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第1章 民法総則 ㉕/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
石灯籠は、付いてくるか
図:「この石灯籠、置いていってもらえますか」という問いかけボード
直感では、どう思いますか。「土地に付いているものは全部ついてくる」というその直感、半分だけ正しくて、半分だけ裏切られます。実は、家そのもの——建物は、土地とは別の不動産として扱われます。ところが、動かせる置物にすぎない石灯籠のほうは、土地と一緒に動くことがあります。建物は切り離されるのに置物は一緒に動く、そう見えて当然です。このねじれの理由を、今日は追いかけます。
「物」とは何か——85条
図:有体物とは何かのボード
まず、民法が「物」と呼んでいるものの範囲から確認します。条文を見てみましょう。
条文民法85条
民法 第85条(定義) この法律において「物」とは、有体物をいう。
形があって、固体・液体・気体のいずれかで存在するものです。石灯籠も、家も、これにあたります。電気や情報は、有体物ではないので、民法上の「物」には含まれません。電気を盗んでも、民法上「物」を盗んだことにはなりません。刑法では特別な扱いがありますが、民法の「物」の話としては、深入りしません。今日は「物」といえば有体物、とだけ押さえてください。
土地に付いているのに、動く——86条の続き
図:不動産と動産、前回の想起ボード
「物」の中を、不動産と動産に分ける話は、以前に触れました。どう分けたか、思い出せますか?あのとき、土地と建物は別々の不動産として扱われる、とだけ言って、詳しくは先送りにしていました。今日が、その回です。その定着物の中身から、本題に入ります。
土地の一部か、独立した不動産か——定着物の原則と例外
図:土地の定着物、原則は土地の一部・例外は別個の不動産というツリー板
定着物には、原則があります。土地に固定された物は、土地そのものの一部として扱う、というルールです。別の不動産として数えず、土地とひとまとまりにする、ということです。地面に固定された物は、外せば壊れたり価値が落ちたりします。土地とひとまとめに取引するほうが、実態に合うからです。例えば、根をしっかり張った庭木や、動かせないほど大きな庭石です。ただし、同じ「地面にある木」でも、そうならない場合があります。植え替える予定で、仮に植えているだけの若木です。根がまだ浅く、簡単に動かせます。判例も、簡単に分離できる物は、独立した動産のままだとしています。
ここまでが原則です。ところが、この原則には、大きな例外が三つあります。一つ目は、法律で登記された立木です。手続きを踏めば、土地とは別の、独立した不動産として扱われます。土地は売らずに、木材だけを売りたい、というニーズに応えるためです。二つ目は、明認方法を施した立木です。木の皮を削って持ち主の名前を書く、といった昔ながらのやり方で、登記をしなくても、慣習として同じ効果が認められています。この明認方法の中身は、また別の回でじっくり扱います。今日は、登記以外にも、切り離す手段があるとだけ覚えてください。あと一つ付け加えると、この明認方法は、立木だけでなく、まだ枝についている果物のような、木からまだ分かれていない果実にも使えます。
一つ目と二つ目は、どちらも立木の話でしたね。三つ目が、一つ目の山場です。
建物は、なぜ土地と別なのか
図:建物だけが持ち主を分けられる理由のボード
三つ目の例外は、建物です。実は、建物を土地と別の不動産とする条文は、どこにもありません。それでも、判例も学説も、建物は当然に土地と別個の不動産だと扱っています。しかも、登記があるかどうかも関係ありません。ここは、理由を自分で組み立てる必要がある部分です。鍵は、「土地と建物を、別々の人が持てるかどうか」です。もし建物が土地の一部だったら、どうなるか考えてみてください。建物が土地の一部だとすると、土地の持ち主が、そのまま建物の持ち主になります。すると、土地は借りているだけで、その上に自分の家を建てる、ということが成り立たなくなります。
土地は他人から借りて、建物だけは自分の名義で持つ。この、日本ではごく普通の実務は、建物が独立した不動産であって初めて成り立ちます。土地は貸すだけにして、建物だけを売り買いする、ということもできます。この実務上の必要が、建物を独立させる理由だと考えられます。では、建物は、いつの時点から「建物」になるのでしょうか。基礎工事だけの段階では、まだ「建物」とは呼びません。バラバラの材木や資材の集まり、つまり動産の集合体にすぎないとされます。判例は、屋根と周りの壁ができた段階で、独立した一個の不動産になるとしています。
雨風をしのげる外形ができた時点、というイメージです。
⭐ 論文で書く規範:建物になる時点 屋根と周壁ができた段階で、独立した一個の不動産になる (大判昭和10・10・1)
従物になるための四つの条件——主物と従物
図:主物と従物、四つの要件のボード
さて、ここまでは「独立させる」話でした。ここから先は、逆方向の話です。独立した二つの物どうしを、逆にくっつけて連動させる、という仕組みです。条文を見てみましょう。
条文民法87条1項
民法 第87条(主物及び従物) 物の所有者が、その物の常用に供するため、自己の所有に属する他の物をこれに附属させたときは、その附属させた物を従物とする。
噛み砕くと、四つの条件に分けられます。一つずつ確認しましょう。一つ目、常用に供すること。主役の物の経済的な役割を、継続して助けている、という条件です。二つ目、附属していること。場所的に、主役の物に密着している、ということです。三つ目、独立した物であること。これが、意外と見落とされる条件です。例えば、建物の壁紙です。あれは建物に貼りついて、一体化してしまっています。法律上、これを付合と呼びますが、付合した物は、もはや独立した物ではないので、従物にすらなれません。そして四つ目、同一の人の所有であること。主役の物と、その従物は、同じ持ち主が持っていなければなりません。
四つの条件が揃うと、「従物は、主物の処分に従う」という効果が生まれます。ここでいう処分とは、売買のような、持ち主を変えたり権利関係を動かしたりする行為のことです。中身は、実際の判例で具体例を確認したあと、詳しく見ていきましょう。
刀の鞘、地下タンク、そして石灯籠
図:刀と鞘、地下タンク、石灯籠の判例対比表
この四つの条件を、実際の判例で確認します。まず、分かりやすい例からです。刀と、それを収める鞘です。判例は、鞘を刀の従物だと認めています。常に刀を収めるために使われ、密着していて、それ自体独立した物で、普通は同じ人の所有です。四条件を満たします。もう一つ、ガソリンスタンドの地下タンクです。判例は、これを店舗の建物の従物と認めています。場所的には離れて見えても、ガソリンスタンドという営業のために、継続して使われています。経済的な役割で見る、ということです。判例は、土地の上に置かれた石灯籠や、取り外しできる庭石を、土地の従物だと認めています。
⭐ 論文で書く規範:主物と従物の四要件(87条1項) ①常用に供する(主物の経済的な効用を継続して助ける) ②附属する(場所的に密接) ③独立の物であること(付合していないこと) ④同一人の所有であること (土地と石灯籠・庭石=最判昭和44・3・28/店舗建物と地下タンク=最判平成2・4・19)
石灯籠は、動かせるのに、常用性・附属性・独立性・同一所有者、四つの条件を満たしています。「動産であること」と「従物になること」は、まったく矛盾しません。「土地建物一式」で買った家に、あの石灯籠が、土地の常用のために置かれていたのなら——石灯籠は土地の従物です。石灯籠は、置いていってもらえる可能性が高い、ということになります。動く置物なのに、土地と一緒に動く。冒頭のねじれが、これで解けました。
従物になった物は、どう動くか——87条2項
図:主物従物の効果、処分が従物にも及ぶというボード
ここまでで、四つの条件が揃えば従物になる、というところまで確認しました。ここからが、その効果です。条文の続きを見てみましょう。
条文民法87条2項
民法 第87条(主物及び従物) 2 従物は、主物の処分に従う。
主物を売れば、従物も一緒に、売買の対象になります。主物と従物を別々の人に分けると、一緒に役立っていた組み合わせが崩れて、どちらの価値も下がります。売る側も買う側も、ふつうは一緒に移すつもりのはずです。だから処分を連動させます。もう一つ、大事な点があります。不動産の登記を備えていれば、その効力は従物にも及びます。石灯籠自体は登記できませんが、土地の登記があれば、従物である石灯籠についても、対抗要件——第三者に「これは自分の物だ」と主張するための要件を満たしたことになります。この効力が及ぶ範囲は、担保権の場面でも大事な意味を持ちますが、詳しくは別の回で扱います。今日は、処分が従物にも連動する、という骨格までにしておきます。
権利どうしにも、同じ発想が及ぶ
図:借地人・賃貸人・譲受人、建物譲渡と借地権移転の関係図
ここまでは、物と物の間の話でした。ここから、もう一つの山場です。実は、87条2項と同じ発想が、権利どうしにも当てはまると考えられています。建物の所有権と、その敷地を借りる権利——敷地賃借権の関係です。建物の所有権を主物の側、敷地賃借権を従物の側とみなして、87条2項を類推して使います。例えば、借地の上に自分名義の家を建てている人が、その家を別の人に売ったとします。家だけを売ったつもりでも、土地を借りる権利——借地権のほうは、どうなると思いますか。「家しか売っていないから土地の権利は残る」というその直感、実は裏切られます。借地上の建物を売ると、建物の所有権だけでなく、敷地を借りる権利も、一緒に買主へ移ります。
「家だけ」のつもりで売っても、なぜ、そこまで連動させるんですか、と聞きたくなりますよね。考えてみてください。もし建物だけ売って、敷地賃借権が売主の手元に残ったら、買主はどうなりますか。建物は持っているのに、その土地を使う法的な根拠——権原がない。これでは、建物を使うことができません。借地の上の家を売れば、土地を借りる権利も、一緒に買主へ動きます。「家だけ」のつもりが、実は土地の権利まで込みだった、ということです。この構図は、実務でも頻繁に登場します。しっかり持ち帰ってください。
物が生む収益——元物と果実
図:元物と果実、天然果実・法定果実の対比ボード
ここまでは、物の範囲と、物どうしのつながりでした。最後は、物が生み出す収益に目を移します。ある物から、経済的な収益が生まれるとき、その物を元物、生まれた収益を果実と呼びます。果実には、二種類あります。条文を見てみましょう。
条文民法88条
民法 第88条(天然果実及び法定果実) 物の用法に従い収取する産出物を天然果実とする。 2 物の使用の対価として受けるべき金銭その他の物を法定果実とする。
木になる果物、牛の乳、地中から出てきた竹の子。どれも、物そのものの用法にしたがって自然に生まれる実りです。法定果実は、物を使わせた対価として受け取る、金銭などです。地代、家賃、利息がその代表例です。どちらも、元物があるからこそ生まれる収益、という点で共通しています。
分離した瞬間か、期間で割るか——果実の帰属
図:天然果実は分離時・法定果実は日割り、なぜ違うかの対比ボード
ここからが、今日の最後の山場です。果実は、誰のものになるのでしょうか。果実は多くの場合、元物の持ち主のものになりますが、合意や条文で、果実を受け取る権利——収取権を持つ人が、別に決まっていることもあります。今日の核心は、その権利が「いつの時点で」決まるか、です。
条文民法89条
民法 第89条(果実の帰属) 天然果実は、その元物から分離する時に、これを収取する権利を有する者に帰属する。 2 法定果実は、これを収取する権利の存続期間に応じて、日割計算によりこれを取得する。
天然果実は、木から実が落ちる、その瞬間に分離します。落ちた瞬間に権利を持っていた人が、その実を取得します。家賃や利息は、期間に応じて日割りで、受け取る権利が配分されます。天然果実と法定果実で、なぜ基準がこれほど違うのか。ここが、今日いちばん考えてほしいところです。天然果実は、木から実が落ちる、牛から乳を搾る、といった、一回きりの出来事です。切り離された、その一瞬という一点で、誰の物かを、はっきり決められます。一方、法定果実——家賃のような対価は、継続的に発生し続けるものです。ある1日だけを取り出して「この日の家賃は誰の物か」と問うこと自体、実態に合いません。使用期間に比例して、権利者が入れ替わっていく、と考えるほうが自然です。
具体例で確認しましょう。収穫直前のみかん畑が、途中で人手に渡ったとします。譲渡の前に落ちたみかんは元の持ち主のもの、譲渡の後に落ちたみかんは新しい持ち主のもの、と分離の瞬間で切り分けます。もう一つ、賃貸中の部屋が、月の途中で売買されたとします。日割りで、旧の所有者と新の所有者に、それぞれ配分されます。天然果実は分離の瞬間、法定果実は期間の日割り。理由まで含めて、押さえておいてください。
二つの線と、時間の軸
図:独立させる線・連動させる線・時間の軸、到達点のまとめ板
今日、確認したのは、二つの逆方向の割り切りと、もう一つの軸でした。原則は土地の一部だけれど、立木の二つの例外と、建物という大きな例外がありました。主物と従物、四つの条件から、処分が連動するという効果まで見ました。石灯籠の答えも、建物譲渡と借地権の答えも、ここから出ました。果実の帰属は、一回性の出来事か、継続する流れか、という時間の性質で基準が変わりました。三つとも、経済的な実態に合わせて法律関係に線を引く、という同じ発想でした。独立させる線、連動させる線、そして時間の軸。この三つを、しっかり持ち帰ってください。
参照条文
- 民法85条
- 民法87条1項
- 民法87条2項
- 民法88条
- 民法89条