決算と公金支出の制限
問い:国のお金を使った後、誰が検査し、誰が出し、誰が審査するのか。国会が決算を承認しなかったら、使ったお金はどうなるのか。手続が正しくても、そもそも公金を出してはいけない先はあるのか。税金から助成を受ける私立大学は、公金を出してはいけない「公の支配に属しない」事業にあたらないのか。
骨組み
- 1決算との3段(条文):決算=一会計年度の国の収入支出の実績を示す確定的計数書。検査=会計検査院がすべて毎年/提出=内閣が次の年度に、検査報告とともに国会へ/審査=国会。会計検査院の組織・権限は法律で定める()
- 2決算の不承認の効果(通説):国会が決算を承認しなくても決算の効力に影響はなく、内閣の政治責任の問題が生じるにとどまる。予備費の支出に事後の承諾()が得られない場合も、すでにされた支出の法的効果に影響はなく、政治責任の問題にとどまる(通説)
- 3財政状況の報告():内閣が、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況を報告。「毎年一回」は下限(それより多く報告してよい)
- 4の構造と前段(条文・学説):公金その他の公の財産を、支出し、又はその利用に供してはならない。禁止の先は「又は」で2つ=前段=宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため/後段=公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業。前段=政教分離の原則の財政面のあらわれ
- 5後段と私立大学(条文・学説):私立大学は「教育……の事業」にあたり、助成金は支出 → 争点は「公の支配」に属するかの1点。属しなければ助成はに反する、属していれば許される。「公の支配」の意味はの趣旨をどう解するかで分かれる
- 6自主性確保説(学説):趣旨=公金を受ける団体の自主性の確保 → 「公の支配」=自主性を確保する必要がないほどの強度の支配(人事権を公権力が持っていることなど)→ 私立大学には及ばない → 私学助成は違憲。ただし「自主性」の心配は逆向きにも使われる=「公の支配」を厳格に捉え過ぎると、援助を受ける団体の自主性を過度に損なう → 監督で足りるとする緩やかな解釈の根拠になる(=7の公費濫用防止説と同じ向き(監督で足りる)の根拠。短答の正答)
- 7公費濫用防止説(学説):自主性確保説のように厳格に解すると福祉国家の理念(以下)に反する → 趣旨=公費の濫用防止 → 「公の支配」=濫用を防げる程度の監督権で足りる(業務・会計の状況について報告を求める・予算について必要な変更を勧告する程度)→ 私立大学には及んでいる → 私学助成は合憲。基本書は「妥当である」とする
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます(押せるのは日本国憲法の条文だけ。財政法・会計検査院法・私立学校振興助成法の条文番号は文字のまま)。1〜2が使った後のお金の検証(決算)、3が財政状況の報告、4〜7が出してはいけない先(4がの構造と前段、5が後段と私立大学、6〜7が「公の支配」の2説)。学説の強さ:2の2つの結論は「通説」とされる。7は基本書が「妥当である」とする立場で、「通説」とまでは書かれていない。「(補足)」と付けた文は、条文や基本書が直接そう言っているのではない、ここでの説明。
1決算との3段条文
- :国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
- :会計検査院の組織及び権限は、法律でこれを定める。
- 決算=一会計年度に生じた国の収入支出が実際にどうであったかを確定させた書面(確定的計数書)。予算が予定なら、決算は実績。
- 国会は、提出された決算を審査して、承認するかどうかを決める(承認しなかった場合は項目2)。
- 「すべて毎年」:予算を執行した後に違法な支出が無いかを、毎年チェックする。どの年の決算も検査を飛ばせない。
- 会計検査院は、内閣に対し独立の地位を有する(会計検査院法1条)。お金を使った内閣とは別の機関が検査する。
- 提出の時期:財政法40条1項は、検査を経た決算を翌年度開会の常会(毎年1回召集される国会=)で国会に提出するのを常例とする。
| 段 | 主体 | すること |
|---|---|---|
| 検査 | 会計検査院 | 決算を、すべて毎年検査する |
| 提出 | 内閣 | 次の年度に、決算を検査報告とともに国会へ出す |
| 審査 | 国会 | 出された決算を審査する |
- 「会計検査院は、検査した決算を国会に提出しなければならない」(国会に出すのは内閣。検査報告とともに出す)
- 「内閣は、決算をその年度のうちに国会に提出しなければならない」(次の年度に提出)
- 「会計検査院の組織及び権限は、内閣が政令で定める」(法律で定める=)
- 「内閣は、決算だけを国会に提出すればよく、検査報告は会計検査院が別に提出する」(内閣が検査報告とともに提出)
2決算の不承認の効果学説条文
- 国会が決算を承認しなくても、決算の効力には影響はなく、内閣の政治責任の問題が生じるにとどまる(通説)。すでにされた支出が、さかのぼって無効になることはない。
- 政治責任:国会での追及など、内閣への信頼の問題として問われる、ということ。支出の効力は覆らない。
- 予備費:=予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任で支出することができる。(補足)何に使うかを前もって決めておけないので、使った後に国会の承諾を得る。
- :すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
- この承諾が得られない場合も、すでになされた支出の法的効果に影響はなく、内閣の政治責任の問題が生じるにとどまる(通説)。
- (補足)2つは同じ形の結論(決算の側は「決算の効力」、予備費の側は「支出の法的効果」と言うが、どちらも、すでにされた支出は覆らないという中身)=国会の事後のチェックで否とされても、お金の流れは覆らず、内閣の政治責任として問われる。
| 場面 | 条文 | 国会が認めなかったとき |
|---|---|---|
| 決算の不承認 | 決算の効力に影響なし・内閣の政治責任の問題(通説) | |
| 予備費の支出の事後不承諾 | すでになされた支出の法的効果に影響なし・内閣の政治責任の問題(通説) |
ある年度の決算を国会が承認しなかった。その年度に国から補助金を受けた事業者は、補助金を返す必要があるか → 決算が承認されなかったことを理由に返す必要が生じることはない。不承認で決算の効力は覆らず、残るのは内閣の政治責任の問題。
出題決算は事後審査で、不承認の議決があっても既になされた収入支出に影響しない(○)
- 「国会が決算を承認しなかったときは、その年度の支出は遡って無効となる」(効力に影響はなく、政治責任の問題にとどまる)
- 「予備費の支出について国会の事後の承諾が得られなかったときは、その支出は効力を失う」(支出の法的効果に影響はない)
3財政状況の報告条文
- :内閣は、国会及び国民に対し、定期に、少くとも毎年一回、国の財政状況について報告しなければならない。
- 報告するのは内閣。報告先は国会だけでなく国民も。
- 「少くとも毎年一回」=年に1回は必ず報告するという下限。もっと頻繁に報告してよいが、1年を超えて間を空けることは許されない。
- 法律の例:財政法46条2項は、内閣に、少くとも毎四半期ごとに、予算使用の状況・国庫の状況その他財政の状況を国会及び国民に報告させている。
- (補足)=国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて行使しなければならない(財政民主主義)。国民にも報告させるのは、財政の状況を主権者が判断できるようにする形、と説明できる。
出題国会には予算・決算を出しているので、財政状況の報告は国民に対してで足りる(×)内閣は少なくとも毎年1回、国会及び国民に財政状況を報告しなければならない(○)
- 「の財政状況の報告の相手方は国会に限られ、国民に対して報告する義務は無い」(報告先は国会及び国民)
- 「財政状況の報告は年1回に限られ、それより多く報告することは予定されていない」(少くとも毎年一回=下限)
- 「財政状況の報告をするのは会計検査院である」(内閣)
4の構造と前段条文学説
- :公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
- 前段と後段を分けるのは「又は」(「維持のため、又は公の支配に属しない」)。条文には読点がいくつもあるので、読点で分けない。
- 対象は「公金」だけでなく「その他の公の財産」。行為は「支出」だけでなく「その利用に供して」も禁じる=お金を出さず、土地などの公の財産を使わせる形も入る。
- 前段=宗教上の組織・団体のための公の財産の支出・利用の禁止=政教分離の原則が財政面にあらわれたもの。
市がお金は出さず、市の土地を宗教団体の施設のために無償で使わせた → の問題になりうる。「公の財産」を「利用に供する」ことも禁止の対象。
- 「が禁じるのは公金の支出であり、国や地方公共団体の土地を使わせることはの問題にならない」(公の財産をその利用に供することも禁止)
- 「は政教分離の原則とは別の、財政上の規律にすぎない」(政教分離の原則の財政面のあらわれ)
5後段と私立大学条文学説
- 後段=公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対する、公金その他の公の財産の支出・利用の禁止。
- 私立大学への助成:国は、大学又は高等専門学校を設置する学校法人に、教育・研究の経常的経費の2分の1以内を補助することができる(私立学校振興助成法4条1項)。
- 私立大学は「教育……の事業」にあたり、助成金を出していれば支出にあたる → 残る争点は「公の支配」に属するか。
- 属していなければ助成金の支出はに反し許されない。属していれば許される。
- 「公の支配」の意味は、の趣旨をどう解するかと連動して対立する(項目6・7)。
- 「私立大学への助成がに反するかは、私立大学が教育の事業にあたるかで決まる」(教育の事業にはあたる。争点は「公の支配」に属するか)
- 「は、公の支配に属する事業に対する公金の支出を禁じている」(禁じるのは属しない事業への支出・利用)
6自主性確保説学説
- 趣旨:は、公金を受け取る団体の自主性を確保するための規定。
- 「公の支配」=団体の自主性を確保する必要がないほどの強度の支配。具体的には、人事権を公権力が持っていることなどが必要。
- (補足)向きを言い直すと:人事まで公権力が握っている団体には、守るべき自主性がもう無いので、お金を出してもよい。そこまでの支配が無い団体には、自主性を守るため、お金を出せない。
- 発想:お金を出せば、口も出したくなる → 口を出さないようにするために、そもそもお金を出さない。だから公の支配に属しない団体には、お金を出すこと自体を禁じる、と読む。
- 当てはめ:私立大学には、そこまでの強度の支配は及んでいない → 公の支配に属しない → 私立大学への助成金の支出はに反する(違憲)。
- 「自主性」は厳格に解する側だけの言葉ではない:「公の支配」を厳格に捉え過ぎると、公的援助の対象となっている私的な団体等の自主性を過度に損なうことになり望ましくない、という記述は、「国又は地方公共団体が、法令等により一定の監督をしていることで足りる」とする見解の根拠になる(司法試験の短答の正答)。自主性確保説は「自主性を守るために、強い支配の無い団体にはお金を出さない」と使い、この記述は「自主性を損なわないために、強い支配までは求めない」と使う。
- (補足)私立学校振興助成法12条4号には、法令違反などの役員・評議員の解職をすべき旨を勧告する権限がある。ただし勧告であって、公権力が役員を選んだり解任したりする権限ではない。
出題公益法人・学校法人は国の監督を受けるので「公の支配」に属する監督権限が報告徴収・勧告に限られる現行の私学助成には違憲の疑いがある89条後段の趣旨は、私的事業の自主性確保のため公権力の干渉を除くこと不当な公権力の支配を防ぐとする立場は「公の支配」を緩やかかつ広義に解する(×)「公の支配」を厳格に解する立場からは、私学助成に違憲の疑いがある(○)
出題「公の支配」を厳格に捉え過ぎると、援助対象の団体の自主性を過度に損なう
- 「自主性確保説によれば、私立大学は公の支配に属するから、私学助成はに反しない」(強度の支配は及ばず、公の支配に属しない=違憲)
- 「自主性確保説は、の趣旨を公費の濫用の防止に求める」(団体の自主性の確保。濫用防止は他方の説)
- 「団体の自主性への配慮は、『公の支配』を厳格に解する根拠にしかならない」(厳格に捉え過ぎると援助を受ける団体の自主性を過度に損なう、という形で、監督で足りるとする緩やかな解釈の根拠にもなる)
7公費濫用防止説学説
- 自主性確保説への批判:公の支配をそのように厳格に解すると、福祉国家の理念(以下)に反する。
- (補足)は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利と、国の社会福祉・社会保障の向上・増進の努めを定める。厳格に解すると、強い支配を受け入れない限り公金による支援を受けられない事業が増え、国が福祉のために積極的に関わるという理念とぶつかる。
- 趣旨:が防ごうとしているのは公費の濫用。慈善・教育・博愛の事業は、目的の公共性から濫用のおそれが多い、とも説明される(補足:「良いことをしているのだから、お金をもらって当然だ」という理屈が通りやすい)。
- 「公の支配」=公費の濫用を防げる程度の支配で足りる。具体的には、業務や会計の状況に関し報告を求める、予算について必要な変更をすべき旨を勧告する程度の監督権。人事権のような強度の支配までは要らない。
- (補足)この程度の監督にあたるものとして、私立学校振興助成法12条がある:所轄庁は、助成を受ける学校法人に対し、業務若しくは会計の状況に関し報告を徴し、関係者に質問させ、帳簿・書類その他の物件を検査させること(1号)、予算が助成の目的に照らして不適当なときに予算について必要な変更をすべき旨を勧告すること(3号)などの権限を持つ。
- 当てはめ:私立大学にはこの程度の監督が及んでいる → 公の支配に属する → 私立大学への助成金の支出は許される(合憲)。
- 基本書はこの説を「妥当である」とする。
- 私学助成とについて、最高裁の判例は無い=答案では学説の対立として書く。
| 自主性確保説 | 公費濫用防止説 | |
|---|---|---|
| の趣旨 | 団体の自主性の確保 | 公費の濫用の防止 |
| 「公の支配」の程度 | 自主性を確保する必要がないほどの強度の支配 | 公費の濫用を防げる程度の支配で足りる |
| 具体例 | 人事権を公権力が持っていることなど | 業務・会計の状況について報告を求める、予算の変更を勧告する程度の監督権 |
| 私立大学 | 公の支配に属しない | 公の支配に属する |
| 私学助成 | に反する(違憲) | 許される(合憲) |
自治体が、報告を求める仕組みも、予算に勧告する仕組みも無い民間の慈善事業に補助金を出す → 公費濫用防止説でも「公の支配」に属するとは言いにくい。結論を動かすのは、使い道を確かめる手段(報告を求める・勧告する)が公の側にあるか。
出題89条後段の趣旨は、公金支出が濫費とならないよう国等が監督すること公財産の濫費防止を89条後段の趣旨とすると「公の支配」は厳格・狭義に解すべき(×)
- 「公費濫用防止説は、公の支配に属するといえるためには、公権力が人事権を持つことまで必要とする」(濫用を防げる程度の監督権で足りる)
- 「公費濫用防止説が自主性確保説を批判する理由は、私学助成が現に行われていることである」(厳格に解すると福祉国家の理念に反する、という批判)
- 「最高裁は、私学助成について公費濫用防止説を採り、に反しないとした」(この点の最高裁判例は無い)