憲法ゼロから憲法#80

財政民主主義と租税法律主義

憲法の復習ノートを1ページで通して読む(この回から)→

問い:国のお金の出し入れは、何によって縛られているのか。どんなお金がの「租税」に当たり、「税」と呼ばない保険料や、通達・告示を使った取り立ては、とどう関係するのか。

骨組み

  1. 1財政民主主義(条文・学説):国の財政を処理する権限は国会の議決に基いて行使()=財政民主主義・財政国会中心主義。理由=国家の費用は結局国民の負担。具体化=歳入は・歳出は(国費の支出・国の債務負担=国会の議決)
  2. 2の位置づけ(判例・学説):租税は「法律又は法律の定める条件」による。判例(旭川市国民健康保険条例事件・最大判平18・3・1)=義務を課し権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を、租税について厳格化した形で明文化。趣旨の説明=代表なければ課税なし(学説)。は議決、は法律
  3. 3固有の意味の租税(判例・学説):課税権に基づき・経費に充てる資金調達の目的で・特別の給付に対する反対給付としてでなく・一定の要件に該当するすべての者に課する金銭給付=形式のいかんにかかわらずの租税。所得税=当たる/専売品の価格・検定手数料=当たらない(反対給付)
  4. 4財政法3条(法律・学説):租税以外の課徴金・専売価格・事業料金=「法律又は国会の議決」に基いて定める。ではなくを踏まえた規定と解されている
  5. 5形式が税(判例):国民健康保険税=反対給付として徴収されるが、「形式が税である以上は」が適用。の租税=固有の意味の租税+形式が税のもの、と整理される(学説)
  6. 6租税法律主義の内容(学説・判例):課税要件法定主義(課税要件・賦課徴収の手続を法律で)+課税要件明確主義(その定めは明確に)。法定主義=パチンコ球遊器事件/明確主義=旭川市事件
  7. 7パチンコ球遊器事件(判例・最判昭33・3・28):パチンコ球遊器は現行法の解釈として物品税法の「遊戯具」に含まれる=正当。課税が通達を機縁としても、通達の内容が法の正しい解釈に合致する以上「法の根拠に基く処分」。通達は課税の根拠ではない
  8. 8旭川市事件①直接適用と趣旨(判例・最大判平18・3・1):国民健康保険料=反対給付(公的資金が約3分の2でもけん連性は断ち切られない)→は直接に適用されない。ただし強制加入・強制徴収で強制の度合いが租税に類似→の趣旨が及ぶ。どこまで明確に定めるかは総合考慮
  9. 9旭川市事件②結論(判例):旭川市の条例は賦課総額の算定基準(8条)と料率の算定方法(12条1項)を定め、市長に委ねたのは見込額等の推計とそれに基づく料率の決定・告示(推計には議会の民主的統制が及ぶ)→国民健康保険法81条違反でも、の趣旨に反するものでもない(合憲)。告示が賦課期日の後でも趣旨に反しない
国・地方公共団体が取るお金反対給付としてでなく課するか課税権に基づき・資金調達の目的で・要件に該当する全員に固有の意味の租税84条の租税はいいいえ(反対給付あり)形式が税か例:国民健康保険税84条が適用形式が税である以上はいいいえ(例:国民健康保険料)強制の度合い等で租税に類似するか例:強制加入・強制徴収84条の趣旨が及ぶ直接の適用はない・規律は総合考慮はいいいえ84条の趣旨も及ばないそれでも性質に応じ法律・条例で適正に規律
旭川市国民健康保険条例事件(最大判平18・3・1)の判断を、問いの順に並べた整理(判決がこの3つの問いの形で述べたわけではない)。「84条の租税は固有の意味の租税と形式が税のものの2種類」は判決の言い方ではなく、判決の読み方。趣旨が及んでも、それだけで違憲にはならない(項目9)。国の専売価格・事業料金などは、財政法3条で法律又は国会の議決に基いて定める(項目4)。

色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます(押せるのは日本国憲法の条文だけ。財政法・国民健康保険法・物品税法・地方税法・地方自治法と旭川市の条例は文字のまま)。最大判=最高裁判所大法廷の判決、最判=最高裁判所小法廷の判決。判決の引用は原文どおり(昭和33年の判決は漢数字と旧かな、平成18年の判決は「,」と全角数字)。1〜2が財政を縛る原則、3〜5がどのお金がの「租税」に入るか(入口)、6〜9が租税法律主義の中身と2つの判例。上の図は入口の3段(項目3・5・8)をまとめたもの。

1財政民主主義()と歳入・歳出への具体化条文学説

  • 財政=国家が任務を遂行するのに必要な財力を調達・管理・使用する作用。
  • 国家の活動に要る費用は、結局国民が負担する → 財政には国民の強い民主的なコントロールが要る → 「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない」。第七章「財政」の冒頭に置かれた基本原則。
  • 呼び名は2つ:財政民主主義・財政国会中心主義。
  • だけでは縛りの中身が具体的でない → 2つの方向に具体化されている:
条文縛り
基本原則財政を処理する権限=国会の議決に基いて
歳入(集める)新たな租税・現行の租税の変更=法律又は法律の定める条件(租税法律主義)
歳出(使う)国費の支出・国の債務負担=国会の議決
  • 「国民は、法律の定めるところにより、納税の義務を負ふ」=払う国民の側の義務。以下は払わせる国の側の縛り。も「法律の定めるところにより」で、法律があってはじめて働く。
×にされやすい形
  • 「国費を支出するには、法律の定めによることを必要とする」(=国会の議決)
  • 「は、国の財政処理の権限を法律に基いて行使することを求める」(国会の議決に基いて)
  • 「は、歳出の面で財政民主主義を具体化した規定である」(歳入の面。歳出は)

2の位置づけと趣旨判例学説条文

  • 「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」。
  • 旭川市国民健康保険条例事件(最大判平18・3・1):
  • もっとも,憲法84条は,課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきことを規定するものであり,直接的には,租税について法律による規律の在り方を定めるものであるが,同条は,国民に対して義務を課し又は権利を制限するには法律の根拠を要するという法原則を租税について厳格化した形で明文化したものというべきである。
  • 趣旨(学説):「代表なければ課税なし」(アメリカ独立戦争のスローガン)という政治原理。この語は判決ではなく、学説の説明に出てくる。
  • 補足(説明):租税は国が強制的に取り上げるもの → だから国民の代表(国会)が定める法律による同意が要る、と読むとつながる。
  • は「議決」で足りるが、は「法律」を要求する(強さの差)。説明としては、課税の条件が法律で前もって定められていれば、どういう場合にどれだけ取られるかが取られる前に分かる、と言われる。
  • は命令への委任を一切許さないという意味ではない(委任もある程度は許される)。課税の細目のすべてを法律だけで定めきるのは現実には難しい。

出題課税には必ず国民の同意が要るので、課税要件・手続も全て法律で定める(×)

×にされやすい形
  • 「は、租税に関する事項を政令などに委任することを一切許さない」(命令への委任もある程度は許される)
  • 「は、国民に義務を課すには法律の根拠を要するという法原則とは別に、租税だけについて特別に設けられた原則である」(その法原則を租税について厳格化した形で明文化したもの)
  • 「租税は、と同じく国会の議決があれば足りる」(は法律又は法律の定める条件)

3固有の意味の租税(入口の1段目)判例学説

  • 旭川市国民健康保険条例事件(最大判平18・3・1)が示した定義:
  • 国又は地方公共団体が,課税権に基づき,その経費に充てるための資金を調達する目的をもって,特別の給付に対する反対給付としてでなく,一定の要件に該当するすべての者に対して課する金銭給付は,その形式のいかんにかかわらず,憲法84条に規定する租税に当たるというべきである。
要素中身
主体国又は地方公共団体が、課税権に基づき
目的その経費に充てるための資金を調達する
対価性特別の給付に対する反対給付としてでなく(学説はここを核とする)
対象一定の要件に該当するすべての者に
中身金銭給付
  • 反対給付=何かを受け取る(受け取り得る)ことへの見返り(買い物の代金のような対価としての支払)。線は対価の有無で引く。
  • 当てはめ(学説の解説。判決は定義だけを示した):所得税=特定のサービスの見返りではなく取られる → 当たる。専売品の価格・各種検定手数料=反対給付の性格がある → 固有の意味の租税にもの租税にも当たらない → 必ずしも法律又は法律の定める条件によることを要しない(縛りが無くなるわけではない=項目4)。
  • 「形式のいかんにかかわらず」=名前が税でなくても、この要素を満たせばの租税。

国家試験の受験手数料は、受験という特定の給付の見返りとして払う → 固有の意味の租税ではない。住民税は、一定の要件に該当する住民に課され、特定のサービスの見返りではない → 固有の意味の租税。

出題反対給付でなく一定の要件に該当する全員に課す金銭給付は、形式を問わず租税(○)

×にされやすい形
  • 「国や地方公共団体に納めるお金は、すべての租税に当たる」(反対給付としてでなく課するものが固有の意味の租税)
  • 「検定手数料はの租税に当たるから、法律で定めなければならない」(反対給付の性格=の租税ではない)
  • 「の租税に当たるかは、『税』という名称かどうかで決まる」(形式のいかんにかかわらず)

4財政法3条(の外のお金)条文学説

  • 財政法3条「租税を除く外、国が国権に基いて収納する課徴金及び法律上又は事実上国の独占に属する事業における専売価格若しくは事業料金については、すべて法律又は国会の議決に基いて定めなければならない」。
  • 課徴金=租税ではないが、国が国権に基いて取り立てるお金。
  • 専売価格・事業料金などは反対給付があるお金=の対象そのものではない → 財政法3条は、ではなくを踏まえた規定と解されている(の具体化として合憲とするのが通説と説明される)。
  • の外に出ても野放しではない。ただし求められるのは「法律又は国会の議決」=法律でなく国会の議決で定めることもできる。

国の独占事業の料金を、法律ではなく国会の議決で定めた → 財政法3条の「法律又は国会の議決」を満たす。の「租税」ではないので、法律でなければならないわけではない。

出題財政法3条の根拠を83条に求める見解には、83条と矛盾するとの批判が妥当する

×にされやすい形
  • 「専売価格や事業料金は、必ず法律で定めなければならない」(法律又は国会の議決)
  • 「財政法3条は、を具体化した規定である」(ではなくを踏まえた規定と解されている)
  • 「専売価格はの租税に当たらないので、国会は一切関与しない」(法律又は国会の議決に基いて定める)

5形式が税(入口の2段目:国民健康保険税)判例学説

  • 市町村は、国民健康保険事業の費用に充てるため、世帯主から保険料を徴収する(判決当時の国民健康保険法76条本文)か、目的税である国民健康保険税を課する(判決当時の地方税法703条の4第1項)。どちらの方式かは市町村が選ぶ。
  • 国民健康保険税は、保険給付を受け得ることへの反対給付として徴収される → 固有の意味の租税ではない。それでも:
  • …(国民健康保険税は,前記のとおり目的税であって,上記の反対給付として徴収されるものであるが,形式が税である以上は,憲法84条の規定が適用されることとなる。)。
  • 中身が反対給付でも、税という形式を選んで税として取り立てる以上、「中身は対価だからは関係ない」とは言えない=その形式に付いてくる縛りも受ける。
  • の租税は2種類、と整理される(判決の読み方=学説):①固有の意味の租税 ②固有の意味の租税ではないが形式が税のもの。「固有の意味の租税=の租税」と一本にすると②を落とす。

中身(反対給付)が同じ国民健康保険でも、A市は「国民健康保険税」、B市は「国民健康保険料」で徴収している。A市はが適用、B市はが直接には適用されない(趣旨が及ぶかの話になる=項目8)。形式で入口が変わる。

×にされやすい形
  • 「国民健康保険税は、保険給付の反対給付として徴収されるから、は適用されない」(形式が税である以上は適用)
  • 「国民健康保険税は、固有の意味の租税に当たるからが適用される」(反対給付=固有の意味の租税ではない。適用の理由は形式が税であること)

6租税法律主義の内容(法定主義と明確主義)学説判例

課税要件法定主義課税要件明確主義
求めること課税要件と賦課徴収の手続を法律で定めるその定めが明確であること
問われる場面法律に根拠があったか法律・条例の定め方は明確か
対応する判例パチンコ球遊器事件(項目7)旭川市国民健康保険条例事件(項目8・9=租税ではない保険料にの趣旨が及ぶとして、条例の定め方の明確さを判断)
  • 課税要件=誰に・何に対して・どれだけ課すか(課税が成り立つ条件)。賦課徴収=行政が金額を決めて課し、取り立てるところまで。
  • 判例も、は「課税要件及び租税の賦課徴収の手続が法律で明確に定められるべきこと」を規定するとする(項目2の引用)。
  • 2つに分ける理由:法律で定めていても、中身が曖昧なら租税法律主義は骨抜きになる。

法律に「相当の所得がある者に、相当額の税を課する」とだけ書いてある。法律で定めるという条件は満たしていても、いくら取られるかは役所の決め方しだい=明確主義の側の問題。

×にされやすい形
  • 「課税要件が法律で定められていれば、その定めが不明確であっても租税法律主義に反しない」(明確主義)
  • 「租税法律主義が求めるのは課税要件の法定だけで、賦課徴収の手続には及ばない」(賦課徴収の手続も)

7パチンコ球遊器事件(通達を機縁とした課税)判例

  1. 物品税法は「遊戯具」を課税品目にしていた
  2. パチンコ球遊器は、長い間「遊戯具」として課税されていなかった
  3. 通達(上級の行政庁が下級の行政庁に出す、法令の解釈・運営方針の命令=国民を直接縛るものではない)をきっかけに、課税されるようになった
  4. 課税処分が当然無効だとして争われた(通達による課税は憲法違反という主張)
  5. 最高裁(最判昭33・3・28・第二小法廷):上告棄却(裁判官全員一致)
  • 判断は2段。①法律の解釈:
  • …社会観念上普通に遊戯具とされているパチンコ球遊器が物品税法上の「遊戯具」のうちに含まれないと解することは困難であり、原判決も、もとより、所論のように、単に立法論としてパチンコ球遊器を課税品目に加えることの妥当性を論じたものではなく、現行法の解釈として「遊戯具」中にパチンコ球遊器が含まれるとしたものであつて、右判断は、正当である。
  • ②通達の位置づけ:
  • なお、論旨は、通達課税による憲法違反を云為しているが、本件の課税がたまたま所論通達を機縁として行われたものであつても、通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上、本件課税処分は法の根拠に基く処分と解するに妨げがなく、所論違憲の主張は、通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とするものであつて、採用し得ない。
  • 従つて、本件賦課処分を当然無効であると断ずることはできないとした第一審判決を支持した原判決は正当であつて論旨は理由がない。
  • 機縁=きっかけ。課税の根拠は最初から法律(物品税法の「遊戯具」)にあり、通達はきっかけにすぎない、というのが判決の組み立て。最高裁は通達を課税の根拠だとは言っていない。
  • 通達そのものが課税の根拠になるなら、行政が自由に税を作り出せることになり、法律で定めるという原則が意味を失う=法定主義の問題。
通達を機縁とした課税通達は法の正しい解釈に合致するか法律の文言から課税対象に含まれるか法の根拠に基く処分通達は機縁にすぎないはいいいえ法の根拠を欠く方向判決はこの場合の結論を述べていない
判決が答えたのは上の「はい」の側だけ。違憲の主張は「通達の内容が法の定めに合致しないことを前提とする」として退けられた=前提が欠けるとしただけで、合致しない場合にどうなるかは判示していない。

通達が、法律の文言からおよそ読めない物品を課税対象にした場合 → 判決の「通達の内容が法の正しい解釈に合致するものである以上」という前提が外れる。この判決は、そういう課税まで許したものではない。

出題長年非課税の物には慣習法が成立し、正しい解釈に基づく課税も租税法律主義違反(×)パチンコ球遊器への通達課税は、法の正しい解釈に合致しても84条違反(×)

×にされやすい形
  • 「パチンコ球遊器事件で最高裁は、通達を根拠とする課税も租税法律主義に反しないとした」(根拠は法律。通達は機縁)
  • 「通達によって新たに課税対象とされた以上、その課税処分は租税法律主義に反し違憲である」(通達の内容が法の正しい解釈に合致する以上、法の根拠に基く処分)
  • 「パチンコ球遊器事件の判決は、パチンコ球遊器を課税品目に加えることの立法論としての妥当性を判断した」(現行法の解釈として「遊戯具」に含まれるとした)

8旭川市事件①——保険料には直接適用されないが、趣旨は及ぶ判例

  1. 旭川市は、国民健康保険を「税」ではなく保険料を徴収する方式で行っていた
  2. 国民健康保険は強制加入(国民健康保険法5条)。保険料を期限までに納付しなければ、地方税の滞納処分の例により処分できる(同法79条の2・地方自治法231条の3第3項)
  3. 旭川市の国民健康保険事業の経費の約3分の2は、国庫の負担金・市の一般会計からの繰入金などの公的資金で賄われていた
  4. 世帯主が、平成6〜8年度の保険料の賦課処分の取消し・無効確認などを求めた(条例が保険料率を定めず告示に委任するのは又はその趣旨に反する、という主張)
  • 保険給付=被保険者の疾病・負傷・出産又は死亡に関して行われる給付(国民健康保険法2条)。保険料は、実際に給付を受けたかではなく、給付を受け得る地位の見返りとして払う。
  • 市町村が賦課徴収するお金なので、判旨のいう「法律の範囲内で制定された条例」、つまり条例の定め方が問われる。国民健康保険法81条は、賦課額・料率・賦課期日・納期など保険料の賦課・徴収に関する事項を、政令で定める基準に従って条例で定めるとしている。
  • 判断①保険料は租税か:
  • 市町村が行う国民健康保険の保険料は,これと異なり,被保険者において保険給付を受け得ることに対する反対給付として徴収されるものである。
  • 前記のとおり,被上告人市における国民健康保険事業に要する経費の約3分の2は公的資金によって賄われているが,これによって,保険料と保険給付を受け得る地位とのけん連性が断ち切られるものではない。
  • また,国民健康保険が強制加入とされ,保険料が強制徴収されるのは,保険給付を受ける被保険者をなるべく保険事故を生ずべき者の全部とし,保険事故により生ずる個人の経済的損害を加入者相互において分担すべきであるとする社会保険としての国民健康保険の目的及び性質に由来するものというべきである。
  • したがって,上記保険料に憲法84条の規定が直接に適用されることはないというべきである
    …
  • 判断②租税以外の公課への一般論(前段と後段)。租税以外の公課=国・地方公共団体等が賦課徴収するお金のうち、租税でないもの:
  • したがって,国,地方公共団体等が賦課徴収する租税以外の公課であっても,その性質に応じて,法律又は法律の範囲内で制定された条例によって適正な規律がされるべきものと解すべきであり,憲法84条に規定する租税ではないという理由だけから,そのすべてが当然に同条に現れた上記のような法原則のらち外にあると判断することは相当ではない。
  • そして,租税以外の公課であっても,賦課徴収の強制の度合い等の点において租税に類似する性質を有するものについては,憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが,その場合であっても,租税以外の公課は,租税とその性質が共通する点や異なる点があり,また,賦課徴収の目的に応じて多種多様であるから,賦課要件が法律又は条例にどの程度明確に定められるべきかなどその規律の在り方については,当該公課の性質,賦課徴収の目的,その強制の度合い等を総合考慮して判断すべきものである。
  • 趣旨が及ぶのは、強制の度合い等で租税に類似する公課だけ。負担金や手数料なら何でも趣旨が及ぶわけではない。
  • 前段と後段の差:前段=租税以外の公課もすべて、性質に応じて法律・条例で適正に規律されるべき(租税でないというだけで法原則のらち外にはならない)。後段=そのうち強制の度合い等で租税に類似するものには、さらにの趣旨が及び、賦課要件をどの程度明確に定めるべきかが問われる。
  • 直接適用との差:直接適用なら、のとおり課税要件などを法律で明確に定めることが求められる。趣旨が及ぶだけなら、どの程度明確に定めるべきかは総合考慮で決まる(租税と同じ程度とは限らない)。
  • 判断③国民健康保険への当てはめ:
  • 市町村が行う国民健康保険は,保険料を徴収する方式のものであっても,強制加入とされ,保険料が強制徴収され,賦課徴収の強制の度合いにおいては租税に類似する性質を有するものであるから,これについても憲法84条の趣旨が及ぶと解すべきであるが,他方において,保険料の使途は,国民健康保険事業に要する費用に限定されているのであって,法81条の委任に基づき条例において賦課要件がどの程度明確に定められるべきかは,賦課徴収の強制の度合いのほか,社会保険としての国民健康保険の目的,特質等をも総合考慮して判断する必要がある。
  • 強制加入・強制徴収という同じ事実が、2つの方向に使われている:租税かどうかでは「社会保険の目的・性質に由来する」(だから租税にはならない)、趣旨が及ぶかでは「強制の度合いが租税に類似」(だから趣旨が及ぶ)。
国民健康保険税国民健康保険料
反対給付ありあり(公的資金が大半でもけん連性は断ち切られない)
形式税税ではない
適用される直接には適用されないが、趣旨が及ぶ

国民健康保険事業の費用の大半が国庫や一般会計で賄われている → だから保険料は対価ではなく租税だ、とはならない(けん連性は断ち切られない)。受験する人だけが払う国家試験の受験手数料のように、強制加入・強制徴収の要素を欠く公課は、租税に類似するという方向には働きにくい(どうなるかはその公課の性質しだい)。

出題反対給付の性質を持つ保険料等には、租税法律主義の適用もその趣旨も及ばない(×)国保料は租税に当たらないが、強制の度合いが租税に類似し84条の趣旨が及ぶ(○)国保料の賦課要件の明確性は、専ら強制加入・強制徴収の点を考慮して決める(×)租税以外の公課も、性質に応じ法律・条例で適正に規律されるべきで84条の趣旨に反しうる(○)市町村の国保料の徴収には84条の趣旨は及ばない(×)国保料の賦課要件には、84条が要求するのと同等の明確性が求められる(×)賦課徴収の強制の度合いは、公課と租税の類似性を検討する要素となる(○)

×にされやすい形
  • 「国民健康保険料にも、の規定が直接に適用される」(直接には適用されない。趣旨が及ぶ)
  • 「国民健康保険事業の経費の大半が公的資金で賄われているから、保険料は反対給付ではなく租税に当たる」(けん連性は断ち切られない)
  • 「租税以外の公課には、すべての趣旨が及ぶ」(強制の度合い等の点で租税に類似する性質を有するもの)
  • 「の租税でない公課は、法律・条例による規律の法原則のらち外にある」(それだけの理由でらち外と判断するのは相当ではない)
  • 「の趣旨が及ぶ以上、保険料の賦課要件は租税と同じ程度に明確に定めなければならない」(どの程度明確にするかは総合考慮)

9旭川市事件②——旭川市の条例と告示の委任は合憲判例

旭川市の条例定めていたこと
8条保険料の賦課総額の算定基準(事業に必要な費用の見込額から、保険料以外の収入の見込額を控除した額を基準に算定)。費用・収入の見込額の対象の詳細も規定
12条1項保険料率の算定方法(賦課総額を所得割・資産割・均等割・平等割に分け、それぞれ所得の総額などで割る)
12条3項市長が保険料率を決定したときは、速やかに告示する
13条賦課期日=4月1日(各年度の告示はこの後だった)
  • 料率の数値そのものは条例に書かれていなかったが、条例は算定基準と算定方法を定めていた。市長に委ねられたのは、費用・収入の見込額と予定収納率の推計と、それに基づく料率の決定・告示。
  • このように,本件条例は,保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を明確に規定した上で,その算定に必要な上記の費用及び収入の各見込額並びに予定収納率の推計に関する専門的及び技術的な細目にかかわる事項を,被上告人市長の合理的な選択にゆだねたものであり,また,上記見込額等の推計については,国民健康保険事業特別会計の予算及び決算の審議を通じて議会による民主的統制が及ぶものということができる。
  • そうすると,本件条例が,8条において保険料率算定の基礎となる賦課総額の算定基準を定めた上で,12条3項において,被上告人市長に対し,同基準に基づいて保険料率を決定し,決定した保険料率を告示の方式により公示することを委任したことをもって,法81条に違反するということはできず,また,これが憲法84条の趣旨に反するということもできない。
  • 告示が賦課期日の後だった点:賦課期日=その年度の保険料を課す基準の日(条例13条で4月1日)。料率がその後に決まって告示されたことも、の趣旨に反すると争われた。
  • また,賦課総額の算定基準及び賦課総額に基づく保険料率の算定方法は,本件条例によって賦課期日までに明らかにされているのであって,この算定基準にのっとって収支均衡を図る観点から決定される賦課総額に基づいて算定される保険料率についてはし意的な判断が加わる余地はなく,これが賦課期日後に決定されたとしても法的安定が害されるものではない。
  • 「趣旨が及ぶ」は「違憲」を意味しない。趣旨が及ぶとしたうえで、総合考慮の結果として合憲。明確主義(どこまで明確に定めれば足りるか)の側の話。
  • これは旭川市の条例(算定基準を条例で明確に定め、細目だけを委任し、議会の統制も及ぶ)についての判断。保険料率を告示で決めることが一般に合憲とされたわけではない。
  • 同じ判決は、恒常的に生活が困窮している者を保険料の減免の対象としない条例19条1項も、国民健康保険法77条の委任の範囲を超えず、・に違反しないとした。

条例が賦課総額の算定基準も料率の算定方法も定めず、料率を市長に全部任せていた場合 → 判決が合憲の理由にした「算定基準の明確な規定」「専門的・技術的な細目にかかわる事項の委任」が欠ける(推計に議会の民主的統制が及ぶことだけでは補えない)。そもそも料率などを条例で定めるとする国民健康保険法81条との関係も問われる → 趣旨に反する方向に動く(違憲と言い切れるかは総合考慮しだい)。

出題算定基準が期日までに明らかでも、各年度の保険料率の期日後告示は84条に反する(×)条例が保険料率の決定等を市長に委任していても84条の趣旨に反しない(○)

×にされやすい形
  • 「旭川市国民健康保険条例事件で最高裁は、保険料率の決定を告示に委ねた条例を、の趣旨に反し違憲とした」(趣旨に反するということもできない=合憲)
  • 「旭川市の条例は、保険料率の算定について何も定めず、市長に白紙で委ねていた」(賦課総額の算定基準と料率の算定方法は条例で定めていた)
  • 「保険料率の告示が賦課期日の後に行われたことは、の趣旨に反する」(算定基準・算定方法は賦課期日までに条例で明らか=反しない)
  • 「の趣旨が及ぶとされた以上、その公課の定め方は違憲となる」(趣旨が及んだうえで総合考慮し合憲)
  • 「旭川市事件は、国民健康保険料の料率を告示で決めることを一般に合憲とした」(旭川市の条例の定め方についての判断)

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