で、年金の支給を決める権限も保険料を徴収する権限も無く、相談業務だけを担当していました。
  • 行為:日本共産党を支持する目的で、休日に、勤務先や職務とは関わりなく、住んでいる地域の他人の住居や事務所の郵便受けに、同党の機関紙などを投函しました。
  • 態様:公務員であることは明らかにしていません。
  • 起訴:102条1項に違反するとして、起訴されました。

結論第一審と控訴審で、結論が変わりました。

  • 第一審:有罪(罰金10万円、執行猶予2年)。
  • 控訴審:原判決を破棄して、無罪としました。
  • 最高裁:検察官の上告を棄却し、無罪が維持されました。

注意判決が使う呼び方は「機関紙等の配布行為」です(「ビラを配った」はざっくりした言い方です)。

何が「向きを変えた」のか

結論堀越事件の判断は、2つに分かれます。

  • 限定解釈:禁止される「政治的行為」の意味を絞り込みました。
  • 合憲性の判断:罰則規定が合憲かを、利益の較量で決めました。

注意法律の合憲性を測る場面では、原則として、あらかじめ立てた審査基準で測ります。

堀越事件は、法律そのものを測る場面なのに、審査基準を立てず、よど号事件と同じ較量の枠組みで決めました。

ここが、「向きが変わった」と言われる点です。

限定解釈(「政治的行為」の意味)

結論「政治的行為」とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指します。

  • 1段目:観念的な(頭の中だけの抽象的な)おそれでは足りません。
  • 2段目:現実に起こり得ると、実質的に認められることが必要です。

注意抽象的な心配では足りず、具体的な事情のもとで放置できない程度の危険を求める絞り方です。

よど号事件の「相当の蓋然性」と同じ形です。

堀越事件最高裁判所第二小法廷判決限定解釈の定式(国家公務員法にいう)政治的行為とは、公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実的に起こり得るものとして実質的に認められるものを指す。

合憲性の判断枠組み(較量)

結論規制が必要かつ合理的なものとして是認されるかは、次の事情を較量して決せられます。

  • 規制が必要とされる程度。
  • 規制される自由の内容及び性質。
  • 具体的な規制の態様及び程度等。

具体例この事件で量られたのは、次のとおりです。

  • 規制の必要性:非管理職で権限も無く、休日に職務と関わりなく目立たない形で投函しているので、中立性が損なわれる具体的な危険は小さいと評価されました。
  • 自由の内容:政治的な意見を私人として伝える行為で、軽いものではありません。
  • 較量の結果:この被告人については、規制の必要性が、自由の重みに負けました。

堀越事件最高裁判所第二小法廷判決合憲性の判断枠組み規制が必要かつ合理的なものとして是認されるかどうかは、本件罰則規定の目的のために規制が必要とされる程度と、規制される自由の内容及び性質、具体的な規制の態様及び程度等を較量して決せられるべきものである。

結論の二段構え

結論堀越事件の結論は、2段に分かれます。

  • 一段目:限定解釈された「政治的行為」を前提にすれば、罰則規定そのものは合憲です(目的は正当で、対象は実質的なおそれのある行為に限られ、必要やむを得ない限度にとどまる)。
  • 二段目:この被告人の行為は、その絞られた「政治的行為」に当たらないので、無罪です。

注意条文を違憲にしたのではなく、射程を絞っただけです。

「堀越事件で公務員の政治活動が自由になった」わけではありません。

罰則規定は生きており、絞られた範囲に当たれば、今でも処罰されます。

猿払事件と堀越事件の比較

堀越事件は、限定解釈と較量の枠組みで、非管理職の被告人を無罪としました。
では、猿払事件と横に並べると、何が違うのでしょうか。

猿払と堀越の4行対比(誰が=どちらも非管理職/何をして=ポスター掲示・配布依頼と機関紙等の投函/どの道具で=猿払基準+間接的・付随的制約論と限定解釈+よど号の較量枠組み/結果=有罪と無罪)

入れ替わったのは審査の道具

結論人と行為は近く、大きく違うのはどの道具で測ったかです。

  • 猿払事件:猿払基準(目的・関連性・均衡)と、間接的・付随的制約論。
  • 堀越事件:限定解釈と、よど号事件の較量の枠組み。

注意堀越判決の全文には、「間接的」も「付随的」も一度も出てきません。

同じ日に有罪となった管理職の事件

事案堀越事件と同じ日に、同じ枠組みで判断されたもう一つの事件があります。

被告人は、管理職的な地位にありました。

結論こちらは有罪でした。

理由管理職的な地位にあれば、行政の中立性が損なわれる危険は大きく評価されます。

部下を指揮する立場の人が政治的な行動を取れば、影響はそれだけ大きいからです。

注意堀越事件の限定解釈は、公務員の政治活動を全面的に解禁したわけではありません。

身分や地位によって、結論は今も分かれます。

「実質的な」判例変更(大法廷と小法廷)

猿払事件と堀越事件では、審査の道具が入れ替わっています。
では、なぜ「判例変更」ではなく、「実質的な判例変更」としか言えないのでしょうか。

猿払=大法廷判決、堀越=第二小法廷判決で、小法廷は形式的には判例変更ができないことを示す表

小法廷は判例を変更できない

結論学説は、堀越事件を「実質的な判例変更」としか言えません。

条文前の最高裁の裁判と意見が反するときは、小法廷では裁判をすることができません(裁判所法10条3号)。

理由最高裁自身は、堀越判決で「判例を変更する」とは述べていません。

堀越事件は第二小法廷の判決なので、大法廷判決である猿払事件を、形式的には変更できないからです。

注意「実質的」は、あいまいな言葉ではなく、大法廷・小法廷という審理の形式から出てくる言葉です。

10条|裁判所法 第二編 最高裁判所(6〜14条の3)事件を大法廷又は小法廷のいずれで取り扱うかについては、最高裁判所の定めるところによる。但し、左の場合においては、小法廷では裁判をすることができない。(略)三 憲法その他の法令の解釈適用について、意見が前に最高裁判所のした裁判に反するとき。

千葉勝美裁判官の補足意見

結論堀越判決には、千葉勝美裁判官の補足意見があり、猿払判決との整合性を論じています。

注意補足意見は法廷意見ではありません。

裁判所そのものの判断ではなく、一人の裁判官の意見です。

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