憲法ゼロから憲法#84

条例制定権——国の法律と、地方の条例がぶつかるとき

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第4章 統治 #84/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

地方公共団体の権能——事務の処理等

94条前段の権能(財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権能/自治事務=地方選挙・水道事業・ごみ処理事業/法定受託事務=国政選挙・旅券の交付・国道の管理) 図:94条前段の権能

  • 財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権能
  • 自治事務=地方選挙・水道事業・ごみ処理事業
  • 法定受託事務=国政選挙・旅券の交付・国道の管理

条例そのものに入る前に、地方公共団体が持っている権能そのものを確認しておきます。94条には、まず前段があります。地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、行政を執行する権能を持つ、という部分です。ここで言う「事務」には、性質の異なる2種類があります。1つは自治事務です。地方選挙の実施や、水道事業、ごみ処理事業のように、地方公共団体が本来の仕事として担うものです。もう1つは、法定受託事務です。国政選挙の実施や、旅券の交付、国道の管理のように、本来は国の事務なのですが、法律によって地方公共団体に委託されているものです。

国の仕事を地方が代わりに担う、というイメージで大丈夫です。ただし、自治事務と法定受託事務という2つの区別は、94条の文言そのものではなく、地方自治法が置いている分類です。94条は「事務を処理し」とだけ書いていて、それを自治事務と法定受託事務に分けているのは、法律のレベルの話です。この権能を土台にして、94条の後段が、条例を作る力を認めています。ここからが今日の本題です。

条例制定権——94条

94条カード(全文=地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。/前段=権能/後段=条例制定権と「法律の範囲内」という縛り) 図:94条カード

  • 全文=地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
  • 前段=権能
  • 後段=条例制定権と「法律の範囲内」という縛り

条文を、通しで見てみましょう。

条文日本国憲法 94条

日本国憲法 第九十四条 地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。

そして後段に「法律の範囲内で条例を制定することができる」とあります。今日の主役は、この後段です。この言葉をどう読むかが、今日いちばんの山場になります。ただし、そこにたどり着く前に、条例そのものの中身を、順番に固めていきます。

条例とは何か——意義

条例の意義(条例=地方公共団体が自治権に基づいて制定する自主法/議会が議決した条例のほか、長・各種委員会が定める規則も含む〔最広義説〕) 図:条例の意義

  • 条例=地方公共団体が自治権に基づいて制定する自主法
  • 議会が議決した条例のほか、長・各種委員会が定める規則も含む〔最広義説〕

まず、条例とは何かを確認します。条例とは、地方公共団体が、自分の自治権に基づいて制定する自主法です。国から与えられた法ではなく、地方公共団体が自分の権能として作る法、という意味です。ここで、1つ注意しておきたいことがあります。「条例」という言葉が指す範囲です。議会が議決した、狭い意味での条例だけでなく、地方公共団体の長や、教育委員会のような各種委員会が定める規則も、広い意味では条例に含めて考えます。この考え方を、最広義説と呼びます。名前よりも、なぜ規則まで含めるのか、を押さえてください。長や委員会が定める規則も、国から与えられた法ではなく、地方公共団体が自分の権能として、自分の事務について定める法です。作る主体が議会か長かという違いはあっても、国の委任なしに自分で作れる、という性格は共通しています。だから、まとめて自主法——広い意味での条例として扱うわけです。

委任が要らない、という決定的な違い

想起(#4-1cの復習=政令は法律の委任がなければ罰則を置けなかった〔73条6号ただし書の明文〕/権利義務にかかわる規定を命令で置くにも委任が必要〔委任立法の考え方〕) 図:想起

  • #4-1cの復習=政令は法律の委任がなければ罰則を置けなかった〔73条6号ただし書の明文〕
  • 権利義務にかかわる規定を命令で置くにも委任が必要〔委任立法の考え方〕

ここで、少し前に見た話を思い出してほしいんです。政令は、法律の委任なしに、単独で何ができたでしょうか?73条6号のただし書が明文で書いているのは、罰則の部分です。そのうえで、国民の権利や義務にかかわる規定を命令で置くときにも法律の委任が要る、というのは、委任立法の考え方そのものから出てくる話でした。明文の限定と、考え方から出てくる限定。出どころは違いますが、どちらも「国の行政機関が作る命令は、法律から委任を受けて初めて動ける」という同じ向きです。この前提を持って、条例を見てください。

委任の要否の対比(政令・省令=罰則は73条6号ただし書の明文で委任が必要/権利義務の規定も委任立法の考え方から委任が必要/条例=国の法令による委任は不要/理由=条例は住民が選んだ議会が議決した民主的な立法だから) 図:委任の要否の対比

  • 政令・省令=罰則は73条6号ただし書の明文で委任が必要
  • 権利義務の規定も委任立法の考え方から委任が必要
  • 条例=国の法令による委任は不要
  • 理由=条例は住民が選んだ議会が議決した民主的な立法だから

条例は、ここが決定的に違います。条例の制定には、国の法令による委任は要りません。政令と条例、どちらも国会が作った法律ではないという点は同じです。ですが、扱いはまったく異なります。理由は、今日の背骨に戻ります。条例は、住民が直接選んだ議員で構成される議会が、議決して作る法です。政令は、内閣という行政機関が作ります。行政機関が勝手に国民の権利を制限できないよう、法律の委任という歯止めが必要でした。ですが条例は、住民の代表が議決する、いわば地方版の法律です。民主的な立法だから、委任なしで自分の判断で作れる。この理由が、これから見ていく他の場面にも、繰り返し出てきます。

条例で制定できる事項

条例で制定できる事項(地方公共団体の事務に関する事項に限られる/地方自治法2条2項=普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する/国の事務・外交・防衛は対象外) 図:条例で制定できる事項

  • 地方公共団体の事務に関する事項に限られる
  • 地方自治法2条2項=普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する
  • 国の事務・外交・防衛は対象外

委任が要らないとはいえ、条例が何でも決められるわけではありません。条例で決められるのは、地方公共団体の事務に関する事項に限られます。地方自治法2条2項は、こう定めています。

条文地方自治法 2条2項

地方自治法 第二条第二項 普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。

外交や防衛、あるいは全国一律であるべき国の制度は、地方公共団体の事務ではありませんから、条例では扱えません。逆に言えば、地域における事務に関することであれば、条例で決められる余地がある、ということです。

法律留保事項という壁

法律留保事項という壁(財産権の制限=29条2項/罰則=31条/租税=84条/いずれも憲法の明文で「法律」に委ねられている/条例でこれらを定められるかが問題になる) 図:法律留保事項という壁

  • 財産権の制限=29条2項
  • 罰則=31条
  • 租税=84条
  • いずれも憲法の明文で「法律」に委ねられている
  • 条例でこれらを定められるかが問題になる

ここで、1つ壁にぶつかります。憲法には、明文で「法律」に委ねている事柄が、いくつかあります。財産権の制限は29条2項——財産権の内容は法律で定める、という条文です。罰則は31条——法律の定める手続によらなければ刑罰を科されない。租税は84条——税を新しく課したり変えたりするには法律による。どれも、憲法自身が「法律」と書いている場面です。その「法律」に条例が含まれるのかが、まさに問題になります。条例は議会が議決するとはいえ、憲法の条文には「条例」ではなく「法律」と書かれています。この文言を厳格に読めば、条例では手が出せないはずです。

そこで、この壁をどう乗り越えるか、あるいは乗り越えないか、という問題が出てきます。まず、罰則の場面から見ていきましょう。

罰則の委任——判例と通説で出発点が逆

罰則の委任(判例=条例で罰則を定めるにも法律の委任は必要/ただし委任の程度は「相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる」/命令への委任〔73条6号ただし書〕より緩やかでよい) 図:罰則の委任

  • 判例=条例で罰則を定めるにも法律の委任は必要
  • ただし委任の程度は「相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる」
  • 命令への委任〔73条6号ただし書〕より緩やかでよい

まず、条例で罰則を定めるとき、法律の委任が必要かどうかが争われた事件があります。

判例最大判昭37・5・30 刑集16巻5号577頁

条例による罰則の制定と法律の委任 条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。

判例は、条例で罰則を定めるにも、法律の委任は必要だという立場を取ります。ただし、その委任の程度については、政令のような命令への委任とは扱いを変えています。命令への委任は、個別具体的に、範囲を限定して委任することが求められます。ですが条例への委任は、「相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる」とされました。命令への委任より、緩やかな程度で足りる、ということです。そこにも、条例が民主的な立法だという理由が働いています。行政機関である内閣が定める命令とは違い、条例は住民代表の議会が議決します。だから、委任は必要としつつも、その厳格さは緩めてよい、という判断です。

通説の立場(通説=条例は民主的な立法であり法律に準ずるものである以上、法律留保事項であっても法律の委任なくして条例で制定できる/判例との出発点の違い=委任が必要か不要か) 図:通説の立場

  • 通説=条例は民主的な立法であり法律に準ずるものである以上、法律留保事項であっても法律の委任なくして条例で制定できる
  • 判例との出発点の違い=委任が必要か不要か

判例と通説は、ここで立場が分かれます。通説は、条例は民主的な立法であり、法律に準ずるものである以上、罰則のような法律留保事項であっても、法律の委任なくして条例で制定できる、と考えます。出発点そのものが逆になっています。判例は委任必要説、通説は委任不要説です。どちらか一方だけを覚えると、試験で足をすくわれます。両方セットで押さえてください。判例と通説が正反対になること自体は、珍しいことではありません。ここで分かれているのは、条例の民主的な性格をどこまで徹底するか、という評価の違いです。通説の立場に立てば、罰則についても、条例は法律に準ずる立法として、独立に制定できることになります。

条例と課税・条例と財産権

課税と財産権(課税権の根拠=92条の団体自治に求められる/財産権の制限〔29条2項〕も法律留保事項のひとつであり、条例が問題になった場面がある) 図:課税と財産権

  • 課税権の根拠=92条の団体自治に求められる
  • 財産権の制限〔29条2項〕も法律留保事項のひとつであり、条例が問題になった場面がある

法律留保事項は、罰則だけではありません。租税と財産権にも、同じ構造の問題があります。地方公共団体が独自に税を課す権限、いわゆる課税権の根拠は、92条の団体自治に求められます。自分の財源を自分で持つことは、国からの独立という団体自治の中身そのものだからです。税は法律で定めなければならない、という租税法律主義。ここで壁として出てきた84条との関係だけ、先に答えを言っておきます。地方公共団体が条例で税を課すこと自体は、認められます。住民が選んだ議会が定める以上、「法律で決める」という84条の要請は実質的に満たされている、と考えられているからです。その先の細かい中身は、また別の回でじっくり扱います。

財産権の制限も、法律留保事項のひとつです。ある地域で、ため池の土手——堤とうと呼ばれる部分を使うことを、条例で制限した事案が実際にありました。29条2項も「法律で定める」と書いていますが、条例で制限できる、というのが通説の立場です。理由は、今日の背骨がそのまま効くからです。条例は、住民が選んだ議会が議決する民主的な立法で、法律に準ずるものだと言えます。そうである以上、憲法が「法律で定める」と書いた事柄であっても、法律の委任を待たずに、条例で定めることができる。29条2項の財産権も、その一つだ、という読み方です。

罰則・租税・財産権という3つの壁は、どれも「法律と書いてあるから条例では一切ダメ」では終わりませんでした。条例は民主的な立法だ、という1本が、3つとも同じ向きに効いています。ただし、さっきの事案で具体的にどこまでの制限が許されたのかは、財産権そのものを扱う回で見ます。

「法律の範囲内」とは何の話か

法律の範囲内の意味(誤り=条例の制定に法律の委任が必要という意味ではない/正しい理解=条例と法律が矛盾抵触した場合に法律が優先されるという趣旨) 図:法律の範囲内の意味

  • 誤り=条例の制定に法律の委任が必要という意味ではない
  • 正しい理解=条例と法律が矛盾抵触した場合に法律が優先されるという趣旨

さて、ここからが今日の山場です。94条の「法律の範囲内で」という言葉に、戻りましょう。ここで、はっきりさせておきたいことがあります。「法律の範囲内で」というのは、条例の制定に法律の委任が必要だ、という意味ではありません。そこが、いちばん取り違えやすいところです。委任の要否は、さっき見たとおり、条例には基本的に要りません。「法律の範囲内で」が意味しているのは、まったく別のことです。条例と法律が、矛盾し、抵触した場合に、法律が優先される、という趣旨です。条例は法律の下に位置づけられていて、内容がぶつかったときには、法律のほうが勝つ。それだけの意味です。場面で言うとこうです。県が条例で、工場の排出基準を定めたとします。「法律の範囲内」というのは、その条例を作るのに国の許可が要る、という意味ではありません。作ること自体は県の判断でできる。できあがった条例の中身が、国の法律とぶつかったときに、法律のほうが勝つ——そういう場面の話です。

この違いを押さえておかないと、「法律より厳しい条例は範囲外だから無効」という早合点をしてしまいます。範囲内かどうかは、単純な文言の比較では決まりません。次に、その判断基準を見ていきます。

上乗せ条例・横出し条例

上乗せ・横出し条例(上乗せ条例=国の法令が定める規制基準よりも厳しい基準を定める条例/例=国の基準より厳しい排出基準を定める条例/横出し条例=国が規制している対象事項以外の事項を規制する条例/例=国が規制していない業種にまで規制を広げる条例) 図:上乗せ・横出し条例

  • 上乗せ条例=国の法令が定める規制基準よりも厳しい基準を定める条例
  • 例=国の基準より厳しい排出基準を定める条例
  • 横出し条例=国が規制している対象事項以外の事項を規制する条例
  • 例=国が規制していない業種にまで規制を広げる条例

ここで、2つの言葉を整理します。上乗せ条例と、横出し条例です。さきほどの排出基準の場面で固定しましょう。国の法律が、ある物質について、工場からの排出基準の数値を定めている。県が、条例で、それより厳しい数値を定めたら、これが上乗せ条例です。もう1つ、横出し条例です。国の法律が特定の業種だけを規制しているときに、条例が、国の法律が対象にしていない別の業種にまで規制を広げたら、これが横出し条例です。冒頭の一問は、まさに上乗せ条例の場面です。国の法律より厳しい基準を、条例で定めてよいのか。これを判断する基準を、次に見ていきます。

「法律の範囲内」の判断基準——徳島市公安条例事件

判断基準の核心(条例が国の法令に違反するかどうかは、対象事項と規定文言を対比するのみでは決まらない/本体=それぞれの趣旨・目的・内容及び効果を比較して矛盾抵触があるかを決する) 図:判断基準の核心

  • 条例が国の法令に違反するかどうかは、対象事項と規定文言を対比するのみでは決まらない
  • 本体=それぞれの趣旨・目的・内容及び効果を比較して矛盾抵触があるかを決する

この論点で、最も重要な判断基準を示した判決があります。なお、この判決は、条例の文言が明確かどうかを論じた場面で、一度見た顔です。今日見るのは、同じ判決の別の面——条例が国の法令に違反するか、という94条の側だけです。判旨は、大きく三つに分かれます。1つ目が、判断の物差しそのもの。2つ目が、国の法令に明文の規定が無い場合。3つ目が、国の法令と条例の両方に規定がある場合です。順番に見ていきます。まず、物差しそのものです。

判例最大判昭50・9・10 刑集29巻8号489頁

条例が国の法令に違反するかどうかの判断基準 条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。

この「対比するのみでなく」という部分が、いちばん取り違えられやすいところです。条例と法律を並べて、対象が同じか、文言が同じか、だけを見て結論を出す考え方は、この判決が明確に否定しています。なぜ、文言の対比だけでは決められないのか。言葉が重なっているというだけで無効にすると、国がまったく邪魔だと思っていない条例まで、一律に潰れてしまいます。逆に、言い回しさえずらせば、国の規制を実質的に骨抜きにする条例が、そのまま生き残ってしまう。どちらも、法律と条例を並べて置いた94条の狙いから外れます。見るのは、それぞれの趣旨、目的、内容、そして効果です。この4つを比較して、両者のあいだに実質的な矛盾抵触があるかどうかで決める、というのが本体です。

明文が無い場合(国の法令に規定が無くても、条例が違反することがありうる/規定の欠如が「特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨」と解されるときは、条例が国の法令に違反する) 図:明文が無い場合

  • 国の法令に規定が無くても、条例が違反することがありうる
  • 規定の欠如が「特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨」と解されるときは、条例が国の法令に違反する

国の法律に何も書いていなければ条例は自由だ、と思いたくなりますが、そうとは限りません。国の法令に、その事項についての規定が無い場合でも、条例が国の法令に違反することがあります。法令全体から見て、その規定の欠如が特に当該事項について、いかなる規制も施すことなく放置すべきものとする趣旨と解されるときは、そうなります。国が、あえて何も規制しない、という判断を下している場合です。そこに条例が割り込むと、国の判断そのものを覆すことになります。国の法律が、その物質について何の基準も置いていないとします。それが「調べたうえで、この物質は規制しないでおく」と決めた結果なら、県が条例で基準を置けば違反です。まだ手が回っていないだけなら、条例は許されます。同じ「書いてない」でも、中身が逆になります。

併存する場合(国の法令と条例が併存する場合でも矛盾抵触が無いことがある/⒜別目的の規律で国の法令の目的・効果をなんら阻害しないとき/⒝同一目的でも国の法令が全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく地方の実情に応じた別段の規制を容認する趣旨のとき) 図:併存する場合

  • 国の法令と条例が併存する場合でも矛盾抵触が無いことがある
  • ⒜別目的の規律で国の法令の目的・効果をなんら阻害しないとき
  • ⒝同一目的でも国の法令が全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく地方の実情に応じた別段の規制を容認する趣旨のとき

国の法令と条例の両方に規定がある場合は、2つのパターンで矛盾抵触が無いとされます。1つ目は、条例が別の目的で規律していて、その適用が国の法令の目的や効果を、なんら阻害しないときです。同じ工場を相手にしていても、国の法律が大気の汚染を防ぐためのもので、条例が工場の騒音を抑えるためのものなら、目的が違います。条例を守らせても、国の基準が緩むわけではありません。だから共存できます。2つ目は、同じ目的であっても、国の法令が全国的に一律に同じ内容の規制を施す趣旨ではなく、地方の実情に応じた別段の規制を、国自身が容認する趣旨と解されるときです。

国の法令が地方の実情に応じた別段の規制を容認する趣旨なら、上乗せ条例は、国の法令に違反しません。逆に、国の法令が「これで全国一律だ、これ以上厳しくするな」という趣旨まで含んでいるなら、上乗せ条例は違反することになります。だから、上乗せ条例だからといって、一律に無効だと決めつけることはできません。国の法律が「これは全国どこでも最低限守るべき線だ」という趣旨なら、県がそれより厳しい数値を上乗せしても違反しません。ここが境界の内側です。同じ数値でも、国の法律が「産業への負担を考えて、この線で全国そろえる」という趣旨と読めるなら、上乗せは違反になります。ここが境界のすぐ外側です。数値の厳しさではなく、国の法令の趣旨が境目だ、ということです。

判断フローを1枚に

判断フローの確認(冒頭の一問=法律より厳しい上乗せ条例は無効か/このフローに当てはめて答えを出す) 図:判断フローの確認

  • 冒頭の一問=法律より厳しい上乗せ条例は無効か
  • このフローに当てはめて答えを出す

ここで、冒頭の一問に戻ります。国が法律で規制している事柄について、都道府県が条例でもっと厳しい上乗せ規制をかけたら、その条例は無効か。この問いに、今日見た基準を当てはめて、答えを出してみましょう。それを、実際に使えるように、1本のフローにまとめます。

判断フロー(明文の有無を確認→〔無い場合〕規制の欠如が放置すべき趣旨か→〔ある場合〕条例の目的は国の法令と同一か→阻害するか、または全国一律の趣旨か、を確認して結論を出す) 図:判断フロー

まず、国の法令に、その事項についての明文の規定があるかどうかを確認します。規定が無ければ、その欠如が「規制せず放置する趣旨」なのかどうかを見ます。放置する趣旨なら、条例は違反します。そうでなければ、条例は許されます。規定がある場合は、条例の目的が、国の法令と同じかどうかを見ます。目的が違うなら、その条例が国の法令の目的や効果を阻害するかどうかを見ます。阻害しなければ、条例は許されます。目的が同じなら、国の法令が全国一律の規制を求める趣旨かどうかを見ます。地方の実情に応じた上乗せを容認する趣旨なら、条例は許されます。全国一律を求める趣旨なら、条例は違反します。

上乗せ条例が、国の法令の目的を阻害せず、しかも国の法令が地方の実情に応じた上乗せを容認する趣旨と解されるなら、その条例は有効です。逆に、国の法令が全国一律を求める趣旨と解されるなら、その条例は違反します。国の法令の趣旨を読み解かなければ、答えは出ません。「法律より厳しいから範囲外」という早合点を、このフローがちょうど正してくれます。

条例による地域差と平等原則

地域差と平等原則(憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によつて差別を生ずることは当然に予期されることであり、かかる差別は憲法みずから容認するところである/「地域差があるから平等違反」とは書かない) 図:地域差と平等原則

  • 憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によつて差別を生ずることは当然に予期されることであり、かかる差別は憲法みずから容認するところである
  • 「地域差があるから平等違反」とは書かない

最後に、もう1つだけ論点を確認します。条例は地方公共団体ごとに内容が違います。ある県では規制されていることが、別の県では規制されていない、ということが起こります。地域ごとに扱いが違えば平等原則に反するのではないか、と思うのが自然です。ですが、この点を扱った判決があります。

判例最大判昭33・10・15 刑集12巻14号3305頁

条例による地域差と平等原則 憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によつて差別を生ずることは当然に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところであると解すべきである。

憲法自身が94条で、地方公共団体ごとに条例を作る権能を認めている以上、その結果として地域による差が生じることは、はじめから織り込み済みだ、という考え方です。条例が地域ごとに違う内容を持つのは、94条という憲法の条文そのものが予定していることです。だから、その差自体を14条1項の平等違反として問題にすることはできません。

まとめ(背骨=条例は民主的な立法である/①委任不要〔政令との違い〕②法律留保事項にも踏み込める場面がある〔罰則=判例と通説で出発点が逆〕③地域差は憲法みずから容認する/「法律の範囲内」=矛盾抵触時に法律が優先する趣旨で委任の話ではない) 図:まとめ

  • 背骨=条例は民主的な立法である
  • ①委任不要〔政令との違い〕②法律留保事項にも踏み込める場面がある〔罰則=判例と通説で出発点が逆〕③地域差は憲法みずから容認する
  • 「法律の範囲内」=矛盾抵触時に法律が優先する趣旨で委任の話ではない

今日の内容を、まとめましょう。背骨は、条例は民主的な立法である、という1点でした。もう一度確認します。この理由から、なぜ委任が要らないと言えたでしょうか?住民が選んだ議会が議決した法だから、行政機関である政令とは違って、国の委任がなくても自分の判断で作れる、ということでしたね。同じ理由から、罰則という法律留保事項についても、通説は委任なしで条例が定められると考えました。判例は委任は必要としつつ、程度は緩めました。そして、条例による地域差も、憲法94条自身が予定した結果として、平等違反にはなりませんでした。

そして今日いちばんの山場だったのが、「法律の範囲内」の意味です。委任の要否の話ではなく、矛盾抵触が生じたときに法律が優先する、という趣旨でした。冒頭の一問——法律より厳しい上乗せ条例は無効か。答えは、一律には決まらない、でした。国の法令の趣旨を読み解いて、目的を阻害するか、全国一律を求めているかを確認する。この判断フローを、今日は手に入れました。ここまでで、憲法が作った統治のしくみは、一通り見終えました。国会、内閣、裁判所、そして地方自治。それぞれが、どう作られ、どう動くかを見てきました。最後に、残された問いが1つあります。その憲法自体は、どうやって守られ、どこまで変えられるのか。統治のしくみを作った憲法そのものを、支える仕組みを見ていきます。

参照条文

  • 日本国憲法 94条
  • 地方自治法 2条2項

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