条例制定権
問い:国の法律がある事柄を規制しているところへ、条例が法律より厳しい規制をかけたら、その条例は無効になるのか。そもそも条例は、何を、どこまで定められるのか。
骨組み
- 1の構造(条文):前段=財産の管理・事務の処理・行政の執行の権能/後段=法律の範囲内で条例を制定できる。事務の自治事務・法定受託事務の区別は地方自治法の分類(2条8項・9項)で、の文言ではない
- 2条例の意義(学説・条文):条例=地方公共団体が自治権に基づいて制定する自主法。最広義説=議会の条例に加え、長・各種委員会の規則も含む。ただし長の規則に置ける制裁は5万円以下の過料だけ(地方自治法15条2項)
- 3委任の要否(学説・判例・条文):条例の制定に国の法令の委任は不要。判例(最大判昭37・5・30)=条例は「直接憲法九四条により…制定する権能を認められた自治立法」。対して政令の罰則=ただし書(憲法の明文)/政令の義務・権利制限=内閣法11条/省令の罰則・義務・権利制限=国家行政組織法12条3項(法律の明文)で委任が要る
- 4条例で定められる事項(学説・条文):地方公共団体の事務に関する事項に限る(地方自治法14条1項・2条2項)。外交・防衛など国の事務は不可
- 5法律留保事項と罰則の判例(判例・最大判昭37・5・30):法律留保事項=財産権()・罰則()・租税()。委任の要否・程度を判断した判例は、罰則についてのこの判決:は法律の授権による下位の法令の罰則を許す(白紙委任は不可)。条例は法律に類するので、授権が「相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる」。述べたのは「条例によつて刑罰を定める場合」で、刑罰を科す手続まで条例で定められるとはしていない
- 6通説と財産権(学説・判例):通説=議会の議決した条例は民主的立法で法律に準ずる → 法律留保事項は3つとも委任なしに条例で定められる。ため池条例事件(最大判昭38・6・26)=堤とうの使用は「財産権の行使の埒外」として違反を否定(通説を正面から認めたとは言い切れない)
- 7条例による課税(判例・最判平25・3・21):地方公共団体は課税権の主体となることが憲法上予定(・)。ただし税目・課税標準・税率などはの下で法律が準則を定め、課税権はその範囲内で行使する
- 8「法律の範囲内」の意味(学説):委任が要るという意味ではない。条例と法律が矛盾抵触したら法律が優先するという意味。上乗せ条例=国より厳しい基準/横出し条例=国が規制していない対象事項を規制
- 9徳島市公安条例事件の基準(判例・最大判昭50・9・10):対象事項と規定文言を対比するのみでなく、趣旨、目的、内容及び効果を比較し、矛盾抵触があるかで決める。例:①明文が無くても、欠如が放置すべき趣旨なら違反となりうる ②併存しても、別の目的で効果を阻害しない/同一目的でも全国一律の趣旨でない → 違反しない
- 10徳島判決の当てはめ(判例):道路交通法=道路交通秩序の維持/条例=地方公共の安寧と秩序の維持=目的を全く同じくするとはいえない。道路交通法77条1項4号は各公安委員会に委ね全国一律を避けている。条例の罰則が重く、禁錮まであっても、考慮した事情が違いそれ自体として合理性を有するので違反ではない
- 11地域差と平等原則(判例・最大判昭33・10・15):「憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上」地域差は当然に予期される → 「憲法みずから容認する」=地域差の故をもって違憲とはいえない()
色の札は出どころ:条文 判例 学説。条文番号は押すと条文が出ます(押せるのは日本国憲法の条文だけ。地方自治法・内閣法・国家行政組織法・道路交通法・地方税法と各地の条例の条文番号は文字のまま)。最大判=最高裁判所大法廷の判決、最判=最高裁判所小法廷の判決。判決の引用は原文どおり(昭和の判決は漢数字と旧かな、平成25年の判決は「,」と全角数字)。1〜4が条例の性格と範囲、5〜7が憲法が「法律」に委ねた事柄と条例、8〜10が条例と法律がぶつかる場面、11が地域差。
1の構造と事務の2つの区分条文
- :地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
- 前段=地方公共団体の権能(財産の管理・事務の処理・行政の執行)。後段=条例制定権。後段の「法律の範囲内で」をどう読むかが、このページの中心(項目8〜10)。
- は「事務を処理し」とだけ書く。事務を自治事務と法定受託事務に分けているのは地方自治法(法律のレベル)。
- 地方自治法2条8項:「自治事務」=地方公共団体が処理する事務のうち、法定受託事務以外のもの。
- 地方自治法2条9項(第1号法定受託事務):法律又はこれに基づく政令により都道府県、市町村又は特別区が処理することとされる事務のうち、国が本来果たすべき役割に係るものであつて、国においてその適正な処理を特に確保する必要があるものとして法律又はこれに基づく政令に特に定めるもの。
| 自治事務 | 法定受託事務 | |
|---|---|---|
| 定め方 | 法定受託事務以外の事務(2条8項) | 国が本来果たすべき役割に係る事務で、法律・政令に特に定めるもの(2条9項) |
| 例 | 地方選挙の実施・水道事業・ごみ処理事業 | 国政選挙の実施・旅券の交付・国道(指定区間外)の管理 |
- 「は、地方公共団体の事務を自治事務と法定受託事務に区別している」(は「事務を処理し」とだけ書く。区別は地方自治法2条8項・9項)
2条例の意義(最広義説)と規則の限界学説条文
- 条例=地方公共団体が、自治権に基づいて制定する自主法。国から与えられた法ではなく、地方公共団体が自分の権能として作る法。
- 最広義説:議会が議決した条例だけでなく、長や各種委員会(例:教育委員会)が定める規則も、広い意味の条例に含める。
- ただし、議会の条例と長の規則では、置ける制裁の幅が違う(地方自治法):
- 条例(14条3項):二年以下の拘禁刑、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料。
- 長の規則(15条2項):五万円以下の過料だけ。
市長が規則で、違反者に罰金を科す規定を置いた → 置けない(規則で置けるのは5万円以下の過料だけ)。罰金を置くなら、議会の議決する条例による。
出題94条の「条例」には議会の条例だけでなく長の規則も含まれる(○)
- 「最広義説によれば長の規則も条例に含まれるから、長の規則でも罰金を科す規定を置ける」(規則に置けるのは5万円以下の過料だけ=地方自治法15条2項)
3委任の要否(政令・省令との対比)学説判例条文
- 結論:条例の制定には、国の法令による委任は要らない。
- ここで言う委任不要は、条例というもの全般の話。憲法が「法律で」と定める事柄(罰則など)に法律の授権が要るかは別の問題で、項目5〜6で扱う。このページでは、判決の言う「法律の授権」と「法律の委任」を同じ意味で使う。
- 足場:判例(大阪市売春取締条例事件・最大判昭37・5・30)は、条例を、が直接に権能を認めた自治立法と位置づけている。
- すなわち、地方公共団体の制定する条例は、憲法が特に民主主義政治組織の欠くべからざる構成として保障する地方自治の本旨に基づき(同九二条)、直接憲法九四条により法律の範囲内において制定する権能を認められた自治立法に外ならない。
- 補強:条例は、住民が直接選挙する議員で組織する議会()の議決を経る。政令は内閣という行政機関が定める。
| 政令・省令(国の行政機関の命令) | 条例 | |
|---|---|---|
| 罰則 | 法律の委任が要る:政令=ただし書(憲法の明文)・省令=国家行政組織法12条3項 | 判例=法律の授権を前提に、授権が相当な程度に具体的で限定されていれば足りる/通説=委任不要(項目5〜6) |
| 義務を課し・権利を制限する規定 | 法律の委任が要る:政令=内閣法11条・省令=国家行政組織法12条3項(法律の明文) | 国の法令の委任は不要(地方自治法14条2項) |
- :この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること。但し、政令には、特にその法律の委任がある場合を除いては、罰則を設けることができない。
- 内閣法11条:政令には、法律の委任がなければ、義務を課し、又は権利を制限する規定を設けることができない。
- 国家行政組織法12条3項:省令には、法律の委任がなければ、罰則を設け、又は義務を課し、若しくは国民の権利を制限する規定を設けることができない。
- 憲法の明文で委任を求めているのは政令の罰則だけ。ただし義務・権利制限の規定についても、法律の明文(内閣法11条・国家行政組織法12条3項)がある。
- 条例の側:地方自治法14条2項=普通地方公共団体は、義務を課し、又は権利を制限するには、法令に特別の定めがある場合を除くほか、条例によらなければならない。
省令だけで国民に届出義務を課す → 法律の委任が無ければできない(国家行政組織法12条3項)。同じ届出義務を市議会が条例で定める → 国の法律の委任は要らない(地方自治法14条2項は、むしろ条例によれと定める)。
出題94条により、条例を制定するには法律の根拠が必要である(×)
- 「条例を制定するには、国の法律による委任が必要である」(委任は不要。条例はが直接に権能を認めた自治立法)
- 「政令で義務を課し権利を制限する規定を置くのに委任が要ることは、法律に明文が無く、委任立法の考え方から導かれるにすぎない」(内閣法11条・国家行政組織法12条3項に明文がある。明文が無いのは憲法のレベルの話)
4条例で定められる事項学説条文判例
- 結論:条例で定められるのは、地方公共団体の事務に関する事項に限られる。委任なしに作れても、何でも決められるわけではない。
- 地方自治法14条1項:普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第二条第二項の事務に関し、条例を制定することができる。
- 地方自治法2条2項:普通地方公共団体は、地域における事務及びその他の事務で法律又はこれに基づく政令により処理することとされるものを処理する。
- 外交や防衛など、地方公共団体の事務に当たらない国の事務は、条例では扱えない。
- 判例(最大判昭37・5・30):街頭での売春勧誘行為を取り締まるかは国の事務だ(違反)という主張に対し、売春防止法の成立前には取締罰則を定めた法令が無く、当時は地方自治法14条により罰則付条例で取り締まることができたとした。
県が条例で、独自に外国との通商協定の締結を決めた → 外交は国の事務で、県の事務(地方自治法2条2項)に当たらないので、条例では定められない。
- 「条例は国の法令の委任なしに制定できるから、地方公共団体の事務でない事項も条例で定められる」(地方公共団体の事務に関する事項に限る)
5法律留保事項と罰則の判例(大阪市売春取締条例事件)判例条文
- 法律留保事項=憲法が明文で「法律」に委ねている事柄。その「法律」に条例が含まれるか(条例で定められるか)が問題になる。
- 財産権:「財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。」
- 罰則:「何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。」
- 租税:「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする。」
- 委任の要否・程度を判断した判例は、罰則についてのこの判決だけ(財産権・租税の判例=項目6・7は、委任の要否を判断したものではない。「判例は委任不要」とも書かない)。
- 事案:大阪市の条例は、売春の目的で街路その他公の場所で他人の身辺につきまとい又は誘う行為を、五千円以下の罰金又は拘留に処すとしていた。被告人側は、条例に罰則を設けることを認める当時の地方自治法14条1項・5項の授権は不特定かつ抽象的で、に違反すると主張した。
- しかし、憲法三一条はかならずしも刑罰がすべて法律そのもので定められなければならないとするものでなく、法律の授権によつてそれ以下の法令によつて定めることもできると解すべきで、このことは憲法七三条六号但書によつても明らかである。
- ただ、法律の授権が不特定な一般的の白紙委任的なものであつてはならないことは、いうまでもない。
… - しかも、条例は、法律以下の法令といつても、上述のように、公選の議員をもつて組織する地方公共団体の議会の議決を経て制定される自治立法であつて、行政府の制定する命令等とは性質を異にし、むしろ国民の公選した議員をもつて組織する国会の議決を経て制定される法律に類するものであるから、条例によつて刑罰を定める場合には、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されておればたりると解するのが正当である。
- 判決が授権の程度を緩めて述べたのは「条例によつて刑罰を定める場合」(何を罰し、どの刑を科すか)について。刑罰を科す手続まで条例で定めうるとは述べていない。
- 当てはめ:当時の地方自治法2条3項7号・1号の事項は相当に具体的な内容で、14条5項による罰則の範囲も限定されている → に違反しない。
- 読み方:判決は「委任が必要」と正面から述べてはいない。法律の授権があることを前提に、その程度を「相当な程度に具体的であり、限定されておればたりる」としたと整理される(一般に「判例=委任必要説」と呼ばれる)。
- 補足意見は割れている:入江裁判官=条例の罰則にも必ず法律の委任が必要で、一般的委任は許されず個別的委任であることを要する(ただし政令への委任より緩やかでよい)。垂水裁判官(藤田裁判官が同調)=法律の特別の委任がなくとも、法律の範囲内でありさえすれば罰則を含む条例を制定できる。
- 現行法:地方自治法14条3項が、条例に罰則を設けることを刑の上限を定めて一般的に授権している。
仮に法律が「条例で何でも処罰してよい」とだけ定め、刑の上限も事務の範囲も決めていなかったら → 判例の言う「白紙委任的なもの」に近づき、の問題が生じる。上限と事務の範囲が決まっていたことが、「相当な程度に具体的であり、限定されて」いることの中身だった。
出題条例は法律に準ずるので、条例への罰則の委任は一般的・包括的委任で足りる(×)条例は法律と同視できるので、法律の授権がなくても条例で刑罰を定められる(×)
出題相当程度具体的な授権があれば、条例で刑罰とこれを科す手続も定められる(×)
- 「判例によれば、条例で罰則を定めるには、政令の場合と同じく個別具体的な委任が必要である」(判例は、条例は行政府の命令等とは性質を異にし法律に類するとして、授権が相当な程度に具体的であり、限定されていれば足りるとした)
- 「判例によれば、条例は法律ではないから、条例で罰則を定めることはに違反する」(は法律の授権による下位の法令の罰則を許す)
- 「法律が相当程度具体的に限定して授権していれば、条例で刑罰及びこれを科す手続を定めることができる」(判決が述べたのは条例で刑罰を定める場合。刑罰を科す手続まで条例で定めうるとはしていない)
- 「判例は、財産権の制限と課税についても、条例には法律の委任が必要だとした」(判例が委任の程度を判断したのは罰則だけ)
6通説(3つとも委任不要)と財産権(ため池条例事件)学説判例
- 通説:議会の議決した条例は民主的立法であり、法律に準ずる → 法律留保事項(・・)であっても、法律の委任なしに条例で定められる。
- 主語は「議会の議決した条例」。最広義説で条例に含めた長の規則までは含めない(規則に置けるのは過料だけ=項目2)。
- 財産権について通説が挙げる理由:①議会の条例は民主的立法(・参照) ②地域の特性に応じた財産権の規制が必要な場合がある。
| 判例(最大判昭37・5・30) | 通説 | |
|---|---|---|
| 対象 | 罰則だけ | 罰則・財産権・租税の3つとも |
| 委任 | 法律の授権を前提に、相当な程度に具体的で限定されていれば足りる | 委任なしに定められる |
| 理由 | 条例は行政府の命令と性質を異にし、法律に類する | 議会の議決した条例は民主的立法で、法律に準ずる |
| 現行法の規定 | 地方自治法14条3項が、刑の上限を定めて条例の罰則を一般的に授権している | |
- ため池条例事件(最大判昭38・6・26):奈良県の条例は、ため池の破損・決かいを防ぐため、ため池の堤とうに竹木若しくは農作物を植え、又は建物その他の工作物を設置する行為を禁止し、罰則を置いていた。堤とうを使う財産上の権利を持つ者には、使用をほとんど全面的に禁止することになる。
- すなわち、ため池の破損、決かいの原因となるため池の堤とうの使用行為は、憲法でも、民法でも適法な財産権の行使として保障されていないものであつて、憲法、民法の保障する財産権の行使の埒外にあるものというべく、従つて、これらの行為を条例をもつて禁止、処罰しても憲法および法律に牴触またはこれを逸脱するものとはいえないし、
… - なお、事柄によつては、特定または若干の地方公共団体の特殊な事情により、国において法律で一律に定めることが困難または不適当なことがあり、その地方公共団体ごとに、その条例で定めることが、容易且つ適切なことがある。本件のような、ため池の保全の問題は、まさにこの場合に該当するというべきである。
- それ故、本条例は、憲法二九条二項に違反して条例をもつては規定し得ない事項を規定したものではなく、これと異なる判断をした原判決は、憲法の右条項の解釈を誤つた違法があるといわなければならない。
- 判決は、堤とうの使用をそもそも財産権の行使として保障されていない(埒外)として、違反を否定した。あわせて、国が法律で一律に定めることが困難・不適当で、地方公共団体ごとに条例で定めるのが容易かつ適切な事柄があり、ため池の保全はその場合に当たるとも述べた。それでも、「条例で財産権を制限できる」という通説を正面から認めた判決とは言い切れない(保障の範囲外とした、と読むこともできる)。
- 同じ判決は、損失補償も不要とした()。条例の罰則がに違反しないことは、昭37判決の趣旨によるとした。
出題広義の自治事務なら、条例で住民の人権に制約を課すことも直ちに違憲でない(○)84条の「法律」には条例が含まれる(○)
- 「ため池条例事件は、条例による財産権の制限も法律の委任なしに許されるとする通説の立場を、正面から認めた判例だと言い切れる」(堤とうの使用は財産権の行使の埒外として、違反を否定した。条例で定めるのが適切な事柄があるとも述べたが、通説を正面から認めたとまでは言い切れない)
- 「通説によれば、長の規則も民主的立法だから、法律留保事項を委任なしに定められる」(通説の主語は議会の議決した条例)
7条例による課税(神奈川県臨時特例企業税事件)判例
- 結論:地方公共団体が条例で税を課すこと自体は認められる。ただし、法律が定めた準則に従う。
- 普通地方公共団体は,地方自治の本旨に従い,その財産を管理し,事務を処理し,及び行政を執行する権能を有するものであり(憲法92条,94条),その本旨に従ってこれらを行うためにはその財源を自ら調達する権能を有することが必要であることからすると,普通地方公共団体は,地方自治の不可欠の要素として,その区域内における当該普通地方公共団体の役務の提供等を受ける個人又は法人に対して国とは別途に課税権の主体となることが憲法上予定されているものと解される。
- …普通地方公共団体が課することができる租税の税目,課税客体,課税標準,税率その他の事項については,憲法上,租税法律主義(84条)の原則の下で,法律において地方自治の本旨を踏まえてその準則を定めることが予定されており,これらの事項について法律において準則が定められた場合には,普通地方公共団体の課税権は,これに従ってその範囲内で行使されなければならない。
- 課税権の根拠として判決が挙げる条文は・(だけではない)。
- 当てはめ:地方税法の法定普通税の規定は、別段の定めのあるものを除き強行規定 → 条例は地方税法の準則に拘束される。神奈川県の特例企業税条例は、地方税法の定める欠損金の繰越控除を実質的に一部排除する効果を生じ、その趣旨・目的に反し効果を阻害する → 地方税法の強行規定と矛盾抵触し、違法、無効。
- 判決は、条例が国の法令に違反するかの判断に、徳島市公安条例事件の基準(項目9)を引いている。
県が条例で独自の法人課税(法定外税)を作った → 課税権そのものは憲法上予定されているが、地方税法の強行規定に反する内容(実質的に変更する内容)は許されない。
出題条例は自治立法なので、一定の範囲内で条例による租税の賦課徴収ができる(○)地方公共団体は課税権の主体となることが憲法上予定されている(○)94条の「行政の執行」に租税の賦課徴収が含まれ、地方の課税権は承認される(aの見解)84条の下では、地方公共団体が国と別に課税権の主体となることは予定されていない(×)地方は課税権の主体なので、法律で定めた税目・税率等の準則に従う必要はない(×)
- 「判例は、地方公共団体の課税権の根拠を、の団体自治だけに求めた」(判決が挙げるのは・)
- 「条例は議会の議決した民主的立法だから、地方税法の定めと異なる内容の課税も自由に定められる」(判例=の下で法律が準則を定め、課税権はその範囲内で行使する)
8「法律の範囲内」の意味と上乗せ・横出し学説
- 「法律の範囲内で」()は、条例を作るのに法律の委任が要るという意味ではない。
- 意味:条例は法律の下に位置づけられ、条例と法律が矛盾抵触した場合には法律が優先する。
- 言葉の関係:地方自治法14条1項は、条例を「法令に違反しない限りにおいて」制定できるとする。国の法令と矛盾抵触する条例は国の法令に違反し、効力を有しない(徳島判決の言い方。平25判決は「違法,無効」と言う)。このページの「法律が優先」「違反」「効力を有しない」「無効」は、この同じ帰結を指す。
- 上乗せ条例=国の法令が定める規制基準より厳しい基準を定める条例(同じ対象で基準を厳しくする)。
- 横出し条例=国の法令が規制している対象事項以外の事項を規制する条例(対象そのものを広げる)。
- 「法律より厳しい」だけでは、範囲内かどうかは決まらない=判断の物差しは項目9。
- 項目9の判決の言葉との対応:上乗せ=同じ対象を国の法令と条例がともに規律する=判決の「特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合」の場面にあたる。横出し=国の法令が規制していない対象事項を規律する=「国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合」の場面にあたりうる。
国の法律が工場の騒音を昼間60デシベルまでと定めているのに、町が条例で50デシベルまでとした=上乗せ。国の法律が工場だけを対象にしているのに、条例が建設現場の騒音も規制した=横出し。
- 「の『法律の範囲内で』とは、条例の制定に法律の委任が必要であることを意味する」(矛盾抵触したら法律が優先するという意味)
- 「法律より厳しい基準を定める上乗せ条例は、法律の範囲を超えるので当然に無効である」(国の法令の趣旨しだい=項目9)
9条例が国の法令に違反するかの基準(徳島市公安条例事件)判例
- 判決の足場は地方自治法14条1項(「法令に違反しない限りにおいて」)。国の法令に違反する条例は効力を有しない。では、違反するかをどう決めるか。
- 条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによつてこれを決しなければならない。
- 例えば、ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、右規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうるし、
逆に、特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によつて前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないときや、
両者が同一の目的に出たものであつても、国の法令が必ずしもその規定によつて全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾抵触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえないのである。 - 否定したもの=対象事項と規定文言を並べ、それだけで結論を出す考え方。比べるもの=趣旨・目的・内容・効果の4つ。
- 帰結は国の法令に「違反する」か(違反すれば効力を有しない)。
明文が無い場合:国の法律がある物質について何の基準も置いていない。国があえて規制しないと決めた(放置すべき趣旨)なら、県が条例で基準を置くと違反になりうる。単に手が回っていないだけなら、条例は許されうる。同じ「書いてない」でも、国の法令の趣旨で結論が逆になる。
同一目的の場合:国の法律の排出基準が全国どこでも最低限守るべき線で、地方の上乗せを容認する趣旨なら、県が条例で厳しい基準を置いても違反しない。国の法律が全国で同じ基準にそろえる趣旨なら、上乗せは違反となりうる。境目は数値の厳しさではなく国の法令の趣旨。
出題条例の法律違反は趣旨・目的・内容・効果を比べ矛盾抵触の有無で決める(aの見解)国の法令に規制の明文がない事項なら、規制する条例は法令に違反しない(×)法律と同一目的で厳しい基準を定める条例も、直ちに法律違反ではない(○)明文がなくても規制せず放置する趣旨なら、条例で規律すると法令違反になりうる(○)
- 「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比して決する」(対比するのみでなく、趣旨・目的・内容・効果を比較して矛盾抵触の有無で決める)
- 「国の法令にその事項を規律する明文の規定がなければ、条例が国の法令に違反することはない」(欠如が放置すべき趣旨なら違反となりうる)
- 「上乗せ条例が有効となるには、国の法令の目的を阻害しないことと、国の法令が別段の規制を容認する趣旨であることの両方が必要である」(別目的の枝と同一目的の枝は別々)
10徳島判決の事案と当てはめ判例
- 集団示威行進で、先頭集団がだ行進。被告人は自らもだ行進をし、笛を吹き両手を振って、集団行進者にだ行進をさせるようせん動した
- 起訴:自らのだ行進=道路交通法77条3項・119条1項13号/せん動=市条例3条3号(「交通秩序を維持すること」)・5条
- 第一審:道路交通法の点は有罪。条例の点は無罪=条例3条3号を道路交通法の対象を除いて読むと内容が明確でなく、の趣旨に反する。原審も控訴棄却
- 最高裁:条例は道路交通法に違反しない(したがって道路交通法との関係から限定して読む必要もない)→ (3条3号は明確性も欠かずに違反しないとして)原判決・第一審判決を破棄し、罰金1万円
| 比べた点 | 判決の判断 |
|---|---|
| 目的 | 道路交通法=道路交通秩序の維持/条例=地方公共の安寧と秩序の維持という、より広く総合的な目的 → 目的を全く同じくするものとはいえない。ただし交通秩序維持の部分では、両者の規律が併存競合していることは否定できない |
| 国の法令の趣旨 | 道路交通法77条1項4号は、どの特別使用行為を許可の対象にするかを各公安委員会の裁量に委ね、全国的に一律に定めることを避けている → 条例が交通秩序の見地から別に規制すること自体を排斥する趣旨とは考えられない |
| 重複する規制 | 内容に矛盾牴触がなく、条例の重複規制が特別の意義と効果を持ち合理性が肯定されれば、道路交通法は条例の規制の及ばない範囲でのみ適用される |
| 罰則 | 条例5条=1年以下の懲役若しくは禁錮又は5万円以下の罰金/道路交通法=3月以下の懲役又は3万円以下の罰金 → 道路交通法に無い禁錮があり上限も重いが、考慮した事情が違い合理性がある → 法定刑の点で違反・無効とはいえない |
- そうすると、道路における集団行進等に対する道路交通秩序維持のための具体的規制が、道路交通法七七条及びこれに基づく公安委員会規則と条例の双方において重複して施されている場合においても、両者の内容に矛盾牴触するところがなく、条例における重複規制がそれ自体としての特別の意義と効果を有し、かつ、その合理性が肯定される場合には、道路交通法による規制は、このような条例による規制を否定、排除する趣旨ではなく、条例の規制の及ばない範囲においてのみ適用される趣旨のものと解するのが相当であり、したがつて、右条例をもつて道路交通法に違反するものとすることはできない。
- 図(項目9)のどこを通ったか:判決は、目的を全く同じくするものとはいえないとしつつ、交通秩序維持の部分では両者の規律が併存競合しているとした。その部分について、道路交通法77条1項4号が各公安委員会に委ね全国的に一律に定めることを避けていることから、条例の規制を排斥する趣旨ではないとした=図の「全国一律の趣旨か」の問いで「いいえ」に進む考え方にあたる。
- 「道路交通法は条例の規制の及ばない範囲でのみ適用される」は、両者の内容に矛盾牴触するところがない場合の話。矛盾抵触したら法律が優先するという項目8とは場面が違い、ぶつからない。
- 同じ判決は、続けて条例3条3号の文言が明確か()も判断している。ここで扱うのは、条例が国の法令に違反するかの側。
同じ集団行進を、道路交通法は交通秩序のために、市の条例は地域の安寧と秩序のために規制していた → 目的は一部重なるが同じではなく、道路交通法は公安委員会に任せて全国一律にしていないので、条例は違反しない。
- 「条例の罰則が、同じ行為についての法律の罰則より重く、法律に無い刑種を定めていれば、その条例は法律に違反する」(徳島判決=それ自体として合理性があれば違反しない)
- 「徳島判決は、条例と道路交通法の目的は同一であるとした」(目的を全く同じくするものとはいえない。交通秩序の部分で併存競合はある)
11条例による地域差と平等原則(東京都売春等取締条例事件)判例
- 事案:東京都売春等取締条例の違反事件。弁護人は、売春取締りの罰則を条例で定めると、地域によって取扱いに差別が生じ、憲法の平等原則に反すると主張した。
- しかし憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上、地域によつて差別を生ずることは当然に予期されることであるから、かかる差別は憲法みずから容認するところであると解すべきである。
- それ故、地方公共団体が売春の取締について各別に条例を制定する結果、その取扱に差別を生ずることがあつても、所論のように地域差の故をもつて違憲ということはできない。
- 理由づけは「憲法が条例制定権を認める以上」=が条例制定権を認めたこと。条例が民主的立法であることを理由にしてはいない。
- :すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。
- 判示は「地域差の故をもつて違憲ということはできない」まで。
- 補足意見(下飯坂裁判官・奥野裁判官)は、条例もの平等原則に違反することは許されないとし、条例相互の差異が特段の合理的根拠を欠くときはに反することになりうるとした。
- 例えば、同種の行為について一地域では外国人のみを処罰したり、他の地域では外国人のみにつき処罰を免除するが如き各条例は、特段の合理的根拠のない限り、憲法一四条に反することになろう。
A県では客引きに罰金があり、隣のB県には無い → それだけでは違反にならない。憲法が条例制定権を認めた以上、地域差は予定されている。
出題条例は地方自治の本旨に基づき憲法で権能を定められた自治立法(aの見解)条例により取扱いに地域差が生じても、14条1項に反するとはいえない(○)条例で刑罰を定めるとき、地域によって刑罰の内容に差異が生じることも許容されうる(○)全国一律の規制になじむ行為は、法律で一律に規制しなければ14条1項違反(×)罰則は全国一律に定めるべきで、条例間で法定刑が異なれば14条1項違反(×)
- 「条例の内容が地域によって異なり、住民の取扱いに差が生じる場合には、に違反する」(地域差は憲法みずから容認する)
- 「判例は、条例による地域差が許される理由を、条例が住民の選んだ議会による民主的立法であることに求めた」(理由は「憲法が各地方公共団体の条例制定権を認める以上」)